第32話 依頼と詐欺師
_:(´д`」∠):_最後まで書こうと思ったけど、過去最大級の文字数になりそうだったので、途中で切ります。
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「お願いです! どうか依頼を受けてください!」
「だから規則で出来ないんですよ」
ギルドに入ってきた僕達の耳に入ってきたのは、そんな会話だった。
会話の主はギルドの窓口職員さんと、見知らぬ男の人で、二人はというよりも男の人の方が興奮しているのか大きな声でまくし立てている。
「報酬だってあるんです!これで受けられる魔物だけでも倒してください!」
「そんな変則的な依頼を受ける事は出来ません。大体貴方の村に出現する魔物は、ランクも数もバラバラだという報告を受けていますし、都合よく特定のランク以下の魔物だけを討伐するなんて無理ですよ。ギルドの規定に従って、正当な報酬を支払えない依頼を受ける事は出来ません!」
なんだかトラブってるみたいだなぁ。
結局その男の人は、仕事を請けてもらえず、肩を落として帰って行った。
「あの、何があったんですか?」
と、リリエラさんが男の人と口論していた窓口の人に聞きに行く。
「ああいえ、たいした事じゃないんですけどね、依頼料が足りなくてウチじゃ仕事を請けれませんって話をしていただけですよ」
「一体どんな仕事だったんですか? あの人かなり切羽詰った様子でしたけど」
「実はあの人、この近くにある村の村長なんですけど、村の畑を荒らす魔物を退治して欲しいって依頼だったんですよ」
「それならさほど大変な依頼じゃないと思いますけど? Bランク以上の冒険者限定が基本の魔獣の森ならいざ知らず、普通の村の護衛なら高くてもDランク相当が普通なんじゃないですか?」
「いつもならそうなんですけどね、最近王都周辺に魔物がやたらと増えてましてね。こないだなんてカイザーホークなんて大物まで王都の近くで討伐されたじゃないですか。それに関係しているのか、人里の近くにまで高レベルの魔物が近づくようになってきたみたいなんですよ」
「じゃあさっきの村長さんの村にも?」
「ええ、村に近づく魔物に高ランクの魔物がちらほら混ざるようになりましてね。最初のうちはちゃんと報酬を支払ってくれていたんですけど、最近はお金がなくなったのか報酬も渋くなりまして。で、今回ついにギルドが指定する報酬額が最低値以下になったんで、仕事を請ける事が出来なくなってしまったんですよ」
「……そんな」
なる程、確かにここ最近王都周辺は魔物が多くなってるって噂だし、それが原因で王都近くの町や村が二次的な被害をこうむっているって訳か。
依頼主は仕事を依頼できず、ギルドも依頼を受ける事が出来ない。
問題は依頼を受けてもらえないという話だけじゃない。
魔物には人間を襲う種族が多い。
となれば、いずれは畑や家畜だけでなく、人間が襲われる可能性があるって訳だ。
そうなれば村の住人達も、魔物から身を守る為に村を捨てる判断をしないといけなくなる。
あっ、なるほど。それでリリエラさん……
「ごめんなさいレクスさん。申し訳ないのだけれど、今日は私別行動にさせて貰うわ」
そういってリリエラさんはギルドから出て行く。
「キュウ?」
モフモフがどうすると言いたげな様子で聞いてくる。
「勿論ついていくさ」
僕はギルドから出て行ったリリエラさんを追いかけていく。
「待ってくださいよリリエラさーん」
「レ、レクスさん!? なんでついてくるんですか!?」
リリエラさんは僕がついてきて驚く。
「だってリリエラさん、さっきの人のところに行くんでしょう?」
「何でそう思うんですか?」
むしろ何でそう思わないと思うのかが疑問です。
「リリエラさん、あの村長さんに昔の自分を重ねたんでしょう?」
「っ!?」
正しくは、昔の、冒険者に依頼する事が出来なくて、捨てる事になってしまった故郷を思い出したんだろう。
だからリリエラさんはあの村長さんを見なかったことには出来ないんだ。
「……そうよ。だって私はその為に冒険者になったんですもの」
家族を救い、故郷を取り戻し、助けを求める人を裏切らない。
「うん、助けを求める人を守るのが、リリエラさんの理想の冒険者だもんね」
「……うん」
「とはいえ、さっきの村長さんはどこに行ったのやら」
「うっ、そういえば……」
どうやら完全に村長さんを見失ってしまったみたいだ。
あの人を見つけない事には、助けるどころじゃないぞ。
「キュウ!」
と、その時僕の頭の上に乗っていたモフモフが地面に飛び降りる。
そして自分の胸をドンと叩くと、僕達に着いて来いといわんばかりに吼えた。
「もしかして村長さんの匂いを辿れるのかい?」
「キュウ!」
自信満々に鳴くモフモフ。
「よし、任せたぞ!」
「キュウウー!」
◆
「居たわ! あの人よ!」
モフモフに先導されて街中を走っていた僕達は、ようやくさっきの村長さんを見つける。
「ねぇそこの貴っ……」
「待った!」
僕は村長さんの元へと駆け出そうとしたリリエラさんを制止する。
「え!? な、何?」
どうやらリリエラさんは気付いていないみたいだね。
「あそこ、あの三人組。あの人を尾けてない?」
「ええっ?」
そう、あの村長さんの後ろには三人の男の姿があった。
一見雑談をしながら歩いているように見えるけど、村長さんが角を曲がると、同じ方向に向かって曲がっていくんだ。
ほらまた同じ方向に曲がった。
「え? もしかして盗賊!?」
リリエラさんが驚きと警戒の声を上げる。
たしかに王都は大きい町だから、そういった犯罪に遭遇する可能性も大きい。
でもちょっと違うような気もする。
「うーん、なんというか、今すぐ犯罪を犯す人間の空気じゃないような……」
「言われてみれば、どちらかと言うと……っ!?」
男達の様子を探っていたリリエラさんの様子が変貌する。
「まさかアイツ等……ううん間違いない! アイツ等だ!」
リリエラさんが突然飛び出そうとしたので、僕は慌てて制止する。
「ちょっ、いきなりどうしたんですか!?」
「アイツ等よ!」
「な、何がですか!?」
リリエラさんが興奮しながら男達を指差す。
「アイツ等なのよ! アイツ等が私達を騙した偽冒険者なのよ!」
「ええっ!?」
まさか、あの三人組がリリエラさん達の村を滅ぼす原因になった偽冒険者達だって!?
「それ、本当なんですか!? 見間違いとかじゃなくて!?」
「間違いないわ! 格好も変わって多少、年を取っているけど、間違いなく私達を騙したあの偽者よ!」
そう言うや否やリリエラさんが再び飛び出そうとする。
「離してよ! アイツ等を捕まえないと!」
「今捕まえても証拠がありませんよ! ここで暴力沙汰を起こしたらリリエラさんが捕まっちゃいますって!」
「でもアイツ等絶対あの人を騙すつもりよ! 私達を騙したみたいに!」
「っ!」
ああそうか。リリエラさんは自分達が騙されたからという理由だけじゃなくて、あの村長さんとその村が自分達の村と同じ目に遭わないように彼等を捕まえようとしていたのか。
「……だったら、なおさら今捕まえるのは駄目です」
「それじゃああの人が被害に遭うのを見ていろって言うの!?」
「その通りです!」
「はぁ!?」
リリエラさんが何を言い出すのかと目を丸くする。
「良いですかリリエラさん? 今捕まえてもまだ相手は犯罪を行っていないんですから、捕らえても衛兵に突き出すことが出来ません。だから、アイツ等を捕まえたいのなら、あの男達が村長さんの村へ行って依頼を受けた後でないと駄目です」
「……そ、そう言われてみればそうね」
説明を聞いてようやく頭に血が上っていた事に気付いたんだろう。
リリエラさんが顔を赤くして自分の勇み足に気付く。
「だから僕達は彼等を後ろから尾行して、あの村長さんの村までついていきます」
「ついていくって、大丈夫なの? 街道に隠れる場所が無かったら見つかっちゃうわよ」
うんうん、リリエラさんもようやく用心深さが戻ってきたね。
「大丈夫です。王都から出たら僕に考えがあります」
◆
王都から出た僕達は、村長さんと三人組を追って街道を進む。
男達は村長さんに気付かれないよう、頻繁に物影に隠れながら進んでいる。
そして周囲を警戒して、自分達の姿を見ている者が居ないかも探っていた。
「ねぇ、それでこれからどうするの?」
一緒に物陰に隠れながら、リリエラさんが僕に質問してくる。
確かに、このまま進めば彼等に発見されてしまう可能性も高いだろうからね。
「じゃあそろそろやりますか。モフモフおいで」
「キュウ!」
モフモフが足元から僕の体を伝って頭の上に乗る。
「リリエラさん、手をつないでください」
「え、ええ」
リリエラさんがちょっぴり頬を赤くして僕の手を握る。
リリエラさんとモフモフの一人と一匹と接触した僕は、魔法を発動させた。
「インヴィジブルフィールド!」
僕達の体を薄紫の光が包む。
「え? なにコレ!?」
リリエラさんが自分の体を包んだ光に驚く。
「さぁ行きましょう!」
「え?」
僕はリリエラさんの手を掴んだままズンズンと街道を進む。
「ちょっ、あんまり近づくと見つかっちゃうわよ!」
「大丈夫大丈夫。おーいそこの人達ー!」
僕は物陰に隠れていた三人組を大声で呼ぶ。
「ちょーっ!? 何をしてるのよー!」
まさかの行動にリリエラさんが慌てる。
けれど、その男達は僕の声が聞こえていなかったとでも言わんばかりの様子で無反応だった。
「え!? ど、どうして!?」
男達が何の反応もない事に驚いていたリリエラさんは、ハッとした様子で僕の方を見る。
「レクスさんが何かしたのね!?」
ふっふっふっ、その通り。
「はい。これはインヴィジブルフィールドという隠密魔法の効果です。この魔法が発動すると、術者と術者に接触した人間は周りの人間に気付かれなくなるんです」
「ええ!? なにそれっ!? そんな魔法があるの!?」
「しかも大声を出しても聞こえない。更に」
僕はリリエラさんの腕を引っ張って、男達の前に出る。
「こんにちはー!」
男達の前で手を振っても、男達は僕等に対してなんの反応も見せなかった。
「と、この様に目の前に居ても気付かれません。基本、接触しない限りは僕達の事を認識する事は出来ません。」
「う、うそー……」
リリエラさんが呆然とした様子で男達を見ている。
「なにこれ、こんな魔法が存在するなんて、これがあったら誰にも見つからずに好き放題できるじゃないの!」
「いやー、それでも色々制約はありますし。あっそうそう、僕の体に触れていないと魔法の効果が切れてしまうので、手を離さないでくださいね」
「う、うん。分かったわ……って、それじゃあ村に着くまで私達ずっと手をつないでないといけないの!?」
あれ? 何でか知らないけど、リリエラさんの顔が真っ赤になっちゃったぞ。
「それじゃあこのままこの人達と一緒にあの人の村まで行きますか」
「……悪党を捕まえる為なのに、その悪党達と一緒に旅をするとか、なんだか変な感じだわ」
こうして、僕等は5人で村長さんを尾行するのだった。
_(:3 」∠)_ 詐欺師x3「なんだか嫌な予感がする」
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