第5話 ランクアップと初めての収入
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「おめでとうございますレクスさん。今回の依頼達成でレクスさんはDランクにランクアップしました」
初めての薬草採取を終えて冒険者ギルドに戻ってきた僕に、受付嬢のエルマさんがそんな事を言ってきた。
「はい?」
おかしいな。僕の冒険者ランクはFで、達成した依頼はFランクの薬草採取なんだけど。
更に言えば僕は今日始めて冒険者として働いたんですけど?
「なんでいきなりランクアップしてるんですか!?」
訳が分からないよ!?
「おお! さすがはレクスの兄貴! もうDランクにランクアップかよ!」
と、同期の冒険者であるジャイロ君が興奮して声を上げる。
彼、ついさっきイーヴィルボアから助けてからというもの、僕の事を兄貴と呼んでやたらと懐いてくる様になっちゃったんだよね。
しかも舎弟になりたいとか言ってるしさぁ。
「はいはい、ジャイロはこっち。ゴブリンとコボルトの討伐依頼の確認をしてもらうわよー」
あ、仲間の魔法使いさんに連れて行かれた。
「あーにーきぃー」
何だか無理やり散歩に連れて行かれる犬みたいだなぁ。
まぁ、ああやって素直に好意を向けられるのは悪い気分じゃないかな。
前世でも前々世でも、僕の周りによってくる人間は英雄や賢者である僕を利用したり、取り入ろうとしたり、研究を盗もうとするやつばかりだったからなぁ。
「それではまずこちらが薬草50束採取の報酬で、銀貨15枚です。つぎに……」
「ちょっと待ってください!」
「はい、なんでしょうか?」
「だからなんで僕がDランクなんですか!? おかしいでしょう!? 何かの間違いじゃないんですか!?」
しかしなぜかエルマさんは笑顔のままだった。
「間違いではありませんよ。本当に、間違いなくレクスさんはDランク冒険者です。その説明をこれからさせていただきますね」
「あ、はい」
何だ、ちゃんと説明してくれるつもりだったんだ。
「まず、薬草採取の件です。こちらは質の良い薬草を大量に仕入れて頂き大変ありがたく思っております。冒険者の仕事に傷はつきものですから。そして薬草の採取の仕方も大変丁寧だと査定班が褒めておりました」
「ええと、ありがとうございます」
ちゃんと薬草の採取の仕方を褒めて貰えるなんて、なんだか嬉しいなぁ。
前々世でポーションの研究をしていたお陰で薬効がある部分が分かっていて良かったよ。
「次に追加で査定を頼まれました複数のイーヴィルボアの件です」
む、来たねイーヴィルボア。
「このイーヴィルボアの件こそが、レクスさんがDランクに昇格した理由なのです」
「イーヴィルボアが?」
「はい、本来イーヴィルボアはBランク冒険者が討伐するクラスの魔物です。しかもそれを複数討伐とあっては、もはやFランクに居る事がギルドにとって損失になります。本来ならBランク、最低でもCランクに上げたかったのですが、レクスさんは一度も依頼を受けていないFランクでしたので、面倒なトラブルに巻き込まない為にDランクに抑えることとなりました」
あ、それは嬉しい。
前世も前々世も変に目立った事で騒動に巻き込まれちゃったからね。
そういう気遣いをして貰えるなんて、冒険者ギルドは良い組織だなぁ。
「そういう意味ではドラゴンの素材買取りの件もランクアップ案件なのですが、アレがレクスさんのやった事と判明すると、更に面倒な事になりそうですので、一時的にドラゴン退治のランク査定は保留させて頂きました」
「ああ、それは構いませんよ。だってグリーンドラゴンですし」
当然だよね。グリーンドラゴン程度の査定でトラブルが起こったらそれこそ面倒だもん。
「いえ、ドラゴンである事が重要なのですが……いえ、なんでもありません」
あれ? 何故かエルマさんが深いため息をついている。
そうだよね、この時間帯は買取りや依頼達成の受付で忙しくなるって話しだし。
あんまり長話するのも悪いか。
「それで、イーヴィルボアの素材ですが……」
うんうん、あれは綺麗に狩れたから自信があるよ。
傷口から雑菌が入らないようにすぐ傷口付近を魔法で凍らせたし。
「申し訳ありませんが、あのイーヴィルボアは数が多く、あまりにも状態が良い為、やはり当ギルドで全頭買取る事は不可能です」
「またぁー!?」
うわーん! これじゃあ全然収入が入らないよー!
いや薬草代は手に入ったけどさ。
「ですので、一頭を冒険者ギルドで買取、一頭を領主様が買取り、残り3頭を王都のオークションに出したいと思います」
え?
「冒険者ギルドとしても、大物の魔物のこれほど綺麗な討伐は貴重な資料となります。その為研究をかねて買取りをさせていただきます」
おおー! 僕の討伐技術が評価されたんだ! 頑張って傷口を小さくした甲斐があったよ! でも研究資料なんて照れるなぁ。
「では残りのイーヴィルボアもそのようにしてかまいませんか?」
「あ、はい」
よかったー、とりあえず二頭分は収入があるんだ。
これで当座の生活費は賄えるかな。
一体幾らになるんだろう!
「当ギルドでは一頭丸々の買取で金貨1000枚での買取りとさせていただきます」
「……え?」
今、いくらって?
「金貨1000枚です。即金ではすぐにご用意できませんので、金貨100枚とギルド銀行の預金で金貨900枚を通帳に記入させて頂きます」
「金貨1000枚ぃぃぃぃぃ!?」
僕の言葉に周囲がざわめく。
いけない、つい声が出ちゃった。
だってだって、薬草は10本1束で銅貨3枚だよ!?
ええと銅貨10枚で銀貨1枚で、銀貨10枚で金貨1枚だから、金貨1000枚だと銅貨に換算して銅貨100000枚だから……薬草採取の約33333倍!?
「な、何かの間違いじゃないですか!?」
しかしエルマさんは首を横に振る。
「レクスさん、大型の魔物は綺麗に倒すのがとても難しいんです。毛皮や皮、鱗は綺麗な部位が大きいほど価値が高くなります。そういう意味でも、イーヴィルボア丸ごと一体の毛皮の価値は大きいんです。」
「そ、そうなんですか?」
「そして領主様の使者様よりイーヴィルボアの買取の打診がありましたが、こちらはまだ正確な金額が提示されておりません。ですが領主のグリモア子爵は広く肥沃な領地をお持ちの貴族ですので、寧ろ冒険者ギルドよりも高く買取ってくれると思いますよ」
き、金貨1000枚よりも高く買取ってくれるの!?
だってこれ、イーヴィルボアだよ!?
そんな高く買っちゃって良いの!?
もっと質の良い魔物は魔界にいっぱい居るよ!?
「そしてオークションに出す分ですが、こちらは申し訳ありませんが、ドラゴンの件と同じですぐにはお金になりませんので今しばらくお待ちください」
「あ、はい、それは構いません。そういえばドラゴンのオークションはどうなっているんですか?」
といっても、昨日の今日だから期待はしていないけどね。
「ドラゴンは今朝早く王都に向けて運び出されました。早ければ三日後にオークションが開催されますが、耳の早い貴族達の間では既に勝負が始まっているかもしれませんね」
「そうなんですか!?」
貴族の情報網って凄いなぁ。
「ドラゴンの方も間違いなくイーヴィルボア以上の落札価格になりますので、期待して待っていてくださいね!」
エルマさんがグッと拳を握ってウインクしてくる。
「は、はは……期待してます」
イーヴィルボアで金貨1000枚なのに、ドラゴンは一体幾らになっちゃうんだろう?
「ああそうそう、大事な事を言い忘れていました」
用意されたイーヴィルボアの代金の一部である金貨100枚を魔法の袋に入れていると、不意にエルマさんがそんな事を言い出した。
「何か重要な事ですか?」
「はい、領主であるグリモア子爵様より夕食のお誘いです」
「あ、そういうのは良いです。遠慮しておきます」
面倒なのでさらっとパス。
「そうですか。分かりました」
エルマさんも流れるように了承してくれた。
「……って、ええーっ!? な、なに断っているんですか!? 領主様からのお誘いなんですよ!?」
了承してくれなかった。
「だって貴族の相手とか面倒くさいもん」
「いえでも、もの凄い名誉ですよ!? レクスさんのご活躍なら騎士として登用だってありえますよ!?」
それこそもっと面倒だよ。
「いえ、本当遠慮しておきます。僕、地味に生活したいんで」
「え゛っ!?」
なんかエルマさんがお前何言ってんの!? みたいな顔してる。
美人なのにそんな顔するのはどうかと思うなぁ。
「じゃあ僕はこれで」
僕はこれ以上面倒事に関わらない様、そそくさとギルドを出るのだった。
「ちょ、待ってくださいレクスさーん!」
聞こえない聞こえない。
さーてオーグさんにお金を返したら、今日は豪勢な晩御飯を食べるぞー!
◆
「聞いたかね例の噂?」
私達はある噂についての会話をしていた。
「ああ、聞いたとも、オークションにドラゴンが出品されるという話だな」
「しかもそのドラゴンの死体は驚く程に状態が良いそうではないか」
「なんでも首を真っ二つにして倒されていたとか。一体どんな魔剣を使えばそんな事が出来るのやら」
やはり皆ドラゴンの情報は掴んでいたか。
オークショニアという者は、耳の早さが命だからな。
だが、そんな情報通達もこの情報は知るまい。
「そのドラゴンが退治された現場を、目撃していた者が居たという話は聞いているかな?」
「何だと!? 一体誰が見ていたのだ!?」
ふふ、やはりそちらの情報は掴んでいなかったみたいだな。
いや、一部の者は既に情報を得ている様だ。
「リーオ卿だ。彼が極秘任務中にドラゴンと遭遇したらしい」
「極秘任務だと!? 聞いていないぞ!」
「なる程、道理でここ数日リーオ卿の姿を見ていなかったわけだ」
私の情報に十人十色の感想を口にする友人達。
特に任務という単語に殊更に驚いたのは軍務派閥のアーガイル卿だ。
騎士の任務が自分には伝えられていなかったのは相当驚いたらしい。
「リーオ卿の任務とは一体何だったのですか!?」
「これこれアーガイル卿、今はドラゴンの話題ですよ。それに極秘任務の内容を探るのはいささか不敬かと」
おやおや、財務派閥のムージ卿が煽られる。
不敬という言葉は、つまるところ我々の上のお方の命令だと言っているも同然。
つまりお前はそのお方から信用されていないという事なのだからな。
「ぐぅぅ」
アーガイル卿が悔しげにうなり声を上げる。
まぁ軍務派閥と財務派閥はいつの時代も仲が悪いものだからな。
「リーオ卿の話では、突然見知らぬ少年が空から降ってきて、ドラゴンの首を跳ね飛ばしてまた空に去っていったそうだ」
「空から!? リーオ卿は何を訳の分からん事を言っているのだ!?」
「お陰でこの事件は天使が解決したと上では言われていますよ」
私のジョークにサロンが笑いに包まれる。
だが皆目は笑っていない。
リーオ卿の極秘任務、それにドラゴンを倒したという謎の少年、更にはドラゴンの首を切り落とした武器は何かをこの少ない情報の中で推理しているのだ。
もっとも、その中でも最優先なのは、オークションに出品されるドラゴンの落札なのは明白だろうがね。
さてどうしたものか。
誰と手を組んで求める素材を入手するか。
その相手を決めるのが悩ましい。
我等の夜は、まだまだ長そうだ……。
「大変だ諸君! あのイーヴィルボアがオークションに出品されるそうだ!」
「「「なに!?」」」
突如持ち込まれた情報に、サロンが騒然となる。
「ドラゴンに続いてイーヴィルボアだと?」
「いや、やはりそこはドラゴンだろう」
「しかもイーヴィルボアは信じられないほど状態が良く、毛皮は丸ごと敷物に出来るほどらしい!!」
「「「「なんだと!?」」」」
信じられん、10mを越えるイーヴィルボアの毛皮が丸ごとだと!?
そんなものが出品されたら、王城のホールに敷かれても遜色はないぞ!
「しかも同じ状態のイーヴィルボアが全部で3頭出品されるらしい!!」
「「「「なにぃぃぃぃぃっ!?」」」」
と、討伐難易度が恐ろしく高い魔物の質の良い素材がこれほど連続で出品されるだと!?
数年に一回、いや10年に一回あるかどうかの出物だぞ!?
「しかもイーヴィルボアを出品してきたのは、今噂になっているドラゴンを出品してきたトーガイの町の冒険者ギルドだそうだ!!」
「な、何だって!?」
い、一体あの町で何が起こっているのだ!?
(´・ω・)オークション始まってないのに、お貴族様のサイフがマッハでピンチ。
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