第327話 父との再会?
作者(:3)∠)_「そろそろ引っ越しの準備しないと」
ヘルニー(┐「ε:)_「夜逃げ?」
作者(:3)∠)_「ちゃうわ」
ヘイフィ(´д`」∠):_「引っ越しは各種手続きが多くて面倒だよね。それだけで一日使っちゃう。しかも引っ越し後の手続きもあるから……」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
◆リリエラ◆
ゴーレムに追いかけられて皆と逃げてきた私たちは知らないおじさんに出会った。
「リリシェーラ! 来ていたのか!?」
リリシェーラって誰? 私はリリエラだよ?
「それにこの姿、まさかアレを付けたのか!? はははっ! ちゃんと子供になっている! やはり私の研究は完璧だ!!」
何? 何を言ってるのこのおじさん? なんか怖い。
「おじさん誰?」
「なっ!?」
私が聞いたら、おじさんすっごくショックを受けちゃったみたい。
もしかして昔あったことあったのかな?
「わ、私だリリシェーラ! お父さんだよ!!」
ええ!? 何言ってるのこのおじさん!? 私のお父さんと全然ちがうよ!
「違うもん! 私のお父さんはもっとおっきいもん!」
お父さんはお仕事が大変だから、すっごく逞しいんだよ!
「な、なんという事だ、この頃のリリシェーラは暫く会わないうちに私の事を忘れてしまったリリシェーラなのか……良いかいリリシェーラ、私は君のお父さんだよ」
「ちーがーうー! 私はリリエラ! リリシェーラじゃないよ!」
もしかしてこのおじさん、私をリリシェーラって子と間違えてる? 失礼しちゃうわ!
「ああ、リリシェーラはまだ自分の名前をうまく言えないのか。リリエラじゃなくてリ・リ・シェ・ー・ラだよ」
あーもー! このおじさん、ぜんぜん私の話を聞いてない!
「しかし何故お前がここに? 一人で来たのか?」
「私はお母さん達と来たの!」
こうなったらお母さん達に私はリリシェーラって子じゃないって言って貰わないと!
「何!? マリュエラも来ているのか!?」
お母さんも来てると言ったら、おじさんは私だけじゃなく、お母さんの名前まで間違える。
「違うもん! お母さんはマリエルだよ!」
「はははっ、リリシェーラにはまだマリュエラの名前を発音するのは難しいか」
だめー! この人ぜんぜん私の話聞いてない!
「よし、それじゃあ二人でお母さんを迎えに行くか。ふむ、マリュエラは総合転移区画だな。よし、行くぞ」
行くってどこに、と私が聞こうと思ったら、とつぜん目の前が真っ暗になる。
何々!? ここどこ!?
まわりをよく見てみると、見覚えがあるような……
「あっ、お母さん!」
そしたらなんだかぼんやり光る丸の中にお母さんが居たの。なんだろあの光ってるの?
「おお、マリュエラ!」
同じようにお母さんを見つけたおじさんは、お母さんを変な名前で呼びながら近づいていく。
「え? どちら様?」
お母さんもおじさんを見て誰って顔をしてる。やっぱり知らない人なんだ。
「何を言ってるんだ。私だよハシュドだよ」
「ハシュド……さん?」
やっぱりお母さんは分からないと首をかしげている。
「やれやれ、君までリリシェーラみたいな事を。いや、そんな意地悪をしたくなるのもしかたないか。すまないな仕事ばかりで」
「はぁ……」
ポカーンとしてるお母さんのことを放っておいて、おじさんはなんだかよくわかんないことを言い続ける。ホントなんなのこのおじさん?
「だがもう不安な思いはさせないよ。リリシェーラも子供に戻った事だし、もう一度やり直そうじゃないか!」
「リリシェーラ? 子供に? ……もしかして、貴方がうちの娘を子供にしたんですか?」
「あっ」
マズい、すっごくマズい。
「ああ、研究は成功だ。これでやり直せる!」
「そう、貴方が……」
あわわ、あのおじさん全然気づいてないよ。
私は急いで自分の耳を塞ぐと、すぐにそれが来た。
「なんてことをしたんですかっっっっ!!」
「~っ」
やっぱりお母さんのカミナリが落ちたー!
「人の娘にあんな事をして、一体何を考えているんですか貴方は!!」
「い、いや、それはだね」
「言い訳は結構です!! 大体怪しげなマジックアイテムをばら撒いて無関係の人を子供にするなんて、許される事じゃないでしょう!!」
あ~あ、始まっちゃった。
お母さん、ああなると怖いんだよね。
普段はのんびりしてるんだけど、私がイタズラしたり、お父さんが何かやらかして怒らせると、ドラゴンみたいに怖くなるんだもん。
「……」
お母さんがああなったら何を言っても怒られるから、じっと黙って耐えるしかないんだよね。
という訳で私はそっとおじさんから離れてお母さんの後ろに避難。
私まで巻き込まれちゃたまらないもん。
その間もお母さんのお説教は続いていって、おじさんが言い訳しようとしてまたお母さんを怒らせる。
「おーい、何の騒ぎじゃ」
そしたら暗い所からえっと、ガ、ガン……
「ガンベーのお爺ちゃん!」
「ガンエイじゃ!」
「そうだった。ガンエイのお爺ちゃん」
ちょっと間違えちゃった。
「む? お主戻ってきたのか? じゃが他の小僧共はどうした?」
ガンエイのお爺ちゃんはジャイロ君たちはいないのかってキョロキョロする。
「んーとね、あのおじさんに連れてこられたの」
「何? む……あ奴は」
あれ? ガンエイのお爺ちゃんあのおじさんのこと知ってるの?
「だ、大丈夫だ! その為に私はリリシェーラを子供にしたのだから!」
そしたらあのおじさんがまた言い訳をして、お母さんを怒らせ……
「だからまた一緒に暮らそう! 家族で!!」
いっしょ? 家族?
そしておじさんがお母さんの手をつかもうとした時、バチンって痛そうな音がなったの。
「グァッ!」
そしたらお母さんの周りの光がさっきのぼんやりした明るさじゃなくって、すっごいピカピカしてた。
あっ、あれ魔法だったんだ。多分悪い人をやっつけるヤツ。
「これは、結界か!? 誰がこんなものを!」
おじさんは地面をダンダンって蹴って悔しがってたんだけど、すぐに服の中からキラキラした石の付いた板を取り出すと今度はニヤリと笑い出したの。
「だが結界などこれを使えば! 強制転移起動!!」
手の中の石がピカッと光ったと思ったら、真っ暗だった場所が急に眩しくなる。
「わっ!?」
そーっと目を開けると、周りは明るいお部屋になってた。
でもさっきまで私たちがいた場所じゃないみたい。いったいどこだろう?
周りはさっきまで魔人のおじさんや皆といっしょに居たお部屋みたいに壁に光る模様がピカピカしてて、壁から突き出した小さな柱のてっぺんに凸凹の模様がついてる。
それに周りの床や机の上には沢山の本や物が置かれてて、今にも崩れそう。
「……ここは?」
「私の研究所だ。機材が多く少々手狭だが、ここならその忌々しい結界もすぐに解除する事が出来るだろう」
けんきゅうじょ?
「はははははっ、今日は良い日だ。リリシェーラとマリュエラが来てくれた! 今度こそ、親子三人で仲良く暮らそうじゃないか!!」
そう言っておじさんは楽しそうに笑いだす。
あのおじさん、さっきから何を言ってるの?
あのおじさんは私のお父さんじゃないのに。
やっぱり誰かと間違えてるんじゃないの?
「ね……」
誰かと間違えてない? そう聞こうと思った私だったけど、さっきもおじさんは私の話を聞いてくれなかった。お母さんの話も。
だったら同じことを言っても聞いてくれないと思う。
「だったら私がする事は……」
今も楽しそうに笑って私の事なんてぜんぜん気にしてないおじさんを見ながら、私はなにをしたらいいのか考える。
あのおじさんに何を言っても無駄。
だから私がしなきゃいけないのは、みんなが来るまでお母さんを守る事だ。
とりあえずお母さんはあの結界っていうので大丈夫みたいだから、ちょっと安心かな。
あっ、でも結界を壊せるって言ってたからやっぱ駄目だ。
「ならあとは……」
私はおじさんの後ろにそーっと近づく。
「てーい!!」
そして思いっきり背中を蹴った。
「おわぁっ!?」
「よーっし、今だ!」
私は倒れたおじさんに手をかざして、思いっきり力を込める。
「えーい! 冷たくなれー!」
すると私の手から冷たい風がビューッと飛び出して、おじさんの足を氷漬けにする。
「なっ!?」
よーし、これで動けなくなったよ!
「お母さん、今のうちに逃げよう!」
「あっ」
私はお母さんの手を掴んで引っ張ると、部屋の外へと逃げ出す。
「おっと、そうはさせないぞ」
「キャアッ!?」
後ろからパチンって音がしたと思ったら、突然何かが私達の体に巻きついてきたの。
「なにこれ!?」
ヘビみたいだけどつめたいそれは、私達に巻きついて逃げれなくすると、地面から持ち上げられちゃったの。
わわっ、これじゃ足に力が入らないから蹴ったり出来ないよ。
「いや、驚いたよ。暫く逢っていなかったとはいえ、まさかあれ程魔法を巧みに操るとは。さすが私の娘だ! いや、マリュエラの教育の成果かな?」
「だーかーらー! 私はおじさんの娘じゃないの!」
くっそー、脱出失敗だよ。
「安心しなさい。じっくり時間をかけて、私がリリシェーラのお父さんだと思い出させてあげるからね。さっ、今日は沢山移動して疲れただろう。客間でゆっくり休むといい」
そのまま、私たちは知らないところへ運んでいかれちゃったの。
◆
グランドゲートの追放機能を使った僕達は、リリエラさん達を追ってハシュドのアジトへと転移した。
転移した先は今まで居たグランドゲートよりも明るく、この建物が活動状態にあるという証拠だ。
そして僕達の目の前に、見知らぬ一人の男が立っていた。
コイツがハシュドか!
でもリリエラさん達の姿が見えない。
「リリエラさん達をどこにやった!」
「なっ!? 貴様等何者だ!? いや、どうやってここに!?」
「それを教える義理なんてないわよ! それよりもリリエラ達を返しなさい!」
「返せだと? あの子は私の娘だ! 勘違いも甚だしい!!」
ミナさんの恫喝にハシュドはリリエラさんが自分の娘だから返さないと返してくる。
やっぱりリリエラさんを自分の娘だと勘違いしてるみたいだね。
これはまともな会話にならなさそうだ。こういう時は相手が興味を持つ内容で攻めた方がいいだろう。
「なら質問です。何故貴方は自分の娘を子供にしたんですか?」
「むっ」
やっぱり反応した。ハシュドが研究者なら、自分の研究成果について聞かれたら反応すると思ったよ。
「ふっ、私の研究を知りたいのかね?」
「ええ、とても興味があります。延命や外見を若く見せる技術はよく聞きますが、若返りとなるとその難易度は段違いです」
「いや、延命でもかなり難易度高いと思うんだが……」
いえ、延命だけならそう難しくないですよラミーズさん。
「そして魂を別の若い器に置き換える技術ならともかく、元からあった肉体を逆行させる事は不可能に近いと言ってもいい。どうやったらそんな事が出来たのか、何故そんな困難な研究を目指したのか、非常に気になります」
「魂を置き換えるってのも幻の技術……いや、うん」
事実リリエラさんは体の心も若くなっていた。
特に気になったのは、記憶が完全に肉体相応の年齢になっていた事だ。
若さを取り戻したいのなら、記憶を失うのはデメリットでしかない。
そこが気になっていたんだよね。
でもジャイロ君達や魔人から聞いた話だと、それはハシュドにとって失敗じゃなく成功であるみたいだし。
「っ、ふっ、ふふ……はっはっはっ、そうか! 気になるか! そうだな、そうだろうな! 私の研究なのだからな!」
僕の問いに気を良くしたのか、ハシュドは気分良さげに高笑いを始めた。
「だが流石に研究の詳しい内容については教えてやれんな。私の技術の粋を凝らしたものだからね」
まあそれは当然だよね。僕も前々世では基本的に自分の技術は秘匿していたし、世に出していた技術は一部のパテント申請をしたものくらいだ。
量産に関する設備技術なんか極秘中の極秘だからね。
「だがその理由は教えてやろう! 何故私が人を若返らせる技術を開発したのか、それは……」
「それは……?」
この奇妙な研究に一体どんな理由が……
「不良になった娘を元の優しい娘に戻す為だ!」
「「「「「「「………………は?」」」」」」」
ふりょうになったむすめをもとにもどす?
ええと、どういう事かな?
「こう言っては何だが、私は優秀で評判の良いマジックアイテム技師だった」
僕達が困惑していると、ハシュドが語りだす。
「その忙しさから職場に寝泊まりする事はザラで、家にはなかなか帰れなかったのだ」
「はぁ」
「とはいえ私の家族への愛情に偽りなどなく、貴重な家に帰れる機会には家族をたっぷり愛したものだ」
成程、忙しいけど家族思いのお父さんって事だね。
「しかし、何時からか一人娘のリリシェーラが私に冷たくなったのだ」
優し気な眼差しをしていたハシュドの目が、愁いを帯びたものになる。
「私は衝撃を受けた。私の愛情が足りなかったのかと! 滅多に帰れなかった事が娘の心を閉ざしてしまったのかと! だから私は短い家族と触れ合える時間をより濃密に過ごせるように努力した! だが、娘の態度は軟化するどころか、益々刺々しいものになっていったのだ! そしてついには、私が帰ってきたにも関わらず、夜遅くまで外で遊び歩くようになってしまったのだ! 私が! 帰って! 来たにも関わらず!」
えーっと、それってもしかして……
「単に思春期になった娘さんが年相応の態度になっただけなのにウザ絡みして距離を取られるようになっただけね」
ズバッとミナさんの鋭い言葉のナイフが放たれる。
うん、まぁ、それだよね。
前世でも、一緒に戦った娘を持つ騎士達が同じような悩みを口にしてたっけ。
「さらに妻までもだんだんと冷たい態度をとるようになってきた。以前なら玄関で私を出迎えて抱擁をしてくれたというのに!」
「成熟して新婚気分でなくなったという奴じゃな。あと話の通りならハシュドは育児には協力しておらなんだじゃろうし、まぁ奥方も色々と溜め込んでおったのではないかのう?」
更にガンエイさんの容赦ない口撃が放たれる。
「だから私は考えた! どうしたら妻と娘が昔のように笑顔を向けてくれるのかを!」
「まさか……」
「そう! 娘が不良になったのなら、昔の可愛かった頃の娘に戻して育て直せば良いと考えたのだよ!」
「そんなどうでもいい理由でロディを子供にしたのかーっ!!」
あっ、とうとう耐えきれなくなったラミーズさんが叫んだ。
「どうでもいいとはなんだ! 私にとっては死活問題だったのだぞ! あとロディって誰だ?」
「じゃ、じゃあマジックアイテムを町にバラまいた理由は?」
「完成した子供に戻すマジックアイテムのデータ取りの為だとも。娘に使う前に危険が無いか確認しないといけないからな。その為には幅広いデータを採れる町の市場に流すのが最適だったのだよ」
はい、政治的陰謀とか複雑な陰謀もありませんでした!
なんてことだ。この人は完全に個人的な理由で世の中を混乱に陥れていたのか……
「な、成る程、理由は分かりました。でもそれで僕の仲間達が被害を受けてしまったんですよ。元に戻す方法を教えて貰えませんか?」
これで素直に元に戻す方法を教えてくれればいいんだけど……
「いや、そんなものはないぞ。せっかく可愛い頃に戻った娘を元に戻す必要などないからな」
うわぁ、緊急時の対策を練ってないのか。こうなるともう研究データを手に入れてそこから解除する為のマジックアイテムを作るしかないね。
僕は皆に目で合図を送ると、皆も分かったと頷きを返してくる。
「なら研究データを提供してください。こちらで研究して仲間達を元に戻します」
「ふん、技術者が自分の研究データを渡すと思ったか?」
「思わないわよ。だから力づくでいただくわ」
「いただくぜ!」
「ん、いただく」
ミナさんにつられるように、ジャイロ君とメグリさんも拳や足に属性強化の魔法を発動させて前に出る。
「古代文明の知識を持ったアンデッドが相手とは厄介だが、今回は大物喰らいが居るからな。決して分は悪くない。アイスブレイク!!」
と、ラミーズさんが会話を切って即座に魔法を発動させる。
「高位魔法の無詠唱!?」
ラミーズさんが放った魔法にミナさんが驚きの声をあげる。
でもあれは高位魔法じゃなくて中級の入門用魔法だよ。
「なんの!」
対するハシュドも無詠唱でラミーズさんの魔法を相殺する。
「まだまだ! ……」
ラミーズさんは無詠唱で氷結魔法を連射しつつ、魔法の音に隠すように小さく呪文を詠唱し始める。これは……
「ふん、こんな魔法を何発撃った所で……」
「ロックブラスト!!」
その瞬間、地面が揺れてハシュドの足元から大量の岩の棘が立ち上った。
「ぐわぁぁっ!!」
「ふっ、見たか」
おお、弱い魔法で油断させての意識外からの不意打ちだね。
フェイントとしては定番だけど、だからこそ気を付けないといけない基本の攻撃だ。
ラミーズさんはハシュドが戦闘の素人と気付いてシンプルな罠を仕掛けたんだろう。
「凄い! 無詠唱魔法の連射で相手を足止めして、属性の違う魔法を足元に放つなんて!どうやったらそんな事が出来るの!?」
いやミナさん、貴女も同じ事できますからね?
「ふっ、実を言えばこれには種があるのさ」
しかしミナさんの尊敬の眼差しに悪い気はしなかったのか、ラミーズさんは得意げに手にした杖をミナさんに見せる。
って、あれ? あの杖はもしかして……
「これは封魔の杖という魔法を封じてあるマジックアイテムさ」
「魔法を封じてあるマジックアイテム!?」
「そう。この杖に宝石をはめ込むと、宝石一つに付き魔法を一個封じる事が出来る。宝石によって封じる事の出来る魔法の属性が固定されるのが難点だが、一度封じた魔法は杖から外しても宝石に封じられたままなんだ。だから宝石さえあればいくらでも魔法を無詠唱で使う事が出来るって訳だ」
「凄い! そんなマジックアイテムが存在してたなんて!」
「はははっ、そうだろう、何せこのマジックアイテムはついこの間遺跡で発見したばかりのものだからな! 誰にも知られていない秘宝さ!」
ああ、やっぱり……あれ、前々世の僕が作った奴だ。
魔法を使うのが苦手な子供の為に、自由に魔法を使える杖を作って欲しいって頼まれたんだよね。
ただその子は魔力も少なかったから、あらかじめ魔法をストックする方向で魔法の連発を可能にしたんだけど、よりにもよってそれを授業で使っちゃったから、先生に見つかって取り上げられちゃったらしいんだよね。
幸い、先生の温情で追試に合格すれば退学にまではしないって事になったんだけど、結局どうなったのかなぁ。
うん、マジックアイテムを使ったズルはいけないよね。
どのみちそんなズルをしても、下手に戦闘の成績がよかったら、そのまま魔人との戦いで前線に送られていたかもしれないんだから、寧ろバレたのは運が良かったんじゃないかな?
「しかもそれが巡り巡ってラミーズさんの所に行くなんて、不思議なめぐり合わせだなぁ」
「う、うう、ぐふっ……」
ともあれ、ラミーズさんの魔法の直撃を受けたハシュドはもう戦えそうもない。
このまま放っておけば死んでしまうだろう。
気の遠くなるような歳月を執念で生き抜いてきた相手の割にはあっけない最後だね。
まぁ相手は技術者だから、遺跡探索を行いながら実戦形式で鍛錬を積んできたラミーズさんとは踏んできた場数が違い過ぎるか。
「さて、それじゃあ迷惑なアンデッド野郎は止めだ!」
ラミーズさんは杖に赤い宝石を嵌め、ハシュドへ向けると巨大な炎の塊がハシュドを包み込む。
「アンデッドには火葬が一番だからな!」
「ぐわぁぁぁぁっ!!」
ラミーズさんの魔法が炸裂し、ハシュドの体が燃え上がる。
「さて、問題はこれからだな。犯人が皆を元に戻す方法を知らないっていうんだから、研究資料を見つけて何とかロディ達を元に戻してやらんと」
「それば無理だ。私の研究は私にしか理解できん」
その時だった。何故か燃えるハシュドの向こうからハシュドの声が聞こえて来たんだ。
「何っ!?」
「捕らえろ!!」
その声と共に、ラミーズさんの足元から銀色の蛇の群れが沸き上がり、彼の体を拘束する。
「何ぃっ!?」
「はははっ、油断したな」
燃え上がるハシュドの後ろから現れたのは、驚いたことにハシュドだったんだ。
「ええ!? どういうことですか!? その人はそこで燃えているのに!?」
現れた二人目のハシュドにノルブさんが困惑の声をあげる。
「はははっ、驚いてくれたようだね。私も歓迎にやってきた甲斐があるよ!」
確かにおかしい。
僕は探査魔法を使っていたけれど、二人目のハシュドの反応は感じなかった。
寧ろ感じたのは生命反応じゃなく、空間の歪みの方だった。
つまり、この二人目のハシュドは転移魔法で現れたんだ。
けれどそこはたいして問題じゃない。転移魔法で乱入者が現れるなんてよくある事だ。
このハシュドは何者か、が重要だ。
よく似た他人? いや、そんな風には見えない。あまりにも似すぎている。
何よりこのハシュドからは生命反応を感じる。
だけど普通の人間が何百何千年も生きる事は不可能だ。
けれどガンエイさんの研究していたキメラでもない。
ならこのハシュド達は何者か?
僕は彼等より得た情報から、ある結論に至る。
「そうか、分かったぞ。貴方はアンデッドじゃない。貴方は……ホムンクルスだ!」
「ホムンクルス!?」
「それって古代の生きたゴーレムって言われてる作られた人の事!?」
僕の疑問にラミーズさん達が驚きの声を上げる。
「そうか! ホムンクルスなら可能だ! 長い年月を生き続けるのではなく、無数の自分を作り出して代替わりしていたのか!」
ガンエイさんもホムンクルスなら可能だと納得の声を上げる。
ただ、この手段を使ったとしても、問題はまだ残ってるんだけどね。
「はははっ、察しが良いじゃないか! 流石私の研究所までたどり着いただけの事はある! ならば、ホムンクルスを相手にする事がどれだけ厄介か、分かる筈だ!」
ハシュドがパチンと指を慣らすと、無数のハシュドが転移で現れ、僕達を包囲する。
「な、何だと!?」
「嘘っ、包囲された!?」
「「「「「はははははっ、多少戦いに自信があるようだが、無限の私を前にどこまで耐えきれるかな!?」」」」」
ハシュド達が一斉に僕対目掛けて手を翳して魔法を発動させる。
その姿は一糸乱れぬ連携ぶりで、完全に統率されていた。
「やっぱりおかしい」
「「「「「死ねぇーっ、侵入者!!」」」」」
「ソリッドレイズ」
僕の放った魔法がハシュド達を魔法ごと貫く。
「うーん、どうやってここまで個として成立したホムンクルスを統率しているんだろう?」
「「「「「「「……」」」」」」」
それが、どうにも分からなかったんだ。
「「「「「「って、雑ぅぅぅぅぅぅぅーっ!!」」」」」」
ん? 皆どうしたの?
全員Σ(◎д◎)「もっとちゃんと相手してあげてーっ!」
ノルブ(┐「ε:)_「流れ作業のように倒して……ここは苦戦する流れでは?」
レクス(:3)∠)_「え? だってどれだけ増えても相手は素人ですし」
モフモフΣ(:3)∠)_「せめて敵と認識してさしあげて……しかも疑問の内容が戦況と全く関係な……いやあるのか?」
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。




