第70話 貿易品を探そう
(:3 」∠)「うっかり15000文字近く書いちゃったので三話に分割したよ! やったね三日連続更新だ!」
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バハムートを倒した事で、空島の人々を脅かしていた食料不足の心配はなくなった。
裏で暗躍していた魔人はもう一匹のバハムートに踏みつぶされてしまったので、情報を得る事は出来なくなってしまったけれど、ゲートも破壊したのでもう空島が狙われる事も無いだろう。
バーンさん達グッドルーザー号の船員達全員を地上へ送り返す件も、船を飛行船に改造する事でアテが出来た。
これで全ての憂いは無くなって一安心……といきたい所なんだけど、一つだけ心配事が残っているんだよね。
それは、空島の人々をこのままにして大丈夫なのかって事だ。
何しろこの空島の人達は天空大陸に暮らしていた一般人の末裔なので、技術的な積み重ねが殆ど無い。
ゼロから技術を組み立ててきた状態だから、戦闘技術も魔法技術も低い。
防衛用のマジックアイテムがあったおかげで、生きる為に必死になる必要もなかったのが、戦闘技術が成長しなかった要因だろうね。
まぁ他にも理由はいろいろあるだろうけど。
そしてその所為で今回のバハムートみたいな隔絶した実力の敵が相手では手も足も出なかった。
空島という逃げ場のない環境で、もしもバハムートが人間を食料と認識していたのなら、今頃空島の人間は全滅していたかもしれない。
更に言うと、頼りにしていたマジックアイテムもかなり劣化しているのも不味い。
何せ何百年もメンテナンスをまったくせず、ずっと酷使してきたんだから。
今回は僕が修理したけれど、いずれは完全に壊れてしまうだろう。
マジックアイテムが壊れてしまったら、魔物と戦えなくなるだけでなく、森島に食料を採取しに行く事も出来なくなるだろう。
何せ空を飛ぶ事ができなくなってしまうんだから。
一番良いのは飛行魔法を教える事だけど、空島の人間全員が覚える事が出来るかと言うと、ちょっと難しい。
時間的な問題、それに年齢の問題もあるだろうしねぇ。
なので僕はカームさんとバーンさんにある提案をしてみた。
「空島の住人を地上に移住?」
「はい、このままだと空島の人達はマジックアイテムが壊れて生活する事が出来なくなります。だから希望者は地上に移住させてはどうでしょうか?」
今なら飛行船に生まれ変わったグッドルーザー号がある。
船員達が飛行船の操縦に習熟している間に、天空王と空島の住人達に現状を認識してもらい島に残るか地上に移住するかを考えて貰おうという訳だ。
「成る程、確かに民の将来を考えれば、空島から移住するという考えは一つの選択肢ですね。マジックアイテムがいつか壊れるかもしれないという不安は、我等騎士にもありましたから」
カームさんは移住に対して好意的な意見を見せてくれた。
どうやら以前からその不安は空島の騎士達の間にもあったみたいだね。
「ううむ、しかしだな……」
と、バーンさんはちょっと思案顔だ。
「何か問題があるんですか?」
僕が問いかけると、副長が代わりに答えてくれた。
「それはですね、空島の住民を地上に降ろすだけならば、我々の独断でも可能ですが、我が国に移住となると、我々だけの裁量では難しいかと。他国からの移民を受け入れる事になりますからね」
むむむ、政治的な問題って訳か。
「ただ……」
と、副長が続ける。
「レクス殿に改造して頂いたグッドルーザー号を見せれば、上の説得も楽になるかと。何しろ空を飛ぶ船など誰も見た事がありませんからね」
え? 飛行船くらい普通にあると思うけど?
「時にレクス殿、この船は量産が可能でしょうか?」
と、聞いてきた副長の顔は、政治的な判断をする貴族の顔だった。
前々世で良く見た表情だから、これはきっと軍事に利用できないかと考えている顔だろうなぁ。
でもなんで飛行船なんかを量産したいなんて言うんだろう?
悪い事に使われたくないし、適当に誤魔化しておくかな。
「いえ、この飛行船に使われている材料は数に限りがありますので、戦争で使える程の数を揃える事は出来ません。今となってはかなり希少な素材ですからね」
改造に使ったメインの材料は空島の土や鉱石に含まれているグラビウムだからね。
天空大陸無き今、グラビウムは今残っている空島にしか存在しない。
だからグラビウムを使ったマジックアイテムは量産が難しいと答えておいた。
単純に普通の技術で作った飛行マジックアイテムの方が性能が良いからね。
「あと使った素材の量が少ないので、戦闘に耐えうる程の機動は出来ませんよ。無理したら飛行機能が壊れますよ」
「そ、そうですか、それは残念です」
僕の言葉を信じてくれたのか、副長はあっさりと引き下がる。
もしかして本当にあの国には飛行船が無いの?
いやいや、多分戦争とかで壊しすぎて数が少なくなったとかだろうなぁ。
前々世でもそれが原因でとりあえず輸送にギリギリ耐えられる程度の性能で良いから、飛行船を大量に作れって言われたもんなぁ。
「我が国への移住については上の方々の判断が必要ですね。ですので、まずは貿易から始めてはいかがでしょうか?」
「貿易から?」
「ええ、空島特有の交易品を提示する事で我が国が空島と交流するメリットを上に示すのです。幸い我等には空を飛べるようになったあの船がありますから」
そう言って副長は飛行訓練を続けるグッドルーザー号を見る。
成る程ね、いきなり移住させてくれと言うよりは、食料の交換もできる貿易の方がお互いやりやすいって訳だ。そして国同士が仲良くなれば、将来的には揉める事無く移住をする事も出来るようになるかもしれない。
「どうでしょう船長、カーム殿。まずは貿易という形で両国の交流を考えては?」
「うむ、副長の言う通りだな。貿易なら私も問題ないと思うぞ! そして貿易が出来るのは我がグッドルーザー号ただ一隻のみ! これは私の時代が来たという奴だな!」
バーンさん嬉しそうだなぁ。
「ですので、船長は政敵に船を取り上げられない様に気を付けてください」
「う、うむ」
あっさり副長に釘を刺されてるよ。
「ふむ、確かに食料のアテが増える事は我等にとっても利益となりますな」
カームさんも貿易には好意的な反応だ。
故郷を捨てずに済むと分かって安堵の表情が見える。
「わ、我が国からも豊富な海産物を提供できますよ! 沖合の大きな魚が沢山提供できますよ!」
おっと、ここにきてメイリーンさん達海辺の国の人達も貿易交渉に加わって来た。
儲け話に乗り遅れない様に必死だなぁ。
「いやいや、貴国には飛行船がありませんでしょう? それに内大海でも海の魚は獲れますからな」
「ははははっ、しかし両国で管理すべき魔人に逃げられたのですから、我が国の損も補填してもらいませんと。船による魔人の移送は貴国が責任を持って行うと言っておられましたよね?」
「うぐぐ……」
熾烈な政治争いが繰り広げられているなぁ。
まぁその辺は専門家にお任せするとしよう。
一介の冒険者の僕には関係ないからね。
◆
「良いのではないか?」
カームさんから事情を聞いた天空王は目を瞑って思索にふける。
ちなみに、なぜか僕も会議の場に連れてこられていたりする。
国家間の貿易交渉の場に僕の存在は不要だと思ったんだけど、地上への移住の提案やグッドルーザー号の改造の件は僕が深く関わっているので、是非とも会議に参加して欲しいと頼み込まれたんだ。
僕が居ても意味ないと思うんだけどなぁ。
「貿易の件は認めよう。そして移住の件も民に伝えるが良い。望む者は地上へ移住してもかまわんと」
「よろしいのですか陛下?」
遠慮がちにカームさんが天空王に確認する。
「良い機会なのやも知れぬな……かつて我等の祖先は天空大陸の崩壊から逃れ、命からがらこの空島へと移り住んだ」
天空王の言葉を、騎士達が神妙な顔で聞いている。
「砦に残ったわずかなマジックアイテムで魔物達の襲撃から身を守り、人々の不安を払しょくする為に国を名乗った。だが地上に逃れる力を持たぬ我等は、いつか来たる終わりの日を恐れ疲れ果てていた」
天空王は玉座から立ち上がると、騎士達に告げる。
「我らがこの空島に移住したのは安住の地を求めての事。ならば先の無い空島にこだわる必要もない。カームよ、まずは貿易に使える品を用意せよ。そして騎士達は移住を望む者を集めるのだ。ただし、二度と故郷に戻れぬであろう事も伝えるのだぞ」
「「「はっ!!」」」
天空王の命を受け、騎士達が迅速に動き始めた。
「やれやれ、これで余もようやくこの重たい冠を脱ぐ事が出来そうだ」
そう呟いた天空王は、疲れてはいるものの晴れ晴れとした表情だった。
……この狭く逃げ場のない土地で、この人はこの人なりに必死だったのかもしれないな。
僕達を捕らえようとしたり、殺そうとしたのも、逃げ場のない民を守る為に被り続けていた王の仮面の所為だったのかもしない。
「この冠、結構首が凝るのだよなぁ」
おっと、意外にタフかもしれないぞこのおっさん。
◆
「という訳で、貿易の商品になりそうなものを探してみたのだが……」
貿易に使う商品を見繕う様に命令されたカームさんは、天空島に点在する各村の村長さん達を呼んで交易品となりそうな品が無いかの相談をしていた。
商品の選定にはグッドルーザー号の乗組員と、海辺の国の使者達も参加しており、自国に利益をもたらすものが無いかと商品の選定を行っている。
「ううむ、正直言いますと、貿易の商品にするには少々物足りませんね」
「我が国も同様ですな」
うーん、どうもめぼしい商品が無いみたいで交渉は難航しているみたいだ。
「これは困った。我が国のめぼしい特産品はこのくらいしかありませんぞ」
カームさんも他に出せる商品が無いと頭を抱えてしまう。
各村の村長さん達も、折角の商売が不意になりそうで不安げな様子だ。
「ええと、それじゃあ森島になにか売れそうな品が無いか探索してみませんか?」
「森島ですか?」
「ええ、森島は今までバハムートに占拠されて人が近寄る事が出来ないでいました。でも今なら森島に入る事が出来ますし、もしかしたら地上では希少な薬草などがあるかもしれません」
「成程、確かに森島の探索は元々必須の作業。ならばこれを機に大規模な捜索を行うべきですな」
まだ希望があると分かったカームさんが部下に森島の探索を命じる。
さて、森島に交易品になりそうな物があると良いなぁ。
◆
「ではこれより森島の探索を行う。今回は交易品となる品を捜す事が最優先ゆえ、魔物との戦闘は最小限とせよ」
「「「はっ!」」」
カームさんの指示を受け、騎士達が森島の中へと進んで行く。
「それじゃあ僕達も行きますか」
「ええ」
「キュウ!」
リリエラさんとモフモフが元気よく返事をする。
「バハムートとか魔人とかで碌に出番がなかったから、今回の探索じゃ頑張らないとね」
「キュウ!」
二人共やる気満々だなぁ。
「幸い、森は私の得意なエリアだから、期待してよね!」
「ええ、期待してますよ」
リリエラさんは故郷の皆の為に希少な薬草を捜していたんだし、お金になりそうな薬草の知識は豊富そうだ。
「キュウ!」
そしてモフモフはさっそく森の中へと飛び込んで行ってしまった。
多分魔物を狩りに行ったんだろうな。
まぁ、魔物が少なくなるのは良い事だし、モフモフも飛行魔法が使えるからちゃんと帰ってこれるだろう。
「じゃあ僕達も行きましょう!」
「ええ!」
二人で森の中を歩いていくと、鹿や兎といった野生の獣が何頭も姿を現す。
「意外に普通の獣も生き残っているのね。魔物に喰い尽されているかと思ったわ」
「多分ですけど、獣を食べる魔物はバハムートの餌になっていたんじゃないですかね。で、バハムートは小さい獣だと腹の足しにならないから見逃されていた。寧ろ餌になる魔物を呼び寄せる撒き餌として放置されていたんじゃないかと」
「成る程ね、そう考えると、上手く棲み分けが出来ていたのねぇ」
とはいえ、バハムートが居なくなってから魔物が活発化しているらしく、時折魔物に食い荒らされたと思しき獣の死骸も散見された。
ついでに奥に進むほどこっちを餌と勘違いして襲ってくる魔物もちらほらと姿を見せ始める。
「ここは私に任せてよね!」
そう言ってリリエラさんが槍を構えて魔物に向かっていく。
うーん、ちょうど良い獲物と戦えて活き活きしているなぁ。
「よし、それじゃあ僕は薬草を捜すとしようかな」
探知魔法でリリエラさんと周辺の魔物の状況を確認しつつ、僕は薬草を捜す。
「さすがに長年誰も入れなかったから、そこら中に薬草が溢れているなぁ。これなら暫くは採り過ぎを気にせず薬草を採取出来るぞ」
仮にこれらの薬草が貿易の目玉にならなくても、薬の材料が増えるのなら空島の人達の生活に役に立つから良いね。
「それにしても本当に薬草が多いなぁ……あっ、昔はこれを使って沢山ハイポーションを作ったっけ」
襲ってくる魔物を殴り倒しながら、懐かしい薬草を見つけて僕は前世の思い出に浸る。
特別希少な薬草って訳じゃないけど、これも薬草だし一応持っていこうかな。
よし、そこそこ色んな種類の薬草が取れたぞ。
森島はかなり大きな島だし、採り過ぎなければ貿易に必要な量を問題なく確保できるね。
「って……そういえば貿易をするのなら船が沢山要るよなぁ」
ふと僕は気付く。
ここは空『島』といってもかなり広い。
はっきり言って小国規模の大きさがある島だ。
となると貿易の量も町単位じゃなく国家単位だ。
そんな規模で貿易をするのなら、グッドルーザー号一隻ではかなり心もとない。
となると、もっと飛行船を増やした方が良いのかなぁ?
ああそうか、副長がもっと作れないかって聞いてきたのはその為だったのか!
「じゃあ、作っちゃおうか」
僕は前々世で上から作らされた輸送用の飛行船の事を思い出す。
性能が低すぎて戦闘にはとても耐えられないヤツだけど、少数の乗組員と荷物を運ぶだけなら問題なく出来る。
幸いリリエラさんとモフモフは魔物狩りに夢中だし、今のうちにちゃちゃっと作っちゃおう。
僕は魔法で作業用のゴーレムを生み出すと、周辺の手ごろな木の伐採を命じる。
「それじゃあ、作業開始っと!」
ええと、触媒はっと……ああそういえばメガロホエールから貰った宝石が使えそうだな。
なんだかよく分からないけど、魔力の伝達効率はよさそうだし。
僕はメガロホエールの宝石の原石を少しだけ削って飛行船の材料にする。
これだけあれば、飛行船がまだあと数百隻は作れそうだなぁ。
あとは、そこらへんに居る魔物を適当に狩って、核石を取り出そう。
それと一隻ずつ空島に運ぶのも面倒だから、船団のメインの船から他の船を操作できるようにしておこう。
うーん、ちょっとした日曜大工の気分だね!
◆
「よーっし、こんなもんかな」
新しい飛行船も完成したし、そろそろ帰るとしようかな。
「リリエラさーん、モフモフー、そろそろ帰るよー」
「はーい!」
「キュウー!」
リリエラさんとモフモフが意気揚々と獲物を持って帰ってくる。
「ここは良いわね、Bランククラスの見た事も無い魔物がたくさん狩れたわ……よ?」
と、嬉々として報告してきたリリエラさんの動きが止まる。
「どうしました?」
「なにそれ?」
リリエラさんが僕の背後で浮かぶ飛行船を見て絶句する。
「何って飛行船ですよ。グッドルーザー号だけだと貿易するには積載量が足りなさそうだったので、輸送用の船を追加で何隻か作っておきました」
「足りなそうだから何隻か作った!?」
「それじゃあ皆さんと合流してかえりましょうか」
「うわー、これは皆驚くわ……」
あはは、たかが輸送船で驚くわけないじゃないですか。
◆
「「「「薬草を採りに行ったんじゃなかったんですか!?」」」」
飛行船を見せたら何故か驚かれた。
(:3 」∠)副長「もしかして森島には飛行船が生えてるの!?」
(:3 」∠)カーム「(マジ!?)」
(:3 」∠)レクス「斬新な生態系だなぁ」
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