第54話 黒の塔と潮の柱と光の塔
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飛行魔法の訓練を始めて数日後、バーンさんがメイリーンさんと共にお城から戻って来たとの事。
そして僕達もグッドルーザー号へと帰り、今後の方針についての説明を聞く事となった。
「詳細な打ち合わせも終わり、我が国とヴェルティノによる合同調査が行われる事となった」
うん、ここまでは予定通りだね。
「ここからは私が説明いたしましょう」
メイリーンさんが前に出て、テーブルに地図を広げる。
「我が国であの魔物が発見されたのは数週間前でした。始めは航路上に突然黒い島が現れたと皆驚いたものです」
と言って、地図の一点を指さして円を描く。
「確かにあの魔物は大きかったけど、島は大げさじゃないかしら?」
メガロホエールと遭遇した事のあるリリエラさんの言葉に同じく遭遇したジャイロ君や船員さん達がうんうんと頷く。
けれどバーンさんと副長だけは微妙な表情だ。
「我々は島を調査すべく船を差し向けましたが、突然現れた巨大な鯨の魔物に襲われて沈められてしまったのです」
「ん? 鯨の魔物ってメガロホエールの事だよな? じゃあ島ってのは何の事なんだ?」
皆は話の整合性が取れなくなった事に困惑するけど、メイリーンさんの説明は間違っていないんだよ。
「ええ、我々も最初はそれを島だと思っていたのです。そして鯨の魔物によって調査船が破壊された直後、島が大きく揺れました」
メイリーンさんが地図を指でトントンと叩きながら説明を続ける。
「そして黒い島は浮き上がり、その一端が大きく割れ炎の様に赤い色が見えた時は何事かと驚かされました。次の瞬間凄まじい音を立てて破壊された調査船は赤く割れた亀裂に飲み込まれてしまった事で、我々は知ったのです。あれは生き物なのだと」
「船を飲み込んだ?」
「それってどんな大きさだよ?」
皆が口々に同様の声を漏らす。
皆が見た事のあるメガロホエールはグッドルーザー号の3~4倍くらいの長さで、大きさは1.5倍から2倍といった所だった。
けれど飲み込むとなると、その口ではマストが引っかかってしまうだろう。
「その後我々は島の調査を行い、遠くから確認できる形状から、周囲の鯨の親だと判断しました」
「メガロホエールの……親?」
その場にいる全員が愕然となって言葉が消える。
そう、メガロホエールは全長5㎞にも成長する大型の魔物だ。
寧ろ今まで皆が遭遇してきたメガロホエールの稚魚の方が珍しい存在と言えた。
「……そう言えば、レクスさんが以前そんな事を言ってたわね。まさか本当にそんな大きさだったなんて」
この中で唯一僕の説明を聞いていたリリエラさんが頭を抱える。
うん、話には聞いていても、実際に自分の目で見ないと実感できない事って結構あるよね。
あのメガロホエールの稚魚達はその見た目からして大人の大きさという印象を人に与えてしまうだろうから。
何より、メガロホエールは外洋に居る生き物だから、内陸の人達には名前すら知らない人が居るだろうし、海辺の国でも外洋に出ない人達なら知らない人も少なくないだろうね。
「幸いなことにこの親鯨はその巨体故に浅い海域には近づけません。その為親の脅威度は低いのですが、子供の方は商船や漁船を狙って襲い掛かって来るので、大変困っているのです」
戦えない漁師や商人さん達にとっては、やんちゃな子供なんて微笑ましい話では済みそうもないか。
「子供を優先して倒す事は出来ないんですか?」
ノルブさんの言葉に、メイリーンさんが困った顔で首を横に振る。
「それが、子供を攻撃しようとすると、親が岩の混じった潮を噴き上げて攻撃してくるんです。積極的に襲ってくる事はなくとも、子供を守る為になら反撃するみたいで」
メガロホエールの骨岩攻撃だね。
子供のメガロホエールの攻撃でも普通の船には脅威だから、親の攻撃は尚更危険なのは言うまでもない。具体的に言うと大きさが。
「親を攻撃するには子供が邪魔で、子供を攻撃しようとすると親が襲ってくるか。手詰まりね」
「海上なので、隠れて接近する事も出来ず、夜の闇に紛れて攻撃しようとしてもやはり見つかってしまい、もはや為す術もない状況です」
メイリーンさんが困り果てた顔で眉間に手を当てる。
うーん、普通に軍が全面攻撃をすれば良いと思うんだけど、何か問題でもあるのかなぁ?
「このままだとあの塔を調べるどころでは無いんですよね」
「塔?」
と、そこでメイリーンさんが妙な事を口走った。
塔って何の事だろう?
「ええ、あの島、メガロホエールの親の背中に大きな塔が立っているんですよ。あれを見て最初我々はあの生物を島だと勘違いしたんです」
「メガロホエールの背中に塔?」
何だそれ? そんなの聞いた事も無いぞ?
「レクスさん、メガロホエールの大人って背中にそんな突起があるの?」
「いえ、聞いた事もありません」
リリエラさんの疑問に返しつつ、奇妙な塔の存在に疑問がわく。
「それって本当に塔なの? 体の一部じゃなくて?」
「いえ、明らかに人工物だったそうです」
ミナさんの質問に、メイリーンさんはきっぱりと答える。
「メガロホエールの背中に生えた塔か……気になるな」
「もしかしてその塔がそいつを連れて来たのか?」
「その可能性があるとみて、我々も上陸を試みていたのですが……」
成程ね。その塔の存在が気になるから、一方的に討伐するのではなく上陸を考えていた訳だ。
「そういう訳だ。諸君、何か良い方法は思いつかないかね?」
バーンさんが僕らの方を向いて質問してくる。
と言うか、皆に向けて言っているのに、視線は僕を見ているのは何故だろう。
「ええと、船で近づくから駄目なんじゃないでしょうか?」
「と言うと泳いで行けと?」
「さすがに親の魔物まで泳ぐには遠すぎます。それにもし泳いでいる最中に子供に見つかったら……」
「いえいえ、そうではなくて上ですよ」
「「上?」」
バーンさんとメイリーンさんがそろって首を傾げる。
「はい、魔法で空を飛んで行けば良いじゃないですか」
そう、軍に所属する魔法使い辺りが空から飛行魔法を使ってメガロホエールの親にたどり着き、その背中から攻撃すれば良いだけの話だ。
ヴェルティノは王都が近いんだから、それこそ宮廷魔導士辺りから飛行魔法を使える魔法使いを呼び寄せることくらい簡単だろう。
彼等はとにかくプライドが高いけれど、今回は国の重要な海域に魔物が住み着いて居るんだから、その重い腰をあげる必要があるだろう。
まぁ宮廷魔導士でなくても、風属性の魔法使いに何人か飛行魔法を使える人は居るだろうし。
「ちょ、ちょっと待ってください。魔法で空を飛ぶなんて聞いた事もありませんよ」
え? 何言ってるの?
「空を飛べる魔法使いなんてザラに居ると思いますよ、ホラ」
僕はメイリーンさんの前で空に浮かび上がる。
「え!? 嘘!? ええ!?」
「それに彼等も」
と言ってジャイロ君達を指さすと、皆も空に浮かび上がる。
「と、飛んでるぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
そして、メイリーンさんの絶叫が青い空に響きわたった。
もしかしてメイリーンさん達海軍の人達は飛行魔法を見た事が無いのかな?
海辺の国のそれも海軍だから、水魔法の使い手を優遇しているとか?
組織に仕える魔法使い達の中には同じ属性の魔法使い同士で派閥を作る人達も少なくないからなぁ。
海軍派閥の軍人達は風系の属性の魔法使い達と仲が悪いのかもしれない。
◆
「お、驚きました。魔法使いって空を飛べるんですね」
ジャイロ君達は魔法使いじゃないけどね。
そしてメイリーンさんの言葉から、やっぱり飛行魔法の存在そのものを知らなかったみたいだ。
組織の人間なんだから、せめてお互いがどんな魔法を使えるのかくらいの情報は交換したらいいのにねぇ。
こういう時、メイリーンさんみたいな魔法を使えない人達が迷惑しちゃうんだよ。
こういう無駄な派閥意識も、僕が国に所属するのが嫌な理由なんだよなぁ。
「という訳で、空から行けばメガロホエールの稚魚は問題なく回避できますよ」
「わ、分かりました。それではメガロホエールの背中にある塔の調査については貴方がたにお任せしたいと思います」
「分かりました」
「よろしく頼むぞ少年達!」
「おう! 任せてくれ!」
バーンさんの激励に、ジャイロ君が元気よく返事をする。
◆
「ではメガロホエールの調査に行ってきます」
「よろしくお願い致します!」
調査の準備が出来た僕達は、グッドルーザー号から飛び立った。
船は沖に出る直前の位置で僕達を送り出す。
これはまだ飛行魔法に慣れていないジャイロ君達の飛行距離を稼ぐ為であり、この辺りまでなら船を出してもメガロホエールに襲われないギリギリの距離だった。
「じゃあ行くよ皆!」
「「「「「はいっ!」」」」」
僕に続いて皆が空に浮かび上がる。
「メガロホエールの稚魚に見つかると潮吹きで攻撃される危険があるから、なるべく高度を取って!」
「分かったわ!」
ある程度の距離まで上昇すると、海の向こうに黒い影が見える。
歪な涙滴型のそれは、ゆっくりと動いていた。
「あれがメガロホエールの親だね」
「あれが本当のメガロホエール?」
「周囲の黒い点が僕らの見た子供なんですよね?」
ノルブさんが冷や汗を垂らしながらメガロホエールとその稚魚を見比べている。
「それじゃあ行こうか」
と、その時だった。
メガロホエールの稚魚の数体が突然雄たけびを上げて潮を吹き始めたんだ。
「どうしたんだアイツ等!?」
「見て、あそこに船が」
メグリさんの指摘に皆がメガロホエールの稚魚が向かう方向を見ると、確かにそこには船の姿があった。
「国の制止を無視して飛び出した商人の船かしらね? 正直言って自業自得だわ」
と、ミナさんが冷たく言い放つ。
「でも、それはあくまで雇い主の商人だけの話ですよね」
「レクス?」
確かに船を出した商人は自業自得だけど、働いている船員の人達は無関係だ。
「少しだけ待っててください」
「え? もしかして助けに行くつもりなの?」
「ええ、ちょっとだけ逃げる為の時間稼ぎです。皆は先に行っててください!」
僕は高度を下げながら商船とメガロホエールの稚魚の間に飛び込み、魔法を放つ。
「ハイドロガイザー!!」
先頭のメガロホエールの稚魚の真下から、巨大な間欠泉が噴出しその巨体をひっくり返す。
メガロホエールの稚魚は驚きの雄たけびを上げるけど、あくまでもただひっくり返しただけだから怪我はさせていない。
今回の調査の結果次第ではメガロホエール達を戦わずに外洋に追い返せるかもしれないからね。
もしそれが叶うなら、無理に殺す必要はない。
先頭がひっくり返った事で、後続が足止めを喰らって動きが止まった。
「今の内に港に戻って下さい!」
僕は船に近づくと、傍にいた船員さんに戻るよう伝える
「す、すまん! 助かった!」
船員さんは急いで操舵手の元へと走っていき、船は弧を描いて陸に向かって逃げて行った。
「これでよしっと」
そう思った時だった。
メガロホエールの稚魚達がそろって雄叫びをあげ始めたんだ。
「あれ? メガロホエールの子供の雄叫びって確か……」
確か、親に助けを求めるサインだった様な。
それを思い出した瞬間、海洋上に凄まじい轟音が鳴り響いた。
大気が震え、海面が大きく波打つ。
「ヤバッ」
と思った時には既に遅く、遥か彼方、メガロホエールの親の居る方向で大きな青い柱が上がった。
「親の潮だ!」
そう、メガロホエールの親が子供の助けを呼ぶ声に応えて潮を吹いたんだ。
潮は空高くまで延び頂点まで達したら、キノコのカサの様に周囲に向けて広がって落ちていく。
それも家程も大きい骨岩を無数にばらまきながら。
このままだと、上空に居るジャイロ君やバーンさん達のグッドルーザー号が巻き添えを喰らってしまう。
最悪の場合、海岸沿いの町に被害が出る可能性もある。
「広範囲の民間人に被害が出るのは不味い! 頂点に達する前に破壊しないと!」
僕はメガロホエールの親が噴出した潮が頂点に達する前に最速かつ極大の魔法を放った。
「ライトニングピラー!」
僕の前に光の円が生まれる。
直径およそ50mに及ぶ光円はそのまま空の彼方へと延びていき、まるで光の塔が空に向かって伸びていくかの様に見えた。
光の塔はメガロホエールの親が噴出した潮の真上を超えて伸び、その真下から潮がぶつかる。
メガロホエールの潮は光の塔を貫くかの様にぶつかったけれど、光の塔を超えるどころかそのまま止まってしまう。
けれどそれは止まった訳じゃない。
光の柱は超高熱の雷の塊だ。
メガロホエールの噴出した潮と骨岩は、雷の塔の超高熱で蒸発していた。
僕はゆっくりと光の塔を下に降ろしていく。
すると潮の柱もそれに合わせて低くなっていく。
光の塔が過ぎ去った場所は、モワモワと霧が立っている。
蒸発した潮の水蒸気だ。
ゆっくりと光の柱を下ろしていくと、少しずつメガロホエールの親の潮柱が細くなっていく。
どうやら打ち止めみたいだ。
そして完全に潮の柱が消えたところで、僕も魔法を解除して上空の皆の元へと戻っていった。
「ただいまー。商船の人達は皆無事だよー」
僕は先行していた皆に声をかける。
「「「「「……」」」」」
けれどなぜか皆無言でこちらを見ている。
どうしてか大きく目を見開いて。
「どうしたの皆?」
「「「「「い……」」」」」
「い?」
「「「「「今のヤバイの何っっっ!?」」」」」
何って、ただの上位雷撃魔法なんだけど。
(:3 」∠)ドラスレ/リリ「何かヤバイのが下から来て漏らすかと思った」
Σ(:3 」∠)哀願動物「既に漏らした」
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