第92話 黄金なりし龍の王
_:(´д`」∠):_「今年ももうすぐ終わりだ……ってまだ終わってない原稿があるのに1月1日を迎えれるかよぉぉぉぉ!原稿終わるまで12月32日だおらぁぁぁ!」
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「あれは最強のドラゴン、ゴールデンドラゴンだ」
「……」
レクスさんの呟きを聞いた私は、それが死刑宣告だと思った。
ゴールデンドラゴン。
神話に語られるドラゴンの中で最も有名にして最悪の存在。
その力はあらゆるドラゴンの中で最強を誇り、神々にすら等しいとまで言われる文字通りのドラゴンの王。
誰もがその名を聞けば、おとぎ話の存在だと一笑に付すだろう。
私もそうだった。
でも今の私は、私達は……とても笑う事などできなかった。
だって、私達の目の前には、そのゴールデンドラゴンが翼をはためかせて空を覆っていたのだから。
「あ……」
言葉が出ない。
それの気配を感じただけでも体が勝手に震えて止まらなかったのに、本物を見ればどうなるのかなんて言うまでもない。
ああ、レクスさんの言葉に今更ながらに納得した。
このドラゴンを見れば、私達が倒したドラゴンなど確かに雑魚だろう。
このゴールデンドラゴンこそが、真実本当の意味で人々に恐れられる恐怖そのものの姿なのだから。
意識が今にも飛びそうになるのを必死で堪えようとするけど、寧ろこのまま意識を失って二度と目を覚まさない方が幸せなんじゃないかと囁いて来る自分が居る。
一度その姿を見てしまった私は、もはや視線を逸らす事も出来ずに光輝くその姿を見つめ続けていた。
まるで光がドラゴンの形をとったかのようなその姿は、文字通り神がこの世に降りて来たと錯覚するほどの神々しさだ。
そしてその光の体の中で、唯一瞳だけが色をもって私達を見つめている。
まるでつまらない物を眺めるかのように。
そして、ゴールデンドラゴンの体にもう一つの色が姿を現した。
三日月が横を向いた様な形のそれは赤々と輝いていて、私は最初それが口だとは気づかなかった。
そして赤い三日月が輝きを増していくにつれ、私はこれから自分が死ぬんだと理解する。
だってその輝きは、形を持った死そのものだったのだから。
体が脱力する。
私の中の本能が、逃げる事など不可能だ、大人しく諦めて死を受け入れろと言っているのが分かった。
あれは人が触れて良い存在じゃない。
そもそも近づく事すらおこがましい存在なんだと。
私達は、死を以ってそれを思い知らされることになるんだ。
ああ、せめて死ぬ前にもう一度お母さんに会っておきたかったな。
もう視線を動かす事も出来ないけれど、皆も同じ事を考えていると思う。
どうしようもない死を前に、未練も執着も消えていく。
ただ一つ、一回で良いからレクスさんに恩返ししたかったなぁと思いながら……
「というかお前、ちょっと眩しいぞっ!」
無造作にゴールデンドラゴンに近づいたレクスさんが、文句と共にその巨体を殴り飛ばした。
真下から綺麗にアッパーを喰らったゴールデンドラゴンの神々しい巨体が、クルクルと回転しながら宙を舞い、そして頭から地面に墜ちる。
そしてゴールデンドラゴンはビクビクと数度痙攣したあと、ガクリと翼を落として意識を失った。
レクスさんに殴られて……
…………
「「「「「…………え?」」」」」
私達は目をゴシゴシと擦り、目の前で起きた光景を何度も瞬きしながら見返す。
ゴールデンドラゴンが殴り飛ばされた?
神に等しいと言われた存在が宙を舞って頭から地面に落ちて気絶した?
ゴールデンドラゴンが……倒され……た?
「「「「「…………ぇ」」」」」
「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!?」
なになになに!?
何が起きたの!?
私達の前に神話の魔物ゴールデンドラゴンが現れたと思ったら、殴られて吹っ飛んで気絶してるんだけどぉぉぉぉぉっっ!?
「ちょっ!? レクスさん!? なにしてるんですか!?」
「え? ああいや、ちょっと眩しかったんでつい」
ついって……相手は神話の存在なのよ?
伝説と呼ばれていても、現実に存在するSランクの魔物とは訳が違うのよ!?
ああ、眩暈がしてきた。
神話の魔獣が無造作に殴られて気絶するなんて。
「しかしこのゴールデンドラゴンは弱いなぁ」
などと言いながらレクスさんは椅子の上にでも立つかのような気軽さでゴールデンドラゴンの上に乗る。
「待って、待ってレクスさん。そのドラゴン神話の存在なんですけど……なんでそんなに無造作にあつかえるの?」
「え? コイツが神話のドラゴン? あはは、そんな訳ないですよ。そりゃあ親はそこそこ強いですけど、コイツはまだまだ子供ですし」
いやいや、いくら子供だからって……って、え?
「「「「「子供っっっ!?」」」」」
ゴールデンドラゴンが子供と言われ、私達は驚きで意識を失いそうになった。
「まぁ生き物は親から生まれますからねぇ。子供が居るなら親が居ると考えるのは当然でしょう」
うんまぁそうなんだけどね。
でもね、子供と言われるこのゴールデンドラゴンですら、見ただけで死を覚悟したのよ?
そんなドラゴンに親が居るなんて……もうどれだけの強さか想像もつかないわ。
それこそ見ただけで死ぬんじゃないの!?
「ねぇ、それなら親が帰ってくる前に逃げた方が良いんじゃないの? このゴールデンドラゴンよりも強……」
と、そこまで言って私は言葉を止めた。
「どうしたのリリエラ?」
ミナが目ざとく私の様子がおかしい事に気づく。
「ねぇ、さっきレクスさん、ゴールデンドラゴンが強いって言ってたわよね」
「え? ああ、そう言えば言っていたわね。それがどうしたの?」
「気付かない?」
「何が?」
どうやらミナはレクスさんに毒され過ぎてその言葉の意味を理解できなかったみたいね。
「あのね、レクスさんが強いって言ったのよ。これまで戦ったドラゴンを雑魚扱いして、Sランクの魔物を狩り続けたレクスさん『が』よ?」
「……っ!?」
私の言いたい事を察したらしいミナがハッとなってこちらを見つめてくる。
良かった、分かってくれたみたいね。
見ればメグリやノルブもこちらを見て同じ顔をしている。
「すっげぇぜ兄貴! ま、まさか神話の魔獣を倒しちまうなんて……俺、兄貴について来てよかったぜぇぇぇぇぇぇっっ!!」
……まぁジャイロ君は放っておこう。
説明している時間が惜しいわ。
「レクスさんが苦戦する相手と言う事は、私達にとっては苦戦どころか一瞬で死にかねない相手よ。分かるわね?」
コクリと頷くミナ達。
「それで、どうするの?」
「まず親が居るという事は、父親と母親の二頭のゴールデンドラゴンが居ると考えるのが妥当ね」
「「「にっっっ!?」」」
あんなのが二頭、それも私達が遭遇した個体をはるかに超える力の持ち主が二頭。
「そんなの、間違いなく死ぬわ」
「レクスの事だから、一頭は自分が受け持って、もう一頭は私達全員で闘えば勝てるって言いそう」
「「「言いそう」」」
メグリの言葉に私達の思いが一つになる。
っていうかレクスさんなら絶対に言う。
「だから良い? 何でも良いから理由を付けてここから出るの。親が帰ってくる前に全力で。あと私達の顔を覚えられたら困るからそこで気絶してるゴールデンドラゴンが起きる前に」
ゴールデンドラゴンの習性は分からないけれど、相手は誇り高いドラゴンの王。
場合によっては自分に恥をかかせた私達に復讐する為に追って来るかもしれない。
逃げるなら今しかないわ!
「分かったわ。なんとしてもレクスの説得を成功させないと」
「責任重大」
「嘘はよくありませんが、事はパーティ全員の命に係わる問題。自分以外の人間の命がかかっているのですからしかたありませんね」
意外とノルブは融通が利くのねぇ。
まぁこんな非常識な体験を何度もしていれば、そりゃあ少しくらい融通が利くようになるか。
「それじゃあ行くわよ皆!」
「「「ええ/うん/はいっっ!!」」」
不退転の決意を胸に私達は立ち上がる。
ガブリッ
そして見た。
私達が説得しようとしたレクスさんの向こうで、白い駄ペットがゴールデンドラゴンの翼に噛みついた姿を。
「モグモグ」
「グギャァァァァァッッ」
なんという事だろう、ゴールデンドラゴンが噛みつかれた痛みで目を覚ました。
バッチリ起きた。
「「「「なにしてんのぉぉぉぉぉっっっっ!!」」」」
モフモフ_Σ(:3)∠)_「おいCー!」
ゴールデンドラゴン( ゜Д゜ 三 ゜Д゜ )「はっ! 突然の激痛!?」
リリ/ドラ∑( ゜Д゜)「オウンゴールキタァァァァ!!」
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