第64話 嵐天の支配者と魔導の驚品
(:3 」∠)「ふ、複数のシメキリが……」
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余は天空王、天に浮かびし空島の王にして、神聖天空王国セラフィアムを統べる偉大な支配者である。
実は真の王族ではないのだが、この空島の秩序を守る為には仕方がない事だと先祖の書いた古文書には書かれていた。
余も良い暮らしが出来るのでそれで良かったと思っておる。
ちなみに王として即位した余に平民のごとき名はなく、天空王こそが余の名だ。
そして現在王妃募集中。
余が王位に君臨して十数年、食料問題やマジックアイテムの性能劣化などといった多少の問題は出ておったが、とりあえず国はまとまっておった。
そしてこれからも平穏に国を纏めていく筈であった。
あの地上人が我が国にやって来るまでは。
わが国に不法入国者が現れたと聞いた余は、信頼する天空騎士団に命じて侵入者の捕縛を命じた。もちろん逆らえば殺してかまわんとも伝えて。
だがレクスと名乗る地上人は恐るべき強さで騎士団や近衛騎士隊を打ち破ってこの天空城を襲撃し、あまつさえ余の切り札であるゴーレム軍団までも破壊してしまった。
正直死ぬかと思ったのだが、何故かかつて存在した天空大陸が崩壊した理由を知らないかと聞いてきた。
良くは分からぬが、余が親切にその質問に答えてやると、この小僧はあっさりときびすを返して帰ろうとしたではないか。
一体何をしにきたのだ?
まさか本当にその質問だけが目的だったというのか?
そしてそんな余は、何故か森島へとやってきていた。
「何故余が危険な森島などに……」
せっかく強者が来たのだからと、余はダメ元で食料問題の元凶である魔物退治を頼んでみた。
マジックアイテムの劣化問題もあったからのう。
そしたらあのレクスとかいう小僧、余を無理やり森島まで引っ張ってきたのだ。
魔物退治をしてやるから間近で見ろと言ってな。
一応騎士団と近衛部隊は同行しておるが、森島に巣くうあの恐るべき魔物には到底かなうまい。
はっきり言って今すぐ帰りたい。
もしかして仕事を頼む相手を間違えたのではないだろうか?
「ではこれから森島を占拠する魔物達の討伐を行います!」
小僧が騎士団の前に立って宣言する。
まったく憎らしい小僧だが、その力は認めざるを得ない。
精々余の役に立つが良い。
役に立ってくれんと余の命が危ない。
「それでレクス殿、一体どうやって森島の魔物達を討伐するのですか?」
カームが小僧に具体案の提示を求める。
いかにあの小僧が強かろうとも、何の策も無しにこの広い森島に潜む魔物共を倒しきるのは不可能だからだ。
空島というのはこれで意外と広い。
たしかにかつての天空大陸に比べれば狭いが、それでも大きな空島なら小国に匹敵するサイズがある。
余が足を運んだこの森島も、空島の中ではそれなりの大きさであり、島の大半が森であった。
というか、それくらい大きくなければ、何百年も我が国の民を養う事など出来ぬ。
「それはこれを使って解決します」
と、そこで小僧が取りだしたのは、先日余の宝物庫で見つかった魔法の箱とやらに入っていた財宝だった。
「何を馬鹿な事を。首飾りなどで魔物を倒せるものか」
そう、小僧が取りだしたのは、財宝の一つであるネックレスだ。
確かに大きな宝石がいくつも付いているので金銭的な価値は高いだろうが、そんなもの魔物退治には何の役にも立たん。
「いえいえ、それがそうでもないんですよ。じつはコレ、マジックアイテムなんです」
マジックアイテム、そう小僧は言った。
「それが? マジックアイテムだと?」
「ええ、これは紛れもなくマジックアイテムです」
「どんなマジックアイテムなの?」
小僧の仲間の、確かリリエラと言ったか……その娘がどのようなマジックアイテムなのかを小僧に質問する。
うむうむ、余の代わりに働くが良い。
「それは実際に見て貰った方が早いですね」
そう言うと、小僧はネックレスの宝石に触れた。
「このマジックアイテムは身代わりの破滅という名のマジックアイテムです」
何だそのあからさまに不審な名前は。
「このマジックアイテムは真ん中の宝石を押し込むと、効果が発動します」
小僧の言葉に呼応する様に、森がざわめきだす。
「な、何事だ!?」
「陛下! おさがりを!」
カームとバルディが余の前に出て武器を構える。
うむ、余を守るが良い。
「小僧! そのマジックアイテムの効果とは何なのだ!? 今起きている森の異常と何か関係があるのか!?」
余が質問すると、小僧は笑顔で頷いた。
「はい、このマジックアイテムは、発動すると周囲5km以内に居る魔物を呼び寄せる囮のマジックアイテムなんです」
成る程、魔物を引き寄せるから囮のマジックアイテムか。
「って、囮ぃぃぃぃぃぃっ!?」
ちょっと待て!? それはつまり、周辺に居る魔物が全てここに集まると言う事ではないのか!?
「「「「ギャオォォォォォウ!!」」」」
森の中から何十体もの魔物が姿を現す。
「ひぃぃぃ!?」
「総員陛下をお守りしろ!」
騎士団が世を守るべく周囲を囲むが、魔物は騎士団の二倍以上の数だ。
とても勝ち目などない。
「は、早くそのマジックアイテムのスイッチを切らぬか!」
「大丈夫ですよ。もう一つのスイッチを押して……えい!」
小僧がまたネックレスを弄ったと思ったら、今度は森の奥の空へ向かってネックレスを勢いよく放り投げた。
そして魔物達が小僧の投げたネックレスを追って空に舞い上がる。
成程、ネックレスに引き寄せられるのなら、ネックレスを遠くに捨てれば魔物は離れていくという訳だな。
うむ道理である。
「それで、これからどうするのだ?」
「ええ、こうして魔物をおびき寄せて暫くするとですね……」
小僧は一度言葉を区切ってから告げる。
「ネックレスが大爆発します」
「……何?」
その瞬間、凄まじい爆音とともに、空が光に包まれれた。
「な、なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」」
「「陛下!!」」
カームとバルディが余を庇って爆風から守る。
良いぞお前達! それでこそ余の家臣だ!
そうして、光と爆風が消えた後には、あれほどまで居た魔物達はことごとくが姿を消していた。
残っているのは吹き飛んだ魔物の一部くらいよ。
「キュウ!」
小娘が抱きかかえていた獣が飛び出し、散らばった魔物の肉を喰らい始める。
少しはこの状況に怯えぬかケダモノめ!
「と、このように、身代わりの破滅は魔物を引き寄せた後爆発して何もかも吹き飛ばすマジックアイテムなんです」
「なんだその危険物はぁぁぁぁぁぁっ!?」
一体誰がこのようなイカレタマジックアイテムを作り出したのだ!?
「いやー、魔物を引き寄せるから身代わりで、爆発するから破滅とはなかなかシャレの利いた名前ですよねぇ。これ、護衛が主を守る為に使う身代わりアイテムなのか、それとも誰かを暗殺したり、何も知らない相手を身代わりにする為の二段構えの罠だったのかで評価が分かれますよね」
「どっちでも最低のアイテムだぁぁぁぁぁ!!」
なんでこんな悪趣味なマジックアイテムがわが城に隠されておったのだ!?
「まぁでもこのマジックアイテムのおかげで僕達は一人の犠牲も出さずに多くの魔物を倒す事が出来ましたよ」
「む、それはまぁ、良い事だな」
「ちなみにこのマジックアイテムに使われていた宝石の大きさから推察するに、金額に換算したら金貨数百枚の価値があったでしょうね」
「なにぃぃぃぃぃぃぃ!?」
金貨数百枚の価値だと!? 確かに余の天空王国は食料を地上の貢ぎ物で賄っておるが、それでも貨幣を使った取引がないわけではない。
実は貢ぎ物を要求している町に極秘で、地上の別の町の商人達と取引しておるくらいだからな。
勿論天空人とバレない様に羽を外しての取引を命じておる。
なにせ余は王だ。
王たるもの、経済を回す為に贅沢する事も大事な役割だからな。
という訳で金貨数百枚という価値の宝石を爆破したという小僧の発言は聞き捨てならぬものだった。
「ま、まさか小僧……他のマジックアイテムも金目の物なのではないだろうな?」
「……」
小僧が無言で笑顔になる。
「お、おい、余の質問に答えぬか!」
「いやー、空島の皆さんの大事な狩り場をとり戻さないといけませんもんね!」
そう言って小僧が懐からいくつものマジックアイテムらしき財宝を取りだす。
どれも明らかに高額であろう装飾や宝石が付いている。
「余の質問に答えろぉぉぉぉぉぉ!!」
一体それにはいくらの価値があるのだぁぁぁぁぁ!!
◆
あっはっはっ、楽しいなぁ。
まぁね、この王様が本物の王様じゃなく、人々を纏める為に王様をしていると分かった時点で、僕はこの王様を本当の意味での敵と認識する事は出来なくなってしまった。
とはいえ、問答無用で捕まえようとしたり、殺そうとしたり、口封じをしようとしたのは事実なので、そこらへんの詫びはして欲しかったんだけどねぇ。
結局この王様、謝ってくれなかったし。
そして色々あって宝物庫に来た僕は、そこで見つけた魔法の箱の中に入っていた財宝を見つけた時にピンときた。
あっ、これマジックアイテムだって。
明らかに不自然なほど魔力の篭った宝石や、装飾に見せかけた魔力回路が付いていたソレは、古いマジックアイテムに良くみられる偽装だ。
効果については前世と前々世で知り合いの所持していたマジックアイテム自慢を覚えていたり、国の図書館に収蔵されていたマジックアイテム図鑑に説明が書かれていたので使い方も分かったんだ。
ああ、あとモノによっては造った本人を知っていたというのも大きかった。
まさか転生した先で前世の知り合いの作ったマジックアイテムを見る機会があるなんて思わなかったなぁ。
で、僕はそれらのマジックアイテムを上手く処分する方法を考えて一つの考えに至った。
そうだ、これで天空王をビックリさせちゃえって。
とまぁそんな訳で、僕は貴重で高価なマジックアイテムを次々に使い潰して天空王を驚かせていた。
売れば金になるからもったいないと思うかもしれないけど、どのみちこんな危険なアイテムを市場に流すわけには行かない。
それならこうして人の役に立てた方がマシってものさ。
僕も命を狙われた意趣返しが出来て楽しいから一石二鳥だね!
ちなみにリリエラさんには爆発させた直後に手短に説明を済ませてある。
そういう大事な事は先に言えって叱られたけど。
という訳で、残りのマジックアイテムも使っちゃうぞー!
まぁ全部使い切ったらこれで手打ちにしてあげるよ。
◆
小僧が森の中を突き進んで行くと、前方から身の丈20mはあろうかという魔物が姿を現す。
騎士達が迎撃を始める前に、小僧が手にしたマジックアイテムをかざす。
「これが金貨1500枚相当のマジックアイテム! 一度使うと粉々に砕けます!」
「だから待て!」
マジックアイテムから眩い光が放たれ、魔物を真っ二つに切断した。
「ギシャァァァァ!!」
今度は巨大な角を生やした昆虫型の魔物が現れる。
小僧が美しい装飾が施された剣を抜く。
ようやく普通に戦うつもりになったか。
「このマジックアイテムは金貨2000枚の価値があります! 勿論使うと吹き飛びます! 使い方は投げる!」
「何故その使用法で剣の形をしておるのだ!?」
剣が魔物の額に突き刺さると、魔物は跡形もなく吹き飛んだ。
「おっと、あの魔物は厄介ですね。これは金貨3000枚分の価値があるのは確実なこの使い捨てマジックアイテムで倒しましょう! 勿論一度使ったら跡形もなく壊れます」
「少しは躊躇えぇぇぇぇっっ!」
だから! 何故! この小僧はこうも! 躊躇なく! 貴重で高価なマジックアイテムを使い潰す事が出来るのだ!?
今まで一体どれだけの金額をドブに捨てたのだ!?
ええい! この小僧、一体何を考えておるのだ!?
そうして、次々と現れる魔物の群れをマジックアイテムの使い捨てでなぎ倒し、我等は森島の奥深くまでやって来たのだった。来てしまったのだ。
ああ、また高価なマジックアイテムが粉々に……。
既に騎士団の目は遠い所を見つめており、小僧の仲間の小娘ですら諦めた目で見つめている。
「おや? 大物のお出ましかな?」
と、小僧が呟いた時だった。
「つ!?」
余の全身が悪寒に包まれた。
「っ……っ!?」
声をあげようとしても、体が竦んで声が出ぬ。
余だけではない、カームやバルディ、それに騎士団も同様だ。
平然としているのは小僧だけだった。
こ、これは、まさか……。
余は幼い頃、父である先王によって空島の端につれてこられた日の事を思い出す。
そこから二人で森島を見ながら、父は余に告げた。
「見よ、あれが我等より生活の糧を奪った憎き敵の姿だ」
余は森島の木々を超えてそびえ立つその魔物を見て、強い恐怖を覚えた。
その日の恐怖が、再び余を襲っていた。
それも今度は島の向こうからではなく、至近距離でだ。
「グォォォォォォォン!!」
漆黒の鱗を持つ恐るべき魔物が、自らの縄張りを荒らす侵入者を滅ぼす為に動き出す。
「嵐天の魔獣、バハムート……」
それこそが、かつて我が国を襲い、今もなお空島を悩ませる破滅の魔物の名であった。
「バ、バハムートって、Sランクの中のSランクって言われる最強クラスの魔物じゃないの!?」
ここに来て小僧の仲間の小娘が悲鳴をあげる。
はははっ、ようやく状況を把握したのか、愚かな娘だ。
だがちょっとだけ同情するぞ。
「レ、レクス殿! あの魔物こそ我等よりこの森島を奪った憎き魔物です!」
カームが興奮して叫ぶが、お前は本当に小僧があの魔物に勝てると思っておるのか?
「グォォォォォン!!」
「っ!? お、おぉ……」
イカン、バハムートに捕捉された。
余はバハムートの放つ怒りと殺意に晒され、意識を失いそうになる。
ただ存在しているだけで恐怖を煽られる。
本能が勝てぬと、逃げても無駄だと叫ぶ。
ああ、やはり、やはり無理だったのだ。
小僧がどれだけ強かろうとも、どれだけ強力なマジックアイテムを使おうとも、この規格外の魔物の前では全くの無意味……
「てい!」
小僧の全く気合が入っていない声で、バハムートの頭が吹き飛んだ。
「……?」
ん? 余は何かおかしなことを言わなかったか?
よりにもよってバハムートの頭が吹き飛んだなどというバカバカしい事を。
余は立ち上がったバハムートの姿を見る。
うむ、やはり頭が無いな。
……無い?
いやいや、いくら何でも見間違いであろう?
もう一度余はバハムートを見る。
うむ、やはり頭は無いな。
「……え?」
よは、もういちど、ばはむーとのあたまがふきとんでいることを、かくにんした。
「無いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
この日、我等を長年にわたって苦しめてきた恐るべき魔物は、頭を失って死んだ。
もうやだこの小僧。
(:3 」∠)天空王「胃が……」
(:3 」∠)バハムート「頭が……」
(:3 」∠)リリエラ「事前説明が……」
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