第38話 始まりと仰天の地
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「危ないところだったな」
レクスの兄貴の故郷に向かっていた俺達は、フォレストウルフの群れに襲われた。
そしてあわや全滅するところで、突然現れたこのオッサンに命を救われたんだ。
「なぁ、アンタ今俺達をレクスの兄貴の知り合いか? って言ったけどアンタ、レクスの兄貴の何なんだ?」
「俺か? 俺はアイツと同じ村の人間よ」
兄貴と同じ村の人間だって!?
「じゃあ貴方はゼンジェの村の人なのね!?」
「おう、その通りよ。何だお前等、レクスに会いに来たのか?」
ミナがオッサンの言葉を聞いて、ようやくたどり着いたと安堵のため息をつく。
「だが残念だったな、アイツは冒険者になるっつって都会に行っちまったぞ」
「いえ、僕達はレクスさんに紹介されたゼンジェの村へ向かっていたんです」
「ウチの村にか? なーんもないただの田舎の村だぞ?」
「そんな事ねーよ! レクスの兄貴が生まれた村だぜ! ただの村の訳ねーじゃん!」
わかってねーなーこのオッサン。
兄貴が生まれた村なんだから、スゲー村に決まってんジャンかよ。
「はははっ、レクスが生まれた村だからか。確かにそうかもな」
おっ、なんだよ、ちゃんと分かってんじゃねぇか。
「まぁ折角の客だ。案内してやるからついてこいよ。俺ぁカリオっつーんだ。よろしくな」
「俺はジャイロ! 宜しくなカリオのオッサン!」
「ちょっ! 失礼でしょ! すいませんウチの馬鹿が」
「はははっ、若いモンはそのくらい生意気な方が良いってモンよ! なんせレクスのヤツはガキの頃から妙に丁寧にしゃべるヤツだったからな」
「そうなんですか? あっ、私はミナって言います」
「僕はノルブです」
「メグリ」
「そんじゃ獲物も仕舞ったし、村に行くとするか」
「仕舞った?」
獲物ってーのはさっき倒したフォレストウルフの事か?
けど仕舞ったってーのは……
「あれ?」
気がついたらさっきまでそこら中にあったフォレストウルフと狼の死体がなくなってた。
一体どこに消えたんだ!?
「そんじゃ行くぞー」
◆
「ウチの村まではもうちっとだから我慢してくれよな」
カリオっておじさんがそう言って先行する。
「……」
「どうしたのメグリ?」
ミナが私の様子に気付いて声をかけてくる。
口は悪いけど、目端は利くからパーティの実質的なリーダーだ。
「あの人、すごく強い」
「そうね、身体強化魔法も使えるし、レクスの村の人間だけあるわ」
「そうじゃない」
「え?」
ミナは気付いていないのかな?
「レクスが強いのは私達も知っている。けど、そのレクスの強さの源はどこから来ていると思う?」
「それってもしかして、あのカリオさんがレクスさんの師匠じゃないかって事ですか?」
ノルブも会話に加わってきた。
さすがに教会で修行してきただけあって、察しがいい。
要領はあんまり良くないけど。
「それホントなの!?」
「いくらレクスでも生まれた時から強いわけじゃない。きっと誰か凄い師匠が居る筈」
「なる程、そう考えるとつじつまが合うわね」
もしあのおじさんがレクスの師匠なら、私達もあの人に師事すればレクスと同じくらい強くなれるかも。
「なーなー、おっさんもレクスの兄貴に特訓してもらって強くなったのか!?」
「「「っ!?」」」
バ……ジャイロがいきなりとんでもない事を言った。
普通逆、普通じゃなくても逆だと思う。
「バッ、アンタ何言ってんのよ!?」
「おう、良く分かったなボウズ! レクスのヤツから身体強化魔法ってのを習ったお陰で俺も強くなったのよ!」
「「「えっっっ!?」」」
何それ!? このおじさんがレクスの師匠じゃないの!?
「あ、あの、カリオさんがレクスさんの師匠ではないんですか?」
ノルブが頑張って質問した。
「俺がレクスの?」
カリオのおじさんがキョトンとした顔になる。ちょっと可愛い。
けど次の瞬間、大声で笑い始めた。
「ははははははっ! 俺がレクスの師匠!? んな訳ねーって!」
どうやら違ったみたい。
という事はレクスの師匠は別に居る?
「おっと、村が見えてきたぞ」
カリオのおじさんが道の先を指差す。
そして、その先の光景を見た私達は……絶句した。
「ナニアレ?」
◆
ゼンジェの村の住人だという男、カリオさんについてきた私達は、ゼンジェの村を見て絶句していた。
「なにこれ、まるで城砦じゃない」
そう、目の前に広がっていたゼンジェの村は、のどかな田舎の農村なんかじゃなく、まるで砦のような堅牢な壁で囲まれていたの。
「はははっ、初めて来た人間はちょっと驚くよな。まぁ俺達もコレが出来上がった時は相当驚いたもんだがな!」
「どういう事!? これは貴方達が作ったんじゃないの?」
私の質問に、カリオさんは首を横に振って否定する。
「まさか、俺達にこんなすげぇモンは作れねぇよ」
「ってことはもしかして!」
ジャイロの言葉にカリオさんが頷く。
「おうよ、レクスのヤツが一晩で作ったのさ!」
「一晩!?」
予想以上のとんでもなさに、思わず声があがる。
「昔はこの村も魔物によく襲撃されてなぁ。獣くらいなら村には寄ってこねぇんだが、デケェ魔物になるとそういうのを無視してやってくるかんなぁ」
「「「「うっ」」」」
私達は思わず過去の大失敗を思い出して胸が痛くなる。
いやでも、今回はちゃんと相手のサイズを考えて人里に向かってたし!
それにレクスの故郷だから強い人が一人二人居るだろうと思ってたっていうか、実際居たし!
「まぁそんな訳で、村の皆して困ってたら、レクスのヤツが夜のうちに作っておきましたってすんげぇ壁作ってくれてなぁ。あんときは本当にたまげたぜ!」
「「「それで済むの!?」」」
この村の人達おかしくない!?
「うぉぉぉ! さっすがレクスの兄貴だぜぇぇぇ!!」
馬鹿が興奮するのはいつもの事だから無視するわ。話が進まないし。
「おーい、帰ってきたぞー。開けてくれー!」
カリオさんが声をあげると、壁の上から見知らぬお爺さんが顔を出した。
「おや? 今日は随分早いじゃないか」
「ああ、近くに群れが居たんでな。あとレクスの客を連れてきたぞ」
「ほう、レクス坊の客とは珍しい」
そういってお爺さんが私達を見る。
「ほほっ、こりゃめんこい嬢ちゃん達だ。レクス坊もスミにおけんなぁ」
なんか変な勘違いされてるんですけど。
「いいからさっさと開けてくれ爺さま」
「はいよ」
お爺さんが元気よく返事をすると、壁が音を立てて開いてゆく。
「って、壁だと思ったら扉だったの!?」
なんと壁の一部は巨大な扉だったみたい。
「ほれ入んな」
下まで降りてきたお爺さんに促され、私達は村へと入ってゆく。
そして、村の中の光景を見た私達はあまりにも想像と違う光景に、再び驚かされた。
ううん、肩透かしを食らった。
「普通の村だ」
そう、ゼンジェの村は普通の村だった。
畑があって、水路があって、なんだかよく知らないけどでっかい丸いのが回ってて、小さな家がいくつも並んでいた。
「普通の村ですねぇ」
「普通の村」
「あ、兄貴の故郷が普通の村な訳……うーん」
レクス馬鹿なジャイロですら普通の村と認めざるを得ないくらいに、ゼンジェの村は普通の村だった。
「ほんじゃ閉めるぞい」
ギギーッと音を立ててでっかい扉が閉まっていく。
なんだかおじいさんが手動で閉めてるみたいだけど、いくらなんでもそんな訳ないわよね? こんな大きい扉なんだもの。
あと階段もはしごもないけど、どうやって下りてきたのかしら?
「レクスの家はこっちだ」
カリオさんがレクスの家へと先導してくれる。
てっきり村まで案内するだけだと思っていたから助かるわ。
「フレイムインフェルノー!」
「っ!?」
突然右側の畑が爆炎に包まれ、視界が赤に染まる。
畑からだいぶ離れているというのに、相当な熱気が私達のところまで届いた。
「な、な、な!?」
「こらお前等! 魔法を使うときは結界を張れってレクスから言われてたろ!」
「ごめんなさーい」
見ると小さな男の子がペコペコと頭を下げている、って今のあの子がやったの!?
「リアン! ガキ共の面倒はちゃんと見やがれ!」
「ごめーんおじさん、私が止める前にいきなり始めちゃったのよ!」
「まったくしょうがねぇな……っと、わりい。アイツ等今日が草むしり初めてでよ、ちっとはしゃいでるんだわ」
「「「「草むしり!?」」」」
たかが草むしりであんな炎を出す魔法を使うって何考えてるの!?
っていうか、それを当たり前の様に反応するこの人も何なの!?
周囲の村の人達も怒るどころかしょうがねぇなーって笑ってるし!?
「なんなのこの村ぁー!?」
けれど、この出来事は、ほんの挨拶程度の事でしかなかったと、私達はすぐに理解する事になるのだった。
_(:3 」∠)_ 爺「年をとると扉を開けるのもたーいへん。うっかりギックリ腰にでもなったらと思うとヒヤヒヤ! でもそんな時はこの身体強化魔法!」
(:3 ww) 草「凄く熱いです」
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