第50話 イカ祭りと大怪鯨
_(:3 」∠)_おおう、久しぶりにやっちまった。今日も文字数が多いぜ。
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「コレより、クラーケンの討伐を祝うイカ祭りを開催します!」
風魔法によって周辺一帯に広がった司会の声が祭りの始まりを告げ、港に集まった人達が歓声を上げる。
「我々船舶組合と冒険者組合の協力によって、見事クラーケンは打ち倒されました! これも勇敢な冒険者達と船乗り達のお陰です!」
司会の言葉に集まった皆が拍手をする。
「そして見てください! これが我等の海を踏み荒らしたクラーケンの哀れな姿です!」
司会の言葉と共に、皆の視線が港の一箇所に集まる。
本来ならそこには海運の荷物や資材が置かれているんだけど、今日に限っては何もない広場になっていた。
いや、たった一つだけ大きな布に包まれた巨大な物体が鎮座している。
そして広場に待機していた船乗り達が布を引っ張ると、そこには地面に斜めに突き刺さった大きな杭が姿を表す。
そしてその杭の半ばには、体のど真ん中を貫かれたクラーケンの無残な姿があった。
「おー! あれがクラーケンか!」
「大きいわねー」
町の人々が口々にクラーケンの感想を発する。
「そして我々は、今日というめでたい日を祝う為、皆さんにクラーケン料理を振舞おうと思います!」
「「「「おぉぉぉぉぉ!?」」」」
「クラーケンって食べられるの!?」
「魔物を食べても大丈夫なのか?」
クラーケン料理と聞いて、町の人達が動揺の声をあげる。
まぁ食べた事のないものに対しては、人間警戒しちゃうからね。
「とはいえ、本当にクラーケンの肉を食べる事が出来るのかと不安に思う声もあるでしょう! そんな皆さんの不安に答える為、冒険者ギルドのギルド長、ロンゼン氏が実際に皆さんの前でクラーケン料理を毒見してくださいますっ!」
「「「「「おおーっ!」」」」」
司会の言葉と共に、ロンゼンさんがクラーケンの前に現れる。
そして現れた何人もの魔法使い達がクラーケンに炎の魔法を放ち、表面を焼いていく。
あらかじめクラーケンの表面に塗られていたタレが魔法で焼かれ、焦げた匂いが周囲に漂っていく。
「おおー、なんかスゲェ香ばしくて良い匂いだなー」
「ああ、こりゃ美味そうだ」
町の人達が思わず喉を鳴らす。
そして料理人達が美味しく焼けたクラーケンを解体していく。
大きなクラーケンの肉があっというまにバラバラにされていく様に、町の人々が興奮に満ちた歓声を上げる。
まぁ種明かしをすると、あのクラーケン肉は解体作業が楽になるようあらかじめ切れ目が入っていたりするんだけど。
そしてロンゼンさんの前にテーブルが設置され、その上にクラーケン肉を載せた皿が置かれる。
「さぁロンゼン氏、クラーケン肉の実食をお願いします!」
司会の声に頷き、ロンゼンさんがクラーケン肉を抱えてワイルドにかぶりついた。
「……」
無言でクラーケン肉を噛み続けるロンゼンさんに、町の人達が固唾を飲んで見守る。
そしてロンゼンさんが顔を上げて告げる。
「……美味いっ!!」
ロンゼンさんの言葉に、港に集まった観客達が歓声を上げた。
「それでは、これよりクラーケンの料理を開放します! 食べたい方は向こうの旗を持った職員の前に並んでください!」
「よーし! クラーケン肉にチャレンジだ!」
「俺も行くぞ!」
「よくも俺達の海で好き勝手してくれやがったなクラーケンめ! 美味しく戴いてやるぜ!」
町の人達がこぞってクラーケン肉の列に並び始める。
「これでクラーケン騒動も無事終了かなぁ」
皆が楽しげにクラーケン肉の行列に並ぶ光景を、僕達は見晴らしの良い場所から眺めながら呟いた。
「確かこのお祭りって、他の町でもしてるのよね」
事前に用意してもらっていたクラーケン料理を食べながら、横に座るリリエラさんが問いかけてくる。
うーん、お腹が空く匂いだなぁ。
「ガツガツガツッ」
モフモフもクラーケン肉の塊を貪るのに夢中みたいだ。
二人とも少しは祭りに集中しようよ。
「ええ、全てのクラーケンは各町の冒険者ギルドが買い取って、それぞれの町でクラーケンが討伐された証として町の人達に提供するそうです」
クラーケン達を討伐した僕は、ギルド長達に頼まれてクラーケンを一匹丸ごとそれぞれの町に売る事にした。
なんでも、町の人や外部の商人、それに旅人達にクラーケンを討伐した証を見せたいからとの事だった。
実物を見れば、クラーケンを倒したというインパクトが皆の心の中に刻まれるから、今後は内大海の航海も安全になるといういい宣伝になるという訳らしい。
町の人は安心でき、商人や旅人には他の町に行った時にクラーケン肉を食べた経験を語ってもらうことで、クラーケン問題が解決したんだと宣伝して貰う事を目論んでいるのだとか。
まぁどのみちクラーケンの素材は大半が肉と内臓だから食用以外にはあんまり使い道がないんだよね。
唯一クラーケンの墨が水属性の魔法陣を作る際にとても相性の良い染料になったりするんだけど。
内臓とかどうするんだろうって思ってたら、なんと塩辛にして酒の肴にするとギルド長達は言い出した。
なんでも祭りの夜の部で酒場に提供するらしい。
意外とこういうチャレンジ精神が新しい食材を見つけるのかもしれないね。
「まぁお陰で結構な儲けになりましたよ」
何しろ、クラーケンを倒した証拠として、その体を貫いたエルダープラント製の杭も買い取って貰えたからね。
「でもギルドとしては結構な出費になったんじゃないかしら?」
リリエラさんが言いたいのは、全てのクラーケンの討伐報酬が、本来各港町が想定していた報酬を大幅に超過したからだろう。
何しろ、どの町のギルドでもクラーケンが複数居る事は知っていたけれど、その数が想定を超えた7体だったからなぁ。
だから予算オーバーした2体分の費用はけっこうな負担となったのは間違いない。
「でもまぁ、ギルド長達の話だと予算は国から貰えるみたいですけどね」
何しろ海路の確保は海に面した国家の運営にとって命綱だ。
国としてもその為の予算なら嫌とはいえないだろう。
事実ギルド長達も、クラーケンが居なくなった事で海路が安全になるなら、そう遠くないうちに取り戻せる金額だと言っていたくらいだしね。
「あと、毎年クラーケンを討伐した記念としてイカ祭りを行う予定みたいですよ」
「何それ?」
「なんでも町の新しい名物にして、各港町と連携して行う祭りにするみたいです」
「何で他の町と連携するの? 自分達の町だけでやれば良いのに?」
リリエラさんが首をかしげるのも無理はない。
確かにクラーケン退治自体は各港町のギルド長達による連名依頼だったけど、そのあとの事後処理まで一緒になってする必要はない。
でもそれは町単位での考えならだ。
「どちらかというと、これは国の意向だと思いますよ。これからもお互いの領地と海域を犯さないで、内大海を公平に分け合おうって仲良しの儀式なんだと思います」
まぁこういう話は前世でも良くあった。
共通の敵を倒した事で、過去の確執は水に流そうぜってパターンだ。
完全にお互いの仲が良くなる事は無いけれど、それでもお互いに苦難を乗り越えた事はそれなりに連帯感を生み出す。
「なんていうか、祭りという割にはドロドロしてるわねぇ」
リリエラさんは呆れ顔で祭りの光景を見つめた。
きっと彼女の目には祭りの光景が違う色で見えていることだろう。
「まぁでも、そのお陰で追加報酬がもらえたんですからいいじゃないですか」
「追加報酬? 何それ聞いてないわよ?」
うん、まぁこれはクラーケンを倒した僕に内密でと頼まれた事だからね。
「ほら、さっき祭りの最初にクラーケンは冒険者ギルドと海運ギルドが協力して倒したって言ってたじゃないですか」
「ええ、言っていたわね」
「アレ、元々は僕が功労者としてあそこに出る予定だったのを、目立ちたくないから辞退したのが原因なんですよ」
「え?」
何故か、その「え?」には複数の意味を感じるんですけど、気のせいかなぁ?
「一種の式典の意味も兼ねた祭りなのに、功労者が居ないんじゃ祭りが盛り上がらないって言われたんで、それじゃあギルド全体の功績にしてくださいって提案したんです。実際の話、今までクラーケン退治に向かって一時的にとはいえ、クラーケンから船を守ってきた冒険者さん達と漁師さん達が居たわけですしね」
「で、それが何で追加報酬になるの? それだとレクスさんが一方的に損をしてるだけだと思うんだけど」
「いやそれが、ギルド長としてこれだけの手柄をタダで貰うわけにはいかないって言われて、せめて別の形で恩を返させてくれって言われて、ギルド長達のポケットマネーから金貨1000枚が追加報酬で入ってきたんです」
「5人で分割としても金貨200枚かぁ。お金ってある所にはあるのねぇ。……それにしても、どんどんお金が溜まるわね」
「一応家を建てるのにお金を使いましたよ?」
「それでもまだかなり余っているんでしょう? それこそ遊んで暮らせるくらいに」
「あはは……」
確かに、リリエラさんが言うとおり、僕はかなりのお金を所有している。
でも冒険者として生きる事が目的の僕としては、お金がたまったからと言って冒険者を引退する理由がないんだよね。
とはいえ、あんまり個人が使わないお金を死蔵するのも不味いよねぇ。
確かお金を溜め込んで使わないでいると経済が滞るんだっけ。
前々世で誰かがそんな事を言ってもっとお金を使えって言ってたっけなぁ。
とはいえ、何か贅沢をしたいって訳でもないし、何か有意義なお金の使い方はないかなぁ。
「まぁ、お金の使い道はおいおい考えますよ」
「あんまり変な事に使わないでよ?」
変な使い道ってなんだろう?
そんな事を話しながら、僕達はイカ祭りの光景を見つめていた。
気がつくと港には色々な屋台が設置され、クラーケン肉を使った様々な料理の屋台が出来上がっている。
あー、あの屋台もイカ祭り計画の一角なんだろうなぁ。
クラーケン祭り盛り上がる地上とは裏腹に、僕達の居る場所は、のんびりとした空気が流れていた。
そんな時だった。
ザバーン! と、とても大きな音が町中に響いた。
「な、何だ!?」
「まさかまたクラーケンが出たの!?」
イカ祭りで賑わっていた港が一転して動揺に包まれ、皆の視線が内大海に注がれる。
「おい、何だアレ!?」
誰かが内大海の中心を指差すと、そこには今まで存在しなかった大きくそして黒い島の姿が見えた。
「あれ? 内大海にあんな島あったっけ?」
「いや、無い筈だけど……」
皆が突然現れた黒い島に困惑している。
けれど違う、アレは島じゃない。
「お、おいアレ動いてないか?」
そうだ、アレは島じゃない。だから動くんだ。
「何なのあれ!?」
リリエラさんが始めてみる光景に驚きを隠せないでいる。
けれど僕は別の事で驚いていた。
「何でアイツがこんな場所に……」
「レクスさん、アレが何か知っているの?」
僕の呟きを聞いたリリエラさんが質問してくる。
「ええ、知っています」
そう、アレは間違いなくヤツだ。
けれど、その姿はあまりにも僕の知っているヤツと比べてあまりにも小さかった。
「アレは、クラーケンの天敵メガロホエールです!」
僕の言葉に答えるように、メガロホエールが雄たけびの様な音と共に潮を吹いた。
「キャアッ!?」
メガロホエールの噴いた潮が、周辺の海に落ちて大きな水柱を生む。
「メガロホエールは全長5kmにも育つ巨大な鯨の魔物です」
「ご、5kmって!? それ本当に生き物なの!?」
リリエラさんの言いたい事も分かる。
そんなデタラメな大きさの生き物が存在しているなんて信じられないんだろう。
「それに、あの……えっとメガロホエールだっけ? の大きさは100mくらいに見えるけど、大きさが話と違わない?」
そう、リリエラさんの言うとおり、あのメガロホエールは僕の知っているメガロホエールに比べて小さすぎた。
その理由はきっと……
「あれはおそらく生まれたばかりの稚魚です」
「あれで稚魚!? エンシェントプラントより大きいのに!?」
「ええ、見てください。さっき降り注いだ潮にぶつかった魚達が水面に浮かんできています。メガロホエールの潮は海水だけでなく、体内で生成された骨に近い物質が一緒に打ち上げられているんです。そして空高く打ち上げられた海水と骨石が上空から降ってきて、それに当たって浮かんできた周囲の生き物を食べて成長するんです」
メガロホエールがその大きな口をあけ、海水ごと浮かんできた魚達を飲み込み始める。
その光景は海に黒い穴が開いたかのようだ。
「あれでもメガロホエールの食事量としては少ないんです。本来なら、クラーケンクラスの大きさの魔物が彼等の食事のメインですから」
「クラーケンがメインって」
リリエラさんが呆れているが、この状況はかなり不味い。
「内大海にはクラーケンサイズの生き物は居ません。このままだと、内大海中の魚がメガロホエールに食い尽くされてしまいます!」
そう、メガロホエールは全長5kmにまで育つ大怪鯨、その巨体を維持する為の食事量は相当のものになる。
間違いなく、数ヶ月以内にこの内大海の生き物は絶滅してしまう事だろう。
「きっとクラーケンの子供達はメガロホエールから逃げて内大海にやってきたんですよ。大人のメガロホエールじゃ内大海に入ったら詰まってしまいますからね」
うん、さすがに大人のメガロホエールじゃあの狭い海路は通れない。
「それで、アレはどうするの?」
リリエラさんの言葉に、僕も少し考え込む。
「まずはロンゼンさんに相談かな。討伐を依頼されている訳でもありませんし、今討伐しても報酬どころか買取をするお金も用意できないと思いますから」
「そうね、私もそれが良いと思うわ」
正直言って、ただ働きは良くない。
命の危険があるなら助けるのもやぶさかではないけれど、メガロホエールは鯨の魔物だから、陸地に居る間は安全だ。
討伐依頼も出ていないんだから、今すぐ討伐する必要は無い。
むしろ下手に善意で動くと、前世の僕のようにトラブルにどんどん巻き込まれる様になる。
だからここは商売としてギルド長達と交渉するシーンだ。
◆
僕達は人でごった返す道を避け、屋根伝いに港へと向かう。
「ロンゼンさん!」
僕達が声をかけると、ロンゼンさんもこちらに気付く。
「おう、良く来てくれた! アレについて何か知らねぇか!?」
さすがギルド長。まずは情報収集から始めたよ。
「アレはメガロホエールと言って、クラーケンの天敵の魔物です」
「クラーケンの天敵!?」
僕はロンゼンさんにリリエラさんにした説明をもう一度繰り返す。
「……アレがクラーケン共が逃げてきた原因だったってのか」
「ええ、とはいえ、陸にいる限りは命の危険を心配する必要はありませんから、慌てる必要は無いかと」
まぁ海産物全滅の危機はあるけどね。
ロンゼンさんはメガロホエールを見ながら頭を抱える。
「とは言ってもなぁ、将来そんなヤバイのになると分かってるのなら、急いで討伐しないと手遅れになるしなぁ」
確かに、あまり長期間内大海に居座らせると、今度はアイツが外に出られなくなって内大海の脅威になるからね。
「討伐したいが、そんな大物となると間違いなくSランクの討伐対象だよなぁ……クラーケンの討伐報酬で追加予算を申請したばかりだってのに、ここで更にSランクの報酬を請求して予算が下りるかどうか」
ギルドの偉い人も大変だなぁ。
と、その時だった。
「海軍騎士団出動! あの巨大な魔物を討伐に出撃だー!」
見覚えのある船が港を出港し、メガロホエールに向かっていく。
「あれって確か、軍の新鋭艦じゃ!?」
船員の人達無事だったんだなぁ。
「ふははははっ! アレなら触手がないから船を投げられる心配も無い! 今度こそ最新鋭艦の力を見せてくれるわー!」
「ええと、どういう事なんでしょう?」
まだ人間に被害が出てないのに、なんでいきなり討伐に向かっちゃうの?
「あー、多分クラーケン退治で何も出来ずに敗北したもんだから、何か手柄を立てないと不味いんだろうよ」
最新鋭の戦艦で挑んであっさり負けちゃったもんなぁ。
そりゃあ何か手柄を立てないと上司に言い訳も出来ないよね。
ただ、相手はクラーケンじゃないとはいえ、それでも100mクラスの巨大生物だ。
それに対して戦艦は最新型とは言っても30mほどで大きさとしては1/3以下といったところだ。
戦艦が攻撃魔法を放ちながらメガロホエールに近づいていく。
それに対してメガロホエールはまったく反応しないでいた。
「あれは効いてるのか?」
「メガロホエールは獲物に体当たりするくらい頑強な体をしているので、あの程度の威力の攻撃魔法程度じゃ痛くもかゆくもないと思いますよ」
牽制の為なのか、メガロホエールに放たれる魔法は妙に威力の低い魔法ばかりだ。
もう少し威力を上げないと攻撃は通じないよ?
そしてメガロホエールが動いた。
メガロホエールは戦艦に向かって体当たりを敢行する。
戦艦は慌てて回避行動を取るも、このままでは避けきれない。
船上の魔法使い達が風魔法と水魔法で船の針路をかなり強引に曲げてなんとか回避するけど、それでも完全には避けきれずに側面にメガロホエールの体がぶつかり、船体が大きく揺れる。
そして通りすがりざまにメガロホエールが尻尾で水面を大きく叩いて発生した波で、軍艦の船体が更に揺れる。
そしてメガロホエールは大きく弧をえがいて一回転すると、必死で姿勢を維持していた戦艦の後部に向かって再び体当たりを敢行した。
さすがに二度目の突撃を避ける事は出来ず、戦艦は哀れ転覆してしまった。
本当に良いところ無いなぁあの船。
とはいえ、さすがにそろそろ放っては置けないな。
救助に行かないと。
「ちなみに、アレ倒せるか?」
ロンゼンさんが軍艦を撃退したメガロホエールを討伐できるかと聞いてくる。
「ええ、あれはまだ稚魚ですから、討伐はそう難しくはないですよ」
さすがに大人が相手だとちょっと大変だけど、相手はまだ子供だからね。
「そうなんだよなぁ、アレで子供なんだよなぁ」
しかも生まれてあまり経っていないガチの子供ですよ。
「あーしかたねぇ!」
ロンゼンさんが頭をかきむしりながら声を上げる。
「金は他のギルドの連中を説得してなんとか用意する! メガロホエールの討伐を頼めるか!?」
「……分かりました。任せてください」
よし、正式な依頼ならメガロホエールを討伐する理由になるね!
「それじゃあ、ささっと倒して、転覆した戦艦の人達を助けるとしようかな!」
僕はさっきまでクラーケンを突き刺していたエルダープラントの杭を引き抜くと、思いっきり上空高くまで飛び上がる。
「木、木が空を飛んだぞー!?」
周囲に居た観客がエルダープラントの杭が飛び上がった事に驚く。
「よーく狙って……そこだぁ!」
僕はエルダープラントの杭をメガロホエールに向けてぶん投げた。
狙うは潮を噴出す穴だ!
「ボェェェェェェッッ!?」
杭はメガロホエールの潮吹き穴に突き刺さり、突然の痛みにメガロホエールが悲鳴をあげる。
よし、穴に栓をした事で潮吹き攻撃を封じる事に成功したぞ。
海に放りだされた船員さん達が潮攻撃で怪我をしたら大変だからね。
「船員さん達が近くに居るから、雷属性系と氷属性系の攻撃魔法は厳禁だね」
ここは素直に普通の攻撃で倒すことにしよう。
僕は飛行魔法でメガロホエールに向かって飛んで行く。
そして変異種の刃で作った剣を水面に突き刺す。
高速で移動する僕を追うように、切り裂かれた水面が尾の様に吹き上がる。
進路を変更してメガロホエールの後方に回り込む。
「ソニックセイバー!」
風の魔法剣を発動し、メガロホエールの表皮に剣を突き刺しながら飛びぬける。
変異種の剣は普通の剣と同じく1mほどの長さしかない剣だ。
この剣ではどれだけ切れ味が良くてもとてもメガロホエールの巨体を切り裂く事は出来ない。
けれど、ソニックセイバーの魔法によって発生した風の刃は、変異種の剣と同じ切れ味を維持しながらその刀身を擬似的に伸ばしメガロホエールの体を貫通、その真下の海面まで到達し、その刃は尻尾から額まで走り抜ける。
そして振りぬいた風の刃は更にその先まで水面を切り裂き続け、数百m先まで水面を割る。
風の刃によって切り裂かれた水面が数秒の時間をかけて戻ると同時に、メガロホエールの体が真ん中からズレていき、そして真っ二つに割れた。
「「「「「デ、デカイ魔物がイキナリ割れたぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」
陸から見ていた観客達は、何が起こっているのか分からないので困惑の嵐だ。
そして割れたメガロホエールの体が海面に叩きつけられた事で、海面が大きく波打つ。
「うわぁぁぁ!?」
海面に投げ出された船員達の悲鳴があがる。
「おっといけない、ライフスフィア!」
僕は目に付いた船員達に風の救護魔法をかけて救助する。
魔法をかけられた船員達は球状の風に包まれて水面を漂う。
この魔法は要救助者を風の結界で保護する魔法なので、水難事故にあった人達を一時的に保護するボートにもなるんだ。
「さて、あとは海の中に沈んだ人達を助けないと」
探査魔法を使って人間の反応を探り、僕は要救助者達を救っていく。
そうこうしているうちに、港町からも船がやってきて船員さん達の救助が始まった。
そして一時間後には、全ての船員さん達が無事に救助されたのだった。
「まったく、どんな凄い魔物が現れても、レクスさんにかかったらどれも子犬扱いね」
なんてリリエラさんが呆れた口調で言うけど、そんな事はないですよ。
強い魔物は本当に強いんですから。
たまたま今まで出会った魔物達がたいした事ない連中ばかりなんですって。
余談だけど、最新鋭軍艦はちょっと傷が付いていたけれど無事との事でした。
うーん、頑丈だなぁ。
(・∃#)∠鯨「寧ろ俺、被害者じゃね?」
(:3 」∠)最新鋭戦艦「いや俺の方が被害者じゃね?」
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