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第76話 導く者、湧き出るモノ

9/4修正

_:(´д`」∠):_「どうにもしっくりこなかったので、途中の冒険者視点のシーンを主人公視点に修正しました。あと後半をちょろっと弄りましたがこちらは大筋は変わっていません」


_:(´д`」∠):_「投稿が遅れてごめんよぉぉぉぉぉ! そしてまた文字数」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

「よし、行くぞ!」


到着早々襲撃されたキャンプの治安が安定した事で、僕達はようやく鉱山へ入る事にした。


「当初の予定通り、Aランクの冒険者チームが先行して鉱山内の魔物を討伐して安全を確保している。俺達は鉱山の奥から繋がっている洞窟に入り、遺跡付近にある比較的大きな空洞に第二キャンプを設立する。キャンプ設置班は戦闘に参加せずに魔力と体力を温存しておけ」


 ここからは外以上に危険な為、ギルドの職員さん達からリソウさんがリーダーとして皆を指示する事になっている。


「「了解!!」」


 僕達が鉱山の中に入ると、途中に見える枝道の入り口に複数の冒険者さん達の姿が見えた。

彼らは万が一にも討伐洩れした魔物が僕達を襲わない様に護衛するのが役割との事。

正直護衛される立場っていうのはむず痒いね。


「それにしても、意外に明るいなぁ」


 鉱山内の壁はところどころに灯りの魔法やランタンが付けられているので、薄暗いものの進むのに不自由はない。

 灯りは多めに用意されていて、多分だけど魔物が隠れる場所をなくす為なのかもしれないね。


 時折剣戟の音や魔法の炸裂する音が聞こえるのは、先行した冒険者さん達が鉱山内に生息する魔物達と戦っているからだろう。


 先行した冒険者さん達が道を確保してくれていたからか、僕達は魔物に遭遇する事無く鉱山の奥へと進んで行った。


 そしてしばらく進むと、鉱山の様子が変わってくる。

 少しずつ道が歪になってきたと感じるのは、おそらく遺跡に繋がる洞窟と坑道が繋がったあたりだからだろう。


「そろそろ洞窟内部に入るぞ。洞窟内は枝道が多く、過去の調査でもその全容は不明だ。はぐれない様に気を付けろよ」


「「「了解!」」」


 リソウさんから注意を受けて、皆が気を引き締める。

 ここからが本番だね!


 ◆


 洞窟に入ると、先行していた冒険者さん達が用意してくれていた灯りが無くなり、僕達は装備していた武器や盾に灯りの魔法を付ける。


 松明を使わないのは、急な落盤に遭遇した際に空気が無くなるのを防ぐ為と、松明で手が塞がるのを防ぐ為だね。

 ここから先はどんな危険な魔物がいるかわからない。

 戦闘の妨げになるものを持つ余裕は誰にもない。


「だいぶ空気が冷たいな。もしかしたら近くに水脈があるかもしれない」


 先行する盗賊さんの一人がそんな事を口にする。


「分かるのか?」


「ああ、鉱山内よりも肌寒さを感じる。何か冷気を発するものが近くにある証拠だ。以前にも大きな洞窟を探索した際に似たような経験をしたことがあってな、その時に大きな水脈に出くわしたんだ。間違って地下水脈に落ちない様に気を付けろ。流れが速い水脈に落ちたら寒さと暗さと狭さで、まず助からないぞ」


 さすが歴戦の冒険者、洞窟内の温度だけでそこまで分かるんだ。

 まさに経験こそが最大の武器ってヤツだね。


「よし、灯りを増やして周囲を警戒。穴や絶壁に注意しろ」


「「「おうっ!」」」


 魔法使いさん達が浮遊する灯りの魔法を唱え、周囲を照らす。

そして警戒をしながらしばらく進んで行くと、頬を冷たい風が撫でた。


「見ろ、こっちは断崖になっている。魔法の灯りが届かないから深いぞ。それに耳を澄ますとゴウゴウと音が聞こえる。おそらくこの下に地下水脈が走っている」


 盗賊さんが言っていた通り、洞窟の底には本当に地下水脈が走っていたみたいだ。


「あまり近づくな、崩れて落ちる危険があるからな」


「分かった」


 僕達は少し隊列を細くすると、再び移動を再開する。


「それにしても魔物が出ませんね」


「そうだな、キャンプ地を襲った魔物の多さを考えると、不自然な程出てこないな」


「キャンプを襲った魔物達が洞窟内に居た魔物の大半だったんじゃないのか?」


 と、他の冒険者さん達が楽観的な意見を口にする。


「その可能性は否定できん。だが鉱山内にヘルバジリスクの様な危険な魔物が居た以上、洞窟の奥にも同レベルの危険な魔物が居るのは間違いないだろう。第二キャンプを完成させるまで気を抜くなよ」


「分かってますよ」


 軽口を言いながら、皆油断なく周囲を見回していて、僕も探査魔法で魔物の反応を探っている。

洞窟内に魔物の反応を感じるけれど、幸いその反応は僕達の居る位置よりも低い位置にある。

恐らくこの洞窟は横だけでなく下にも伸びているんだろう。

これならすぐに襲われる心配はなさそうだね。


 そして洞窟が少しずつ広がっていき、やがて開けた空間へとたどり着いた。


「ここが資料にあった場所だな。よし、この辺りにキャンプを立てるぞ」


 リソウさんの号令を受けて、魔法使いさん達が魔法で壁を立て始める。


「居住性よりも強度を重視しろ! 壁はできうる限り厚くするんだ!」


「「「了解!」」」


 キャンプを守る為の壁作りが始まり、次々に周囲が壁に覆われ始める。


「とりあえず壁が完成すれば一安心だな」


「ああ、そうだな」


 瞬く間に壁が完成していく光景に、先輩冒険者さん達が安堵の溜息を吐く。


「こらこら、まだ完成してないんだから気を抜くなよ? こういう時が一番危険なんだからな」


 と、Sランクの先輩であるロディさんが弛緩した空気を引き締める。


「す、すみません」


 さすがSランクの言葉は説得力があるらしく、先輩冒険者さん達が慌てて姿勢を正す。

 そしてロディさんの警告が正しかったと言わんばかりに、探査魔法が魔物の存在を伝えて来る。


「魔物の反応です! 僕達が来た方向の地下から登ってきます!」


「地下だって!?」


「おそらくはさっきの断崖を上って来たんだと思います! 数もかなり多いです!」


 しまったな、空間が繋がっているんだからそこを通ってやって来る可能性を考慮するべきだった。


「総員戦闘準備! 設営部隊は壁の設置を最優先にしろ! 皆、壁が出来ていないスキマを抜けられない様に注意しろ!」


「「「おうっ!」」」


 指示を受けて冒険者さん達が隊列を組み始める。

 厳しい訓練を受けた騎士団程ではないけれど、事前に隊列や戦術の指導があったので、皆瞬く間に戦闘準備を完了した。


「そうだ少年、良い機会だからどちらが多く魔物を倒せるか勝負しないか?」


 僕の横に来たロディさんがそんな事を提案してくる。


「またですか?」


 この人はブレないなぁ。


「折角戦うんだ、楽しめる方が良いだろう? そうだ、他のチームも誘おうじゃないか。おーいお前達! 誰が魔物を一番討伐するか勝負しないか? 参加はチームでも個人でもかまわん。一口金貨10枚でどうだ!」


 金貨10枚とは豪勢な勝負だなぁ。


「チームだと討伐数に有利だが賞金は山分け、逆に個人だとキツいがその分報酬は独り占めか」


「いいぜ、俺は個人で参加するぞ」


「俺達はチームで参加するぜ」


 不謹慎だと言われるかと思ったけれど、意外にも参加者は多かった。

 もしかしたらこの余裕こそが皆をAランク冒険者たらしめているのかもしれないね。


「さぁ少年、君はどうする?」


 うーん、どうしようかな?


「レクスさん、私達もチームで受けましょう!」


 と、リリエラさんはやる気満々だ。

 そうだね、どのみち魔物達は襲ってくるんだから、倒さないといけない事には変わりない。

 だったら受けない理由も無いか。

 勝てば丸儲けだしね。


「分かりました。受けましょう」


「よし、賭けは成立だ!」


「「「「おぉー!」」」」


 冒険者さん達がテンションの高い雄叫びを上げる。

 意外にもロディさんの賭けが皆の士気を上げる結果になったみたいだ。


「まったく仕方のない奴だな」


 とぼやいたのは双大牙のリソウさんだ。


「おい晴嵐の! あまりはしゃぐな!」


「分かっているさ。まずは本番前の景気づけだ!」


 ロディさんの軽口にリソウさんが溜息を吐いていると、闇の中から魔物達の近づく音が聞こえて来る。


「「来るぞっ‼!」」


 ロディさんとリソウさんは即座に意識を切り替えて武器を構える。

 そして闇の中から魔物達が姿を現した。


 ◆


「これは!?」


 それは洞窟の床を埋め尽くさんばかりの白い魔物の群れだった。


「うわっ、すごい数だな」


 魔物は二本足で歩くトカゲの様な姿で、大きさは30cmほどと小さい。

 けれどこの凄まじい数は見ただけで本能的な危険を感じさせる。


「気を付けろ! アントラプターだ! 名前の通りアリの様に大群で襲ってくる魔物だ!」


 さっきの盗賊の人が魔物の名前を告げて皆に注意を呼び掛ける。

 これがアントラプターか。僕も実物を見るのは初めてだな。


「クソ、Sランクが参加する依頼だって聞いたからヤバい奴の相手はまかせれると思って受けたのに、いきなり命の危険じゃねぇか!」


「俺達は探索特化だから戦闘はなぁ……やっぱりこの依頼断れば良かったか?」


「「今更遅ぇよ!」


と、近くに居た冒険者さん達がボヤいている。

どうやら今回の探索依頼では戦闘以外に各々の特化した技能を期待して募集されていたみたいだね。

聖女と呼ばれる回復魔法の使い手であるフォカさんがいる様に、あの人達は探索が専門な訳だ。


「来るぞ!」


 リソウさんの声に皆が我に返ると、アントラプターと呼ばれた魔物がまるで雪崩の様に僕達に襲い掛かって来る。


「ファイヤーボール!」


「ウインドカッター!」


「フリーズボール!」


 即座に魔法使いさん達が範囲型の攻撃魔法で迎撃を始める。

アントラプターはとにかく数が多く、それこそ狙わなくてもどれかに当たる程だった。

 けれどアントラプターの援軍は次から次へと暗闇の中から現れ、減るどころか増える一方だ。


「このトカゲ野郎が!」


 皆が武器を振り上げ、接近してきたアントラプターに攻撃を加える。


速さに自信のある人や短剣の様な取り回しの良い武器を持つ人は上手く立ちまわっているけれど、大剣や斧を武器にする人はアントラプターの体の小ささとすばしっこさの所為でとどめを刺せないでいた。

 そして傷を負わせた個体を倒しきれないうちに新手が襲ってきて、次々に体に群がっていく。


「ぐぁっ!?」


「クソッ、離れろ!」


「痛てぇ! 噛みつくんじゃねぇ!」


 いけない、援護しないと!

 僕は急いで群がっているアントラプターを切り裂き、襲われていた人を救出する。


「す、すまねぇ」


「回復します、ヒール!」


 幸い小柄なおかげでダメージ自体は少なかったのか、治療はすぐに終わる。


 しかしまずいね、この数を一気になんとかしたいけれど、ここまで乱戦になったら下手な範囲魔法は味方を傷つけてしまう。

 ここはひとつ眠りの魔法辺りで敵味方問わずに眠らせた方が良いかな?


 そう思った時だった。


「ロックソーン!!」


 周囲を走り回っていたアントラプター達の足を、地面から生えた石棘が貫いていく。

 アントラプター達が痛みに悲鳴を上げながら地面に倒れる。

 石棘は次々と地面に生え、走りまわっていたアントラプター達の足を傷つけてゆく。


「石棘を踏まない様に気をつけて!」


それはロディさん率いるチームサイクロンの魔法使い、チェーンさんの魔法だった。


「皆落ち着くんだ!」


 アントラプター達が石棘に怯んで動きが鈍った隙に、ロディさんが声を上げる。


「アントラプターは一体ずつなら恐れる様な相手じゃあない! 魔法使いは攻撃魔法よりも相手の動きを阻害する魔法を使え! そうすれば!」


 そう言ってロディさんは石棘で足を怪我したアントラプターを切り裂く。


「このように止めを刺すのも容易になり、前の奴等が動けなくなれば後ろの連中も味方が邪魔で前に出てこれなくなる! 前衛は足を封じられて遅くなった敵を最優先して攻撃しろ!」


「わ、分かった! アースバインド!」


「ならこれだ、プラントロック!」


「突出するな! 仲間同士で背中を守りながら戦え!」


 このまま個別に戦っていてはジリ貧だと判断した冒険者さん達はすぐにロディさんの指揮に従って戦い方を変える。

 お陰で少しずつだけど、確実に敵の数が減り始めた。


「凄いやロディさん!」


 まるで長年このメンツを率いてきたみたいにスムーズな指揮の仕方だ。

 前世の僕はどちらかというと単独での行動が多かったから、大勢の仲間と一緒に戦うってあんまり得意じゃないんだよね。

 下手な攻撃は巻き込んじゃうし。


「さすがは晴嵐のロディだな。人を率いる事に慣れているとは思わないか?」


と、リソウさんが声をかけて来る。


「そうですね」


 今も皆に指示を出しながら器用に戦っている。

 本当に、人を率いる事に慣れているみたいだ。


「噂ではヤツはとある国に仕える騎士だったという話だ。将軍だったとも言われているがな」


「ええっ!? ロディさんって騎士だったんですか!?」


 まさかロディさんが騎士だったなんて!


「ははは、あくまで噂だ。ただ、ヤツは驚くほど人の輪に入っていくのが得意だ。そして気が付けば皆に気に入られて集団の真ん中に居る。そしてアイツは乱戦になった際の判断能力が特に高い。味方に適切な指示を出しながら自分も臆することなく前に出る。だからパーティを組んでいない連中もロディを信用して指示に従うんだ。その姿はまさに戦場をかき回す嵐だよ」


 確かに、半ばパニックに陥っていた状況を一瞬で治めた手腕はそれが事実なんじゃないかと思える。


「成程、だからロディさんの二つ名は晴嵐なんですね!」


「そう、普段はお日様みたいに人の輪の中心に居るが、いざ戦いとなったらこの通りだ。少々お調子者なのが玉に瑕だがな」



 あはは、さっきの賭けの事かな?


「曲者ぞろいのSランクの中にあってヤツ個人の実力はAランクの上といわれているが、それはヤツの力の全てじゃない。ヤツの真価は仲間と共に戦う時にあるのさ」


 今もロディさんは死角から仲間を攻撃しようとしていたアントラプターを倒して味方を援護している。

 自分が前に出て戦う事に執着せず、状況に応じて自分の立ち位置を器用に変化させながら戦況を変える。

 それがロディさんの強みだとリソウさんは言いたいんだね。


「まぁ、その有能さが原因でアイツの活躍を妬んだ同僚に国を追い出されたという噂だがな」


 うわー、そういうのは何百年経っても変わらないんだね。

 前世でも嫌って言う程見て来た話だよ。


「ポーションを惜しむな! 魔力が切れたらマナポーションですぐ回復しろ! アントラプターは数が多いぞ!」


 そうこうしている間にもロディさんは味方を指揮しながらアントラプターの群れを迎撃していく。


「キャンプの壁が完成する! 急いで中に入れ!」


 後方から壁の完成を伝える声を聞いた僕達は、急いでキャンプの中へと逃げ込む。

 後ろから攻撃されるけど、多少の傷はだれも気にしない。

 

怪我をしたら後で治療すれば良いし、そもそもAランクの冒険者なら防具も相応の品を買っている。

プロは装備にもお金をかけているからより長く生き残れるんだね。

僕達ももっと良い装備を用意しないとなぁ。


 そして最後の一人が逃げ込むと、設置部隊の魔法使いさん達が石壁の魔法を唱えてわずかに残されていた隙間を閉じた。


 後は入り口が閉じる前に入り込んだ数体のアントラプター達を始末して、ようやく僕達は一息つく。


「とりあえずこの壁があれば連中も入ってこれないだろ」


 ロディさんの宣言に皆が安堵の溜息を吐く。


 流石ロディさん。

Sランク冒険者の名は伊達じゃない。

魔法の達人であるラミーズさん、回復魔法のフォカさん、そして指揮能力のロディさんか。

となると、リソウさんはどんな特技を持っているんだろう?


 などと、一時の勝利に浸っていた僕達だったけれど、現実はそんなに甘くないと思い知らされるのはこのすぐ後の事だった。


 ◆


「これは……マズイな」


 うまい事仲間達を引き連れて防壁の中に逃げ込んだ俺は、すぐさま防壁の上に登って外の様子をうかがった。

 幸い、鉱山前の第一キャンプの壁が魔物に破壊された事を踏まえて第二キャンプの壁をかなり厚くしていた事が幸いした。

おかげで第二キャンプの壁の上は簡素な城壁や物見台として利用できるほどのスペースを確保できた。

 だが、今はその利便性が仇となって俺に絶望的な光景を見せている。


 防壁が完成した事で一旦は危険を逃れた。

 そして後はアントラプター達が諦めるか、諦めなくても防壁の上から時間をかけて攻撃を続ければいずれは勝てる。

 そう考えていたんだが……


「まさかこんな手段で中に入ろうとしてくるとは……」


 どれだけ飛び跳ねようとも壁を越えられないと気付いたアントラプター達は、なんと仲間の体を踏み台にして壁に迫って来た。


「いかん、これじゃあ自分から檻の中に入ったようなものじゃないか」


 どうする? せっかく助かったと思った彼等になんと言えば良い!?

一対一での実力はこちらの方が上だ。

 普通に戦えば十分勝てる相手だ。

 

だが、この数は無理だ。

 これはもう戦術や鼓舞でどうにかなる問題じゃない。

名前の通り虫の大群を見ている光景だ。

 もっとも、サイズも危険性も段違いなアリだが。 


 今もアントラプター達は数を増やしており、どんどん壁を上って来る。

 このままではあと数分で持たずに防壁を突破してくるか。

 第一キャンプが破壊された事で、壁の厚さだけでなく、高さも上げておいたのが不幸中の幸いだな。


「ロディ、外の様子はどう?」


 魔法使いのチェーンがマナポーションを不味そうに飲みながら聞いてくる。

 剣士のマーチャは神官のアルモの治療を受けている最中か。


「ああ、ちょっとまずいな」


 気心知れた仲間であるチェーンに嘘をついてもすぐにばれる。

 というか意外にコイツが一番そういう機微に敏い。

 まぁ察しても口に出す事は少ないんだが。


「……そう」


 俺の口調から状況は良くないと察したんだろう。チェーンの顔が険しくなる。


「リソウとラミーズにフォカ、それに……少年も呼んでくれ。急いでほしい」


「分かった」


 チェーンが急いで、しかし周囲に察されない様に小走りでリソウ達を呼びに行く。

 そしてすぐにリソウ達はやって来た。だがフォカの姿が無い。


「フォカは?」


「負傷者の治療をしている。それがアイツの本業だからな」


 そう言ってリソウが壁の上に登って来る。


「成程、これは最悪だ」


 チェーンに呼ばれた時から予想していたんだろう、リソウは意外にも冷静な反応だった。


「さすがにこの数は私の魔法でもキツイな。まぁ、いざとなったら飛行魔法で逃げるが」


 堂々と自分だけ逃げると言い放つラミーズに思わず笑ってしまう。

 それだけこのふてぶてしい男も危機感を募らせている訳だ。

 ……まさか本当に逃げたりしないよな?


「うわー、凄い数ですね」


 少年はまだこの状況を理解していないのか、単純に魔物の数に驚いていた。

 いや、わざわざ絶望的な現実を教える必要も無いか。


「さて、この状況をひっくり返す良い手段は無いかな諸君?」


「そうさな、魔法使いに頼んでこの壁にフタをしてもらってはどうだ?」


 バカみたいに単純な意見だが、割とアリかもしれないな。


「いや、そんな事をしたら酸欠で死ぬぞ。そもそもこの広さをカバーできる天井を作るなど無理だ。魔法で石壁を作ってからそれを切り取ればいけるかもしれんが、強度と時間が足りん」


 意外に名案だと思ったんだが、即座にラミーズから技術的な問題を指摘されてしまった。


「……少年には何か名案はあるかね?」


 少年はこれまでも危険なSランクの魔物を討伐してきた。

もしかしたら名案が浮かぶかもしれない。

 とはいえ、さすがの少年でも圧倒的な数による圧殺攻撃には対応できないだろう。


「そうですね、相手は爬虫類ですから、冷気の魔法で冬眠させてはどうでしょうか」


「冬眠? 具体的には?」


 意外な対策に私は詳細を尋ねる。


「はい、爬虫類は冬になると冬眠します。そして一部を除けば、爬虫類系の魔物も同様に冬眠します。ですので冷気系の魔法を使える魔法使いが一斉に壁の上から魔法を放てば、一気に体温が下がってアントラプター達も冬眠すると思うんです。幸い僕達とアントラプターは壁で区切られていますから、味方が冷気でダメージを負う心配はいりません」


 ふむ、上手くいけば倒せずとも敵を行動不能に出来るという訳か。

 どのみち他に方法もないならそれに賭けてみるか。 


「よし、それを試してみよう。皆、聞いてくれ!」


 時間が惜しい、俺は即座に壁の中に居る仲間達に声をかけた。


 ◆


「うわっ!? 何だよコレ!?」


「一体どれだけ居るんだ!?」


「あまり身を乗り出すな! 落ちたら助ける事は出来んぞ!」


 ロディさんが事情を説明した時、壁の中に逃げ込んだ皆は悲鳴を上げた。

 そして壁に逃げる様に指示したロディさんを非難する声が上がったけれど、この光景を見てすぐに皆口を閉ざした。

 寧ろ壁の中に逃げ込んだから今も生きているんだと、ロディさんの判断は正しかったんだと理解して。


「良いか、全力でアントラプターを冷やすんだ! 連中を冬眠させる事に成功すれば、戦わずして俺達の勝利だ!」


「やるしか、無いか……」


「逃げ道もないからなぁ」


 ロディさんの言葉に、魔法使いさん達も覚悟を決める。

 魔法を使えない人達も各々武器を構えていざという時に備えている。


「いいか、後の事は考えるな! とにかく全力で温度を下げるんだ!」


「「「「おうっ‼」」」」


 後がない以上、皆気合十分だ。


「よし! やれ!」


 ロディさんの号令で皆が自分の使える最大の氷魔法を全開で放つ。


「フロストストーム!」


「ブリザードウォール!!」


 その中でもチェーンさんとラミーズさんの魔法は他の人達と一線を画していた。

 二人共氷嵐系の魔法で周囲を一気に冷やしているけれど、ちょうどキャンプを嵐の中心にする事で味方に被害を与えない様にしている。

 二人の魔法の影響で、周囲の温度は一気に下がり、壁で守られている冒険者さん達が寒さに震えだして、中央に用意した焚火に殺到する。


「お、おおおい、もっと炎の魔法を強くしろよ!」


「だ、だだだ駄目だ、アントラプターを冬眠させる為に火は最低限しか使えん!」


「ななならもっと詰めろよ!」


「もっと冷やせ! 灯りの届かない奥にも敵は居る! とにかく冷やせ!」


 ロディさんの指示を聞いて中で待機している人達が悲鳴を上げる。


 よーし、僕も頑張らないと!

味方が壁に守られたこの状況なら、僕もおもいっきり戦えるぞ!


「プリズンコキュートス!!」


「うぉっ、寒っ!?」


 僕の魔法の発動と共に周囲の温度が更に冷え、魔法使いさん達が身を縮こまらせる。


「わ、わわ私の魔法よりも冷えるだと!? そそそそれもロストマジックか!?」


 なにかラミーズさんが言ってるけど、今は温度を下げるのが優先だ。


キャンプの周辺には冥府の氷とも呼ばれる絶対零度の氷霧が生まれ、アントラプター達を高低差関係なく全体的に冷やし始める。


そして氷霧によって体表が凍ったアントラプターがとなりのアントラプターに張り付いて更に身動きを封じてゆく。

アントラプター達は自分達の動きを阻害するほどに数が多かった事が災いして、次々と自らの仲間達の体で出来た檻に閉じ込められていった。


 よーし、この調子なら奥に隠れている全てのアントラプターを冬眠させれるくらい温度を下げる事ができるぞー!


「そ、そそそそそこまでだしょうねねねねねねんっ!!」


 と、気合を入れて冷やしていたら何故かロディさんに制止された。


「え? でももっと冷やさないとアントラプターを全て冬眠させる事が出来ませんよ」


「ももももうじゅうぶぶぶぶんだっ!」


 そう言ってロディさんがブルブルと指先を震えさせながら外を指さす。


「ももももうぜんぶここここおってるるるるっ‼!」


「え?」


 見れば外のアントラプター達は全て凍り付き隙間まで氷が詰まって一面氷河のような光景になっていた。

 そして氷河は洞窟の奥にまで続いて見えなくなっていた。


「あれ? もう凍っちゃったんですか? 予想外に寒さに弱かったんだなぁ」


「そういう問題じゃないでしょ! いくらなんでも冷やし過ぎよ! こんなのサラマンダーだって凍っちゃうわよ!」


 と、身体強化魔法で体を保護していたリリエラさんが縮こまりながら叫ぶ。


「えー? でもフロストドラゴンはもう少し冷やさないと冬眠しなかったですよ?」


「「「「「それ絶対冬眠じゃなくて凍死しただけだから! っていうかどうやったらフロストドラゴンを凍死させられるんだよ!!」」」」」


 何故か皆さんから突っ込まれてしまった。

 おっかしいなー、爬虫類は冷やせば大抵動かなくなるから属性とか気にしなくてもオッケーって師匠が言ってたんだけど。

(:3 」∠)アントラプター「ちなみにワイら本当は寒さに強いんやで」

Σ(:3 」∠)「魔物肉のシャーベットおいc……カッチーン」

(:3 」∠)ヘルバジリスク「まって、僕の出番は!? 戦闘シーンは!?」


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― 新着の感想 ―
こんな時にも勝負なんて些か不謹慎ではありません?今から戦闘というのに…。勝負したいのはわかりますが、時と場合を考えてほしいものです。
[一言] 氷のドラゴンを凍死させるのは草
[良い点] ここ最近読み耽れる良い作品です 1ページ事に読みごたえある作品だと思います 半日かけて半分も読めてませんが とても面白く思います [気になる点] 今の所特に無し [一言] 面白い作品ありが…
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