第89話 龍峰とドラゴン狩り
_:(´д`」∠):_「お待たせしましたー!」
_:(´д`」∠):_「そして『二度転生』はついに明日ですよー! 早い所はもう売ってるかも! 描き下ろしエピソードもあるからおすすめだよ!」
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「はー、ここは静かで良いわねぇ」
リリエラさんは顔を隠していたフードを外すと、人気のない山の麓で心底リラックスした様子で深呼吸をする。
なぜ僕達がこんな所に居るのかというと、それは今朝にさかのぼる。
◆
「それじゃあ今日は冒険者ギルドに行って昨日のグリーンドラゴンとワイバーンの素材の鑑定を頼むとしようか」
「兄貴、仕事の依頼は受けないのかよ?」
とジャイロ君が手を挙げて質問してきたので僕もそれに答える。
「この国に来たのは修行の為だからね。基本依頼は受けず倒した魔物の素材買い取りでお金は稼ぐ方針だよ」
「なるほど、確かにその方が修行になりますね」
本当は他の国にはないその土地固有の珍しい依頼とかを受けて、冒険者としての経験も積みたいんだけどね。
でもリリエラさん達は、自分たちが納得できるだけの強さを、足手まといにならないだけの力を持ちたいと言っているから、そっちが優先だ。
仲間がもっと強くなりたいってやる気に満ちているんだし、僕も全力で応援しないとね!
「……なんだか今悪寒が」
「奇遇ねリリエラ、私もよ」
何故かリリエラさんとミナさんがブルリと体を抱きしめながら震える。
もしかして風邪かな?
風邪はひき始めが肝心だから、あとでエルダーヒールをかけてあげよう。
あれならかすり傷だろうと不治の病だろうと一発で治るからね!
「じゃあ行こうか」
僕達は宿を出て、従業員さんに教えてもらった冒険者ギルドを目指した。
そしたら……
「なぁ、あれって龍姫様じゃね?」
「え? 龍姫様?」
「本当、龍姫様よ!」
と、リリエラさんを見て町の人が騒ぎ出したんだ。
騒ぎは瞬く間に広がっていき、道行く人全てがリリエラさんを凝視する。
「な、なな……!?」
うーん、龍姫っていったい何なんだろう?
もしかしてこの国ではドラゴンを倒した女の子の事をそう呼ぶのかなぁ?
でも様って付けてるし、何だか尊敬の念も感じるんだよねぇ……
「ん?」
そこで僕は人々の視線に交じる感情に、尊敬や感謝といった感情とは正反対の感情が混ざっている事に気づいた。
「……殺気?」
間違いない、誰かが殺気を送ってきている。
でも誰が、何の為に?
うーん、さっぱりわからないな。
この龍姫様騒ぎが原因なんだとは思うんだけど。
でも、前世の記憶でも龍姫なんて言葉は聞いた事がないんだよなぁ。
龍帝なら頻繁に聞いたけど。
「ねぇレクスさん」
とそこでリリエラさんが僕を呼ぶ。
「はい、何ですかリリエラさん?」
「ええとね、良く考えたらこの時間のギルドって、冒険者達が新しい依頼をチェックする為に混んでいるじゃない。だから先にこの国に来た目的である修行を優先しない?」
「修行をですか? でも魔物素材の買い取りは良いんですか?」
「魔物素材はレクスさんが作ってくれた魔法の袋があるから腐る心配はないでしょ? それに私達はお金の心配もないじゃない。だったら修行を優先した方が良いわ。買い取りの査定を頼むにも、ジャイロ君達が倒したワイバーンの群れは査定に時間もかかるでしょうから、夕方に修行から帰ってきたら査定だけ頼んで翌日お金を受け取ればいいわ」
「成程、確かにそれは理にかなっていますね」
リリエラさんの言うとおり、朝の冒険者ギルドは混んでいた記憶しかない。
そう考えるとリリエラさんの提案は時間を効率的に使える良い提案だ。
「って言ってるけど、要は変に騒がれるのが嫌なだけよね」
「まぁ分かる」
ミナさんとメグリさんはリリエラさんが修行を強く勧める姿をそんな風に納得していた。
ああ成る程、それも理由だったのか。
人に見つめられて恥ずかしがるなんて、リリエラさんは本当に恥ずかしがり屋さんなんだね。
でもまぁそれなら、リリエラさんの為にも町の人達の興奮が収まるまで修行に専念するのが良いかもね。
……あと、さっき感じた殺気の正体も気になるしね。
◆
そんな訳で僕達は龍峰にやって来た訳です。
よっぽど修行がしたかったのか、町を出たリリエラさんはすぐさま飛行魔法で浮き上がりこの龍峰へと飛び出したんだ。
よっぽどドラゴンと戦いたかったんだね。
僕もリリエラさんの気合に応えないと!
「さぁレクスさん、どんな修行をするの!?」
「気合十分ですねリリエラさん。今日の修行はこの龍峰で限界までドラゴン狩りです!」
「なるほど! 分かっ……」
とそこで、気合満々に第一歩を踏み出したリリエラさんの動きが止まった。
「「「「「えっっ!?」」」」」
皆が目を丸くしてこちらを見つめてくる。
「ドラゴン狩りですよ」
そして皆が一歩後ずさる。
「「「「「イヤイヤイヤ無理無理無理っ!!」」」」」
え? 何で?
「いきなりドラゴン狩りからなの? こうもっと段階を踏んだりしないの? ドラゴンの倒し方のレクチャーとか、ドラゴンの前にワイバーン狩りで慣れるとか」
「そうですよレクスさん。作戦とかは立てなくていいんですか?」
「作戦?」
リリエラさんとノルブさんの言葉に、ジャイロ君達もウンウンと頷く。
「ええ、ドラゴンの弱点とか、どういう場所でドラゴンを迎え撃つとか、そういった打ち合わせをする必要があると思うんですが」
成程、確かに冒険者ならそういう事前の打ち合わせは大事だよね。
「そうだね、まずドラゴンの弱点は首かな」
「首……ですか?」
「うん、首を切れば倒せる」
「……あの、もう少し素人にもやりやすい弱点を……」
あれ? 首を切るってすっごい簡単な方法だと思うんだけどなぁ。
うーん、でもノルブさんが求めるのはもっと簡単な、それこそ子供がドラゴンに挑むような戦い方って事なのかな?
ああそっか、ノルブさんは僧侶だもんね。
困っている人の力になる事こそ自らの役割と考えている彼なら、今後僕達の様な戦士が居ない状況、つまり戦えない人しか居ない状況が来てもドラゴンを倒せる手段を知っておきたいって事なんだね。
「そうだね、だとすればまずは……うん、実戦でやって見せるとしようか」
「実戦?」
「ほら、ちょうど向こうから来てくれたみたいだからね」
と、周囲を見回すと、僕達のもとへ数えきれないほどのドラゴンが向かってきていた。
「「「「「ド、ドラゴン!? それにあんなに沢山!?」」」」」
皆の声がハモッた。
「さっきドラゴンを待ち受ける場所って言ってたけど、龍峰はドラゴン達の縄張りだからね。一歩でも中に入ったらあいつ等に察知されるよ。そしてドラゴンは空を飛びブレスで周囲の地形諸共メチャクチャにするから、地の利を取るのはあんまり意味はないかな」
そういって僕は剣を抜いて臨戦態勢を取る。
「それじゃあドラゴン対策を実践してみるとしようか」
僕は正面のドラゴンに向かって駆け出す。
「ドラゴン退治の方法その1、まず翼を切る!」
僕はドラゴンの背中に飛び乗ってその翼を根元から切断した。
「グギャァァァァァ!!」
「キュウッ!!」
すかさずモフモフがドラゴンの足元へと向かい翼を咥えて後方に戻っていく。
うん、素材回収ご苦労様。
「ドラゴンは不利になると空に逃げるから、さっきも言った通り地の利を得ても大抵は無意味になるんだ。だからもし地の利を生かしたいのなら、翼を真っ先に狙う事。翼さえ使えなくなれば、空から一方的に攻撃されることもなくなるしね。これが最初の対策かな」
と説明していると、周囲のドラゴン達が強い魔力反応を示し始めた。
うん、ドラゴンの攻撃の代名詞ブレスだね。
「そして次はブレスを吐けないように口を塞ぐ!!」
僕は近くにあった岩を手ごろなサイズにカットして、ドラゴン達の口の中に連続して放り投げた。
「「「「グモァッ!?」」」」
瞬間、ドラゴン達の口の中で大爆発がおきる。
うん、ブレスが口の中で炸裂して一石二鳥だ。
「あっ、しまった!」
「ど、どうかしたんですか!?」
僕のうっかりにノルブさんが何事かと声を上げる。
「頭を爆発させたら頭部の素材の質が悪くなっちゃったよ!」
「そ、そんな事ですか」
いやいや、買い取り価格に影響するし、重要な事だよ。
あー、しまったなぁ。
「まぁともあれ、ドラゴン相手の対策はこんな感じかな。翼を切って上から一方的に攻撃される危険を減らして、広範囲に広がるブレスを封じればあとはちょっと鱗の堅いトカゲだからね。あとは煮るなり焼くなりって所さ。まだ心配なら足を狙うなり目を狙うなりしてさらに動きを封じる感じかな」
そういって僕はドラゴン達の首を切り落としていく。
「こんな感じだから、皆もやってみようか。あの数なら一人10匹は倒せるから、綺麗に素材を得る為の練習台にはぴったりだね」
僕はやって来るドラゴンの第二波を指さしながら二人に言った。
「いやさすがに無理じゃね?」
「ちょっと僕達には難しいかと」
「私魔法使いだから首を切るのはちょっと……」
「流石に一人でドラゴンを相手にするのは無理過ぎ……」
「というか、一人10匹ってつまり10対1で戦えって事よね!?」
けれど皆は絶対無理だと首を横に振って後ずさる。
「えー? 皆の実力ならグリーンドラゴンの10匹くらい行けると思うけどな。実際リリエラさんは昨日グリーンドラゴンを倒した訳だし。……あっ、何匹かブルードラゴンも混ざってるけど誤差だよね」
「「「「「それ全然誤差じゃないっ!」」」」」
「ブルードラゴンって、グリーンドラゴンの上位種じゃないですか!」
「うん、たかだかグリーンドラゴンのいっこ上だよ」
「たかだかって……」
ノルブさんは心配性だなぁ。
「大丈夫だよ。皆身体強化魔法の上位の属性強化が使えるようになってるし、当たらない様に避けながら攻撃すれば楽勝だって」
「そ、それは出来る人の意見だと思いますよ……」
うーん困ったなぁ。
とはいえ、ここで嫌がる皆を無理やり戦わせるのも、今後の修行を考えると良くはないか。
「なら僕がサポートするよ」
「サポート?」
「そう、補助魔法で皆を強化するんだ」
そういって僕は皆に範囲強化魔法をかけていく。
「ハイプロテクション! ハイアームズブースト! ハイアンチブレス! ハイフィジカルブースト! ハイマナブースト! ブレイブハート!」
複数の身体強化魔法が皆の体を覆っていく。
「お、おおっ!? こりゃあ!?」
「す、すごい魔力が体を包んでいきますよ!?」
「これだけの魔法を私達全員に!?」
「うわわっ、急に体が羽みたいに軽くなった!?」
「私の属性強化よりも力強さを感じるんだけどコレ!?」
強化魔法で強化された皆が驚きの声を上げる。
「皆の身体能力と防御力、それに攻撃力に魔法威力を強化したよ。あとおまけにブレス対策の防御魔法もかけたから、これならドラゴンと互角以上に戦えるよ!」
ちょっと過保護かもしれないけれど、まずは自分が勝てるという事を実感してもらわないとね。
そこから少しずつ強化魔法を減らして行けば、いずれは自分の力だけでドラゴンに勝てると気づけるだろうから。
「おいノルブ、これならいけるんじゃね?」
「え、ええ。自分でも驚くほどに力が増しています、これならいけるかも……」
「はぁ、しゃーない。ここまでお膳立てされたら戦うしかないか」
「いざとなればレクスが助けてくれる……よね?」
「うう、町では自力で一体は倒せたし、レクスさんのサポートがあればきっと、多分、もしかしたら……」
皆がこれならいけるとやる気を見せてくれる。
うんうん、ついでに勇気の出る魔法もかけておいてよかったね。
「それじゃあドラゴン退治の続きと行こうか!」
「おうっ!!」
「はいっ!!」
「ええ!」
「わかった」
「こうなったらやってやるわよ!」
「ギュウッ!!」
◆
「はぁっ!!」
ジャイロ君がグリーンドラゴンの背中に飛び乗ってその翼を切断する。
「すっげぇ! 自分の体じゃないみたいに軽いぜ!」
「ぐぅ!?」
ノルブさんがグリーンドラゴンの尻尾の一撃を受けて吹き飛ばされるも、土埃の中から怪我一つないノルブさんが姿を現す。
「凄い、傷一つついていない……」
「せいっ‼」
メグリさんが風の属性強化で速度を上げ、ジャイロ君に羽根を切られたグリーンドラゴン達の足の腱を次々と切り裂いていく。
「喰らいなさい! レクスから教えて貰ったばかりの魔法、フリーズスフィア!」
ミナさんが放った魔法がグリーンドラゴンの顔面に当たり、ブレスを放とうとした頭部を氷漬けにする。
そして反撃の手段を断たれたグリーンドラゴンの首を、リリエラさんが切り落とした。
「いける! これならいけるわ!」
よしよし、皆にかけた強化魔法は問題なく機能しているみたいだね。
「ギュアァァァァ!!」
おっと、こっちにも来たか。
こんどはグリーンドラゴンの上位種のブルードラゴンだね。
とはいえ、所詮はグリーンドラゴンの上位種程度、僕は次々とブルードラゴンの首を刎ねていく。
「それっ!!」
「モグモグモグモグッ!!」
そしてモフモフが地面に落ちたブルードラゴンの羽にかじりつく。
「って、こら! 間髪入れずに羽根を食べたらだめだろモフモフ!」
「キュッキュッ!」
つぶらな瞳で美味しい! みたいな顔をしても誤魔化されないぞ!
うーん、どうもモフモフは手羽先が好きみたいなんだよねぇ。
あれ? それじゃあさっき翼を咥えていったのは、素材の回収の為じゃなくておやつを確保する為だったのか。
やれやれ、仕方のない奴だなぁ。
今後は食べ過ぎて太らない様にちゃんと躾けないと。
「グルォォォォォォォンッ‼」
とその時、怒りに震える雄叫びが龍峰に轟いた。
直後龍峰の奥から新たな敵が姿を現した。
その体は黒曜石の様に黒く、ルビーの様に赤い目は怒りによって燃え盛る炎の様に輝いていた。
「あれは……ブラックドラゴン!!」
まさかこんな外縁部にブラックドラゴンが現れるなんて。
いつもならもう少し奥に行かないと現れない筈なのに。
それになんだか怒っているような気が……
ドラゴンは実力主義の上に個人主義だから、格下のグリーンドラゴンやブルードラゴンが何頭やられても気にもしないはずなのに。
うーん、そういえばグリーンドラゴン達もやたらと数が多いうえに妙に殺気立っている。
もしかして繁殖の時期にでも来ちゃったかな?
「あ、あのレクスさん……ブ、ブラックドラゴンって、まさか黒魔の黄昏の元凶となったあのブラックドラゴンですか!?」
「うん? 黒魔の黄昏って何?」
ノルブさんが震え後ずさりながらチラリとブラックドラゴンに視線を向ける。
あっ、でも目が合わない様に微妙に視線を外してる。
「こ、黒魔の黄昏というのはリグ……」
「グルォォォォォォンッ!!」
「ちょっとうるさいっ‼」
僕はノルブさんの語りを雄叫びで邪魔したドラゴンの首を一跳びで切断し戻ってくる。
そしたら何故かノルブさんはキョトンとした目でこっちを見たまま固まっていた。
ドラゴンの雄叫びにびっくりしたのかな?
まぁアイツ等の雄叫びってうるさいもんね。
「それでノルブさん、続きは?」
「……え? あ、はい。黒魔の黄昏とはリグンドの町で起きた凄惨な事件の事です。その町で暮らしていたある邪悪な魔法使いが古の魔物を操る研究をしていたそうなんですが、事もあろうにその技術でドラゴンを操ろうとしたそうなんですよ。結果その実験は失敗し、リグンドの町はドラゴンの怒りを買って魔法使いともども滅ぼされてしまったそうです」
うわー、魔法使いの失敗で町が巻き込まれたのか。それは酷い話だなぁ。
しかもドラゴンの制御も出来ないなんて、相当にヘッポコな魔法使いだったんだろうな。
「で、その時のドラゴンがブラックドラゴンだったんですが……」
と、そこで話を切ったノルブさんは僕の後ろを指さす。
「ブラックドラゴン、倒されちゃってますね」
あっ、さっき切ったのブラックドラゴンだったのか。
まぁブラックドラゴンだし良いか。
所詮はブルードラゴンのいっこ上程度の強さだしね。
「えーっと……やったね、ブラックドラゴンならそこそこ良い素材になるよ」
「……マジかよ兄貴」
「ブラックドラゴンって確か国家が滅ぶレベルの災害扱いされる魔物なんですけど……」
ははは、ノルブさんはおかしな事を言うなぁ。
ブラックドラゴンが100匹集まったって滅ぶ国なんか無いよ。
「さぁ、皆の装備を良くする為にもっとドラゴンを狩るよー!」
「「「「「お、おおーっ‼」」」」」
「キューッ‼」
ドラゴン(;´Д`)「お願いもう帰ってっ!」
モフモフ_Σ(:3)∠)_「ここは羽根天国やぁ~!(モグモグ)」
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