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第60話 天使の羽根と悪魔と握手

いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

「これ、マジックアイテムだ」


 なんと天空人の背中の羽は本物ではなく、マジックアイテムだった。


「に、逃げろー!」


 マジックアイテムに気を取られていたら、ボロボロになった騎士達が慌てて逃げ出した。


「どうする? 追いかける?」


 リリエラさんが騎士達を捕まえるかどうか聞いてくる。


「別に敵って訳でも無いですし、放っておいていいですよ。情報をくれそうな人はここに居ますし」


 と、僕は倒した指揮官を指さす。


「とりあえず回復魔法だけかけて装備を調べるとしますか」


 僕は指揮官にヒールの魔法をかけておいてから装備を外す。


「鎧も槍もそれなりのマジックアイテムですけど、聖なる槍と言うにはちょっと名前負けしていますねぇ」


「分かるの?」


「さっきの戦闘とこの立地を見る限り、性能的には地方の防衛隊に与えられる型落ちのマジックアイテムじゃないかと」


「そこまで分かるんだ。でもそれにしてはおかしいわね」


「何がですか?」


「天空人はあの町を強力な魔物から守ったんでしょ? だったらもっと強い筈じゃないの? 正直、さっき戦った感触じゃDランク冒険者程度の実力しかないわよ」


 さすがリリエラさんだ。

 さっきの戦闘でそこまで察していたなんて。


「それには二つの推測が出来ます」


「どんな?」


「一つは当時の天空人がもっと強かった可能性」


 これは本当に単純な推察だよね。


「二つ目は?」


「たまたま天空人のマジックアイテムが魔物と相性が良かった、です。このマジックアイテムは槍ですけど、効果は攻撃魔法を放つものなので、相手が空を飛べない魔物なら、攻撃の届かない上空からこの武器で攻撃を続ければ接近戦をしなくても勝てます。ついでに光属性に弱ければ猶更強く見えます」


「成程ね。この強さならその可能性が一番高そうね」


「ただ問題は、この羽がマジックアイテムだったという事なんですよね」


 僕は指揮官から取り上げた羽を解体して構造を把握する。


「って、壊して良いの?」


「もう壊れていますし、ちょっと解体しただけですよ」


 ふむ、見た感じこれは普通のマジックアイテムじゃないな。

 というかコレって……


「リリエラさん」


「何?」


「昨日空島が何故浮くのかを説明しましたよね」


「ええ、確か空島の土や石にはグラビウムって魔力に反応して浮く鉱石が含まれているのよね?」


「ええ、その通りです。そしてこの羽にも、グラビウムが使われている事が分かりました」


「ええ!?」


「ほら、中心につけられたこの石がグラビウムの結晶ですよ」


 僕は羽の付け根、左右の羽同士を接続する中心の小さなプレートに固定された虹色の結晶を指さす。


「綺麗な石ね」


「これに魔力を通す事で、天空人は空を飛んでいたみたいですね」


「じゃあ天空人は羽の生えた天使じゃなかったって事?」


「さきほどの指揮官の話から総合すると、おそらくですがかつて天空大陸で暮らしていた人間の末裔なんじゃないかと思います」


「天空大陸の人間の末裔!?」


 そう考えると色々と納得がいく。


「どんな原因だったのかは知りませんが、この指揮官の話の通り天空大陸が破壊され、その影響で飛行魔法を使える人間が居なくなってしまったのかもしれませんね。もしかしたら普通の空を飛ぶマジックアイテムもそれで失われたのかも。で、たまたまどこかに残っていたグラビウムで動くマジックアイテムを倉庫から引っ張り出してきて彼等は空を飛ぶ手段を確保したんじゃないでしょうか」


 真相はそんな所かな?


「天空人の存在にも驚いたけど、その天空人も普通の人間で、古代人の末裔だったなんて更に驚きだわ」


 リリエラさんが目を丸くして意識を失っている指揮官を見る。


「何を言っているんですか、リリエラさんも古代人の末裔ですよ」


「え?」


 僕の言葉にリリエラさんが驚きの声をあげる。


「ついでに僕も古代人の末裔です。だって、現代に生きる人間は全員古代人の末裔じゃないですか。別の種族って訳でもないんですし」


「え? うーん、言われてみればそうなのかしら?」


 僕の言葉にリリエラさんも納得する。

 うん、だから僕も天空人なんて種族の名前を聞いて驚いたんだよねぇ。

 そんな種族前々世でも聞いたことなかったから、一体どこからやって来たのかと首を捻りっぱなしだったよ。


「う、うう……」


「あっ、指揮官が目を覚ましましたよ」


 僕は目を覚まして首を振っている指揮官の前に立つ。


「さて、それじゃあ色々と教えて貰いましょうか」


「お、お前は!?」


 指揮官は武器を構えようと手を突き出すけれど、その手には何も握られていなかった。

 だって意識を失っている間に僕が取り上げたからね。


「わ、私の武器が、鎧が!?」


「ついでに言うと羽もね」


「っ!?」


 僕の言葉に首を捻って後ろを見る指揮官。


「な、無い!? 私の羽が無い!?」


 うん、取り上げたからね。


「わ、私の羽は何処だ!?」


「これ」


 僕は地面に横たわる解体された羽を指さす。


「わ、私の羽がぁぁぁぁぁ!?」


 指揮官がよたよたと這いずりながら羽に近づく。


「ああ、なんという事だ! 陛下から預かった羽を失ったとなれば私は、私はぁぁぁぁ!」


 陛下から預かった? と言う事はこの羽は支給品なのかな?


「羽が壊れた事がバレると何かマズいんですか?」


「当然だ! 羽は槍と共に神聖な装備! 他に替えの無い貴重な品なのだ! もしその事がバレたら、私は処刑されてしまう!」


 まぁ骨董品だしなぁ。

 けれど処刑とはまた物騒だなぁ。


 いや、本当にこのグラビウムを使ったマジックアイテムしか地上に降りる手段が無いのなら、そのくらい貴重な扱いになるのか。

 どうやら修理できる職人も居ないみたいだし。


 けど、これはチャンスだね。


「悪い顔してるわねぇ」


「キュウン」


 はい後ろの一人と一匹はお静かに。


「そこのお人、良いお話があるんですが」


「はぁ?」


 半泣きになっていた指揮官が何の用だとこちらを見る。


「それ、直してあげましょうか?」


「……何?」


 僕からの提案に一瞬キョトンとした指揮官だったけど、言葉の意味を理解して目を丸くする。


「で、出来るのか!? 直せるのか!?」


 ガシッと僕の肩を掴んで必死の形相になる指揮官。


「ええ、僕の質問に答えてくれるのなら、直してあげますよ」


「何でも聞いてくれ!!」


あはは、本当に切羽詰まっているんだなぁ。


「さっき陛下とかこの国って言ってましたけど、この空島は国家なんですか?」


「そ、そうだ、この周辺の空島は天空王陛下によって統治された国、その名も神聖天空王国セラフィアムだっ!!」


「ぶはっ」


「レ、レクスさん!?」


 ちょっ、神聖天空王国とか、なにその凄い名前。

 前世辺りだったら絶対ネタとして笑いものになるレベルのネーミングだよ。

 しかも国の名前に神聖存在の名前を使っているっぽいし、これは愉快度が相当ヤバイよ。

 一体誰がこんな凄い名前を付けたんだ!?


「ええと、大丈夫レクスさん?」


 僕の様子がおかしいと気付いたリリエラさんが気遣ってくる。

 すいません、笑うのを堪えているだけです。


「ええ、大丈夫ですよ。ちょっと意表を突かれただけですから」


 それにしても聞いたことの無い名前の国だなぁ。

 明らかに天空大陸が存在していた時には無かった国の名前だ。

 だって僕が知らなかったとしても、こんな愉快な名前なら絶対当時の知り合いの誰かがネタとして話題にしていた筈だし。


「さっき飛行魔法を使える人間は居ないって言っていたけれど、飛行魔法が使えるマジックアイテムは存在しないの? このアイテムはグラビウムを使ったマジックアイテムだよね?」


「グラ? 何だそれは?」


 おや、そのあたりの知識も無いのか。

 指揮官クラスでこれだと、情報を得るのは難しそうだなぁ。


「ところで、天空大陸はなんで崩壊したのか知ってる?」


「知らん。ただ子供の頃にこの空島はかつて天空大陸と呼ばれる巨大な空島の一部であったと両親からおとぎ話で聞いたのだ」


「それは他の住人も普通に知っている話なの?」


「定番の昔話だ。かつて天空を支配していた偉大な世界の王とその民がこの天空大陸で暮らしていたが、邪悪な魔の民が侵略してきた事で戦が始まった。

 そして王の英断で魔の民を退ける事に成功したが、その代償として天空大陸は砕け散ってしまったという物語だ」


 ふむ、魔の民っていうのは間違いなく魔人の事だろうね。

 そして天空大陸は戦争によって破壊されてしまったと。

 ただ、かつて天空を支配していた偉大な世界の王って何?

僕の記憶が確かなら、この天空大陸に暮らしていたのは……


「レクスさん、何か来るわ」


 リリエラさんが空を見て警戒の声をあげる。


「あれは……」


 リリエラさんの視線の先の空が銀色に輝いていた。

 探知魔法を発動させると、そこに100人近い反応を感じる。


「天空騎士団の本隊だ」


 指揮官が青ざめながら空を見上げる。


成る程、さっき逃げ出した騎士達が仲間を呼んで来たのか。


「は、早く羽を直してくれ! 羽を壊したとバレたら私は罪人として捕まってしまう!」


 どうやらこの指揮官も複雑な立場になっているみたいだね。

 けど……


「いやー、ちょっと間に合わないですねぇ」


 うん、騎士団が向かってくるスピードじゃあとても修理は間に合いそうもない。


「そ、そんなぁ!?」


「どうする? 大した強さでなくてもあの数を相手にするのは骨よ」


 リリエラさんは近づいて来る敵の数を見て撤退した方が良くないかと提案してくる。

 けれど、逆かな。丁度良いタイミングと言える。


「いえ、迎撃しましょう。彼等を倒せばもっといろんな情報が聞けそうですから」


 そう、部隊長クラスの指揮官じゃ大した情報を得る事は出来なかったけど、あの規模の指揮官ならそこそこの階級だと思うからより多くの情報を得る事が出来るだろう。


「リリエラさんは下がっててください。魔法で一掃しますから」


「ん、わかった」


 リリエラさんが素直に後ろに下がると、モフモフも僕の後ろに待機して寝っ転がる。


「キュフーウ」


 欠伸までかいてやる気ゼロって感じだなぁ。

 羽が作りものだったのがよっぽどお気に召さなかったのかな。


「キューン」


 ひっくり返って手足をダラーンと伸ばしている。

 やる気が無いにも程がある。


「じゃあ、ささっと終わらせようかな」


 僕は騎士団がちょうど良い距離まで近付いて来るのを待ってから、準備していた魔法を発動させた。


「マナブレイク!!」


 僕は騎士団に向けて対マジックアイテム用の範囲魔法を発動させた。


「う、うわっ!? な、何だ高度が下がって……!?」


「ひ、光が!? 槍の聖なる光が出ない!?」


「うわぁぁぁぁ!」


 騎士達が次々に制御を失って地上へ落ちていく。


「エアクッション!」


 僕は衝撃吸収魔法を広範囲に弱めにかける。


「なに今の!? 何も出ていないのに敵が勝手に落ちて行ったわ!?」


 リリエラさんの言う通り、今発動した魔法からは炎や氷といった目に見えるものや風の様に感じるものが放たれなかった。

 けれど確かに放たれたものがあったんだ。


「今のは目に見えないものを放つ魔法ですよ」


「目に見えないものを放つ魔法?」


「ええ、その名もマナブレイク。魔力の流れを狂わせる対マジックアイテム用の魔法です」


「対マジックアイテム用の魔法!? そんな魔法聞いた事も無いわ!?」


 まぁ対マジックアイテム用の魔法はあまり使い勝手の良い魔法でもないからね。

 元々マジックアイテム全盛期にとある国でフルマジックアイテムの軍団が設立され、猛威を振るったのが原因で、それに対抗する為にマジックアイテムを一時的に無力化する魔法が生み出されたんだ。


 この魔法を受けた軍団は全身のマジックアイテムがただの金属の塊になってしまい、まともに動けなくなったところで一気に撃破された。


 以降マジックアイテムに頼りきりになるのは危険だと各国の戦略が一新されたんだよね。

 うん、この魔法を作ったのは僕だけどね。

 そして各国がマジックアイテムに頼り過ぎない戦いをする様になったので次第に廃れていった魔法だ。


「とはいえ、あくまでも一時的にマジックアイテムを無力化する為のものなので、しばらくしたらまた使える様になります」


 ちなみにこの魔法はマジックアイテム対策なので、普通の魔法には効かなかったりする。

 あと前回のメガロホエールに埋め込まれた様な巨大過ぎるマジックアイテムにも効果は薄い。

 マジックアイテムに流れる小さな魔力経路の流れを乱す魔法だから、大規模な魔力を乱すのには向かないんだよね。


 もしあの騎士団が飛行魔法で空を飛んでいたら、この魔法はあまり効果を発揮しなかった事だろう。

 でも現実は違う。

 唯一の飛行手段を奪われた彼等は、僕達を攻撃する為に高度を下げて来たとはいえ、それなりの高さから落ちてしまった。

 衝撃吸収魔法をかけておいた事で死人こそ出ていないものの、ほぼ全員が落下の衝撃で怪我をしたらしくうずくまって苦しみ、背中の羽は無残に折れてしまっていた。



「それじゃあ助けますか」


「え? 助ける? 敵なのに?」


 戦うと言ったのに助けると聞いて、リリエラさんが困惑する。


「最初から全滅させるつもりはありませんでしたよ」


 僕の目的は別の所にあるからね。


「ディスタントエリアヒール!」


 騎士団の傍にやって来た僕達は、彼等を遠隔範囲回復魔法で治療する。


「うう、い、痛みが消えていく……?」


「もう痛くないでしょう皆さん?」


「!?」


 僕が声をかけると、騎士達が驚いてこちらを見る。


「まだ痛い所がありましたら、治療しますよ」


「ふ、ふざけるな! 総員飛翔! 敵を空中から囲んで槍の光で殲滅しろ!!」


「「「「「はっ!!」」」」」」


 騎士団の司令官の命令に騎士達が飛びあがる。

 けれどその羽は無残に折れていた為に、騎士達はピョンピョンとジャンプするばかりだ。


「な、何故飛べん!?」


「た、大変です団長! 羽が折れています!」


「なんだと!? 貴様陛下から借り受けた神聖な羽を壊すとは何事か!」


 と、団長と呼ばれた指揮官が怒鳴るけど、その団長の羽も折れているんだよねぇ。


「で、ですが団長の羽も折れています‼」


「何……!?」


 部下の騎士の言葉に団長が首を捻って後ろを見ると、そこには無残に折れた自分の羽があった。


「……っ!?」


 団長の顔が驚愕に歪み、さらに真っ青になっていく。


「……っ!?……っぁ!?」


 言葉も出ないっていうのは、こういう事を言うんだろうなぁ。


「さて皆さん!」


 僕はひと際大きな声をあげて騎士達を振り向かせる。


「傷の具合はいかがですか? おや皆さんの背中の羽が大変なことになっていますね。どうもその羽が壊れるととても困った事になるそうですが、直す事はできないんですか?」


「な、なな、直せるなら直しておるわぁぁぁ!」


 うんうん、騎士団長がこの反応だと言う事は、やっぱり修理する事は出来ないみたいだね。


「おぉぉぉぉ、陛下から賜った羽を失ったと知られたら、我が家は破滅だ……」


 騎士達が絶望的な顔になって項垂れる。


「ところでその羽なんですが、直せると言ったら……どうしますか?」


「な、なんだと!?」


 団長のみならず、全ての騎士達が顔をあげてこちらを見る。


「直して欲しいですか?」


「ほ、本当に直せるのか?」


「ええ、皆さんが僕達とお友達になってくれるのならお近づきの印に直して差し上げますよ。おっと、でも僕達は他国のスパイとして疑われているんですよね。それじゃあ仲良くなれませんか」


 ちらりと僕は横目で騎士達を見る。

 すると騎士達は互いの顔を見合って頷き合う。


「「「「「我々はスパイなど見ませんでした! そして私とお友達になって下さいっ!!」」」」」


「うんうん、人間仲良しが一番ですよね」


「とんでもない脅迫を見たわ」


「キュウゥン」


 何故か肩を落とすリリエラさんと呆れたジェスチャーをするモフモフ。

 何をおっしゃいますかお二人共。

 平和的解決が一番ですよ。

 (:3 」∠)天空人「僕達ずっ友だよ(ガクブル)」

Σ(:3 」∠)哀願動物「ナカーマ」


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