第39話 ルーツと宴会
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カリオというおじさんに連れられて、私達はレクスの故郷へとやって来た。
初めて見たその村の姿は、一見普通じゃなかったけど、やっぱり普通じゃなかった。
「ここがレクスの家だ」
そして私達が連れてこられたレクスの家は、普通の家だった。
とてもあのレクスの実家とは思えないくらいに普通だ。
「おーいライド居るかー?」
カリオのおじさんが家のドアをドンドンと叩くと、少し間をおいてドアが開く。
「突然なんだいカリオ?」
そういって中から出てきたのは、一見温厚そうなおじさんだった。
この人がレクスのお父さん?
「おう、レクスの客を連れてきたぞ」
「レクスの?」
ライドと呼ばれたおじさんが私達の方を見る。
「レクスに紹介されてこの村までやってきたらしい」
「そりゃ珍しい。一体ウチの村になんの用事で?」
「あ、あの、私ミナと言います! こっちがジャイロ、メグリ、ノルブです!」
「えっと、俺ジャイロです」
「初めまして、ノルブと申します」
皆がライドのおじさんに挨拶を始めたので、私も一緒に挨拶をする。
「メグリ」
うん、ちゃんと頭を下げた。
「やぁこれはご丁寧に、私はレクスの父でライドと言います」
「ええと……私達トーガイの町でレクスさんと知り合いまして、それで色々と教えてもらってたんです」
「へぇ、息子が。いや、確かに息子なら外で先生みたいな真似をするのも納得か」
やっぱりレクスはいろいろと規格外っぽい。
「ただ先日レクスさんは別の町に行く事になりまして、それでレクスさんから実家に行けば魔法の教科書があるから見に行くと良いと言われてやってきました!」
ミナ緊張してる。
まぁレクスの父親だから緊張するのも分かるけど。
だから面倒な交渉はお任せ。そういうのは私の仕事じゃないし。
「なる程、息子がそんな事を。ええ構いませんよ。どうぞ中にお入りください。おーい母さん、レクスの友達が来たぞー」
あっさり信じてくれた。
正直ちょっと警戒心が足りないんじゃないかと心配になる。
それとも、レクスの父親だから何かあっても対処できるっていう自信なのかな?
「そんじゃ俺は帰るわ」
カリオのおじさんはそういってあっさり帰っていった。
「えと、ありがとうございます!」
「ありがとなーおっさん!」
「ありがとうございました」
「ありがとう」
私達がお礼を言うと、カリオのおじさんは振り向く事なく、手だけを振って応えてくれた。
◆
「狭い家ですがどうぞ座ってください」
ライドさんに促され、私達は用意された椅子に座る。
「粗茶ですがどうぞ」
レクスのお母さんが私達にお茶を出してくれた。
お茶が出るって事は、意外とこの村は裕福なのかな?
「あ、ありがとうございます」
皆がそれぞれお礼を言ってお茶を口にする。
「……っ! 美味しい!?」
ミナの言うとおりだった。
レクスのお母さんから勧められたお茶はとっても美味しかった。
こんな美味しいお茶は初めて飲む、というかそもそもお茶自体初めて飲むんだけど。
「昔は飲むものも碌に無かったんだけど、レクスが持ってきた葉っぱを蒸したらとても美味しいお茶になったのよ」
さすがレクス、剣や魔法だけじゃなく、美味しいお茶まで見つけるなんて。
「なんでもハイポーションに使う薬草を使ってるとか言っていましたよ」
「「「「ブフーッッッ!?」」」」
「ハ、ハイポーション!? ハイポーションってあのハイポーション!?」
魔法使いであるミナが動揺している。
うん、その気持ちは分かる。
だってハイポーションといえば、冒険者にとって憧れの高級消耗品。
一本で金貨5枚は掛かる上級冒険者御用達のアイテムだもん。
「そうらしいですね。息子の話ではちょっと良いポーションの材料との事でしたけど」
「ちょっとじゃない。全然ちょっとじゃないから」
ミナがブツブツと呟いている。
魔法使いの彼女にはハイポーションに使う素材の価値が私達よりも理解できるからだろう。
「それで、息子は元気にやっていますか?」
「ええ、元気すぎるくらい元気でしたよ。僕達も危ないところをレクスさんに助けていただきました」
ショックを受けて対応できないミナの代わりに、ノルブが返事をする。
「そうだぜ! レクスの兄貴は滅茶苦茶スゲーんだ! 山みたいな魔物をあっというまに倒しちまうし、俺達に魔法も教えてくれたんだぜ!」
「はははっ、そうですかそうですか」
「あの子が楽しそうで何よりです。ここはあの子にはちょっと狭すぎましたから」
レクスのお父さんとお母さんはジャイロが話すレクスの話を楽しそうに聞いている。
こうして話をしていると、とてもレクスの親とは思えないくらい普通の人達に見える。
「そんで兄貴はあっというまにBランクの冒険者になって危険領域に行っちまったんだ!」
「Bランクというのは凄いのですか?」
「はい、それはもう。通常なら才能のある人間が何年もかけてようやく到達できるレベルですから」
「そうなのですか」
「元気そうで安心したわぁ」
本当に普通の人達に見える。
でも、それならどうやってレクスはあんな凄い人間に成長したんだろう?
「あの……」
二人はレクスをどうやって育てたの? と聞こうとしたその時だった。
「レクスの友達が来とるそうじゃのう!」
突然ドアを開けて、知らないお爺さんが入ってきた。
村の入り口で会ったお爺さんとは違う人だ。
「これは村長、どうされましたか?」
「おお、そこの若人達がレクスの友達じゃな。よう来たよう来た!」
村長と呼ばれたお爺さんは私達の肩をバンバンと叩く。
ちょっと痛い。
「折角客人が来たんじゃ! 今宵は宴をするぞ! 皆村の広場に集まって飲むぞ!」
なんだか分からないけど、これは歓迎されているのかな?
◆
「皆の衆! レクスの友人をもてなすのじゃあー!」
「「「「おおぉーっっっ!!」」」」
突如現れた村長さんによって村の広場まで連れてこられた僕達は、歓迎会という名の宴会に参加する事となりました。
「さぁさぁ、食った食った! ウチの牛は美味いぞー!」
「おっと、ウチのコッコが生んだ卵も美味いぞ! 食べてくれ!」
「ちょっとちょっと、宴会なんだから、お酒を勧めないでどうするのよ! ウチで作ったお酒を飲んどくれよ!」
「「「なにせレクスのお陰でこんなに美味しくなったからさ!」」」
料理やお酒を勧める人達が異口同音でレクスさんの名を挙げます。
「レクスさんは家畜の育成や酒造りにも造詣が深いんですか!?」
「ああ、深いなんてもんじゃねぇよ。アイツがちょっと手を入れると、何でもトンデモねぇことになっちまうんだ!」
「そうそう、ウチの鶏舎もレクスが山から連れてきたコッコを入れたら卵が途端に美味くなったからよう!」
その卵、子供が一抱えするくらい大きいんですけど。
「ええと、それ本当に鶏の卵なんですか?」
「んー? レクスはフェニックスとか言ってたなぁ」
「フェッ!?」
待ってください、それ伝説の不死鳥の名前じゃないんですか!?
「フェニックスって、あの炎の鳥のことですか!?」
「炎? そーいやレクスが連れてきた時は燃えてるみたいに真っ赤だったけど、なんか里で飼うコツってのをやったら普通に白い毛になったぞ」
それきっと何か特殊な技術ですよ!?
「もしかしてこちらの牛の肉も何か特別な牛なんですか?」
「あー、そういやクレイジーバフとか言ってたな。気が荒いから殴ってから角を切るとおとなしくなるって言ってたぞ」
「クレイジーバフって確かBランクの魔物の名前よね?」
ミナさんがワナワナと震えながらクレイジーバフ製と思われる牛串を見つめています。
「おいお前等、これすっげー美味いぞ! 早く食えよ!」
けれど、そんな事お構いなしのジャイロさんは平然とクレイジーバフの肉を食べ、フェニックスの卵のオムレツに舌鼓を打っています。
「このお酒美味しい!」
既に考える事をやめたのか、メグリさんも薦められたお酒を楽しんでいました。
「そーだろそーだろ! このお酒に使われてるのはね、ジュエルアップルっていうキラキラしたリンゴなんだよ」
「ジュエルアップルーーーっっっ!?」
うわっ!? メグリさんが大声を出して驚くところなんて初めて見ましたよ!?
「メグリさん、ジュエルアップルってそんなに凄い代物なんですか?」
「凄いとかじゃなく、幻の果物。文字通り宝石みたいに透明で、好事家たちの間では凄い値がついてる。裏の市場でもジュエルアップルは凄い大金で取り引きされてる。そもそも樹の存在自体が厳重に管理されていて、どこにあるのかすら分からない」
凄い、メグリさんが早口で長文を喋っている所なんて初めて見ましたよ!?
「山の中に生えてたのを見つけたって言って、レクスが樹を丸ごと運んできてねー、それをウチで育ててるんだよ。毎年綺麗な実が生るのが楽しくてねぇ」
「樹!? 実在するの!?」
メグリさんが物凄い勢いで食いついている。
本当に貴重な品なんですね……
「おやあんたリンゴに興味があるのかい? なんだったら今度見に来るかい?」
「行く! 絶対行く!」
メグリさんの頭の中はもうジュエルアップルで一杯みたいですね。
「おーい、新しい獲物を持ってきたよー!」
そんな声と共に、子供達が新しい食材を持ってきました。
親の手伝いとはとても感心ですね。
「これねー、僕達が狩ったんだよ!」
「君達がですか!?」
なんと、まだ幼い子供達なのに、猟師達と一緒に狩りをしているのですか!?
なる程、レクスさんが若くしてとてつもない実力を持っているのも、こうして幼い頃から鍛錬を積んできたからなのですね。
「ランドドラゴンの肉美味しいよー」
……? 今何故かCランクの魔物の名前が出て来た様な?
「ええと? ランドドラゴンの肉とおっしゃいましたか?」
「うん! すっごく美味しいよ!」
ランドドラゴン、Cランクの大型トカゲの魔物で、その巨体からドラゴンの子供と揶揄される魔物です。
ドラゴンやワイバーン程ではありませんが、大型で足も速く、牙と爪は鋭く鱗も硬い強敵です。地面を這って行動しているので、剣で攻撃しにくいという点でも面倒な相手です。
それを、子供達が倒したんですか……
「ちなみに、どうやって倒したんですか?」
「えっとねー、サークが魔法で足止めして、僕とリュートが首と尻尾を二手に分かれて攻撃したの。あっ、尻尾も美味しいよ!」
「……そうなんですね」
Cランクの魔物を倒した事を何でもない事のように言い、それよりも尻尾の味の方が大事だと子供達は熱弁します。
「……ああ、レクスさんの故郷ですねぇ」
本当、それ以外に言い様がありませんでした。
あ、ランドドラゴンの尻尾は美味しかったですよ。
_(:3 」∠)_ クレイジーバフ「オラの角がー」
_(:3 」∠)_ フェニックス「めっちゃ寒い」
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