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第36話 第二のオークションとSランクへの昇格

いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

「皆様、大変長らくお待たせいたしました。これよりオークションを開催致します!」


 司会の宣言と共に、今月のオークションが開催される。


「ふむ、今回のオークションも賑わっているな」


 私は上層の席からオークションに参加している客達を観察する。

 私の名はライラーバ=ガイバ。

このオークション会場のオーナーであり、オークションの全てを取り仕切っている者だ。

 

 私はオークションが始まると、ここから客達を見る事をひそかな楽しみとしていた。

 私が開催するオークションという皿に盛られた料理を求めて群がる彼等の姿を楽しむ為に。


 場所さえ提供すれば、商品も客も、皆自分からここにやってくる。

 金も地位もある彼等が、浅ましく商品を求め、手に入れば子供のように大喜びし、手に入らなければ大貴族であっても悔しさで頭を抱える。


 そんな滑稽な姿を見るのが私はとても楽しかった。


 そして今回のオークションには、いつもなら姿を見せない顔ぶれがいくつもあった。

 普段なら部下に任せているオークショニア達だけでなく、そもそもオークションなど興味が無い者まで直接参加しているではないか。


 そして参加しているのは貴族だけではなく、有力な大商人達の姿もあった。

 彼等が求めているのは皆同じ品だ。


「エンシェントプラント、カイザーホーク、それにシャドウフォックスの魔石か」


 ここ数ヶ月ほど、王都のオークション会場は異様な賑わいを見せていた。

 始まりはほんの数ヶ月前のオークションだった。


 なんとその時に開催されたオークションで、ドラゴンが出品されたのだ。

 ドラゴンの素材自体は稀に出るのでそこまで珍しいものではない。

 腐る心配の無い鱗や骨などは金に困った没落貴族などが祖先の遺産を切り崩して出品するからだ。


 だが、損傷のほとんど無い、獲りたてのドラゴンの素材となると話は別だ。

 内臓などの腐りやすい部位は高難易度魔法の触媒や高級ポーションの素材、そしてマジックアイテムの材料になるという。


しかも鱗や翼といった普通ならボロボロになる部位までもがほぼ無傷であった事から、多くの人間がドラゴンの素材を求めてオークションに参加した。


 尤も、この時のオークションでは、情報収集を怠った者や他の用事があって参加できなかった者も少なくなかったらしく、ドラゴンの素材を落札出来なかった者達は大層悔しがったらしい。


 とはいえ、それでも優秀な情報網を持っていた目端の利く者や大貴族達によって瞬く間に高値が付いていったので、彼等が情報を嗅ぎつけていたとしても、入札に参加する事は出来なかった事だろう。


 現にドラゴンの素材で一、二を争うほど貴重な部位である魔石は、グリモア子爵によって金貨3万枚で落札された。

 まったく、何のためにそんな大金を支払ってまで購入したのやら。

 といっても、私は客が入札する姿を見るのは好きだが、その用途にまでは興味が無いのでわざわざ調べる気にはならなかったが。


 他の素材もかなりの金額となったが、オークションはそれだけでは終わらなかった。

 なんと同じ日のオークションでイーヴィルボアが二頭も出品されたのだ。

 しかもどうやったのかは分からないが、傷がほとんど無い状態での出品である。

 

 前例が無いほどの良品にオークションは更に過熱し、なんと白金貨が20枚も発行される事態となった。

そしてその月のオークションで動いた額は過去最高の数字となったのだ。


事件があったのはオークションだけではない。


カースドバイパーやブレードウルフ、それにエルダープラントといった、希少であったり討伐が困難な魔物が市場に出回ったのだ。

勿論数は少なかったが、それでも滅多に出ない素材なのは間違いなく、商人や高名な魔法使い、それに大きな工房の鍛冶師達も騒いでいた。


「この短期間でこれほどまでに希少素材が出回るとは……」


 何かが起きている。

 そう思わずには居られないほどに、ここ最近は事件が頻発していた。


 とあるやんごとなきお方が、お忍びで移動されていた際にドラゴンに襲われた事件。

 そして未確認ではあるものの魔人が出現したという事件。

 

更にはあの魔獣の森を横断する街道の開発。

あれは我等物流に関わる全ての職業に衝撃を与えた。


 噂では一介の冒険者がそれを成し遂げたなどと言われているが、そんな筈がない。

 たかが一冒険者にその様な真似が出来るわけが無いのだ。

 そんな真似が出来るのなら、とうに国家事業で同じ事が行われている。


「おそらくはどこかの国家による軍事実験だろうな」


 ただの冒険者を装い、何らかのマジックアイテムの実験をしていると考えれば納得もいく。

 もしかしたら先のドラゴンやイーヴィルボアもその実験の成果によるものなのかもしれない。


 どれほどの完成度なのかは分からないが、これらの実験が実用段階に入ったなら周辺国家の軍事バランスが大きく変わる事だろう。


「それだけではない、ここ最近起こっている一連の事件、一見関係が無い様に見えるが、どこかで繋がっている気がする……」


 王都周辺での魔物の大量発生、Sランク冒険者の来国、それに……。


「魔物避けのポーションか」


 これも前代未聞の大事件だった。

 とある村で開発されたという魔物避けのポーションは、結界魔法を使わなくても魔物を追い払う効果があったのだ。

 これらのポーションを求め、わが国内のみならず、周辺国家からも魔物避けポーションを求めて多くの人間が入ってきた。


「あまりにも多くの出来事が動きすぎている」


 だからこそ私は確信する。

 まだまだ騒動は収まらないと。


「「「「「オォォォォォォォッッッ!!」」」」」


 物思いにふけっていた私を、客達の歓声が呼び戻す。

 見れば今回の主役の一つであるエンシェントプラントの木材が落札されていた。


「ほう、落札したのは軍務派閥のアーガイル卿か」


 普段オークションなどに興味の無い彼が落札したという事は、エンシェントプラントの素材を軍で利用するつもりなのだろう。

 彼は先日のドラゴンの件で自分が極秘任務を知らされていなかった事を大層悔しがっていたらしいからな。

 自分の発言力を増やすために使うのだろう。

 とはいえ、木材の使い道というと何かの建設か?


「ああ、なる程、海か」


 私はアーガイル卿の目的を察し、ほくそ笑む。


「うまくいけば、新たなSランクが会場に出品されるかも知れんな」


 その後、私の予想通り、エンシェントプラントの木材はアーガイル卿子飼いの部下達によって買い占められたのだった。


 ◆


「こちらがエンシェントプラントとカイザーホーク、それとシャドウフォックスの落札額となります」


 窓口の人からオークションに出品した品の落札額を受け取る。


「エンシェントプラントが白金貨40枚、カイザーホークが白金貨35枚、それにシャドウフォックスの魔石が金貨1500枚です」


「うわー、凄い金額だなぁ……」


 もうなんか感覚が麻痺してきたよ。


「え? 白? 白ってなに?」


 リリエラさんがキョトンとした顔で僕達を見ている。


「あれ、リリエラさんは白金貨を知らないんですか?」


「知らない。何それ?」


「ジャイロくんも知らなかったし、意外と知らない人も多いのかな?」


「白金貨とは、主に商取引で使われる金貨で、金額があまりにも大きくなりすぎた際に使用される金貨の事です」


 窓口の人がリリエラさんに丁寧に説明をする。


「へぇ、そんなモノがあったのね……って、金額があまりにも大きくなりすぎたら!? 一体それ一枚で幾らになるの!?」


「金貨一万枚ですね」


「金貨一万枚ぃぃぃぃぃぃ!?」


 あー、ジャイロ君達と同じ驚き方をしてるなぁ。


「そ、そんな大金どうするのよ!?」


 リリエラさんがあまりの大金に困惑して僕に問いかけてくる。

「どう、ですか?」


「そうよ! そんだけあったら一生遊んで暮らせるじゃない!」


 遊んで暮らせるかなぁ?


「でしたら、ギルド銀行に預金されてはいかがですか?」


 さらりと窓口の人が預金を進めてくる。


「いえ、魔法の袋があるので大丈夫です」


「それは残念です」


 営業トークご苦労様です。


「で、どうするのそのお金!? 商売でも始めるの!?」


 商売ねぇ、うーん、正直僕が商売をしても悪い人達に騙されそうだしなぁ。


「それでしたら、ご自分の家を購入されてはいかがでしょうか?」


 と、窓口の人がアドバイスしてくれる。


「家ですか?」


「はい。高ランクの冒険者の方々は、拠点となる家を持つ方が多いです。荷物の置き場所として、パーティメンバーの待機場所として、なにより形のある財産として求められる方が多いですね」


 なる程家か。確かにそういうのがあると便利かもしれないね。


「良いわね! 家があると儲かってるって感じがするわ!」


「そうですね、有力パーティは自分達のアジトを持つというのが一般の認識ですからね」


 なる程、冒険者として活躍しているとアピールする意味でも家を求める人が多いのか。


「とくにレクスさんはSランクの魔物を二頭討伐した事で、Sランクへの昇格が認められましたので、なおさらアジトがあるとよろしいかと」


「え?」


「Sランク昇格おめでとうございますレクスさん」


 受付の人がさらりとSランクへの昇格を宣言する。


「凄いじゃない! 本当にSランクに昇格したわよ! おめでとうレクスさん!」


 リリエラさんが僕の昇格を祝ってくれる。


「あ、ありがとうございます」


 それにしても本当にあっさりと言われたなぁ。


「はははっ! 聞いたぞレクス君! ついに君もSランクに昇格との事だな!」


 と、横からやってきたのは、Sランク冒険者のロディさんだった。


「ロディさん!」


「Sランク昇格おめでとうレクスくん」


「あ、ありがとうございます」


「ふふっ、これで我々はランクの上でも対等になった訳だ。はははっ、次の依頼では負けんよ!」


 と、言いたいだけ言ってロディさんは行ってしまった。


「って、次の依頼で勝負する気はありませんからねー!」


 けれど、ロディさんは上機嫌で笑いながらギルドを出て行ってしまった。


「うーん、なんだったんだろう?」


「ねぇねぇSランクに昇格したお祝いをしましょうよ!」


 リリエラさんが僕の腕を掴んで引っ張る。


「お祝いですか?」


「ええ、美味しいものを一杯食べましょう!」


「キュウ!」


 美味しいものという言葉にモフモフが反応する。


「やれやれ、現金なヤツだなぁ」


 僕はリリエラさんのお勧めの店とやらに引っ張られながら、考える。

 自分の家かぁ。


 確かに、そういうのがあるといざという時、立てこもったり出来るよなぁ。

 それに自分の家なら、宿では出来ないような仕込みもいろいろ出来る。

 

「うん、家良いかも」


「え? 何?」


「家を建てるのも良いかなって思ったんですよ」


「私賛成よ、仲間が増えるかもしれないし、荷物が増えると旅がしづらいものね」


「ですね」


「だとすると、どんな家が良いの? 立地が良い家なら中古を探した方が良いって聞いたことがあるわ? 理想の家を求めるなら新築だけど、建てるのに時間がかかるわよね」


 リリエラさんが家に求める理想を聞いてくる。


「そうですね……折角だし、新築の家を建てようと思います」


 僕はこれから自分が住む家のデザインと機能を脳内で構築する。


「さっすが、金貨一万枚の白金貨がある人は違うわね。それだけあったら大工も一流の所が雇えるわね!」


「え? 大工?」


「え? 家を建てるのなら、大工は必要でしょ?」


「え? 家って自分で建てるものでしょ?」


「え?」


「え?」


 僕達はお互い無言で見つめあう。


「……何を作るつもりなの?」


「家ですけど?」


「家なのよね? 本当に?」


「ええ、本当に」


「本当にそれ、普通の家なの?」


「勿論、普通の家ですよ?」


「本当に、普通の、常識的な、なんの変な機能も無い家なのよね!?」


 リリエラさんが何故か真剣な顔で聞いてきた。


 やだなぁ、普通の家に決まってるじゃないですか。

 ええ、普通の家ですとも。

 まぁ、Sランクへの昇格祝いも込みで、ちょっと奮発した家を建てますけどね!


 あっ、そうだ。久しぶりに皆にも会いたいなぁ。

 _(:3 」∠)_ リリエラ「嫌な予感しかしない」

_Σ(:3 」∠)_ もふもふ「大惨事の予感」


面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 哀願動物がついにもふもふに進化した!(?
[一言] 家が建てれるなら、各村の近代化も可能だったのだろうか? 防錆システム満載の村とか。 村なのに超高層な村長宅とか。 もやは村長宅が王城以上とか。 Sランク魔物でも破れない防壁とかもあり得そう。…
[一言] 思わず頭の中にジェットストリームのテーマが聞こえたよ!
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