第303話 魔物(食材)の群れを切れ!!
作者ヾ(⌒(ノ-ω-)ノ「確定申告の準備が終わったぞー!」
ヘルニー_(:3 」∠)_「あとの作業は税理士さんに丸投げよー」
ヘイフィー_(┐「ε;)_「さーて、それじゃ執筆ペースを戻していきますかー」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
◆リリエラ◆
「完成だぁーっ!!」
「「うおおーっ!!」」」
最期の一研ぎを終えた親方が仕事の完了を告げる言葉を告げると、工房の職人達が歓声を上げる。
「何とか納期に間に合ったぜ!」
彼らは口々に包丁の完成を祝いあう。
「いやー、焦った焦った。ついつい気合を入れすぎちまったもんな」
「だな、普段お目にかかれないような珍しい魔物素材と貴重な金属をわんさか提供されちまったら、気合を入れない訳にはいかねぇよ!」
どうやらレクスさんが提供した素材は、彼等の創作意欲を必要以上に刺激してしまったらしく、工房の持てる技術の粋を尽くして包丁を作り始めた。
そのけっか、彼等の言う通り、凝り過ぎてギリギリになっちゃったみたいなんだけどね。
「うぁーメチャクチャ眠ぃ」
この数日徹夜続きだった事もあって、彼等は工房の床に転がり始める。
「お前等、まだ仕事は終わってねぇぞ! 試し切りの食材を持ってこい!」
けれどそれを制したのは親方だった。
「へい!」
叱られた職人の一人が慌てて厨房に駆け込むと、魔物食材らしき肉や野菜を持って戻って来る。
「よし、切ってみてくれ。まずはストーンミートだ」
「……ああ」
包丁を受け取ったカロックさんが、魔物食材の表面に刃を当てると、肉なのにカツンという固い音が鳴る。
えっと、皮や鱗を剥いだ肉なのに何でそんな音がする訳……?
そんな疑問を抱きつつもカロックさんが食材に当てた包丁を自分の懐に引くように切ると、ストンと肉が切れた。
「「「おおーっ!」」」
「凄いな。じっくり煮込んでからでないと硬くて切れないストーンミートがバターを切るみたいに切れた」
「よし、次だ。今度はワタ毛大根を切ってくれ」
次の野菜は一見すると普通の大根なんだけど、何故か職人さんはそーっと高価な割れ物を運ぶかのようにおっかなびっくりとした様子で運んできた。
「これはまた厄介な食材だな」
そう言いつつもカロックさんは差し出されたワタ毛大根を綺麗に切断した。
「よぉし、良い腕だ。どれだけ良い道具を作っても、使い手の腕がヘボじゃ宝の持ち腐れだからな。このワタ毛大根を気負うことなく切断できるんだからよ」
そう言って親方が真っ二つになった綿毛大根を指で押すと、ズブズブと指が沈んでいく。
「うわっ、何それ!?」
「驚いたろ? 普通の包丁で切ろうとしたら、切断面が包丁に引っ張られてグチャグチャになっちまうんだよ。だからこういう繊細な食材を扱う時は、側面が濡れた氷みたいにツルツルに加工された包丁で切らないといけないのさ」
「ただそういう包丁は高いし手入れも大変だしで欲しがる奴は魔物料理職人くらいだけどな」
うっわ、滅茶苦茶面倒くさい食材ね。
そりゃカロックさんもお金が溜まってからと躊躇する訳だわ。
「よーし、これでようやく俺達もお役御免だ。アンタの活躍を見せて貰いてぇから、試合までひと眠りするとすっか。アンタも俺達に付き合って疲れただろ。試合までここで寝ておけ。床で雑魚寝だけどな」
「ああ……悪いな」
カロックさんも包丁の柄の調整の為に付き合っていたものだから、相当眠そうね。
宿に戻ろうとせず皆と同じように床に寝転がり始める。
「安心して! 試合前には私が起こすから!」
代わりにちゃんと寝ていたリレッタちゃんが目覚まし役を買って出る。
「ああ、任せた」
そして皆が眠ると工房は静かに……ならないわね。
職人たちのイビキが響いて全然静かじゃないわ。
カロックさんも良くもまぁこの中で眠れるわねぇ。
「あとは試合が始まるまで待つだけね」
特にする事もない私達には微妙に間が開いて退屈な時間だけどね。
と思ったらリレッタちゃんが首を横に振ってやりたい事があると言う。
「リリエラさん、皆が起きた時にご飯を作ってあげたいから、買い物に付き合ってください!」
成程、確かにお腹が空いたままで試合に出たら力が入らないものね。
「良いわよ。レクスさんはどうする?」
「……」
一緒に来ていたレクスさんに尋ねたのだけれど、何故か彼はじっと包丁を見つめていた。
「どうしたのレクスさん?」
「あ、いえ、なんでもありません。僕は念の為に工房の見張りをしてますよ。万が一完成した包丁を盗まれたら大変ですからね」
そっか、以前の食材の件もあったんだし、念には念を入れた方が良いわよね。
「分かったわ。じゃあこっちはリレッタちゃんの護衛任せて!」
「キュウ!」
するとモフモフが自分も行くとばかりに手をあげる。
「モフモフちゃんも私を護衛してくれるの?」
「キュ!」
任せろ! 言いたげにモフモフが胸を張るけれど、アンタの場合はついでに食べ物を買って欲しいだけでしょ。
まぁ良いか。ここに置いておいたら、包丁を勝手に触って怪我しそうだしね。
「「行ってきまーす」」
「行ってらっしゃーい」
……のちに私は、見張り役と護衛役を変わっておけば良かったと後悔する事になるのだった。
◆
「ふわぁ、まだ眠い」
試合時間が近づいてきた事で、リレッタちゃんが工房で寝ている皆を起こして回る。
流石に睡眠時間が短かったみたいで、皆眠そうだ。
「ほらお兄ちゃん、ご飯作ってあるから食べて食べて、あと濡れタオルも用意したから顔洗って」
リレッタちゃんは甲斐甲斐しくカロックさんの世話を焼いていく。
その姿は妹というよりお嫁さんかお母さんね。
「おおー、こりゃ豪華だ」
厨房を兼ねた食堂のテーブルに所狭しと並べられた料理に職人達が歓声を上げる。
「悪いな俺達まで」
「いえいえ、皆さんにはお兄ちゃんの包丁で迷惑をかけちゃいましたので。大したものじゃありませんけど、お腹いっぱい食べてください!」
「「「いっただっきまーす!」」」
徹夜続きで碌に食事をとっていなかった職人達が一斉に料理に群がる。
「おお、こりゃ美味い!」
「流石料理人の妹! 大したもんだ!」
「結婚してくれぇー!」
おいこら、誰だ最後のセリフ言ったの。衛兵に突きだすわよ。
「へぇー、美味いじゃないか。っていうか、お前いつの間に料理を作れるようになったんだ?」
カロックさんが感心すると、リレッタちゃんが誇らしげに胸を張る。
「ふっふーん、私もいつまでもお兄ちゃんに作って貰うだけじゃないないんだよ。宿の女将さんに料理を習い始めたんだから!」
そう、カロックさんがレクスさんに弟子入りした試合の後から、リレッタちゃんは宿の女将さんに頼み込んで料理を教えてもらうようになったのよね。
料理人のカロックさんにバレると恥ずかしいから内緒でって言ってたけど、あれはカロックさんに余計な気を負わせず、試合に専念して欲しかったからでしょうね。
「……そうか、頑張ってるんだな」
思わぬリレッタちゃんの成長に、カロックさんは感慨深げにしつつ料理を口に入れる。
「うん、だからお兄ちゃんは安心して大会に専念してね!」
「おう!」
ふふ、美しい兄弟愛ね。
あとモフモフ、お前は勉強しないのかって顔で足を引っ張らないで!
私はちゃんと作れるから良いのよ!
「キュウゥ~ン?」
よし、言葉は分からないけど喧嘩を売られたのは分かったわ。表に出なさい!
◆
「それでは、これより準々決勝、グラポテ選手対カロック選手の試合を始めます!」
幸い、試合会場までの道で妨害らしい妨害を受ける事もなく、無事試合が始まった。
「なお、第4試合は大会を盛り上げる為、特別ルールを採用します」
その言葉と共に試合の進行役が手を上げると、会場の中央を覆っていた大きな布が剥がされ、中から大量の食材が乗ったテーブルが姿を現す。
「ルールは簡単。大会運営が用意したこれらの食材を全種類使用して調理する事。一種類でも使わないのは失格! また食材を切らずに丸ごと使うのも失格となりますので注意してください! 必ず切って調理する事!」
ルールの説明が終わると、会場がどよめきに包まれる。
「おいおい、綿毛大根があるぜ」
「あっちはストーンミートだ。それに向こうはバルーンソルトか。厄介な素材ばかりだぜ」
「こりゃ腕前もそうだが、どれだけ良い包丁を持ってるかの勝負だな」
「いくらなんでもこいつぁエゲつねぇよ。金を持ってるかどうかが勝負の分かれ目じゃねぇか」
食材を見た観客達も、カロックさんと同じ懸念を口にしている。
やっぱり運営の悪質な横槍が入ってるみたいね。
カロックさん達は大丈夫かしら? そう思って試合会場内に視線を戻すと、何やら相手選手の……確かグラポテだったかしら? がカロックさんに話しかけていた。
「……」
「何か話してるわね」
私はレクスさんから(強制的に頭の中に)叩き込まれた盗聴用の聴力強化の魔法を発動させて二人の会話に聞き耳を立てる。
この魔法、普通の身体強化魔法と違って魔力の消費と発動を極限にまで減らせるから、周囲にバレることなくこっそり聞き耳を立てられるのよね。
まぁ普通の聴力強化を使ったところで分かる人が居るの? って疑問もあるんだけど。
ともあれ、これで会場内の音を聞くことが出来るわ。
「……前の試合で包丁を折ったばかりだってのに、運が悪かったな」
どうやらグラポテはカロックさんの包丁が折れた事を話題にしてるみたい。
「いや、寧ろ運が良かったのか? お前、他の調理包丁を持って無いだろ? ずっと一つの包丁だけを使い続けてきたみたいだしな。今なら料理の腕じゃなく、包丁が折れたって理由で辞退できるぜ?」
何とも嫌味な言い方をする男ね。
というか、普通に包丁を買い直したって思わないあたり、あの選手も町の包丁買い占めの事を知ってそうね。
ホント、この大会も大概真っ黒だわ。
「ははっ、次に参加する時は、最低限包丁を揃えて来るんだな!」
「ご忠告どうも。だが心配いらないぜ」
一方的に言いたい事を言って自分に宛がわれた簡易キッチンに戻ろうとしたグラポテに対し、ここで初めてカロックさんが言葉を返した。
「何?」
「調理包丁はこの通り用意してあるからな!」
そう言ってカロックさんが革の包みを広げると、その中に納まっていた何本もの包丁が姿を現す。
「な、何だと!?」
それを見たグラポテが初めて驚きの表情を見せる。
ふふん、驚いたみたいね。
「ど、どうやって包丁を用意したんだ!?」
「さぁて、どうやったのかな」
動揺するグラポテの問いを、カロックさんは不敵にはぐらかす。
「……ちっ、だが使い慣れていない包丁で満足に調理できると思うなよ!」
吐き捨てる様に負け惜しみを言いながらグラポテが簡易キッチンに戻ると、それを見ていた進行役が右手を上げる。
「両者戦意は十分のようです! それでは、第4試合……開始っ!!」
試合開始と同時にカロックさんとリレッタちゃんの二人が会場中央に置かれた食材を取りに向かう。
対してグラポテは簡易キッチンから動かず、代わりに彼の助手達が食材を取りに向かった。
そして簡易キッチンに食材が置かれると、すぐさま包丁を振るって調理を開始する。
「はぁっ!!」
グラポテが最初に選んだのは大きな貝の食材だった。
っていうか、貝を開くのに包丁って使う?
「おおっと! グラポテ選手見事な包丁捌きだぁー!」
けれど私の疑問に反して、進行役は興奮した様子でグラポテの包丁捌きに反応する。
「ヘルヘルシェルの殻は防具に使われる程固い事から、包丁殺しと料理人に敬遠される食材だ」
すかさず解説役を兼ねた審査員が食材の説明を行う。
うん、やっぱり包丁はいらないんじゃないの?
「普通の貝と違って、頭部にも殻をつけているから、頭を引っ込めると石の塊みたいに包丁を入れる場所が無くなるのが面倒なところですね。しかも中の凹凸に引っ掛けるから普通の貝のように中身をひっこ抜くのも難しいときたものです」
「ああ、それゆえ、料理人はヘルヘルシェルの殻の割れやすい部位を見抜いて調理する必要がある」
ますますもって包丁を使う意味が分からないわ。
「ねぇレクスさん、あれハンマーで叩いて殻を砕いちゃ駄目なの?」
「おっと、分かってねぇな嬢ちゃん」
私の疑問に答えたのは、レクスさんではなく一緒に観戦に来ていた工房の職人達だった。
「ヘルヘルシェルの肉は内側の殻にへばりついてるんだよ。しかも無理に引き千切ると中の肉があっさり千切れちまうんだ。しかも中にはかなり柔らかい内臓があって、これがまた苦いんだ。うっかりモツが破れちまうと、身に苦みが染み込んじまうのさ」
成程ねぇ。獣を解体する時に内臓をぶちまけない様にするのと同じって事ね。
「だがヘルヘルシェルの殻の入り口付近には、殻を軽くする為に内部が空洞になってる部分があるんだよ。料理人はそこを見極めて、空洞同士が繋がる様に刃を通して蓋を剥がすんだ」
「へぇー、そうなのね」
なかなか厄介ねぇ。カロックさんは大丈夫かしら?
グラポテからカロックさん達のキッチンに視線を向けると、丁度カロックさんもヘルヘルシェルを調理していた。
「オオッと、カロック選手もヘルヘルシェルに包丁を入れました! よどみない手つきで中の身を取りだす! これは素晴らしい!」
カロックさんの流れる様な手つきに進行役が手放しで褒める。
けれどそこでカロックさんがあれ? と首を傾げて作業を止めた。
「おや? カロック選手どうしたのでしょう? もしや包丁のトラブルか!? 前の試合に続いてこれは痛い!!」
やだ、マズイじゃない! まだ試合は始まったばかりなのよ!?
「嘘だろ!? 俺達の仕事だぞ!? そう簡単に刃こぼれなんか起きるもんかよ!!」
慌てる私達だったけれど、カロックさんは何事も無かったかのように次のヘルヘルシェルに手を伸ばす。
ああ良かった、トラブルじゃなかったのね。
カロックさんは二個目のヘルヘルシェルをまな板の上に置くと、すっと包丁を引いて真っ二つに両断した。
うん、あの切れ味ならトラブルは心配無さそう……ね?
「「「んん?」」」
何故か光景のおかしさを感じ、私達は思わず声をあげる。
あ、あれ? 何がおかしかったのかしら? 普通に食材を切っただけなのに……
「え、ええと、何か今おかしなものを見たような気が……気のせいでしょうか? カロック選手、順調にヘルフェルシェルを真っ二つに切って中の身を取りだしていきま……って、ええっ!?」
「嘘だろ!? ヘルヘルシェルを真っ二つに切ってるぞ!?」
「どうなってんだ!? あんな切り方したらどんな包丁もボロボロになっちまうぞ!」
そうだわ! あれだけ入り口付近を切るしかないって言ってたのに、何で普通に真っ二つに出来るの!?
見ればグラポテもカロックさんの行為に驚き手が止まっている。
ついでに言えば、工房の皆も目を丸くして驚いていた。
うん、そうよね。自分で手順を解説しておきながら、無理だと言った調理方法をされてるんだもん。
そして私達の困惑をよそに、カロックさんは次々と新しい食材を切り始めた。
「カロック選手、今度は超繊細食材のゴーストフルーツの調理を始めました! ゴーストフルーツは綿毛大根を越える程繊細な食材で、これを調理するには紙ほどの厚さしか持たない超極薄包丁を使うしかありません! しかし迂闊に調理すれば、ゴーストフルーツどころか超極薄包丁までも折れてしまいます!」
カロックさんはさっきの包丁包まれていた革の包みではなく、別に用意されていた木箱を開けて包丁を取りだす。
一見すると普通の包丁なんだけど、角度を変えた瞬間刀身が消えてしまうのは、進行役の言う通り、あの包丁が薄いという事なんでしょうね。
そして先ほどまでとはうって変わって、カロックさんは慎重にゆっくりとした動作でゴーストフルーツを切り始める。
「……ぷはぁ! 切った! 切りましたカロック選手! これは素晴らしい! ゴーストフルーツを難なく切って見せました!」
「いやこれは素晴らしいですね。あの速度でゴーストフルーツを切るのは正に達人業ですよ。店によってはあまりの調理難易度と調理時間の問題もあって、ゴーストフルーツを切る専門の包丁人が居るくらいですから」
へぇー、一つの食材を切る事だけを仕事にしてる人もいるのね。
「へへっ、流石は俺達の仕事だぜ」
「ああ、それにあの兄ちゃんの腕も本物だな」
工房の皆がうんうんと自分の仕事にご満悦だ。
「カロック選手、良い流れです! この勢いで次々とゴーストフルーツを切っていきまって、ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
はぁーっ!? 何でぇー!?
あれって滅茶苦茶繊細な食材だったんじゃないの!? しかも包丁の方も物凄く扱いが大変な物なんでしょ!?
私は工房の皆にあれはどういう事と聞こうと再び視線を戻す。
「え? 何で?」
「どうしてアレで折れないんだ?」
「ウッソ、怖い」
……ああはい、皆にも分からないんですね。
一体どうなってるの? 確かにレクスさんの修行を受けてカロックさんの調理技術は物凄い事になったわ。
でもどちらの食材も最初は普通の手順で切ってたのに、突然手順を替えて作業を始めている。
つまりそれはカロックさんもそうしないといけないと判断したってこと。少なくとも最初は。
でも今回の包丁は材料こそ私達が提供したものの、製作したのは工房の親方達で……はっ!?
そこで私はある光景を思い出す。
包丁が完成したあの時、レクスさんが何かを考える様に包丁をじっと見つめていた事を。
「……レクスさん」
私は試合を夢中になって見ている工房の人達に気付かれない様にこっそりとレクスさんに話しかける。
「はい、何ですか?」
「ねぇ、もしかしてだけど、あの包丁に何か細工した?」
「っ!? ……い、いえ、細工だなんてそんな」
わざとらしく視線を逸らすレクスさん。
やっぱり何かしたのねーっ!!
「一体何を下の!? 怒らないから言ってごらんなさい!」
「そう言う事言われて怒られなかった人いないと思うんですけどーっ!?」
「いいから教える!」
私の剣幕に観念したのか、レクスさんは悪戯がバレた子供のようにモジモジしつつ、私達が食材の買い物に出かけたあとの事を話始めた。
「実はですね、包丁が完成した後で親方達が大事な工程をいくつか忘れている事に気付いたんです」
「大事な工程って?」
「包丁の強度を増す為の工程や、切れ味を増す為の工程、それに繊細な食材を捌く為の刃先以外の部分の表面処理とかですね。他にも研ぎの工程も一部抜けていました。ああ、あと長期的な保存をする為の工程も抜けていたんですけど、たぶんこっちは納期を間に合わせるためにあえて行わずに、試合後にやるつもりだったんでしょうね」
と、レクスさんは次々と親方達が忘れていたらしい工程について説明を続ける。
いや、それ忘れていたわけじゃないと思うんですけど。
「今回は納期が短すぎましたし、工房の皆さんがあまり扱わない素材もあったみたいなので、こうした工程抜けが起きるのも仕方ないかなと判断して、最低限工房の皆さんのプライドを損なわない程度の作業をこっそりやらせて貰ったんです。疲れ果ててあとは寝るだけってところでまだ終わってませんよっていうのも申し訳なかったので」
成程、だからあの時何も言わずに包丁を見つめていたのね。
そして工房の人達が皆眠り、私達も買い物に出かけている間にこっそり(レクスさんにとって)最低限の仕事をしておいたと。
「……」
私は無言で試合会場のカロックさんに視線を戻す。
「なんとぉーっ!? 水も同然のウォータースライムの体を一時的に硬くするしょりをすることなく切断したぁー!? 嘘でしょ!? あれ普通に触ったら完全にただの水ですよ!?」
「信じられん! 一体どんな手段を使ったらウォータースライムがあのようになるのだ!? 料理人の技術か!? それとも包丁の性能なのか!?」
「おいおいおいおい、ホントにアレ俺達の包丁なのか!?」
「分からん! というか自信無くなってきた」
「素材? 素材のお陰なのか?」
会場はカロックさんの技巧が一体どうやって行われているのかと驚きと困惑に包まれる。
これ、あとで再現を求められたらマズイわよね。
多分だけど、カロックさんもあの包丁無しであの手際は再現できないと思うから、そうなると間違いなく包丁が原因になる。
で、もしそれを知った連中が自分も同じ事が出来ると勘違いして工房に仕事を依頼したら、全然切れないじゃないかって騒動になるわよ……
「ま、まぁ……いっか」
うん、不幸中の幸いだったのは、今回の仕事がお互いの為に秘密にしておいた事ね。
うっかりアレがあの工房の本当の実力だと周りに勘違いされなくて良かったわ。
人間、自分の実力以上の評価をされたらろくなことにならないものね。
モフモフ_Σ(:3 」∠)_「ヘルヘルシェルはヘル(地獄)ヘル(ヘルメット)シェル(貝)の略です」
ヘルヘルシェル_(┐「ε;)_「頭の殻の側面はらせん状の溝になってるから、ネジを回すように本体の殻にはまり込むんだよ」
モフモフ_Σ(:3 」∠)_「つまり相手はネジ頭をナメてツルツルになったネジなのだ。なお内部の空洞を繋げる作業は雑誌の袋とじについたミシン目に沿って刃物を当てて斬る感じです」
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださると、作者がとても喜びます。




