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二度転生した少年はSランク冒険者として平穏に過ごす ~前世が賢者で英雄だったボクは来世では地味に生きる~  作者: 十一屋 翠
人魔戦争編

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345/355

第345話 武人の誇りと天翔ける決死隊

作者_(:3 」∠)_「遂に345話です!」

ヘルニー(┐「ε;)_「ヒュー!語呂がいいー!」

ヘイフィー_:(´д`」∠):_「今回は久しぶりにちょい文字数多めですのでまったり読んで頂ければと」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

 ◆雪之丞◆


「「「ううーむ」」」


 砦では我が天峰皇国の家臣達が雁首揃えて唸っていた。

 というのもある日突然空に魔人の姿が浮かび上がったかと思ったら突然宣戦布告をおこなってきたからだ。

 しかもその直後に空飛ぶ砦と巨大な魔獣に襲われ、瞬く間に町は火の海となり城は破壊されてしまった。

 いきなりあのような目に遭わされては、今のは何の冗談だと笑い飛ばす暇も無かった。


 幸い、我が国は少し前に国中が騒動のさ中にあり、その事件の黒幕が魔人であった事を知っていた故、迅速に対応する事が出来た。

 急ぎ民を引き連れほうほうの体で近隣の砦へと逃げ込んだのだが、この先どうしたものかと誰もが頭を悩ませていたのだ。


「地上の魔獣はまだよい。凄まじい強さだが、地を歩く故に兵達が命懸けで戦えば民を逃す事が出来る」


「だが空飛ぶ砦、あれは駄目だ。こちらの弓も術も全く歯が立たん。というか届かん」


「左様、どれほど堅固な城壁も無意味。まさかあのような恐るべき兵器が存在するとは」


「若、いや将軍様より魔人の実在を知らされ対抗する為に日々兵を鍛えて来たというのに、なんとも情けない」


 家臣達は魔人の尖兵に手も足も出ない事に溜息を漏らす。


「落ち込んでいる場合ではない」


 そんな家臣達を一喝したのは兄上だった。


「敵は手当たり次第に空から町や村を攻撃しておる。連中の行動には容赦がない。完全に根切りにするつもりだ。現に民が逃げ込んだ森も燃やされた。これではそう遠くないうちに我が国は焦土と化すだろう」


 そうなのだ。後々町や砦を利用するつもりならなるべく壊さず制圧しようとする為、こちらも耐えようがあるのだが、魔人共の攻撃は容赦がなかった。我々人族を支配するつもりもないのだろう。文字通り破壊の限りを尽くしておった。


「問題は海だな。あの空飛ぶ砦がある限り民を外に逃がす事が出来ん」


 この国はもうダメだ。ならばせめて民だけは海の向こうの大陸に逃してやりたいが、空飛ぶ砦は国中の船を港諸共上空から破壊して回った。

 海の上は隠れる場所もない故、船はなす術なく沈められたという。


「だが、手がないわけではない」


 余の言葉に家臣達が顔を上げる。

 兄上と叔父上は余の言いたいことを既に理解しているのであろうな。


「あの者達ならば……なんとかしてくれる筈だ」


 余の脳裏にあの娘の姿が浮かぶ。

 ミナ、麗しき異国の娘。比類なき術の使い手。

 そしてミナの仲間達なら、あの空飛ぶ砦と地上を闊歩する魔獣の群れをなんとかしてくれるに違いない。


「おお、あの異国の者達ですな!」


「聞いた事がありますぞ。炎の刃を操る天狗小僧といえば多くの町や村で涙する娘達を虜にしたと聞いております」


「確か斗騨の姫を救ったのも天狗小僧とか」


「癒しの技で多くの人々を救った麗しき娘もいたとか」


「いや男子ではなかったか?」


「いや、あれは女人であろう」


「その為にも空飛ぶ砦の包囲を抜ける必要があるでしょう」


 話題が脱線を始めたところで叔父上の威厳ある言葉が場を鎮める。

 やれやれ、こうしたところはまだまだ叔父上には叶わんな。


「かの者達の力を借りる為にも、我等は大陸に向かわねばなりません。そしてそのためにはあの船を使わねば」


「あれか」


 叔父上の言うあの船とは、ミナの仲間であるレクスが作った空飛ぶ船だ。


「確かにあの船があれば包囲を抜ける事が出来るだろう」


 国中の船を破壊された現状で、唯一残ったのがあの空飛ぶ船だ。あの船だけは空を飛ぶことから普通の港にはおけず、帝のいらっしゃる隠れ里で研究を兼ねて隠してあったのが幸いした。


「いえ、空飛ぶ船は囮に使います」


「何? 囮だと?」


「空飛ぶ船は囮にし、海を越える事の出来るギリギリの小ささの船を使います。船員以外は風と水の術の使い手を乗せ、追い風と水流の術を使い。全力で外洋に逃げます。小型の船を青色に塗ればいかに空飛ぶ砦と言えど発見は困難でしょう」


「待て待て、それ以前に船は全て沈められておるぞ!」


 家臣達がそれ以前の問題だと兄上を諫めるが、兄上は否と首を振った。


「叔父上」


「うむ、あれを使うのじゃな」


「兄上、それに叔父上、あれとは一体?」


「うむ、実はわが国にはこういう時の為に隠された秘密の港があるのだ」


「そんなものがあったのですか叔父上!?」


 なんと、いつの間にそのようなものを!?」


「うむ、絶壁の亀裂に出来た穴を利用した隠し港だ。いかに空飛ぶ砦と言えど空から見えぬ場所に隠されていては発見は出来まい」


「というか将軍家直系の男児であるおま、殿は先代から教えられている筈ですぞ」


 え? そ、そうだったか? 何分昔のことでよく覚えておらぬな……


「と、ともあれ寧ろこの状況は好機だ。空飛ぶ船を囮とし、隠し港の船で秘密裏に出る!」


 よし、これならば魔人達の眼を掻い潜る事が出来る!


「では船には殿が乗って頂きます」


「何っ!?」


待て、何を言っておるのだ兄上! 将軍が民を捨てて逃げられる訳がなかろう!


「殿は我が国の二つの象徴の片割れにして旗頭。将軍家直系の血を絶やす訳にはいきませぬ」


「それを言ったら兄上とてそうであろう!!」


「いや、私は空飛ぶ船に乗って囮になる」


兄上が囮だと!? 馬鹿も休み休み言え!


「敵を騙すにはこちらも本気で挑まねばなりませぬ。唯一存在している空飛ぶ船で逃げるふりをするならば、将軍家の血筋の者が乗っていなければ敵も罠を疑いましょう」


 それは、道理だが……


「我等は決死の覚悟で挑みます故、どうか殿は落ち延びてください」


「ならぬ! ならぬぞ兄上!」


 兄上は過去の負い目から己を犠牲にしようとしている。

 だが、それではせっかく助かった命が無駄になってしまうではないか!


「いい加減にせんか雪之丞!」


「「「「「っっっ!?」」」」」


 叔父上の一喝に心胆が震える。


「お主は将軍となったのだ! 己の役割を違えるな!!」


「っ! ですが叔父上……」


「将軍は民を導くために絶対に不可欠な象徴! 失われる事はあってはならぬ! 二度とだ!」


二度と、という言葉に余の胸が痛む。

そうだ、前将軍である父上は……


「やらせてやれ。男がけじめをつけようというのだ」


 叔父上が諭すように余の肩に手を置く。

 だからこそ分かってしまった。余の肩を掴む叔父上の手が、こわばっていた事を。

 叔父上とて納得しているわけではないのだ。

 だが、それ以上に武士として、過去の過ちを雪ごうとしている兄上の邪魔をするわけにはいかないと思っているのか。


「承知……しました」


 このような策は受け入れがたい。だが、それを飲み込まねばならぬのか……

 ああ、人の上に立つことのなんと苦しい事か。



「……ご武運を兄上」


「そなたも必ず生き延びろよ」


 かくして、決死の脱出行が始まる。


 ◆


「出港準備よし!」


「うむ、では空飛ぶ船が敵の注意を引き次第、船を出港させろ!」


 岸壁の亀裂を広げて作られた隠し港では、多くの船員達が慌ただしく動いていた。


「なんだあの色は?」


 船体は船とは思えないような深い青色に塗られ、外から差しこむ光に照らされる海面とはかけらも似てないのだが大丈夫なのか?


「それにあの乱雑に走る白い線はなんだ?」


「アレは波の線ですよ」


 と、通りがかった船員が余の疑問に答える。


「波? ああそういうことか。ではあの色はなんなのだ?」


「アレは外洋の海の色ですね。海の水は外洋に出ると濃い色になるんです。綺麗な海は大抵浅い海辺の色ですよ」


 なるほどそうなのか。余は外洋に出た事が無い故、初めて聞く話だ。


「邪魔をしたな。仕事に戻ってくれ」


「へい!」


 船員が去ると入れ変わりで叔父上がやってくる。

 だが叔父上はこの船に乗る事はない。本人の望みで国に残り家臣と民の指揮をするとの事だった。


「叔父上、余が居ない間の国を頼みます」


「任せよ。儂と晴臣が残る事で将軍家は民を見捨てぬと皆を勇気づけよう。そしてそなたが戻ってくるまで民を守り抜いてくれようぞ!」


 くっ、逃げる事しか出来ぬわが身が恨めしい。だが今の余は将軍なのだ。感情のままに飛び出す猪武者であってはならぬのだ。


「空飛ぶ船が交戦を始めました! 隠し港から離れてゆきます!」


 遂に作戦が始まった。

 この作戦では位置関係が重要だ。

 空飛ぶ船は魔人達の空飛ぶ砦を引き寄せる為隠し港から離れねばならんが、離れすぎてもいかん。

 連中は我が国の領土を囲うように空飛ぶ砦を配置している。

 そして互いの戦況を見極めながら戦力の増減を行う為、あまり離れていると移動先の空飛ぶ砦が戦いに加わり、持ち場から遠くなった空飛ぶ砦は元の持ち場に戻ってしまうのだ。


「空飛ぶ砦十分な距離まで離れました!」


「よし、出港だ!」


 観測手が空飛ぶ砦が十分に離れたことを確認すると、余の乗った船が隠し港を出港する。


「よし、港から離れた。水術切れ、次いで風術! 船が保つギリギリの風を吹かせろ!」


「「「はっ!!」」」


 術者達が術で追い風を産み出し、船が一気に最高速度を超えて動き出す。

 同時に船体のあちこちがギシギシと不穏な音を立てはじめる。


「まだ大丈夫だ! 空飛ぶ砦から十分離れるまでこの速度を維持! 水術師は船の航行痕を消せ!」


 けれど船長や船員が何も言わないのだから、この不気味な音が鳴り響いていても船は耐えられるのだろう。

 術師達が船尾で海面に術をかけると、船の後ろに出来る白い泡だった海面を鎮め凪のような深い碧色に変えてゆく。

 凄いな、術師とは力を合わせればこのような事も出来るのか。


「よし、いいぞ! 見える範囲の空飛ぶ砦も動く気配はない。隠蔽は効いている!」


 半信半疑だった船の塗装も思った以上に効果があったらしい。

 ともあれこれなら敵に見つかることなく外洋まで逃げられる……と思った時だった。


 ザザァァァァアンン!!


 突然目の前の海が盛り上がり、海中から小山が姿を現す。


「な!?」


 否、それは山ではなく生き物だった。巨大な……


「魔人の魔獣……」


 それは魔人が灰の従魔獣と呼んだ怪物だった。


「進路変更急げ!!」


 ザァァァァァァン、ザザァァァァン、ザザザァァァン!


 しかし魔獣は一匹ではなかった。周囲の海が盛り上がると魔獣が次々と姿を現し、船は逃げ場を無くしてしまう。


「海でも……活動できるのか?」


 まさか、包囲を解いたのではなく、最初からこの魔獣達も海を包囲していたのか?


「か、完全に囲まれちまったぁ」


「空飛ぶ砦から逃れても、この魔獣達が余等を逃さぬ二段構えの包囲だったと言うのか!?」


「ギュルルルルゥ」


 魔獣が船に近づいてくる。空飛ぶ砦対策の偽装もこれほど近ければまるで意味がない。


「とにかく包囲の隙間を突っ切れ!」


「へい!」


 船長の命令を受け、操舵手と魔法使い達が船を動かす。

 狙うは魔獣達の包囲の隙間。だが魔獣達は思った以上に動きが速く、このままだと双方からの攻撃を受けるのは明白だ。


「多少壊れても構わん! 突っ込め!」


「しかしそれだと外洋を航行する事が! この船じゃ致命的ですぜ!」


「構わん! 後で直せばいい!」


「わ、分かりやした!」


「魔法隊、敵に目視されない魔法で反撃急げ!」


 交代要員の魔法使い達が目立たない風や水の魔法で魔獣を攻撃して牽制するが効果は薄い。

 包囲をすり抜ける瞬間、魔獣達の振り下ろした爪がガリガリと音を立てて船を削ってゆく。

 しかし牽制の効果が多少はあったのかなんとか船を破壊される事無く我等は包囲を潜り抜けた。


「よし! いけるぞ!」


「後の事は考えるな! 全力を出してコイツ等から逃げるぞ!」


「「「ヘイ!!」」」


 戦場の誰もが心を一つにして船を加速させる。

 が、そこに絶望の一手が振り下ろされた。


 ザァァァァァァン!


 我等の進む先に、新たな魔獣が姿を現したのだ。


「三重の包囲……だと!?」


「回避ー!」


「無理です曲がれません!」


 魔法で速度が乗っていたのも悪かった。船は回避らしい回避も出来ず魔獣に向かって突っ込んでゆく。


「ギュルゥゥ!」


 魔獣が大きく爪を振り上げ、自分から向かってくる獲物に狙いを定める。


「くっ、ここまでか、すまぬ兄上」


 空で兄上達が必死で戦っていると言うのに、余は何も出来ずに死ぬのか!!

 魔獣の爪が振り下ろされる。

 回避は、不可能。

 こうして、余の人生は実にあっけない幕を引くのであ……


「スピンライズランスッッ!!」


 瞬間、目の前を覆い尽くす影が消えた。

 突如真横から現れた猛烈な勢いで動く物体が魔獣を吹き飛ばし、否、体の半分を消し飛ばしたのだ。

 あった筈の影が消え、目の前に広がるは青空と海原。


「……は?」


 何が起きた? 魔獣はどこに行った? 今の影は何だ?


「み、見ろ! 魔獣の体が吹き飛んでるぞ!」

 突然の事に困惑する余等だったが、いち早く我に返った船員の言葉に遅まきながら状況を理解する。


「今のは魔法か?」


 直前に聞こえたのは恐らくだがなんらかの術。

 だが重要なのはそこではなかった。あの声、あの声を余が聞き間違える筈もない!


「まさか!」


「大丈夫だった雪之丞?」

 

再び聞こえて来た声に空を見上げれば、そこに浮かぶは女人の影。

 肩には天女の如き羽衣を羽織り、手には不可思議な形と輝きを放つ杖を手にするその姿は……


「大丈夫だった雪之丞?」


「ミ、ミナァァァァァァァァッ!!」


 やはりミナ! ミナが来てくれたのだ!


「余の窮地に来てくれたのか! やはり余の事を愛してっ」


「そういうの良いから、反撃するわよ」


「え? あ、はい」


 あまりにもあっさりと流され余の情熱は向かう先を逸らされてしまう。

 そ、そうだった。今は戦いの最中。それに家臣達も見ているのだ。しっかりせねば!

 だがミナが来てくれたのなら……!


「流石に数が多いわね。でもレクスから借りたこれがあれば……!」


 ミナが不可思議な形の杖を構えると、杖の各所にはめ込まれた宝石が奇妙に輝き出す。

 そして魔法を使えぬ余ですら何かしらの強大な力を感じるほどに杖から圧が放出される。


「レイジングボルテックス!!」


刹那、視界の全てが雷神の世界となった。


「な、何だぁぁぁぁ!?」


 無数の稲光りが周囲を縦横無尽に走り回る。


「「「ギャァァァァァァァ!!」」」


稲光りはまるで生き物のように動き回り自分達の縄張りを侵す魔獣達に巻き付き燃やし尽くしてゆく。


「こ、ここは稲妻の国なのか……?」


 稲妻は大神の怒り、神鳴りと呼ばれるがまことであったのか?


「ひ、ひいいい、神様が怒っとるんじゃぁ」


「あわわわわ」


 年寄りの船員達がこの光景に腰を抜かす。

 無理もない。ミナが引き起こした事からなんらかの術であろうと理解している余ですら信じられぬのだ。

 だが、当のミナは平然としたもので……


「え? うそ、何か凄すぎない?」


 普通に戸惑っておった。

 いやその、大丈夫なのだよなミナよ?


 稲光りが全て消え去った海原は悲惨なものだった。

 周囲にいた魔獣達は皆黒焦げになって海面に浮いており、今我々が見た信じられない光景が事実であったと教えてくれる。


「す、凄い……」


「雷を操るなど、あの娘は天の使いなのか?」


「それにあの装い、まことに天女なのでは?」


 船員達が畏れと崇敬の眼差しでミナを見つめる。


「うーん、レクスから教わった新しい魔法とこの杖、ヤバすぎね。ここが何もない海の上で良かったわ」


「ミナ」


 余は目の前の惨状を起こした娘が本当に自分の知っている者かどうかやや不安になりつつも、ミナである事を確認すべく声をかける。


「え? ああ雪之丞、久しぶりね」


「う、うむ」


 良かった。やはりミナだ。


「凄い魔法だな」


「あー、うん。まぁね」


 余が称賛すると、ミナはなんともバツが悪そうな顔になる。


「将軍様! 空飛ぶ船が!」


 余等が微妙な空気になっている時だった。

突然船員の一人が空を見て叫んだのだ。

船員が指さした空のかなたには、黒煙を上げながら墜落してゆく空飛ぶ船の姿があった。


「兄上!?」


 兄上がやられたのか!? いかん、あのままでは地上に墜落して……


「大丈夫。落ち方が緩やかよ。レクスの話だと緊急時には安全に不時着できるように船を守るマジックアイテムが発動するって話だから大丈夫」


「そ、そうなのか!?」


良かった。兄上は助かるのだな。

 いや、船に乗っていた兄上達がどうなったか分からん。

 しかし余は、今の余達は大陸に助けを求めにいかねば……


「じゃ、お兄さん達を助けに行きましょうか」


 だがミナはあっけらかんとした様子で兄上を助けに行くと言い出した。


「いや、この船では無理だ。見つかったら瞬く間に攻撃されてしまう」


「大丈夫よ。レクスからこれを預かって来たから」


 そう言うとミナは懐から取り出した小さな袋から無数の武具を甲板に広げる。


「な!? これは!?」


 小さな袋からこれ程の荷物が!? いやこれは魔法の袋という奴か! しかしこれ程の量が入るものなのか!?


「これはマジックアイテムの武具よ。これがあれば一兵卒でも魔獣達とやり合えるようになるんですって」


「何と!?」


「あとこっちは空飛ぶマジックアイテム。これがあれば飛行魔法で魔力を消費しなくても空を飛ぶことが出来るようになるわ。ちょっとコツが居るけど」


 と、ミナは空中でふわりと踊る様に空を舞う。


「天女様だ……」


 仙人然とした表情で呟くのも納得の美しさ。やはりミナではなく天女なのでは? いやミナこそ天女なのでは?


「さぁ、皆それを装備して! 船に乗っていた人達を助けたら魔人共をとっちめてやりましょう!」


「「「おおーーーーっっっ!!」


 稲光を操り魔獣を倒した天女から憎き魔人と戦う力を与えられた家臣達の士気は高かった。

 なにより、どうあがいても手の届かない空を飛ぶ敵と戦う術を与えられたのが大きかった。


「おおおお! 俺空を飛んでるぞ!」


「凄い! 鳥になった気分だ!」


「見ろ! この剣の威力! 石でできた空飛ぶ砦が豆腐のように切れるぞ!」


「このやろう! 今までよくもやってくれたな!」


「うわぁー!」


「大丈夫か!?」


「あ、ああ。傷一つない。この鎧のお陰なのか……?」


 戦いの流れは一瞬でひっくり返った。

 たった一人の少女と、少女が持ち込んだ武具によって圧倒的劣勢が覆されたのだ!


 更に幸運だった事に兄上達は生きていた。

 ミナの話では緊急時に船員を守る魔道具が起動したのだろうとの事だった。


「兄上達が無事だった。魔人達にも反撃できている! おお、ミナ! やはりお前は余の運命の……」


「はいはい、そういうの良いから本格的に反撃するわよー」


「え、あ、はい」


 だと言うのに、ミナはあまりにもそっけなかった。


「元気出してくださいよ将軍様」


「そのうち良い出会いがありますよ将軍様」


「流石に天女様に求婚は無理ですよ将軍様」


 ワラワラと群がって来る家臣達。


「「「気を強く持ってください」」」


「余が失恋したみたいに言うなぁぁぁぁぁぁ!」


「誰がどう見ても相手にされておらんではないか。いい加減諦めぬか雪之丞」


 くぉぉー! 余は諦めんぞ!


 ◆


こうして我が国は無事魔人の襲撃を乗り越える事が出来た。

ちなみに余談だが、この戦いで八面六臂の活躍を見せたミナは、魔人達と渡り合える武具を授けてくれた事もあって家臣達から天より遣わされた天女に違いないと勘違いされる事になる。

そして後々この時の話を聞いた民達が更に勘違いしてミナを崇拝するようになり、海の天女として漁や航海の無事を祈り、稲光りの天女として雨乞いや豊作を司る女神として独自の天女信仰が始まる事になるのは別の話。

全てを知る余は、ミナが皆に慕われるのは良い事なので真相は黙して語らぬのであった。

晴臣_:(´д`」∠):_「それでよいのか弟よ!?」

雪之丞_(:3 」∠)_「これでいいのだ!」

叔父上(┐「ε;)_「なんか我が国に変な信仰が出来たんじゃがー!?」


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