第55話 塔の中に潜む者
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メガロホエールの潮噴きを防いだ僕達は、無事背中へ着陸する事に成功した。
本当なら塔のそばに下りたかったけど、もしあの塔が危険な存在だったら。近づいてくる僕達に攻撃してくる可能性がある。
僕だったら問題なく攻撃を防げるだろうけど、ジャイロ君達の身が危ないのでそんな危険な真似は出来なかった。
だから少し離れた位置に着陸する事にしたんだ。
あと目的地である塔は全長5kmあるメガロホエールのほぼ中心に建っているんだけど、そこにたどり着くにはジャイロ君達の魔力が保ちそうもなかったのも理由の一つだ。
「ふぇー、疲れたぜー」
長時間の飛行に慣れていないジャイロ君達はヘトヘトになって地面にへたり込む。
「ちょっとそのあたりを調べてくるから、皆は今のうちに休んでいて」
そういって僕は魔力を回復させるポーションを皆に渡してから走り出す。
目的地はメガロホエールの背中に生えた黒い塔だ。
「それにしても、ボロボロだなぁ」
僕は身体強化魔法で強化された足で高速移動をしながら、メガロホエールの背中を眺める。
その背中はまるで荒れた岩肌の様にでこぼこで、とても生き物の肌とは思えないほどに酷い有様だった。
「これは普通の状態じゃないな。何かと戦ってここまで逃げてきたのか?」
前世で見たメガロホエールの背中はもっとスベスベで綺麗だった。
こんな廃墟みたいに酷い状態になるなんて一体何があったんだろう?
そしてまもなく黒い塔のそばまでたどり着く。
「ここまで近づいても攻撃されないって事は、攻撃的な建築物じゃないのかな?」
これなら皆を連れてきても大丈夫かな?
僕は更に塔に近づき軽くその構造を調べる。
「大きいなぁ……」
塔は円柱柱の構造をしていて、直径にして15mくらい。
高さは30mといったところかな。
塔の根元はメガロホエールの体に突き刺さっており、周辺の皮膚が食い込むように沈み込んでいた。
「誰かがこの塔をメガロホエールに突き刺したのか」
酷い事をするなぁ。
「それに塔の中から強い魔力を感じる?」
近づくと、ほんのり内部から魔力を感じる。
やっぱりこれは普通の建造物じゃない。
この塔はおそらく、ううん、間違いなくアレだ。
「早く調べた方が良さそうだから、すぐに皆を呼びに戻るとしよう」
◆
「でっけぇ塔だなぁ」
「変な模様」
「一体誰がこんなモノを魔物の背中に建造したんでしょう?」
「っていうか生き物の背中に塔を建てるなんて何考えているのかしら?」
「巨大な魔物だから、戦艦みたいに利用するつもりだったのかしら?」
黒い塔を間近に見た皆が、思い思いの感想を口にする。
けれどその意見は的外れだといわざるを得なかった。
「違うよ皆。これは塔じゃない」
僕はまず皆の勘違いを指摘する。
「え? こりゃどう見ても塔だろ兄貴?」
「いや、コレは建物じゃなく物なんだ」
「「「「「「物?」」」」」
僕の言い回しに、皆がそろって首をかしげる。
「そう、これは巨大なマジックアイテムなんだよ」
「……」
皆がキョトンとした顔になり、それから数秒して目を大きく見開く。
「「「「「マジックアイテムゥゥゥゥゥッ!?」」」」」
皆が驚きに声を上げる。
「こ、これがマジックアイテムってどういう事なの!? というか、そもそもそんな大きなマジックアイテムが存在するの!?」
ミナさんが信じられないと黒い塔がマジックアイテムである事を否定する。
けれどそれは事実なんだ。
「これは間違いなくマジックアイテムだよ。この構造物からは魔力の流れを感じる。それも一箇所じゃなく、全体を満遍なく魔力が走っている。これは巨大な魔力回路がこの塔の至る所に張り巡らされているからなんだ」
「うそ……」
ミナさんの呟きは、皆の本心を代弁していた。
皆これがマジックアイテムだと信じきれないでいるみたいだ。
でも僕がかつて生きていた時代ではこのくらいのマジックアイテムはざらに存在していたんだよ。
「おそらくこのマジックアイテムが原因で、メガロホエール達は陸地に近い場所までやってきたんだろうね」
僕は黒い塔と海の向こうに居るメガロホエールの稚魚達を交互に見ながら話す。
「元々メガロホエールは外洋の生き物で、陸地には近づかないんだ。陸地に近づけば座礁の危険があるし、なにより陸地近くの海は食料が少ないからね。漁師だって大物の魚狙いならなるべく沖に出るものさ」
「けど、こんな大きな建物がマジックアイテムだなんて、一体どんな力を持っているんでしょうか?」
「それは調べてみないと分からないかな」
そう、分からないんだ。
このマジックアイテムは僕が見たことの無いタイプの品だ。
それはつまり、僕が生きていた時代のものでない可能性が高い。
現にメガロホエールの皮膚の損傷に比べ、マジックアイテムにはほとんど傷がない。
「その為にも、中に入って調査しよう」
「中に入れるの!? でもこれは建物じゃないのよね?」
リリエラさんはこれがマジックアイテムなら人が入る事は出来ないんじゃないかと首をかしげる。
「いえ、このサイズになると整備や調整の為に人が入るスペースが用意されているはずです……ほら」
少し調べると、やはりというか入り口が見つかる。
ただドアはカギが掛かっているのか開かなかった為、無理やり破壊して入り口を作る。
「じゃあ行きましょうか」
「今、さらりとドアを破壊したわね」
「容赦ない」
◆
皆の武器に灯りの魔法を灯し、僕達は内に入る。
「暗……く、ないわね」
ミナさんの言うとおり、塔の中は薄ボンヤリと明るかった。
「塔の中を走る魔力の光が灯りになっているんだね。ただこれだと無駄が多いと思うんだけどなぁ」
構造の巨大さに比べて変に造りが甘い気がする。
「とにかく、進もう」
僕が先頭を歩き、その後ろにジャイロ君。ミナさんとノルブさんが真ん中でリリエラさんとメグリさんが最後尾だ。
一応探査魔法をかけて、周囲の生き物の気配を探る。
「塔の中に生き物の気配はないね。無人みたいだ」
塔の中は下に降りる螺旋階段になっていて、上には何か光るものが見える。
「中に入って分かったけど、あの光る何かからかなりの魔力を感じるね」
おそらくこの塔には魔力を閉じ込める性質があるんだろう。
内部は外から感じた以上の魔力で満ちていた。
これ、ちょっとマズイシロモノかもしれないなぁ。
僕達は油断なく下へ向かって降りていった。
◆
「ここは、動力室かな?」
一番下の階層まで降りると、そこには様々な装置が配置されていた。
「魔力の増幅器に制御機、それに巨大な抽出機?」
一つ一つは見覚えのあるマジックアイテムの機構だけど、とにかくサイズが桁違いだ。
もしかしてメガロホエールのサイズに合わせて作ってあるんだろうか?
「兄貴はこれが何か分かるのか?」
「うん、多分だけど、メガロホエールから抽出した魔力をこの中に溜め込む装置なんじゃないかな」
「見ただけでそんな事まで分かるの!?」
ミナさんが驚くけど、専門家ならこのくらいは見れば分かると思うよ。
これでも前々世は賢者だったわけだからね。
ただ、このデザインには見覚えが……あ、いやあるかも。
「多分だけど、コレを作ったのは人間じゃないね」
うん、内装の模様を見てなんとなく確信した。
「人間じゃないって、それじゃあ誰が作ったの?」
「それは勿論……っ!」
リリエラさんの質問に答えようとしたその時、感知魔法に突然反応が現れた。
「どうしたの?」
僕の反応に皆が怪訝な顔をする。
「どうやらこれを作った本人が来たみたいだよ」
突然反応が現れたって事は、結界の中に隠れていたか、それともゲートかな?
反応が現れた方向を見ると、その先には奥に通じる通路があった。
そして通路の奥から足音が聞こえてくる。
皆が武器を構える。
「貴様等、何者だ」
闇の中から現れたのは銀の髪と褐色の肌、そして蝙蝠の翼を生やした異形の存在、魔人だった。
「魔人!」
以前魔人と遭遇した事のあるジャイロ君達が顔色を変える。
「え? 魔人!? え?」
魔人を見た事のないリリエラさんだけは魔人と言われて理解が追いついていないみたいだ。
「ふん、まさか人間がこんなところにまでやってくるとはな」
魔人は僕達を一瞥するとため息を吐く。
「所詮あの程度の魔物では見張り役にもならんか」
おそらくメガロホエールの稚魚達のことを言っているのかな?
「君がメガロホエールにこれを植え付けたのかい?」
僕は足元を指差しながら魔人に質問する。
「答える義理はない……なっ!」
魔人がこちらの質問に答えることを拒否すると、魔力を纏った翼を広げ爆発的に加速して僕の懐に飛び込んでくる。
「レクスさん!?」
リリエラさんが悲鳴を上げる。
「まずは貴様から死ね!」
赤黒い光を纏った魔人の手刀が僕の腹部に迫る。
けれど僕は体を半回転させてその攻撃を受け流しつつ、逆に魔人の腕を掴んで引き込む。
「何っ!?」
そして半回転して魔人の後ろに回りこんだ僕は、そのまま床に押し倒して関節を極めた。
「ぐあぁぁ!?」
「マナジャミング!」
更に魔人に特殊な波長の魔力を流し込む事で、相手の魔力操作を乱して魔法の発動を抑制する。
「……ぐっ!? 魔法が使えないだと!?」
案の定魔法で反撃しようとしていた魔人が驚きの声を上げる。
「さぁ。教えて貰おうか?」
「だ、誰が答えるものか! ガーディアン! 侵入者を殺せ!」
魔人の声に反応して、通路の奥から数頭の黒い魔物達が現れる。
普通の魔物には見えないし、どうやらこの塔の防衛装置みたいだね。
魔物は主を拘束する僕に向かって飛び掛ってくる。
「危ない!」
襲い掛かってきた魔物にリリエラさんの槍が突き刺さる。
「兄貴には手を出させないぜ!」
更にジャイロ君達も魔物を妨害すべく間に立つ。
うん、これは皆の修行のチャンスだね。
「皆、僕はコイツの相手をしないといけないから、ソイツ等の相手は任せたよ!」
「分かったわ!」
「任せてくれ兄貴!」
よし、これで僕は魔人の拘束に専念できるね。
「ふん、良いのか? あの人間達ではガーディアンには勝てぬぞ」
しかし魔人は不敵な態度で僕に話しかけてくる。
関節を極められた上に魔法を封じられているというのに随分と余裕な態度だ。これは何かあるな。
「くっそ、コイツ等速ぇぞ!」
「落ち着いて! 一人で相手をしようとしないで!」
ジャイロ君達は薄暗い場所で縦横無尽に動き回る魔物のすばやい動きに翻弄されているみたいだ。
「くははっ、所詮人間などこの程度だ。早く助けた方が良いのではないか?」
なる程、僕が見かねて皆の救助に向かうのを待っている訳だね。
でもその考えは甘いよ。
だって皆は僕が鍛えたんだから。
ちょっと本格的な戦いに面食らってるだけで、本来この程度の魔物に苦戦する事はないんだから。
「大丈夫、今まで教えた事をやれば勝てる相手だよ皆!」
「おう!」
「うん!」
ジャイロ君とメグリさんが魔物達に向かって飛び込んでいく。
当然魔物達は回避するけれど、そこにリリエラさんが時間差で槍を突き出す。
「はぁ!」
魔物はこの攻撃をギリギリで回避するけれど、そこに更にミナさんの魔法が叩き込まれた。
「サンダーランス!」
ミナさんの魔法の直撃を受けた魔物が片膝をつき、そこに再びリリエラさんの攻撃が魔物を貫く。
これで二体目。
「プロテクション!」
後ろからジャイロ君に襲い掛かった魔物の攻撃が、ノルブさんの防御魔法によってはじかれる。
「でぇいっ!」
ジャイロ君は自分に攻撃して体勢が崩れた魔物に対し、跳躍して真上から豪快に剣を突き刺す。
そして刺さった剣から属性強化の炎が噴出し、魔物を内部から焼き尽くした。
「助かったぜノルブ!」
「あまり無茶はしないでください!」
「悪ぃ悪ぃ」
「えい!」
今度はメグリさんが空中に魔力の足場を作り、縦横無尽に飛び回りながら魔物を攻撃する。
動きの速い魔物とはいえ、本来なら存在しない場所にある足場を活用して回避するメグリさんの動きにはとても付いていけず、少しずつダメージを蓄積させていき倒される。
「ば、馬鹿な!? ガーディアンが人間ごときにここまであっさりと!?」
そして最後に。
「ギュウ!」
モフモフが飛行魔法による加速を利用して魔物達に襲い掛かっていた。
魔物達はモフモフを打ち落とそうとするけど、その小さな体に当てるのは非常に困難で、モフモフの攻撃が当たる度に体の一部を削り取られていった。
「さぁ、あとはお前だけだよ。コレが何か教えて貰おうか」
完全に趨勢が決した事で、僕は魔人に語りかける。
これでもう反撃の機会なんて無いと理解できただろう。
「……ク、クククッ」
けれど、魔人は何故か不敵な笑い声を上げる。
「クッ!クハハハハハッ! 良いだろう! 教えてやるとも!」
魔人が顔を上げて声を上げる。
「これは魔導兵器だ! 魔物の生命力を蓄積し、必要量が溜まったら一気に爆発するシロモノよ!」
「魔導兵器だって!?」
しかも爆発って!?
「今の時代に魔力にあふれた魔物を探すのには手間取ったが、この魔物の魔力なら周辺の国を地図から消す程の爆発が見込めるだろうよ!」
「何ですって!?」
魔人の言葉にリリエラさんが驚きの声をあげる。
「ふはははっ! 恐ろしいか人の娘よ! 今から逃げようとしても無駄だ! 飛行魔法も碌に使えないこの時代の人間では、安全な土地にたどり着く前に大爆発に巻き込まれるだろうよ!」
「ちょ、そ、そんな事したら貴方も死ぬわよ!」
「おっと、心配には及ばん。何故なら私にはこの転移の腕輪があるからな!これがあれば一瞬で安全な距離まで逃げ切れるのさ!」
魔人がにやりと笑みを浮かべる。
なる程、コイツが抵抗しなかったのはそういう事だったのか。
「拘束されていようが関係ない! 腕輪にほんの少し魔力を流し込むだけでよいのだからなぁ! さらばだ人間!」
魔人がそう叫び、皆がそれを阻止しようとこちらに駆け出す。
けれど、何時までたっても魔人のマジックアイテムが発動する気配はまるでなかった。
「な、何故だ!?」
マジックアイテムが発動しない事に魔人が動揺する。
「いや、さっきから魔法を封じてるでしょ?」
マナジャミングは魔力操作を妨害する魔法だ。
それはつまり、マジックアイテムに魔力を流す行為も邪魔するという事だ。
「あっ」
魔人が魔法を妨害されていた事を思い出し、それがマジックアイテムの発動も阻害する種類の魔法なのだとようやく理解する。
「……人間よ、話し合おう」
「ふん!」
「ゴハッ!」
ゴスッ!! と良い音を立てて、魔人が地面にキスをする。
「スパイダーホールド!」
僕は捕縛魔法を掛けて魔人を拘束し、身に着けていたマジックアイテムを全て奪い取る。
これでもう逃げられない。
他にも色々持っていたみたいだから、これらの品も没収しておこう。
「く、くそ! 動けん!」
拘束された魔人が抜け出そうともがくけど、その程度で抜け出せるほど甘い魔法じゃない。
でもね、まだこれで終わりじゃないんだよ。
「モフモフ!」
「キュウ!」
待っていましたとばかりにモフモフは魔人の上に乗ると、元気良くその翼を齧りだした。
「あっ、止めろこのケダモノ! 私の翼を齧るな! あ、ああーっっっ!」
ふふっ、僕達を舐めてくれた罰だよ。
あっでも、変な物食べておなか壊さないといいけどなぁ。
(:3 」∠)魔人「らめぇー! 満を持して出番きたのにー!」
Σ(:3 」∠)哀願動物「魔人美味ぇ!」
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