第48話 内大海とクラーケン
_(:3 」∠)_ほとんど治ったので、そろそろ更新時間をいつもの時間に戻そうかなとおもっておりますー。
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無事船と船員を保護した僕は、そのまま屋根に飛んで現場を離脱する事にした。
この場に居続けるとちょっと面倒な事になりそうだからね。
「き、君、ちょっと待ちたまえ!」
後ろから僕を引き留める声が聞こえるけれど、ここは聞こえないフリだ。
下手に止まってしまったら逃げる理由を失ってしまう。
ここは聞こえなかった事にしてさっさと港を離れよう。
◆
「この辺りまでくれば大丈夫かな?」
人気のない場所まで逃げてきた僕は、念の為魔法の袋から今着ている服と違う色の上着を取り出して着替える。
後は堂々と街中を歩いてリリエラさんと合流すればいいだろう。
向こうも逃げた僕が堂々と街中を闊歩しているとは思わないだろうしね。
◆
「いきなり飛び出したと思ったらそのまま居なくなって焦ったわ」
「キュウ!」
リリエラさんと再会した僕は、さっそく彼女に叱られていた。
「いやー、すみません」
悪いのはこちらなので、素直に謝る。
「キュウー?」
モフモフがお前本当に反省してんのかと言いたげに僕の頭をペシペシと叩く。
ゴメンゴメン、次からはもっとそっとリリエラさんにパスするから。
「やるならやるで、一言言って欲しかったわね」
本当に申し訳ありませんでした。
「ふぅ……まぁ良いわ。それよりもさっきのアレは何だったの? 巨大な戦艦をオモチャみたいに振り回す魔物なんて聞いた事も無いわ」
さすがに冒険者だけあって、リリエラさんはアレの正体が気になるみたいだね。
未知の存在との遭遇は冒険者の喜びの一つなんだから。
まぁ僕としては、アレとの遭遇は初めてじゃないから大して嬉しくもないんだけど。
「アレは多分クラーケンだと思いますよ」
「クラーケン? クラーケンってあの巨大なイカの怪物の事!?」
リリエラさんがクラーケンの名前を聞いて驚きの声をあげる。
クラーケン、それは海の魔物を語る上で外す事の出来ない存在だ。
「そうです、普段は深い海の中で静かに暮らしていますが、時折海上に浮上するとその巨体を活かして獲物を喰らう超大型の魔物です」
僕の説明を聞いたリリエラさんがゴクリと唾をのみ混む。
「まさか、伝説の魔物クラーケンに出会えるなんて……」
「え?」
リリエラさんがおかしな事を言う。
クラーケンなんて沖に出れば普通に遭遇するじゃないか。
少なくとも前世じゃクラーケンなんてザラに出てたから、漁師が網を投げるとクラーケンがウジャウジャ引っかかるってボヤいていたくらいですよ?
「幾ら最新の戦艦でも、相手がクラーケンじゃどうしようもないわね」
そういえば、クラーケンのおもちゃにされた戦艦は最新鋭の船って触れ込みだったよね。
でもあのクラーケン、何で船を放り投げたんだろう?
普通クラーケンなら……
「それで、これからどうするの? あのクラーケンを討伐しに行くの?」
「ええと、そうですね。まずは冒険者ギルドに向かいましょうか。あのクラーケンの事が何か分かるかもしれません」
まずは情報収集から始めないとね。
◆
という訳でやってきました、フィジオの町の冒険者ギルド。
「なんだか変わったギルドだなぁ」
フィジオの町の冒険者ギルドは、これまで僕達が行った事のあるどのギルドとも違う形をしていた。
なんとこの町の冒険者ギルドには壁が無く、外から中が丸見えなんだ。
そしてギルドの中央には四角いカウンターが備え付けられ、4人の職員さんがカウンターの中側から冒険者さん達に対応をしていた。
「なんていうか冒険者ギルドと言うよりも、お店みたいな感じよね?」
うん、リリエラさんの言うとおりだ。
実際ギルドの窓口の人達も王都やヘキジの町の職員さんと比べるとラフな感じの格好をしている。
「けどまぁ、一応仕事はしているみたいだし、まずは依頼ボードを確認しませんか?」
「そうね」
僕達は気を取り直し、依頼ボードに貼られている依頼を確認しに向かう。
「……うーん、船の護衛として飛び道具か魔法を使える人を募集する依頼が多いですね」
確かに長槍なら兎も角、剣や斧じゃあ海の敵を攻撃するには向かないよね。
「後は荷物の積み込みや港周辺の夜間見回りの仕事ばかりね」
それ以外は他の町でも募集される依頼と似たり寄ったりだ。
「あっ、あった。クラーケン討伐」
僕は依頼ボード一番目立つ場所に張られていた依頼用紙を発見する。
「Sランクの魔物クラーケンの討伐、報酬は金貨1500枚だそうです」
へー、討伐報酬だけで1500枚って事は、素材買取の報酬を入れると更に増えそうだね。
「あれ? でもクラーケンがSランク?」
おかしいな、僕の記憶だとクラーケンの強さはせいぜいBランク程度の魔物だったと思うんだけど。
知らない間にクラーケンも強くなったのかなぁ?
「おいおい、ソイツに関わるのはやめときな」
と、話しかけてきたのは、一人の厳つい男性だった。
「貴方は?」
「俺はこの町で漁師をしているロンゼンってモンさ。つっても、船はあの野郎にぶっ壊されちまったがな」
どうやらこの人はさっきのクラーケンの被害者らしい。
「今まで多くの冒険者がアイツに挑んだが、誰一人として勝てなかった。アンタ等も見たんだろ? 軍の作った戦艦がおもちゃ扱いされた光景を」
まぁある意味特等席で見ていました。
「そんなに前からクラーケンはこの辺りに生息していたんですか?」
クラーケンの出現時期が気になった僕は、ロンゼンさんに聞いてみる。
「いや、ヤツが現れたのはつい最近だ。突然現れ、内大海の船を襲い始めた。お陰でこの内大海の船は座礁の危険を冒してでも岸沿いに船を走らせないといけなくなっちまったんだ」
なる程、陸地沿いの浅瀬ならクラーケンも襲ってはこれないって事か。
でもロンゼンさんが言うとおり、浅瀬じゃ小型のボート以外は危険だよね。
町の人達が言っていた問題も、あのクラーケンが原因だった訳か。
「魔法使いを大量に雇ってクラーケンを討伐しようとはしなかったの?」
リリエラさんの疑問に、ロンゼンさんは首を横に振る。
「ああ、確かにそんな作戦も計画された事もあったがな、ヤロウやばくなると海の底にもぐりやがるのさ。そんで傷が治った頃にまた上がってきやがる。一応怪我をした直後は出てこなくなるから、皆その間に船を出港させるわけだが、それじゃあどうにも金が掛かっちまってな。いい加減困り果ててたって訳だ」
ああ、確かにそれだと毎回クラーケンが現れる度に大量の魔法使いを雇わないといけなくなるモンね。
「今回こそは軍の戦艦が何とかしてくれると期待していたんだがなぁ、とんだ期待はずれだったぜ」
ロンゼンさんは肩を落としてため息を吐く。
「アイツのお陰でうかつに漁にも出れねぇし、本当に商売上がったりだ」
町の人達も困っているみたいだなぁ。
「そういう意味じゃさっきのあの兄ちゃんに期待したいところなんだがなぁ」
「え?」
「なんだアンタ等、見てなかったのか? あの戦艦を受け止めたスゲー兄ちゃんをよ。ありゃあとんでもなかったぜ! あの怪力があればアイツを海から引きずり出せると思うのによう! 遠くからだったから詳しくは見れなかったけど、若い兄ちゃんだったのは間違いねぇな。それにしても、何で姿を消しちまったんだろうなぁ」
あー、うん。そうですね。
きっと目立ちたくなかったんだと思いますよ。
相手は騎士だったしね。
「ああそうそう、依頼を受けても町の漁師達はアイツに船を壊されるのを恐れ船を出してくれねぇから無駄だぞ。なにせ最新の戦艦でもかなわねぇんだからな」
それだけ言うとロンゼンさんはさっさと雑踏に姿を消してしまった。
もしかして僕達を心配して色々と教えてくれたんだろうか?
「それで、どうなの? クラーケンを倒す算段はある訳?」
ロンゼンさんの姿が見えなくなって、リリエラさんが僕に問いかける。
「ええっと、あの人の話だと船を出しても無駄って事みたいですけど」
うん、船を転覆させられたり破壊されたらそれで終わりだからね。それに魔法で攻撃しても仕留めそこなって逃げられたらおしまいだろうし。
「でも何か良い作戦があるんでしょう? だから依頼用紙を探していたんじゃないの?」
……鋭いなぁ。
「まぁ、方法は無い訳じゃありませんよ」
実際、クラーケンを討伐する方法は何パターンかある。
大事なのは一撃で倒すこと、そして逃がさないことの二つだ。
ただその場合、討伐の証を確保する為に大規模な攻撃魔法は控えないといけない。
消し炭にしたら討伐したと信じて貰えないからね。
となると、一撃でピンポイントに弱点を狙って命を奪うか、逃げられない状況を作るしかない。
相手が戦艦をおもちゃに出来るほどの大きさである事を考えると、なかなか難しいだろうね。
更に言えば、今回は漁師さん達に船を出して貰えないから、なおさら遠距離での戦いになるだろうね。
という訳なので、僕は昔ながらのシンプルな方法を選ぶ事にした。
「まぁ折角来たわけですし……クラーケン退治、してみますか」
「そうこなくっちゃね!」
こうして、僕達はクラーケン退治をする事となった。
◆
数日後、準備を終えた僕達はクラーケン退治の為に港にやって来た。
「じゃあクラーケン退治を始めましょうか」
そういって僕は魔法の袋からクラーケン退治の為の道具を取り出す。
「おいおい、なんだこりゃあ」
近くで作業をしていた漁師さんや船員さん達がクラーケン退治の道具に興味を示したのかやってくる。
「なんだなんだ、お前さん達本気でクラーケン退治をするつもりなのか?」
と、その中には先日出会ったロンゼンさんの姿もあった。
「ええ、折角来たので挑戦してみようかと」
「まぁそりゃあアンタ等の自由だが、こりゃあ一体なんだ? ロープで結ばれた小船? いやしかしこりゃあ船と言うにはなぁ」
ロンゼンさんの疑問に、周りの漁師さんや船員さん達もうんうんと頷く。
「それに先端の碇は妙な形をしてるな。碇というよりは寧ろフックか?」
皆が僕の用意した小船を見て首をかしげる。
事実それは人間が乗る為のものじゃなかった。
ソレは丸太を削って船っぽく見せただけの代物だ。
水に浮けば良い程度の出来である。
そしてその小船には太いロープが通されており小船を貫通している。
更に小船から伸びたロープは一本の太く長い丸太に繋がっていた。
「まぁ見ていてください」
僕は小船を浮かべると、風の魔法を発動させる。
「コントロールウインド!」
これは帆船に乗る魔法使いが好んで使用する魔法で、文字通り風を自由に操る魔法だ。
攻撃に使えるような風じゃないけど、この魔法を使えば凪の時でも帆船を自由に移動させる事が出来る。
急ぎたい時や変な潮の流れに乗せられた時に重宝する魔法だ。
そして僕はこの魔法で先日、軍の戦艦がクラーケンに襲われた場所に小船を誘導する。
そうして、目的の海域に小船が到達して暫くたった時だった。
「っ!? 出たぞ!」
漁師さんの言葉の通り、突然小船がグラグラと揺れたかと思うと、海から現れた触腕によって空中に持ち上げられた。
「よし!」
触腕は小船に巻きつくと、ミシミシという音を立てて小船をひしゃげさせる。
そしてそのまま小船は海の中へ引きずり込まれてしまった。
それを確認した僕は横に置いておいた丸太の端を抱える。
そして間もなく丸太に繋がってたロープが海に引きずりこまれ始めた。
「よーしよし! いい感じだ」
僕は作戦が上手くいっている事を確信しながら丸太を抱える。
そしてロープが完全に海に沈むと、繋がっている丸太が海に引っ張られる。
「なんのぉぉぉ!」
丸太を海に引きずり込もうとするパワーに、身体強化魔法で対抗する。
「あ、あの兄ちゃん、一体何をしているんだっ!?」
状況が分からず、回りの船員さん達が困惑する。
僕がやろうとしている事、それはクラーケンの一本釣りだった。
丸太が竿、ロープが釣り糸、小船は浮きと囮、そして碇が釣り針の巨大丸太竿による超大物釣りさ。
「ぬぬぬぬっ!」
海の底へ引っ張り込もうとする力をこらえ、僕は逆に丸太竿を引っ張る。
普通の釣りなら釣り糸を気遣うものだけれど、このロープは僕が魔法で強化した釣り糸だ。
そんじょそこらの魔物じゃ引きちぎる事なんて出来やしないよ。
そして動き回るのに疲れたのか、クラーケンの力が一瞬弱まった。
「ここだぁぁぁぁぁっ!」
一瞬のチャンスを感じ取り、僕は思いっきり丸太竿を引っ張り上げた。
「「「「で、出たぁぁぁぁぁっっ!!」」」」
釣り上げられたクラーケンが宙を舞い、船員さん達が声を上げる。
その姿はまさしく巨大なイカだった。
「って、ヤベェ!?」
ロンゼンさんが驚きと焦りの混ざった声をあげる。
クラーケンの巨体が宙を舞いながらこちらに向かってきたからだ。
まぁ釣り上げたからには、当然こちらに向かってくるよね。
「皆は下がって!」
僕は釣竿を放り捨てると、迎撃の準備をする。
このままだと元気なクラーケンが港に上陸しちゃうからね。
「喰らえ! ハイドロザンバー!」
魔法の発動により、海面から水が立ち上る。
それは僕達からみたらただの線、けれどそれを横から見た人が居たなら、水の大剣がクラーケンを一刀両断にしている光景が見えた事だろう。
ハイドロザンバー、水圧を利用した極薄超高圧の水の剣を放つ魔法だ。
真ん中から真っ二つに切られたクラーケンが左右に分かれて港に滑り込んでくる。
倒しはしたけど、このまま港に上陸したらこれはこれで大惨事になってしまうので、更に処理を行う。
クラーケンが着地する寸前に剣撃波で内臓をカットし身から分離させる。
そして魔法の袋で内臓を回収し終えたら、二本の長槍を取り出して港を滑走するクラーケンの身に突き刺して動きを止め、ゲソと胴体を分ける。
最後に身とゲソを適度な大きさにカットして魔法の袋に収納させれば、おしまい。
あとは丸太竿を回収して、港の地面を水魔法で洗い流せば一件落着っと。
「はい、クラーケン退治完了です。ギルドへ戻って査定して貰いましょうか」
僕は後ろで見学していたリリエラさんに向き直って促す。
彼女はポカンとした顔で僕を見ていたけど、何故か苦笑しながらため息を吐いた。
「……何とか出来るとは思っていたけれど、また今回はとんでもない力技で解決したわねぇ」
いやいや、この程度身体強化魔法で肉体を強化すれば誰でも出来る様になりますよ?
それにクラーケンを討伐するならやっぱり囮を使った一本釣りが基本ですし。
「キュウ!」
リリエラさんの腕から飛び出したモフモフが僕の足にまとわり付く。
「モフモフ? ……ああそういう事ね」
モフモフの望みを察した僕は、魔法の袋から小分けしたクラーケンの身を取り出して与える。
「キュウ!」
エサさえもらえれば後は知った事じゃないぜ! といわんばかりにモフモフは僕からクラーケンの身を引ったくって夢中で食べ始める。
まったく、現金なヤツだなぁ。
「じゃあ戻りますか」
「ええ」
「それでは皆さん、お騒がせしました」
僕達は無言で固まったままの船員さん達の間を通り抜け、ギルドへ向かって歩き出した。
「「「「「……って、クラーケンを釣ったぁぁぁぁぁ!?」」」」」
ん? 後ろがなんだか騒がしいなぁ。
_(:3 」∠)_ クラーケン「スルメと塩辛はいやぁぁぁ!」
_Σ(:3 」∠)_ 哀願動物「ヌコじゃないから食べても大丈夫!」
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