第350話 紅盃を穿つは質量の暴力
作者_(:3 」∠)_「少し、涼しくなった……」
ヘルニーヾ(⌒(ノ-ω-)ノ「また戻るぞ」
ヘイフィー_(:3 」∠)_「止めて……」
作者_(:3 」∠)_「あっ、二度転生コミック10巻好評発売中ですよー」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「クリムゾングレイル……ッッ!!」
空間を破壊して、深紅の要塞が姿を見せる。
「ウソでしょ……」
「デカいのは分かってたけど……」
「デカすぎだろ!?」
初めてクリムゾングレイルを見た皆が驚きの声を上げる。
それも仕方がない。クリムゾングレイルの大きさは目視による大雑把な試算でもこの王都よりも大きんだから。
「あんなの倒せるの……?」
「できますよ」
僕の言葉に皆の視線が集まる。
「そのために準備はしてきました。あとは叩き潰すだけです」
「「「「「……ぷっ、ははははははははっ!!」」」」」
全員がポカーンとした顔になった直後、皆の笑い声が空に響き渡る。
「レクスがそう言うなら間違いないわね」
「ああ、兄貴が言うなら間違いねぇ!」
「まったく、あんな化け物を見てもそんな事が言えるんだからもう信じるしかないわね」
良かった、皆戦意を取り戻してくれたみたいだ。
「っ! 空が変になってる!」
メグリさんの言葉に視線を空に戻すと、クリムゾングレイルの周辺に幾つもの空間の歪みが現れていた。
そしてその中から無数の飛行要塞が姿を現す。
「クリムゾングレイルの小型艦載要塞! あれも健在だったのか!」
厄介だな。アレは見た目こそ小型だけど、大型の要塞と大差ない攻撃力と防御力を持つ。
そのくせ機動力が高く小さいから攻撃を当てづらくなっているんだ。
屋敷の防衛装置の最大出力なら問題なく破壊出来るけど、見た目以上に搭載された数が多いから連射速度の問題で押し切られてしまう。
「王都に被害を出さない為にまずはアレを倒さないと!」
「ここは私達の番よ!」
「おうよ!」
その声と共に飛び出していくのはリリエラさんとジャイロ君だった。
「二人共!?」
「あのサイズなら私達でも対応できるわ! ホークインパルサー!」
「おうよ! ファルコンスパイラル!」
流線型に翼を広げた氷の尖鳥と炎を纏い高速回転で敵に突撃する大鳥が小型艦載要塞を貫いて次々に撃破してゆく。
「サンダーレギオン!!」
更に地上から飛び上がった無数の雷の枝が倒しきれなかった小型艦載要塞を撃墜する。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
けれど撃墜された小型艦載要塞の破片が王都へと降り注ぐ。
「いけない!」
「大丈夫です! キャプチャーグランネット!!」
王都上空に巨大な光の網が現れると、落下する破片を受け止めてゆく。
ミナさんの放った雷撃追尾魔法とノルブさんの広域捕獲捕獲魔法だ。
「こいつらは私達が全部倒す! レクスは予定通りあの赤いのを!」
「僕達だってレクスさんから教わった技や魔法を使えるようになったんです! 安心してください、被害は僕が防ぎます!」
『撃てぇぇぇぇぇぇぇっ!』
号令が響くと共に、地上から魔法と矢が小型艦載要塞へと放たれる。
小型艦載要塞はその小ささと機動性を活かして回避をするけれど、無数の攻撃を全て避けきれずに被弾、撃墜されてゆく。
『貴方達に貸し与えた装備ならあいつ等を倒す事は出来る! どれだけ敵が沢山いても攻撃を集中させて確実に一機ずつ落としていけば必ず敵の戦力も枯渇する!』
聞こえてきたのはメグリさんの声だ。風魔法で王都全体に声を届けているらしい。
『聞こえるレクス! 冒険者と騎士団も協力して迎撃してくれる! だからあの要塞に専念して!』
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」
メグリさんの言葉に同意するように、戦士達の雄叫びが王都に響き渡る。
どうやらメグリさんは地上で戦う冒険者達を指揮して攻撃を纏めてくれたみたいだった。
「メグリさん……それに冒険者の皆も!」
仲間達と冒険者の皆が僕の背中を押す。
それはまるで大剣士ライガードの物語で最も壮大なエピソード『魔獣大戦前夜』のようで……
「分かったよ皆!」
強大な魔獣を操る邪悪な敵との戦いにライガード達が赴こうとした時、彼等の機先を制するように魔獣の大軍勢が襲い掛かって来た。
奇襲を受け負傷する仲間達の姿を見たライガード達は、敵陣への突入よりも迎撃をするべきなんじゃないかと躊躇ってしまった。
けれど仲間達は気炎を上げて魔獣達を押し返し、ライガート達に自分の役目を成せと叱咤激励した、そんなエピソードに。
「はは、まるで僕がライガードになったみたいだ」
僕は小型艦載要塞を振り切って天高く飛び上がる。
僕を落とそうとこちらに砲口を向ける敵が見える。
けれどそれらの攻撃は僕に届くことなく、地上から放たれた攻撃を受けて、銀と赤の鳥に貫かれ、雷の大樹に貫かれてゆく。
「任せたよ皆!」
深紅の要塞に強大な魔力反応が巻き起こる。
「主砲を撃つつもりか!! いけない、アレが発射されたら王都が焼き尽くされる!!」
僕は急ぎ迎撃のために主砲と王都の間に立ちふさがる。
何としてもアレを阻止しないと!
けれど予想以上に速くクリムゾングレイルの主砲が発射される。
「速い!? くっ!」
急ぎ魔力を練って防御魔法を展開しようとしたその時だった。
『『『ここは俺達に任せろ!!』』』
地上から三つの影が飛び上がって来る。
「はぁぁぁぁ! 噛み砕けファングストーム!」
まるで無数の獣の牙が円陣を組んで獲物をかみ砕くようにクリムゾングレイルの放った収束魔力波を削り取ってゆく。
「喰らえ! トライライトニングピラー!」
地上から放たれた三本の雷の柱が空中で一本に纏まり収束魔力波にぶつかる事で軌道がわずかにズレる。
「我が双子の相棒剣! 今こそお前達の力を使う時だ! 白光! 黒影現出!!」
白と黒の巨大な日本の刃が下からカチ上げるように収束魔力波に叩きつけられ更に軌道がズレる。
けれどまだ王都に被害が出る軌道のままで……
「防衛神官隊! ホーリーサークル展開! 術式増幅ディヴァインウォール!!」
王都の空に巨大な光の壁が浮かび上がり収束魔力波を受け止める。
しかしすぐに光の壁に亀裂が入る。
「聖女を舐めるんじゃないわよ! どっせーいっ!」
その雄叫びと共に光の壁が斜めに傾き、
「ディバインウォール!」
更に下部に黄色みのかかった光の壁が押し出すように更に角度をつけると、遂にクリムゾングレイルの主砲は王都を逸れて荒野へと着弾した。
直後、光が荒野を包み遅れて轟音と衝撃波がやってきて荒野に大きなクレーターが開く。
けれど王都は無事だ。
「皆さん、来てくれたんですね!」
僕は地上からやって来た三つの影、そして遅れて上がって来たもう一つの陰に語り掛ける。
「ロディさん! リソウさん! ラミーズさん! それにフォカさん!」
そう、新たな援軍はSランク冒険者、晴嵐のロディさん、双大牙のリソウさん、天魔導のラミーズさん、そして聖女フォカさんの四人だったんだ。
「待たせたな少年!」
「遅ればせながら参戦だ!」
「ふ、少し遅刻したがこれで勘弁しろ」
「はぁ~なんとか間に合ったわ……」
「皆さんも来てくれたんですね!」
まさかのSランク冒険者揃い踏みだ。
「ああ、冒険者ギルドからの緊急招集を受けてな。俺の仲間達も地上であの魔獣相手に頑張っている」
「俺も相棒を使いこなす為に修行の旅の途中で魔獣達の襲撃に遭ってな。この状況では修行どころではないと参戦することにした」
「私は古文書から復活させた魔法の練習台に丁度いいと思っただけだ。義侠心なんて偽善的なものじゃないがね」
「はいはい、分かってるわよ」
「それよりも問題はあの赤いヤツだ。大物喰らい、アレの情報はあるか?」
感動の再会もそこそこにリソウさんが話題を戻す。
こういうところSランクのまとめ役って感じだよね。
「はい。アイツはかなり強力な魔法防御壁を持っています。並の攻撃じゃ通用しませんし仮に貫通しても暫くしたら防壁は復活するので外から攻撃していたらこちらが先に力尽きます」
「厄介だな。だが君の事だ。何か手立てがあると期待して良いんだろう?」
「ええ、秘密兵器で敵の防御壁を破って外壁に穴を開け内部に侵入します」
「敵の内に飛び込んで中から喰い破るか。流石は大物喰らい、豪快な作戦だ」
「よし、君への攻撃は我々が引き受ける。君はヤツのどてっ腹に風穴を開ける事だけ考えてくれ」
「はい!」
「私は神官隊と一緒に王都への攻撃を阻止するわ。さっきの奴をまた撃たれたら危ないけど、彼が居ればもう一発くらいは防げそうだから」
と、地上をチラリと見るフォカさん。その視線の先に小さく見えたのはノルブさんだ。
さっきの黄色い防御壁は彼の属性防御を付与した強化魔法壁だったんだろう。
それにしても聖女に認められるなんて流石ノルブさんだ。これなら僕も安心して戦いに専念できるよ。
「でも冒険者ギルドから空飛ぶ魔道具なんてものを貸し出して貰えるとは思わなかったわ。伊達に王都を仕切ってる訳じゃないわね」
「あはは、そうですね」
本当は僕が用意したものだけどね。
「じゃあ行きます!」
「「「応っ!!」」」
「頑張って!」
ロディさん達に護衛されながらクリムゾングレイルより上空に到達すると、僕は腰に下げた短剣を抜く。
「よーし、お前の出番だ!」
ただし、その剣に刃は無く、あるのは柄の部分だけだ。
「刃の無い剣? そんなものでなにを……」
「亜空間倉庫より本体現出!」
「うぉっ!?」
柄の先端部に設置された宝石のスイッチを押すと異空間に収納されていた本体が通常空間に現れる。
「なっ!? デカッ!!」
それは最初に見せた刃の無い柄と似たような形状。大きさにして300メートル弱。
けれどこれはこの兵器の本当の姿じゃない。
「魔導戦刃機動!!」
瞬間、膨大な魔力が巨大な柄に吸い込まれてゆく。
「第一刀身展開!」
「巨大な鉄の塊!? いやこれは刃か!!」
「しかもただの鉄じゃない! これはミスリルか!? しかしそれだけとも……」
刀身を見たラミーズさんがすぐにこれがミスリルだと察する。更にその中に特別な素材
を混ぜ込んだ合金という事まで見抜いているのは流石だ。
「第二刀身展開、接続!」
巨大な刀身が柄に接続されると更に二本目の刀身が現れ、先に現れた刀身に接続して刀身を長く伸ばす。
「次いで第三、第四刀身展開! 接続!」
なおも巨大な刀身が現れ連結してゆく。
「まだ出てくる!?」
「なんだこれは!? これが剣なのか!?」
「展開完了! 魔導超絶大刃アグリゲートブリガンド!!」
完成したのは巨大な剣。
その全長は5270メートル、刀身の一片だけでも1000メートルを超える超巨大な剣だった。
「魔導推進器始動! 目標クリムゾングレイル!!」
身体強化魔法を全開して無理やりターゲットをクリムゾングレイルに合わせる。
誘導機構なんて無い。材料の節約のために完全に手動操作だ。
でも問題ない。なにせあの巨体だ。狙うまでもなく当たる。
柄部分に設置された推進器が巨大な刃を加速させる。
ただしこの推進器は飛行の為のものじゃない。
真下に位置するクリムゾングレイルにぶつける為の位置調整用と自由落下速度を増加させる為のものだ。
「はははははっ! 何だこりゃ! 幾ら大物喰らいだからって獲物まで大物過ぎだろ!」
「こりゃ凄い! よくもまぁこんなバカげた武器を持ち出したもんだ!」
「お前達はしゃぐのもいいが敵に集中しろ! 連中流石にコイツには腰を抜かしたのか本気で迎撃してくるぞ!」
ラミーズさんの言葉に二人の顔が引き締まる。
「分かってるよ! 雑魚共に邪魔はさせねぇよ! こちとら高難易度ダンジョンを巡って新しい装備を探し回ってたんだぜ!」
「ただ漫然と修行をしてきたわけではない! 相棒を使いこなす為の修練に加え、古代遺跡を巡って双大牙のもつ真の力とその使い方を探し回っていたのだ!」
「ならいいが! 私も幾多の古文書を解読して得た魔法を披露する良い機会だ!」
ロディさん達が小型艦載要塞に向かってゆく。
「僕も逃さないよ!」
僕は回避機動を取るクリムゾングレイルを逃さないように軌道修正すると、さらに加速をかけてアグリゲートブリガンドを突進させる。
回避が叶わないと覚悟したのか、クリムゾングレイルの防御障壁が視認できる程に出力をあげる。
「さぁ! 勝負だ!」
遂にアグリゲートブリガンドがクリムゾングレイルとぶつかる。
ゴォン! と重い音を立てて巨大な剣先が光る障壁に防がれる。
「障壁の出力が上がり過ぎて半物質化してる! でも!」
僕は更に更に加速を高め自由落下エネルギーを増加させるけれど、障壁はびくともしない。それどころか障壁の固さに刀身が悲鳴を上げている。
アグリゲートブリガンドの刀身は材料が足りなくてミスリルの合金を間に合わせに使わざるを得なかった所為だ。
「でもその分大型化して耐久力を増している! 巨大な敵を貫くなら、それ以上の圧倒的巨体での超質量攻撃だ!!」
いかに協力な防御魔法でも超質量が与える負荷は相当なものだ。防御に回す面積もそれだけ増えてしまうしね。
とはいえ、それだけじゃクリムゾングレイルの防御障壁を突破する事は出来ない。
「魔導斬角起動!! 貫けぇぇぇぇぇぇっっっ!!」
アグリゲートブリガンドの刀身が輝き、防御障壁に僅かに沈み込む。
「よしいける! 出力全開!」
魔力を全開にして先端の魔導斬角の魔法斬撃機能をフル稼働させる。
魔導斬角に込められた魔法機能はたった一つ『切る』こと。
魔力、物理、空間、次元、あらゆる防壁を切り裂いてその奥に守られたクリムゾングレイル本体を切り裂く為に。
ギチギチッ! ビキッ!! ギギギッバキバキッ!!
クリムゾングレイルの魔法障壁に刀身が食い込む。
けれどクリムゾングレイルの高い防御力と出力に耐え切れなかった刀身に大きな亀裂が入ってゆく。
「やっぱり材料不足と品質の問題は深刻だね! でもそれも予想済み! 斬角射出!!」
僕の操作を受け、ひび割れた魔導斬角の先端が発射される。
そしてクリムゾングレイルの障壁に更に食い込んで爆発する。
それによって防御障壁は更なるダメージを受けはしたものの未だ健在だ。
「でも問題ない! 第二魔導斬角起動!」
すぐさま短くなった魔導斬角の先端が起動してクリムゾングレイルの防御障壁を責め立てる。
これぞ魔導超絶大刃アグリゲートブリガンドの神髄、連続装填魔導刃機構!!
耐久性を捨てて壊れるまで全力稼働させた魔導兵器を連続で発動する事で相手の防御性能をオーバーフローさせる特攻突貫兵装!!
「第三魔導斬角起動!」
限界を迎えた第二斬角を射出自爆させて防御障壁に負荷をかけたところで更に追い打ちをかける。
「第四魔導斬角起動!!」
クリムゾングレイルの防御障壁に目に見えて負荷の影響が出始める。
そこにとどめの斬角が叩きつけられ、遂に障壁が限界を迎えた。
けれどまだ終わりじゃない! クリムゾングレイルの装甲もまたかつての僕が作った最高の素材と技術の結晶。
「穿て!真角!」
第四斬角を砕きながら僕はクリムゾングレイルの外装にとりつくと、最後に残った巨大な剣の柄を叩きつけ最後の機構を発動させる。
ズドン!! という激しい音と衝撃と共に、柄の内部から巨大な杭が射出されると共にクリムゾングレイルの外装に亀裂が入る。
これぞアグリゲートブリガンド最後のブリガンド、超巨大大剣を支える芯にして最後の武器!
用意できた素材の中で最も質の良い部位だけを選んで作った本命中の本命!
叩きつけられた杭がクリムゾングレイルの外装にめり込み、そのまま食い込んでゆく。
「通った! 炸裂っ!!」
直後、巨大な杭が膨らむみ破裂する。
そして杭が無くなった事でポッカリと開いた穴が現れる。
「今だ!」
すぐさまその穴に飛び込むと同時に、外壁が蠢き高速で穴が埋まる。
「ふぅ、ギリギリ侵入できたよ」
仲間達の協力もあって、遂に僕はクリムゾングレイル内部への侵入を果たしたのだった。
「さぁ、ここからが本番だよ魔人皇帝!」
小型格納要塞 Π□Π「なんか最終決戦の熱い展開みたいにやられてます」
リリエラ_:(´д`」∠):_「ちなみに今回使った魔法は魔法学園で脳みそに叩き込まれた奴だから割とマジで死ぬかと思ったヤツ……」
リソウ└(┐Lε:)┘「生産停止したマジックアイテムの説明書探すのマジ大変だった……」
ラミーズ_(:3 」∠)_「言っとくけど俺マジで独学よ」
アグリゲートブリガンド_:(´д`」∠):_「なお私のデザインはカッターの刃とプラモの無限連結出来る武器を足して割ったものと思ってください」
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