第307話 料理人の信頼
作者_(:3 」∠)_「旅行行きたい」
ヘルニーヾ(⌒(ノ-ω-)ノ「美味しいもの食べて温泉入りたい」
ヘイフィー_(:3 」∠)_「ゴー現実」
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皆さんの声援が作者の励みとなっております!
無事食材を届け終えた僕達は、依頼人である大会委員の人の頼みを受けて食材の血抜きを行う。
血も食材として使う料理があるから、魔法で作った岩の容器に入れておこう。
「こんな感じでよかったですか?」
「は、はい。ご苦労様でした……はぁ~」
依頼人が安心したように溜息を吐いてへたり込む。
きっと決勝前に食材が無事届いた事に安心してるんだね。
僕達も急いで運んできた甲斐があったよ。
「ええと、これはどうすればよいのでしょうか……?」
と、困惑する声に振り向けば、そこには試合の進行役の人の姿があった。
「どうかしたんですか?」
「いえその、大会で使う食材が潰れてしまって……」
食材? それってこれの事だよね? でも潰れたってどういう事かな?
あっ、地面に刺さったのを潰れたと勘違いしたとか?
でも試合会場は狭いから、この魚を横に置くと観客席にまではみ出ちゃうからしかたなかったんだよね。
「大丈夫ですよ、この食材は突き刺さっているだけで新鮮そのものですから」
「は、はぁ……そうなんですか?」
進行役の人が依頼人である運営の人に聞くと、彼は疲れた顔でゆっくりと振り向く。
「あ、ああ……?」
「しょ、承知しました! 皆様お待たせしました! 少々段取りが変わってしまいましたが、改めてルールの変更をお伝えいたします!! 決勝戦では先ほどの食材に替わり、この巨大な魚を調理してもらう事になりました!!」
「「「「おおおおっ!?」」」」
振興係の人の言葉に、観客席からどよめきが上がる。
あれ? 決勝は明後日の筈なのに何で観客席に人がいるんだろう?
「どういう事だ? さっきは食材を選んで勝負するって言ってたよな?」
「それにあのバカみたいにデカイ魚は何だ? 見たこともねぇぞ!?」
「もしかして、こういう演出なんじゃねぇのか?」
「演出?」
「ああ、何せこの試合は決勝だからな。最初に俺達に普通の試合だなって思わせておいて、あのデカい魚をドーンを見せて俺達を驚かそうってハラだったんだろ!」
「マジかよ、手間かけてんなぁ」
「それだけこの大会も規模がデカくなってきたってことだろうな。普通の演出じゃ客に飽きられるって考えたんだろ」
成程、どうやら僕達が食材を会場に持って来ることも演出の一環だったみたいだね。
となると、僕達が食材を確保した事を何かしらの方法で確認して、大会の日程を早めたのかもしれない。
劣化の速い食材と言っていたし、三日というのはあくまで余裕を持った予定だったんだろう。
裏では色々と怪しい事をしているみたいだけど、運営としてお客さんを楽しませる事に対しては真摯に取り組んでいるようだ。
うん、そうやって自分の仕事にだけは嘘をつかない人は嫌いにはなれないね。
◆
そうして決勝戦が始まった。
カロックさんが包丁を持って真っ先に巨大魚に向かうのに対して、カロックさんの師匠のチームは何故か動こうとしない。
一体どうしたんだろう? いや、相手はカロックさんの師匠だ。
まずは弟子の手際を見るつもりなんだろう。
「はぁっ!!」
カロックさんは空中に跳びあがると、巨大魚の体に飛び乗って上へと跳躍を繰り返す。
その際、靴に付いた土で食材を汚さない様に、調理には使わないヒレを足場にしているのは良い配慮だね。
「たぁーっ!!」
尾びれまで飛び上がったカロックさんが包丁を巨大魚の尾の根元に差し込むと、魔力を放出して疑似的な刃を産み出す。
ああしまった。この巨大魚を調理するのなら、僕の新しい包丁を貸しておけばよかった。
そうすれば切り口がもっと綺麗になったんだけど。
けれど流石はカロックさん。
使用する魔力を極限まで細く薄くする事で、切断面の粗を可能な限り低くしている。
あんな少ない魔力でギリギリの切断をするなんて、きっと僕が見ていない所で切り口を綺麗にする鍛錬に明け暮れたんだね!
更に空中に浮きあがった巨大魚の身を再び宙に舞って調理しやすい大きさに切るカロックさん。
「!!」
そして地上で待機していたゴーレムが大皿を使ってその肉を受け止める。
「わわわっ!」
更に切った際に大皿の範囲外に飛んでしまった肉をリレッタちゃんが受け止める。
「キュキュウッ!!」
最後にモフモフが更に取りこぼしたさかなの肉を空中でキャッチして美味しく戴いていた。って、食べちゃだめでしょ!?
「モグモグ。キュウーン!!」
また美味しそうな顔をして……
その後もカロックさん達は抜群のチームワークを発揮して残った肉、モツ、皮、骨を丁度良いサイズに切っては確保してゆく。
一方でカロックさんの調理風景を見ていたリストランテプルーメのチームはというと……
「はっ!? な、何をしている! 早く食材の確保に行くんだ!!」
「っ!? はっ、はい!」
カロックさんの師匠の号令を受けて、スタッフが慌てて駆け出す。
彼等はカロックさんのように宙を飛んで捌こうとはせず、何故か地面ギリギリの位置で食材を捌き始めた。
はて? 何であんな所から捌き始めるんだろう? 効率が悪い気がするけど……
「か、硬い! なんだこの硬さは!? 本当にこれが魚の皮なのか!?」
「うわっ!? 包丁が折れた!?」
「すぐに新しい包丁を持ってこい!!」
うーん、スタッフの手際も悪いし、とても狙ってやっている様には見えないんだけど……
僕はカロックさんの師匠がどういうつもりなのかと彼を見る。
するとカロックさんの師匠は、自身も食材の解体に加わろうとはせず、じっと静観を続けていた。
「っ……っ」
けれどその様子はなんだか困惑しているようで……
「あっ、もしかして」
カロックさんの師匠はわざと解体に加わらないようにしてるんじゃ。
この試合はあくまでリストランテプルーメとカロックさんの試合だ。
1から10まで彼がやってしまっては、スタッフの仕事が無くなってしまう。
ただそれでも心配ではあるんだろう。
カロックさんの師匠は彼等の手際に口を出すべきかと言う逡巡が見えつつも、必要以上の口出しはするべきではないと我慢する様子が見える。
こんな状況でも師匠としても振る舞いを忘れないあたり、やはりカロックさんのお師匠さんなんだね。
もしかした、カロックさんの言う通り、彼を店から追い出したのもあの人なりの理由があるのかもしれない。
けどリストランテプルーメのスタッフのあの手際の悪さはどういうことなんだろう?
仮にも決勝戦なんだから、これまでに戦ったお店のようにあえて若手を参加させて経験を積ませるなんてしないだろうし……
そうこうしている間にカロックさんは食材の調理を進めてゆく。
魚の骨を煮込むことで髄液をスープに使い、血を濾して調味料に応用している。
更に皮やモツも捨てることなく利用していた。
「そこまで!」
そうして、調理タイムが終わって実食タイムがやってきた。
◆
「それでは、これより実食タイムに入ります!」
まずはカロックさんの料理が審査員のテーブルの上に並べられてゆく。
「おおっ! これは凄い!」
テーブルの上に 並んだ幾つもの料理に審査員達が歓声を上げる。
「一つの魚からフルコースを作ったのか。これは凄いな」
「元は何を使ったのか分からない食材があるわね。説明をしてもらえるかしら?」
「は、はい!」
審査員の一人に呼ばれ、カロックさんがそれぞれの料理の説明を行う。
「まず前菜の魚の鱗と皮のサラダです」
「ふむ……魚なのにサラダとは変わったメニューだな」
そう言いつつも、審査員達はカロックさんの料理を口に運ぶ。
するとおっかなびっくりと料理を口にした彼等の顔が驚きに変わる。
「これが魚の鱗と皮!? まるで野菜を食べているかのような触感だわ!」
「それぞれ薄さや細さ、切り方に焼き方を変える事で触感を変えてあります」
「なんと! これらの形の違う食材全てにそこまで手間を!?」
「はい、他の食材が無いので、触感を変える事で楽しんで頂こうと思いました」
「素晴らしいな。初めての食材であるにも関わらず完璧な調理だ。このサラダだけでも十分な満足感だよ!」
うん、掴みは抜群だね!
「次に骨髄のスープです」
「おお、これも素晴らしい!」
「焼き砕いた骨とモツの練り物の魚の血のソースです」
「骨を練り込んだのか! これも面白いな!」
「魚の血のソースも生臭さが全然ないわ」
「ううむ、どんな調理法を使っているんだ!? さっぱりわからん!」
「メインの魚肉のステーキです」
「おお、シンプルかつ豪快なステーキだな! メインに奇をてらった技術に寄らない実力がはっきり出る料理を出すのは好感が持てる。それに期待通り美味い!!」
「デザートに目玉の水晶体のゼリーと細切りにして焼いた骨のスナックです」
「はははっ、デザートも出るのか! うむ、甘い!」
「目玉のゼリーと聞くと気味が悪い珍味をイメージするけれど、元の目玉が大きいから切り出しても普通のゼリーにしか見えないわね」
全てのメニューを食べ終えた審査員達は満足気な様子だ。
これは高得点が期待できるね。
「次はリストランテプルーメの料理です!!」
進行役の言葉と共にカロックさんの師匠の料理が審査員のテーブルに運ばれてゆく。
「え?」
その料理がテーブルに乗せられた瞬間、会場に困惑の声があがった。
「ステーキが一枚だけ?」
そう、皿の上に置かれていたのは、一枚の魚肉ステーキだけだったんだ。
「これは……カロック選手のメインである魚肉ステーキと同じ品が一品だけのようですが?」
カロックさんの豪華フルコースの真逆と言うべき一品勝負、これは相当な自信を感じるよ。
「ふむ、一見すると物足りない印象だが、重要なのは味だ。まずは食べてみるとしよう」
審査員達はステーキを一口サイズに切ると、それを口に運んでいく。
「あれならカロックさん達の圧勝でしょうね」
「どうでしょう、そう簡単にはいかないと思いますよ」
リリエラさんはメニューの豊富さからカロックさんが勝つと考えたみたいだけど、僕は彼等の確保した食材の部位が気になっていた。
「どういう事? 向こうはステーキ一枚よ?」
「そのステーキに使われた部位が問題なんです」
「部位?」
「はい。食材は部位によって味が変わります。モモ肉、ヒレ肉といった感じに。そしてカロックさんの師匠のチームが真っ先に、そして唯一確保に走ったのは、あの巨大魚の一部位だけ。あれは狙ってやった可能性が高いです」
そう、彼等が解体した部位は、巨大魔物魚の中でも最も美味と言われる部位だった。
基本的に魔物肉も普通の動物の肉も部位の食感が美味しさは同じだ。
けど、サイズが大幅に変わる魔物や、魔石が生成された魔物になると話は変わって来る。
「魔物肉は、魔石に近い部位程美味しくなるんです。そしてあの巨大魚サイズなら、確実に魔石を体内に精製している。更に言えば魔石は心臓か脳の辺りに精製されるんですよ」
「そうなの!?」
そう、頭が埋まったままの巨大魚の解体された部位は、心臓付近。
一番美味になるあたりだ。
「ただ大型の魔石に成る程、魔石に近い部位の肉は魔力を貯め込みます。その所為で人にとって毒になる事もあるので、ギリギリを狙ってあの位置を選んだんだと思います」
一番良い部位だけを使った一点豪華主義の料理、と考えれば、あの料理を侮る事は出来ない。
「でも単に他の部位を解体する余裕が無かっただけじゃないの? 時間だってギリギリまでかけていたみたいだし」
確かにその可能性は否定できない。けれど相手は一流料亭のスタッフとカロックさんの師匠だ。
「忘れたんですかリリエラさん。あの食材は時間が経つほど加速度的に味が落ちて行くんですよ」
「あっ」
そう、カロックさんの師匠は、食材の新鮮さをギリギリまで保って最高の味が出る部位のみに勝負を賭けたんだろう。
一歩間違えば全てが台無しなってもおかしくない選択肢、凄まじい胆力だよ。
「この勝負、危ないかもしれませんよ」
「「「「ハムッ」」」」
審査員達が料理を口に入れたその瞬間。
「「「「~~~~っ」」」」
全員の目がカッと見開かれたんだ。
◆パガライオース大会委員長◆
想定外のトラブルがあったものの、試合が始まった。
おのれ、あの冒険者さえ間に合わなかったら、予定通り我等に有利な位置に食材を配置した状況で試合を始める事が出来たものを!!
「だが完全に不利になった訳ではない。寧ろこれは有利になったとすら言えるだろう」
というのもあの冒険者は私の依頼通り、巨大魚を運んできた。
……一体どうやってあれ運んだんだろう?
いやそれはいい。良くはないが今は関係ない問題だ。
「あの巨体を一人で解体するのは不可能というもの」
そう、小僧のスタッフは子供と小柄な鎧の男? そしてよく分からん生き物だ。
あの巨大な魚を解体するには圧倒的に背丈と力が足りん。
そう言う意味では先ほどの食材以上に不利だと言えるだろう。
「くくくっ、これはもう勝負を始める前から勝敗は決まったようなものではないか」
小僧は健気にも小さな包丁を手に巨大魚に駆け出してゆく。
はははっ、精々頑張るが良い。
「とぉっ!!」
小僧は家よりも高い位置にあるヒレに飛ぶと、別のヒレを足場に上へ上へと飛び上がっていき……
「はぁぁぁぁ!!」
巨大魚を両断した。
「って何だとぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
何だ今の動きは!?
「たりゃりゃりゃりゃ!!」
更に宙に浮いた巨大な魚の肉の塊を向いて包丁を振り回すと、魚の肉が小分けに勝手に割れてゆく。
「何が起こってるのぉぉっ!?」
な、何だこれは、一体なんの冗談だ!?
更に小僧は空高く飛び跳ねると次々に巨大魚を切り裂いていきあっという間に地上に見える部分が解体されてしまった。
更に小僧は地面に埋まった頭を引っ張り出すと、水で洗って土を落とし、スパスパと頭部も解体してゆく。
「って言うかあの頭を持ち上げてなかったかぁーっ!?」
ど、どういう事だ!? あの小僧実は怪力の持ち主なのか!?
それとも以外にあの巨大魚が軽いのか!? いやそれなら地面に突き刺さったりしないよな? どっちなんだ!?
当初の予定と正反対に、小僧はあっという間に調理を開始してしまった。
「はっ!? ウチの店は!?」
小僧の手際の異常さには驚かされたが、ウチの店は一流のスタッフが勢ぞろいしている! 既に必用な食材を……って何をモタモタしとるんだーっ!?
なんという事か、うちの店の連中は未だに突き刺さった魚の根元で手間取っていたではないか!
ええい! アイツ等は何をやっとるんだ!? デカい魔物魚の解体くらいいつもやっとるだろうが!
いやまぁあんな巨体を解体するのは私も経験が無いが、それにしても不甲斐ない!!
「ようやくか……」
かなり時間をかけ、ようやく食材が調理場に運ばれた。
くっ、もう時間が残り少ない。これでは大した料理は作れんぞ!!
「だが、問題はない。何せこちらにはあの小僧の師匠が居るのだからな!」
そうだ。食材の確保さえできればこちらのものだ。
料理の世界では厨房に立った年月がモノを言う。
無論才能の有無はあるが、私が雇ったのはあの小僧に料理を教えた師匠だ。
すなわち小僧の才能を以てしても勝てぬ経験と実力を持つ一流の料理人と言う事!!
「はははっ、最初から貴様が勝てる相手ではないのだ!!」
「それまで! 調理終了です!」
調理時間が終わり、実食タイムに入る。
よしよし、料理は完成したようだな。
「これは素晴らしい!!」
審査員達は小僧の料理を絶賛していた。
ふん、あの連中も目障りだな。料理に対して真摯に振舞うなどと言っておるが、要は食うだけしか能のない連中だ。
近いうちに審査員も我々の手の入った者達にすげ替えてやる。
「ではリストランテプルーメの料理の試食を行います!」
ようやくウチの店の番が来たか。
タルメルクの料理は、小僧とは正反対に一品のみの料理だった。
……まさか時間が足りなくてアレしか作れなかったという事はないよな? 大丈夫だよな?
いやいや、引き抜いたのはあの小僧の師匠だぞ? きっと何か深い考えがあるに違いない!! し、信じているぞタルメルク!!
「……っ!? これは!?」
審査員達の目が驚きに見開かれると、彼等は互いの顔を見て頷き合うと、揃って口を開きこう言った。
「「「「勝者、カロック選手&リレッタ選手!!」」」」
「って、普通に負けたぁーっっっ!!」
何でだぁーっっっ!!?
◆
決勝戦の軍配はカロックさん達に上がった。
ふぅ、ヒヤヒヤしたなぁ。
かなりギリギリの判定だったと思うんだけど、勝利の決め手はどこだったんだろう?
「見事ぉーっ!! 今大会の決勝戦はカロック選手とリレッタ選手の勝利です!! 審査員の皆さん、勝敗の分かれ目は一体どこだったのですか?」
すると進行役の人に問われた審査員達がお互いに顔を見合わせながら苦笑をする。
そのやり取りに僕達が首を傾げていると、審査員達はちょっと困ったように解説を始めた。
「あー、いや、何と言うか、リストランテプルーメの料理はまぁ、美味かったよ。普通に」
「そうですね。普通に美味しいですね。主に食材の旨味で」
「逆に言えば食材の旨味以外の目新しさが無かったな」
あれ? なんか凄く審査員の人達の感想が辛辣なんだけど?
「「「「普通の料理だった」」」」
「何か全然大丈夫だったっぽいわよ?」
「ですねぇ……」
どういう事だろう? 僕は食材が切りだされた魔物魚を確認する。
うん、切り取られた部位は丁度美味しい部位と食べるのに適さない部位のギリギリの位置だ。
食材そのものに問題はなさそうだ。
となると調理をする際に問題が発生したのかな?
今度はカロックさんの師匠達の調理台を身体強化魔法で強化した目で見つめる。すると……
「あっ!」
「何か分かったの?」
「リリエラさん、リストランテプルーメの食材が廃棄された桶の魔力を探ってしてみてください」
「桶の? ……あれ?」
僕に言われて捨てられた食材の魔力を探ったリリエラさんがあれ? と眉を潜める。
「そうです、一番魔力が乗って美味しい部位が捨てられているんですよ」
「え? 何で?」
それは僕も同じ気持ちだ。何故一番美味しい部分を捨てたんだろう?
「使われている部位も普通に美味い部位なんだが、特に特別な処理をしている訳でもない。ただ焼いているだけだな」
審査員の人達も部位は普通に美味い所を使っているだけだと言っている。
となると考えられるのは……
「スタッフの人間関係の構築が足りなかったって事かな……」
「信頼関係?」
「ええ、元々カロックさんの師匠はリストランテプルーメの本来のスタッフじゃありません。調理中の事故で人員に空きが出て、その穴埋めに呼ばれたんです」
「そう言えばそんな事言ってたわね」
「そしてカロックさんの師匠がメインの料理人に抜擢されたという事は、それを支えるスタッフも本来のスタッフじゃない可能性が高いです」
「何でそう思うの?」
「負傷したスタッフが替えの効く人材なら、カロックさんの師匠がメインの料理人になる事はありえないからです。そして一番腕の立つ人が負傷して参加できなくなった場合も、無事なスタッフの中で一番腕の立つ人がメインの料理人になって、カロックさんの師匠はサブの料理人として補助をする筈です。」
沢山のお客さんが来る大きなお店の厨房は、メインの料理人一人で回しきれるものじゃない。
料理長を頂点に、サブの料理人が何人も補佐に付いて、それぞれが調理を行うのが常識だ。
当然料理長に何かあった場合は、サブの料理人で一番腕の立つ人が料理長代理になる。
「そう考えると、リストランテプルーメは僕達の想像以上にスタッフの欠員が厳しかったと思われます。そんな状況です、調理補助をするスタッフにも欠員が多かったと考えるべきでしょう。プルーメ程の一流店なら、下働きと言えどお客さんの口に入る食材を触れるのは、全員が次期主力コック候補の実力者の筈。そんな人達なら、食材の一番美味しい部分を見極める事は容易いでしょうが、人材不足の現状で用意できたのはおそらく数段実力が劣る人達だったんじゃないでしょうか」
きっとまだ厨房の食材に触れる事を許されていない若手ばかりだったんだろうなぁ。
それに自分達を差し置いて外部からやって来たポッと出の人物が料理長代理になったとなれば、信頼関係は無きに等しかったんだろうなぁ。
当然、自分達が正規の厨房スタッフではないと、正直に申告するのは難しかったことだろう。
「カロックさんの師匠が町に来たタイミングも悪かったみたいですね。恐らく碌に連携をとる訓練をする時間もなかったと思います。もし時間に余裕があれば、その時間でスタッフの実力を確認できたでしょうから」
結局、カロックさんの師匠はスタッフの実力を確認する時間が取れず、やむを得ずプルーメの店主が用意した人材難だからと彼等を無条件に信用したんだろう。まさかこんな大事な大会で未熟なスタッフを用意するとは思いもせずに。
更に言えば、食材の鮮度を保つために時間ギリギリで食材を切りだすよう指示した事も、災いした。
ここで食材の鮮度を確認する時間があれば、状況はもう少し変わっていただろうね。
指示は正しかったし、一番美味しい部位は確保できた。
ただ一つ、スタッフとの信頼関係と、実力を確認する時間を用意できなかった事が、リストランテプルーメの唯一の敗因だったと言える。
どれだけ優秀な人材を用意しても、今回の様に信頼関係が足りていなければ実力を発揮できるものじゃないからね。
「勝者、カロック&リレッタ選手!!」
「「「「おおおおおおおおっっっっ!!」」」」
勝敗が決した事で、会場が歓声に包まれる。
惜しみない拍手がカロックさんとリレッタちゃんに送られ、僕達もまた二人に祝福の拍手を送る。
おめでとうカロックさん、リレッタちゃん!!
カラミティフィッシュ(,Α,)「で、師匠側のスタッフはホントに未熟な新人が混ざってたの?」
モフモフ_Σ(:3 」∠)_「まっさかー。万全を期すために大人げないレベルで一流スタッフを用意したに決まってんじゃん」
カラミティフィッシュ(,Α,)「つまり……」
モフモフ_Σ(:3 」∠)_「単に高さの問題であの部位を解体しただけ。あと師匠の実力はお察しください」
カラミティフィッシュ(,Α,)「本来のスタッフだけで勝負した方が勝率高かったんじゃん」
モフモフ_Σ(:3 」∠)_「誤差範囲内だけどな。小数点以下の勝率でケタが一個上がっても小数点以下なのだ」
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