第354話 武と技と魔の極限
作者_(:3 」∠)_「11月……だと?」
ヘルニーヾ(⌒(ノ-ω-)ノ「今年2ヶ月を切った!?」
ヘイフィー└(┐Lε:)┘「ところで秋はどこ?」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「行くよ魔人皇帝!」
新たな装備に身を包んだ僕は、真正面から魔人皇帝に切りかかる。
『愚かな、ポーヴァライザーを相手に打ち合いなど無意味』
魔人皇帝がポーヴァライザーを構えて攻撃を受け止める。
当然ポーヴァライザーの破砕能力によって僕の剣は砕け散……らず逆にポーヴァライザーを真っ二つに切り裂き、そのまま魔人皇帝も鎧ごと切り裂く。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
『ビガッッ! バカな! ポーヴァライザーが破壊された!?』
「ポーヴァライザーはあくまで工具だよ。より破壊に特化した武器が相手なら当然高性能な方が勝つに決まってるさ!」
『より高性能な武器!? まさか神が作った武器だとでもいうのですか!?』
流石に神は言い過ぎだよ。
王族直属近衛騎士団正式採用型全天候全属性戦闘型魔法剣、通称ロワイヤスレイヤ。
名称通り王族を守る近衛騎士団が使う為に作られた予算度外視の逸品だ。
有事の際単騎でも王族を守護する為、この武器には軍勢を相手に出来るだけの破格の性能が与えられている。
更に迎撃の為に敵の魔法を切り裂く機能は最高レベルのものが与えられ、工具であるポーヴァライザーの破砕機能なんかじゃ太刀打ちできない。
『だが、私の武器はこれだけではない!』
魔人鎧の全身が展開し、内部から大量の武器が姿を見せる。
「空間魔法、つまり魔法の袋をの理論を応用した武装収納機構だね」
『その通り。一軍に匹敵する攻撃の斉射を耐えられますか?』
「やってみなよ」
『着装者の魔力を装填、魔力不足、生命力を魔力に変換して装填を行います』
「オギャアァァァァァァァァァァァ!!」
魔人皇帝が自らの生命力を攻撃の為の魔力に変換して武装を放つ。
その出力はすさまじく、個人でありながら飛行要塞の主砲に近い威力だ。
「己の命すら武器に……いや、それが最強の戦力として生み出された自身への覚悟って訳だね魔人皇帝」
参ったな。ここまで強い覚悟を魅せられたら敵なのに嫌いになれなくなっちゃうよ。
「でも君は僕達の敵なんだ」
僕を逃すまいと、全周囲から視界を埋め尽くすほどの攻撃が迫る。
正面、左右、背後、上空、更に地面の下からも魔力の奔流が迫る。
転移魔法による脱出を封じられたこの状況でこれだけの密度の攻撃を受ければただでは済まないだろう。
けれど、僕はあえて防御をせずにその攻撃を受けた。
音が、光が暴れ、世界が破壊されるかと思うほどの衝撃で埋め尽くされた。
その結果……
『ば、ばかな……』
魔人皇帝の驚愕の声が聞こえてくる。
『何故無事なのですっっっ!?』
そう、あれだけの攻撃を受けて僕は無傷だった。
王族直属近衛騎士団正式採用型瞬間着装型戦闘衣装。通称カイゼルアタイア。
ロワイヤルスレイヤと対を成すこの鎧は、あらゆる属性の影響、呪いや毒、更には精神への浸食すら防ぎきる。けれどなにより特筆すべきは純粋な防御力の高さ。
この鎧の装着者は超高高度から落下してきた直径数キロの隕石が直撃しても傷を負う事はない。
「装備の差はこれで埋まったって伝わったかな? さぁ、ここからはお互い本気でやろうか!」
『ううっ!』
魔人皇帝の正面に飛び込む。
『真正面からなどっ!』
しかし魔人皇帝が切り裂いたのは僕の残像。
『なっ!?』
「ぐはっ!」
背後に回り来んだ僕の拳が鎧をヘコませる。
同時に魔人皇帝の背中から剣が生えてくる。
「ガッ!?」
『ありえない! 背後にいるのに何故正面から攻撃が!?』
「剣だけ置いていたのさ」
そして前に吹き飛ばされた事で地面に落ちる前の剣に自ら刺さったんだ。
『私に知覚できない速度の攻撃……!?』
「速度の差もこれで埋まったね! さぁもっと行くよ!」
ロワイヤルスレイヤの刀身に赤、青、緑、黄、紫、白、黒と様々な色が浮かび上がり放たれる。
『多重同時属性魔法!?』
「その通り!」
ロワイヤルスレイヤはただの剣じゃない。
複数の高位魔法を同時に発動、制御、更には威力の大幅な底上げをしてくれる。
更に裏ワザとして魔力の装填をコンマ00001秒ずつズラす事で、同時発動数を倍化する事が出来るんだ。
それを10回、これ以上はロワイヤルスレイヤの処理能力が持たない。
上位魔法7発同時発動の10倍、つまり70発!
「アガガガガガガガガガガガッッッッ!!」
『ありえない! このような技術は実現不可能なはず!』
魔人皇帝の体が燃え、凍り、切り裂かれ、感電し、貫かれ、捻じ曲げられ、毒に染まり、空間ごと消し飛び、腐敗し、沸騰し、分解してゆく。
『おおおおおっ! 高速回復が追いつかないっ!!』
魔人鎧の回復速度を超える破壊によってその体がドンドン崩壊してゆく。
『着装者の生命力……枯渇寸前、回復魔力不そ……』
世界が虹色に染まる。
「直撃はしたけど……」
手ごたえはあった。けど相手は魔人皇帝。油断はできない。
「…………」
予想通り、土塵の向こうから魔人皇帝の姿が現れる。
その手には何本もの小瓶が握られていた。
『あ、危なかった……咄嗟にエリクサーを大量摂取しなければ回復が追いつかなかった』
「ゲップ……オェ……」
成程、魔人鎧の空間格納スペースに各種回復アイテムを緊急時用に搭載していたんだね。
『なんという凄まじい……それが人族の決戦兵器だというのですか……』
いやこの装備は王族系御用だから予算度外視だけど決戦兵器じゃないよ。
『認められない、この私を越える兵器があるなど……否、まだです。まだ私は負けていません。私はまだ全力を出し切っていない』
魔人皇帝が格納スペースを開き、中から色とりどりの液体が入った小瓶を取りだす。
「身体超強化薬、感覚超強化薬、思考超強化薬、生命力超過回復薬、魔力超過回復薬、胃袋超拡張薬、魔力超過回復薬、魔力超過回復薬、魔力超過回復薬、魔力超過回復薬、魔力超過回復薬」
「お、おぼっ、おぼぼっ!! おぼっ!」
魔人皇帝は次々に小瓶を取りだすとそれを無理やり飲み干してゆく。
「ごぷっ」
『身体能力全般を強制的に底上げしました。副作用は発生するがあなたに勝利するまで保てばいい』
「そこまでするのか……」
多分今飲んだのはかなりの劇薬の筈だ。効果が切れたらタダじゃすまないだろうに。
『全ては、倒すべき敵を倒す為に』
覚悟が決まり切っている。此処で果てても構わないという覚悟をヒシヒシと感じるよ。
「なら、僕も全力で応じるよ!」
僕もまた魔力回復薬を飲むと、全力を出す為に魔力を集中する。
―ピーピー! 要塞内の破損甚大、修理ゴーレムは急ぎ修理を……機関部に火災発生! 修理ゴーレムは急ぎ修理を……航行システムに甚大な負荷が発生、修理ゴーレムは……―
要塞内部の異常を知らせるアナウンスがけたたましく鳴り響き、振動と爆発音が体に響く。
けれど僕達はそれらに動じる事は無く、ただ目の前の相手を見つめて力を溜めていた。
溜めて、溜めて、溜めて……
「びっ、ぷぱっ、ぴぎぃっ!!」
魔人皇帝の体が蓄積される魔力密度に耐え切れず悲鳴を漏らしながら全身から血を噴き出す。
けれどそれでも彼は止まらない。臆して止まった時こそが自分の本当の死だとばかりに。
そして、互いの魔力が頂点に達したと察する。
「プロミネンスレイザー!!」
『カラミティジュデッカ!!』
奇しくも発動したのは対極の魔法。
太陽の炎の如き収束斬撃を放つ極大攻撃魔法に対し、地獄の底の氷結地獄の如き空間凍結魔法。
炎と氷、収束と拡散。
魔人皇帝は範囲攻撃で僕の逃げ道を封じて氷の彫像にするつもりだ。
更に寒さと凍結による動きの阻害も兼ねてか。
『まさかこの状況で炎属性の極大魔法を使ってくるとは、つくづく私達は対極の存在なのですね……』
魔人皇帝が吹雪を維持しながら語り掛けてくる。
『着装者の技量、魔力を越えた魔法を無理やり発動して尚、互角とは恐ろしい人です。そして全ての魔力をこの攻撃に注いでいる為、他の攻撃はできない。ですがそれはそちらも同じこと。その魔法はあなたの身を凍結から守る命綱、私の魔法との拮抗が崩れた瞬間即座に貴方の体を凍り付かせる事でしょう』
ですが、と魔人皇帝が言葉を続ける。
『私には第三と第四の手がある』
魔人鎧の背中が展開し機械式の腕がせり出すと格納スペースから小瓶を取りだす。
「ガボッ!?」
『魔力充填! これで先に魔力が切れるのはお前の方だ!』
成程、相手は魔力回復薬で無理やり魔力を補充し続けてゴリ押しする作戦って訳だね。
対してこちらは二本の手しかないから追加の魔力回復が出来ない。
『おかしい』
と、魔人皇帝が疑問を口にする。
『何故まだ保つ。何故体が凍らないのです。凍結は免れても低温による身体機能の低下は起きている筈です。生身でできる魔法維持の限界を超えているはず。装備の補助があっても魔力の上限は人族のそれの筈』
確かに、魔人と人族じゃ魔力の総量は大きく違う。でも君は大事な事を忘れているよ。
「言ってなかったね。このカイゼルアタイアには各種属性防御が内蔵されているんだ。当然凍結耐性もばっちりさ!」
『装備の防御機構!』
「更にこっちは既に奥の手を使っているんだ!」
『奥の手っ!?』
瞬間、僕の太陽の光が輝きを増す。
『出力が上昇した!?』
「ロワイヤルスレイヤには裏技があるんだ」
そう、さっき使った魔力の装填をコンマ00001秒ずつズラす裏技の応用で魔力の争点をコンマ65535秒ズラすことで、今使っている魔法を発動したまま次の魔法を起動。任意のタイミングで追加発動する事が出来るんだ。
「本当はそっちの魔力が尽きかけた時のダメ押しに使おうと思ったんだけどね!」
二重にブレていた太陽の光が一つに重なると、そのエネルギーは二倍を超えて二乗となる。
猛烈な輝きが室内を埋め尽くし、カイゼルアタイアの防御機構が自動展開して熱から僕の体を保護、頭部バイザーが展開して僕の目を保護する。
『お、おお、こんな……』
こうなると斬撃魔法だった太陽の剣閃はその膨大なエネルギーで範囲魔法に等しい熱を周囲に放ちだす。
『熱量異常増大! 着装者の保護を、不可! 魔法制御に致命的なロスが発生する! 着装者の生命レベル低下! 魔法維持困難! 緊急、緊急、緊急……り』
そして、魔人皇帝の魔法が遂に制御不能に陥り太陽の光に飲まれた。
「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
一切の抵抗が無くなった剣閃を僕は振り下ろした。
◆
青空が見えた。
プロミネンスレイザーは魔人皇帝だけでなく、クリムゾングレイルの長大な構造すら切り裂いたんだ。
―致命的な損害が発生しました。機密情報保護の為当要塞は即時自爆します。侵入者に死を、搭乗員には冥福を。グッバイ―
で、大爆発した。
「って、え? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
決着がついた直後、一瞬の気のゆるみを突くように爆発に巻き込まれて僕は外に放り出される。
「び、びっくりしたぁ!」
カイゼルアタイアを着ていたから良かったものの、下手したら大怪我してたよ!
自爆装置なんて付けた覚えはないから、要塞の基礎部分を受領した後で持ち主が追加したんだろうね。
「もったいないことするなぁ」
でもまぁ、クリムゾングレイルの脅威は綺麗になくなったし、最期まで展開されていた防御障壁のお陰で外部への被害は最小限に済んだみたいで良かったよ。
「残るは飛行要塞と灰の従魔獣の掃討だけど、こっちは各国の騎士団に任せればなんとかなるよね」
「はー、久しぶりに大変な相手だったよ。帰ったらゆっくり休もっと」
こうして魔人皇帝とクリムゾングレイルを打ち破った僕は、皆が待つ王都へと帰るのだった。
魔人鎧「お疲れ様でしたー(やり切った)」
魔人皇帝_:(´д`」∠):_「ピクピク……(致死)」
クリムゾングレイル(´・ω:;.:…「ボロ雑巾よりもひでぇや(自爆)」
ロワイヤルスレイヤ( ˙꒳˙ )「もうちょっと続くんじゃ」
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