表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二度転生した少年はSランク冒険者として平穏に過ごす ~前世が賢者で英雄だったボクは来世では地味に生きる~  作者: 十一屋 翠
人魔戦争編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

348/355

第348話 聖地修復最前線の奇跡

作者٩(ˊᗜˋ*)و「修理に出してたノートPCが戻って来たぞぉぉぉぉぉ!」

ヘルニー(‘ᾥ’)「フットマッサージャーが壊れたぞぉぉぉぉぉ!」

ヘイフィー ( ˙-˙ )「なんでや!」

作者((´д`))「修理費で出費が……」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

「うーん、これは参ったぞ」


 クリムゾングレイルを破壊する為の武器を作る為の素材を集めた僕だったけれど、ここで想定外の問題に突き当たっていた。


「素材の強度が足りない」


 そう、予想以上に手に入れた素材の質が良くなかったんだ。


「妙に弱い個体が多かったしそれが原因かなぁ」


 薬草だってしなびていたら効能は大きく下がる。きっとあの魔物達もおなじだったんだろう。弱っていたか若く成熟していない個体だったんじゃないかな。


「こうなると別の素材で強度を確保しないといけないね。それに魔力伝達性の高い素材も使って性能を引きあげないと」


 とはいえ、それらの素材を集めるのも一苦労だ。

最悪の場合、新たに集めた素材もやっぱり質が悪くてなんて事になりかねない。


 頭を悩ませていると、ポケットから魔力信号が発せられているのを感じる。

 これは有事の際に連絡を取る為に皆に渡した連絡用マジックアイテムだ。


「もしもし?」


『良かった、繋がった! レクスさん僕ですノルブです』


「ノルブさん、何かあったんですか?」


 確かノルブさんは王都の教会に行っていた筈。

 わざわざ連絡用のマジックアイテムを使うような距離じゃないと思うんだけど。


『実は今聖都に居るんですが、聖地が大変なことになっているんです!』


「聖地が?」


 聖地と聞いてちょっとだけゲンナリした気分になる。

 あそこでは酷い目にあったからなぁ。


「何があったんですか?」


『これではちょっと。とにかく一度聖都に来てくれませんか?』


「分かりました」


 聖地で一体何があったんだろう。

 ノルブさんの口ぶりからして、通信を傍受される事を警戒するほどの事態みたいだし急いだほうが良さそうだね。


 ◆


「聖地が壊れた!?」


「ええ、魔人達の猛攻撃に耐え切れずに……」


聖都にやって来た僕を出迎えたのはノルブさんと、聖女のフォカさんだった。

 そうだよね。教会の総本山が戦場になっているのならフォカさんが出てこない訳がない。

 そしてフォカさんから聖地では魔人達との戦いが相当激しかったのだと語られた。


「聖地の防衛設備ならあの空飛ぶ砦相手でも十分に戦えると思っていたんですが……」


「魔人達は聖地をことさらに危険視していたみたいで大部隊を送り出してきたの。辛うじて撃退は出来たもののあまりの猛攻に聖地の機能も動かなくなってしまったの」


 確かに教会はこの世界の人間にとって心の拠り所だ。そんなシンボル的な場所を狙わない手がない。


「だから貴方には聖地の設備を直せるか調べて欲しいの。そして直せそうなら修理をして頂戴」


「聖地の修理ですか」


 正直今はクリムゾングレイルを破壊する武器に必要な素材を集めに行きたいんんだけど……いや待てよ。

 聖地なら防衛施設の補修用の資材があった筈だ?

 だとしたらその中に僕が必要とする素材が見つかるかもしれない。


「条件があります。聖地にある物資の中で僕が必要とする資材があったらそれを無条件で譲って貰えませんか?」


「分かったわ」

 

 フォカさんはあっさりとこちらの要望を飲んでくれた。


「上には私から伝えておくから、欲しい物を見つけたら許可なんて取らずにそのまま持って行っていいから。人類の信仰の拠り所の進退がかかってるんだもの。文句は言わせないわ」


 と、フォカさんは教会上層部が後で手の平を返すかもしれないからと先に盛って行けと資材の持ち出し許可を先んじて出してくれた。手慣れてるなぁ。


「じゃあはい、コレ」


 とフォカさんが出してきたのは見覚えのある不吉な小瓶。


「あの、これって……」


「レクスくんはあまり目立ちたくないのよね。なら変装は必須でしょう?」


「レクスさん、諦めてください。僕も聖地入りする為に同じ薬を飲んでいるんですから」


「え? あ、本当だ。ノルブさん女の子になってますね」


「今まで気づいてなかったんですか!? 酷いですよ!?」


 いやー、あまりにも自然だったもんだからついついスルーしちゃってたよ。


 ◆


「はぁ」


 結局、聖地に入る為には必要な事だからと僕はまた女の子になっていた。


「待っていましたよラクシさん! ノリエさん!」


 そんな僕達を聖地で出迎えてくれたのは、主神の神殿のシスターであるトレーシーさんだった。

いや、今じゃ聖地を蘇らせた第二聖女と呼ばれているんだっけ。


「トレーシーさんもお元気そうでなによりです」


「……あんまりお元気そうじゃないんだけどね。何せ気が付いたら聖女に祭り上げられていたから……」


 じっとりとした視線をこちらに向けて恨めしそうな声音で呟くトレーシーさん。

 うん、気のせいだね!


「とはいえ、ラクシさんのお陰で色々助かっています。ラクシさんが聖都の教会を改築してくださったお陰で地下の安全な場所に避難民を避難させる事が出来たわ。それに裏庭に作ってくれた畑も地上が魔人達と魔獣に包囲された現状では貴重な食料となっているの」


「あれが役に立ったのなら何よりです」


 そういえば教会の人達の生活の足しにって畑とか作ったなぁ。


「聖女様、今は世間話よりも……」


 と、業を煮やしたお付きのシスターが会話を遮る。


「ああそうでしたね。ラクシさんついて来てください」


 お付きのシスターさんの手前だからか、ちょっとだけ他所行きな言葉遣いのトレーシーさんに案内されて聖地の中を進むと、僕達は機関ブロックへと案内される。


「先の魔人との戦いの後、聖地の全ての機能が停まってしまったの。聖地にいる職員が総出で原因を探したところこの部屋から猛烈な熱が発せされている事に気付いて中を調べようとしたんだけどこの有り様で……」


 部屋の中は半壊していた。といっても何かで壊されたのではなく、部屋の大半が融解していたんだ。


「あー、これは動力炉を過剰に酷使したからですね。でもここまで崩壊してよく聖地が無事ですみましたねぇ。ああ成る程、緊急隔離装置が動いたんだね。これのお陰で外のエリアと分断された全ての暴走エネルギーが機関ブロック内で暴れてこんな事になったのか」


 前世の僕良い仕事したなぁ。

 まぁここまで動力炉を酷使するような使い方は当時もしてなかったから緊急隔離装置が発動する所は見たことなかったけどさ。

 そうなる前に緊急停止してたし。


「どう? 直りそう?」


「うーん、これは無理ですね。完全に溶けて混ざっちゃってます」


「そんな!?」


 僕が修理は無理だと断言すると、お付きのシスターさん達が真っ青な顔になる。


「だから新しく一から作っちゃいましょう」


「ええ!? そんな事できるの!?」


「直すよりは簡単ですよ」


 実際、この動力炉も古い物だしね。材料さえ残っているなら一から作った方がよっぽど楽だよ。


「じゃあ資材室を確認させてもらいますね」


 僕は地下の資材室に行くと、中にある素材をチェックする。


「ふむふむ、結構素材が残ってるね。ところどころ減ってるけど、これは過去に誰かが補修の為に使ったのかな?」


 それでもここに残っている素材を使えば新しい動力炉を作るのは余裕だ。

 それどころかクリムゾングレイルの素材としても申し分ない。


 あっそうだ。溶けた動力炉も溶かし直して材料を分離すれば再利用できるね。

 よかった、これなら予定していた武器を作る事が出来そうだよ!


「ともあれ、今は新型動力炉の開発が優先だね」


 ◆トレーシー◆


 ラクシさんが来てくれたお陰で、聖地を修理する目途は立ったわ。

 ああ、聖女に任命された時はどうしたものかと焦ったけれど、お陰でこうして力を合わせて人類の危機を乗り越えることが出来るのなら、これも悪い事ばかりじゃないわね。

 というか正直お手上げだったもの。


「ですが、本当にあんな子供に聖地を直す事が出来るんですか?」


 安堵する私とは裏腹に、聖都から送り込まれてきたお付きのシスター達がラクシさんに懐疑的な視線を向ける。


「不敬ですよ。以前も聖地を修理したのは彼女だと言ったでしょう」


 以前から聖地に居た者達なら誰もがラクシさんの圧倒的な技術を目の当たりにして彼女の凄さは理解していたのだけれど、彼女達は違う。

 彼女達は聖都の各教会から私が、正しくは主神の教会が聖地を私物化しないように送り込まれた見張り役なのよね。


 といっても、そもそも聖地を私物化していたのは他の教会の方なんだけど。どの口が言うのかってやつね。

 本心は各宗派間の力関係が大きく崩れ、信仰というよりも権威が主神様に集まるのが怖いんでしょう。

 だからラクシさんの成し遂げた事を己の目で見なかった者達は話では伝え聞いてもその事実を理解しようとしないのよね

 自分には理解できないものを理解したくないって。


「どうでしょう、さっきも訳の分からない事をブツブツと気味悪く呟いていましたし」


「きっと私達が分からないからとそれっぽい事を言ってごまかしていたんですよ」


  やれやれ、神に仕える者が他人の揚げ足取りに必死とは、ホントに嘆かわしい。

  でもまぁ、余計な事をされないだけマシね。


「それにこの件が見事解決すれば、私の念願も果たされるしね」


 ふふふ、楽しみだわ。


 ◆


「直りました!!」


「は?」


 日も暮れてきて、そろそろ夕食の準備が終わろうという頃、ずっと聖地の動力炉なるものに籠っていたラクシさんが姿を見せるなり開口一番そう言った。


「直ったって……」


「動力炉がです」


「も、もう!? ででででもあの部屋一面大惨事になっていたわよ!? あまりにも硬すぎて溶けた金属を撤去する事も出来ないと職人達が匙を投げてたくらいなんだから!?」


「そ、そうです! こんな簡単に解決する訳がありません! デタラメもいい加減にしなさい!」


「私達を騙そうとしているのでしょう!」


 唐突なラクシさんの言葉に戸惑った私だったけれど、すぐに私の言葉に便乗して騒ぎだしたシスター達を見て冷静な気持ちを取り戻す。


「貴方達言い過ぎですよ!」


 しかしヒートアップした彼女達は止まる気配を見せない。

 いけない、このままだとラクシさんの心証が悪くなるばかりだわ。

 壊れた聖地の問題を解決するには彼女の協力が必要不可欠なのに。

 動力炉は直してくれたみたいだけど、あれだけ激しい戦いがあったんだもの。他の部分だって問題があるかもしれないんだから。


「では説明を兼ねて動力炉を見に行きましょう」


「え? あ、そうね」


 そうだったわ。速さはともかく直してくれたんだもの。それを確認できれば彼女達も文句の言いようがない筈。

 私達はラクシさんについて動力炉にやってきた。


「……うそ」


 そこを埋め尽くしていた溶けた金属の塊はどこにもなくなっていた。


「凄い、あの溶けた金属が全部なくなっている」


代わりに以前にはなかった、見た事も無い恐らくはマジックアイテムであろう装置がいくつも設置されている。


「ラクシさん、あれが……」


「はい、聖地を再起動させる為の新しい動力炉です」


 予想通り、あの装置は聖地を動かす為のマジックアイテムだった。


「どうやって動かすの?」


「トレーシーさん、装置のこの部分に手を当ててください」


 私は言われた通りに装置の平坦な面に手を当てる。

 するとラクシさんも横の平坦な面に手を当てて小さく呟く。


「システム起動、権限付与、権限内容、起動、停止、出力調整」


 ラクシさんの言葉と共に私が手を当てた平面に光が水の波紋のように現れる。


「終わりました。トレーシーさん、ウェイクアップと唱えてください」


「う、うん。ウェイクアップ!」


 するとブゥゥンという音と共に目の前の装置の表面に幾つもの光が浮かび上がる。


「これで聖地は再起動しました」


「こ、これで? 随分と簡単に治ったのね……」


 もっとこう、初めて聖地が起動したときのようにゴゴゴゴッってなると思ってたんだけど。


「旧式だった部分や劣化した部分を一新しましたからね。前みたいに劣化した部分が原因の異音はもう鳴りませんよ」


「劣化した部分が原因の異音?」


「ほらあれです。古い家の建付けの悪いドアみたいなものです。開けるとギギギて音がするでしょ。アレと同じです」


「あれって建付けが悪くなってただけだったの!?」


 聖地が目を覚ました音だと思ってたのに!?

 その時だったわ。突然不安を掻き立てる様な異様な音が鳴り響いたの。


「な、なに!?」


「センサーに反応があったみたいです。魔人達が攻撃を再開したんでしょう」


 急いで外に出ると、魔人の要塞、そして灰の従魔獣と呼ばれた怪物達が聖地に向かってくるのが見えたの。


「そんな、こんな時に!」


「丁度いいですね。聖地の防衛装置の試運転といきましょう」


「でも他の場所はまだ直せてないんでしょう? 動力炉が治っても他の場所が古いままだったら……」


「ああ、そっちも全部直しておきましたよ」


「え? 全部?」


「はい。防衛装置も聖地の運営システムも全部直しておきました」


「えっと、そうなんだ……」


 え? 全部直した? でもラクシさんが来てからほんの数時間しか……


「あっ、そうか、他の場所はたいして壊れてなかったって事ね!」


「いえ、防衛装置の何割かは連続戦闘の影響で壊れていましたね。他にも防御装置にかなり負荷がかかっていたのでかなり危なかったですよ。他にも問題が無数にあったので全部直しておきました」


 そっかー無数にあったかー。それを全部直しちゃったかー。どうやってよ!!


「トレーシーさん、新しい防衛装置はトレーシーさんを主として登録しましたから、今後は神器を使わなくてもトレーシーさんの命令に従います」


「え? 神器いらないの?」


「はい、いりません。ガーディアンシステム起動と言うだけで敵を攻撃してくれます。さぁ、行ってみてください」


「そ、それじゃあ、ガーディアンシステム起動!」


 するとウィンウィンという音と共にガコンガコンという音と小さな振動が響くと、不思議な声が聞こえて来た。


『敵勢力ロックオン。空中、魔人族飛行要塞、地上、大型魔獣をターゲットロック』


「あとは攻撃開始といえば攻撃してくれます」


「こ、攻撃開始!」


『攻撃を開始します』


 次の瞬間、シュパッという鋭い風霧音と共に無数の光が四方八方に放たれた。

 そしてその先に居た魔人の空飛ぶ砦や巨大な魔獣達が……消滅した。


「……え?」


 きれいさっぱり消えた。

 さっきまで空や地上を覆っていた巨体が消え去り、残ったのは青い空と茶色と緑の大地。


「え?」


 うそ、前の戦いじゃ長い時間打ち合っていたのに?

 今の一瞬で敵を全滅させたの?


「うん、悪くない出来ですね」


「悪くない出来!?」


 最高傑作とかじゃなくて!?

 けれどラクシさんは平然とした様子で周囲を確認するとうんと頷いただけだった。


「今回はマニュアル操作で逐一指示を出しましたが、オートモードと指示を出せば自動で攻撃や防衛を行ってくれます。自分で操作したい場合はマニュアルモードと言えば細かい指示が出来るようになります」


「う、うん、わかった」


 こうして、聖地最大の危機は半日もかからず終わったのだった。

 そしてラクシさんは報酬として資材室から必要な物資を回収すると、私達の目の前から一瞬で消え去ったのだった。


「「「「「ひ、人が消えた!?」」」」」


 人が目の前で消えてパニックに陥るシスター達。

 正直私もおどろいたけれど、あの時からずっと驚き続きでまぁラクシさんなら消えてもおかしくないかと思うようになっていた。


「嵐のように去っていったわねぇ」


 残っているのは静寂だけだ。

 さっきまであれ程ラクシさんの事を疑っていたシスター達も、今となっては彼女を疑うどころではない。


「とはいえ、これなら何の憂いも無く作戦を実行できるわね」


 聖地をオートモードにした私は、職員に引継ぎをお願いするとシスター達を引き連れて急ぎ聖都へと戻る。


「お待ちしていました」


「お久しぶりですフォカ様」


「既に準備は整っています」


 そして私を待っていたフォカ様と合流すると、主神様の神殿へと向かう。

 そこには我が神殿の神殿長だけでなく、他の神を祀る神殿の神殿長の姿もあった。


「ああ、無事でよかったわトレーシー」


神殿長は戻って来た私達を出迎えてくれたけれど、他の神殿長達は憮然とした表情のままだ。

まぁ私達主神の神殿に活躍を持っていかれた形だもんね。


「貴方が無事戻って来たという事は……」


「はい、彼女が力を貸してくれました」


 神殿長に促され、聖女の席へと付く私達。

 シスター達はあくまでお付きなので席に座る事は無く私達の後ろに立つ。

 彼女達は奇跡の証人だ。


「それでは聖地の復活と魔人達の戦力の殲滅の報告、そして聖地を復活させたシスターラクシの……聖女推薦についてお話をさせていただきます!」


 そう、ラクシさんの聖女推薦。

 これこそが私とフォカ様の真の目的!

 聖地を直し、蘇らせた一連の事件の真の立役者!

 彼女の偉業こそ、本当に讃えられるべき出来事!


 そしてなし崩しで聖女にされた私の精神的負担を! 彼女にも引き受けて貰うのよ!

 だってそうでしょ! 私は本当に普通のシスターなんだもの! 聖女なんて柄じゃないのよホントに!


「ではまずは私から」


 と、フォカ様がラクシさんの成した事を語り始める。

 元々この計画は彼女が提案してきたものだ。

 この方もまた、過去にラクシさんと出会い、その功績を正しく讃える事が出来ず悶々としていたのだという。

 そして私の聖女任命を機に、ともに真の立役者であるラクシさんが正しく評価されるように手を回すべきだと提案してきた。

 勿論私は二つ返事で引き受けた。


 幸か不幸か聖地は先日の戦いで本当に壊れてしまっていたし、聖都と聖地の職人達でももう無理だと匙を投げた事で、この状況を解決できればその人は聖人認定確実と言われていたのだから。


 このビッグチャンスを逃す手はないわ!


「次は私が聖地で起きた出来事をご説明します。後ろのシスター達は私と同じものを見聞きした証人として連れてきました」

 

 さぁ、一気に畳みかけるわよ!


「そしてラクシさんは私達の目の前から忽然と姿を消したのです。まるで最初からいなかったとでも言わんばかりに」


 私が語り終えると、各宗派の神殿長達は自分達が送り込んだシスター達に半信半疑の視線を送る。


「本当なのかね?」


「ほ、本当です! 本当に人が目の前で消えたんです!」


「一瞬だったんです! パッと消えたんです!」


 シスター達は自分が見たものを必死で神殿長達に説明する。

 その語り口は説明というにはあまりにも稚拙だったけれど、彼女達の監視役としての普段の立ち居振る舞い、そしてあまりにも必死なその様子から、神殿長達はただ事ではないと察する。


「私が思うに、彼女は神が遣わした本当の聖女なのかもしれませんね」


 そう呟いたのはフォカ様だ。


「本当の聖女だと?」


「ええ、今のように教会の泊付け、権威の為ではない、古の時代に自然と呼ばれるようになった超常の力を持つ頂上の存在。今回起きた出来事は全て、我々に只人には成し得ない出来事でした。それこそ、人知を超えた存在でもなければ」


聖女の名を持つフォカさんの言葉には実感が籠っていた。


「聖地を行動不能に追い込むほどの魔人達の猛攻を受けた聖地をほんの数時間で修理し、あまつさえ一撃でそれらを殲滅するなど、とうてい私達には出来ない事でしょう?」


 その意見には同意しかない。


「そして私共の、聖都の影響が及ぶあらゆる教会が調査をしたところ、ラクシという少女は偽名の可能性も含めてどこにも同じような外見の少女は居ませんでした。どこにもです」


 教会が調査、そんな事をしていたのかと驚いたけれど、でもよく考えれば今の聖都の教会ならそんな俗な事をしていてもおかしくないか。

 そして神殿長達はフォカさんの言葉に苦々しい顔をして、誰も彼女の素性を探る事は出来なかったと言外に認める。


「ならば彼女は私達人間の思惑の埒外の存在なのでしょう。恐らくは己が役目を終えて神の御許へと帰還されたのでしょう。さて皆様、そんな彼女の聖女認定に反対される方はいらっしゃませんよね?」


 こうして、この時代に三人目の聖女が生まれたのでした……やったわ! これで私の負担も減るってもんよ! 

フォカ( ´ ꇴ ` )「やったわ! 遂にレクス君を聖女認定できたわ! 女の子の方だけどどっちも本人なんだし、問題ないわよね!」

トレーシー(ノ˶>ᗜ <˵)「ふふふ、これで聖女の重責が私以外にも分けられるわ!」

モフモフ ᐡ ˙ - ˙ ᐡ「いやー、本人は行方を晦ましてるし、どのみち負担は変わらないのでは?」

トレーシー(;゜д゜)「なん……だと……!?(←気付いていなかった顔)」


面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=625182565&s ツギクルバナー N-Star連載「商人勇者は異世界を牛耳る! ~栽培スキルで武器でもお宝でもなんでも栽培しちゃいます~」
 https://ncode.syosetu.com/n5863ev/

魔法世界の幼女に転生した僕は拗らせ百合少女達に溺愛されています!?
https://ncode.syosetu.com/n6237gw/

― 新着の感想 ―
>「私が思うに、彼女は神が遣わした本当の聖女なのかもしれませんね」 ここまでくると、レクスの正体が本物の神々の内の一柱であっても良さそうな気がしてきた。
ヘルプとか研修系のコマンド的なものも教えて行ってさしあげてもろて まぁそりゃ居らん人には責任の分けようがないwまさかの名誉職だw
やっぱり聖都での良い思い出は作れないみたいだ笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ