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第77話 遺跡とキメラ

_:(´д`」∠):_「76話ですが、どうにもしっくりこなかったので、途中の冒険者視点のシーンを主人公視点に修正してあります。あと後半もちょろっと弄りましたがどちらも大筋は変わっていません」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

「では、行ってくる!」


 リソウさんの宣言に第二キャンプの皆が歓声を上げる。


「土産期待してますよ!」


「独り占めすんなよー!」


 アントラプターとの戦いの後始末を終えた僕達は、十分な休息をとってから遺跡探索に乗り出す事にした。

 出陣するのは僕達Sランク冒険者と、遺跡の入り口までの護衛としてのAランク冒険者さん達が数名。

 その中にはリリエラさんも含まれていた。


「遺跡の入り口までは私達がレクスさんを守るから」


 リリエラさんが気合を入れて槍の石突きを地面に叩きつける。


「よろしくお願いします、リリエラさん」


 これは僕達Sランク冒険者は遺跡内部の探索がメインだから、そこまでに無駄な力を使わない様にとの配慮だった。

 そして残った人達は第二キャンプの護衛や、倒したアントラプターの解体、それにキャンプの更なる防衛力強化などに奔走していた。

 直接遺跡探索に関わらない人達にもやるべき事は沢山あるらしい。


 ◆


「はぁ!」


「せりゃあ!」


 護衛の冒険者さん達が道中の魔物達を討伐していく。


「セイッ!」


 リリエラさんも素早い槍の連続突きで魔物達を撃退していく。


「流石少年のパートナーだな。俺の仲間に勝るとも劣らない槍の冴えだ」


 と、ロディさんがにこやかにリリエラさんを賞賛する。


「ありがとうございます。そう言って貰えるとリリエラさんも喜ぶと思いますよ」


「ふっ、だが俺のパートナー達も負けていないぞ。まぁ今回はキャンプの護衛に回ってしまったがな」


ロディさんのパーティメンバーの人達は、治療やキャンプの補強の為に奔走している為、今回の護衛には参加できなかったみたいだ。


「やれやれ、折角ランクの高い魔物を討伐したと言うのに、回収出来ないのはもったいないな」


「仕方ないだろう。俺達の仕事はSランクチームの護衛だ。素材を回収したけりゃ帰りにするんだな」


「それまで他の魔物に喰われないと良いけどな」


 護衛の冒険者さん達が倒した魔物を回収出来なくて残念がっている。

 魔物の解体には時間が掛るからね。

 だから今回は護衛任務を優先する為に倒した魔物素材の回収は後回しと言われたんだって。

 ちなみにリリエラさんはちゃっかり自分が倒した魔物だけ、自分用の魔法の袋に収納していた。

 皆の魔物を回収しなかったのが気になるけど、そこには何かリリエラさんなりの理由があるのかもしれない。


 ◆


 その後も何体もの魔物に襲われながら洞窟の中を進んでゆく。

 そして探索を開始してから30分程経過した頃、ようやくお目当ての遺跡へとたどり着いた。


「本当に地下に遺跡がある……」


 遺跡は白い外壁に覆われていて、ところどころに装飾が見られる。

 そのデザインに見覚えがある事から、恐らくは前世か前々世の僕が生きていた時代に近い年代の遺跡なんだろう。


でもなんでわざわざ地下に作ったのかな?


「では我々は遺跡調査に向かう。諸君らは気を付けて帰ってくれ」


「ええ、皆さんもお気をつけて」


「帰り道で魔物の素材回収に夢中になり過ぎて襲われるなよ」


「分かってますって」


 リソウさんと護衛の冒険者さん達が軽い冗談を交えて別れの言葉を交わす。


「レクスさんも気を付けてね」


 リリエラさんが心配そうな顔で見送りの言葉をかけて来る。


「まぁ、レクスさんの実力なら余計なお世話かもしれないけど」


「そんなことないですよ。でも心配して貰えるのはとても嬉しいです」


 だって前世や前々世じゃ、賢者や英雄としての力が失われる事を心配する人はいても、僕個人を心配してくれる人は居なかったからね。

 それだけでもとても嬉しいよ。


「おーい、帰るぞー!」


 護衛の冒険者さんがリリエラさんを呼ぶ。


「じゃあ私は戻るわね」


「リリエラさんもお気をつけて」


「ええ」


 そうして、リリエラさん達が帰路につく。


「それじゃあ我々も働くとしますか!」


気分を切り替える様に、ロディさんが声を張り上げる。 


「うるさいぞ晴嵐、これから未知の遺跡を探索するのだから静かにしないか。中には何が居るのかわからんのだ」


「こりゃ失礼」


 大きな声をあげたロディさんをリソウさんが叱るけど、当のロディさんはあまり反省していないみたいだ。


「探査魔法では入り口周辺に多数の魔物の反応を感じる。Aランク平均の魔物がこれだけとは、これは最初から骨だぞ」


 と、ラミーズさんが探査魔法で得た情報を告げると、リソウさんがニヤリと笑みを浮かべる。


「仕方あるまい。強引に侵入させてもらうとしよう」


 つまり力づくって訳ですね。


  ◆


「お邪魔しまーす!」


 などと言いながら俺こと双大牙のリソウは両手に得物を携えて遺跡内に飛び込む。

 

視界内の魔物達がこちらに気づいて振り向いたが、奴等は突然悲鳴を上げてもだえ苦しんだ。

 その理由は天魔導が自分の後ろに浮かぶように放った強力な灯りの魔法のせいだ。

 暗い場所を縄張りとし、わずかな光に頼って暮す魔物が突然強い光を浴びればどうなるか?

 答えはこんな風に光で目を焼かれて一時的に視力を失う、だ。


「よし突っ切るぞ! 晴嵐は殿! 大物喰らいと天魔導は援護だ!」


 俺は二本の大剣を猪の角の様に前に構えて突撃する。

 直線上の魔物達は何が起こっているのかも分からず俺の相棒「双大牙」の突撃を受けて吹き飛ぶ。

 何体かはそのまま死に、何体かは生き残る。

 だが止めは刺さない。


 魔物の数が多い為、全ての相手をするのはさすがに無理だ。

 Sランクの冒険者だからといって、デタラメに強い訳じゃあない。

 戦う相手と戦わない相手を即座に見極めて動くのが長生きのコツだ。


 俺の突進を回避した魔物達の何体かが即座に反撃してくる。

 敵ながら良い反応だ。

 俺が通り抜ける横から腕に向かって噛みついてくるが、そんな攻撃じゃあ俺の守りを貫くのは無理だ。


「返すぞ!」


 俺は黒牙を振るって魔物を一刀の下に切り捨てると、再び剣を構えて突進を再開した。

 自分のダメージは気にしない。

 いざとなれば聖女が居るからな。

 俺の役目は突撃して道を切り開く事だ。


「む?」


 見れば前方を十数体もの魔物達が道を塞いでいる。

 さすがにアレを突っ切るのは難しいか。


「スパイラルレイン!」


 すると背後から天魔導の声が響き、幾十もの水のつぶてが高速で回転しながら魔物達を貫いてゆく。


「いい仕事だ!」


 少々気難しい奴だが、仕事は出来る男だ。

 天魔導の魔法で魔物達の壁が崩れたのを好機とみた俺は、二本の大剣を大振りで振り回しながら魔物達の群れに飛び込む。


 反撃を気にしない突撃に魔物が更に下がる。


「せいっ!」


 すると横から大物喰らいが傷の浅い魔物を切り捨てて援護してくる。

 その細い剣で魔物を一刀に切り捨てるのだから、なかなかの業物だ。

 さすがに俺だけだと聖女と天魔導が突破する際に攻撃を受けそうだったので助かる。


そして魔物の壁を突破した先に一枚の扉が見えた。


「聖女! あの扉を抜けたら魔物避けの結界を張れ!」


「任せて頂戴」


 そしてゴールにたどり着いた俺は即座に扉を開けて剣を振り下ろしながら中に転がり込む。

 我ながら乱暴な待ち伏せ対策だ。

 しかしどうやら待ち伏せは無かったみたいだ。

 それどころかここは室内じゃあなかった。

 先ほどまで見えていた天井がそこにはなく、暗い闇が広がっている。 

そして足元には土が見える。


「建物を抜けて洞窟の反対側に出ちまったか!?」

 

「主よ! 聖なるご加護を! フィールドウォール!」


 続いて入って来た聖女が魔物避けの結界を張る。


「よし入れ!」


 後ろから付いてきた連中が全員結界内に転がり込んだのを確認すると、俺は急ぎドアを閉める。

 そして追って来る魔物達の視界が一旦遮られたのを確認したら、急いで結界に入った。


「晴嵐、大物喰らいは周辺の警戒! 天魔導は探査魔法で部屋の追手の反応を探れ!」

 

 もし扉をぶち破って入ってきたとしても、結界内に入った俺達を見つけることは出来ない。

 あとは魔物達が俺達を探すのを諦めるまで結界内でじっとしていれば良いって寸法だ。


 だが不思議と、魔物達が扉を壊す気配はなかった。

 それどころか扉を叩く音もしない。

 不審に思っていると、天魔導が首をかしげる。


「どうした?」


「おかしい、魔物達が急に引き返していった」


 どういう事だ?

 自分達の縄張りは建物の中だけだって事か?

 まぁそれならそれで助かるんだがな。


 ◆


 ひとまずの安全を確認した俺達は、すぐに周囲を見回す。

 俺が入って来た時は灯りが入り口付近にしか届いていなかったが、今は天魔導が居るので灯りの魔法が周囲をまんべんなく照らしている。


「ここは、中庭……か?」


 疑問形なのは、そこには草木一つ生えていなかったからだ。

 ただ地面には石畳が敷き詰められた道や、おそらくは植え込みがあったであろう石飾りがある。

 きっとこの遺跡が遺跡でなかった時代には、ここには多くの古代人が居たのだろう。

 最も、今は荒れ果ててその名残があるばかりだが。


「ともあれ、一旦ここで休憩するとするか」


 無理な突撃で怪我をしたヤツも居るだろうからな、一旦態勢を整えるとするか。


 ◆


「そういえば、リソウさんのその武器もマジックアイテムですよね」


 結界内で治療がてら休息をとっていたら、大物喰らいがそんな事を言ってきた。


「ほう、気付いていたか」


「さっき、魔物に噛みつかれたのにリソウさんは傷を負いませんでした。その代わりに黒い剣の背に付いていた牙が一本砕けたのを見ました」


 意外に見ているな。


「その通りだ。この剣は双大牙、二本一組のマジックアイテムだ」


 俺は探索を一旦止めて二本の大剣のうち黒い方をかざす。


「この黒いのが黒牙、受けた攻撃を背から生えた10本の牙が肩代わりしてくれる。一回の攻撃を受けるごとに牙は砕け、一度砕けたら一本再生するのに一日かかる。また強すぎる攻撃を受けると複数の牙が同時に折れる」


 そして次に白い大剣をかざす。


「こっちの白いのが白牙、攻撃をする際に相手から今まで受けた攻撃を上乗せして相手に返す。上手く使えば無傷で大打撃を与える事の出来る俺の切り札だ」


そう、これこそ俺がSランク冒険者として今まで生き残る事が出来た最大の秘密だ。

 道具の力に頼るのはズルいと思う奴もいるだろうが、これは俺がダンジョンの下層で見つけたアイテムだ。

つまり俺に実力があったからこそ手に入れる事が出来たアイテムって訳だ。

つまらん言いがかりをつけて来た連中もそう言い返せば大抵黙った。


「……そこまで教えて良かったんですか?」


 まさかそこまで教えて貰えるとは思わなかったのか、大物喰らいが驚いた顔を見せる。

 ははは、この顔が見たいから教えるんだよ。


「構わん、なにせこの双大牙は見た目通りの大剣だ。それを二本同時にあつかえる人間なんぞそうは居ない。一本ずつではその剣の真価を発揮できないしな」


 そう、俺が双大牙の能力を惜しげもなく教える理由は、大剣を二本同時に扱える大剣使いなんてめったに居ないからだ。 

 使いどころのないマジックアイテムでは、性能が高くても値段が高くなるばかりで買い手が見つけづらい。

精々が貴族の屋敷の壁に飾られるくらいだ。


「それに、同じパーティで戦う以上は仲間の力を知っておくに越した事はないだろう?」


「確かにそうですね」


 大物喰らいが成程と何度もうなずいている。


「まぁだからと言って自分の切り札を教える必要まで無いぞ。昨日の仲間が今日の敵になる事もある業界だからな。俺の場合、コレは教えても良い切り札だったって事だ」


 さすがに若手に手の内を晒せと言うのは酷だしな。


「さて、それじゃあ回復も済んだし、そろそろ行くとするか。あまり遅いとキャンプの連中が心配するからな」


 ◆


「こ、これは!?」


 探索を再開した俺達は、中庭内に他のルートから遺跡の中へと戻る扉が無いか探すことにした。

別の入り口からなら魔物と遭遇する可能性も減るだろうからな。

だがその途中で俺達は異常な光景に出くわした。


 それは、山だった。

 ただしその山は土や岩で出来た山じゃあない。

 ゴーレムで出来た山だった。


「これは……積み重なったゴーレムの残骸か?」


 天魔導の言葉どおり、山となっていたゴーレム達はそのすべてが壊れていた。


「まるでゴーレムの墓場だな」


 晴嵐が冗談めかして言うが、あながち冗談にも聞こえない。

 この光景はまさに墓場のようだった。 

 まるでこの遺跡中のゴーレムがここに集まって死んだかの様な光景だ。

 いっそゴーレムの体そのものが墓標にすら見える。


「一体ここで何があったんだ……」


 俺達はこの異様な光景に魅入られてしまっていた。


 「このゴーレム達の損傷、剣や魔法の傷じゃないですね」


 と、そんな異様な空気の中、ポツリと大物喰らいが呟く。


「何?」


「見てください、これ噛み傷とひっかき傷です。まるで何か大きな生き物に攻撃されたみたいな傷ですよ」


 そういって大物喰らいが指さしたゴーレムには、俺の腕がそのまま入りそうな丸い穴と、人間と同じ大きさのゴーレムの胴体を引き裂いたであろう大きな爪の跡が刻まれていた。

 というか、これが爪で付けられた傷跡なら、その傷を与えた主はどれ程の大きさなんだ!?

 

「なによりこの傷ですが……」


 大物喰らいが一拍の間を置いて、更なる衝撃の事実を伝えてくる。


「比較的新しいです」


「……何?」


新しい? それはつまり……


「ゴーレムの状態を考えるに、つい最近つけられた傷ですね」


「な、なんだと!?」


 その時だった。


 ォオォォォォオオオォォォォオォン!!


「「「「「っ!?」」」」」


 遺跡中に響くほどのうめき声が響く。

 それは雄叫びのようにも聞こえたが、まともな生物のあげる鳴き声とは到底思えなかった。


「何か来るぞ! 探査魔法はどうした!?」


「無かった! 今までこんな巨大な反応は何処にも無かったぞ!?」


 天魔導が悲鳴の様な声をあげる。

 この男がここまで取り乱す何かがすぐそばに居るというのか!?


「来ますっ!」


 大物喰らいの声で我に返った俺は両手の獲物を構える。

 先ほどの戦闘で幾つか牙が折れているが、まだまだ残っている。

 相手がドラゴンだったとしても、逃げるだけの時間は稼げるさ。


 振動がこちらに近づいてくる。

 向こうは完全にこちらを把握しているようだ。

 暗闇の向こうから不気味な威圧感が迫ってくる。


 そして見た。

 その冒涜的な姿を。


「ひっ!?」


 ソレのあまりの醜悪さに、聖女が悲鳴を上げる。

 

ソレは巨大なトカゲの胴体を持っていた。

 その前足は獣の足で、後ろ足は鳥の足だった。

 尻尾は先端に目の無い蛇が生えており、時折真っ赤な三日月の様な口内が垣間見えた。

 背中からは鱗の生えた腕が木の枝の様に幾重にも伸びている。


そして頭部は極めつけに異常だった。

一見して愛らしい猫の様な顔。

ただし両目はヤツメウナギのように牙が生えており、両耳にはギョロリとした目玉。

 口からはさまざまな獣の足が生えていて、それが不気味に蠢いている。

 まるで神が取り付ける部品を間違えて生み出したかのような、生理的嫌悪を催す化け物だった。

 

 クルォエゥアォォォアゥァァァ……


 当然そんな口ではまともな鳴き声をあげる事など不可能。

ソレは吐き気を催すうめき声をあげていた。


「何だアレは……」


 明らかに普通の生き物じゃあない。

 邪神が生み出したといわれる醜悪な魔獣だってもう少しまともな形をしていた。

 それほどに、目の前の存在はメチャクチャな形をしていたのだ。


「……キメラですね」


 そんな中、大物喰らいが小さく呟いた。


「キメラ? アレがか!?」


 キメラ、それは複数の生物を合成して作られた古代文明の生物の名だ。

 神が生み出した生命を侮辱する存在として聖女の所属する教会からは、アンデッドなどとは別の意味で忌み嫌われている。


「ええ、アレはまっとうな生き物の造形じゃあありません。明らかに何者かが悪意を持って生み出したキメラです」


 大物喰らいが断言する。

 むしろその断言に安心するくらいだ。

 あんな異常な存在が自然に存在していて良いはずが無い。

 それくらいアレは異常な存在だった。


 ウロロロスィィィアエェアッ


 キメラが雄叫びとも思えぬ奇怪な雄叫びを上げ立ち上がると前足を振りかぶる。


「全員散れ!!」


 俺の声に反応してとっさに三人が動く。

 だが一人だけ聖女が逃げ遅れた。


「ちっ!」


 俺は聖女を突き飛ばすと、黒牙でキメラの爪を受ける。

 黒牙の力ならキメラの攻撃がどれだけ強くとも数発は耐える事が出来る!


 俺の黒牙に匹敵するキメラの爪が黒牙にぶつかる。

 俺は後ろに飛びながら爪の衝撃を可能な限り殺し、そこで受けた攻撃を白牙で返そうとした。


「避けろっ!」


 晴嵐の切迫した声に俺は攻撃を止めて更に後ろに跳ぶ。

 直後、体が真横に吹き飛ばされた。


 感触から直撃ではない事は感じられた。

 だがそれでも体が引き裂かれそうな痛みを受ける。

 吹き飛ばされた体が地面にぶつかりバウンドする。


 そのままどこまでも飛ばされるかと思ったが、幸か不幸か先ほどのゴーレムの残骸の山にぶつかる事で、止まる事が出来た。

 ただ落ちてきたゴーレムの残骸が痛い。


「すみません、回復します!」


 聖女がすぐに回復魔法をかけてくる。

 痛みで体が動かない、どうやらかなり重傷みたいだ。

 目を動かして手の中の黒牙を見る。

 落とさなかった自分を褒めてやりたい。


「なっ!?」


 なんという事か、黒牙の背の牙が全て折れている。

 つまり先ほどの攻撃で黒牙の守りが全て持っていかれたという事だ。


 おいおい、この牙一つでBランクの魔物の攻撃を防ぐんだぞ!?

 ってことはあいつの一撃はBランクの魔物数体分、おそらくAランクの魔物以上って事か?


 しかもそれだけのダメージを黒牙に受けてもらったにも関わらずこの傷か。

 聖女がいなければ死んでいたな。


 今は晴嵐と大物喰らいが牽制をして天魔導が魔法で攻撃している。

 だが天魔導の強力な魔法を受ける端からキメラの肉体が再生されてゆく。


「何だこの再生能力は!?」


「多分胴体にヒュドラかなにか再生能力の高い魔物を使っているんだと思います。で、それが原因で肉体が異常成長してこんな化け物になったんじゃないでしょうか?」


「大物喰らい、お前キメラの知識もイケるのか!?」


 天魔導が戦闘中だというにも関わらず嬉しそうな顔をする。

 まったく、あいつの知識バカは場所を選ばんから困る。


「ヒュドラを退治するなら、傷口を焼くのが基本だ。晴嵐、大物喰らい、私が焼くからお前達は兎に角攻撃の手を緩めるな!」


「分かった!」


「分かりました!」


 天魔導が牽制の魔法を放ち、晴嵐と大物喰らいがキメラに向かっていく。

 いかん、ヤツの攻撃に一度でも当たれば命は無いぞ。


「待、ぐぅっ!」


 俺は二人に攻撃に注意するように声を上げようとしたが、痛みでろくな声が出なかった。


「今は安静にしていてください。かなりの深手なんですから!」


 動こうとした俺を聖女が叱る。

 クソッ、パーティの壁になって状況を切り開くのが俺の仕事だというのに情けない。

 それに二人は既にキメラへと肉薄していた。

こうなってはもうアイツ等の無事を祈るしかなかった。


「はっ!」


 晴嵐がキメラの太い前足を切りつけるも、分厚い毛皮を数本切っただけで有効打にはならなかった。


「なんだコイツの毛皮! まるで鉄だぞ!?」


 キメラの毛皮は予想以上の硬さだったらしく、晴嵐が悲鳴をあげる。


 オロウアクァァェオアオアオア!!


 怒りの声を上げたキメラの前足が二人をなぎ払うも、二人はそれを難なく回避する。

 しかし同時に背中の枝状に伸びた腕が二人を襲う。

 

 俺を襲った攻撃の正体はアレか!

 背中から枝の様に伸びた複数の腕による同時攻撃、それが黒牙を一撃で使用不能にした攻撃の正体だった。


「避けっ……」


 駄目だ、まだ声が出ない。


「ソニックランサー!!」


 天魔導の魔法で晴嵐を襲った腕の幾つかが吹き飛ばされ、晴嵐は何とか回避に成功する。

 だが大物喰らいは晴嵐とは反対方向に避けた為に天魔導の援護を受けられなかった。

 これでは大物喰らいまで同時連続攻撃を喰らう!

 しかもアイツは俺と違って黒牙が無い。

 回避不能のこの攻撃を受ければ即死は確実だった。


「フィジカルブースト!!」


 その時、大物喰らいの体がブレた。


「っ!?」


 そして信じられない事に、大物喰らいの腕がまったく同時にあらゆる方向に伸びて、キメラの枝腕を全て切り裂いたではないか!?


「なっ!?」


 何が起こった、それ以外の言葉が出ない。


「ラミーズさん! 焼いてください!」


「っ!? フ、フレイムブラスト!!」


 大物喰らいの言葉に我に返った天魔導が魔法を放ち、キメラの枝腕の片方が焼かれる。


 キュロロラクァァォア!!


 金属のきしむような気持ちの悪い悲鳴をあげてキメラが苦しむ。


「いまだ!」


 再び飛び込む大物喰らい。


「メルティングソード!!」


大物喰らいの細い剣が青白く揺らめく光に包まれると、キメラの足を凪ぐように切る。

 無理だ、あんな細い剣の攻撃では前足を守る鋼の毛皮に有効打を与える事は……


 と、そう思った俺だったが、大物喰らいの剣はまるでチーズでも切るかのようにキメラの左前足を切断すると、そのまま後ろ足まで切り裂いてしまう。

左側の二本の足を切断され、キメラがバランスを崩して倒れる。


「なっ!?」


 晴嵐でも駄目だったキメラの足を一撃で切り落とした!?

 ヤツの剣もかなりの業物なんだぞ!?

 一体どんな得物を使えばあんな切り方が出来る!?

 さっきの腕が複数現れる不思議な攻撃といい、いまの攻撃といい、これは剣技なのか!? それとも魔法なのか!?


 そんな事を考えた俺だったが、キメラの脚の切断面を見てそれどころではない事を思い出す。

 このままではせっかく切断した足が再生してしまう。

 早く傷口を焼け天魔導!

 そう焦った俺だったが、キメラの脚はまったく再生する気配がない事を訝しむ。


「どういう事だ!?」


 そして俺は気付く。

 キメラの足の切断面が焼け焦げている事に。

 そして、大物喰らいの剣が青白く揺らめきながら輝いている事に。

 あの輝きはエンチャント系の魔法に違いない。

 あの魔法の効果で、キメラの傷口を切断すると同時に焼いたのだろう。

 こうして離れた場所から見ていなければ、気付かなかったところだ。


「なんて実力だ」


 普通魔法剣士というのは実力が中途半端なもんだ。

 剣技を優先すれば魔法がおざなりに、逆にすれば剣が未熟に。


だが大物喰らいの技術はどちらも一流、いや超一流だった。

 キメラが残った枝腕を駆使して全周囲から複数攻撃をするが、それらを軽々と回避していく。

こうして距離を置いて戦場を見ているからこそ分かるが、あいつの動きには体のブレがなかった。

 人間バランスを崩せば動きが不自然になる。

 今の様な同時攻撃なら尚更だ。

 だが大物喰らいはバランスを崩した時でさえ動きが危うくなることは無かった。

 おそらく横で一緒に戦っていたらその異常性に気付かなかっただろう。


「もういっちょ!」


 そして大物喰らいが次々にキメラの体を焼き斬っていく。

 晴嵐と天魔導が援護するが、はたから見ても分かるとおり、無用な援護といえた。

 そしてそれから間もなく、キメラの体は綺麗に分割されたのだった。


「ふぅ……あっ、大丈夫でしたかリソウさーん?」


 キメラを倒した事で緊張を解いた大物喰らいがこちらに手を振ってくる。

 その姿は無邪気な新人のソレだ。


「やれやれ、俺もまだまだ未熟か……」


 最近は敵の攻撃が当たっても黒牙に守ってもらえると油断していた。

 その結果がこのざまだ。

 俺は自分が無自覚のうちにマジックアイテムに頼りすぎていたのだと実感させられた。


「とはいえ……修行してあの動きを会得できる気がせんなぁ」


 手が何本も生えてるみたいに見える動きとか普通無理だろ。

(:3 」∠)キメラ「ワイ結構活躍したやんな?」

(:3 」∠)リソウ「あれ? 俺の活躍って武器自慢だけじゃね? ちゃうんよ、ちゃんとダンジョンの下層に潜って帰ってこれる実力あるんよ!」

(:3 」∠)ラミーズ/フォカ「ニヤリ(地味に仕事している)」


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