第47話 海と新造戦艦
_(:3 」∠)_だいぶ調子が戻ってきました。
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「今日はどうしようか」
ボクは抱え込んだモフモフを撫でながら依頼ボードを見る。
「そうねぇ、今のところたいした依頼も無いし、ランクの高い依頼が出てくるまでゆっくりするのもアリだと思うわ」
大規模討伐が終わった後、王都の冒険者ギルドではランクの高い依頼が姿を消してしまっていた。
ここ最近までは王都付近に様々なランクの魔物が居たから、高ランクの護衛依頼や討伐依頼があったけど、いまじゃ討伐に洩れた弱い魔物くらいしか王都周辺には居なくなってしまったので仕事が無くなってしまったんだ。
「ジャイロ君達はそんなの関係ナシに仕事を請けてますけどね」
そう、王都に滞在する事にしたジャイロ君達は、ランクを上げる為に色々な仕事を手当たり次第に請けていた。
大規模討伐でその実力を示した彼等は、いまや王都で知らぬ者の居ないEランクパーティとして有名になっている。
え? 彼等はFランクだろうって?
実は大規模討伐で活躍した事で、ジャイロ君達はEランクに昇格したんだ。
ついでに言うと、リリエラさんも同様の理由でAランクに昇格している。
それはそれでめでたいんだけど、リリエラさんも冒険者ランクが上がった事で、僕達は仕事を受けにくくなってしまっていた。
というのも、今王都のギルドに張り出されている依頼は、E、Dランクばかりで高くてもCランクの依頼しか募集されていないんだ。
で、僕等はS、Aランクだからあまり低い依頼を受けると、依頼主が困惑しちゃうとギルドの職員の人に言われてしまった。
それに僕達が低ランクの依頼を受けると、実際に適正ランクである冒険者さん達の仕事を取る事になっちゃうとも言われてしまったんだ。
だから僕達だけは仕事を受ける事が出来なくて困っていた訳。
実際、同じSランクであるロディさん達も、同様の理由から自分達のホームである国に帰っていった。
でも僕達のホームはこの国なんだよねぇ。
「お金はまだあるから生活に困る事はないけれど、いつまでも仕事をしないでダラダラするのも考えものだよなぁ」
そんな訳で今日も朝から依頼ボードをチェックしてランクの高い依頼を探していたんだけど、やっぱりまだまだ高レベルの依頼は張られていなかった。
「だったら内大海の町へ行ってみないか?」
「え?」
突然話しかけられた僕が振り向くと、そこには驚くべき人の姿があった。
「ギルド長!?」
そう、その人はこの冒険者ギルド王都支部のギルド長であるウルズさんだ。
「内大海ってなんですか?」
僕はギルド長の言った内大海について質問する。
正直聞いた事のない言葉だ。
「なんだ、お前さん内大海を知らねぇのか。内大海ってのはな、大昔の魔人との大戦争で出来た大きな地形の事だよ」
そういってギルド長が説明を始める。
「元々は平地だったらしいんだが、戦でドデケェクレーターとやたら深くて長い渓谷状の地形が出来ちまったそうだ。そんでその渓谷が海と繋がっちまう程長かったもんで、渓谷を伝って海水が内陸に流れ込み、クレーターに溜まってちょっとした海が出来たって訳だ」
「へぇー、そんな土地があったんですねぇ」
前世でも前々世でも聞いたことが無いから、僕が死んだ後の出来事なのかな?
「そんで俺達の国も内大海の一部が国土に面している、世にも珍しい内陸なのに海のある国になったって訳だ」
うわー、なんだかワクワクする話だなぁ。
「で、何で私達に内大海へ行く事を勧めるの?」
リリエラさんがギルド長の本心が知りたいと突っ込んだ質問をする。
「ああ、なんか内大海沿いの町にあるギルドが冒険者を募集していてな、そんでお前さん達が暇なら行ってみたらどうかと思ったんだよ」
「冒険者を募集ですか?」
「そうだ。お前等水辺での仕事はやった事無いだろう? どうせ王都じゃお前さん達に相応しい仕事は暫く出そうもねぇ。だったら観光がてら行ってみたらどうだ?」
「何で僕達が水辺の仕事をやった事が無いと分かったんですか?」
「そりゃお前ぇ、この国の冒険者で内大海を知らねぇヤツが水場の仕事を経験した事があるとは思えねぇからさ」
どうやら内大海は冒険者の間では有名っぽいな。
「リリエラさんは内大海って知ってました?」
「まぁ名前くらいはね。よその町から流れてきた冒険者や商人から聞いたことはあったわ」
ふむふむ、なる程。
けど海での仕事か。
前世で海を舞台に戦った事はあるけれど、内大海っていうのは見た事が無いし、一度行ってみるのもおもしろそうだね。
「そうですね……それじゃあ折角だし、内大海に行ってみましょうか」
「私はいつもどおり、貴方について行くわ」
「キュウ!」
リリエラさんだけでなく、モフモフも返事をする。
「内大海は海と繋がってるお陰で海産物も豊富だ。新鮮な海の幸が腹いっぱい食えるぞ!」
おー、それは楽しみかも!
「キュウー!」
おっと、モフモフが海の幸と聞いて行く気満々だ。
「それじゃあジャイロ君達が帰ってきたら行きましょうか?」
「その必要は無いと思うわ。彼等が受けた仕事は数日掛かる内容だし、家に置き手紙をおいておけば十分でしょう」
え? 良いのかな?
「そもそも彼等は私達とは別のチームなんだから、わざわざ許可を取る必要もいちいち誘う必要も無いわよ。来たかったら自分達の足で向かうから心配ないわ」
んー、まぁそう言われればそうかな。
どのみち一度向こうに行けば、今後はゲートで自由に行き来できるしね。
「じゃあ準備をしたらすぐに行きましょう!」
「ええ!」
「キュウ!」
◆
「あっ、見えてきましたよ!」
王都を出て内大海へと向かった僕達は、大地の向こうに広がるとても大きな川を見つけた。
きっとあれが内大海の渓谷なんだろう。
空を飛んでいるから対岸が近く見えるけれど、地上から見たらかなり遠くに対岸がみえるんだろうな。
「それはいいんだけど、何時になったら降りられるのかしら?」
「キュウー」
僕に抱えられて空を飛んでいたリリエラさんとモフモフが呻く様にたずねてくる。
「もう少し飛んだら町がありますから、あとちょっとの辛抱ですよ」
「わかった……なるべく早くね」
「キュウー」
リリエラさんとモフモフはやっぱり空を飛ぶのが苦手みたいだ。
王都から内大海の町までは結構距離があったので、僕は空を飛んで移動する事にしたんだ。
相も変わらずリリエラさん達は空を飛ぶのを嫌がっていたけれどね。
自分で飛べる様になればまた違うと思うんだけど、まだ二人には無理っぽいからなぁ。
◆
「はい到着です」
厳密にはまだ町についていないけれど、町のそばで降りると騒ぎになるからね。
だから町の少し手前に僕達は着地した。
「はー、地面だわぁ」
「キュウー♪」
地面にへたりこむリリエラさんと、ゴロゴロと転がって地面の感覚を満喫するモフモフ。
「それじゃあ町に入りましょうか」
「んっ、そうね。どうせ休むなら、宿で休みたいわ」
リリエラさんが重い腰をあげると、僕もモフモフを抱える。
そして内大海の町へと足を踏み入れた。
「ようこそ、フィジオの町へ」
門番の人が歓迎の言葉をかけてくれる。
「今はあんまり良い物がだせねぇけど、あと数日も経てば美味いモンが食えるようになるから我慢してくれよ」
「それは、どういう意味ですか?」
門番の人の言葉が引っかかった僕は、何故と理由を問う。
「ああ、アンタ等は知らずに来たのか。実は今、内大海は面倒な魔物に占拠されちまっててよ、その所為で沖まで船が出せねぇんだわ」
へぇ、そんな事になっていたんだ。
あっ、もしかしてそれがギルド長の言っていた冒険者を集めている理由ってヤツかな?
「だから今は海岸沿いで小せぇ獲物を釣るくらいしか魚を獲る方法が無ぇのさ」
海の幸といえば、沖に出ての漁だもんね。
でも魔物に占拠されていたらそれどころじゃないか。
「あと数日って言うのは? 何か対策が出来たの?」
空の旅の疲れから回復したリリエラさんも会話に加わってくる。
「ああ、実は国が新しく作った戦艦を魔物退治に回してくれる事になったんだ。で、ソイツが魔物を倒してくれれば漁師達は沖に漁に出られるようになるって寸法よ」
「それは心強いですね」
「ああ!」
国が新しく作った戦艦かー。
きっとすごく強くて大きいんだろうなぁ。
「船の出港は明日だ。アンタ等も見たけりゃ港に行くと良いぜ」
「わかりました! ありがとうございます!」
門番さんから事情を聞いた僕達は、宿を求めて町へ入る。
「新しい船を見られるなんて楽しみですねぇ」
「そう? 私は別にどうでもいいけど」
けれど、リリエラさんは新しい戦艦には興味が無いみたいだった。
あー、よくよく考えると、女の子はこういう事に興味が無いのかな。
村でも新しい道具をお披露目する時に興味を示してくれたのは、男の子達ばかりだったもんなぁ。あとは村のおじさん達くらいだっけ。
「それにしても随分と変な匂いがする町ねぇ」
潮の匂いに慣れていないリリエラさんが不快そうに手で鼻を隠す。
まぁ慣れてない人にはキツイかもね。
「宿の中ならもうすこしマシだと思いますよ」
「そうね、さっさと宿を決めましょうか。さすがにずっと空の上は疲れ……ふわっ」
と、リリエラさんが眠たそうにあくびを漏らす。
確かに王都からは結構距離があったからね、疲れが溜まっているのかもしれない。
「じゃああそこにしましょうか」
僕達は適当に見繕った宿を選ぶと、そこに入っていく。
「店の名前は……深海から誘い亭か。変わった名前だなぁ」
◆
「いらっしゃい」
暗そうな店の名前の割には、割と普通の店員さんに迎えて貰えた。
「ウチは三種類の部屋があって、それぞれ一泊銅貨8枚、銀貨3枚、金貨1枚になります。勿論金額が部屋とサービスの良さに直結していますよ」
清清しいくらいに分かりやすい説明だ。
「じゃあ金貨一枚の部屋を二つ。あとこのモフモフも一緒に泊まって良いですか?」
「オシッコとかのしつけをしていれば問題ないですよ」
「それは大丈夫です。結構賢いですから」
そういって僕は金貨を二枚差し出す。
「はい毎度アリ! ああ、それと悪いんですけど、食堂の料理は今は普通のモノしか出せないんですよ」
と、店員さんが申し訳なさそうに謝ってくる。
「例の魔物騒動が原因ですか?」
「ええ、ウチの宿の売りは店の名前からも分かるとおり魚料理なんですが、その魚を獲りに行けなくて、普通の食材しか用意できないんですよ」
正直店の名前から全然想像つかなかったんですけど。
「まぁそれはかまいませんよ」
「ありがとうございます、こちらが部屋の鍵となります。出かける際は一旦カギを受付に
預けてくださいね」
「分かりました」
そしてカギを受け取った僕達は、荷物を置きに部屋へと向かう。
「さーって、それじゃあ食事にでも行き……リリエラさん?」
リリエラさんを夕飯に誘おうとした僕だったけれど、気がついたら彼女はベッドにもたれかかってすっかり熟睡していた。
「っていうか、折角二つ部屋を取ったのになぁ」
しょうがない、僕が向こうの部屋で寝るとするか。
「起こすのも悪いし、僕等だけでご飯を食べに行こうか」
「キュウ!」
リリエラさんをベッドに寝かせた僕達は、そっと音を立てずに部屋を後にしたのだった。
◆
翌朝、目を覚ました僕達は噂の戦艦を見に港までやってきていた。
「うわー、人で一杯だなぁ」
どうやら皆考える事は同じだったらしく、港は見物客でごった返していた。
「あの辺りがいいんじゃない?」
と、リリエラさんが指差したのは、登るにはちょっと手間が掛かりそうなレンガ造りの建物の屋根の上だった。
うん、バレなければ大丈夫かな?
「じゃあちょっとだけお邪魔しましょうか」
僕達は身体強化魔法で肉体を強化すると、建物の屋根へとそっと着地した。
「ああ、ここなら良い感じですね」
そして僕達が席を確保するのと同時に、盛大なファンファーレが鳴り響く。
そして海に面した大きな建物の扉が開き、そこから船がせり出してくる。
「諸君、本日は我が国の誇る最新鋭戦艦の出港式に来ていただき、誠に感謝する!」
船の先端には豪奢な衣装を来た騎士が立っていて、魔法で声を大きくしながら港に来た皆に話しかけていた。
「皆も知っての通り、この内大海は今、非常に強力で危険な魔物によって制圧されている。その為に多くの漁船や商船が出港できずに困っている!」
そーだそーだと港の人々から声が洩れる。
「これまで多くの戦艦が魔物の前に膝を屈してきた。その長く忌々しい足でマストをへし折り、船を転覆させて多くの命を奪ってきた」
騎士が悔しそうに拳を握り締める。うーん、演技派だなぁ。
「だが安心して欲しい! この船は今までの船とは訳が違う! 何故なら、この船にはあの伝説の! Sランクの魔物であるエンシェントプラントの素材が使われているからだ!」
「「「「「おおーっっ!!」」」」」
「エ、エンシェントプラント!?」
ええっ!? ちょっと待って、それってもしかして!?
「もしかして以前レクスさんが討伐したアレかしら?」
やっぱそうですよねー。
「更に他にもAランクの魔物であるエルダープラントも船の素材として使われている! 諸君は今まで、SランクとAランクの魔物素材だけで作られた船を見た事があるか!? いいや、きっと無いだろう! 私とてこれが初めてなのだから! だが、国は此度の内大海を揺るがす事件を重要視し、諸君の生活を守る為に大枚をはたいてこの船の建造に踏み切ったのだ!」
「「「「おおー!」」」」
「へぇ、国のエライさんも中々ヤルじゃねぇか」
「俺達の生活なんて微塵も気にしてないと思ってたのによう」
いやー、感動している所悪いんですけど、それそんなたいした素材じゃないですからね?
いやでも、皆が喜んでいる時にそんな事言えないよなぁ……
「さぁ、我等の船が内大海の悪魔を粉砕する瞬間を見届けるが良い! グッドルーザー号、就航!!」
「頑張れよー!」
「期待してるぞー!」
出港する船に対して声援を投げかける町の人達。
うわー、大丈夫かなぁ。心配だなぁ。
そうこうしている間にも、船は沖へと出て行く。そして沖に出て少しした時だった。
順調に進んでいた船がガクンと揺れたと思ったら、ピタリと止まってしまったのだ。
「ど、どうした!? 何事だ!?」
魔法の拡声効果が続いているのか、現場の会話が聞こえてくる。
「う、うわわわっ」
そして次の瞬間、水上に浮かんでいた船が宙に浮いた。
いや違った、宙に浮いたんじゃなく、持ち上げられたんだ。
船の下から伸びた何本もの長く白い触腕が、船を持ち上げている。
「お、おおおっ、は、反撃だー! 反撃しろー!」
騎士の指示に従い、海に向かって攻撃が放たれる。
けれど攻撃は真下に居る魔物に届かず、的外れな場所へとそれていくばかりだ。
そして、触腕が弧を描くと、同時に船も弧を描く。
次の瞬間、船を持った触腕が港側に向かってすばやく振られた。
「いや違う!」
そう、違った。
触腕の動きは、振ったんじゃない。投げたんだ。
その手に乗せていた新造戦艦を、触腕は勢い良く港町へ向けてブン投げてきた。
「「「「うわぁぁぁぁぁ!?」」」」
船と港の両方から大きな悲鳴が上がる。
「ちょ、逃げっ!?」
慌てたリリエラさんが逃げ出そうと腰を浮かせる。
「モフモフを頼みます!」
僕はリリエラさんにモフモフを任せると、飛行魔法を発動して空に飛び出した。
「フィジカルブースト!」
そして港町に向かって飛んでくる新造戦艦の正面に停止する。
「お、おいアンタ逃げろ!?」
近くに居た住人が僕に逃げろと警告してくる。
でももう遅い。船は目の前だ。
そして僕はそんな凄い勢いで投げられた船を、受け止めた。
「ふんっ!!」
「「「「「「なにぃぃぃぃぃぃ!?」」」」」」
僕の体を押しつぶそうと、加速された船体が重量をかけてくる。
でも属性強化で身体能力を更に向上させている僕なら耐えられる。
体が少しだけ後ろに押し出されたものの、なんとか船を受け止める事に成功した僕は、数歩前に歩いていき、船を海上へと戻した。
「ふぅ」
一仕事終えて大きく息を吐く。
なるべく優しく受け止めたから、船の船員さん達も大怪我はしてないと思う。
「ア、アンタ大丈夫かい?」
船を下ろした僕に、町の人達が声をかけてくる。
「ええ、予想よりも船が軽かったお陰で怪我をせずに済みました!」
うん、これが総ミスリル製とかオリハルコン製とかだったらさすがの僕も大変だったと思う。
「「「「「って、何で船がぶつかってその程度の言葉で済むんだぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!?」」」」」
あれ? 何かおかしかったかな?
_(:3 」∠)_ 触腕「船は友達!」
_(:3 」∠)_ 船「らめぇー! 船は空を飛ばないのぉー!」
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