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第68話 再会、浮沈船の主

(:3 」∠)「みんな、すこしは涼しくなってきたけどまだまだ熱中症には気をつけてねー」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

 あの後、バハムートが投げてきた船を受け止めた僕達は、一旦空島へと帰還する事にした。

 というのも、保護した船の中に居るであろう船員達の安全を確認するためだ。

 この戦艦、グッドルーザー号の船員達の安否を確認する為にね。


 幸い、バハムートは船を投げつけて来ただけで、こちらを追撃する様子はなかった。

 船を投げて来たのも多分威嚇だったんだろう。

 ただ、僕の知ってるバハムートなら、こんな時は迷わず追撃してきたので、ちょっと拍子抜けだった。


 とまぁそんな訳で、僕達はこれ幸いとグッドルーザー号を空島に下ろし、船内へと入る。


「皆さん大丈夫ですか!?」


 船の中は魔法の灯りが灯されており、薄暗いながらも中の状況が確認できた。

 船内は食器や道具などがそこら中に散らばり、まるで大時化にでも遭遇したみたいだ。 

 幸いにも椅子や机は床に固定されていたので、それで怪我人が出る様な事態にはならなかったらしい。


「何者だ……」


 船の奥から聞き覚えのある人の声が聞こえた。

 その声音は硬く、強い警戒が感じられた。


「僕です、レクスですよバーンさん!」


「……レクス、だと!?」


 船の奥からガタンドタンと何かにぶつかったり蹴り飛ばす音を立てながら、バーンさんが姿を現した。

 どこかにぶつけたのか、あちこち擦り傷だらけだ。


「おお。本当に少年ではないか!?」


 バーンさんが嬉しそうに声をあげる。


「お久しぶりです。他の皆さんはご無事ですか?」


「ああ、何とか無事だ! そうか、突然船が凄まじく揺れたと思ったら、今度は急に静かになったのでどうなったのかと不思議に思っていたのだが、もしや君が我々を助けてくれたのか!?」


「まぁ、そういう事になりますかね」


「おぉー! やはりそうか‼」


 バーンさんは大きく喜びの声をあげると、船の奥に向かって声をかける。


「喜べ諸君! 少ね……レクス君が我等を救出してくれたぞ!」


「……レクス?」


「レクスだって?」


 船の奥から少しずつ船員さん達が顔を見せはじめる。


「本当だレクスだ」


「レクスが居るって事は、俺達本当に助かったのか!?」


「当然だろ! あのレクスだぞ!」


「だよな!? レクスならあんな魔物が相手でも一発だよな!」


 待って、今何か僕の事を過大評価というか、変な風に認識していなかった?

 けれど船員さん達の喜びに水を差すのも申し訳ないので、僕はあえてその言葉を飲み込む。


「レクスさん!」


 船の奥から新たに僕を呼ぶ声に振り向くと、そこには意外な人の姿があった。


「メイリーンさん?」


 なんとそこに居たのは海辺の国のメイリーンさんだった。


「なんでメイリーンさんが?」


 あれ? バーンさん達とメイリーンさん達は別の国の人間だ。

 それなのになんでメイリーンさんまでこの船に乗っているんだろう?


「レクス殿、中の様子はどうなっているのですか?」


 と、外からカームさんの声が聞こえてくる。

 いけないいけない、彼らにも事情を説明しないとね。


「とりあえず外に出ましょう。怪我人の治療も必要でしょうし」


 ◆


「エリアヒール!」


 僕は一か所に集まった怪我人を範囲回復魔法で治療する。

 幸いにも大怪我をした人間は居なかったので、簡単な治療だけで済んで良かった。


「いやー、十数人もの負傷者を一瞬で回復させるとは、さすがはレクス殿ですな」


 と言いながら、副長が感謝の言葉をかけてくる。


「いえいえ、簡単な範囲回復魔法ですよ」


「いえ、その様な回復魔法は初耳なのですが……」


 額に汗を浮かべながら、副長がそんな事を言ってくる。

 内大海の教会じゃあ範囲回復魔法を使える人間が居ないのかな?

 まぁ私腹を肥やす事を考える神官は魔法の修行を碌にしないから、それも仕方がないのかもしれない。


「王都の大きな教会なら、範囲回復魔法を使える人も居ると思いますよ?」


「そう……でしょうか?」


 副長は眉を顰めて半信半疑って感じだけど、普通に範囲回復魔法を使える人はたくさんいますよ。


「……レクス殿の言う王都というのは、もしや聖教国の王都の事か? 確かに聖女がいらっしゃるというあの国ならば先ほどの様な大魔法を使える僧侶も居るだろうが……」


 副長さんがブツブツと呟きながら考え事を始めてしまったので、僕は話し合いをしているカームさんとバーンさんの下へと向かう。


「この度は我々を受け入れて貰い、誠に感謝いたします」


「本来なら我が国への侵入者はどのような理由があろうとも捕らえるのが決まりなのだが、貴公等がレクス殿のご友人とあれば、我々も歓迎いたしましょう」


「それはありがたい。少ね……レクス殿の導きに感謝ですな」 


「ええ、全くです」


 普段僕を少年というバーンさんだけど、こういう時はちゃんと名前で呼んでくれるんだなぁ。

 でもなんでいちいち僕の名前が会話に入るんだろう?


「ところで、神聖天空王国セラフィアムとはどこにある国なのですかな? あの巨大な魔物によって船ごと空へと連れ去られた際に慌てて船内に逃げ込んだため、どこを飛んでいるのか全く分からなかったのですよ」


 あー、確かに、船の中に隠れていないと、いつ地上に真っ逆さまになるか分かんないもんね。

 更に言うとこの国の場所はバーンさんが思う以上にびっくりする立地ですよ?


「バーンさん、この国は海辺の国から南方に向かった先にある平原の国の上にある国です」


「南方の国の上? つまりやや北よりという意味かね?」


 バーンさんは脳内に内大海近辺の地理を思い浮かべて考えているんだろうけど、ちょっと違う。

 地図に描かれた平面上の上じゃないんだよね。


「いえ、地図的な意味での上ではなく、文字通り空の上です」


「空の上?」


 バーンさんがどういう意味かと首を傾げる。


「ここは空島といって、空の上に浮かぶ島ですよ」


「……」


 バーンさんが何言ってんだコイツと言わんばかりの目で僕を見る。


「いやいやいや、いくら少年でも冗談が過ぎるぞ。島が空の上に浮かぶとかありえんだろう」


 まぁ、リリエラさんの時の反応からして、こう言われる気はしていたよ。

 どうもこの時代の人達はあまり自分達の住んでいる場所以外の事は知ろうとしないみたいだ。


 ちょっと調べれば、外の土地の情報なんていくらでも手に入るだろうに。

 元難民のカームさん達は仕方ないけれど、ずっと昔から騎士の家系だったバーンさん達まで外の情報に疎いのはマズくない?


「バーンさん、それに船員の皆さんもこちらに来てください」


 こういう時は説明するよりも実物を見せるのが早い。

 僕はグッドルーザー号の皆を引き連れて、空島の端へと連れていく。


「足元に気を付けて下を見てください。あっ、あまり端に近づき過ぎないで!」


 バーンさん達が一体何事かと下を見る。

 最初は何これ? って、顔だったのが、次第に青ざめたり、目を丸くしたりと皆の表情が変わっていく。


「しょ、少年!? これは一体!?」


 うんうん、皆自分達の置かれた状況が分かって来たみたいだね。


「先ほど言った通り、ここは空島という空に浮かぶ島です。皆さんはバハムートによってこの島まで運ばれてきたんですよ」


「空……島……」


 ◆


「少年が去った後、我々は魔人の処遇について話し合う事となった」


 自分達が空の上へと連れてこられた事を知ってショックを受けたバーンさん達だったけれど、時間を置いた事で少しずつ落ち着きを取り戻し、これまでの経緯をポツポツと語り出した。


「クラーケンの件を発端にして魔人を捕らえるに至った我々と、自国で起こった事件である事から魔人の身柄は自分達にあると主張する両国の間では激しい言い争いが続いた。結果として魔人の身柄は両国が交代で預かり、情報を引き出す事となったのだ」


 それで、メイリーンさんが海辺の国の使者として同行していたって訳か。


「だが、魔人を船で運んでいた時、あの巨大な魔物が突然襲い掛かってきて、我等は船ごと空高くへと連れ去られてしまったのだ。我々は地上に落とされない様、慌てて船内に逃げ込んだが、その際のどさくさで魔人に逃げられてしまった」


「魔法を封じられた魔人が逃げた!?」


 それはおかしい。アレを付けられて体も拘束されていた魔人が自力で逃げられる訳が無い。

 と、そこで僕はバーンさん達を船ごと攫ったバハムートの事を思い出す。

 もしかして、バハムートもクラーケン同様魔人が関わってるんじゃ……


「後はレクス君も知っての通りだ。助けて貰い、本当に感謝している」


 バーンさんが僕に敬礼をすると、後ろに居る船員さん達もそろって敬礼をしてくる。


「いえいえ、単に飛んできた船を受け止めただけですから、そんな大した事はしていませんよ」


「「「「……」」」」


 あれ? どうしたの皆? そんな真面目な顔して。


「レクス君」


「はい?」


「良いかい? 普通、生身の人間は船を受け止める事なんて出来ないんだよ?」


「ええ、分かっていますよ。だから魔法を併用して受け止めました。いくら僕でも生身で受け止める事は出来ませんよ」


「「「「分かってないっっっ!!」」」」


 え? どういう事!? 何で皆叫ぶの!?


「まぁまぁ、レクスさんのいう事ですから」


 リリエラさんが良く分からないフォローをしている。それ、フォローじゃないですよね?


「ううむ、確かにレクス君だからなぁ」


え? それで納得するの皆!?


「だが困ったな。空の上の島など、どうやって地上に降りれば良いのだ」


 冷静さを取り戻したバーンさん達は、今後の事についての相談を始める。


「本来なら軍が大金を支払って建造したこのグッドルーザー号を持ち帰ることを考えねばならぬところなのだが、それ以前に我々が戻る方法すら考え付かないぞ」


 あー、最新鋭戦艦だもんねぇ。

 これを空島に残したらそりゃあ大損害だよ。


「レクス殿、飛行魔法を使えるレクス殿でしたらこの船を地上に下ろせるのではないですかな?」


 そんな時、副長が僕を見てそんな事を聞いてきた。


「おおそうか! この船を受け止めた少年ならきっと可能だろう!」


 んー、この船を地上にねぇ……


「それは出来ると思いますけど……」


「おお、まことか!? ではさっそく!」


「ただ、この辺りの川ではこの船を運用するだけの深さと幅を持った川はありませんよ? この辺り内陸の土地ですし」


「何っ!?」


 うん、飛行魔法でここに来るまでの間にそんな大きな河は見当たらなかった。

 だからただ地上に下ろしただけでは結局運ぶのに物凄い人員と予算と時間が必要になるだろう。


 あと周辺国家に対しての交渉も必要になるだろうからね。


「おおおおっ、まさか大河すらないとは……」


 立地の悪さばかりはどうしようもないよねぇ。


「まぁ船の件は後にしましょう。バーンさん達だけなら僕達で地上まで送りますから」


「うむ、そうだな。命を救われたというのに、船までも運んでほしいというのはさすがに贅沢というものだな。すまない少年、我等85名を地上まで運んではもらえないだろうか?」


「……85名?」


「む? ああ、我が船の船員だけでなく、ヴェルティノよりわが国に向かう予定だったメイリーン殿をはじめとした使者達がいるからな。……まさか無理なのか!?」


 バーンさんは焦るけど、運ぶだけなら別に問題は無い。

 けど、その人数をいちいち運ぶのも面倒くさいなぁ。


 リリエラさんに協力して貰っても一度に一人が限界だろうし、カームさん達の羽根は修理して性能が戻ったけど、基本的に一人用だから成人男性を運ぶのはちょっとなぁ。


 んー……面倒だから、船を飛べる様に改造するかなぁ。

 幸い、この島には幾らでも飛行用マジックアイテムに改造する為の材料があるんだから。


「バーンさん」


 僕はバーンさんに声をかける。


「なんだ少年?」


「皆さんを一人ずつ運ぶのでは少々時間と手間がかかります。ですので、皆を纏めて運ぶ為にちょっと船に細工をしてもよろしいですか?」


「船に? まぁこのままでは使い物にならんからな。迅速に地上に下ろすために使うというのであれば好きにしてくれて構わんぞ。どのみちここにおいていくしかないからな」


 よし、バーンさんの許可も取ったから、次はカームさんのほうだ。


「カームさん。ちょっと天空王に許可をお願いしたいんですけど」


「陛下にですか?」


 カームさんが何事かと僕に聞いてくる。


「実はですね……」


「はぁ、この空島の石が沢山欲しいですか? 石ころぐらいなら許可の必要も無いでしょうが、レクス殿がおっしゃるのなら伺ってまいります」


 うん、空島の大地に含まれるグラビウムが欲しいからね。

 とはいえ、グラビウムはかつて天空大陸でも採取が禁止された品だ。

 だから一応は国の王である天空王の許可を取っておかないとね。


 そして数時間後、天空城から戻ってきたカームさん経由で天空島の素材を使用する許可が下りた。


「面倒事がさっさと消えてくれるのなら石ころぐらい幾らでもくれてやるとの事です」


 戻ってくるのに時間がかかったのは、バーンさん達の事を報告していたかららしい。


「普通ならバーン殿達も捕らえなければならないのですが、レクス殿の知り合いと聞いて物凄く嫌そうな顔をした後、さっさと帰らせろとおっしゃっていましたから」


 一国の主とは思えない判断理由だけど、余計な手間が掛からないからいいか。

 これで素材のアテも出来たし、ちゃちゃっと改造を済ませてしまおう。


 普通の飛行用マジックアイテムとして改造するのもありなんだけど、この船の大きさだとちょっと今は手持ちの材料が足りないから、今回はグラビウムを使った飛行船に改造しよう。


 ◆


 私の名はバーン・ドバッグ。

 ティオン国内大海騎士団団長にして最新鋭戦艦グッドルーザー号の船長だ。

 そして今は実質船を失ったに等しい男だ。

 ついでに捕虜にも逃げられた男だ。


 いかん、考えれば考えるほど辛くなってきた。

 だが幸いにも少年のお陰で部下共々命だけは助かった。

 空島などという場所には驚いたが、少年のお陰で地上に戻るアテは出来た。

 代わりに愛船は失うことになるが。


 ああ、わずか一ヶ月も経っていないのに軍の最新鋭戦艦を失うなど、どんな厳罰が待っている事やら。

 今から胃が痛くなってくる。


 しかもその愛船は少年が我等を地上に降ろす為になにやら作業をするとの事だ。

 おそらく複数の船員を纏めて運ぶ為に大きなタンカの様なものを甲板の板を切り出して作るつもりなのだろう。

 伝説の魔物、エンシェントプラントの素材で作られた船の末路がタンカとは、哀れなものよ。


 そして翌朝、野宿をして夜を明かした我々の元に少年がやってきた。


「船の改良が終わりました!」


 改良か、戦艦からタンカに華麗なる転身という訳だ。


「じゃーん、これが新しいグッドルーザー号の姿です!」


 と、少年が指差したのは、甲板の部品を解体されたはずの我が愛船だった。


「少年、何処が新しいのだ?」


 我々を地上に運ぶためのタンカを作ったのではないかね?


「おっと、外から見ただけじゃ分かりませんよね。じゃあ実際に動かしてみますね」


 そういって少年は船の上に上がり、舵輪を握る。


「動かす?」


 少年の言いたい事が良くわからないのだが。


「では、新生グッドルーザー号発進!」


 そう、少年が言った瞬間、我が船が浮き上がった。

 宙に、浮いたのだ。


「「「「「…………は?」」」」」


 船が浮いている。

 見間違いなどではない、船底が確かに見えるのだ。


「こ、これはどういう事だ少年!?」


 私の船はタンカの材料にされたのではないのか!?


「いえね、いちいち全員を運ぶのが面倒だったので、一度に全員を運べるようにこの船を飛行船に改造したんですよ」


 何を言っているのか良く分からない。

 

「これなら簡単に皆さんを運べるでしょう?」


 よく分からないが確実に言える事がある。

 それは……


「「「「「簡単じゃないっっっ!!」」」」」


 今、グッドルーザー号の船員とヴェルティノからの客人達の心が一つになった。

(:3 」∠)船長「これで沈まなくなる!」

(:3 」∠)船「喜ぶ前に名前を変えてくれ!」


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[良い点] またやらかしたぁ(笑)
[一言] 理論上は、簡単だが、現実的にはほぼ不可用な事をサラッとする主人公
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