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二度転生した少年はSランク冒険者として平穏に過ごす ~前世が賢者で英雄だったボクは来世では地味に生きる~  作者: 十一屋 翠
魔物料理大会編

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第297話 料理人の苦悩

作者_(:3 」∠)_「メリークリスマスアフター」

ヘルニー「もうサンタさんは家に帰って安売りセールのシャンパン(ノンアルコール)飲んで寝てるよ」

ヘイフィー_(:3 」∠)_「近所のケーキ屋さんで買ったケーキ美味しかったです」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

「勝者、カロック&リレッタ兄妹ぃーーーっ!!」


 食材に不安があるまま始まった二回戦の試合だったけれど、フタを開けてみればカロックさん達の圧勝だった。


「いやー、第二回戦もカロック選手の圧勝でしたねぇ」


「うむ、この魚料理の味は見事だった。まさか食材をあえて生で出すとは」


「東国に伝わるサシミという調理技法ですな。食あたりを避ける為の下処理にのみこだわり、余計な事はしない。料理を味わうためのソースも東国の豆を使ったソースをベースに植物魔物食材で再現している」


「しかしこのソースはあくまで各人の好みでつけたい者はつければ良いという程度の扱いで、本質はそのまま食べろとばかりの突き放しぶりだ。これを料理と言ってよいのか悩むところだが、必ずしも火を通して焼く、煮るだけが料理ではないと雄弁に語るこの味がまさしくこれは料理だと告げている」


「実際火を通さずに調理する料理はありますからね。ただそうした料理を大会のメインに持ってくる事は珍しいやり方です」


 審査員達はカロックさんの料理をベタ褒めだ。

 実際僕もカロックさんはソテーや、ムニエルにして出すのかと思ったけれど、料理は意外にも食材をほぼそのまま提供するという大胆なものだった。


「しかし素晴らしい食材だった。これ程の食材は滅多に手に入らないだろう」


「ええ、分かります。しかもこの食材は獲り立てのような鮮度でした。通常高級魔物食材は入手の難しさもあって、今回のような期限の決まった大会などではどうしても鮮度が犠牲になりがちなのですが」


「幸運に恵まれたのか、それとも別に保険をかけつつ計算して食材を入手したか。どちらにせよまだ二回戦にも関わらずこれ程の食材を持ち出してくるあたり、この先の試合が楽しみだ」


 ふふ、僕の提供した食材が褒められるのは照れ臭いね。


 ◆


 試合が終わったカロックさん達を僕らは宿で出迎える。

 食材の盗難事件があった事で、カロックさん達には僕達の泊まっている宿に移ってもらう事にしたんだ。

 部屋は満員だったけど、事情を説明したら僕達が借りている部屋に寝泊まりするならと制限つきで特別にOKが出た。

 二人分の宿代が増えたけど、宿の人達が気を利かせて簡易ベッドを運び込んでくれたのはさすが高級宿だよ。


「おめでとうございますカロックさん」


「おめでとう、圧勝だったわね」


「キュウキュウ!」


「……」


 しかし出迎えられたカロックさんは何故か浮かない顔だった。


「リレッタちゃん、カロックさんどうしたの?」


「それが分かんないの。お兄ちゃん勝ったのに全然嬉しそうにしないんだよ」


 リレッタちゃんに理由を尋ねてみたものの、彼女もまたカロックさんが浮かない顔をしている理由は分からないとの事だった。


「カロックさん、何かあったんですか?」


 とはいえこのままではリレッタちゃんも心配するし、思い切って直接聞いてみる事にする。

 するとカロックさんはなんとも複雑そうな顔でこちらを見ると、数秒の間何かを悩むようなそぶりを見せてようやく言葉を口にした。それは……


「料理がしたいっ!」


「「「……は?」」」


「キュッ?」


 カロックさんから出た言葉はまさかの料理がしたいだった。って、どういう事!?


「ど、どういう事お兄ちゃん? 今さっき料理してきたばっかじゃないの」


「違うんだ!」


 しかしカロックさんはリレッタちゃんの言葉に首を激しく横に振って否定する。


「今回の試合は食材の力で勝てただけだ! いや違う! 調理する事すらできなかったからあんなモノを出すしかなかったんだ!!」


 あえてあの料理を出したのだと思ったけれど、その実ああするしかなかったと語るカロックさん。


「あれは俺の力じゃない。寧ろ俺は食材の足をひっぱっていたんだ……」


「でも審査員の人達は十分に食材の力を活かしたって」


「アイツ等は何も分かっちゃいないんだ! 調理をした俺だから分かる! 俺は、料理をしたんじゃない、食材を切って皿に載せただけだ! それだって食材の格を何段階も下げるような切り方をしちまったのが分かるんだ!」


 結局その日はお祝いどころではなくなってしまった。

 そしてカロックさんは大会参加者用に用意された隣の簡易調理室に籠り続ける事になったんだ。


 ◆


「くそっ、これじゃダメだ!」


 長い事調理室に籠っているカロックさんが気になってそっと中を覗くと、調理台の前で頭を抱える彼の後ろ姿が見える。

 そんなカロックさんを心配そうに見ていたリレッタちゃんは、僕達の姿に気付いたらしく、無言でこちらに頭を下げるとカロックさんを刺激しないようにそっと足音を消して近づいでくる。


「リレッタちゃん、カロックさんは?」


 とはいえ、あの姿を見る限り順調じゃないみたいだね。


「ずっとあんな感じなんです。お兄ちゃんの作った料理を味見してたんだけど、私には何が不満なのか全然分かんないよ」


 そしてカロックさんは作った料理を傍にいるモフモフに差し出す。


「もう食べきれなくてモフモフちゃんに味見を代わって貰っちゃった」


「キュウキュウ♪」


 料理を差し出されたモフモフは嬉しそうにカロックさんの料理に顔を突っ込んでいる。

 その食いつきぶりを見る感じでは、十分美味しそうに見えるんだけど。


「っていうかモフモフじゃ味見役にならないでしょうに」


 あ、うん。そうだね。


「うーん、味見自体はお兄ちゃんもしてるから、作った料理を処理してもらう役?」


 それは残飯処理って言うんじゃ……


「うわうっま!? これでも満足できないの!?」


 ふと気が付くと、モフモフに差し出された皿から料理をつまんだリリエラさんがビックリとした声を上げていた。

 っていうかリリエラさん、さすがにそれは行儀が悪いよ。

 まぁ皿自体は宿の備品でリレッタちゃんが使う度に洗ってたみたいだけど。


「ああ、アンタ等か。すまん煩かったか?」


 リリエラさんの声にようやく僕達が入って来た事に気付くカロックさん。


「気にしてないわ。ただずっと美味しそうな匂いが漂ってくるからお腹が減っただけよ」


 うん、まぁそれは分かる。ドアを閉めていてもスキマから匂いは漂ってくるからね。


「それよりも随分と悩んでいるみたいですが」


「……悪ぃな、食材を無駄にしちまって」


 カロックさんは申し訳ないと頭を下げてくる。


「気にしないでください。この程度の食材なら山ほどありますから」


「……この程度の食材、か」


 何故か僕の言葉にため息を吐くカロックさん。


「カロックさん?」


「こんな食材が世の中には山ほどあるんだな。まったく、俺はとんだお山の大将気取りだった訳だ」


 いやホントに普通の食材なんだけど、カロックさんは何故そうまで気にするんだろう。


「やっぱり俺みたいな半端者じゃ店を持つ事なんて夢のまた夢だったってことか……」


 項垂れたカロックさんはポツリとそんな事を呟く。

 どういう意味だろうと、尋ねようとしたところで、リレッタちゃんが足にもたれかかってくる。

 どうやらもう眠いみたいだ。


「少し休んだ方が良いわ。根を詰め過ぎてもいい考えは浮かばないわよ」


 それに気づいたリリエラさんが、リレッタちゃんを抱き寄せて立ち上がらせる。


「……ああ、そうだな。リレッタ、お前は先に休め。俺は道具を洗ってから休む」


「う、うん……」


 ◆


「お兄ちゃんね、昔は町のお店で働いていたの」


 限界寸前のリレッタちゃんをベッドに運んでいると、彼女は夢うつつの表情でカロックさんの昔を語りだした。


「そうだったんだね。でも今はリレッタちゃんと屋台を引いて働いているんだよね?」


「うん、店長さんに追い出されちゃったの」


「ええ!? 何で!?」


 まさかの展開に僕達は目を丸くする。


「お兄ちゃんの料理の方が評判になって、嫉妬されたんだよ」


 ああ、師匠としてのプライドを傷つけられてって奴か。

 それとも店を乗っ取られると危機感を抱いたのかな?


「それで店を追い出される時にお兄ちゃん酷い事言われて、それ以来ずっと気にしてるの。お兄ちゃんに嫉妬したあの人の言い掛かりだって何度も言ってるのに」


「なんて言われたんですか?」


「お前には料理人として大切なものが欠けている。それが分からない限りお前は自分の店を持つことは出来ないって」


「……普通それを教えるのが師匠の役目なんじゃないの?」


「私もそう思う。でもお兄ちゃん、料理には真面目過ぎるから、真に受けちゃって……」


 そこで限界だったのか、リレッタちゃんは言葉の途中で眠ってしまった。


「大切なものが欠けているか……」


 ホント、曖昧な物言いだなぁ。


「僕はちょっとカロックさんの様子を見てきます。リリエラさんはリレッタちゃんをお願いしますね」


「ええ、任せて」


 リレッタちゃんの着替えをリリエラさんに任せると、僕はカロックさんの元に戻る。


「カロックさ……」


 しかしカロックさんは調理道具の清掃途中で力尽きたのか、そのまま調理台を背に眠ってしまっていた。

 調理道具を洗ってから彼をベッドに運ぼうと思った僕だったんだけど、カマドの上に載っていた鍋の存在に気付く。

覗いて見れば、鍋の中には一品の料理が。


「これがカロックさんの作ってた料理か」


 僕はこっそり料理を小皿に盛ると、味見をさせて貰う。


「うん、美味しいね。これでも満足出来ないなん……あれ?」


 確かに美味しい料理だ。お店に出しても十分人気が出ると思う。

 でも……


「何か足りない感じがする」


 そう、美味しいんだけど何かが物足りないんだ。

 これは一体何が……


「ああそうか、アレが足りないんだ!」


 料理に足りないものに気付いた僕は、鍋に蓋をしつつ考える。


「今からなら、朝までには取ってこれるかな」


 なら、ちょっとひとっ走りしてくるかな?


 ◆


「よし、完成!」


 完成した料理を小皿に盛って味見をしてみると、狙った通りの味になった事に満足する。


「うん、完璧。やっぱりアレが足りなかったんだね!」


「う、うう……」


「あっ、おはようございますカロックさん」


 僕の料理の匂いで目が覚めたのか、カロックさんが上にかけられた毛布をめくって起き上がる。


「……っ!? 眠っていたのか!? すまない、すぐに片付け……それは?」


 慌てて片付けを再開しようとしたカロックさんだったけど、僕の料理を見て動きを止める。


「ああ、これですか? 飲んでみます?」


「あ、ああ……」


 小皿に盛った料理を受け取り、ゆっくりとそれを口に運ぶカロックさん。


「……っ!?」


 次の瞬間、寝起きでぼんやりとしていたカロックさんの目が大きく見開かれた。


「俺の料理に似ているが完成度が全く違う! 何だこれは!?」


 カロックさんはワナワナと震えながら僕に視線を向けてくる。


「これは、アンタが作ったのか……?」


「ええ。あっ、すみません、カロックさんが作った料理を勝手に味見させて貰ったんですが、足りない食材があったみたいなので勝手に付け足したものを作っちゃいました」


「足りない食材!? いや作った!? 俺の作った料理を再現したって事か!? どうやって!?」


「調理台に並んでいる食材と調味料、それに完成した料理の味が分かれば大体予想はつきます」


「予想はつきますってそんな気軽な……いやしかし……」


 カロックさんは何度も僕と手元の小皿の料理、そして自分の料理が入っている鍋に視線を行き来させる。


「なぁレクスさん、アンタは何者なんだ?」


「ただの冒険者ですけど?」


「ただの冒険者にこんなものが作れる訳ないだろ!?」


 いやホントにただの冒険者ですよ?


「いえいえ、普通の冒険者ですって。この料理は昔知り合いの料理人に教えて貰ったものを参考にしただけですよ」


「知り合いの料理人!? 一体何者なんだその料理人って」



 カロックさんは僕の前世の知り合いに興味を持ったのか、物凄い食いつきを見せてくる。

 といっても前世の知り合いだからとっくに死んでるしなぁ……


「ただの偏屈料理人ですよ?」


 うん、凄い偏屈料理人だったね。


「……レクスさん、あんたはその料理人から他にも調理技術を学んだのか?」


「いえいえ、大したことは学んでいませんよ? 常識レベルの調理の仕方を教えて貰っただけです」


「その常識がこれなら十分大した事なんだがな……」


 そういってカロックさんは何度も深く味わうように小皿の料理をゆっくりと口にする。

 気に入ったのならお代わり用意しますよ?

 けれどカロックさんはお代わりの代わりに食べ終えた小皿をテーブルの上に置くと、床に両手と膝を突いて僕に頭を下げて来た。

 

「レクスさん、頼む、俺を弟子にしてくれ!」


「ええっ!?」


 いきなり何事!?


「アンタのその調理技術を俺は学びたい! 頼む! この通りだ!」


「いやいやいや、僕の調理技術なんて大したものじゃないですよ。冒険のほんの片手間にこの程度は出来るようになっておけって言われて魔物食材を始めとした食材の採取、調理方法なんかを学んだ程度ですし」


「俺にはその『程度』の技術もないんだ。だからそれを教えて欲しい」


 困った、本当に当たり前の事しか学んでいないんだけど。


「こんな事を言うのは恥なんだが……俺は師匠からお前は魔物料理人として大事な事を分かっていないと言われて破門されたんだ」


 と、カロックさんはリレッタちゃんが眠る前に話してくれた昔の話を始める。


「両親は俺達と同じ魔物料理人だったんだが、食材の魔物を狩りに行って魔物に殺されちまったんだ」


と、まだ幼いリレッタちゃんと二人で屋台を引いていた理由を告げる。


「そんな俺達を不憫に思った親父の友人の魔物料理人が下働きとして引き取ってくれたんだ。それが俺の料理の師匠だ」


 へぇ、リレッタちゃんはその辺り言わなかったけど、カロックさんのご両親の知り合いだったんだね。

 成程、そんな人から追い出されたのならリレッタちゃんがあんな風に言うのも仕方ないか。


「だからその師匠からいきなり破門を言い渡されて店を追い出された時は愕然としたよ。何が悪かったんだって。その理由を知りたくて俺は必死で修行に明け暮れた」


 その時の事を思い出したのか、カロックさんが辛そうな顔になる。


「リレッタは気にし過ぎだって言ってくれたけど、師匠の言葉だ。本当に何かが足りないんだろう。だから俺はガムシャラに料理の修行に明け暮れた。まず修行と生活費を稼ぐ為に屋台を始めたんだが、最初は酷いもんだった。修行した店から離れた土地で屋台を始めたのにどこから聞きつけたのか、俺が破門されたって噂が流れてな。お陰で街の人間は俺達の屋台に食いに来てはくれなかったよ。たまたま店が満員続きでもうどこでもいいから食える場所は無いかって店を探してた俺達の事を知らない旅人の客で食いつないでたもんさ」


 悪い噂は広まるのが早いって言うけど、幼いリレッタちゃんと二人で暮らすには大変だったろうね。


「ただそれでも金は全然足りないからな、自分達で手に入る食材はなるべく自分達で採取して、見栄えの悪いのは自分達のメシにした。あとは宿代や税といった最低限の金以外は全部修行の為の金に回してな。美味いと評判の料理があれば食べに行って味を研究し、珍しい魔物食材が見つかったと聞けば冒険者に依頼を出して一緒に食材を集めに行ったりもした」


 おかげで金は全然貯まらなかったけどなとカロックさんは笑う。


「そんな風に修行と屋台を続けていると、気が付けば町を拠点にしていた冒険者や行商人の口コミもあって町の人間達も少しずつ俺達の屋台に食いに来てくれるようになったんだ。その時は俺の料理が認められた! って嬉しくなったもんさ」


 そう語るカロックさんは本当にすこし照れくさそうに、でも確かに嬉しそうに笑う。


「だから俺は大事な事を見落としていたんだ」


 しかし次の瞬間、カロックさんは真剣な、それでいて辛そうな表情になる。


「リレッタが倒れたんだ」


「リレッタちゃんが!?」


 ええ、それって大丈夫なの!?


「ああ、幸い倒れたリレッタを見てくれた司祭様からはただの過労だから心配するなって言われたが……年上の俺が体力に飽かして無理して修行を続けていたんだ。子供のリレッタがそれに付いてくるのは俺以上に苦しかったに決まってる」


 リレッタちゃんの事に気付いてあげられなかった事を思い出しているのか、カロックさんは強く己の拳を握りしめている。


「幸い常連になってくれた町の人達の協力もあってリレッタはすぐに元気になったが、俺は愕然としたよ。何がもっと修行を積まないとだ。俺はそんなものよりもっと大事なものを見失っていたんだ!」


 ダン! と床を叩いて己の不甲斐なさを吐き出すカロックさん。

 

「せめて自分の店があればリレッタも安心して休むことが出来た。小さい妹を宿に一人留守番させるのは可愛そうだと思って修行や食材採取に連れまわさなけりゃ、倒れる事なんてなかった。店を持つのは師匠の言葉の意味を理解してから、一人前の料理人になってからだなんて言っちゃいたが、そんなのはただ店を持つ事に怖気づいていただけだ。いや、親代わりだった師匠に突き放された事が信じられなくて、現実から逃げる為に修行に逃げていたんだよ!」


 それは次第に自分の弱さ、躊躇いへの怒りに移ってゆく。


「だから俺は店を持つことにしたんだ。リレッタが安心して暮らせるために。その為には金が要る。正式に町の住人になる為の登録料、土地代、店の建設費用、料理人ギルドへの申請費用、調理道具を始めとした内装費用、食材、更に経営が軌道に乗るまでの貯金、相当な金額が必要になる。だからそれ等を一気に稼ぐ為に、そして客を呼び込む為に最適なこの大会に参加したんだ。まぁ前回は力及ばず四位で賞金は微々たるものだったけどな」


 と、初参加の大会で入賞できなかった事を自嘲するカロックさん。


「だがあれで上の連中との実力差はおおむね理解した。だから今回こそは上位に入れるようにと必死で修行してきた……んだが、結果はアンタ達と出会った時の通りだよ」


 勝負で負けるなら仕方ないと諦める事も出来るが、あんな方法で負けたら死んでも死にきれなかったところだとカロックさんは改めて僕に頭を下げてくる。


「食材だけでなく命まで狙われた事でこれ以上リレッタを危険に巻き込みたくないと二の足を踏んでいたが、アンタの料理を味わっちまったらもう自分の心を偽れなくなっちまった!」


 カロックさんはこれまでと打って変わった強い眼差しで僕を見つめてくる。


「俺の心の竈に火が付いちまったんだ! この料理を自分なりに再現したい、それを皆に味わってほしい! リレッタと一緒に自分の店でこの料理を客に出したいって! だから頼むレクスさん。俺にアンタの料理技術を教えて欲しい! やっぱり俺は魔物料理が好きなんだ!」


 そうか、それがカロックさんの本心なんだね。

 どんなに心が悩みに囚われても、料理が好きという心だけは偽れなかったんだ。


「もう俺は迷わない! リレッタの為にも大会に優勝したい! 最高の料理を作りたい! 頼むレクスさん! 俺に料理を教えてくれ!」


「ですが大会のスケジュールを考えると出来る事は限られていますし、何より相当の詰め込みになりますよ?」


 次の試合までもう時間は殆ど無い。それこそかなりの強行軍になるだろう。


「あー、すっごい良い匂い。お腹空い……」


「ああ、覚悟の上だ! どんな厳しい修行にも耐えて見せる!」


「あっ」


「キュッ」


 カロックさんが決意を新たに拳を握りしめた所で、お腹を空かせて調理場にやって来たリリエラさんとモフモフが何故か目を丸くして声を上げた。

 そして次の瞬間、何かを憐れむような目でカロックさんを見る二人。

 えっと、何かあったんですか?

モフモフ_Σ(:3 」∠)_「地獄行き一名様ご案内」

リリエラ(‘ω’)ノ「うかつにシリアスな過去出すから……(そっと涙を拭う)」

モフモフ_Σ(:3 」∠)_「え?(どのツラで?)」


面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださると、作者がとても喜びます。_(:3 」∠)_

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― 新着の感想 ―
[良い点] 重要キャラの回想シーンっていうのは御約束の展開ですねぇ❗ 重要人物1:クロック君の短い日にちでどれだけ凄腕料理になるのか楽しみです! [気になる点] この話の展開が大体予測出来ました…
[一言] うかつにシリアスな過去って…。 最初の犠牲者は斯く語りきですかwww
[良い点] あ、お刺身はあえてじゃなかったんだww まさかフラストが溜まるとはw そして新たな犠牲者がまた1人…… ポーションで回復して休む時間を(強制的に)削ればいいんですね分かります
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