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第73話 緊急招集とSランクパーティ

(:3 」∠)「新章開幕!」

(:3 」∠)「やっとお仕事が一つ終わって更新できましたー!」

(:3 」∠)「遅れたお詫びに文字数多めだよ!(いつもの分量)」

(:3 」∠)「け、決してちょっと文字数多いから、半分に分割しようとしたら何故か元の分量と同じ文字数になった訳じゃないんだからね!(ツンデレ)」

(:3 」∠)「そんな訳で今週金曜日18:00の原稿は完成済みだよ! 他の仕事に専念できるね!」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

「ただいまー」


「おかえりだぜ兄貴!」


 久しぶりに王都の屋敷に帰って来ると、ジャイロ君達が出迎えてくれる。


「おかえりー」


「おかえりなさい」


「おかえり」


 皆も元気そうだね。


「聞いてくれよ兄貴! 俺達Cランクになったんだぜ!」


「ホント!? 凄いじゃないかジャイロ君!」


「いや、兄貴は速攻でBランクになったじゃんか……」


 まぁでも僕は前世と前々世があるからね。


「でもリリエラさんが言っていたよ。Cランクになるには結構な時間がかかるって。そう考えればやっぱり凄いよ」


「へへっ、そうかな」


 ジャイロ君が嬉しそうに笑いながら頬をかく。


「それよりも、レクスに伝える事があるでしょ」


「っと、そうだった」


 ミナさんに指摘され、ジャイロ君が慌てた様子になる。


「伝える事って?」


「そうなんだよ兄貴! 昨日冒険者ギルドから兄貴が帰ってきたらすぐに来て欲しいって言伝を頼まれたんだ」


 冒険者ギルドから?

 一体なんの用だろう?

 空島関係だったら嫌だなぁ。

 ああでも、空島関連だったらまだバーンさん達が戻って来てないから大丈夫か。


「分かったよ。それじゃあちょっとギルドに行ってくるね。わざわざ伝えてくれてありがとう」


「気にすんなって。一緒の家に暮らしているんだから、当然だろ」


「なーにさも一緒に暮らすのが当然みたいに言ってるのよ。王都の宿に泊まる為のお金が貯まるまでの間だけでしょ、やっかいになるのは」


 あれ? そんな事考えてたんだ。

 気にしなくても良いのに。


「それよりも、次の冒険は俺達も一緒に連れて行ってくれよな!」


「分かったよ。次は皆で冒険に出よう」


 と約束したのは良かったんだけど、この時の僕は次の冒険にジャイロ君達を連れていく事が出来ないとはまだ気付いていなかったんだ。


 ◆


「新しい遺跡ですか?」


 冒険者ギルドにやって来た僕はそのままギルドの奥にある応接室へと連れてこられた。

 そしてそこで待っていたギルド長に言われたのが、新たに発見された遺跡の探索依頼だったんだ。


「うむ、近頃とある危険領域で遺跡が発見されてな。君にはその遺跡の探索を手伝って貰いたいのだ」


「けど、何故僕なんですか? 王都のギルドなら優秀な冒険者さん達が沢山いると思うんですけど」


 それこそ冒険者一年生の僕と違って、遺跡探索のプロフェッショナルも居ると思うんだよね。


「その理由はそこが危険領域だからだ」


 危険領域、確か一定のランク以上の冒険者でないと入れない危険な土地の事だったね。


「カーバング鉱山はルビーが出る事で有名な鉱山だったんだが、ある時坑道と自然の洞窟がつながったらしい。それだけならよかったんだが、その洞窟の中からA、Bランクの魔物がわんさか現れてな。あっというまに鉱山は魔物に占拠されちまったらしい」


「洞窟と繋がった穴を塞げばよかったんじゃないですか?」


「それがな、そこから出て来た魔物が今まで発見された事の無かった新種だったんだよ」


 へぇ、洞窟から出て来た新種の魔物かぁ。

 それはちょっと興味があるなぁ。


「しかもこの魔物から採取できる素材がこれまた貴重でな。いつか採れなくなる宝石よりも、貴重な素材を無限に確保できる魔物の方が金になると判断され、鉱山と洞窟はAランクの危険領域となり、繋がった穴はそのままになった訳だ」


 欲が勝ったわけかー。


「で、最初に戻る訳だが、その洞窟の内部の遺跡はかなり危険でな。遺跡を発見した冒険者パーティが再探索に向かったきり戻らなくなった。そして新たに突入したAランクパーティ数組も戻ってこない」


 それってかなりヤバいのでは?


「事態を重く見た国とギルドは、Aランクパーティでも戻ってこれないこの遺跡をSランクの危険領域と認定。暫定的に鉱山内の探索も禁止した」


 うわー、なんだか大事になってるなぁ。


「つまり僕を呼んだ理由は……」


「ああ、我々が招集したSランク冒険者達と共にこの遺跡を調査して貰いたい」


「Sランク冒険者『達』!?」


 まさか僕以外のSランク冒険者も参加するの!?


「そうだ、Aランク冒険者でも全滅する未知の遺跡だ。ギルドの総力を挙げてでも探索する価値があると我々は判断している」


 Sランクの冒険者達が集結する危険領域内での遺跡調査。

 凄いな、なんだかドキドキしてきたよ

 まるでライガードの物語でも屈指の人気エピソード、英雄達の邂逅を思い出す。

 それは複数の国が手を取り合って戦っても倒せない恐ろしい大魔獣を、ライガードを始めとしたSランクの冒険者達が討伐する手に汗握る戦いの物語だ。


「勿論Sランクだけじゃあない。露払い役とキャンプベースの護衛を兼ねて、実力派のAランク冒険者を募集する。望むなら君のパーティメンバーも参加させて良い」


成る程、それならリリエラさんも参加できるね。

 でもさすがにCランクのジャイロ君達は参加できそうも無いね。


「やってくれるか?」


 うーん、僕としては興味あるけど、リリエラさんの意思を確認しないとね。


「仲間と相談してからでも良いですか?」


「構わない。調整もあるので三日以内に返事を貰えると助かる」


「分かりました」


 ◆


「という訳で、Sランクの危険領域を捜索する合同依頼への参加を要請されたんだ」


 家に戻った僕はリリエラさんとジャイロ君達に事情を説明する。


「Sランクの危険領域って、どれだけヤバイ場所なのよ」


「Bランクの魔獣の森は森そのものが魔物で、すべての木々が襲い掛かってきたよ」


「「「「怖っ!?」」」」


 いつも自信満々なジャイロ君でもこの反応なんだから、リリエラさんはかなり勇気のあるBランクだったんだなぁ。

 まぁ今はAランクに昇格したけど。


「で、リリエラさんはどうする?」


「そうね……」


 リリエラさんは少しの間考え込む。


「別に悩むこたぁねぇだろ。レクスの兄貴が行くんだぜ? だったら依頼は達成したも同然だろ?」


 と、ジャイロ君が言うんだけど、それをミナさんが制止する。


「バカ、Aランクはキャンプの護衛なんだからレクスとは別行動なのよ。何かあっても助けて貰えるわけじゃないのよ」


 そう言われると僕も心配になるなぁ。


「決めたわ」


 依頼を受けるかを決断したリリエラさんが僕を見る。


「受けるわ。Sランクパーティには参加できないけれど、貴方達の帰る場所は私が責任をもって守って見せる」


 おお、頼もしい発言だね。


「よろしくお願いします、リリエラさん」


「ええ!」


「ちっくしょー! 俺達ももっと早くAランクになってりゃ兄貴と一緒に冒険に行けたのによぉー!」


「我慢しなさい。さすがにSランクとAランクの冒険に付いて行くには私達は経験不足よ」


 こうして、僕とリリエラさんはSランクの禁止領域での指名依頼に参加する事にしたのだった。


 ◆


 一週間後、僕達は王都の外に出てきていた。

 ギルドからの指名依頼の集合場所が王都の外だったからだ。


 既に集合場所には冒険者さん達の姿が見える。

 決して人数は多くないけれど、全員が油断のならない目つきをしている。

 これが近隣から集められたAランク冒険者さん達かぁ。


「諸君、良く集まってくれた」


 その時、ひときわよく通る声が集合場所に響き渡る。


「私はギルドから派遣された監査役のワンダだ。以後よろしく頼む」


 ワンダと名乗った冒険者ギルドの職員さんは、依頼についての説明を始める。


「まず最初に、今回は非常に危険な依頼であるというのに集まってくれた諸君の勇気に感謝したい」


 まだ調査が始まっても居ないのに、感謝されちゃったよ。


「諸君も知っているとは思うが、今回は史上三番目にSランクの危険領域となった土地の調査だ」


 史上三番目? って事はあと二つSランクの危険領域があるんだ。


「中に入った者で生きて戻って来た者は居ないというSランクの危険領域ではあるが、諸君に頑張ってもらうのはAランクの危険領域なので安心してくれたまえ。……まぁ油断すると死ぬが」


 さらりと怖い事を言った。


「君達には鉱山前のキャンプの護衛と、鉱山内部の洞窟内に設置する予定の第二キャンプの護衛を行って貰う」


 ふむふむ。活動拠点を二つ作る訳だ。


「既に鉱山の開けた土地に第一キャンプの設置は完了している。まずはそこで準備を調え、翌日の朝から鉱山内に第二キャンプを設置しに向かう」


 安全重視で活動範囲を広げて行く訳だね。


「そして問題のSランクの危険領域だが、この前人未到の危険地帯を探索するのは勿論その危険を乗り越える事の出来る猛者達だ!」


 ワンダさんが右手を天にかかげる。


「そう、Sランクの冒険者だ! 晴嵐のロディ、聖女フォカ、天魔導ラミーズ、双大牙のリソウ、そして期待の新人、大物喰らいのレクスだ!!」


「「「「おぉぉぉぉぉっ!!」」」」


 集まった冒険者さん達が歓声を上げる。

 っていうか、僕の名前の前にへんな枕言葉が付いていたような気が……


「スゲェ! Sランクが5人も参加するなんて前代未聞だぞ!」


「しかもその内の一人はつい最近Sランクになったばかりだって話だ」


「新しいSランクか。どれ程の実力者か楽しみだぜ」


 冒険者さん達がSランク冒険者さんの参加について興奮した様子で会話をしている。

 とはいえ、僕は成り行きでSランクになったようなものなんで、あまり期待しないで下さいね。


「静粛に!」


 ワンダさんが声を上げると、冒険者さん達の声が静まっていく。

 この切り替えの速さはさすがAランクって感じだね。


「我々の目的は三つ。まず鉱山内部の自然洞窟内に第二キャンプを設置する事。第二に洞窟内の遺跡に潜りAランク冒険者パーティの安否を確認する事。そして第三に遺跡の探索だ」


 ワンダさんはここで一旦言葉を区切る。


「細かい説明は鉱山前のキャンプに到着し、先行したメンバーと合流してから行う。それでは我々が準備した馬車に乗り込んでくれたまえ」


 ワンダさんの指示と共に、馬車のドアが開く。


「じゃあ行きましょうか」


「ええ」


「ちょっと待ってくれたまえ」


 僕はリリエラさんと一緒に馬車に乗りこもうとしたんだけど、それをワンダさんが制止する。


「何でしょうか?」


「すまないが君は別の馬車に乗ってもらえるか?」


 僕がですか?

どういう事だろう?


「うむ、君にはSランク冒険者用の馬車に乗って欲しいのだよ」


 うーん、なんだか面倒事の予感。


 ◆


 ギルドから直々の要請だった為に僕はリリエラさんと別れ、ギルドの用意したSランク冒険者用の馬車に乗る事となった。


 Sランクだけを載せた馬車は見た目の豪華さから、一見特別扱いに見えたけれど、どうも違うっぽい。


「君達はこれから臨時のパーティを組んでもらう。だがいかにSランクといえど、あって間もない者同士で連携を取ることは難しい。そこで短い間ではあるが、目的地に着くまでの時間でSランク同士、親交を深めてほしい」


 と言われてしまった。

 けど目的地に着くまでの短い時間で親交が深まるのかなぁ?


「なぁ大物喰らい」


 なんて心配して居たら、さっそく双大牙のリソウさんが話しかけて来た。


「ええと、それってもしかして僕の事ですか?」


「そうだ、お前が大物喰らいなんだろう? Sランクの魔物を立て続けに倒し最年少でSランク入りをしたという」


 ああ、だから大物喰らいなのか。

 なんだか恥ずかしい二つ名だなあ。

 ……ジャイロ君がドラゴンスレイヤーズを名乗るのを恥ずかしがった理由が分かった気がするよ。


「あらまぁ、凄いのねぇ」


 次いで会話に入って来たのは聖女フォカさんだ。

 この人は見た感じ20代中ごろと言った感じなんだけど、非常に母性を感じさせる女性で、特に胸に母性が溢れていた。


「聞くところによると、見た事も無い魔法を操っていたと聞くが、もしやロストマジックか?」


そして今度は天魔導ラミーズさんも会話に加わって来る。

 この人はいかにも学者然とした魔法使いだ。

 魔法学院で研究をしている研究者と言われても納得できる。


「ははははっ、確か今度はクラーケンとメガロホエールを退治したんだって? 遺跡に着いたらまた勝負をしないか?」


 そしてチームサイクロンのロディさんは相変わらず勝負好きだなぁ。


 Sランクの冒険者さん達は怖い人達ばかりかと思っていたら、意外とフレンドリーな人達ばかりみたいだ。

 皆朗らかに話しかけて来る。

 年下の僕を気遣ってくれているのかな?

 リソウさん達は僕がどんな魔物と戦い、どうやって切り抜けて来たのかを聞きたがった。


 もしかしたら自分が戦ったことの無い魔物に興味津々なのかもしれない。


「ほほう、そんな戦い方がなぁ」


「身体強化魔法ですか。近頃は便利な魔法があるんですねぇ」


 いえ、普通の魔法ですよ?

 どうもフォカさんは普通の魔法に接する機会があまりなかったみたいで、ごく普通の魔法の話を聞いても興味深そうにしていた。


 そんな時だった。

突然馬車が止まり中に居た僕達、というよりも僕に詰め寄っていたSランクの先輩達が僕に向かって倒れ込んでくる。


「ぬっ」


「ととっ」


 リソウさんとロディさんはさすが戦士だけあって、すぐにバランスを取って踏ん張る。

 けどフォカさんとラミーズさんは止まれずに僕に覆いかぶさって来る。


「ああっ、ごめんなさい!」


 フォカさんの胸が僕の顔に覆いかぶさり、更にその後ろからラミーズさんがぶつかって来たので、猶更フォカさんの胸に顔が埋まってしまう。

 っていうか、苦しい! ちょっと本気で息が出来ないんですけど!?


「はははっ、さすが大物喰らい! さっそくフォカの胸を喰らったな!」


「どちらかというと喰らうの意味が逆だと思うがね」


 ちょっと二人共、笑ってないで助けて!


「もがーっ!」


「それよりも一体何事だ?」


 リソウさんが突然の急停止を訝しみ、馬車前方の小さな窓を開けて御者さんに声をかける。


「あっ、リソウさん! 大変です! 魔物の群れが前方から接近してきているんです」


「魔物の群れだって!?」


 それを聞いたロディさんがすぐに馬車のドアを開けて外へ出て行く。


「ふむ、どの程度の獲物だ?」


 次いでリソウさんも出て行ったので、僕もそれについていく。

 そして前方を見ると、街道の向こうから接近してくる魔物達の姿が見えた。


「あれはハイトロールだな。Aランクの魔物だが、知能が低い事から同ランクの魔物の中でも下位に位置している。ただ再生能力が高い為、数で攻められるとAランクのパーティでも全滅の危険があるぞ」


 後ろからやって来たラミーズさんが魔物の説明をしてくれる。


「ふーむ、街道で遭遇する魔物の相手はAランクの仕事だが、あの数となると少々苦戦するか?」


今回の依頼だと、僕達Sランクは遺跡の探索に集中する為の道中の戦闘はAランクの冒険者さん達に任せる事になっているからね。

でもまぁ所詮相手はハイトロールだ。

 Aランクの冒険者さん達がこれだけ集まっているんだから、心配は要らないだろう。


「よし、迎え撃つぞ!」


 早速Aランクの冒険者さん達が馬車から降りてハイトロールの迎撃準備を済ませて待ち構えている。

 さすがに迅速な対応だね。


「諸君、待って欲しい!」


 と言ったのはギルドの職員であるワンダさんだった。

 Aランクの冒険者さん達も一体何事かと彼を見る。


「本来なら街道で遭遇した魔物との戦闘は諸君等Aランクの仕事だが、今回だけはあるSランクの冒険者に戦って貰おうと思う」


 Sランクに? 一体なんで?


「レクス君、戦って貰えるかな?」


「僕ですか!?」


 まさかのご指名だよ!?


「アイツが大物喰らいのレクス!? まだ子供じゃないか!?」


「いや、ギルドに所属しているから成人はしているだろ」


「それにしても若い。本当にSランクなのか!?」


 僕がSランクのレクスだと知った冒険者さん達は僕の若さに疑問の声を上げる。

 確かに僕自身、自分がSランクになったのは何かの間違いなんじゃないかと思っているくらいだからなぁ。


「この通り君の若さは共に戦う仲間達に疑念を持たせてしまう。そこで君一人に戦って貰う事で、その実力を皆に示して欲しいのだ」


 特にSランクの仲間にねと、ワンダさんは付け加える。

 なる程、僕がSランクに相応しい実力を持っている事を示す事で、Sランクの皆さんに足を引っ張る事は無いよと信頼して貰えって言いたいらしい。


「わかりました。僕が対処します」


「幾らなんでも一人で相手をするのは大変じゃありませんか?」


 とフォカさんが心配そうにワンダさんに苦言を呈する。


「いやいや、所詮はハイトロールだ。Sランクなら苦戦もしないだろうよ」


「私ならこの距離から燃やし尽くすな」


 リソウさんとラミーズさんは倒せて当たり前という雰囲気だ。


「はっはっはっ、大丈夫だ。この少年の実力ならハイトロール程度問題ないさ。というか、どちらが多く狩るか競争しないか?」


 ロディさんは安心させたいのか競争したいのかどっちなんだろう?

 きっと両方なんだろうな。


 まぁいいや。そろそろハイトロールの群れが近づいてきたし、迎撃しないと。

 僕は前に出て剣を抜く。


「剣で戦うのか」


「だがあの細い剣ではハイトロールと戦うには心細くないか?」


「高い再生能力を持つハイトロール相手に普通の大きさの剣は不利だろ」


 Aランクの冒険者さん達は僕がどんな戦い方をするのかと興味津々みたいだ。

 でも申し訳ない、わりと地味な戦いになると思いますよ。

 だって相手は再生能力だけしか売りが無いハイトロールだし。


 僕は十分な距離までハイトロールの群れを引き寄せると、剣に魔力を流し込み、横なぎに振るいながら魔法を放つ。


「メルティングウェイブ!!」


 剣の表面に青い炎が宿り、振るった剣の軌跡をなぞる様に炎の波紋が扇状に広がってゆく。

この光景を上から見たら、水面に落ちたものを中心に波紋が広がる光景に見えた事だろう。


波紋はそのままハイトロールの群れを通りぬけ、50mほど後ろまでいったところで消滅した。

そして魔法が消え去った後には、上半身が切断されて、走り続ける下半身だけがこちらに向かって走ってきていた。

けれどその下半身も暫く走ると、上半身がなくなっている事に気付いたかのように地面に倒れ伏す。


 ハイトロール達に再生する気配はなく、持ち前の生命力で暫くはビクンビクンと動いていたけれど、次第に動きが小さくなっていき、最後には動かなくなった。


 それを見届けた僕は、ワンダさんに告げる。


「終わりました」


「……へ?」


 ワンダさん達がキョトンとした顔でこちらを見る。


「ですから、ハイトロールの群れの討伐が完了しました」


「……終わった? Aランクの魔物の群れを? もう?」


 うん、ハイトロール達はとっくに死んでいるしね。


「……」


「……」


 何故か周囲が無言になる。

 あれ? 何か失敗しちゃったのかな?


「す、すげぇぇぇぇぇぇっ!! なんだこりゃぁぁぁぁ!?」


「あのハイトロールを一撃!? しかも剣で!?」


「違う! ありゃあ魔法だ!」


「だがどんな魔法なんだ!?」


「みろ! 倒されたハイトロールの切断面を! 焼け焦げた跡があるぞ!? これでハイトロ-ルの再生能力を封じたんだ!」


「何だって!? 本当だ! 血が一滴もこぼれていない。一瞬で切断面を焼いたのか……」


「とんでもない魔法だな」


 突然叫びだした冒険者さん達は、皆してハイトロールの死体に群がって僕がどうやって倒したのかを考察している。


 そう、メルティングウェイブは炎の斬撃を飛ばして広範囲の敵を切り裂く魔法だ。

 しかも斬撃は高熱を放っているので、傷口を即座に焼いてしまう。

 再生能力のある魔物対策に開発された魔法なので、再生能力の高い魔物の大半はこの魔法で対処できる。


「いやはや、さすがは最速最年少でSランク入りしただけの事はある。見事見事」


 と、リソウさん達がやってくる。


「ええ、大したものだわ」


「それよりも今の魔法だが……もしかしてロ」


「いやぁ! さすがの実力だな! 寧ろ強くなっていないか!? ああ、やはり勝負したかったな!」


 ラミーズさんが何か言おうとしていたみたいなんだけど、ロディさんの言葉がかぶさってかき消されてしまった。


「どうでしたかワンダさん? これで実力を示した事になりましたか?」


 変に派手な演出をする事無く、早く安定して敵を倒せる事をアピールしてみたんだけど、ちょっと地味だったかな?


「……あ、ああ。十分だ、これなら皆君の実力を認めてくれるだろう」


 よかった。これで今後の連携は大丈夫そうだね。


(:3 」∠)ワンダ「この新人予想以上に強いんですけどぉぉぉ!」

(:3 」∠)ハイトロールの下半身「Aパーツ(本体)分離!」


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