第43話 暗躍する者達と討伐する者達
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「な、何が起きたのだ!?」
今、私の目の前で信じられない事が起きた。
突然横向きの竜巻が現れ、正面の魔物共を悉く吹き飛ばしたのだ。
我々騎士団だけではなく、冒険者達も今の光景に困惑している。
と言う事は冒険者共がやった事でも無いのか?
いやそもそも、横向きの竜巻などありえん。
そんな非常識な現象など見たい事が無い。
「おい! 魔法であのような事は出来るのか!?」
私はそばに控えていた宮廷魔法使いに説明を求める。
「……」
しかし魔法使い達は唖然とした表情で棒立ちしているだけだった。
「答えろ!」
「はっ!? あ、いや申し訳ありません」
私に叱咤され、ようやく我に返った魔法使い達が頭を下げてくる。
「そんな事はどうでもよい! どうなのだ!? アレは魔法なのか!?」
だが魔法使い達は首を横に振る。
「いえ、あのような魔法は見た事もありません。おそらくですが、魔法大国の魔導四天王、風のランカスターでもあの様な魔法は使えないでしょう」
魔法使い共が魔法大国エンジェルトの魔法使いを例に挙げるが、そんな説明をされても凄いのかどうかわからん! まったく、これだから専門家というヤツは。
「では先程の竜巻は魔法ではないと言う事か?」
しかし魔法使い達はまたも首を横に振る。
「いいえ、横向きに発生する竜巻など聞いた事もありません。おそらくは魔法の力でしょう」
「出来るのか出来ないのかどちらなのだ!」
ああもう、これだから専門家とは会話が進まないのだ! いい加減にしろ!
「おそらくはロストマジックの力を秘めたロストアイテムでしょう」
「ロストアイテムだと!?」
ロストアイテム、それは大昔に滅んだ古代文明によって生み出された、恐るべき力を秘めたマジックアイテムの事だ。
ごくごくまれに遺跡などから発掘されるソレの価値は計り知れず、金貨数千、否モノによっては金貨数万枚の価値があるとされている。
そして中には金に換えられない程の価値がある品すらあると言う話だ。
そんなロストアイテムが、この討伐のなかで使われたと魔法使いは言っているのだ。
「ロストアイテム……」
これがただの討伐なら、ロストアイテムの存在は喜ぶべきものだっただろう。
何しろ今回の大規模討伐では、Sランクの魔物達の姿が何体も確認されているのだから。
だが、こと今回の討伐に関しては、ロストアイテムの存在はあってはならないものだった。
何故なら……
「今回の討伐は、失敗してもらわなければ困るのだよ……」
そう、今現在王都周辺で起きている魔物の大量発生は、全てこの私、トウメル・タッカーノ騎士団とタッカーノ侯爵家が引き起こしたものなのだから……
「斥候部隊を使って今のロストアイテムを使った冒険者を探せ」
私は即座に副官に指示を出す。
私の計画を邪魔するものは急ぎ排除する必要があるからだ。
「そして見つけ次第始末してロストアイテムを奪え」
「はっ!」
私の直属の部下達が即座に動き出す。
彼等は私と志を同じくする者達。
つまりは魔物の大量発生を意図的に起こす側の存在だ。
「私の美しい計画に、余計な不純物はいらぬ」
◆
「よーし、うまい事騎士団の目をごまかして彼等の目の届かない場所に移動できた。あとはなるべく強そうな魔物を優先的に狙っていこう」
魔法を発動したどさくさで先行した僕は、Sランクの魔物に狙いを定めて行動を開始する。
既にギルドからは、優先して倒してほしいSランクの魔物の情報は得ている。
目撃情報があっただけで、どこに居るかまでは分からないけれど、探査魔法を使いながらしらみつぶしに動き回っていれば、すぐに見つかるんじゃないかな。
「って言ってる間に見つけた!」
前方に周辺の魔物達よりも明らかに強い力を確認する。
「あれは……ゴルドタイガー!」
ゴルドタイガー、名前の通り金色の毛皮を身にまとった虎の魔物で、前世でもその美しさから毛皮を求める人が多かった魔物だ。
「これは幸先が良いなぁ。アイツは良い金になるらしいからね」
あれ? そういえば、ゴルドタイガーって毛皮目当てで乱獲され過ぎて絶滅したって聞いた筈だけど、生きてたんだなぁ。
「まぁ細かい事は良いや」
どのみちゴルドタイガーも討伐対象だから良いよね。
ゴルドタイガーもこちらを確認したらしく、臨戦態勢を整えて向かってくる。
「さて、どうやって倒そうかな」
ゴルドタイガーとの戦いは結構厄介だ。
なにしろアイツは自慢の金色の毛皮で光属性の魔法を無効、もしくは大幅に減衰しちゃうからだ。
風属性だけど、光の属性に近い雷系魔法もそうした理由からゴルドタイガーとは相性が悪い。
だから電気で痺れさせる作戦が効かないんだよね。
前世では敵としか思っていなかったからただ倒すだけだったけど、今回の様になるべく無傷で倒すとなると難易度が上がるなぁ。
「ああ、だから冒険者さん達は知恵を凝らして魔物を倒すんだなぁ」
限られた条件の中で可能な限り状態の良い素材を確保する。
いつか前世で見たゴルドタイガーの毛皮の状態の良さを思い出し、今更ながら冒険者さん達の工夫と努力には敬意を表する。
「僕も負けていられないな!」
そうだ、今は僕が冒険者なんだ。
だったらできうる限り綺麗な状態でゴルドタイガーを討伐してみせよう!
「よし、武器や毛皮を傷つける魔法は無しだ。ここは格闘戦で仕留めよう!」
僕は身体強化魔法の上位魔法である属性強化を発動させる。
ただし今回強化するのは、火や水といった属性じゃない。
「多段身体強化、フィジカルブースト!!」
身体強化魔法の肉体の性能向上効果を更に特化させた超身体強化魔法、それがフィジカルブーストだ。
この魔法は通常の身体強化魔法の数倍魔力を消費する代わりに、肉体の能力を身体強化魔法の数倍に高める事が出来る。
通常の身体強化魔法の効果が3~5倍の強化なら、フィジカルブーストは10倍以上の効果を発揮する。
しかも魔力を込めた分だけ無限に強化される仕様だ。
「行くぞ!」
僕はただただシンプルにゴルドタイガーへ向かっていく。
だがその速度は今までの比じゃない。
「っ!?」
突然数倍の速度で加速を始めた僕を見て、ゴルドタイガーが警戒して速度を緩める。
だけどそれは悪手だ。
加速しているこちらに対して、速度を落としたゴルドタイガーでは僕の速さに対応できない。
「てやぁっ!」
ゴルドタイガーが戸惑った直後にその懐に飛び込んだ僕は、体を半回転させてゴルドタイガーの側面に回り込む。
一瞬で目の前に来た筈の敵が突然消えた事で、ゴルドタイガーは慌てて僕の姿を探す。
「遅いよ!」
僕はゴルドタイガーに馬乗りになると、頭部を掴み思いっきり真横に捻った。
「ッッ!?」
ゴキリ、という音と共にゴルドタイガーが悲鳴すら上げずこと切れる。
「ふぅ、毛皮を傷つけたくないのなら、中身を破壊すれば良いんだよね!」
うん、これは良い方法かもしれない。
見た目もまったく傷がついている様には見えないし、この調子で獲物を内部から破壊していこう。
「んー、他にもSランクの反応があるなぁ」
反応は僕達の討伐エリアの外だけど、まぁギルドからはSランクを優先して倒して欲しいって言われてるし、ちょっと行ってこよっと。
倒せばお金になる事には変わらないしね。
◆
「大変ですトウメル団長、王都周辺のSランクの魔物達の反応が凄まじい勢いで消えていきます」
「何だと!?」
本陣で待機していた私の下に、部下から信じられない報告が届く。
「どういう事だ!? Sランクの魔物だぞ!? どこかで別の騎士団が討伐に参加していると言うのか!?」
Sランクの魔物は騎士団による大規模集団での掃討か、何らかの切り札を持ったSランクの冒険者でもなければとても倒せない相手だ。
それが凄まじい勢いで倒されているだと!?
「いえ、我々以外の騎士団が参加しているという情報はありませんし、偵察の兵からもそれらしい姿は確認されておりません」
「どういう事だ!?」
いや、そもそもSランクの魔物達は今回の討伐で倒される事が無い様に、囮役である足の速い数体以外は討伐エリアの外へと移動させた筈だ。
「何体倒された?」
「既に7体の反応が消えております」
「馬鹿な!?」
7体だと!? ありえん! 1体のSランクを討伐するのにどれだけの時間と被害が出ると思っているのだ!
しかもまだ大規模討伐が開始されてから二時間も経っていないのだぞ!?
「一体何が起こっているのだ!? ……まさか!?」
そうだ、討伐開始の時に起こったあの横向きの竜巻、あれはきっと私の注意を引く為の囮だったのだ!
何者かがSランクの魔物達への集中討伐を察知させない様、斥候の目をこちらに向けさせたのか!
「まさか……我々の計画が気付かれている!?」
_(:3 」∠)_ 黒幕「もしかしてバレてるー!?」
_(:3 」∠)_ レクス「工夫しながら魔物倒すのたーのしー」
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。