第352話 決戦、魔人皇帝
作者(*´ω`*)「久々の更新ですー!」
ヘルニー(;´Д`)「急ぎの仕事が複数あってそっちに専念してたり、家族を病院に連れて行ってたから更新までする余裕が無かった……」
ヘイフィー(‘ω’)ノ「気温の乱効果にもようやく慣れてきたし、これでやっと余裕が出来る筈……」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「見つけたよ魔人皇帝!」
遂に僕は魔人皇帝の居る中枢制御区画にたどり着いた。
けれど油断はしない。
なにせこれは罠なんだから。
クリムゾングレイルには侵入者対策で無数の防衛機構が設置されている。
当然僕もそれを警戒していたのだけれど、不可解な事に大半の防衛装置は起動しないままここまでたどり着けてしまったんだ。
その理由は考える間でもない。僕を直接ここに呼び寄せて抹殺するつもりだからだ。
侵入者をねじ曲がった次元迷路に落として二度と出られなくする罠も、内部構造が有機的に変化して真っすぐ進んでいるつもりで真逆の方向へと惑わせる生体迷路機構も、敵の攻撃パターンを高速で学習してそれを全防衛ゴーレムで共有最適化して敵を抹殺するメタビルド機能も、通路全体に致死の猛毒ガス魔法生命体や濃魔酸スライムゴーレムを充満させる人造魔生物軍団も使ってこなかった。
他にも無数のトラップがありながら、魔人皇帝は早く来いとばかりにこちらを挑発するような簡単なトラップしか使ってこなかったんだ。
全てのトラップを最大限に活用すれば、今世の不足した装備の僕はかなり消耗させられたのに、だ。
「……」
魔人皇帝はこちらを無言で見下ろしてくる。
僕が戦うにふさわしい戦士かを見極めているんだろう。
「……よ、よくぞここまできたな人族の戦士よ」
魔人皇帝の声は、どこまでも普通だった。
威厳のある恐ろしい声でも、醜悪で邪悪な悪意に満ちた声でもなく、何処にでもいる普通の人間のような声で。
「……っ」
寧ろその普通さがが逆に恐ろしい。
こういう普通な振る舞いをする奴ほど、戦場では何をするか分からないから怖いんだ。
「魔人皇帝、全ての戦力を撤退させて自分達の世界に帰るんだ。今更戦いを再開しても意味なんかない」
「……ふ、ふふふ、帰れ、だと? おかしなことを言う。元々我等の戦いは終わってなどいない。白き災厄の横やりで中断しただけにすぎん」
「白き災厄……」
かつてこの世界の住人と異世界から侵略してきた魔人達との戦いの最中、突如として現れた未知の存在だったね。
「だが猛威を振るった災厄の原種は既に死滅した! そして我等は長き研究によって従魔獣という形で白き災厄の力を支配下に置いた! 更にお前達人族の古代遺跡を蘇らせ我等の力として取り込んだ! 今や我等の戦力は白き災厄によって壊滅状態となったかつての時代を超えた! ならば戦いを再開するのは当然だろう!」
この発言からも魔人達がいかに白き災厄を脅威に思っていたかが分かる。
前世であれ程強大だった魔人達ですら壊滅的な損害を受けたなんて……
そりゃあガンエイさんもアンデッドになってでも白き災厄に対抗する手段を探して血眼になった訳だよ。
「そんな中、ここまでたどり着いた貴様には敵ながら敬意を示そう。だが貴様等人族が著しく弱体化している事は調査済みだ。唯一マトモに対抗できるお前達の力の源が前文明のマジックアイテム由来である事も含めてな!」
「それは……違うよ」
確かに冒険者の為にマジックアイテムや回復アイテムを大量に提供したのは事実だけど、それはあくまで新人の、若い冒険者達の補助の為だ。
経験を積んできた熟練の冒険者の皆にはそんなもの、僕が用意するまでもない。
彼等なら実力で遺跡を踏破し、強力な魔物の素材を手に入れて相応しい装備を得る事が出来るんだから。
それはリソウさん達Sランクの皆が証明している!
「僕達冒険者をあまり舐めないでほしいね!」
「はっ、ならば余を降して己の正しさを示してみるが良い! 力こそが全てを制するこの世界でな!!」
魔人皇帝が玉座の横に立てかけていた剣を手に取る……っていうかあんな所に玉座なんてあったっけ?
うーん、基本設計とベース部分の開発は僕がしたけど、細かい装飾とかの指定はクライアントがやったから最終的にどんな最終調整になったのかまでは分からないんだよね。
まぁ機体構成に悪影響をあたえる様なおかしな改装はしてないと思うけど。
「ゆくぞ!」
魔人皇帝が飛ぶような速さで懐に潜り込んでくる!
「速い!?」
僕は辛うじて剣で受け止める。けれど……
ビキッ!
「っ!!」
即座に体を捻って回避行動をとると同時に剣が砕け散る。
すぐさま魔法の袋から予備の剣を取りだしつつ距離を取る。
「その剣……まさか」
魔人皇帝が脈動するような輝きを放つ剣を見せつけるようにかざす。
「くくっ、驚いたか? これこそはかつての皇帝がお前達人族の英雄を縊り殺して手に入れた魔剣ポーヴァライザーよ!!」
ポーヴァライザー……うん、良く知っているよ。
だってその魔剣は、かつてある人物に頼まれて僕が作ったものなんだから。
「触れたものを全て粉砕する呪われし魔剣。どれほど頑強な鎧であろうと、どれほど鋭利な魔剣であろうと砕く恐ろしき刃。貴様もまたこの魔剣の贄としてくれよう!」
凄まじい早さで飛び込んでくる魔人皇帝の斬撃を回避する。
アレに触れるのは不味い。だってあれは……
騎士団の工兵部隊に頼まれて作った、工事用の剣型掘削機なんだから!!
「くっ!」
回避して空振りとなった魔人皇帝の一撃がクリムゾングレイルの床や壁に当たる度に、まるでスライムでも叩き潰すかのように容易く粉砕してゆく。
ポーヴァライザー、アレは騎士として華々しく戦えないことを他の騎士達から笑われた工兵達から見た目だけでも騎士らしくしたいと頼まれて作った品だ。
だから見た目こそ剣だけど、その機能は切断ではなく掘削する事にある。
触れたものを分子レベルで粉砕するその機能は刃に触れた部分のみを切る工具モードと、刀身全体に高速粉砕フィールドを展開し、フィールドに接触した周辺を粉砕する掘削モードに変化できる(調整によって粉砕範囲は調整可能だ)。
「今は掘削モード……いや違う。あの点滅は工具モードと粉砕モードを高速で切り替えて使ってるのか」
切れ味優先の攻撃と粉砕する事で破片を囮にする攻撃のどちらを狙っているのか分からなくしてるのか。
「はははははっ! どうしたどうしたどうした! 我が魔剣の前に手も足も出ないのか!」
正直驚いた。まさかアレを武器として使う人がいるなんて。
だってあの武器は……
「そろそろ死ね!」
僕は手にした剣から手を放し、ポーヴァライザーの刃の腹に腕を当てて弾く。
「なっ!?」
魔人皇帝の顔が驚愕に染まる。
「何故粉砕しない!?」
「ポーヴァライザーを実戦で使うには、致命的な問題があるんだよ」
「欠点だと!?」
「それは……ポーヴァライザーは工具だから事故防止のために生命体には効果を発揮しないようにセーフティがかけられているんだ!!」
「何だとぉぉぉぉぉっ!!」
「はぁっ!!」
驚きで隙だらけになった魔人皇帝のみぞおちに魔力を集中展開した掌底を放つ!!
「ごはっっっっ!」
衝撃で魔人皇帝の体が勢いよく吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「よかった、変な改造はされていなかったみたいだね」
魔人皇帝が落として転がって来たポーヴァライザーを手に取るって確認してみたけど独自の改良をしている様子は無かった。
まさか実戦でポーヴァライザーを使う人がいるなんて予想外だったよ。
「でもポーヴァライザーの掘削機能を武具破壊に使うって考えは盲点だったな」
武器や防具を破壊する為にしか使えないから本体に止めを刺す事は出来ない。
武器を交換するにしても、一瞬の油断が命取りになる実戦においては致命的な隙になる。
「いや、強者だからこそ、あえてハンデを付けて戦いを楽しんでいたのかもね。
きっと僕達人族を倒すのにまともな武器なんて必要ない。工具程度で十分だという意思表示だったんだろう。
ともあれ、整備不良が見られるから使うのはやめておいた方がいいかな。
ポイとポーヴァライザーを部屋の端に捨てると、僕は魔人皇帝に視線を戻す。
「でも不思議な相手だったな。凄くチグハグというか……」
魔人皇帝の戦い方は明らかにおかしかった。
というのも魔人皇帝の剣技は並以下だったんだ。
いや剣技だけじゃない、体術や魔力操作もだ。
高位の魔人は魔人流の高レベルな剣技や体術を収めている者が多い。
だというのに魔人皇帝の剣術はかつて戦った彼等の足元にも及ばない程度だった。
正直純粋な剣の腕ならジャイロ君よりも下だったんじゃないかな?
ただ、その代わりとばかりに魔人皇帝は身体能力は異常に高かった。
今の戦いでも攻撃の入りが不自然なレベルで速かったくらいだ。
それに膂力も尋常じゃなかった。
「恐らくはこの異常な身体能力で技術の差を無理やりねじ伏せて来たんだろうな」
という事は……
「ぐ、ぐう……」
予想通り魔人皇帝が起き上がる。
「貴様、よくも余を地に叩きつけてくれたな。
やっぱり、回復能力も尋常じゃないね。
相手はフィジカルの怪物、その力によっては戦いが長引きそうだ。
「でも、それならそれで戦いようはある!」
「ははははっ! どう戦いようがあるというのだ!」
魔人皇帝の姿が消える。
「こう戦い方があるんだよ!」
シュルンとした感触が肌を撫でる。
と、同時にドォンという激しい音が鳴り響いた。
「ガハッ!!」
それは魔人皇帝が地面に叩きつけられた音だった。
「な、何が……!?」
「単に受け流しただけだよ」
「受け……流した……だと?」
そう、僕は魔人皇帝の攻撃を受け流しただけだ。
けれど、圧倒的な速度を持つ魔人皇帝は自らの速さに対応できずにそのまま自爆した。
「お前は身体能力が異常に高いけど、その能力にお前自身が付いていけてない。どれだけ速く、力が強くても、力を受け流して別の方向に逸らせば勝手に自滅するのさ。今みたいにね」
「馬鹿な……余の速さを見切れる筈がない……」
「確かに速かったよ。でも、来ると分かればあとはタイミングを合わせるだけさ。さっきの攻撃でこちらに届くにはどれだけかかるか把握した。あとは受け流しの動作をお前が来る位置に置いておくだけでお前が勝手に投げられてくれるって寸法さ」
弓や魔法の戦いでも激しく動く相手と戦う際は、相手が逃げた先に先んじて攻撃を放つ。
それと同じことを受け流しの動作でやったんだ。
「馬鹿な! 攻撃が来る前にこちらの攻撃を読んで対応しただと!?」
別にそんな難しい事じゃない。
熟練の戦士が相手なら敵も対策を練ってくるだろうけど、魔人皇帝の技の練度は低い。身体能力だけで向かってくるなら寧ろ読みやすいくらいだ。
「ならばこれでも読めるか!!」
魔人皇帝の姿がブレると同時に無数の魔人皇帝が現れる。
「分身による同時攻撃! 避けきれまい!」
「思ったよりも速いね!」
ただしそれは動きの速さじゃない、魔人皇帝の回復スピードの事だ。
今の受け流し投げはかなり綺麗に決まった。
まともに動けるようになるまでもう少しかかると読んでいたんだけどな。
僕は無数の魔人皇帝の攻撃を回避し、防御し、受け流し、迎撃する。
「全ての分身の攻撃が当たる。幻覚の類じゃない。質量を持った分身、いや超高速機動による意図的に残像を残した幻惑だ!」
そもそも普通の超高速機動は残像なんて残らない。
文字通り目にも見えない速さで動くんだから、そんな事をしても速度が落ちて狙われやすくなるだけで何の意味も無い。
けれど魔人皇帝は僕にわざと隙を見せてこちらの攻撃を誘っているんだ!
「はぁ!」
「っ!?」
いつの間にか魔人皇帝の手には落とした筈のポーヴァライザーが握られていた。
「しまった!」
武器がポーヴァライザーによって破壊される。
やられた、分身はポーヴァライザーを披露姿を見られない為の目くらましだったんだね!
技術は拙いのに身体能力と駆け引きの上手さは尋常じゃない。
伊達に皇帝を名乗っていないって事か。
「ならあえて乗る!」
魔人皇帝の誘いに乗ってカウンターがきた瞬間に更にカウンターを決める!
武器はポーヴァライザーに破壊されるから使わない。素手に魔力を込めて一撃にかける!
「はぁ!」
僕は分身が現れるタイミングを予測してそこに攻撃を叩き込む。
さぁ、どちらが速いか勝負だ!
「グボァッッッッ!!」
魔人皇帝が綺麗に吹っ飛んだ。
「え?」
あ、あれ? 吹き飛んだ? いや、吹き飛んだ振りか!
僕は慌てて横に飛んで反撃を……こない。
「あれ?」
てっきり攻撃を受けたフリをして反撃してくると思ったんだけど……
「ガハッ……」
魔人皇帝は管理室の壁に叩きつけられると、そのまま力なくズルズルと床に崩れ落ちていく。
まさか倒した? いや流石にそんな……
「ガフッ!」
そう思った瞬間、魔人皇帝の体がエビぞりになって跳ねると、咳込みながら起き上がる。
「ゴホッ、ゴホッ」
そして回復魔法の光がその体を包む。
「あれは……緊急蘇生装置?」
そうだ、今の反応は前世の時代に使われていた緊急時の心臓蘇生雷撃魔法による蘇生措置にそっくりだ。
更にその後の発動した回復魔法、あれは魔人皇帝が自分で発動した感じでもなかった。という事は……
「自動回復用のマジックアイテムを装備しているって事か。厄介だね」
自動回復用マジックアイテムはチャージされた魔力さえあれば使用者が瀕死になっても発動する。
ただ回復量や回数は使用者の能力次第で変動するのが不幸中の幸いだ。
強い者の場合は強靭な肉体を完全回復させる為に魔力消費量が多くなるからね。
なら使えてもあと一回くらいかな?
「それなら自動回復アイテム持ち相手の戦い方をするだけだよ! リコンストラクションパーガトリー!」
発動と同時に管理室が地獄のような光景へと変貌する。
「何だこれは!? グワァァァァァ!!」
室内に溢れた黒い炎に触れた魔人皇帝が絶叫を上げる。
「や、焼ける! グワァァァァ!」
猛烈な熱気に魔人皇帝の肉体が焼かれたと思えば今度は一面が黒い氷に覆われた世界に変貌する。
「ぎあ、さ、寒……」
黒い氷に包まれる魔人皇帝。
その次は一面が鋭い棘を生やした大地や木々へと変貌し、魔人皇帝を串刺しにする。
「ギャァァァァ!」
これこそ地上に地獄を現出させる環境変異型攻撃魔法、リコンストラクションパーガトリー!
「どうだ、敵の強力な回復アイテムの魔力を消費させる為に必須の環境魔法だよ! しかも耐性対策に常時属性変化する攻撃だ!」
魔人皇帝の体が燃え盛り、凍り付き、穴だらけになり、感電し、腐食し、ズタズタに切り裂かれる。
けれど、僕はとても優位に立てた気になれなかった。
「アガガガガガガッ!!」
何しろ魔人皇帝は攻撃を受ける端から回復し続けているんだ。
「くっ、なんて回復能力だ。あれだけの負傷を回復し続けているのにまだ魔力切れにならないなんて!」
魔人皇帝程の身体能力を持つ相手を回復させるならとっくに魔力が尽きている筈。
なのにまるで大した力を持たない雑魚魔人を回復させるかのように回復マジックアイテムの魔力が尽きる様子が見えない。
「これが数千年潜伏を続けて来た魔人の魔法錬金技術っ!!」
くっ、これは戦いが長引きそうだね!
床((((;゜Д゜))))「何て強敵なんだ。まるで歯が立たない!」
壁(; ・`д・´)「恐ろしい、どうやったら倒せるんだ!」
ポーヴァライザー(´Д⊂ヽ「がんばえー!」
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