第71話 失われた薬草と大喪失
(:3 」∠)「わーい連日更新! 今のうちに別の仕事だぁ!(地獄)」
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戻ってきた僕達は、さっそくカームさん達が集めてきた薬草をグッドルーザー号の船医さんに調べてもらっていた。
途中海辺の国の人達から、飛行船を貿易品として売って欲しいと言われたけど、アレは空島の技術じゃないからと丁重にお断りしておいた。
「ふぅむ、それなりに売り物になる薬草はありますが、やはり目玉とするにはちと弱いですな」
「ぬぅ、そうですか……」
結局持ってきた薬草はどれも決定打にはならず、カームさん達は残念そうにうな垂れた。
国の上層部が納得する物でないと貿易自体が中止になるかもしれないからなぁ。
「これは参った……」
「ふむ、飛行船を使った貿易は魅力的だが……」
これが欲しいという物が無い所為で、微妙に交渉の空気が重くなる。
うーん、僕が採ってきた薬草もカームさん達の薬草と同じものばかりだし……
あっ、でも一種類だけ調べて貰っていない薬草があった。
でも、これってそんなに珍しい薬草でもないんだよなぁ。
まぁ、一応聞いてみようかな。
と、その時だった。
「カーム団長ーっ!」
慌てた様子で何人もの騎士達が空から降りてくる。
「何事だ!?」
大事な交渉の場に乱入してきた部下をカームさんが叱る。
「も、申し訳ありません! し、しかし部下が!」
「落ち着け! 部下がどうした」
慌てる騎士をカームさんが一喝し、何があったのか説明させる。
「は、はい! 森島を探索中、部下が魔物に襲われ腕を引きちぎられたのです!」
「な、何だと!?」
突然のショッキングな報告にその場に居た全員が色めき立つ。
見れば仲間に付き添われた一人の騎士がうめき声を上げながら膝をついていた。
「傷口を見せたまえ」
すぐに船医さんが騎士の腕を見る。
「腕を引きちぎった魔物はそのまま逃走、ろくな薬を持っていなかった我々では傷口を縛って血を止める事しか出来ず……」
「これはまずいな。早く治療せんと出血多量で死ぬぞ」
「う、腕は直せるのですか!?」
仲間を心配する騎士の言葉に船医さんは首を横に振る。
「無理じゃ、腕を生やす様なポーションは伝説のエリクサーくらいじゃろう。せめて腕を取り戻す事が出来れば、最高級のポーションでつなげる事は出来たじゃろうが、どのみちここにある薬草ではのう……」
「そ、そんな……」
「せめて傷口を消毒して回復魔法で血を止めよう。そうすれば命だけは助かる」
「くっ、お願いします」
船医さんの言葉に、カームさんが悔しげにお願いする。
「わかった、出来る限りの事はしよう……」
「あのー……」
ええっと、ソレよりも肉体の欠損を回復させる回復魔法を使えば一発だと思うんだけど。
なんだか妙に深刻な空気に割って入るのを、申し訳なく思いながら僕は船医さんに声をかける。
「何じゃ? 今は一刻を争う事態なのだぞ!?」
「すみません、欠損部位を……いえ、それよりもこの薬草を使ってはどうですか?」
その時僕の脳裏にあるアイデアが閃いた。
回復魔法で直すのではなく、薬草を使ったポーションで怪我を完全治療すれば良い貿易の目玉になるんじゃないかと。
僕は魔法の袋からまだ鑑定されなかった薬草を取り出し、船医さんに見せる。
「む? これは一体? 見た事も無い植物だが、これも薬草なのかね?」
あれ? 船医さん知らないの?
「これはハイポーションを作るのによく使うテカン草ですよ」
「……テ、テカン草!? それはもしかして薬草の大喪失で失われたあのテカン草の事かね!?」
え? テカン草が失われた薬草?
っていうか薬草の大喪失って何!?
「ええと、薬草の大喪失って何ですか?」
「大喪失を知らんのかね!?」
知らんですよ。
「薬草の大喪失というのは、数百年前に突如発生した流行り病で多くの植物が枯れた事件の事だ。その事件で枯れた植物の中には、希少な薬草も含まれており、そのことから大喪失という名が付けられたのだ」
へぇ、そんな事件があったんだ。
「それが原因で過去の多くの薬が調合できなくなり、沢山の人命と薬のレシピが失われたとも伝えられている」
わ、割りと重い事件だったんだ。
「リリエラさんは知っていました?」
「ええ、一応ね。ヘキジの町で冒険者をやっていた時に薬草専門の先輩に教えて貰ったわ。大喪失で数が激減した薬草とかは高値で売れるから、見つけたら絶対持ち帰れって言われてね」
へぇ、そうなんだ。
数百年前の出来事だからかリリエラさんも最初は知らなかったみたいだし、研究者の間では有名な話ってレベルなのかな?
「でも森島の中には普通にありましたよ?」
「な、何だって!?」
船医さんが目を丸くして驚く。
「そ、そうか。森島は地上のはるか上空にあるから、大喪失の流行り病の被害を受けなかったんだな!」
なる程、言われてみればそうかもしれない。
空島には地上では見かけなかったボールラビットが生息していたし、森島でずっと生き延びていた植物があってもおかしくはない。
「先生……」
「はっ!? いかんいかん」
興奮していた船医さんだったけど、カームさんから声をかけられて我に返る。
「あー、いや、うむ。ともあれハイポーションと言ったが、テカン草でハイポーションが作れるのかね? 確かにそれなら体力や失った血も回復するから治療にはうってつけだが、ハイポーションは調合難易度が高く作るのに時間がかかるぞ?」
え? 前世じゃけっこうメジャーなハイポーションのレシピだったんだけど、本当に知らないの?
それにハイポーションの調合難易度が高い? おかしな事を言うなぁ。
ハイポーション程度なら、ちょっと成長した薬師の弟子ならすぐに作れる様になると思うけど。
……ああ、そうか。大喪失で薬草と一緒に多くのレシピも失われたんだっけ。
だったらテカン草を使ったレシピがなくなっていてもおかしくないんだな。
うーん、魔獣の森や内大海が出来ていたり、天空大陸が無くなったり、更には植物の大喪失か。
ああ、あとロストマジックやロストアイテムとかいうのもあったし、ちょっと死んでいる間にいろんなイベントが起こってたんだなぁ。
でも、それらの事件の中に魔人が関わっていた案件があるのも気になるなぁ。
ともあれ、今はハイポーションの作り方を説明しないとね。
「ええとですね、この薬草とエーア草を蒸して抽出した薬液を混ぜればハイポーションが作れるんですよ」
「たったそれだけで作れるのか!? ハイポーションの調合に必要なのはミーグ草とアハド草とバギャ草だろう? というかエーア草なんて普通に手に入る安い薬草じゃないか!?」
「ええ、そのレシピでも作れますけど、テカン草とエーア草を使ったレシピの方が安上がりで早いですよ?」
ああ、今は失われた薬草扱いだから安上がりって訳でもないのかな?
時間もないしこれは実際に調合してみせた方がよさそうだね。
「では今から実際に調合してみせますから、出来た物を確認してみてください。カームさん、そこにあるエーア草を一束貰って良いですか?」
僕はカームさん達が貿易の商品に出来ないかと持ってきたエーア草を指差す。
「え、ええ、構いませんよ。どうぞ」
カームさんからエーア草を受け取った僕は、魔法の袋から調合用のテーブルと抽出した薬液を入れる為の二つの容器を取り出す。
そしてその中にそれぞれテカン草とエーア草を入れる。
「本来なら蒸した後にそれぞれの成分を調合するんですけど、今回は時間がかかるので魔法で簡単に作りますね」
「ま、魔法で!?」
僕は抽出用の容器の中に入ったそれぞれの薬草に手をかざすと薬効抽出魔法を発動させる。
「コンポーネントセパレート!」
すると薬草が見る見る間に萎びていき、採取された際の切り口から薬液が染み出て容器の中に満ちていく。
「な、なんだこの魔法は!?」
ただの薬効抽出魔法なのに、何故か船医さんが驚いている。
「ただの薬効抽出魔法ですよ」
「薬効を取り出す魔法!? そんな魔法は見た事が無いぞ!?」
あれ? そんな筈は無いんだけどなぁ。
薬師に弟子入りすれば普通に教わる魔法だと思うんだけど。
「これは繊細な扱いが必要な薬草の薬効成分を壊さずに抽出する為に開発された魔法ですよ。それなりに実力のある薬師なら普通に知っている魔法だと思いますよ?」
「そ、そんな魔法が存在していたのか……? だ、だが一体何処でそんな魔法を……?」
んー、もしかして船医さんは師匠から薬効抽出魔法を習わなかったのかな?
でもそんな事あるのかなぁ?
薬効抽出魔法は医療関係者なら必須の魔法だと思うんだけど?
僕? 僕は前々世で師匠から習ったよ。
賢者になるなら、最高位のポーションくらい作れる様になっておけって言われて学ばされたからね。
「と、成分の抽出も終わりましたので、調合を行います」
と言っても、ハイポーション程度なら成分の調合といっても量を調整して混ぜるくらいだけどね。
僕は計量コップに薬液を流し込むと、攪拌用の水晶棒でそっと薬液を混ぜていく。
すると二つの薬液の色が少しずつ混ざっていき、美しい緑色へと代わっていった。
「ハイポーション完成です」
僕は出来上がったハイポーションを皆に見せる。
「ハ、ハイポーションがこんなに簡単に……」
船医さんが口をあんぐりと開けながら呆然と呟く。
こんなので驚くなんて、一体船医さんはどんな面倒な作り方をしていたんだろう?
ああでもそうか。船医さんは揺れる船の中で薬を作るからその分大変なのかもしれない。
陸から離れた船内で、しかも長旅を考えれば保存の効く薬草だけで作る必要があるだろうから、その分難易度が高いんだろう。
だから船医の調合技術に特化している分、逆に普通の薬の作り方には疎いのかな?
うーん、勉強になるなぁ。
「さぁ騎士さんに飲ませてください」
「あ、ああ」
僕からハイポーションを受け取ったカームさんが腕を失った騎士に薬を飲ませる。
「う、うう……」
すると薬を飲んだ騎士がうめき声を上げて苦しみ始める。
「お、おい!? 大丈夫なのか!?」
周りの騎士達が本当に飲ませてよかったのかと僕に詰め寄ってくる。
「大丈夫ですよ。お仲間の方をよく見てください」
「「「「「何? ……って!? ええ!?」」」」」
騎士達だけでなく、カームさんやバーンさん達まで驚きに目を丸くする。
「う、失った筈の腕が生えている……?」
よしよし、調合は成功だね。
「こ、これは……一体!?」
船医さんがワナワナと震えながら、僕に聞いてくる。
「ハイポーションですよ」
「ハ、ハイポーション!? こ、こんな、腕が、腕が生えてくる薬がハイポーションだと!?」
あれ? 別におかしな事じゃないと思うんだけど。
「ほら、普通の傷口だって怪我をしたところは肉が盛り上がって治るでしょう? 質の高いハイポーションはそんな自然治癒力に強く働きかけて欠損部位を再生させるんです。まぁ要は爪が伸びたり髪の毛が伸びるのと同じ要領で腕を生やしているんですよ」
「「「「「比較する対象のケタが違いすぎる!?」」」」」
あれ? なんで皆そんなに驚いているのかな?
「ま、まさか失われた肉体を再生するほどのポーションの原料があるとは……」
「そ、そうか! ハイポーションだからではなく、テカン草のハイポーションだからこれ程の薬効が出たんだな!」
え?
「これは……これは素晴らしいハイポーションですよ! 今現在市場で販売されているハイポーションとは訳が違う! 肉体の欠損が治せるこの薬はもうハイポーションを越えた新しいポーションと言っても過言ではない!」
いやいや、それは幾らなんでも過言でしょう?
「ではこの薬草は……?」
「ええ、今回の貿易においては文字通り目玉商品と言えるでしょうな!」
「「「「おおーっ!!」」」」
その場に居るほぼ全ての人間から感嘆の声が上がる。
「良かった、これで貿易を行う為の商品が出来た……」
「ありがとう! ありがとう! 君のお陰で仲間が腕を失わずに済んだ!」
「私からも深く感謝いたします!」
カームさん達は貿易商品が出来た事と、仲間の傷が完治した二つの喜びから僕に感謝の言葉を告げてくる。
「ところでだな」
皆が貿易の目玉になる商品が見つかった事を喜ぶ中、船医さんだけは真面目な顔で僕に話しかけてきた。
「何ですか?」
「うむ、これは非常に重要な頼みなのだが……」
一体何を頼みたいんだろう?
もしかしてまだ何か問題でもあるのかな?
「さっきの抽出魔法を教えてくれんかっ!!」
えっ!? 薬草じゃなくて魔法!?
「あの魔法は素晴らしい! あの魔法があればより多くの薬草を短時間で確実に抽出できる! そうなれば抽出ミスで薬草を無駄にする事も無くなり、より多くの薬を作る事が出来るようになる! 頼む! その魔法を教えて欲しい!」
うーん、冗談で言っている様には見えないし、本気で言ってるのかなぁ?
それにまぁ、薬効を抽出する為の魔法だし、悪事には使えないから大丈夫かな。
「分かりました。それではお教えしましょう」
「おお、感謝しますぞ師匠!」
「何故師匠!?」
以前にも同じようなパターンあったよね!?
「師匠のお陰でポーション業界に革命が起きますぞ!」
ポーション業界なんてあったの!?
結局、なし崩しで僕は船医さんの師匠となり、グッドルーザー号が出発するまでの間、薬効抽出魔法を教える事になるのでした。
(:3 」∠)ハイポーション「我はハイポーションを越えしハイポーションなり!」
(:3 」∠)船医「やっふー! 新技術だー!」
(:3 」∠)副長「貿易品よりも未知の技術が多すぎてそっちの方が気になる」
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