第299話 妹の奮戦
作者(:3)∠)_「お待たせしましたー。連載再開だよー」
ヘルニー(:3)∠)_「先週がお休みになってしまったので、今週は月、水と2話更新よー」
ヘイフィー(:3)∠)_「新しい洗濯機めっちゃ静かです」
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◆リレッタ◆
「お兄ちゃん達遅いなぁ……」
私は試合会場の控室でお兄ちゃんを待っていた。
というのも、目が覚めた時お兄ちゃんはどこにも居なかったの。
私の面倒を見る為に残ってくれていたらしいリリエラさんの話だと、何故かレクスさんに弟子入りして、修行の為に外に出て行ったんだって。
何で冒険者のレクスさんに弟子入りなんてしたんだろう? 食材魔物を狩る為かな?
でも今日は大事な試合の日。遅刻したら失格になっちゃうのに何で今日なの?
慌てる私だったけど、リリエラさんはレクスさんならちゃんと間に合うから、安心して待ってましょと言って私を宥めてくれた。
良いなぁリリエラさん、大人の女って感じ。おっぱいも大きいし。
やっぱりレクスさんと恋人同士なのかな? 二人きりで冒険してるみたいだし。
お兄ちゃんにもリリエラさんみたいな人が恋人になってくれたら少しは落ち着いてくれるのかな?
うーん、無理かな。お兄ちゃんは料理の事しか頭にないからなぁ。
珍しい料理や食材の話を聞くと後先考えず飛び出しちゃうもんね。
まぁ一緒に面白いものや美味しいものが食べれるから、そこは良いんだけど。
ただお兄ちゃん思い込みが激しいからなぁ。
前に私が風邪ひいて熱を出した時も、突然お店を持とうとか言い出したし。
突然レクスさんに弟子入りしたのもいつもの思い込みなんじゃないかなぁ。
はぁ、お兄ちゃんが落ち着くにはまだまだ時間がかかりそう。
「って、今はそれどころじゃないんだった!」
結局お兄ちゃん達は出発時間までに戻ってこず、先に私とリリエラさんだけが食材を持って試合会場までやって来た。
リリエラさんは選手じゃないから控室まで来てもらう事は出来なかったけど、代わりに魔法の袋を貸してくれたの!
凄いよ! 魔法の袋だよ! こんな小さな袋に沢山物が入るの!
私だけだと食材を運べないからって、リリエラさんが貸してくれたんだけど、こんな貴重なマジックアイテムを貸してくれるなんて、きっとリリエラさんは物凄い冒険者か超お金持ちのお嬢様だよ!
と言う訳でお兄ちゃんがこないだけでなく、とんでもない貴重品を持っているという意味でも私は凄く緊張していた。
うう、早く来てよお兄ちゃん!
「なんだ、兄の方は来てないのか?」
そんな時だった。突然誰かが私に話しかけてきたの。
「えっと誰で……あっ!?」
振り向いた先に居たその姿に私は衝撃を受ける。だってこの人は……
「久しぶりだな。前回の大会以来か」
前の大会でお兄ちゃんが負けた人! 名前は……忘れた!
「ふっ、そう睨むな。アレは正々堂々とした勝負の結果だ」
言ってる事は私にだって分かる。でもそれでも悔しいんだもん!
「それで、お前の兄はどこにいるんだ? まさか妹を置いて逃げたのか?」
「ち、違うもん! お兄ちゃんはギリギリまで修行をしてるだけだもん!」
「修行? 今更そんな悪あがきをしてるのか?」
お兄ちゃんが負け……お兄ちゃんの対戦相手が呆れた顔になる。うう、それについては私もなにも言えないよぉ。
「選手の方、入場をお願いします」
どう反論しようと考えていたら、係の人から会場に向かうように言われる。
って、マズイよ!? お兄ちゃんまだ来てないのに!
「分かった。だが私の対戦相手はまだ来ていないみたいだぞ」
「え? あれ、カロック選手は?」
言われた係の人が私に尋ねてくる。えっと、えーっと……
こ、こうなったら……!
「お兄ちゃんはすぐに来ます! それまでは私が代わりに調理をします!」
「ええっ!? 君が!?」
係りの人は冗談だろ? とばかりに私を見るけど、私は本気だよ!
だってそうでもしないと失格になっちゃうんだもん!
「私はお兄ちゃんの助手ですから! お兄ちゃんが来るまでに食材の下処理をします! それならちゃんと試合に参加してる事になる筈です!」
「いやそれは……」
「はははははっ、良いじゃないか。大会に助手を参加させる選手は他にも居るんだ。その娘の言う通り調理をしていれば参加してる事にはなるだろう」
「対戦相手である貴方がそう仰るのなら……一応上に掛け合ってきます」
そう言って係の人は控室を出て行った。
「あの……ありがとうございます」
この人は敵だけど、一応は助けてくれたし……
「ふん、勘違いするな。お前が食材を台無しにするのも面白いかと思っただけだ」
「なっ!?」
むきー! やっぱ嫌な人!
「許可が出ました。ただし制限時間までに料理が完成しなかった場合は規定通りに失格となります」
「わ、わかりました!」
が、頑張らなきゃ!
◆
対戦相手の人に続いて会場に入ると、観客席から響いてきた歓声が私の体に響いてきた。
あ、あれ? おかしいな。第2試合まではそんなに緊張してなかったのに、何でか胸がドキドキして息が上手くできないような……?
「これより第3試合、メロオーレ選手対カロック&リレッタ兄妹の試合を開始します!」
係の人が試合の開始を告げると、周囲からどよめきが起こる。
あっ、この人メロオーレって言うんだ。
「なお、カロック選手はトラブルで会場入りが遅れてる為、到着までの間は助手のリレッタ選手が調理を担当する事になります」
私が調理をすると聞いて更にどよめきが大きくなる。
「おいおい、あんな子供が調理するのか?」
「食材を無駄にするだけだろ?」
な、なによ! 私だってちゃんとお兄ちゃんの助手をしてきたんだからね! 野菜の皮剥きをしたり、魚のウロコ取りをしたりとか……って碌な仕事してなーい!?
「それでは第三試合、開始っ!!」
あわわ、よく考えたらウチのご飯ってお兄ちゃんが料理の修行だからって全部やってたよ……
私の仕事と言えば、屋台やお皿の掃除、それにお金のやり取りと帳簿作業とかばっかりだった!
「で、でもやるしかないだもん!」
試合の時間は限られていて、審査員の人達の横に置かれてるあのでっかい砂時計の砂が落ちるまでに料理を完成させないと失格になっちゃうんだよ。
私がやらなくちゃいけないのは、お兄ちゃんが来た時にいつでも調理が始められるよう食材の下準備をすること!
私はお兄ちゃんの調理を思い出しながら、野菜の皮むきを始める。
大丈夫、お兄ちゃんが作り続けていた料理はずっと見てたから、何の食材を準備しておけばいいのかは分かる。
いつもは屋台を出す前に下処理をするから、そこまで時間を気にしなくて良かったけど、今回は時間制限のある大会。
お客さんの多い日のようにその場で追加の下処理をする気持ちで作業しないと!
丁寧に、でもお客さんを待たせない様に急いで食材の下処理を行う。
「「「「おおおおおっ!!」」」」
私が下処理をしていると、会場がどよめきに包まれる。
顔を上げれば対戦相手の調理台から派手な炎が空高く吹きあがっていた。
火の扱いに失敗した? と思ったけどそうじゃなかった。
炎の中心には、鉄の棒で吊り上げられた大きな肉の塊の姿が見えた。
けれどお肉は焦げたりせず、寧ろ自分で出す油で更に炎を煽っているかのようだった。
更に油が垂れて炎に焼かれる度に何とも言えない良い匂いが漂ってくる。
「これはフレイムポークの肉ですね。非常に脂が多く、普通に調理したら油が多すぎてくどいのですが、高温の炎で炙る事で余計な脂を落とす事が出来るんです」
審査員席の人が対戦相手の食材を説明する声が聞こえてくる。
「それにしても良い匂いですね」
「ええ、フレイムポークの脂はかなりの高温でないと溶けない厄介な脂なんですが、溶けた油を燃やすとこのように非常に良い香りを放つのです。そして……」
審査員の言葉に続くように、対戦相手の助手が肉の下に置いていた金属の皿をカギの付いた鉄の棒に引っ掛けて取り出す。
そして皿の中身をお玉で掬うと、対フライパンの中に投入する。
流れる様に対戦相手が下処理を終えていた野菜を投入すると、再び香ばしい匂いが会場内に覆った。
ただしその匂いはついさっきまでの脂の匂いとは微妙に違う。
「このようにフレイムポークの溶けた脂は別の食材と組み合わせる事で匂いが無限に変化するのです。その事から料理の香水とも呼ばれるのですよ」
「料理においては匂いは重要な要素。勿論前大会3位の腕は味の不安もありません。今大会では多角的に技術を磨いて参戦した模様です」
あわわ、何か審査員達も絶賛してるし凄そうだよぉー!?
と、そんな事を考えていたら対戦相手と目が合う。
「なんだ、まだ下処理も終わってないのか? 随分と余裕だな」
「なっ!?」
「それに今から調理して間に合うのか?」
「え?」
そ、そう言えばここから料理を始めるんだよね? よく考えたら私まだ竈門に火をつけてなかったよ!? お湯が沸くまでどのくらいかかるの!?
緊張していたせいで肝心な準備を忘れていた事に気付く。
あわわわっ、は、速く準備しないとお兄ちゃんが来ても何もできないよ!?
私は慌てて竈門に火をつけ、鍋にお湯を沸かす。
けれど鍋の中の水は一向に温まる気配を見せない。
どどどどうしよう!? もっと薪を足す? 駄目、そんな事をしても残りの調理時間を示す大砂時計の砂が落ちきっちゃうよ!
「ふん、話にならんな。下準備もまともに出来ない未熟な妹と試合から逃げ出す兄とはな。だがまぁ会場にやって来ただけ、お前の方がまだマシか」
「お兄ちゃんを馬鹿にするな! お兄ちゃんは絶対間に合うんだから!」
「今からやって来て何が出来る。見ろ、大砂時計はもう落ちきる寸前だ。たとえ間に合っても何も出来ず恥をかくだけだ」
「っ!?」
言い返したいのに何も言えない。
だってそんな事は私が一番分かっているからだ。
だけどそれでも、お兄ちゃんが負けるなんて認めたくない!
「早く来てよお兄ちゃん!!」
その時だった。突然背後からどよめきが聞こえて来たの。
「もしかしてお兄ちゃ……ん?」
振り返った先に居たのは、私の願った通りお兄ちゃんだった。
ただ、その姿はボロボロで、目も虚ろで……
「ど、どうしたのお兄ちゃん!?」
慌てて私が駆け寄るも、お兄ちゃんは私を見るでもなく何かをブツブツと呟いていた。
「新鮮さを保つ為に懐に入って急所を一撃、即座に解体、各種包丁は宙に浮かせて取りだす時間を省く、食材の切断線を瞬時に見極める事、冷却と解体は同時進行、下処理は時間との勝負、熟成術式で時間短縮……」
多分料理に関する事? をブツブツと呟き続けるお兄ちゃん。
「お兄ちゃん? 大丈夫お兄ちゃん!?」
ちょっとこれどうなってるのー!?
「おーっと、ここでカロック選手が間に合いました! しかしどうした事でしょう、カロック選手の姿はボロボロです。何やら表情も虚ろで一体何があったのか?」
ホントに何があったらこんなになっちゃうの!?
「ふん、今頃来たか」
私が困惑していたら、お兄ちゃんの対戦相手が馬鹿にするように声をかけてきた。
「今更来ても時間切れだ。何もかも遅すぎたんだよ。だがまぁ、敗北を受け入れる為に来たことだけは評価してやろう……ふん、今度は楽しめると思っていたんだがな」
最後の方は声が小さくて聞き取れなかったけど、対戦相手はお兄ちゃんを馬鹿にするだけして自分の調理台に戻っていった。
って馬鹿にする為だけに話しかけたのーっ!?
「そ、そうだよお兄ちゃん! 一体何してたの! もう試合終わっちゃうよ! 料理間に合わないよ」
「りょ……うり?」
と、そこで初めてお兄ちゃんが私の声に反応した。
「そうだよ! 試合の料理! もう時間切れで負けちゃうよ!」
「りょうり……じかん……」
お兄ちゃんはあいかわらずぼーっと呆けた顔で周囲に視線をさ迷わせる。
あああああっ、もう絶対駄目だよコレ! お兄ちゃん変になってるぅー!
そしてお兄ちゃんの目が私達の調理台の向きで止まる。
「料理……時間……短縮……調理っ!!」
刹那、お兄ちゃんの姿が消えた。
「え?」
どこに行ったの!? と私が周囲を見回すと、お兄ちゃんの姿を調理台の前に見つける。
ええっ!? いつの間に!?
「問題、下処理途中の食材……温度不足の湯……時間の不足、対応開始!」
次の瞬間、お兄ちゃんの腕が消えた。
「な、なんだぁー!? カロック選手の腕が消えたぁー!? これは一体どういう事だぁー!?」
「いや違う! 彼の周りを見るんだ!」
解説の人の言葉にお兄ちゃんの周囲を見れば、そこには信じられない光景が広がっていた。
「しょ、食材が宙に浮いている!? いや食材だけじゃない、包丁が、菜箸が、お玉が、浮いているぅー!? って、食材が勝手に分かれた!? 調味料が宙を舞って勝手に食材の下に飛んでいく!? これは一体何が起きているんだぁー!?」
「スピードだ! 猛烈なスピードで調理をする事で、両手が消えたように見えているんだ! 食材や調理器具が宙に浮いているように見えるのは、ボウルに避けたりする手間を省くために自ら放り投げたんだ!」
えっ!? 分かるの!?
「動きが見えるんですか!?」
「いや、私には見えない。だがこれと同じ光景を書物で読んだことがある。かつて存在し、今は失伝したと言われる幻の調理技術『調理大帝技法』!!」
何それぇーっ!?
「『調理大帝技法』!? 何ですかそれは!?」
「古の時代に存在したと言われる伝説の料理人が編み出した特殊な調理技術と言われている。その凄まじい調理はまるで腕が消えたかのように見え、食材は宙を踊り、水は一瞬でお湯に変わったと書物には記されている」
ジャアァァッという音に振り向けば、沸かし始めたばかりだった筈の水が、フライパンに流し込まれ、派手な音と共に蒸気を上げている。
「って、ええ!? まだ沸いてなかった筈だよ!?」
でもアレはお湯だ。鍋からもモワモワと湯気が溢れている。
お兄ちゃんは凄まじい勢いで鍋、フライパン、鍋と姿を消しては現れてを繰り返し調理を行っていく。
そしてみるみる間にただの食材が料理の形へと変わっていく。
「調理大帝の技術はあまりにも凄まじく、それ故に誰一人として彼の技術の全てを受け継ぐ事は出来なかったそうだ。そして彼の技術を欠片程度に収めた者達が今日の料理界の大家となったのだと書物には書いてあった」
何なのその本!? 本当に実在するの!?
「では彼はその調理大帝の後継者……と言う事ですか?」
「その答えは、この後に待つ試食で分かるだろう」
「……完成」
そして、カンカンカン!! と調理終了を告げる鐘の音と同時に、お兄ちゃんの料理も完成したのだった。
ま、間に合ったぁ……
審査員A Σ(๑ °꒳° ๑)「あ、あれは伝説の!?」
実況 Σ(๑ °꒳° ๑)「知っているんですか審査員さん!?」
モフモフΣ(:3)∠)_「いったいどんなトンチキ本を読んだんだ……」
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