第306話 大地貫く銀塔
作者つД`)・゜・「お外で執筆しようとしたらマウス忘れた!」
ヘルニーヾ(⌒(ノ-ω-)ノ「しょうがないからタッチパッド操作で執筆したんだけど、執筆中に無意識にタッチパッドに体が触れちゃうから、気が付いたら文字が消てえたり、なんなら文章がまるまる一行行方不明に!?」
ヘイフィー_(:3 」∠)_「うごご、ファミレスに入ったあとで気付いたからキツかったよう」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
◆カロック◆
「今から決勝!? どういう事だ!?」
運営から決勝の日時について連絡があると言われて呼び出された俺達が聞かされたのは、これから決勝を始めるという衝撃的な内容だった。
「どういう事だ!? 決勝は2日後じゃないのか!?」
「はて、何の事ですか? 決勝は今日ですよ? いったい誰がそんな事を?」
話が違うと食って掛かると、大会の運営は素知らぬ顔で何の事だと返してきた。
「俺達の雇い主のレクスさんが大会の運営から依頼を受けて2日後の決勝で使う食材を集めに行くと言っていたんだ!」
「そうよそうよ! 大会の人間が来てレクスさんに依頼したんだから!」
「何かの間違いではありませんか? そもそも決勝に使うような大事な食材を試合ギリギリになって集める訳が無いではありませんか。そもそも、貴方がたが直接大会関係者からスケジュールを聞いた訳ではないのでしょう?」
「それはそうだが……」
そう言われるとぐうの音も出ない。
「そもそも我々が貴方がたを呼んだのは、選手の集合時間になっても貴方がたが来なかったからですよ」
「待ってくれ! そもそも俺達は試合の日が今日とは教えられていないぞ! だから2日後という言葉を信じたんだ!」
「おや、そうなのですか? どうやら連絡ミスがあったようですね。それについては謝罪いたします」
「いたしますってアンタ……」
「どうあれ決勝の日程が今日なのは変わりありません。既に会場には観客も入っていますし、試合を拒否される場合は不戦勝とみなすことになります」
「そんなぁ!!」
これは……完全にハメられたな。
おそらくあの依頼は俺達とレクスさんを切り離す罠だったんだ。
こうなったら……
「分かりました。試合に出ます」
俺は試合をする事を受け入れた。
「お兄ちゃん!?」
試合に参加する事を受け入れた俺に、リレッタが本当に良いのかと目を見開く。
いいんだよリレッタ。
「別に問題ないだろう。元々試合には俺達だけで出ていたんだ。幸い、包丁一式は持ってきていたしな」
「そ、それはそうだけど……」
そうだ。今までだって試合自体には俺達だけで挑んできたんだ。
レクスさん達には随分と世話になったが、それはあくまで試合の外での話。
試合中に頼る事が出来るのは、自分の腕と包丁……そしていつも傍で支えてくれたこの自慢の妹だけなんだからな!
「レクスさん達が居なくても関係ない。俺達は料理に専念するだけだ!」
「……う、うん! 分かった! 私がお兄ちゃんを完全にサポートするよ!!」
俺の決断を察したリレッタは、意識を切り替えて俺の補助に専念すると宣言してくれた。
まったく頼りになる妹だぜ。
そうさ、レクスさんから学んだ教えは俺の、俺達の中にある。だったらビビる事なんてない!
と、その時だった。レクスさんから預かったミニゴーレムが俺の前に出ると、自分の顔を指差して何かをアピールしてきたんだ。
「え? どうしたの? ゴーレムちゃん?」
これはもしや……
「俺にも任せろって言ってるんじゃないか?」
それが正解だったのか、ミニゴーレムはその通りと両手を腰に当ててエッヘンとポーズをとる。
やっぱりそうだったか。小さい頃に俺の手伝いをしたがったリレッタに似た雰囲気があったから、もしかしてと思ったんだよな。
「うん! 頼りにしてるよ!!」
リレッタがそう言うと、ミニゴーレムは任せろとばかりに自分の胸をドンと叩く。
ゴーレムってもっとこう、言われた通りの事しか出来ない動く人形ってイメージだったんだが、なんかコイツ、妙に人間臭くないか?
「キュウ!」
すると今度はモフモフがリレッタの足にしがみ付いて何かを訴えてきた。
「もしかしてモフモフちゃんもお手伝いしたいの?」
するとモフモフもその通りと丸い体で胸を張る。張ってるよな? 顔の書かれたボールが転がりそうになってるようにしか見えないけど。
「でもモフモフちゃんはお料理出来ないでしょ?」
「キュッ!? キュウキュウ!!」
その事実を指摘されてショックを受けたモフモフが、怒ってリレッタの足をポコポコと叩き始める。
正直、小動物がじゃれ付いているようにしか見えない。
「わわわっ、怒らないでってばー」
「はははっ、モフモフはリレッタの護衛を頼む。試合中どんなアクシデントがあるか分からないからな」
「キュウ!!」
俺がリレッタの護衛を頼むと、モフモフは任せろと自分の胸? を叩いた。
正直今回もどんな妨害があるか分からんからな。
モフモフの野生の勘でピンチを察してくれたら助かる。
「ジュルリキュウ」
……まさか、本当は余った食材を食べたいだけだったりしないよな? ちゃんとリレッタを守ってくれるよな? 頼むぜ?
「……では納得もしていただけた様ですので、試合会場に向かってください。試合時間も押していますので」
「ああっ!!」
こうして、俺達はなし崩しに決勝へ向かうのだった。
◆
「これより、魔物料理大会、決勝戦を開始します!!」
会場に入ると、凄まじい人の熱気だった。
それもその筈。今日が長かった大会の最後の戦いなんだ。
そりゃあ観客達だってヒートアップするってもんだ。
「ふん、恥を晒しに来たか」
視線が合った俺に対し、師匠が開口一番辛辣な言葉を投げつけてくる。
「またのあのクソジジイはぁーっ!!」
リレッタは師匠の言葉に怒りを漲らせるが、意外にも俺の心は静かな水面のようだった。
そう、レクス師匠も言っていたじゃないか。料理人が向き合う相手は食材と完成した料理を食べる客のみだと。
より美味しい料理の為には食材の気持ちになれと、調理器具の気持ちになれと。
我を捨て、個を捨て、味を追求しろと。
「だだだだから料理人は料理だけに専念すべしししし」
「お兄ちゃん落ち着いて! また壊れかけてたよ!」
はっ、すまない妹よ。俺は正気に戻った。大丈夫、大丈夫だ。
冷静さを取り戻した俺は、改めて試合に集中する。
「決勝での試合形式はこれまで同様、大会側が用意した食材を使って調理して頂きます。ですがここで気をつけて貰いたいのは、食材の中には質の悪い食材が混ざっている事です。料理人の皆さんには、この食材の山から良い食材と悪い食材を見極めて食材を確保して貰う必要があります! これは調理をする料理人だけでなく、補助をするスタッフにも食材の良し悪しを見極わめる必要があると言う事です!」
確かに進行役の言う通り、食材の山の中には明らかに良い食材と悪い食材が混ざっていた。
それに一見良い食材でも、悪い食材が密着する事で接触した面が悪くなっているモノもあった。
「だが問題は……メインの食材か」
何よりも厄介だったのは、メインとして使う食材が俺達の方からは獲りづらい位置にあると言う事だ。
添え物の食材が良い品でも、メインの食材が悪かったら片手落ちだ。
まずはメインとして使う一つを確実に確保してそこから……いや待て。
よく見ると不味いぞあれは。
メインに使えそうな食材は、どれも他の食材が絡みついていて、迂闊に引っこ抜くと食材雪崩を起こしかねない状態だ。
もしそんな事になったら、例え試合に勝ったとしても相手選手への妨害として物言いが入るか、そうでなくても観客からアイツは試合に勝つために相手の妨害をした奴だと悪評が立ってしまうだろう。
「こりゃあマズいな……」
メインを抜くには他の食材を巻き込まないように横にどけてから持ち運ぶか、他のスタッフと協力して食材雪崩が起きないように慎重に抜かないといけない。
とはいえ、こちらの仲間は子供のリレッタと、小さなミニゴーレム、そして戦力外のモフモフだ。
仲間の協力を得るのはほぼ無理。地道に周囲の食材をどけるしかない。
いっそ必要な部位だけ切り取るか?
「なお、食材を一部だけ切り取って持っていくのは不可とします。切り残した調理屑が他の食材にかかってはいけませんからね」
だが俺の考えは運営に読まれていたらしい。
こうなったらリレッタ達にはサブの食材の確保を、俺がメインの食材一つに専念するしかないな。
◆大会運営委員◆
「くくく、これで詰みだな」
私は完璧な展開に満足していた。
そして以外にも察しの良かったらしいあの小僧は、食材確保の難しさに気付いて顔を顰めている。
ははっ、それに気付いた事は褒めてやろう。
だが残念だったな。こういう時に対応できる大人のスタッフを確保できなかったのがお前の甘さだ。
世の中料理の腕一本だけでやっていく事など不可能! 層の厚いスタッフを雇う為の金と人脈こそ最も必要なのだよ!
そして万が一にも邪魔される可能性のあった冒険者共は、偽の依頼ですぐには戻ってこれない場所に追い払った。
完璧だ! 完璧すぎる状況だ!!
「それでは試合開……」
勝利を確信して試合開始の合図を待っていた私だったが、その時、ヒュルルという奇妙な音がする事に気付いた。
「なんだこの音は?」
私だけではない、試合開始を宣言しようとしていた進行係も周囲をキョロキョロと見回して音の源を探している。
観客席からも試合が始まらない事、そして謎の音にざわめきが広がり始めた。
何だ? 嫌な予感がする。
このままだとマズい事が起こると、長年店を経営してきた私の本能が警告している気がする。
「お、おい、何をしている! 早く試合を……」
始めろ、そう言いきる前にそれは来た。
ズドォォォォォォォォォォォォン!!
まず凄まじい振動が起きた。
次に猛烈な風が吹き上げてきた。
そして周囲が突然暗くなった。
何だ? 何が起きている?
混乱する頭で必死に何が起きているのかを考えるが、情報が少なすぎて結論など出るはずもない。
そうこうしている間に風が弱まってきた事で目を開けた私は、視界に飛び込んできたソレに目を奪われた。
「何だ……コレは?」
それは、銀色の塔だった。それが二つ。
いや、塔ではない? 金属の様に光を反射している? なんだ? これは一体なんだ?
それに何でこんなモノが現れたのだ?
銀色の何かは試合会場のど真ん中に突き立っていた。
そこにあった筈の食材はおそらくこの何かの下敷きになってしまったのだろう。
いやそんな事よりも、いったいこれは何だ?
そして周囲に漂うこの生臭さは?
まるで調理場か魚市場で大量の魚を前にしたかの様な匂いだ。
「魚? いやまさか」
一瞬これが巨大な魚なのではないかと考えるも、そんな筈はないと己の馬鹿な考えを否定する。
当たり前だ。こんな巨大な魚が……
「すみません、急ぎ過ぎてちょっと勢いよく置いちゃいました!」
と、その時だった。突然上から場違いにのんきな声が聞こえて来たのだ。
「はっ!?」
まさかと思いながら上を見た私は、ありえない光景に固まった。
そこに人がいたからだ。
空中の、捕まる場所など何もない場所に、人が浮いていたのだ。
なんだ? 私は何を見ているのだ? まさかゴースト? いやアンデッドが真昼間から外に出ている筈がない。
それにアレがアンデッドなら、もっと生者に対する嫉妬の感情に支配されている筈だ。
しかし宙に浮いているアレにそんなアンデッド特有の妄念は感じられない。
「頼まれた巨大魚を運んできました」
「は?」
頼まれた? 誰に?
「依頼の巨大魚はこの二匹で良いんですよね?」
待て待て待て待て、巨大魚? 何の話だ?
「……あの、魔物料理大会の決勝で使う食材の確保を頼まれて持ってきたんですけど」
「食材の確保……っ!?」
まさか小僧から仲間を引き離す為に頼ませたあの依頼の事か!?
では……もしやこんな小僧があの小僧の仲間の冒険者なのか!?
「……っ」
ど、どうする? まさかこんなに早く戻って来るとは思ってもいなかったぞ!?
しかもこれ魚か!? 魚なのか!?
言われてみれば確かにこの生臭さは魚のソレだ。
「あの~」
空に浮かんだ小僧はこの巨大な魚? を持ってきたとは思えない程不安げな表情で私を見てくる。
そうだ、落ち着け私。
こんなに早く食材を運んでくるとは思ってもいなかったが、そもそも私の依頼した食材は、元々存在しない食材じゃないか。
だったら、私が頼んだのはコレじゃないと言い張ればよいだけの事。
そして依頼失敗で追い払えばよいだけじゃないか。
「ふ、ふふ……」
まったく焦らせおって。
まぁこれ程巨大な食材を運んできた実力は認めてやらないでもないがな。
私は天高くそびえる巨大な魚を見る。
見れば見る程大きな魚だ。依頼の品ではないが大会が終わったら特別に買いとると提案してやっても良いだろう。
そうしすれば依頼を失敗したと落ち込む小僧も私の寛大さに感服する事だろう。
そう考えてみればこの巨大魚も見事な新鮮さだ。
まるでまだ生きているかの如く尻尾がビクンビクンと動いて……
「動いてっ!?」
「あっ、はい。すぐに調理しないとすぐに痛む食材と聞いたので、気絶させて生きたまま運んできました」
生きている、この巨大魚が?
ええと、ちょっと待ってくれたまえ。
この巨大魚は気絶してるんだよね? と言う事はこの魚が目覚めたら、暴れ出すんじゃないかな? ほら、普通の魚でも釣りたてはビッタンビッタンかなり元気よく跳ね回るよね?
って事はこの巨大魚が目を覚ましたら、そんな魚と同じようにビッタンビッタン……
私の脳裏に目を覚ました巨大魚がビッタンビッタン跳ね回り、大惨事となる光景が広がる。
当然そんな事になろうものなら、町は壊滅、傍にいる私は……
ビチビチッ
魚の尻尾がさっきより大きくなっている。
あの、これもしかして目を覚ましかけてませんかね?
「あの、これでよかった……ですよね? 他に巨大な魚もいませんでしたし。もし違ったのならすぐに正しい魚を捕まえに行き……」
「あっ、はい。これです。この魚です。試合に使うので今すぐシメて貰えるとありがたいですっ!!」
ビッタンビッタンされたくない私は、慌てて答えるのだった……
大会委員Σ(゜ω゜ノ)「ビッタンビッタンは嫌ぁーっ!」
モフモフ_Σ(:3 」∠)_「我のご飯がーっ!?(ご飯ではない)」
カラミティフィッシュ (,Α,)「星を見る事すら出来ない……」
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