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第80話 蘇る死者と怒れる魔人

(:3 」∠)「他の原稿が忙しくて二週間ぶりの更新でござる」

ヾ(*´∀`*)ノ「さーって更新だー……最新話は8500文字?( ゜д゜) ・・・ 」

(つд⊂)ゴシゴシ 「(;゜ Д゜) …!?」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

「あちゃー、しまった」


 魔人に殺されたと思っていたアンデッドは、なんと生きていた。

 何の為にわざわざずっと死んだ振りまでしていたんだろう?


「よっと」


 立ち上がったアンデッドは床に膝を突くと、そのまま寝転がって再び死んだ振りを再開する。


「……」


 いやいやいや、ちょっと待ってちょっと待って。


「なに死んだ振りをやり直してるんですか!? 今更遅いですって」


「ちっ」


 指摘されたアンデッドが舌打ちしながら起き上がる。

いや、ちってあなた……


「というか、死んでたんじゃなかったのか?」


「そ、そうだ! お前は私が背後から切り殺した筈だぞ!」


 ロディさんの疑問に、魔人が我に返ったように叫ぶ。


「バァカめ。自分の研究の成果が目の前にあるというのに、そんな簡単に死ぬアンデッドがいるか」


 まぁアンデッドの言い分も分からなくはない。

アンデッドといえば、執着や恩讐によって現世にしがみつく存在だからね。

彼がこの遺跡で研究していた職員のアンデッドだというのなら、目の前に特大の心残りがあれば死ねないのも当然だ。


「だがそれなら何故死んだ振りなど? 魔人に研究を奪われるなどそれこそ許せる事ではないのではないか?」


「その通りだ! なぜ逃げもせずわざわざここで倒れたままだったのだ⁉」


 というか、魔人が敵である僕達の言葉に同調するって変な光景だなぁ。


「うむ、じっと動かずにいるのは結構きつかったぞ」


「いやそういう事を言いたいわけではなくてな……」


「じゃが実は毎日ポーズを変えておったのじゃぞ。気付かれない様に少しずつ体を動かして、今では最初にお前に切り殺された時とはまるで違うポーズになっていたのじゃ! どうじゃ、気付かなんだじゃろう!」


「な、何だと!?」


うん、それこそどうでもいい事だと思うんだけどなぁ。


「って、そんな事はどうでも良い!」


 あ、我に返った。


「結局お前は何故私に殺された振りをしていたのだ⁉ 一体何を企んでいる⁉」


 うん、それは僕も気になる。

 なぜ大事な研究を魔人に奪わせる様な真似をしたんだろう?


「……よかろう。教えてやろう」


 アンデッドの声が低くなり、場に緊張が走る。


「「「「「「……」」」」」」


「この研究所がキメラの、そしてかつてこの世界を脅かした白き災厄について研究している施設だという事は既に知っておろう」


 アンデッドが手をかざして周囲のキメラ達を指し示す。 


「そして我等は多くの犠牲を払いながらも白き災厄の欠片を手に入れた。我等は狂喜した。これで白き災厄の研究は飛躍的に進むと。だが研究は容易ではなかった。暴走したキメラによって命を落とす仲間達も少なくなかったからだ。魔術による延命にも限界がある。儂と同じようにアンデッドとなってまで研究を続けた者も居たが、皆次第に未練を無くしていき、遂には儂一人となった」


 アンデッドは過去に思いを馳せる様に俯く。


「だがその苦難の果てに儂は遂に白き災厄の欠片を利用して作ったキメラを服従させる研究を完成させるに至ったのじゃ! そしてあとは実際にキメラを作るのみという所まで来たその時じゃった」


 アンデッドの動きが止まる。

 そしてギリギリと身を震わせる。


「儂は……実験を行えなかった」


「何故ですか?」


「それはの……」


 アンデッドが彼方を見るかのように視線を上に向ける。


「それは?」


「……勿体なかったからじゃ!」


「「「「「「……は?」」」」」」


 えーっと、どういう意味?


「これまで白き災厄の欠片を使用したキメラの実験は一つの例外なく暴走して失敗してきた。そしてその度に欠片は失われてきたのじゃ! そして残す欠片は実験一回分となった。……そんな、そんな物を使ったら勿体ないじゃろうが!」


「「「「「はぁーっっっ!?」」」」」


何それーっ!? 勿体なかったから実験したくなかった!?

 そんなの本末転倒じゃないか!


「……分かる」


 え? 分かっちゃうんですかラミーズさん?


「希少な品は使わずにコレクションしたくなるもの。とても良く分かるぞ」


「おお、分かるか若いの! そうじゃよなぁ、使いたくないのは当然じゃよなぁ!」


 何故かラミーズさんとアンデッドが意気投合を始めちゃった。


「とはいえ、儂の心残りはこの欠片を使って我等の研究を完成させる事。何とか踏ん切りをつける事は出来ぬものかと困っておった。そんな時じゃ、あやつが現れたのは……」


 そう言ってアンデッドは魔人に顔を向ける。


「な、何!?」


 魔人が、え? 俺? みたいな感じで動揺する。


「儂は天啓じゃと思った。この魔人に白き災厄の欠片を使わせようとな。自分で使えないのなら、他人に使わせる事で踏ん切りをつけようと思ったのじゃ! その為に儂は自らの研究成果を惜しげもなく教え、魔人が自ら白き災厄の欠片を使う様に仕向けたのじゃ!」


 それってつまり、このアンデッドが全ての原因だったって事?


「とはいえ、やはり勿体ないものは勿体ない。正直なんど後ろから攻撃して止めようと思った事か……」


うわぁ……この魔人、もう少しで自分がやった事と同じ事をアンデッドからされる所だったのか。

それはそれで因果応報だけど。


「お、お前はそんなくだらない理由で私に自分の研究を奪わせたと言うのか⁉」


「だってもったいなかったんだもん!」


「だもんじゃねぇよ……」


 ロディさんが呆れた口調でツッコミを入れる。


「まぁしかし、やらせてみたのは良かったんじゃが、正直言ってあまりにもお粗末な作業でのう。とても見ていられん手際じゃったから、寝ている間に儂が調整とかやり直しておいたんじゃよ」


「な、なんだとぉーっ!?」


「いやー、ほんっと危なっかしくてのう、危うく貴重な素材の数々を無駄にされる所じゃったぞ」


「っっっっ!」


うっわー、好き放題言われているよ。

あの魔人のプライド、今頃ボコボコなんじゃないかな?


「じゃがおかげで白き災厄の素材を使ったキメラの制作を行わせる事が出来た。出来はいまいちじゃったが、まぁご苦労様……と言いたい所だったんじゃが」


と、そこでアンデッドがこちらに向き直り、僕達を、いや僕を睨みつけてくる。


「折角出来上がったキメラを戦いもせずに殺してくれおって、とんでもない悪たれ小僧じゃ! これはお仕置きが必要じゃろうて」


「それって八つ当たりじゃないかしら?」


「寧ろ貴様の魔人の監督不行き届きで地上は大変な事になっていたんだぞ!」


 フォカさんやロディさんが抗議するけれど、アンデッドはどこ吹く風と言った様子だ。


「ふん、儂の研究が成就する方が大事なんじゃ!」


まったく、キメラを倒したと思ったらこれだ。

本当に迷惑な研究者だなぁ。


アンデッドと僕達は一触即発の空気になる。


「い、いい加減にしろ貴様等ぁぁぁぁぁ! たかが人間とアンデッドごときがこの私を無視しおってぇぇぇ!」


あ、放置されていた魔人が怒った。

いやまぁ怒って当然……かな?


 ◆


「キメラ共! コイツ等を皆殺しにしろぉっ!」


魔人のヒステリー気味な号令に従い、水晶の中で眠っていた十数体のキメラ達が目を開き、水晶を砕きながら飛び出してきた。


 キメラ達は目に獰猛な輝きを灯しながら、俺達に飛び掛かって来る。

 やれやれ、大物喰らいがデカブツキメラを倒してくれたというのに、まだピンチが続くみたいだな。


「迎撃するぞ!」


「了解だ、双大牙の旦那!」


 俺達はそれぞれが武器を振るってキメラ達の迎撃を始める。


「グォォウ!」


「うぉっ!?」


 予想以上の速さで飛び掛かって来たキメラの爪を何とか白牙で受けるが、予想をはるかに超える力に押し込まれてしまう。


「ぐぅ!」


 まともに受けたらとても耐えられないと判断した俺は、体を半回転して受けた爪を流す。

 クソッ、白牙の力が使えればな。

だがあいにくと白牙のマジックアイテムとしての力は中庭のキメラとの戦いで使い切ってしまっている。再度力が使える様になるには数日の時間が必要だった。


「くくく、このキメラ達は白き災厄の欠片を使ったキメラの随伴として作った高位キメラだ! 中庭の出来損ないとは訳が違うぞ!」


「何だと!?」


 俺の脳裏に中庭で戦ったあの不気味なキメラの姿が思い出される。

今水晶から現れたキメラはどれも2m前後。

だというのにコイツ等はあの巨大キメラ以上の力を持っていると言うのか!?


白牙と黒牙の力が使えない状態でどこまで戦える?

 それだけじゃない、キメラ達を倒したとしてもその後ろにはあの魔人が居る。

 魔人、伝説にしか語られない人間の敵。

 そんな伝説級の化け物と戦うには、あまりにも準備が足りない。

 だが、やるしかない。泣き言を言うのは後だ!


「聖女、天魔導、魔法での援護を頼む! 俺と晴嵐とアンデッドでキメラを倒す」


 俺は即座に指示を出しながら大物喰らいに視線を向ける。

 鍵はコイツだ!


「大物喰らい、お前は魔人を頼む!」


「え? 僕がですか?」


自分が指名された事で大物喰らいが驚きの声を上げる。

もっとも手ごわいであろうボスを新参の自分が相手をして良いのかと言いたげだ


「この中で最も強いのはお前だ! 俺達はお前の援護に徹する!」


 そうだ、素直に認めるのは癪だが、コイツは強い。

 俺が腕の一薙ぎでやられかけた様な巨大キメラを一撃で倒した。

 それどころかここまでの道中でもアイツが活躍しなかった場面は無かった。


 間違いなくコイツは強い。

 今までだって野には多くの猛者が隠れていた。

 その中でもコイツは別格中の別格だ。

 英雄という存在がいるとすれば、コイツの様なヤツの事を言うのだろう。

 コイツならば、魔人にだって勝てる筈だ!


「……分かりましたリソウさん! 僕に任せてください!」


 決意を決めた大物喰らいが魔人に向かって駆け出す。

 そうはさせるかとキメラ達が立ちはだかるが、大物喰らいはその攻撃を難なく避けて魔人の下へと突き進む。


 よし、これで少しは勝ちの目が見えてきたぞ。

 キメラに指揮を出す魔人を倒せば、キメラ達の指揮が乱れて隙を見せるだろう。

 あとはそれまで何とかキメラ達をしのげれば……


「ところで儂も一緒に戦うのか?」


 アンデッドがのんきな口調でこちらに問いかけて来る。


「どのみち魔人からは敵とみなされているんだ、だったら手を貸せ」


「ふむ……」


 アンデッドは顎に手をやると、わずかに考え込む仕草を見せる。


「敵の敵は味方という奴か? まぁ良いじゃろう。出来の悪いキメラを見せびらかして良い気になっておるのは見ていて気分が良くないからのう」


「ほざけアンデッド! 我がキメラに貪り喰われて今度こそ死ね! キメラ共、そこのアンデッドをかみ砕け!」


 これはありがたい。

キメラ達の標的がアンデッドに集中した。

さんざん自分をこき下ろしてくれた相手だものな。真っ先に倒したい事だろうさ。


「やれやれ、儂は荒事は苦手なんでな。野蛮な事はお前さん達に任せるよ。ハイエリアエンチャントブースト、ハイエリアプロテクション、ハイエリアマナブースト」


 アンデッドが連続して魔法を発動させると、俺達の体が三度強い光に包まれる。


「グォウ!!」


 と、そこに間髪入れずキメラが飛び込んで来た。


「くっ!」


 俺は黒牙でキメラの攻撃を受け流すべくその爪を受ける。

 その時だった。


「何!?」


 なんとキメラの爪を受けるどころか、その腕が俺の黒牙に沿って真っ二つに切れたじゃないか。


「うぉ、何だコレ!?」


 見れば晴嵐もその剣でキメラの足を真っ二つに切り裂いていた。

 一体何が起こったのかと俺はアンデッドに向き直る。

 なにかあるとすれば、さっき俺達を包み込んだ魔法の光だ。


「ほっほっほっ、お前達に補助魔法を掛けた。これでキメラ程度ならなんとでもなるじゃろうて」


「これが補助魔法だと!?」


 古代にはこれ程の魔法が存在していたのか!?


「グァオウ!!」


 再び襲ってきた別のキメラの攻撃を俺は合わせる事無く切り払う。

 アンデッドの言葉通り、俺の攻撃はキメラの体をバターの様に切断する。


「成程、確かにこれならいけるか」


「エアランサー‼」


 天魔導の魔法がキメラの胴体に風穴を開ける。


「魔法を強化する補助魔法だと!? 古代にはこんな魔法まで存在していたのか!?」


「ホッホッホッ、まぁこんなものじゃよ」


 天魔導が何に驚いているのかはよく分からんが、ともあれこれはありがたい援軍だ。

 ただまぁ、大物喰らいが魔人を倒した後にどうなるかが怖いがな。

 なんとか穏便に交渉出来れば良いのだが。


 ともあれ、今は目の前の敵に集中しなければ。

 頼むぞ大物喰らい。


 俺はキメラを倒しながら、駆け出した大物喰らいの背中を見送った。


 ◆


「たぁぁぁ!」


 行く手を遮るキメラ達を避けて切り捨て叩き伏せ、僕は魔人の下へと向かう。


 何故かリソウさんは僕に元凶である魔人を倒せと言った。

 でも何故だろう?

あの魔人がすべての元凶なら、皆で協力して戦うべきなのに。

 正直邪魔をするキメラ達も大した敵じゃない。

 警戒するべきは魔人だけだ。


 ……もしかして、これもSランク冒険者として相応しいかのテストだったりするのかな?

 この洞窟に来る前、王都からの移動中に襲ってきた魔物を相手にした時、リソウさん達は僕にSランクとして相応しい所を見せてくれって言った。だったらこの戦いも、ううん、この依頼もその為のテストなんじゃあ……

 でなければ新入りのSランクである僕に大事な役割は任せてくれる筈ないよね?


「ん? という事はもしかして中庭でキメラ相手に苦戦したのも演技だったのかな?」


 成る程そういう事だったのか!

 よくよく考えてみれば、最強の冒険者であるSランクの皆があんなキメラに苦戦する筈が無い。

 きっと皆はわざと実力を見せない様に戦っていたんだ。

 この依頼自体が最初から僕がSランクに相応しい冒険者かどうかのテストとして用意されたものなんだ!


 Sランクは最強の冒険者、だとすればSランクに昇格したからと言ってSランクに相応しいと認められるとは限らない。

 それだけSランクの冒険者って言うのは責任のある立場なんだね!


「これで納得がいったぞ! つまりリソウさん達は、魔人程度一人で倒してみろって言ってるんだ!」


 僕が前に出ると、魔人が後ろに下がり、キメラ達が壁になる様に立ちふさがる。

だけどこの程度のキメラは僕の敵じゃない。

僕は向かってきたキメラ達をまとめて切り捨てる。


「ヴォォウ!!」


キメラの群れを倒した僕の隙を突こうと、物陰からキメラが飛びだしてくる。


「ギュウウン!!」


 けれど僕の後ろから飛び出したモフモフがキメラに飛び掛かって迎撃する。


「ギャウン!!」


 憐れキメラは地面に叩きつけられ、モフモフのご飯となった。


「クッ、キメラ共が足止めにもならんだと!? 貴様一体何者だ!? あとその白いのは何だ!?」


「ただの冒険者だよ! そしてこっちはペットのモフモフだ!」


 僕は向かってくるキメラ達をモフモフに任せ魔人に飛び込む。

 しかしここで魔人がニヤリと笑みを浮かべる。


「キメラ達よ! 私の鎧となれ!」


 後ろに飛び退った魔人にキメラ達が飛びついて群がる。

 そして群がったキメラ達の体が変形して魔人の体を包み込み、服の様な鎧の様な姿となった。

 これは確か……


「な、なんだありゃ!?」


「おお、ありゃアームドキメラじゃな」


 ロディさんの驚く声に、アンデッドが説明する。


「おいアンデッド! アームドキメラとは何だ!? あんなキメラは聞いた事も無いぞ!」


 そしてロディさんが好奇心を隠せない声でアンデッドに問い詰める。


「アームドキメラとは自らが武具となって主を飛躍的に強化する生きた武器の事じゃ。色々と問題も多いが、アームドキメラによる圧倒的な強化はそれを補ってあまりある性能じゃ。このキメラ共に苦戦するお前達ではとても相手になるまい」


「そんなキメラが存在したのか!? だが何故現代ではそのキメラについての記述が残っていないのだ?」


 戦闘中なのにマイペースだなぁラミーズさん。


「こりゃまいったの。あの小僧も白き災厄の欠片を使ったキメラを倒した事からそれなりの実力をもっておるのじゃろうが、それはあくまであのキメラが動き出す前だったからじゃ。アームドキメラを装着した魔人が相手ではとても勝ち目はあるまい……こりゃ逃げた方が良いかの?」


「そんなにマズイ状況なのか!? くっ、大物喰らい! 一旦下がれ!」


 リソウさんから戻る様に指示が入るけど、それを遮る様に普通のキメラ達が僕の退路を塞ぐ。


「ふっ、白き災厄の欠片を用いたキメラを倒した貴様であろうと、全身にアームドキメラを纏ったこの私が相手では勝ち目は無いぞ! 仲間からの援護を受けられぬ位置まで突出した自分の迂闊さを呪うが良い!」


 どうやら魔人が下がったのは僕を誘い出す為だったみたいだ。

 それにしても魔人がアームドキメラを使うとは驚きだなぁ。


「死ね小僧っ!」


 魔人が右腕を突きだすと、腕に融合していたアームドキメラの口から大量の魔力弾が吐き出される。


「あのようにアームドキメラによる魔法攻撃はドラゴンのブレスと同じで呪文を必要とせんのじゃ。一種の無詠唱魔法じゃな」


「おお! 無詠唱魔法!」


「お前等そんなこと話している場合か!」


 後ろで聞こえるラミーズさん達のコントを聞き流しつつ、僕は魔人の放った魔力弾の雨を回避していく。


「無駄だ無駄だ! この魔力弾の雨を回避しきる事など不可能だ!」


 魔人の言うとおり、魔力弾の雨はどんどん密度を増していき避ける隙間もなくなっていく。


「しょうがないマナプロテクションブースト!」


 僕は身体強化魔法で魔力防御を強化して魔力弾の雨の中に飛び込む。 


「ふははははっ! 遂に諦め……」


「ああ、ありゃいかん、早く逃げんと……」


「「って、なにぃ⁉」」


 魔力弾の雨の中、身を守る事すらせずに駆け抜けてくる僕に魔人とアンデッドが驚きの声を上げる。


「バ、バケモノか貴様!?」


「バケモンかあの小僧!?」


「失敬な。普通の冒険者だよ」


「「どこが普通だぁぁぁ!」」


「「「「うん、わかる」」」」


 なにか後ろから同意の声が聞こえた様な気が……まぁいいや。


「くっ! だが私の速さについてこれるかな!」


 魔人が脚に融合したアームドキメラによって強化された脚力で広い施設の壁を跳躍してかく乱しようとする。


「な、なんてスピードとジャンプ力だ!?」


「これがアームドキメラの力なの!?」


 その瞬間、施設内が暗闇に包まれた。


「照明を消しおったか。今度こそダメじゃな」


 視界が闇に包まれる中、魔人の声が響く。

 

「死ねぇぇぇ! 小僧ぉぉぉぉぉ!!」


 僕は最小限の範囲で魔人の右腕から伸びたアームドキメラの刃を回避し、半歩足を踏み出して剣を突き出した。

 腕にズブリと鈍い手ごたえを感じる。


「ゴフッ!?」


 暗闇の中、魔人の声が聞こえる。


「灯りよ、灯れ」


 アンデッドが声を上げると、再び施設に光が灯った。

 そして目の前には、僕が突き出した剣が深々と突き刺さった魔人の姿があった。


「バ、バカな……、何故暗闇の中で私の攻撃を避ける事が出来た……? それどころか……反撃してアームドキメラの鎧に身を守られた私の体を貫くだと……!?」


 魔人が信じられないといった目で僕を見つめて来る。


「答は探査魔法さ」


「探査……魔法だと!?」


「そう、僕は施設が暗闇に包まれた瞬間に探査魔法を発動させてお前が来る方向を、そしてお前が腕のアームドキメラから刃を生やしたのを感知したんだ。後はその反応を回避しただけさ」


 魔人が驚愕に目を見開く。


「馬鹿な……あの一瞬で即座に探査魔法に切り替え、アームドキメラの形状の変化まで察知したと言うのか!?」


「更に言うと、アームドキメラは使用者の魔力をバカ喰いするんだ。だから運用する時には核石……いや魔石を大量に与えるなりして外部から魔力を吸収しないと装着者はすぐに魔力切れになるんだよ。お前は自分でも気づかないうちに魔力を使い過ぎて動きが遅くなっていたんだ」


 そう、それがアームドキメラがメジャーな兵器にならなかった理由だ。

 それに生き物だからね。メンテナンスも大変だからそういう意味でもコストが掛かった。

 それならメンテが楽なマジックアイテムの方が需要があるってものさ。


 幾ら魔人が人間以上の高い魔力を持っていたとしても、全身にアームドキメラを装着しては魔力の消耗は半端じゃない。

 もしこの魔人がアンデッドから奪ったキメラ研究を真剣に研究していたら。せめて書類だけでも読み込んでいたら、その事に気付いてちゃんと対策出来ていただろうに。


「あとは勝利を確信したお前の隙を突いてカウンターを合わせただけさ」


 そう、ただそれだけのシンプルな反撃だった。


「クク……、まるで容易い事の様に言ってくれる……ゴプッ」


 魔人が口から血を吐いて崩れ落ちる。


「うっわ、なんじゃあの小僧。やっぱりバケモンじゃないのか!? 生身でアームドキメラに身を包んだ魔人を倒してしまったぞい」


「おいおい、デタラメな補助魔法を使ったアンタが言うのかよ」


「メッチャ言うわい。あんなん普通の人間には無理じゃい。どんだけ戦い慣れとったら即座に探査魔法に切り替えて暗闇の中で躊躇無くカウンターなんか撃てるんじゃ。儂じゃったら暗くなった時点で速攻死んどるわい」


「アンデッドなのに死ぬのか……」


 なんか後ろで好き勝手言われてるなぁ。


「ともあれ、これで終わりですね。リソウさん、魔物の大量出現の原因である魔人の討伐が完了しました。確認をお願いします」

 

「あ、ああ……よくやってくれた」


 振り返ればリソウさん達も無事キメラの討伐を終えていたみたいだ。

 怪我もほとんどないし、やっぱり中庭のキメラの件は僕の実力を測る為の演技だったみたいだね。

 さすがSランク冒険者の先輩達だ、全然気づけなかったよ。

(:3 」∠)アンデッド「ちょっ、あの小僧ヤバ過ぎじゃね?」

(:3 」∠)レクス「さす先」

(:3 」∠)Sランク冒険者「やめて! 過剰な期待をしないでー!」



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