表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二度転生した少年はSランク冒険者として平穏に過ごす ~前世が賢者で英雄だったボクは来世では地味に生きる~  作者: 十一屋 翠
Sランクパーティ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/355

第83話 地下水脈に潜む者

_:(´д`」∠):_「今週は二本立て! よしソシャゲのイベントに専念……」

(^▽^)/締め切り「(肩をポン)」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

「では頼むぞお前達」


 廃棄穴の壁に巣くっていたアントラプターを一掃した僕達は、飛行魔法でゆっくりと穴を下って最下層へと降りる事になる。


 といってもいきなり全員を下ろす訳じゃない。

 まず僕とリリエラさんとラミーズさん、それと実は飛行魔法が使えたガンエイさんの四人が偵察して、最下層に大量の魔物達が居ないかを調査をするのが優先だ。


だって地下に魔物やキメラが大量に生息していたら大変だからね。

 アントラプターを相手にした時の様な事はもうたくさんだよ。


で、最下層に着いたら探査魔法を使って、最下層にどれだけの魔物が居るかを調べる。

それで大丈夫だと判断したら、次は僕達飛行魔法の使い手に何かあっても地上に帰れる様に、帰還用のロープを絶壁の各所に垂らす作業。


 ただ最下層までは結構深くてロープの長さが足りないので、途中で足場になる場所を探して、段階的に移動が出来る様にする。

 このロープは今回の依頼が終了したあとでも後続の調査隊が使う予定らしいから、ロープを垂らす場所は岩や土の質も吟味して慎重に決められた。


それらの作業が終わってようやく僕達は冒険者さん達を最下層へと連れ行く準備が完了する。


 ちなみに今回モフモフはお留守番だ。

 うっかり地下水脈に流されたらたまらないからね。


「ほーら魔物の肉だぞー」


「キュウン!」


「おーい、魔物のモツも食べるかー?」


「キュウウウン!!」


 そんなモフモフは、冒険者さん達から解体で余った魔物の肉の切れ端やモツを貰ってご満悦みたいだ。


「いやー、モツを埋める穴を掘る手間が省けて助かるぜ」


「だなぁ。見た目も可愛いし」


「でもあれって何て魔物なんだろうな?」


「さぁ? まぁ可愛いから良いんじゃね?」


「そうだな」


「キュウン!」


 小さくて無害なモフモフに冒険者さん達はメロメロみたいだ。


「皆騙されてるわ……アレは楽して肉が食べたいだけよ」


「ああ、騙されているな。そしてアレはそんな可愛い生き物じゃない……」


 けど、リリエラさんとロディさんだけは渋い顔で肉を食い漁るモフモフの姿を眺めていた。

 肉の話をしているけど、二人共朝ごはんが足りなかったのかな?


 ◆


 そして先行調査を終えた僕達は、飛行魔法を使って調査に向かう冒険者さん達を最下層へと下ろしてゆく。


「おおっ!? も、もっとゆっくり下ろしてくれー!」


「ゆ、揺れ! 揺れるぅぅぅ!!」


 廃棄口の縦穴は意外と下から吹く風が強く、風にあおられて冒険者さん達が悲鳴をあげる。


「もう! 暴れないでよ!」


「バカ者! そんなに暴れたら私の腕が持たんぞぉぉぉぉ!」


 あー、リリエラさんに風圧防御の魔法を教えるの忘れてたよ。

 風が強い場所では風圧防御を覚えないとキツイんだよね。


「俺達はこっちに運んでもらって良かったなぁ」


「あ、ああ」


 ちなみに僕とガンエイさんは風圧防御の魔法が使えるから、風に揺らされることはなかった。


「でも……このアンデッドの腕がもげそうで怖い……」


 あ、それはもげないように祈っててください。


「落ちるー!」


「だから暴れるなー!!」


 ところでラミーズさんは何で風圧防御の魔法を使わないんだろう?

 魔力を温存したいのかな?


 ◆


「よし、全員降りたな」


 色々とトラブルとも言えないトラブルがあったけど、僕達は無事に最下層へと到着した。


「うう……二度と人間を運んだりせんぞ」


 けれど何人もの人達を運んだせいで、ラミーズさんが腕をさすりながらうめき声をあげている。

 ちなみに女性冒険者さん達はリリエラさんが、僕は比較的重い人達を運んでいた。

 あと今回は調査がメインの目的だから、金属鎧の人は調査役に選ばれていない。


「おい見ろよ。魔物の骨だ」


 冒険者さんの一人がそばに散らばっていた魔物の骨を見つける。

よく見ると、魔物の骨は壁際の地面のそこかしこに落ちていた。


「上の道から足を踏み外して落ちて来た魔物や、キメラに負けた魔物の骨だろう」


 中には生き物として不自然な形の骨があるから、魔物達に狩られたキメラの骨も混ざっているみたいだね。


「この洞窟に生息する魔物の骨なら、新しくて状態の良いヤツは金になるかもしれないな」


 成る程、魔物素材がお金になるなら、骨もお金になってもおかしくないか。

 しかもここはAランク以上、今はSランクの冒険者しか入れない遺跡から降りてきた場所だから、手に入る魔物の骨もランクの高い魔物の物である可能性が高いもんね。


「骨拾いは後回しだ。今は調査を優先するぞ」


「へーい」


 リソウさんに窘められて、冒険者さん達が残念そうに返事をする。


「しかし凄い流れだな。俺達が戦ったあのキメラ達といえど、この水脈の真上に落とされていたら、何も出来ずに流されていただろうな」


 と、リソウさんがすぐ傍を流れる地下水脈を見ながら呟く。


僕達が降りてきたのは地下水脈の脇にある岩壁寄りの陸地で、人が二人は通れそうな幅があるので一応道といえなくも無い形だ。そして僕達のすぐ傍には、ゴウゴウと音を立てて地下水脈が流れていた。


「確かにここへ落とされたら助かりそうも無い……って、おいお前等! あんまり覗き込むな、落ちるぞ!」


「お、おう、す、すまねぇ」


 ロディさんが地下水脈を覗き込んでいた人達を注意する。


「まずは上流に向かうぞ」


 リソウさんの指示に従って僕達は上流へと向かう。

そうして進んで行くと、だんだんと道が広くなり、代わりに地下水脈の幅が狭くなってきた。


「成程、どうやらさっきの場所が一番地下水脈の幅が広い危険な場所だったみたいだな。とはいえ、それでも落ちたら危ないことには変わらんか」


 リソウさんが灯りの魔法が掛けられた剣を地下水脈に向けるけれど、明かりで照らしても暗い地下水脈の水底は見えず、その深さを測り知る事は出来なかった。


「なんておセンチな事を言ってたら魔物が来たぜ、双大牙の旦那」


 ロディさんの警告通り、道の奥から奇怪な形の魔物、キメラの姿が現れる。

 

「やはり生き残っていたか。迎撃するぞ!」


「待て、地下水脈側からも魔物の反応だ!」


 ラミーズさんの言葉に応える様に、地下水脈から大きなヒレを伸ばしたトカゲ型の魔物が這い出て来る。

 どうやらこっちは地下水脈で暮らす現生の魔物みたいだね。


「地下水脈に落ちないように気を付けて戦え! 殿は退路を確保だ!」


 リソウさんの指示に皆が自分の敵を見据えて武器を構える。


「そんじゃ行きますか」


「ロディ、サポートする! プロテクトメイル!」


「私も援護します。ディバインウエポン!」


 今回の調査ではSランク冒険者である僕達だけじゃなく、そのパーティメンバーも同行している。

ロディさんのパーティ、サイクロンのメンバーは打ち合わせも無くロディさんの動きに追従して一斉に動く。

その流れは流石のSランクパーティだ。


「俺達はこっちの敵を相手にするぞ!」


「「「おうっ‼」」」


 リソウさんもまたパーティメンバーと共にトカゲ型の魔物の迎撃に出る。


「私達は双方のパーティの援護をします」


 フォカさんは冒険者さんの援護と回復を、そのパーティメンバーは戦線の壁が薄い場所のサポートに入る。


「私はまだ疲れが取れていないから休ませてもらう」


 ラミーズさんはさっきの空中輸送の疲れが取れていないと宣言して、戦闘には参加しない姿勢みたいだ。


「ほんじゃ儂も援護でもしようかの。エリアプロテクション」


 ガンエイさんが味方全員に広域防御魔法をかけて援護してくれる。

 この人の専門って補助魔法なんだなぁ。


「さて、僕達も動こうか」


「でも戦場が狭くてこれ以上は参加できそうも無いわよ」


 と、リリエラさんが周囲を見回しながら言う。

 確かに殿を守っている冒険者さん達は、すぐ傍に地下水脈がある所為で攻撃に参加できないでいるね。

 さっきと比べれば広くなったとはいえ、複数の冒険者さん達が敵の攻撃を回避しながら戦うにはここは狭すぎる。

 でもね、リリエラさん、僕達ならそんな事気にせずに戦えるんだよ。


「リリエラさん、飛行魔法で空中に上がって、味方に当たらない位置から攻撃魔法で援護をするんだよ」


「あっ! そっか」


 僕に言われてリリエラさんは自分が攻撃魔法と飛行魔法が使える事を思い出す。

 まぁ攻撃魔法は練習しただけで実戦ではあまり使う機会がなかったからね。


「じゃあ行くよ」


「ええ!」


 僕達は空中に跳びあがって味方に当てない様に魔法で援護する。


「くっ、この! 飛びながら攻撃魔法を使うって結構難しいわね」


 二つの魔法を同時に発動させるのに慣れていないリリエラさんが味方に当てない様に攻撃するのに苦労している。

 まぁ実戦形式の練習になるし丁度良いかな。

 もし味方に当たりそうになったら僕がサポートしよう。


 とはいえ、ここに集まっているのは全員がSランクとAランクの冒険者。

 戦場の狭さこそあったものの、普通の魔物やキメラ程度で止められるはずもなかった。


「よーし、それじゃあ進むぞ。調査優先だからな、倒した魔物素材の回収は帰りにしろ」


 リソウさんの指示に従い、僕達は調査を再開する。


 ◆


 その後も散発的に魔物とキメラの襲撃があったけど、大抵の相手は問題なく倒せた。

 寧ろ……


「うわっ!?」


 魔物の攻撃を回避したことでバランスを崩した冒険者さんが地下水脈に落ちそうになる。


「危ない!」


 僕は間一髪その腕を掴んで地上へと連れ戻す。


「た、助かったよ」


「どういたしまして」


 とまぁこのように、次第に狭くなる道から落ちそうになる冒険者さん達の救助がメインになっていった。

途中からはラミーズさんも空中援護に参加してくれたから楽になったけどね。


「いやーしかし、飛べるというのは本当に便利だな。何度助けられたかわからないぞ」


「晴嵐、油断し過ぎだ」


 数回程落ちそうになって助けられたロディさんを、リソウさんが窘める。


「そういう旦那こそ、二回ほど落ちそうになって助けられていたな」


「……まぁ感謝はしている」


 ちなみに、何度も落ちそうになったロディさんだけど、上から見ていた僕には、彼が落ちそうになるのは仲間を助けようとした時だけだと僕は知っていた。

 そしてそれはリソウさんも同様だ。


 でも二人共それを口にする事はしなかった。

 その奥ゆかしさもSランクらしくてカッコいいよね!


「まったく、私達に感謝しろよお前達!」


 うん、まぁ助けたラミーズさんが言うのはアリ……なのかな?


「でも意外に魔物が少ないわね。アントラプターがあんなに居たんだから、もっと沢山のキメラが生き残っているのかと思ったわ」


 と、リリエラさんが不思議そうに呟く。


「そう言えばそうですね。アントラプターがあんなに居たって事は、餌となるキメラももっと居て良いと思うんだけど」


確かに、大した強さじゃなかったけど、あの数で乱戦をするのは面倒だったからなぁ。


「なぁお前達、気付いていたか?」


 と、そこでリソウさんが僕達に話しかけて来る。


「気付く……って何を?」


 リソウさんの言葉にリリエラさんが首を傾げる。


「魔物の数が少なくなってきた事だ」


「え?」


「それだけじゃない、キメラの数も減っているな」


 リソウさんもロディさんに同意し、ラミーズさんやフォカさんも真剣な顔で頷く。

 確かに言われてみれば最初に地下水脈に降りて来た時に比べると魔物達の数は減っている気がする。


「これは主が居るぞ」


 主、その言葉は前世でも何度か聞いた事がある。

 魔物の多い森や洞窟などには、稀にボスと呼べる強力な個体が居ると。

 今生での経験なら、魔獣の森のエンシェントプラントが主に当たるのかな?

 アレはあんまり強い個体じゃなかったけど。


「全員警戒を怠るな」


「対処はどうする?」


ラミーズさんがリソウさんに主と遭遇した時の対応を確認する。


「キメラなら討伐する。魔物なら襲ってこない限り放置だ」


「え? 討伐しないんですか?」


 リソウさんの意外な答えに僕は驚く。

冒険者の仕事って魔物討伐だし、主という程の強力な魔物なら当然討伐するものだと思っていたからだ。

事実前世ではよく、主を討伐して土地を開発するのだーって王様や貴族が騎士団に討伐を命じていたし。


「主を倒すと言う事は、統制を取る者が居なくなると言う事だ。そして主が居なくなれば、主に押さえつけられていた他の魔物達が好き勝手に暴れだし、最悪の場合魔物達が縄張りの外に出ていってしまう危険がある」


 成る程、それじゃあ意味がないよね。

 今回の僕達の仕事は、魔物の大量発生の原因解明とその解決なんだから。

 僕達が新しい原因になってしまったら大変だ。


 でもさすがSランクの冒険者さんだなぁ。

 僕は魔物を見たらとりあえず倒せばいいと思ってたよ。

 ちゃんと周囲の環境に考慮して戦う。それは目の前の儲けだけじゃなく、その後ろに居る土地の人々の安全も考えているんだね。


「分かりましたリソウさん」


「よし、全員警戒をしながら前に進むぞ。灯りの魔法を先行して進ませろ」


 リソウさんの指示を受けて魔法使いさん達が魔法の灯りを先行して進め、僕達はその後を付いて行く。


「探査魔法に魔物の反応があります!」


 探査魔法を担当していた魔法使いさんが緊迫した声を上げる。


「距離は?」


「おおよそ三〇〇メートルです」


「よし、なるべく刺激したくない。人数を絞っていくぞ。天魔導と聖女は後方で待機。いつでも援護が出来る様にしてくれ。晴嵐と大物喰らいのチームはついてこい」


「「「おうっ‼」」」


 チームを分けた僕達はゆっくりと壁沿いに進んで行く。


「居るな……」


 リソウさん声にわずかな緊張が混ざる。

 そして先行して進んでいた魔法の灯りがその先に居る魔物の姿を徐々に照らしてゆく。


 洞窟の天井に頭が付くほどの巨体。

 まるで灯りに反射する金属の様な鱗。

空を蹂躙する為に生えた巨大な翼。

 その姿はまるで……


「って、え?」


 本来ならこんな所で出会う筈の無いその姿に僕は思わず声をあげてしまう。


「バ、バハムート……」


 かつて見た事のある存在とうり二つの魔物の名を、リリエラさんが漏らす様に呟く。

 そう、この魔物の名はバハムート、かつて僕達が天空島で出会い戦った魔物と同種の存在だ。


「バ、バハムートだって!? Sランクの魔物じゃないか!?」


「グルルルルルゥ……」


「ひっ!?」


 バハムートが僕達を見て唸り声を上げると、同行してきたAランク冒険者さんが悲鳴をあげる。


「な、縄張りを荒らされて怒っている……!?」


「な、なんでそんな魔物がここに……?」


 まさかのバハムートとの遭遇に皆が動揺している。

 うん、動揺するのも分かるよ。

 だって本来バハムートはこんな狭い場所で暮らす生き物じゃないからね。

 広い土地を寝床とし、空こそ我が天井とする自由にして傲慢な存在なんだから。

 そんなバハムートがこんな場所に居れば、誰だって驚くよ。


「そ、そうか、分かったぞ。俺達が洞窟内で遭遇したアントラプターの群れ……アイツ等はこのバハムートから逃げ出すために上層まで逃げて来たんだ……」


 なる程、確かにアントラプターとバハムートならバハムートの方が格上だからね。

 壁を登れるアントラプターが逃げ出すのも理解できる。

 もしかしたら、魔物の大量出現の理由の一端はこのバハムートにもあったりするのかなぁ?


 けど困ったな、こんな狭い場所でバハムートと戦うことになったら色々と大変だぞ。

 だってバハムートはドラゴンの一種、その口からは強力なブレスを吐けるんだから。


「くっ、聖女、それにアンデッドの、お前達全員を守れる範囲型の防御魔法を張れるか?」


 同じ事を考えたらしいリソウさんが、バハムートを刺激しない様に声を潜めてフォカさんとガンエイさんに対策を求める。


「……全力で結界を張ったとしても、バハムートのブレスを正面から、それも全員守るというのは無理ですね。というか自分一人でも耐えられるとは……」


「儂一人なら耐えられるじゃろうが、お前さん達全員を守るのは無理じゃな。いや儂は成仏できるなら防御できんでもかまわんが」


 フォカさんとガンエイさんは全員を完全に守るのは無理と告げた。

 その理由は分かるよ。だってたとえブレスから皆を守ってもその後で起こる崩落が怖いからね。

 バハムートがブレスを吐けば、その衝撃で最下層は、最悪この洞窟全体が崩落してしまう危険がある。


 うーん、これはブレスを吐かれる前にバハムートの首を刎ねるしかないな。

 

僕はバハムートを素早く討伐する為にゆっくりと身を低くかがめて体のバネに力を込めてゆく。

 気付かれてブレスを吐かれない様にゆっくりだ。


「や、ヤベぇよ。逃げた方が良いんじゃないのか……?」


「バカ、この状態でうかつに動いたら殺されるぞ……」


 と、傍の冒険者さん達が逃げるか戦うかで揉め始める。

 ナイス、怯える演技でバハムートを油断させるつもりだね!


「クキュウウ」


 と、その時、バハムートの足元で幼い鳴き声が聞こえた。


「あ、あれはバハムートの子供か!?」


 見ればバハムートの足元には、人間大の大きさの小さなバハムートの姿があった。

 天空島で見たバハムートの雛に似ているなぁ。

 って、同じバハムートの子供なんだから当たり前か。


「そうか、バハムートはこの洞窟を子供を育てる為の巣として利用していたのか!」


 誰かがバハムートがここに居る理由を子作りの為だったのかと納得の声をあげる。

 んー? でもバハムートって普通に空の下で子育てしてたけどなぁ。

 天空島でも普通に森島の中に巣を作っていたし。


「よ、よし、バハムートを刺激しない様にゆっくり下がるんだ。子供が居るならこっちが下がれば追ってこないかもしれない」


 けれど、その期待は直ぐに否定される。

 バハムートは大きく一歩前に出て、僕達を一瞥すると目を大きく開き雄たけびを上げた。


「キャェェェェェェッッ‼!」


 どうやら子育ての最中に縄張りを侵した僕達に対して、怒り狂っているみたいだ。

 それとも丁度子供の狩りの練習台に良い獲物が来たと思ったのかな?


 けどこの奇妙な雄叫び、前世でも前々世でも聞いた事が無い、まるで悲鳴のような叫び声だ。

 こんな地下に暮らしているし、もしかしたら特殊な生態の亜種や変異種かもしれない。

 これは警戒を厳重にしないと。

 もしかしたら固有の特殊能力を持っている可能性もある。

 複合型の特殊攻撃耐性強化魔法も発動した方が良さそうだ。


「皆さん警戒してくださ……あれ?」


 皆に警戒を促そうとした僕だったけど、次の瞬間バハムートが取った奇妙な行動に驚いて声をあげてしまった。

 というのも、雄たけびを上げたバハムートは足元の子供を咥えると、一目散にバックで逃げて行ってしまったからだ。


 洞窟が狭くて方向転換できなかったのは分るけど、バックであんな速度を出せるなんて凄いなぁ……。

 そっか、バハムートもリザード系の魔物と同じで目が顔の側面にあるから、視野が広いんだ。

 ……ってそんな事を納得している場合じゃないっけ。


「バハムートが……逃げた?」


「ちょっ、どういう事なの?」


 リリエラさん達も何が起こったのかとキョトンとしている。

 無理もない、だって縄張りを侵されたバハムートが戦いもせずに逃げるなんて普通はありえないんだから。


「子供が居たから戦いを避けたのかしら?」


 とフォカさんがバハムートが逃げたのは、母性による行動だったのではないかと指摘する。

 うーん、バハムートの気性なら逃げたりせずに子供に狩りの手本を見せる為に戦うと思うんだけどなぁ。

 でもまぁ、相手は地下に住む変異種みたいだし、そういう大人しい気性なのかもしれないね。


「ま、まぁ危険な魔物が向こうから撤退してくれたんだ。良しとしよう。我々は下流に戻り、引き続き残ったキメラの討伐を行うぞ!」


「「「「お、おうっ‼」」」」


 気を取り直した僕達は、リソウさんの号令に従ってキメラ討伐を再開する事にした。


 ◆


ギャー!!

何でー!? 何であの人間がここにいるのー!?


折角天空島から出て餌が豊富なこの穴場を見つけたっていうのにーっ!

また引っ越さないといけないわけー!?


ちょっとぐらい獲物を逃しても、他にわんさかいるから息子の狩りの練習に最適だったのにー!

何処かに我等の安息の地はないのーっ!?

バハムート(´;ω;`)「また引っ越し……」


面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=625182565&s ツギクルバナー N-Star連載「商人勇者は異世界を牛耳る! ~栽培スキルで武器でもお宝でもなんでも栽培しちゃいます~」
 https://ncode.syosetu.com/n5863ev/

魔法世界の幼女に転生した僕は拗らせ百合少女達に溺愛されています!?
https://ncode.syosetu.com/n6237gw/

― 新着の感想 ―
バハムートさんかわいそう…笑
[一言] あれ?これが天空島のバハムートさんてことは交易の特産品なくなったのかな
[一言] バハムートの子って男の子だったんだ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ