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第30話 黒い狐と男の勝負

_:(´д`」∠):_アヒーごめんなさい、今日も更新が遅れました。というか文字数ぇ……


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さの声援が作者の励みとなっております!

 僕達が買取を希望した魔物の中にカイザーホークが居た事で、何故かギルド内は騒然となってしまった。


「お、おい、マジであれカイザーホークなのかよ!?」


「ああ、ありゃ確かに最近荒野に住み着いたカイザーホークだ。まさかロディ達以外にアレを倒せるヤツが居るなんて……」


 んー? 別に大した事してないんだけどなぁ。

 ロディさんがカイザーホークを倒すと言っていたのも、コイツが特別強い魔物だからって訳じゃなく、王都の人達を守る為に討伐しようとしてただけな訳だし。


「……たいしたものだ」


 と、発言したのはロディさんだ。


「え?」


「コイツは俺達が倒そうと思っていたんだが、まさか先を越されるとは思っても居なかったよ」


「ええと、もしかして獲物を横取りしちゃいましたか?」


もしかしてロディさん達はカイザーホークの討伐依頼を受けた後だったのかな?

 だとすれば悪い事をしちゃったな。


「いや、気にする必要は無い。単にこちらが動くのが遅かったというだけの事だ」


 良かった、獲物の横取りをしてしまったとは思われなかったみたいだね。


「はははっ、明日から楽しみだよ」


 そう言うと、ロディさんは何事も無かったかの様にマントを翻して去っていく。


「……」


「ん?」


 ふと視線を感じたので振り向くと、僕の横をロディさんの仲間の女の人達が横切っていく。


「……」


 なんだろう、視線は動いていないんだけど、見られている感じがする。

 それもチクチクするような視線だ。


 なんというか、前世や前々世でよく感じた視線の気がするなぁ。


「レクスさん、受付の人が呼んでるわよ」


 と、そんな事を考えていたら、リリエラさんから呼ばれた。


「あっ、はい。何ですか?」


「カイザーホークの買取なのですが、通常のギルド買取に致しますか? それともオークションに出品いたしますか?」


「オークション?」


 え? またオークション?


「カイザーホークはSランクの魔物です。それにこのカイザーホークは刃物の傷や攻撃魔法による傷もありません。多少羽毛がケバ立っていますが、少し手入れをすれば綺麗になります」


「はぁ」


「一体どのような狩り方をしたのか分かりませんが、このカイザーホークは非常に綺麗な状態を維持しています。これならば素材として売る以外にも、剥製にして貴族の方々が飾る事も出来ます」


 へぇ、魔物の剥製なんて欲しがる人がいるんだ。


「ですので、ギルドといたしましてはオークションに出品する事をお勧めします」


 といっても、エンシェントプラントの件もあるしなぁ。


「オークションに出すといつ頃お金が入るんですか?」


「そうですね、次のオークションが二週間後ですので、その後に入金となります」


 僕はリリエラさんに視線を送る。


「良いんじゃないかしら? 元々その件で王都まで来た訳だし、出品する品が増えるというだけの話でしょ?」


 まぁ確かにそうか。

 どのみちエンシェントプラントのオークションが終わるまでは王都で活動するって決めてたもんね。


「分かりました、それじゃあオークションに出品させてください」


「承知いたしました」


 ◆


「……」


 宿に帰ってきた俺達は食事も終え、今は借りている部屋に戻っている。

 最上級の宿だけあって、室内の調度品は一級品でそろえられている。


 と言っても、あくまでもこの国の中ではだが。

 やはり大国の宿と比べればそれなりのでしかない。

 向こうの宿は最高級品でそろえられているからな。


「それで、何を怒っているんだお前達?」


 俺の可愛い仲間達はさっきからずっと不機嫌だった。

 具体的には冒険者ギルドを出てきてからだが。


「だって、折角ロディさんがこの国に来てあげたのに獲物が横取りされてたんだもん」


 と拗ねた口調で発言したのは剣士のマーチャだ。

 コイツは剣の腕は最高だが、それ以外の事には無頓着で育ってきた所為で性格が子供っぽい。

 まぁそんなところが可愛いわけだが。


「そうですよ! ロディ様の力を万人に知らしめる為に私達はやってきたと言うのに、これではロディ様が道化の様ではないですか!」


 なかなか辛辣な事を言ってくるのは僧侶のアルモだ。

 コイツは英雄に仕える事を夢見て育った文字通り夢見がちな所のある女だが、英雄に仕える為に鍛えてきただけあって、その実力は本物だ。


「呪う?」


 最後に物騒な事を呟いたのは魔法使いのチェーン。

 魔法学院のエリート魔法使いで、自分の学んだ魔法を実戦で使いこなしたいと言って俺のパーティに入ってきた変わり者の魔法使いだ。


 ただ、本人的には魔法よりも呪術の勉強の方が好きで、俺のパーティに入ってきた本当の理由も危険な呪術を誰にも咎められずに自由に使いたいからというとんでもない理由だと後で分かった。


 正直言ってどいつもコイツも曲者ぞろいだが、そんなコイツ等にも一つだけ共通する点があった。


 それは俺を心から愛しているという点だ。

 だからコイツ等は俺の活躍を邪魔したあの少年に敵愾心を抱いていた。


「そう怒るな。単に俺に匹敵する力の持ち主がこの国にも居たというだけだろ」


「ロディさんよりも強い人間なんていないもん!」


「ロディ様よりも強い人間なんていません!」


「ロディよりも強い人間なんていない!」


 はははっ、可愛い事を言ってくれる。


「そうとも限らないさ。世の中は広い。そう、たまたまこの国にも俺以外のSランクが来ていたというだけの話だ」


「Sランク!? あの子が!?」


「どう見ても子供でしたよ!?」


「信じられない!」


 ふっ、相手を見た目で判断するあたりはまだまだ未熟だな。


「だが現にSランクの魔物であるカイザーホークを討伐した。どんな手段を使ったかは分からないが、実力は間違いないだろう」

 

「そ、それはまぁ……」


「認めざるを得ませんね」


「ぐぬぬ……」


「面白いじゃないか、一つの国に同じSランクが揃うなんてさ」


 そう、Sランクの冒険者が同じ場所でカチ合うなんて事はそうそうない。

 何しろSランクはAランク以上の曲者ぞろいだ。


 常人の頂点をAランクとすれば、俺達Sランクは才能を持った者の頂点。

 そこに真っ当な性格のヤツが居るはずがないのだ。

 連中が何を考え、どこで何をしてるのかを理解できるヤツなんて誰も居ない。

 そんな変人ばかりだから、ギルドの連中だって他のSランクの場所は把握できないでいた。


「ああ、明日が楽しみだな」


「ロディ様?」


「オレが本気で戦えるかも知れない相手と、こんな所で出会えるとはな」


「ロディさん、もしかして戦いたいの?」


「ああ、ヤリ合いたいな。本気で」


「でも理由も無く同じ冒険者同士で戦うのはご法度」


「分かっているさ。だが、戦う方法は剣を交える事だけじゃない」


 そう、俺達は冒険者だ。

 だったら、冒険で戦えば良い。


 ◆


「朝から混んでるなぁ」


 翌日、冒険者ギルドへやって来た僕達は、依頼ボードへやってきたんだけど、ビックリするくらいの人だかりにげんなりしていた。


「これは人がはけるまで待った方が良いわね。こんなに混んでいたら、依頼を吟味する暇も無いわ」


「確かにそうですね」


「キュウン」


 リリエラさんの言うとおりだ。

 これじゃあ依頼を受ける前に疲れ果てちゃうよ。


「はははっ、余裕だな」


 と、僕達に誰かが話しかけてきた。


「貴方は……ロディさん!?」


 なんと僕達に話しかけてきたのは、Sランク冒険者のロディさんだった。


「君達も依頼を受けに来たんだろう?」


「え、ええ」


 何でSランクのロディさんが僕なんかに話しかけてくるんだ!?


「けどこれじゃあ碌な依頼が取れないだろ」


「あはは、かもしれませんね」


 多分ロディさんが言うとおり、めぼしい依頼は取られちゃうだろうなぁ。


「だったら、この依頼なんてどうだ?」


 そういってロディさんが取り出したのは、魔物退治の依頼だった。


「これは?」


「王都周辺に出没する様になったAランクの魔物の討伐依頼だ」


 そこに書かれていたのはシャドウフォックスという魔物の討伐依頼だった。


「確か年齢重ねるにつれて強くなる魔物でしたよね」


 シャドウフォックスは長寿の魔物と言われ、成長のピークが遅い為に年齢が高いほど強いと言われる魔物だ。


「ああ、しかも群れの中には結構な大物を見たという報告があってな、AランクからSランクの依頼に変更するかギルドが検討してた案件だ。元々俺達が受ける筈の依頼だったんだが、カイザーホークを倒せた君なら出来るんじゃないかと思ったのさ」


 そう言いながら、ロディさんがニヤリと笑う。


「どうだ? コイツの討伐でどちらがより大物を倒せるか勝負しないか?」


「勝負ですか!?」


「ああ。勝った方が報酬を受け取るというのでどうだ?」


 ええっと、どうだと言われてもなぁ。

 だいたい僕とSランクのロディさんじゃ勝負にならないだろうし。

 どうしよう……。


「ねぇ、受け取るのは報酬だけなの?」


「え?」


 僕が悩んでいたら、横からリリエラさんが会話に加わってきた。


「それはどういう意味だいお嬢さん?」


「そちらから勝負を申し込んできて、勝者に与えられるのが報酬だけっていうのは安すぎないって話よ」


 ちょっ、相手はSランクの冒険者さんなんだよリリエラさん。

 さすがにそれは失礼だよ。


「貴方、ロディ様相手に失礼ですよ」


「そうよ、ロディさんになんて口を利くのよ!」


「しかも勝つつもりでいるの?」


 ほらロディさんの仲間の人達が怒っちゃった。


「勝負を仕掛けてきたのはそっちなのよ。だったらこちらが勝負を受けるメリットがあって然るべきだわ」


 けれどリリエラさんは一歩も引かない。

 Sランクパーティ相手にもの凄い度胸だ。


「ふむ、確かにそちらの言い分も一理ある。ならこちらはコレを賭けよう」


 そういってロディさんは懐から一本のナイフを取り出した。


「こいつはマジックアイテムで名を『ティンダーナイフ』という。文字通り刀身に火を発するナイフで、これがあればいつでも火種いらずだ。洞窟で松明の代わりにも使ったりと、魔法使いに無駄な魔力を使わせないで済む便利な品だ。勿論武器としても使える。これでどうだ?」


「うん、それなら賭けの景品として十分ね。その勝負受けたわ」


「ちょっリリエラさん、勝手に!?」


 勝手に勝負を受けたリリエラさんに文句を言おうとしたら、リリエラさんが僕の肩を抱いて耳元でささやく。


「受けておきなさい。昨日のカイザーホークの件で貴方は目を付けられているのよ。こっちは意図していなかったとはいえ、向こうの獲物をかっさらった形になってるんだから」


 そ、そう言われるとそうかも……


「だから勝ち負けは別として一度真っ向から戦ってあげなさい。そうすれば向こうも結果に納得するわ」


 そこまで考えてリリエラさんは勝負を受けたのか。


「じゃあ賭けの景品を上乗せさせたのも何か意味があるんですね?」


「……」


 あれ? 黙っちゃった。


「か、駆け引きってヤツよ。相手の要求を無条件に受けたら舐められるでしょ? ちゃんとこっちからも強気に出ないと」


 なる程、そこまで考えてリリエラさんはロディさんを挑発したんだ。

 これも冒険者としての世渡りって事だね。


「おおっ!? ロディとカイザーホークの新入りの勝負か!?」


「Sランクの戦いとはコイツは見逃せねぇぜ!」


 って気がついたら周囲には人だかりが出来ていて、僕達が勝負をする事が皆に知れ渡っているみたいだった。


「よし、それじゃあ勝負開始だ! 期限は今日の夕方! それまでに討伐できなくても負けだ!」


「わ、分かりました!」


「ふっ、君がどんな大物を倒せるか、楽しみにしているぞ!」


「が、頑張ります!」


 ◆


 王都を出た僕達は、シャドウフォックスが目撃されたという森へとやって来た。


「さて、これからどうするの?」


「って、ノープランだったんですか!?」


 リリエラさんまさかのノープランです。


「だって相手の狙いは貴方だもの」


「勝負を受けたのはリリエラさんなのに」


「さっきも言ったけど、ああいう手合いは放っておくと後がしつこいのよ。早いうちにガツンとやって分からせてやらないとね」


 ……もしかして過去にそういう経験あります?


「キュッキュッ!」


 と、リリエラさんと話し込んでいたら、モフモフが森の中へと駆け出す。


「あっモフモフ!?」


 見ると森の入り口に魔物の姿が見える。

 どうやらお腹が空いてご飯が食べたくなったみたいだ。


「しょうがないわね。あの子は私が面倒見るから、レクスさんはシャドウフォックスの方を頑張って」


 と言ってリリエラさんはモフモフの方を追いかけて森の中に入っていってしまった。


「しょうがない、僕も動くか」


 ◆


「さて、そろそろシャドウフォックスが出てくるかな」


 僕は探査魔法を使って森の中の魔物の気配を察知する。


「これは小物、こっちも小物……居た!」


 森の中を動く魔物の気配の中で、独特の動きをしてる魔物を感知した僕は、その地点へ向かって一直線に向かっていく。


 そして森の中で一際暗い闇の中に居たそいつを僕は発見した。


「見つけた!」


 それは闇ではなく、闇のように暗い毛皮の狐だった。

 大きさにして3m近い狐だ。


「あれは……大きすぎる。止めよう」


 予想以上に見つけたシャドウフォックスが大きかったので、僕はターゲットを変えて別の場所に居るシャドウフォックスを探す事にした。


「もっと小さいシャドウフォックスは居ないかな」


 森の中を駆け抜け、何頭ものシャドウフォックスと遭遇するも、大きい個体ばかりで上手くいかない。


「そろそろ日が暮れる。早く見つけないと」


 と、時間も迫ってきて焦っていた時、探知魔法に新たなシャドウフォックスの気配が引っかかった。


「今度はどうだ!?」


 急いで目的の地点に向かうと、そこに居たのはとても小さなシャドウフォックスの姿。


「見つけた! これならイケる!」


 シャドウフォックスが近づいてくる僕の姿に気付き、臨戦態勢を取る。


「クォォォォォーン!!」


 雄たけびを上げて凄まじい勢いでこちらに突撃してくるシャドウフォックス。

 一瞬で距離を詰めてきたシャドウフォックスが牙をむき出しにして飛び込んできた。

 狙いはこちらの喉元だ。


「なんの!」


 向こうの狙いが分かっていた僕は、シャドウフォックスの攻撃を回避して変異種の剣を叩き込む。

 今回の勝負には獲物の状態を気にする必要は無い。

 シャドウフォックスは体をひねって僕の攻撃を回避しようとするけど、自らの速さが災いして自分から僕の剣にぶつかっていく形になる。

 そして僕等が交差した後には、水平に切り裂かれ真っ二つになったシャドウフォックスの姿があった。


「よし、急いでリリエラさん達と合流して王都に戻ろう!」


 ◆


「遅かったじゃないか」


 王都の冒険者ギルドに戻ると、既にロディさん達は帰還していた。


「すみません、遅くなりました」


「間に合ったのだから、構わないさ。さぁ、お互いの獲物を見せ合おうじゃないか!」


「はい!」


 僕は魔法の袋から自分の狩ったシャドウフォックスを取り出して鑑定台の上に置く。

 

「何っ? それが君の獲物か?」


 僕の倒したシャドウフォックスを見たロディさんが肩透かしを食らったような顔をしている。


「正直期待はずれだな……まぁ良い、これがオレのシャドウフォックスだ!」


 そういってロディさんが床に置いたのは、実に4m近い大きさのシャドウフォックスだった。


「おおー! さすがSランクだぜ! なんてデカさだ!」


「ああ、さすがはサイクロンのロディだ!」


「あのボウズは相手が悪かったな」


「やっぱりカイザーホークを倒したのは偶然だったか?」


 ロディさんの討伐したシャドウフォックスを見て、冒険者さん達が歓声を上げる。


 でも、うーん……大きいんだけど、アレって……。


「正直言えば、もう少し楽しめるかと期待していたんだがな」


 ロディさんがやれやれと言った様子で僕を見てくる。


「しょうがないわよ。ロディさんが相手なんだもの」


「そうですよ、これに懲りたら貴方達も生意気な口をきくのはおよしなさい」


 え? 生意気な口なんてきいた覚えないんですけど。

 というか僕が負けた流れなのコレって?


「うん、ロディに楯突くのが間違ってる」


 ええと……どういう事?


「ではこの勝負はオレの……」


「ちょっと待ちな」


 と、ロディさんが勝敗を告げようとした時、ギルドの奥から現れた誰かが待ったをかけた。


「誰だ一体……ってアンタは!?」


 ギルドの奥から現れた人の姿を見たロディさんが驚きに身を固める。

 奥から姿を表したのは髪の毛の真っ白なおじいさんだ。

 でもその体からはただならぬ気配を感じる。


「ギルド長!? どうしてここへ!?」


 と、僕達の討伐した獲物を鑑定していた受付の人がおじいさんを見て驚きの声をあげる。


「ギルド長!?」


「おう、オレがこのギルドの長、ウルズだ」


 まさかのギルド長の出現に、ギルド内が騒然となる。


「何故止めたギルド長?」


 ロディさんが勝負に待ったをかけたギルド長に疑問を投げかける。 


「そりゃこっちの話よ。この勝負はどっちが大物を倒すかの勝負なんだろ? だったら大きさで勝負を決めるのはおかしな話ってもんよ」


「どういう事だ?」


「大物勝負なんだから、デカイ方が大物だろ?」


 周囲の冒険者さん達がどういう事だと困惑している。


「どうやらお前さん達若い連中は知らねぇみたいだな」


「知らないって何をだ?」


 ロディさんが訝しみながらギルド長に問いかける。


「シャドウフォックスってのはな、大きければ強いってもんじゃねぇのよ」


「何っ!?」


「いいか、シャドウフォックスは成長するにつれて大きくなる。大体3m前後だな」


「それならロディさんが狩ったコイツは4mだから十分大物じゃない!」


 と、ロディさんの仲間の女の人が抗議の声を上げる。


「黙って聞いてろ。いいか、シャドウフォックスは成長するにしたがって大きくなる。だがな、ある時を境にシャドウフォックスは小さくなるんだ」


「小さく!?」


「そうだ、しかも小さくなっていくシャドウフォックスは、デカく成長している時期のシャドウフォックスと比べてかなり強い。しかも凶暴だ」


「小さいほうが強い!?」


「マジかよ!?」


「信じられねぇな」


 ギルド長の話を聞いた皆が信じられないと首をかしげている。


「ふむ、オレの言葉が信用できねぇみたいだな」


 と、その時、ギルド長が僕のほうを見る。


「なぁボウズ。お前さんなんでそのシャドウフォックスと戦ったんだ? それよりデカいシャドウフォックスはいくらでも居ただろう?」


「え、ええ。大きいだけのシャドウフォックスは一杯いました。でも今回は大物勝負だったので、このシャドウフォックスを探してたんです」


「何だって!? 君は狙ってコイツを狩ったのか!?」


 ロディさんが信じられないといった顔で僕を見る。


「なぁボウズ、コイツ等に教えてやってくれ。何でお前さんがコイツを選んだのかをよ。お前さんなら、誰もが黙って認める理由も知ってるんだろう?」


 ああ安心した。

 皆があんまりロディさんのシャドウフォックスを凄い凄いって言うから、知らない間にシャドウフォックスの価値が変わっちゃったのかと思ってビクビクしてたけど、ギルド長の発言から察するにどうやら違うみたいだ。

 でもだったらなんで皆こっちのシャドウフォックスの価値に気付かなかったんだろう?


「ギルド長の言うとおり、僕がこのシャドウフォックスを選んだのには理由があります。それはコレです!」


 と、僕は真っ二つに切断されたシャドウフォックスから、あるものを取り出した。


「それは……魔石か!?」


 そう、ロディさんが言うとおり、僕が取り出したのはシャドウフォックスの核石、つまり魔石だ。


「そうだ、シャドウフォックスはAランクの魔物だから魔石を持っている可能性が高い。そして小型のシャドウフォックスになると、その魔石がより大型になるんだ」


「小型の方が魔石が大きいのか!?」


「シャドウフォックスは体が小さくなるにつれて強さと魔石がデカくなる魔物だ。とはいえ、ここ最近は体の大きいシャドウフォックスの毛皮目当てに狩るヤツばかりで、その辺を知らん連中ばかりになっちまったみたいだな」


 ああ、なる程。毛皮目当てで若いシャドウフォックスばかり狩られていたから、核石の大きい年をとったシャドウフォックスが居なかったのか。


「そっちのシャドウフォックスも解体してみな。魔石があったとしてもこっちのヤツよりも小さいだろうからよ」


「は、はい!」


ギルド長に言われて、待機していた解体師さんが慌ててロディさんのシャドウフォックスの解体を始める。


「ありました、魔石です!」


 そして解体師さんが取り出した核石に皆が注目する。


「小さい……」


 誰かが口にした通り、ロディさんのシャドウフォックスから出てきた核石は僕のシャドウフォックスの核石の半分以下の大きさだった。


「じゃあこの勝負……」


 冒険者さん達がギルド長を見る。


「ああ、そっちのボウズの勝ちだな」


「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!」」」」」


 ギルド長の宣言に冒険者さん達が歓声をあげる。


「すげぇ! あのボウズSランクに勝ちやがった!」


「カイザーホークを倒したのは偶然じゃなかったって事か!」


「若ぇのにたいしたもんだ!」


 冒険者さん達が口々に僕達を祝福してくれる。

 なんだか照れるなぁ。


「納得いかないよ!」


 と、その時、ロディさんの仲間達が声をあげる。


「そうよ! ロディ様の倒した獲物の方が大きいのよ! こちらの方が凶悪に決まっています!」


「……」


 どうやら彼女達は勝敗に納得がいかないみたいでギルド長に抗議を開始する。


「小さいほうが強いなんて信じられないよ! 大きい方が体重もあって危険じゃないか!」


「そうです! 小さい方がどう見ても弱そうですよ!」


 ありゃりゃ、これは困ったね。

 実際に強いのは小さい方なんだけど、もう死んでるから強さを証明する事も出来ないからなぁ。

 けれど、そんな彼女達をロディさんが制止した。


「やめないか二人とも」


「でもロディさん!」


「ギルド長が彼の勝利を宣言しているんだ。いまさら文句を言っても恥ずかしいだけだ」


「そんな……ちょっとチェーン! 貴女からも何とか言ってくださいよ!」


「……無理」


 と、魔法使いさんが首を横に振った。


「魔石の大きい魔物は強い。だからあっちの魔物の方が強い」


 おや、あの魔法使いさんはこっちを擁護してくれるみたいだ。

 多分魔法使いだから、魔石の大きさの価値を仲間の人達より深く理解しているのかな。


「チェーンの言うとおりだ。事実はひっくり返らない。俺達は負けたんだ」


「「そんな……」」


 ロディさんの仲間達がガックリと肩を下ろす。

 よかった、とりあえずは収まったみたい。


「騒ぎ立ててすまなかったな」


 と、ロディさんがこちらに謝罪してくる。


「い、いえ。実際小さくて強さが分かりにくいですから仕方ないですよ」


「そう言ってくれるとありがたい。ほら、お前達も謝るんだ」


「ううう……ごめん」


「……申し訳ありませんでした」


 まだ納得いかないといった様子で二人が謝ってくる。

 そして魔法使いさんも僕に頭を下げた。


「謝罪する。君達は凄い。私、自分が知らない事を知ってる人を尊敬する」


「あはは、あんまり気にしなくて良いですよ」


 うん、やっぱり悪い人達じゃないみたいだ。

 きっとロディさんが好き過ぎて負けた事を受け入れられなかったんだね。


「これを受け取ってくれ、賭けの品だ」


 そう言ってロディさんが差し出してきたのは、賭けを申し込まれた時に提案されたマジックアイテムだった。


「本当に良いんですか?」


「ああ、受け取ってくれ。君が勝ったんだからな」


 そう言ってロディさんが僕の手にナイフを握らせる。


「分かりました。ありがたく使わせて貰います」


「ああ、それと、もう一つの賞金だ。このシャドウフォックスも君が受け取ってくれ。賭けに勝ったほうが報酬を独り占めする約束だったからな」


 なんだか貰ってばかりで悪いなぁ。


「ああそうそう、俺はまだしばらくはこの国に滞在する予定だ」


「そうなんですか?」


「だから、また面白い依頼があったらまた戦ってくれ!」


「はい!?」


「俺と互角以上にやりあえる人間なんてそうそう居ないからな! ひさびさに楽しみが出来たよ!」


「あ、あはは……」


 もしかして、これから先もこの人に勝負を挑まれるのかなぁ。

 うう、面倒な人に目を付けられてしまったかも。


「キュッ! キュキュ!!」


 と、その時だった。

 リリエラさんの腕の中に居たモフモフが急に変な声を上げた。


「何!? どうしたの!?」


 皆が何事かとモフモフを見つめる。

 するとモフモフの喉が膨らんで、口から何かを吐き出した。


「モギュップ!」


 そしてカランコロンと吐き出した何かが地面に落ちる。


「これは……魔石?」


 うん、確かにこれは魔石だ。


「あっ、そういえばさっきこの子、森で小さいシャドウフォックスを倒して食べてたわ。その時に一緒に飲み込んじゃったのね」


 と、リリエラさんが世間話のノリで説明する。


「この生き物がシャドウフォックスを倒したのか!?」


 ロディさんが嘘だろ!? と目を丸くして驚く。


「というかアレなんだ? 犬か?」


「いやネコ? ウサギ? 本当何だアレ?」


 冒険者さん達は違う意味でモフモフが気になってるみたいだ。


「ほう、こりゃ中々の大きさだ。そっちのSランクが狩ったヤツよりデカいんじゃねぇのか?」


 とギルド長がモフモフの吐き出した魔石を見て言った。


「「「「「ええっ!?」」」」」


 確かに、よく見れば僕の狩ったシャドウフォックスの魔石ほどじゃないけど、ロディさんの魔石よりも大きい。


「お、俺の魔石が、この良く分からない生き物が倒した獲物のよりも小さいだって……?」


「ギュッギュッ!」


 何故だろうか、僕の目にはモフモフがロディさんに対して勝ち誇っているようにも見えたのだった。

_Σ(:3 」∠)_ 哀願動物「ご主人に勝負を挑むなど100年早い」

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