第334話 巫女の血統
作者_(:3 」∠)_「遅くなってすまねぇ……この時期はホント色々と……」
ヘルニー(´ཀ`」∠)_「そうだね、確定申……」
作者(´ཀ`」∠)_「やめろぉ……
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「神獣様、どうぞお食べください」
人間のオスが我にこんがり焼けた肉を差し出してくる。
「神獣様、こちらもお食べください」
今度は人間のメスが味の付いた魚を差し出してくる。
うまーっ、我に傅く人間からの捧げ物と思うと猶更美味く感じるぞ!
「神獣様」
「神獣様ーっ」
「「「我等の救い主、神獣様!!」」」
うむうむ、よきに計らえ。
我は神獣であるぞ! はっはっはっはっ!
◆
さて、何故こんな事になっているかと言うと、それは少し前に遡る。
我は甘美なる血の匂いに呼ばれ、大型の魔物から今にも食われそうになっている人間のメスを奪い取ったのだ。
偶然舐めたその人間のメスの血は驚く程甘く芳醇で、我は一口で喰い切るのはもったいないと考え、その人間のメスに巣まで案内するように命じたのだ。
「はい、分かりました神獣様!」
そして何故か、通じる筈のない人間のメスの言葉を聞いたのだった。
「んん? 待て、お前今我の命令に返事をしたのか?」
「はい!」
また答えた。これは偶然か?
「人間のメスよ、お前の名前は何という?」
「私の名前はオーリエと申します神獣様」
むむ、名前に対する問いかけにも答えた。いや、これは我と言う偉大なる存在に敬意を示す為に自主的に名を名乗ったのかもしれぬ。ならば……
「我の言葉が分かるお前は一体何者だ?」
これならどうだ。我の言葉を理解出来ねば、我がこんな質問をしたとは思うまい。
「私は何者か、ですか? 私はこの近くにある村で巫女をやっております」
答えた! やはりこの人間のメス、オーリエは我の言葉を理解しているのか!
「巫女だと? なんだそれは」
「巫女とは神と人の間を取り持つ者です。神に祈りを捧げ、神託を賜り民を導く存在が巫女です。まぁ私は一度も神託なんて賜った事ないんですけどね。あっ、別に神様を信じていない訳じゃないんですよ神獣様! たんに私が未熟者なだけで」
成程、オーリエは神とやらに仕え、民を従える群れの中で長の右前足の様な存在と言う事なのだろう。だが……
「ふん、自分の命を誰か分からん奴の手に委ねるなど愚か者のする事だな。我には理解できん」
そうだ、自分の命は自分のもの。ならば選ぶ自由も自分のものだ。
それを他人に委ねてどうする。万が一それが原因で碌でもない目に遭っても誰も助けてくれんのだぞ。
「神獣様はお厳しいですね。確かにその通りなのですが、私達は弱いですから、どうしても頼れるものを求めてしまうのです」
そして今は我を頼っているという訳か。ご苦労な事だ。
……しかし、都合がよくもあるな。
コイツの巣に行けば、そんな風に自分で自分の命を決めれない者達で溢れているのか。
この娘のように、美味な血を持っている可能性が高い人間達の血が。
くくく、これは面白くなってきたぞ。
「それで? その巫女が何故魔物に襲われていたのだ? 神とやらは助けてはくれなかったのか?」
「それが……」
とオーリエは言葉を詰まらせる。
なにやら言いづらい事情があるようだ。
しかし我には関係ない。
「答えろ。神獣の命令だ」
するとオーリエは観念したかのように事情を話し始めた。
要約すればこうだ。
何者かに村を襲われた。
そいつ等はオーリエを狙っていた。
なんとか逃げる事は出来たが、代わりに魔物に襲われて危うく食われるところだった。
「助けを求めに行く最中で魔物に襲われた時はもうダメかと思いました。神獣様のお慈悲に感謝いたします」
「うむ、感謝するが良い」
「それで、その……もう一度だけ神獣様のお慈悲に縋りたいのですが……」
と、オーリエは図々しい事を言い出す。
「ふむ、我は寛大だからな。聞いてやろう」
「っ!! ありがとうございます神獣様!!」
我が聞いてやるというと、オーリエは心からの喜びを感じさせる声を上げる。
くくくっ、人間とは無邪気なものだな。
「私は村の皆が逃がしてくれたお陰で逃げる事が出来ました。ですからどうか村を救う為、領主様の所まで連れて行ってください!」
「うむ、断る!」
「ありがとうござ……え?」
一瞬、断られた事に気付けなかったオーリエは、餌を強請る雛のように口を開けて間の抜けた声をあげる。
「断ると言ったのだ。我がそんな事をする義理はない」
「え!? で、でも、さっきは聞いてくれると!?」
「うむ、言ったな。聞いてやると」
だが、と我は言葉を区切る。
「我は聞くと言っただけで叶えてやるとは言っていない」
「え、ええーっっ!?」
くははははははっ! 希望に満ちていた人間の顔が絶望に染まるのは気分が良いな!
「そ、そんな……」
オーリエが絶望に染まった声でへたり込む。
ふん、まったく愚かな奴よ。何故赤の他獣の我がお前達食料の願いを聞いてやらねばならんのだ。
お前達は絶望と共に我に喰われるのがお似合いの餌よ!
「さて、それでは行くぞ」
「……行くってどこへ……ですか?」
「決まっている、お前の巣だ」
「……え?」
「先ほど命じたではないか。お前達の巣に案内しろと。そしてお前もそれに応じただろう?」
「そ、それは神獣様にお会いした興奮でつい……でも村は盗賊に襲われて……というか助けてくれないんじゃ……」
オーリエは何もかもが分からないと目を白黒させて言葉を詰まらせる。
ははははっ、愉快愉快!
「まだ気づかんか? たかが人間の群れ程度、我にとって敵ではない。領主とかいうのに助けを求めるよりも、我が直接手を下した方が早いというものだ!」
そう、何ゆえ我が人間に助けを求めねばならぬのだ。
そんな事をせずとも我が直接手を下せばよいだけのこと。
あと人間が右往左往する光景を見たかったからからかっただけだ。
「神獣様!!」
オーリエが希望に満ちた声で我に縋って来る。
人間の表情はよくわからんが、きっと歓喜に満ちた顔をしているのだろうな。
それが我によって無残に踏みにじられるとも知らずにな!
「はーっはっはっはっはっ!」
「神獣様―っ!」
という訳で我はあっさりと人間の巣を襲った連中をぶっ飛ばし、こうして救い主として崇め奉られていたのだった。
ふっ、我ながら無敵すぎて怖いな。
「神獣様、この度は村を救ってくださってありがとうございます。村の巫女として、村の者を代表してお礼を言わせて頂きます」
「うむ、くるしゅうない」
結果から言えば、オーリエ以外の人間の言葉は理解できなかった。
どうもオーリエは、一族の中で特別な立場らしい。
とはいえ、この巣の人間達の鳴き声からは我に対する尊敬や感謝の念、そして喜びを強く感じる事が出来た為、恐らくはオーリエと同じ血が薄いながらも流れているのだろう。
それはつまり、オーリエと同じ血を得る事が出来るという事だ。
村の中からオーリエと同じ才能の持ち主が生まれれば、オーリエでなくともその血を楽しむ事が出来る可能性が高い。
特に肉が期待できる。
くくく、この村は我の為の美食牧場となるのだっ!!
ははは、はーっはっはっはっはっ!!
モフモフ_Σ(:3 」∠)_「ふははははは! 我! 絶好調!!」
賊だったもの(┐「ε;)_「見ていて不安になる旗の乱立ぶり……」
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