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第62話 天空王と受け継がれし名

 (:3 」∠)「夜明け前なので今日中に更新したという事でひとつ」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

「天空王の玉座はこちらです」


 あの後、僕達に完全敗北した近衛隊長は羽を始めとした装備を直す代わりに天空王の下へと案内する事を受け入れた。


「しかしアレですな。レクス殿の技師としての腕は見事と言わざるを得ません。こうして城の中であっても羽を使って自由に飛べるのですからな!」


 近衛隊長が愉快そうに語りながら決して広いとは言えない通路をゆっくりと飛行する。


「は、はははっ……これ程の技術を惜しげもなく提供できる相手に挑んだのが間違いであったのだな……」


 何故かその笑い声は掠れており、なんだか自暴自棄の様にも感じた。


「ところでこの城はなんでこんなボロボロなんですか? というか、そもそもここは城じゃなくて砦なんじゃ……」


 とりあえず王様の居る場所まではまだかかりそうだから、僕はこの城を見た際の違和感について質問してみた。


「それについては我々も良く知らないのです。伝え聞くには初代天空王陛下が、ここを城と定めたとの事です」


 ふむ、何か理由があってここを本拠地として選んだって訳か。


「でもなんでこんなボロボロなの?」


 僕が雑談を始めたので、リリエラさんもこの城について疑問を口にする。


「それは……」


 一瞬近衛隊長はカームさんに視線を送るけど、カームさんが全く反応しなかったので溜息を吐いて質問に答えた。


「この空島の岩や鉱物は特殊な組成をしていまして、加工するには少々問題があるんですよ」


 ああ、グラビウムの事だね。


「昔はそれらを何とかする手段があったんですが、今はもうその技術も失われてしまって。それでこの様な応急措置をするにとどまっているそうです」


 確かに、わずかな魔力でも浮き上がってしまうグラビウムを含んだ素材が建物の建材として使われたら、その部分だけが浮き上がってしまうだろう。


最初の内は繋ぎとなっている接着剤の類で固定されていたとしても、何度もその部位が浮き上がろうと動き続ければ、いずれは壊れて空に飛んでいってしまうだろう。

 きっと過去にそうした事例があったから、しかたなく砦の修復は諦めたんじゃないかな。


「そんな状態でもここを本拠地として使い続けたのね」


 そう、リリエラさんの言う通り、それでもここを本拠地として使わざるを得ない理由があったんだろう。

 立地の問題か、それともこの砦の何かが必要だったのか。


 疑問は解決するどころかどんどん増えていくなぁ。


 ……でもまぁ、それはそれでの冒険者の旅らしくてワクワクするというのはあるかな。

 消えた天空大陸と謎の種族、そして半壊した砦。

 まるで物語の舞台のようじゃないか。


 大剣士ライガードの物語の中でも屈指の人気エピソードである、海底迷宮の冒険譚を思い出す謎のオンパレードだね!


 ◆


「ここが天空王陛下のおわす玉座の間です」


「ここが?」


 玉座の間の扉と言うには、普通のドアだなぁ。


 そして近衛隊長が扉をノックをする。

 

「陛下、バルディでございます」


 あっ、近衛隊長ってバルディって名前なんだ。


「……入れ」


「失礼いたします」


 中から返事が聞こえると、近衛隊長、いやバルディさんがまず先に入る。


「どうぞお入りください」


 カームさんが僕達を促したので、それに従って謁見の間に入るとその後ろからカームさんがついて来てドアを閉めた。


「これは……」


 部屋の中に入った僕の目にまず映ったのは、壁際に所狭しと置かれた鎧の群れだった。

 それはまるで主を護衛する騎士達の様で、部屋に入った人間を威嚇しているようでもあった。


「というかこれって……」


「遅かったな。不法入国者は捕らえたのか?」


 前方から聞こえてきた声が、鎧に奪われていた僕の意識を引き上げる。

 部屋の奥には大きな机が置かれ、その奥に一人の男性が座っていた。

 あれが天空……王?


 それはまさしく王様だった。

 頭に冠を被って肩から赤いマントを羽織った、いかにもな王様ルックの男性だった。


 ただ、その姿はあまりにもこの部屋には不釣り合いだった。

 何しろこの部屋は、どう見てもただの仕事部屋だ。


 大きな机はそれなりに良い物みたいだけど、それはあくまで砦の責任者が座るにはというレベルで、とても王様が座る玉座や机には見えなかった。

 

「陛下、遠方よりいらした客人をお連れいたしました」


 そう言って、バルディさんが僕達を紹介する。


「こちらは旅のマジックアイテム技師のレクス殿と同行者であるリリエラ殿です」


「客人? マジックアイテム技師?  何を言っておる? 余が命じたのは不法入国者の逮捕だぞ? 何故このような怪しげな者達を連れて来た? 余はそのような命令はしておらぬぞ?」


 まぁそう言いたくなるのも分からなくはないかな。


「そ、それが……こちらのレクス殿は相当な技術を持つ技師でして、我が国にとって非常に有益な人物と判断し連れて来た次第です」


「それがどうしたと言うのだ! 余は捕らえよと命じたのだぞ! さっさとその者達を捕らえよ!」


 しかし天空王の命令に対して、カームさん達はまったく動こうとしない。 


「どうした!? 何故余の命令を聞かん!?」


 命令に従わないカームさん達に天空王が激怒する。


「じ、実は、こちらの方々はとんでもない強さでして、我等騎士団が総出で当たったにもかかわらず手も足も出ませんでした」


「我等近衛騎士団も……同様です」


 カームさんとバルディさんが申し訳ありませんと天空王に頭を下げる。


「お前達が勝てぬ相手だと!?」


 天空王が信じられないといった顔で僕を見てくる。


「始めまして天空王陛下、僕は旅の冒険者で名をレクスと申します」


 とりあえず笑顔で挨拶しておこう。

 カームさん達が束になっても勝てなかったと伝えてくれたんだから、妙な真似はしてこないだろう。


 と、思っていたんだけど、天空王の反応は僕の予想の真逆だった。


「黙れ下郎! 平民ごときが余に話しかけるなど不敬の極みであるぞ!」


 ありゃりゃ、怒らせちゃった。

 これは話が通じないほうの貴族だったみたいだなぁ。


 貴族には、話の通じる貴族ととにかく平民のことなど知った事かと自分の都合だけを押し付けてくる貴族に分かれる。

 大抵の貴族は平民の事なんてどうでもいいと思っているんだけど、前者は自らの利益になるなら会話が成立する。


 でも後者は利益とか状況とか関係なく、とにかく自分より下の立場の者の話を聞かない。

 自分より立場が下の者は自分に命令されたらそれを完遂するとかたくなに信じているんだ。 

 なので、命令を実行しないと子供の様に癇癪を起こす。

 それこそ今みたいに。


「余をだれだと思っておる! 余はかの魔人戦争の時代から天空大陸を支配してきた、偉大なるセラフィアム王家の末裔なるぞ!!」


 ほらこれだ。

 思い通りに行かなかったらとにかく家の名前を持ち出してくる。

 本当にうんざりするパターンだよ……って。


「セラフィアム王家?」


 その名を聞いた僕は、思わず聞き返してしまった。


「そうだ! かつて天空大陸を統べた偉大にして唯一無二の支配者セラフィアム王家だ!」


「何それ?」


 いやホント何それ?


「な、なに!?」


 王家と聞いて僕がひれ伏すと思っていた天空王は、予想外の反応に戸惑う。

 だって僕もセラフィアム王家なんて名前を聞いたのは生まれて初めてなんだもん。

 それこそ前世でも前々世でも聞いた事のない名前の王家だ。


「ふ、ふん。無知な貴様に教えてやろう。セラフィアム王家とは、かつてこの空に存在した巨大な空島、天空大陸を統べていた偉大なる王家の名なのだ!」


「いやそれは嘘でしょ」


 間髪いれず僕は天空王の言葉を否定した。


「な、なんだと!?」


 天空王はさっき自分が魔人戦争の頃から続く王家だと言ったが、そもそもそんな王族は天空大陸には存在しない。

 少なくとも、僕が魔人と戦っていた時代には。


「天空大陸の王族はスカイアーク、ライサンドラ、オーシルフェス、ストルムバル、クレウダムの5王家のみ。魔人との戦いが行われていた時代にセラフィアム家なんて王家は存在しませんでした」


「な、何をいい加減な事をっ!?」


 天空王が否定しようとするけど、そうはいかない。


「いいえ、いい加減な話などではありません。当時天空大陸は5つの国が支配しており、他の国が入り込む余地などありませんでした。何故なら5つの王家によって天空大陸を支配していた事から、天空大陸の王達は5星王と呼ばれていたからです。6つ目の王が居たら6星王になってしまうでしょう?」


「なんと、そのような話は初めて聞きましたぞ」


「うむ、天空大陸が滅びる前の文献は散逸して久しいと亡き父上もおっしゃっていたからなぁ」


 天空人であるカームさん達まで驚きで目を丸くしている。 

 天空大陸が崩壊した原因を知らなかった事といい、どうやらカームさん達は一定以上昔の記録を失っているみたいだね。


「この件については、地上の国にある図書館に行き、天空大陸関連の古文書を調べれば明らかになる事です」


 当時でも5星王についての本は結構出ていたからね。

 あれ等の本は今でもどこかの国の図書館に残っている事だろう。

 大抵はゴシップばかりだけどね。


「貴様、一体何者なのだ……」


 天空王が苦々しい顔で僕を睨みつけてくる。


「僕はただの冒険者ですよ。で、貴方は一体何者なんですか?」


 間違いない。この男は偽者の王だ。

 けど、一体いつからこの男とその先祖は天空人達を騙していたんだろう?

 それも天空大陸が消えた謎に繋がっているんだろうか?


「う、うう……く」


 と、その時、呻いていた王の声音が変わる。


「ク、クククク、クハハハハハハッ!!」


「へ、陛下!?」


 カームさん達が突然豹変した天空王の様子に仰天する。


「ふん、良くもまぁそんな昔の王家の話を知っていたものだ。だが少々喋りすぎた様だな。もはや貴様を生かして帰すどころか、牢屋に閉じ込める事すら出来ぬと知れ!」


 これは定番の口封じタイムかな。


「我が忠実な騎士達よ、主の命に従え!」


 天空王が声を上げると、室内に飾られていた鎧の目が光り、一瞬体が震えたかと思うと、一斉に動き出した。


「こ、これは一体!?」


 カームさん達が突然動き出した鎧に動揺する。

 どうやら部下には何も教えていなかったみたいだ。


「要人警護用のメイルゴーレムだね。普段は美術品なんかに偽装して城や砦の要所に配置しておき、いざ施設内部が戦いになったらゴーレム達が防衛戦力として起動し侵入者と戦うんだ」


「ほう、良く知っているな。さすがマジックアイテム技師というだけの事はある」


 天空王がここにきて始めて感心した様子をみせる。


「そう、そしてそれこそが歴代天空王がこの半壊した砦を城に選んだ理由でもある。自らが有事に陥った際の切り札とする為にな」


 天空王がニヤリと笑みを浮かべる。


「ゴーレムが戦力なのは分かったけど、なんでこの砦に固執するわけ? ゴーレムが大事ならそれを持って別の場所に城を建てればいいだけじゃないの」


 リリエラさんがゴーレムに驚きながらも疑問を口にする。


「それが出来なかったのは……おそらくですが、あのゴーレムがこの基地の防衛用として配備されたからだと思います。多分ゴーレム達はなんらかの方法でこの基地でしか運用できない様に制限がかけられているんですよ。だからそれを知っていた天空王の先祖はこの砦を自分達の本拠地として使う事にしたんです」


そして僕は天空王を、正しくは彼が座る椅子を、魔力が巡る椅子を指差した。



「そして貴方が座っているその椅子こそ、ゴーレム達に命令を下す為のマジックアイテム、つまりは基地を支配する玉座なんだ」


 僕の推理に天空王が手を叩く。


「良くぞそこまで理解した。だが、知っている事と、戦えるでは意味が違うぞ! このゴーレム達こそ、かつて天空大陸最強の兵士として名を馳せた存在なのだからな!」


 天空王が愉快そうに笑い声をあげる。


「このゴーレム達が動き出した以上、貴様等に勝ち目は無い。ここで貴様等を殺し、余計な情報が外部に流れない様にしてくれよう」


 余計な事ってのは、セラフィアム家なんて王家は存在しないって話の事だろうなぁ。

 つまりそれは、その事がバレるとマズいって事でもあるんだろうね。


「ゴーレム達よ、その者達を殺せ!」

 

 天空王の命令に従って、ゴーレム達が動きだす。

 ギシリと軋んだ音を立て、マジックアイテムであろう剣を抜刀する。


「へ、陛下、ゴーレムが我々にも迫ってくるのですが?」


 僕達だけを攻撃すると思われたゴーレム達が自分達にも迫ってきた事で、カームさんが天空王に助けを求める。


「ふん、お前達も聞いてはいけない話を聞いてしまったからな。丁度良いからその者達と共に死ぬが良い」


「「そ、そんな!?」」


 カームさんとバルディさんが悲痛な叫びを上げる。

 まぁ、これまで忠誠を誓ってきた相手にあっさり見捨てたれたら泣き言くらい言いたくなるよね。


「さぁ、やってしまえ!」


 ゴーレム達が剣を振りかぶってこちらに向かってくる。


「っ!」


 リリエラさんが槍を構えるけど、僕はそれを手で制する。


「僕に任せてください」


 そう言って、僕は慌てることなくゴーレム達に手を向けると、静かに魔法を放った。


「バーストウェイブ!!」


 手の平から扇状に魔力の衝撃波が放たれ、襲い掛かってきたゴーレム達を迎え撃つ。

 重い金属鎧のゴーレム達が、僕の放った衝撃波によっていとも簡単に吹き飛ばされる。

 そして真後ろに吹き飛ばされたという事は、当然その後ろに居た天空王に向かって吹き飛んだという事でもあって。


「ぐびゃっ!?」


 吹き飛んできたゴーレム達によって机が破壊され、天空王はそのまま転がってきたゴーレムに激突して玉座から転落、更に飛んできた別のゴーレムの下敷きになってしまった。


「グヘッ……ガクリ」


 うん、因果応報だね。

 話し合いを無視して襲ってきた人間にはお似合いの末路だ。


「まぁ、メンテも碌にしていないゴーレムじゃ相手にならないよね」


 それにこのゴーレム達は明らかに旧式だった。

 おそらく騎士達の羽や武具と同じで、型落ちの装備を配備された砦だったんだろうなぁ。


「ば、馬鹿な……ゴーレム、だぞ!? 天空大陸の主力兵器として恐れられた……兵器、なのだぞ!?」


「あー、ゴーレムが恐れられたのは無尽蔵な数を生かした物量戦と無機物ゆえの昼夜を問わない疲れ知らずの戦いが出来たからであって、少数のゴーレムならある程度の実力を持った人間で問題なく対処できる程度の存在ですよ」


「そ、そんな……!?」


 今度こそ天空王が言葉を失って静かになる。

 天空王の敗因はゴーレムを過信したことだね。


 更に言うと、天空大陸は民の数が少なかったから、本来労働用だったゴーレムも戦力として使い、それが歪曲して伝わった事で、無尽蔵のゴーレム軍団を所持していると勘違いされたんだよね。

 尤も、その事実は国家機密として一部の偉い人間しか知らなかったんだけど。


 何で知っているのかって? そりゃ当時天空大陸で使う為のゴーレムの基本形を作ったのが僕だからだよ。


「さーて、知っている事を洗いざらい教えて貰いましょうか? て・ん・く・う・お・う・さ・ま?」

 (:3 」∠)天空王「余の素敵コレクションが」

 (:3 」∠)カーム「ざまぁ」

 (:3 」∠)バルディ「ざまぁ」


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