第9話 舎弟の修行とドラゴンの素材
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かねてからの約束通り、ジャイロ君達の修行が始まった。
「身体強化魔法は、一度魔力を感じれば後は簡単だから」
「いやアニキ全然簡単じゃないって!」
「っていうかさっき呪文を唱えなかったわよね!? どうやってやったの!?」
「これ、私達に出来るの?」
「出来る気がしないんですが……」
皆弱気だなぁ。
「身体強化魔法は魔法というけど、本質は体内に魔力を循環させる事が重要なんだ。だから普通の魔法の様に魔力を属性別に加工する必要はないんだよ」
呪文を唱えなくても効果を発揮できるから、身体強化魔法は無詠唱魔法を覚える足掛かりとしても役に立つんだよね。
「へー、そうなのかー」
「あっさり納得してるんじゃないわよ!」
「これは魔法を使えるミナさんとノルブさんの方が早く習得できるかも。ジャイロ君とメグリさんは魔力を感じる練習から始めようか」
そうして、僕達は身体強化魔法の練習を開始した。
◆
「むむむ、魔力は感じるんだけど……呪文を唱えずに操作するってのが難しいわ」
「たしかに……こちらの送りたい方向とはまったく別の方向に魔力が動いてしまって……」
ミナさんとノルブさんは魔力を感じる事は出来るみたいだけど、その先が上手くいかないみたいだ。
長年呪文に頼ってきた所為で、呪文を使わない魔力操作の感覚が掴めないみたいだね。
「むむむっ……感じるような感じないような……」
メグリさんは元々視界の悪い場所での活動や罠探知といった直感を大事にする盗賊である事が良かったのか、数回に一回は魔力を感じる事が出来る様になってきたみたいだ。
僕も一緒に見てたけど、彼女が魔力を感じた時はぼんやりとした魔力が、一瞬だけはっきりとした輪郭になるんだ。
この中じゃメグリさんが一番最初に身体強化魔法を使える様になるかもしれないな。
そしてジャイロ君はというと……
「ハァァァァ……とりゃぁぁぁぁぁ!!」
僕の真似をして地面を叩いていた。
けど、魔力が全然集まっていないので、普通に殴っているだけだ。
「ううっ、全然地面を吹き飛ばせる気がしねぇぜ。つーか手が痛い」
僕の教え方が悪いのかなぁ。
何か良い教え方は無いものやら。
◆
「はぁ!!」
ミナさんが拳に纏った魔力で木を殴ると、ドゴッっという音と共に木が折れる。
「はぁ!」
ノルブさんが足に力を込めて目の前の大岩を蹴ると、大岩にピシリと亀裂が入った。
残念ながら割るところまではいかないみたいだ。
「たぁっ!!」
メグリさんが両足に魔力を込め跳躍すると、5m近い高さを跳躍して地上からはるか上の木の枝へと乗り移った。
「皆凄いよ! とっても物覚えが良い!」
あれからメグリさんが最初に身体強化を覚え、次いでミナさんとノルブさんも身体強化に成功した。
「これ結構使えるわね。不意を打たれて接近戦になった時に便利だわ」
「僕は攻撃力の上昇はいまいちですね、でも防御力は下手な鎧よりも高い気がします」
「これ、隠密活動に凄く便利!」
どうやらミナさんは攻撃力の向上、ノルブさんが防御力、そしてメグリさんが身体能力の向上に適性があるみたいだ。
この魔法は個人の適性で強化される部分にムラが出るけど、丁度皆の職業に合った強化になったみたいだ。
そしてジャイロ君はというと……
「なぁ兄貴ー、本当に出来るようになるのかよー」
未だ魔力を感じる事が出来ないでいた。
「ちゃんと出来る様になるよ。僕も練習して使える様になったんだから」
「兄貴が練習って……どんな風にやってたんだ?」
「え?」
予想もしなかった質問に、思わず声が漏れる。
「兄貴ってさ、滅茶苦茶すげぇじゃん! どんな所で、誰に、どんな修行を受けてたんだよ?」
「どんな修行……か」
ジャイロ君に聞かれて、かつて前々世で自分が行って来た修行の日々を思いだす。
『――よ、魔法とは発想だ。魔力の大小など発想による魔法の改良で容易に覆せる』
確か師匠は発想が大事だって言ってたなぁ。
『そして魔法の極意とは……気合いだ! 気合を入れれば無詠唱で魔法が使える!!』
うん、この部分は忘れよう。
結局後の研究で無詠唱魔法にも発動させる為の法則がある事が分かった訳だし。
いやでも、あれが原因で物事の理由、法則を理解しようと思ったんだから、決して無駄じゃなかったのかもしれない。
あれがきっかけで僕は、賢者と言われるだけの魔法の知識と開発技術を手に入れる事が出来たんだし。
「おーい、兄貴?」
とと、いけない。
昔の事を思い出していたらついつい周りが見えなくなっていたよ。
「そうだね、僕の場合は大元の理由を理解しようとして修業や研究をしていたね」
「理由?」
「原因でも因果でも法則でも何でも良いよ。なぜそうなるのかを知る。それを理解できれば、人為的にその結果を再現する事ができるからね」
「兄貴が難しい事を言っている」
うーん、そんな難しい事を言っているつもりは無いんだけど。
「そうだね。まずジャイロ君は魔力がどんなものかをちゃんと理解しようか」
「魔力ってさ、魔法使いの才能がないと分かんないんだろ? 戦士の俺じゃあ無理だって」
「そんなことないって。盗賊のメグリさんでも使えたでしょ? うーんそうだな……」
どうやって魔力を理解して貰おうか……あ、そうだ!
「ジャイロ君はノルブさんの回復魔法で怪我を治してもらった事あるよね?」
「ああ、あるぜ。簡単な傷ならあっという間に治っちまうんだから、回復魔法ってすげぇよな!」
なら理解できるかもしれないね。
「回復魔法を掛けて貰った時に、何か感じたりしない?」
「回復魔法を掛けて貰った時? うーん、なんかホワホワするなぁって程度しか感じた事ないぜ」
「それだよ! それが魔力さ!」
「ええっ!? あのホワホワが!?」
「そう、回復魔法を放つ時、わずかだけど使用される魔力も一緒に放出されるんだよ。あれをイメージしながらもう一度やってみて」
「マジか! 分かったぜ兄貴! ホワホワだな!」
厳密にはホワホワは魔力そのものじゃなく、魔力を癒しの力に変換したものなんだけどね。
でもそのあたりを細かく説明しても絶対に混乱するだけだろうと思ったから、あえてそのあたりの説明はしなかった。
重要なのは自分が魔力を感じていると信じさせること。
特にジャイロ君は思い込みの激しい方だからうまくすれば割と簡単に……。
ドゴォン!!
「っ!?」
とその時、突然ジャイロ君が爆発した。
「ジャイロ君!?」
幸い爆発の規模は小さかったらしく、すぐに土煙が晴れてくる。
煙の中から出て来たのは、地面に倒れ伏したジャイロ君と、小さなクレーターだった。
「「「「クレーターが出来てる!?」」」」
そう、確かにジャイロ君の足元には、ほんの30㎝くらいだけどクレーターが出来ていた。
「凄いじゃないかジャイロ君! 成功だよ!」
「やるじゃないジャイロ」
「お見事ですジャイロさん!」
「凄い」
僕達は各々ジャイロ君を褒め称える。
「お、お前等……まず俺が爆発した事を心配しろよ……」
「「「「ごめん」」」」
すみません、つい興奮しちゃって……
◆
「はっはっはっー! すげぇすげぇ!!」
あの後、多少のレクチャーを行ったものの、無事身体強化魔法が使える様になったジャイロ君は、大はしゃぎで周囲の木や岩を破壊していた。
「こんなにすげぇ事が出来るようになるなんて! やっぱり兄貴は最高だぁー!」
誉めてくれるのは嬉しいけど、自然破壊はほどほどにね。
「レクスさんは教師としても一流なんですね。あのジャイロさんに魔法を教えるなんて」
「うん、凄い。私達、間違いなく1ランク、ううんそれ以上の冒険者と同じ力を手に入れた」
いやいや、それは大げさだよメグリさん。
「ところで、結局さっきはなんで爆発したの?」
ミナさんが何故ジャイロ君が爆発したのかを聞いてくる。
「ああ、簡単だよ。方向性を決めていない魔力を溜め過ぎたんだ」
「溜め過ぎた?」
「水筒の中に水を際限なく注ぎ続けたら破裂しちゃうでしょ? あれと同じだよ。身体強化魔法は体内で少量の魔力を巡らせて体を強化する魔法なんだ。だけどジャイロ君は肉体に収まりきらない程の魔力を込めちゃったから破裂しちゃったんだよ。大量の魔力を込めるなら、ちゃんと出口を作らないとね」
「へー……あれ? でも出口を作ったらそれって……」
「そう、それが魔法だね」
魔法は人間が体から放つ魔力を加工するものだから、それが出来る様になったらジャイロ君も魔法使いの仲間入りだ。
「ちなみにそれが無詠唱魔法の基本だから、ミナさんも意識して体内で溜めた魔力を放出すれば無詠唱魔法を使えるようになるよ」
だから無詠唱魔法を教える前に身体強化魔法を覚えて貰った方が良いんだよね。
「嘘っ!? そんな簡単に無詠唱魔法って使える様になるの!?」
ミナさんが目を丸くして驚く。
「うん。このままだと加工してない魔力をただ放出するだけだから、無詠唱魔法を覚えるなら今後は詠唱無しで属性を付けて加工する練習もしないとね」
「おおおおー! 私も無詠唱魔法が!? え、うそ!? マジで!? ちょっ、それヤバいんじゃないのー!?」
ミナさんが興奮した様子でさっそく魔力を体外に放出する練習を始める。
元々魔法が使える彼女なら、そう時間がかからずに無詠唱魔法を使える様になるだろう。
無詠唱魔法が使える様になると、戦術の幅が広がるしねー。
というか、それも魔法使いなら普通に教わる事だと思うんだけど、ミナさんの先生は何故これを教えなかったんだろう?
自力で気付けと言う教育方針かな?
「あの、レクスさん」
とそこでノルブさんが僕に話しかけて来る。
「ノルブさんも無詠唱魔法に興味があるんですか?」
「いえ、ああいや興味はあるんですが、それよりも」
そう言ってノルブさんはジャイロ君が修行している方を指さして言った。
「ジャイロさんが動かなくなってしまったんですが」
「え?」
「……あう」
ジャイロ君の方を見ると、確かにノルブさんの言う通り、ジャイロくんはピクピク震えながら地面に倒れて呻いていた。
「ああ、あれはただの魔力切れだね。魔法を初めて使える様になった人間が調子に乗って魔力を使い過ぎるとああなるんだよ。暫く休ませれば動けるようになるから」
「ああ成る程。そういう事でしたか。良かった、突然倒れたので病気か何かかと思いました。それにしても、身体強化魔法でも魔力切れで倒れてしまうんですね」
あはは、大げさだなぁ。
ちなみに、その後すぐメグリさんも魔力切れを起こして倒れ、次いで夢中で無詠唱魔法の練習をしていたミナさんも倒れたのだった。
「うう、ごめん」
「申し訳ない……」
魔力の運用は計画的にね。
◆
「おかえりなさいませ旦那様」
私は王都から帰って来た我が主、グリモア子爵様をお迎えする。
「うむ」
この様子を見る限り、目的は達成された様だ。
「その様子ですと、お目当ての物は手に入った様でございますね」
「……その分金はかかったがな」
一転、平静だった主の顔が不機嫌になる。
オークションともなれば、大金を使う事になるのは仕方のない事。
それは我が主も理解している筈だが、その割には不機嫌そうだ。
「ガットシー男爵の奴が嫌がらせの様に値をつり上げてきおったわ」
「それはそれは、災難でございましたね」
ガットシー男爵はグリモア子爵様と敵対している派閥の貴族だ。
というだけでなく、個人的にもグリモア子爵様を嫌っているふしがある。
その為この様な嫌がらせを割と頻繁に行ってくるのだ。
さすがに、命を狙うような真似はしてこないが。
「まったく、おかげで余計な出費を強いられたわ」
だがグリモア子爵様にはそれでもオークションで出品された品を落札しないといけない理由があった。
「ようやく娘が求めていた竜核が手に入った。これで娘の先見の精度も跳ね上がるだろう」
そう、オークションの品を求めていらっしゃったのはグリモア子爵様ではない。
このお方のご息女であるセリアお嬢様が求めていらっしゃったのだ。
「お嬢様の占いの精度を高める為に必要な品との事でございましたね」
「うむ。娘の先見は我が領地の運営には欠かせぬからな」
セリアお嬢様は先見と呼ばれる占い魔法の使い手だ。
占い魔法の使い手はこの世界に山ほど居るが、お嬢様の占いの精度はその様な有象無象など比較にならない程高い。
それこそグリモア子爵領の運営に深い影響を及ぼすほどに。
そうした理由から、グリモア子爵様はお嬢様の求める物なら何でも与えて来た。
特に占いに直接関係する品なら最優先で、予算に糸目をつけず。
「しかしドラゴンの素材など、どのようにして占いに使うのでしょう?」
「さぁな。重要なのは先見の信頼度をあげる事だ。使い方など本人が分かっていれば良い。それよりも、例の件はどうなった?」
グリモア子爵様の言葉に緊張と安堵が同時に押し寄せる。
危ない危ない、あと数日交渉が遅れていたらグリモア子爵様のご機嫌を損ねる所だった。
「ご安心ください。件の冒険者とは既に連絡を取っております。あとは旦那様と直接交渉して頂くだけでございます」
「受けると思うか?」
「人並みに権力欲はあると見ました。本人はあまり目立たない部署に配属される事を求めているようでしたが」
「ふむ、脛に傷があるか、後ろ盾を求めているかのどちらかか」
もしくは両方だろう。
「まぁどちらでもかまわん。娘が見た、災厄の到来に対抗出来るのならな」
グリモア子爵様がドラゴンの素材を求めたのも、強い冒険者を求めたのもそれが理由だ。
セリアお嬢様が先見によって見た光景。
グリモア子爵領が何者かの手によって火の海に沈む光景、それを阻止する為に。
「ドラゴン、イーヴィルボア、市街地に侵入したダークブロブ。何かが起こっているのは間違いない」
これらの魔物の襲来はどれ一つとっても大事だ、グリモア子爵様の懸念は決しておおげさではない。
「それで、その冒険者の名は?」
「オーグ、と申しておりました」
:(;゛゜'ω゜')有能さんの運命の時が近づく!
:(;゛゜'ω゜')あと巻き添えを喰らったオーグの運命やいかに!
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