第86話 対決、最強試作キメラ
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「あ、ああ……儂の自慢のキメラが……また戦う前に」
ガンエイさんが心底肩を落としてがっかりしている。
うーん、ちょっとくらい戦った方が良かったかな?
でも初見の相手はさっさと倒すに限るしなぁ。
様子見して強力な奥の手を使われたら大変だし。
まぁどっちにしろ、もう倒してしまった相手だ。
さっさと回収して残った子供キメラの討伐に戻ろう。
そう思った時だった。
「あれ?」
ふと僕は異変に気付いた。
地底湖に浮かんでいたキメラの子供達の死骸が消えていたんだ。
地底湖の底に沈んだ?
ううん、地底湖の底に見えるのは、魔物やキメラの骨だけだ。
じゃあキメラの子供達の死骸は一体どこに?
その時だった、突然地底湖の水面が弾け何かが姿を現す。
「っ!? コイツは!?」
そこに現れたのは、二匹のキメラの姿だった。
「いや違う!」
そう違った。それは二頭のキメラじゃあなかった。
僕によって真っ二つにされた巨大な試作キメラの右と左の体だった。
「まさか、生きてる!?」
そう、真っ二つにされた筈のキメラは、周囲に浮かんでいた自分の子供達の死骸を体に取り込む事で、急速に体を復元していったんだ。
引き裂かれた体が凄い勢いで繋がっていき、遂には頭部まで復元して元通りの姿へと戻ってしまった。
とんでもない再生能力だ……
「っ! は、はははははっ‼ そうじゃそうじゃ! 試作キメラには白き災厄との長期戦を考慮して、ヒドラなどの強力な再生能力と生命力を盛り込んでおいたんじゃった! 真っ二つにしたくらいでは死なんぞぉぉぉ!!」
キメラが復活した事で、ガンエイさんが興奮した様子で叫ぶ
というかそういう事は早く言って欲しかったなぁ。
「ヒドラと言えば、複数の首を持ち何度切られても再生する魔物だったな。対処法は切った首を焼いてこれ以上再生しない様に焼き切る事だ」
キメラの子供を倒しながら、ラミーズさんがヒドラについての情報を言葉にする。
「うむ、その通りじゃ! しかし試作キメラは再生能力を強化して傷口を焼いた程度ではその再生能力を無効化する事なぞ出来んぞい!!」
ガンエイさんが喜々とした様子でラミーズさんに反論する。
「かつて我々を絶望の底に叩き込んでくれた白き災厄を倒す為、あのキメラには多くの魔物の能力を与えてある!! さぁどう戦う小僧っ!!」
待って待って、何で敵みたいなムーヴをしてるんですかガンエイさん?
貴方一応こっちの味方でしょう?
「っていうか、貴方が作ったんだから大人しくしろって命令すればあのキメラも言う事を聞くんじゃないの?」
と、リリエラさんがガンエイさんに問いかける。
おお、ナイスアイデアだよリリエラさん!
再生能力持ちの相手は面倒くさいもんね!
「ふむぅ、あの小僧と本気で戦わせるのも面白いと思ったんじゃがのう。まぁ仕方がないか。……試作キメラよ! 儂じゃ! お前の生みの親であるガンエイじゃ! 大人しゅうせい!!」
と、ガンエイさんがキメラに向かって話しかける。
「……」
するとキメラもガンエイさんの方に顔を向け、二人は見つめ合う。
そして……
「キシャァァァァッ‼」
キメラが叫ぶと、キメラの子供達が興奮して叫びだす。
そしてリソウさん達と戦っていたキメラの子供達がガンエイさん一人へと殺到しだした。
「な、何じゃぁぁ!?」
何で!? どうして生みの親のガンエイさんに襲い掛かるの!?
「というかだな、普通に考えて自分を棄てた親を怨むのは当然じゃないのか?」
「「「「「「……あっ」」」」」」
そういえばそうでした。
ラミーズさんの冷静な言葉に、僕達はそうだよねーと思わず納得してしまった。
「納得しとる場合かー! 良いから助けんかい!」
ガンエイさんが防御魔法で自分の身を守りながら叫ぶと、皆がハッとなって慌てて援護に向かう。
「だがこれならキメラ共はあの爺さんに釘付けだ。俺達は後ろからキメラを削っていくぞ!」
「おうよ! 守りを気にしなくていいなら、さっきよりも戦いやすいくらいだ!」
と、リソウさんの指示を受けたロディさんが、キメラ達がガンエイさんに集中している事の利点を皆に伝える。
「成程、囮だな」
「ああ、それも何かあってもあと腐れの無い良い囮だ」
「なにせあの爺さんが原因だもんな」
冒険者さん達もこれで気兼ねなく囮に出来ると頷きながらキメラへと攻撃を開始する。
「お主らぁぁぁぁ! 後で覚えておれよぉぉぉ!!」
まぁガンエイさんは防御魔法で身を守れているし、向こうはリソウさん達に任せよう。
「それじゃあ僕はこっちの相手をするかな!!」
こうして、僕と試作キメラの闘いの幕が切って落とされたのだった。
◆
「キシャアァァァ!!」
試作キメラが雄たけびをあげると、体の表面がメリメリと剥がれていく。
いや違う、あれは羽根だ。
細長い胴体の側面に張り付いていた羽根が広がっているんだ。
一体何をするつもりなんだ!?
プキョキョキョ
とその時、空中に変な音が響く。
間違いなく試作キメラの羽根が原因だ。
そして次の瞬間、試作キメラの翼から大量の泡が凄い勢いで飛び出した。
いや違う、泡の中に何かが見える。アレが本体だ!
僕は飛行魔法で泡の弾幕を回避する。
泡は周囲の地面や壁にぶつかると、激しく破裂して周囲を吹き飛ばしていく。
おいおい、なんて危ない攻撃をするんだ!?
下手したらこの洞窟が崩落しちゃうぞ!?
「きゃあっ!?」
とそこで後方からリリエラさん達の悲鳴が上がった。
しまった、流れ弾が向こうに行ったのか!?
「リリエラさん!?」
あわててリリエラさん達の方を見ると、リリエラさんの近くの地面が吹き飛び、巻き添えを喰らったらしいキメラ達が地面に倒れていた。
「大丈夫ですか!?」
「え、ええ、大丈夫よ。私達は当たってないから安心して!」
そういってリリエラさんはキメラ達との戦いを再開する。
被害がなくて本当に良かったよ。
それにしても迂闊だった。
いくら広いとはいえ、ここは閉鎖空間だ。
試作キメラの放った流れ弾が皆に届く危険がある。
僕は試作キメラの注意を引きながら、流れ弾が皆に向かわない方向へと移動する。
これで皆安全に戦える筈だ。
ただこの戦いではうっかり味方に流れ弾がいかない様に、回避よりも防御する事を意識した方が良さそうだね。
「ハイプロテクトシールド!」
僕は魔力で編み上げられた透明で大型の盾を幾つも生み出し試作キメラから身を守る用意をする。
プキョキョキョ。
再び試作キメラの羽根から泡の攻撃の前兆音が鳴り響く。
「来い!」
僕の言葉に応える様に、再び泡の攻撃が僕へと襲い掛かる。
けれど透明な魔法の盾は僕を試作キメラの攻撃から守ってくれる。
さぁ今度はこっちの番だ!
とはいえ、相手は強力な再生能力を持つ魔物だ。
有効なのは大規模な攻撃魔法で相手をチリ一つ残さず消滅させる事だけど、ここは地下だから下手な大魔法は洞窟ごと崩落させてしまう危険がある。
この巨大なキメラを再生させずに倒せるだけの威力があって、なおかつ地底湖を崩落させずに討伐できる魔法……
しかもキメラの泡攻撃で洞窟が崩落しない様、短期決戦で倒さないといけない。
「となるとアレかな」
僕は自分の知っている魔法の中で、周囲に極力被害を与えない魔法をチョイスする。
そして試作キメラの泡攻撃が終わった瞬間を見計らって魔法を放った。
「喰らえ、プリズンアイスピラーズ!」
魔法の発動と共に無数の巨大な氷柱が、水中や天井、それに壁から生えて試作キメラへと伸びてゆく。
「そんな魔法ではあのキメラを止める事は出来んぞ! あれは見ての通りの細長いボディじゃ。どんな狭い所でも自在に活動する事が出来るぞい!」
と、キメラの子供達に群がられているというのに、自らの作った試作キメラの性能を自慢するガンエイさん。
うん、遠慮なく討伐しよう。
ガンエイさんの言う通り、キメラは襲い来る氷の柱をスルリスルリと回避していく。
けれど……
「むっ? 何じゃ?」
ガンエイさんが一つの異変に気づく。
最初は余裕で回避していたキメラだったけれど、縦から横からと様々な角度から生えてくる大量の氷の柱に逃げ道を塞がれ、次第に動きが鈍くなっていく。
そう、この魔法は攻撃の為だけに使った訳じゃない。
試作キメラを逃さない為の檻として作り出したのさ。
そうして試作キメラの逃げ道がどんどん埋められていき、遂にはキメラの周囲に氷の檻を作り出した。
「じゃ、じゃが試作キメラの巨体なら、多少太い程度の氷の檻など砕いてくれるわ!」
全く、どっちの味方なんだろうね。
そして生みの親の気持ちを汲み取ったのか、試作キメラが再び泡攻撃を行って氷の檻を攻撃する。
けれど氷の檻は泡の攻撃で表面が弾けてもすぐに再生してしまう。
なにせ氷だからね、周囲に水もあるから再生は容易さ。
そしてこれがこの魔法を選んだもう一つの理由。
試作キメラの泡攻撃による洞窟内への被害を減らす事だ。
「ギュワォォォォォッ!!」
業を煮やした試作キメラが雄叫びを上げて氷の檻へと突撃し、凄まじい轟音が洞窟内に鳴り響く。
「やったか!?」
試作キメラの巨体がぶつかり、ガンエイさんは氷の檻が砕け散ったと確信する。
けれど甘いよ。
「……な、何!?」
そう、答えは真逆だった。
氷の檻にぶつかった試作キメラは、檻を砕くどころか逆にぶつかった部分から凍り付いていったんだ。
「逃れようとする者を凍らせ絶命させる極寒の檻、それがプリズンアイスピラーズの魔法だよ!」
「また絶妙に出鱈目な魔法を……」
陸からリリエラさんの呆れた様な声が聞こえてきた。
「いえいえ、普通の対閉鎖環境下用魔獣討伐魔法ですよ?」
「普通の人間はそんなピンポイントな場所で都合よく巨大な魔物を討伐する魔法なんて使えないわよ」
えー? そんな事ないと思うけどなぁ。
「ああそうか、リリエラさんは元々戦士ですもんね。多分魔法の専門家のラミーズさんなら使えると思いますよ」
「いやー、それはどうかなぁ……」
「後でその魔法も教えてくれっ!!」
「良いから今は目の前の敵に集中しろ魔法バカッ‼」
どうやら知らなかったみたいです。
まぁラミーズさんの専門は風魔法らしいしね。
「ともあれ、そういう訳だから、その氷の檻からは逃れられないよ!」
僕達が話している間にも氷の檻は内部に更に柱を増築して狭くなっており、試作キメラはますます身動きできなくなっていた。
試作キメラは再び羽根を開いて檻に隙間から攻撃を加えようとするけれど、狭くなった檻に羽根が触れて凍り付いてしまう。
ならばと試作キメラが口から炎のブレスを吐くと、氷の檻がどんどん溶けていく。
「グハハハハハっ! 見たか小僧! これこそ我がキメラ最強の攻撃、マグマブレスじゃ! 生物であるキメラの体内には溶岩を生み出す耐熱器官が存在しており、その威力は文字通り自然の驚異である火山の噴火に等しい! いくらお主が強かろうとも、自然の脅威を再現した儂のキメラには敵うまい!!」
えーっと、それは説明してくれてるのかな? それとも勝ち誇ってるのかな?
今も昔も技術者系の人達っていうのは紙一重な人が多いよね。
とりあえず僕はガンエイさん自慢の試作キメラに視線を戻す。
そこにはマグマブレスで氷を解かすキメラの雄姿は無く、自らが溶かした元氷の液体が体に張り付いて再び凍り付いていた。
「な、なんじゃとぉぉぉぉぉ!?」
試作キメラは頑張って氷を解かすんだけど、氷の柱を溶かしきる速度よりも周囲の氷柱から補給された冷気によって再び凍り付く速度の方が圧倒的に早く、対応が追い付かないでいたんだ。
お陰で溶かした水が試作キメラの体を束縛する拘束具となって、ブレスでの攻撃は寧ろ逆効果となっていた。
そうこうしているうちに、試作キメラの体は氷の柱に押し潰される様に拘束されていき、遂には全身が氷漬けになって動かなくなった。
「マグマすら凍る氷による束縛。相手が再生するのなら、氷漬けにして動けなくすれば良いって寸法さ」
実は閉鎖空間内で安全かつ完全に巨大な試作キメラを焼き尽くす魔法もあったんだけど、それを使うと、試作キメラを討伐したっていう証拠がなくなっちゃうからね。
せっかく皆と頑張って戦ったのに、報酬を減らされたら大変だ。
大剣士ライガードの冒険でもとても巨大で恐ろしい魔獣を、地獄の底に続いていると言われるシフオンの大冥谷へとおびき出し見事叩き落して勝利したのだけど、魔獣を倒した証拠も失われてしまった所為で報酬を受け取れなかったって物語があったからね。
その事から成し遂げた偉業を証明できない事を、手柄を大冥谷に落としたって言われる様になったそうな。
「という訳で、試作キメラ討伐完了だっ!」
◆
「わ、儂の自慢のキメラが……」
氷漬けになった試作キメラを見て、ガンエイさんが膝を突いて項垂れる。
「完璧だと、これ以上のキメラは作れんという自負があったと言うのに……」
うーん、もしかしてちょっとやり過ぎちゃったかな?
でもあのキメラは何とかしないと、またどんどん子供を産んで増えていただろうからなぁ。
それが何かの弾みで外界に出たりでもしたら、とんでもない大騒ぎになっちゃうからね。
「でもまぁ、本当に、僕達が倒せる程度の相手で助かったよ」
「っ!」
何せ相手は古代の文明を魔人の軍勢諸共滅ぼした白き災厄っていう魔獣を倒す為に生み出された最強キメラだからね。
僕達だけで倒せたのも何か理由があったに違いない。
「っ……っ!!」
あれ? なんかガンエイさんがギョロリとした目でこっちを見てくる。
あー、あれかな? 自分の作ったキメラが完全体だったら負けたりはしなかったって言いたいのかなあ?
「ええっと、生みの親のガンエイさんには残念だったかもしれませんけど、僕達としてはあのキメラが本当の力を発揮できなくて助かったと思いますよ。ほら、なにしろ相手は最強のキメラですし、真の力を発揮してたらさすがに勝てなかったんじゃないかなと……」
そう、例えば環境が原因でキメラの成長が不完全だったり、子供を産んだ事で体力を大きく消耗していたりといった具合にだ。
うん、それが正解な気がする。
「っっっっ!!」
何故かガンエイさんが額に青筋を浮かべて声なき声を上げる。
ええと、その通りだって言いたいのかな?
「それと、きっとこの場所じゃ食べ物が流されてくる魔物や魚だけで、十分な栄養が足りなかったんですよ。もっと栄養豊富な場所だったら戦いは違っていましたよ!」
「っ! っっっ!!」
ガンエイさん額にいくつもの青筋を浮かべて口をパクパクさせている。
なんだか餌を求めて水面に顔を出した養殖の魚みたいだ。
「っっっ!! っった!」
た?
「たかが試作キメラを倒したくらいで調子に乗るでないわぁぁぁぁぁぁ!! 儂のキメラは最強じゃぁぁぁぁぁぁいっ!!」
ガンエイさんの雄叫びが、地底湖中に響く。
「ちょーっと昔に作ったキメラじゃから、性能的にいまいちだっただけじゃい! 今の儂が本気で作ればもっと強いキメラが出来るわいっ!!」
ガンエイさんが地面をダンダンと踏み鳴らしながら力説する。
「ええ、勿論分かっていますよ。ガンエイさんがアンデッドになってまで研究を続けて生み出したキメラですもんね。凄いに決まってます」
「~~~~~っ!!」
ガンエイさんが口を大きく開いてワナワナと震える。
「お、おおおっ覚えとれぇぇぇぇ! ぜーったいお前よりも強いキメラを作ってやるからなぁあぁぁぁぁ!!」
そう叫ぶなり、ガンエイさんは地底湖から飛び出して行ってしまった。
「……ええと、どういう事?」
ちゃんとガンエイさんのキメラの凄さを認めてるって発言したのになぁ。
何でそれが僕よりも強いキメラを作るって話になっちゃうんだろう?
僕はそれが分からなくて、皆の方を見る。
すると皆は何故かウンウンと腕を組んで深く頷き合っていた。
「いやー、見事な煽りっぷりだったわ」
「ああ、もはや狙って言ったとしか思えない発言の数々だったな」
「プライドもへったくれもないな」
「素直に昇天された方が傷が少ないと思うのだけれど……」
「キメラ研究の技術も面白そうだが、あの負けっぷりを考えると時間の無駄か?」
などと好き勝手な事を言い合っていた皆が僕を見て言った。
「「「「「まぁなんにせよ、相手が悪い」」」」」
「ど、どういう意味ですかぁぁぁぁー!?」
いやホント、どういう意味なの?
ガンエイ(´Д⊂ヽ)~~~「ちくしょー! 絶対凄いの作っちゃるからなー!」
冒険者達_(:3」∠)_「強く生きろよ(死んでるけど)」
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