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第29話 王都とSランク冒険者 

_:(´д`」∠):_すみません、ちょっと更新が遅れました。


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さの声援が作者の励みとなっております!

「王都が見えてきたぞ」


 リーダーさんが声を上げると、一緒に護衛をしていた冒険者さん達が同時におなじ方向を見る。


「あれが王都? なんか壁しか見えないんだけど」


「ばっかお前、ありゃ王都を守る城壁だよ」


「ああ、そうなのか」


 王都が初めての冒険者さん達が興奮しているのが伝わってくる。


「リリエラさんは王都に行った事はありますか?」


「ううん、私はヘキシの町周辺をメインに活動してたから、王都は初めてよ。レクスさんは?」


「僕も初めてです」


 うん、今度の人生では初めての王都だ。

 だから僕も結構興奮してる。

 今の時代の王都はどんな発展を遂げているんだろうって。



「おー、ここが王都か!」


「すげー!滅茶苦茶人が居るし店も一杯だな!」


 王都に着いた僕達が中に入ると、早速同行していた冒険者さん達が声を上げる。


「噂には聞いていたけど、実際に見てみると凄いわね」


 リリエラさんも王都の人の多さに圧倒されているみたいだ。


「どうだ兄ちゃん、王都はすげぇだろ?」


 リーダーさんが御者台の上からこちらに声をかけてくる。


「え、ええ、そうですね」


「ん? その割にはあんまり驚いている感じがしねぇな」


「いえいえ、驚きすぎて声が出なかっただけですよ」


「がっはっはっ、そうだろうそうだろう!」


 とリーダーさんは愉快そうに笑うけど、正直に言えば僕はあまり驚いていなかった。

 というのも、この国の王都は思ったほど大きくなかったからだ。


 前世や前々世の記憶にある大国の王都はもっと大きく、文字通り人であふれかえっていた。

 けれどこの国の王都はそんな過去の記憶の王都に比べると、まぁこんなもんかって大きさなのだ。


 まぁ皆の感動に水をさす気も無いので黙っているけど。


「さて、王都に入ったから護衛も依頼もこれで完遂だな。ほれ、依頼達成書だ」


 リーダーさんが一枚の紙を僕達に差し出してくる。


「依頼達成書?」


「依頼を達成しましたって証明する紙よ、依頼主が居る仕事ではこの紙を提出する事で依頼完了となって報酬がもらえるの」


 王都に来た感動から復活したリリエラさんが依頼達成書について説明してくれる。


「へぇ、そんなモノがもらえるんですか」


「普通依頼を達成したら皆貰える筈だけど?」


「えーっと、僕は基本的に魔物の討伐やギルドからの直接依頼で報酬を貰っていたので、依頼主に会うような仕事はしていませんでした」


「それはそれで珍しいわね」


 そういう意味では、依頼主に会う仕事って今回の護衛依頼が初めてなんだよね。


「あんた等には色々と世話になった。命を助けられただけでなく、俺達が持ち込んじまった面倒事まで解決してもらっちまってよ」


リーダーさんが深々と頭を下げてくる。


「おい、手前ぇも頭下げやがれ!」


 リーダーさんが近くにいたボズさんをひっ捕まえて頭を下げさせる。


「す、スンマセンした!」


「いえいえ、気にしないでください。そうたいした事はしていませんから」


「あんたにとっちゃあたいした事なかったかもしれないが、俺達にとっては全てをなくすかもしれねぇ大事件ばかりだった。だから本当に感謝している。これは大したもんじゃねぇが、バカ息子を助けて貰った礼だ。受け取ってくれ」


 そういって、リーダーさんは小さな木箱を僕に差し出してきた。


「これは?」


「ウチの目玉商品のマジックアイテムだ。開けてみてくれ」


「親父、それって!? マジかよ!?」


リーダーさんから手渡された箱を見て、ボズさんが驚きの声を上げる。

 どうやらかなりの値打ちモノみたいだ。


「これって……」


 木箱の中に入っていた物は、小さなペンダントだった。

 ただしそのペンダントはタダの装飾品じゃない。

 何故なら中央に埋め込まれた赤い宝石から、怪しい光がにじみ出ていたからだ。


「守りの護符。持ち主の命を一度だけ守ってくれる魔法の品だ。大昔にはコレで貴族の令嬢や夫人が己の命を守っていたそうだ」


「おいおい親父、これはウチの目玉商品だろ!? やっちまって良いのか!?」


「ばっかやろう! 俺達ゃ命を救って貰ったんだぞ! それどころか手前ぇの不始末までぬぐって貰ったんだ。これでもまだ返したり無いくらいだぞバカ野郎!」


「あいたぁ!」


 ボズさんがまたリーダーさんに頭を叩かれている。


「そんな訳で、遠慮なく受け取ってくんな」


「……そういう事なら」


 僕は遠慮なくペンダントを受け取った。


「それじゃあここでおさらばだ。俺達ぁこのバカの不始末のケリを付けに行くぜ」


 リーダーさんの言っているのは魔草の件だろう。

 一度裏社会の仕事に関わってしまった以上、完遂しなければ命が危ない。


 だからリーダーさん達は受けてしまった荷物を届けに向かう。

 これ以上は僕達も関わるわけには行かない。


「ねぇ、あの人達大丈夫かしら?」


 ボズさん達を心配したリリエラさんが僕に問いかけてくる。


「まぁ心配は要りませんよ。ボズさんが頼んだのは中身はどうあれ、仕事自体は配達ですから。向こう側の人達でも、中身を知らないタダの運び屋をどうこうしたりはしませんよ。だって誰彼構わず始末していたら、運ぶ人そのものが居なくなっちゃいますからね」


「そういうものなの?」


「ええ、そういうものです」


 まぁコレは、前世で知り合った裏社会の人から聞いた話なんだけどね。

 基本敵対しない限りカタギに手は出さない。


 下手にカタギに手を出して大事になったら、憲兵や騎士団が動き出してしまう可能性が大きい。

それだったら下手なちょっかいなどかけない方がよっぽどマシだ。

 悪党ってのは、野盗と違って無差別に襲ってきたりしないもんだ、との事だった。


「だったらまぁ、心配は要らないのかしらね」


 リリエラさんの心配も解決したみたいでよかったよかった。


「おーい、あんた等はこれから冒険者ギルドに行くのか?」


 と、一緒に護衛仕事をしていた冒険者さん達が声をかけてくる。


「はい、依頼達成の報告と、あと別件で届け物がありますので」


 エンシェントプラントのオークションの件でミリシャさんからの手紙を届けないとね。


「そうか、俺達は宿を取って今日はゆっくりするよ。そんで明日王都での仕事を探すついでに報告だな」


「じゃあコレでお別れですね」


「ああ」


 そう言って、僕達が別れようとした時、リリエラさんが冒険者さん達に話しかけた。


「ねぇ、貴方達は今回の件、あんな終わり方でよかったの?」


「あんな終わり方ってなんの事だよ?」


「魔物が襲ってきたトラブルの原因よ。貴方達も巻き込まれたでしょ?」


 そういってリリエラさんは僕達を道の隅っこに呼び寄せる。

 そして小声で今回の件について話し始めた。


「今回の件、無事に王都には着いたけど、例のアレは結局運んできちゃったでしょ。しかも貴方達は蚊帳の外で。その件について貴方達はどう思っているのかって話よ」


 リリエラさんは魔草の件について、彼等に意見を聞く。

 と言っても、ここでその話を蒸し返してどうするつもりなんだろう?


「その事なら俺達は何も見なかった事にしたよ」


「何も見なかったことに?」


 なんでまた?


「そもそもあの件は俺達の手には負えなかった。なにしろ、そっちの兄貴が居なけりゃ、俺達は最初の襲撃で死んでたからな」


「そうそう。だから俺達はあの件については何も気付かなかった。護衛に集中してたから、何があったのかなんて気にもしてなかったってな」


 お、おお……この人達良い人だ。

 多分リリエラさんはこの人達が魔草の件を誰かに話そうとするんじゃないかと心配したんだろう。

 でもその心配はまったくの杞憂だったみたいだね。


「まぁそれに、あんた等がいてくれたおかげでいつも以上に魔物を倒して素材も大量に手に入ったからよ。感謝こそすれ、余計な告げ口をする気なんてまったくありゃしねぇよ」


 そう言って、冒険者さん達は今回の件を無かった事にすると言ってくれた。


「大体下手に騒いであんた等を敵に回したら、それこそ命がねぇじゃんか。折角助かった命なんだ、大事にさせてもらうさ」


「ははははっ、そりゃそうだ!」


 そう笑う冒険者さん達の話を聞いたリリエラさんは、納得がいったのか、分かったとだけ言ってこの話を打ち切った。


「そんじゃ元気でな」


「ええ、皆さんもお元気で」


 ◆


「ここが王都の冒険者ギルドかー。でっかいなぁ」


「そうね、ヘキシの町のギルドよりも大きいわ」


 共に旅をした冒険者さん達と別れた僕達は、王都を散策しながら歩き続け、ようやく冒険者ギルドを発見した。

 王都の冒険者ギルドは大きく、ヘキシの町の二倍近い大きさに僕達は驚く。

 これだけ大きいと、どれだけ冒険者さん達が居るのかドキドキするなぁ。


「じゃあ入りましょうか」


「ええ」


 僕達は興奮を胸に冒険者ギルドの中へと入る。


 ◆


「うわぁ……」


「これは……」


 冒険者ギルドに入った僕達は、まずその人の多さに驚いた。

 建物を見た時から多いだろうなとは思っていたけど、これは予想以上だ。


「まさか奥行きも広かったなんてね」


 そう、リリエラさんが言った通り、王都の冒険者ギルドは奥行きも広かった。

 ヘキシの町の冒険者ギルドの二倍くらいかと思ったけど、奥行きをもあわせると四倍くらいあるだろうか?


「と、ともかく窓口で依頼達成の報告をしましょうか」


「そ、そうね」


 驚きに興奮したまま僕達は窓口に向かう。


「窓口も多いなぁ」


「多いわねぇ」


 建物も広いけど、窓口の数も多かった。

 こちらはヘキシの町の倍くらいだろうか。

 そして並んでいる冒険者さんの数も多かった。


 ◆


「冒険者ギルドへようこそ」


 列に並び、ようやく僕達の番が回ってきたので依頼達成書を提出する。


「……はい、確認しました。それではこちらが報酬となります」


 受付の人から渡された報酬を受け取った後、僕は忘れずにミリシャさんから預かった手紙を受付の人に渡す。


「あとこれ、ヘキシの町の冒険者ギルドから預かったものです」


「承りました」


 受付の人は手紙を受け取ると、封筒をひっくり返して何かをチェックする。


「宛名は無しですか。中身を拝見させていただきますね」


 そういってペーパーナイフで封筒の封を開けると、中の手紙を読み始める。


「……なる程、手紙の内容の件確認いたしました。それではこちらの件が完了いたしましたら、我々の方からレクスさんにご連絡させて戴きますね」


「ありがとうございます」


「レクスさんは手紙の通りしばらく王都に滞在されますか? それとも王都近隣で泊り込みの依頼を受けられますか? 王都から離れている際にオークションが終了しましたら、報酬の受け渡しは戻られた後となります」


 そっか、冒険で町を留守にしていたら報告を受けれないもんね。


「分かりました。今のところはまだどうするのか考えていませんので、後で依頼ボードを見て考えるつもりです」


「そうでしたか。幸い王都ならば他の町よりもAランク向けの依頼が多いですから、レクスさんが受ける仕事の幅も広がりますよ」


「そんなに多いんですか?」


 僕がそう質問すると、受付の人はにっこりとうなずいた。


「ええ、王都は人が多いですから、その分依頼を申し込む人が多いんですよ。人が多いという事は、それだけ依頼の種類も千差万別、FランクからそれこそSランクの依頼もありますよ」


「Sランク!?」


Sランクといえば、冒険者の中でも最高ランクの冒険者のこと。

王都にはそんな冒険者用の依頼もあるんだ。


「もしかして王都にはSランクの冒険者が居るんですか!?」


 受付の人もニヤリと笑みを浮かべる。


「お二人は運が良い。丁度いま王都には数少ないSランク冒険者が滞在しているんですよ」


「おおーっ!」


「普段はいくつもの国を渡り歩いてどこに居るのか分からないんですが、今回は仕事の関係で我が国に来られたそうですよ」


 おお! Sランク冒険者さんがお仕事で!


「今日は仕事で王都の外に出ていますが、数日以内には戻ってくると思いますよ」


 うわー、Sランク冒険者さんが居るなんてドキドキするなぁ!


「ワクワクしますねリリエラさん!」


「え? そう?」


 けれど何故かリリエラさんはSランク冒険者さんには興味なさげな様子だった。


「あれ? リリエラさんはSランク冒険者に興奮しないんですか?」


「私は別に。第一Sランクの冒険者が居た所で、私達には何の関係もないし」


 クレバーな意見だなぁ。


「さっ、これ以上雑談をしていても後ろで待つ人達に迷惑だから、行きましょう」


「あっ、はい」


 リリエラさんに急かされ、僕達は受付から離れた。


「第一、ここに実質Sランクが居るんだもの、特に驚く必要なんかないじゃない」


「え? 何か言いました?」


 大勢の人達で賑わうギルドの中で、リリエラさんがボソリと何かを呟く。

 けれどその声は小さく、僕の耳では聞き取れなかった。


「別にー」


 ◆


「さーて、依頼を調べるのは明日にして、後は宿を見つけましょうか」


 と、リリエラさんが提案してくる。


「あれ? 依頼ボードをチェックしないんですか? 折角王都のギルドに来たのに」


「どうせこの時間帯じゃ大した仕事は無いわよ。それよりも宿を確保するのが先よ。ああ言っておくけど、安すぎる宿は危険だから駄目よ。それなりに良い所に泊まるから」


「装備にはお金を使わなかったのに宿には使うんですか?」


 ちょっと意外な発言だ。


「安すぎる宿は物取りや強盗に襲われやすいのよ。だから多少高くても最低限安全が保障される宿に泊まるの」


 なる程、寝ている間は無防備だもんね。

 無防備といえば……。


「そうだリリエラさん。コレ上げますよ」


 そう言って、僕は木箱から取り出した守りの護符をリリエラさんに差し出す。


「え? これってさっきの」


「はい。僕は使わないので、リリエラさんに上げます」


「あ、あげるって貴方、これはマジックアイテムでしょう?」


 まぁそうなんだけどねー。


「男の僕にこういうのはちょっとアレなんで。リリエラさんに差し上げます」


そういってリリエラさんに渡そうとするがリリエラさんは頑として受け取ってくれない。


「だ、駄目よ! マジックアイテムなんでしょ!? 幾らすると思ってるのよ!」


「幾らするんですか?」


「え、ええと、正確な金額は分からないけど、使い捨てでもマジックアイテムだから、金貨数百枚はするわ!」


「金貨数百枚!?」


 これが!?


「いやいや、幾らなんでもそんなにはしないでしょう」


 だってコレだよ?


「何言ってるのよ。マジックアイテムの価格なのよ。使い捨てレベルでも最低金貨100枚単位レベルになるのは基本でしょう」


 そんな馬鹿な、だってこれは子供の護身用具だよ?

 親が目を離した隙にどこかへ行ってしまった子供が怪我をしない為に作られた子守用のマジックアイテムなんだから。


 何故知ってるかって? 

 そりゃあ僕が作ったからだよ。

 

 まぁ作ったといっても、それは前々世の僕なんだけどね。

 お子さんがすぐにどこかに行ってしまうから、作ってくれって前々世の上司に頼まれたんだ。


 しかしこれが巡り巡って今生の僕のところに帰ってくるとは驚きだ

 だってこれ、金貨100枚どころか、銀貨1枚くらいで作れるんだもん

 なんだったら今から作っても良い。


「まぁいいじゃないですか。それに僕はリリエラさんに使って欲しいんですよ。ほら、リリエラさんにとても似合いますよこれ」


 そういって僕は隙をついてリリエラさんの首にペンダントをかける。


「に、似合うって貴方!?」


「とても似合ってますよ。何より、こんなものでリリエラさんを守る事が出来るのなら、金貨数百枚でも安いモンですよ」


「……分かったわよ。ありがたく使わせて貰うわ。確かに貴方より未熟な私の方が必要でしょうからね」


 そこまでは言ってませんよ?


「まったく、こんな事を気軽にされたら色んな意味でこっちの身が持たないわ」


「どういう意味ですか?」


「なんでもなーい!」


 顔を赤くしたリリエラさんが突然走り出す。


「あ、待ってくださいよー!」


「待たないわよー!」


 前々世も前世もそうだったけど、女の人って、本当に何を考えているのか分かんないや。


 ◆


「さーて、王都ではじめての依頼ですよ」


 翌朝、僕達は再び王都の冒険者ギルドへとやって来た。


「どんな依頼を受けようかなぁ」


「そうね、王都の地理や治安が分からないから、まだ都市部での護衛依頼は受けない方がいいと思うわ。やるなら自由度が高い王都の外での依頼かしら?」


「となると魔物の討伐依頼ですか?」


「というか、異常に多いわよね討伐依頼」


 確かに、僕等は依頼ボードをぐるりと見回すんだけど、依頼ボードの大半が討伐依頼で埋め尽くされていた。あとは護衛や常設依頼がちょっとといったところかな。


「しかも魔物の種類も多いわ。これならどの魔物といわなくても、適当に王都の近くで魔物を倒せばどれかの依頼が達成できるでしょうね」


 そうリリエラさんが冗談めかして言うほど、魔物の討伐依頼は多かった。


「適当にBランクの討伐依頼を受けましょう。目的は王都周辺の地理と魔物の分布の把握って所かしら」


 なる程、そうやって依頼をこなしながら情報収集をする訳か。

 冒険者の知恵だね。


「じゃあこの依頼にしましょうか」


 リリエラさんの提案を受け、僕達はBランクの魔物討伐依頼を受けることにした。


 ◆


「サイクロンブレイク!」


 極小に圧縮された小型竜巻が上空の魔物に命中し、地面に叩き落される。

 魔法が当たった魔物は既に事切れており、僕は魔物が地上に落ちる前に魔法の袋に魔物を収納する。


 さっきからこの繰り返しで魔物を撃墜し続けていた。


「うーん、なんと言うか凄く魔物が多いですね」


 僕は討伐した魔物達を見ながら呟く。


「やっぱり、貴方もそう感じた?」


「はい。魔獣の森も魔物が多かったですけど、ここはそれ以上です」


 僕達は王都近くの荒野で討伐対象の魔物を捜索していた。

 けれど魔物を探している間に、様々な魔物が襲ってきた所為で、なかなか捜索が進まなかったんだ。


「あそこは周りの木まで含めて全て魔物だったから、例外だと思うけど」


「確かに、ここは荒野に見えるのに、魔物の数が凄く多いですよね。さっきからワイバーンがうっとうしいですし」


「……今凄く聞き捨てならない発言が聞こえてきたんだけど」


 魔物を解体しながらリリエラさんがジト目でこちらを振り向く。


「ええ、さっきから岩場の影に隠れていたワイバーンが突然飛び上がって襲ってきてたので、ちょこちょこ撃ち落としてました。多分このあたりにワイバーンの巣があるんだと思います」


「さっきから凄い音がドゴンドゴン聞こえてたけど、それが原因だったの!?」


 リリエラさんが驚きの表情でこちらを見てくる。


「あっ、すみませんうるさかったですか?」


 しまったな、戦いの邪魔だったかな?


「いや助かったから良いわ。でもワイバーンってドラゴンの亜種だから、Bランクのパーティでも結構苦戦するんだけどね 何頭くらい倒したの?」


「ええと、ワイバーンがひーふーみー……10頭くらいですか。あとなんかおっきいのが1頭ですね。倒してすぐ魔法の袋に入れたので、何かまでは確認してませんけど、まぁ大したことない魔物でしたよ」


「うーん。多分そんな事ないと思うんだけど、まぁ良いわ」


 リリエラさんが解体して要らなくなった魔物の死体を無詠唱魔法で焼却する。

 これも無詠唱魔法の訓練の一環だ。


「さっきので討伐対象の魔物は全部倒したから、王都に戻りましょうか」


「そうですね」


 あまり遅くなると王都の門がしまって中に入れなくなってしまう。

 だから僕達はちょっと急いで王都への帰路をとるのだった。


 ◆


 僕達が冒険者ギルドへと戻ってくると、ギルド内が妙に騒がしい事に気付く。


「何かあったのかな?」


 そう思って周囲を見回すと、受付の一角に人だかりが出来ている姿が見えた。


「何かなあれは?」


 人だかりに近づくと、ギルドの床に大型の魔物の死体が置かれている事に僕は気付いた。


「あっ、ワイバーンだ」


 そう、ギルドの床に置かれていたのは、ワイバーンの死体だった。

 それも1頭だけじゃない。10頭くらいはいるだろうか。


「スゲェなぁ。さすがはSランクだぜ」


「Sランク?」


 近くに居た冒険者さん達の会話が耳に入り、僕は思わず声を上げてしまう。


「Sランクの冒険者さんがあのワイバーンを討伐したんですか?」


「ん? ああそうらしいぜ。Sランク冒険者ロディがリーダーを務める冒険者パーティ、サイクロンがあのワイバーンの群れを討伐したそうだ」


 おおっ、Sランク冒険者パーティが来てるんだ!


「なんでもメンバーの大半がAランクで最低でもBランクでなけりゃパーティには入れないらしい」


 へぇ、まさに高ランクパーティって感じだね。


「お、見ろよ、あいつがロディじゃねぇか?」


 ギルドの奥から金髪の冒険者さんが姿を現す。


「あの人がSランク冒険者……」


 Sランク冒険者ロディさんは、銀色に輝きものすごい装飾がされた鎧を身に纏っている。

 それに剣の鞘や羽織ったマントの装飾も凄い。

 とてもお金が掛かってそうだ。


 Sランク冒険者は見た目にも気を使ってるんだなぁ。


 そしてロディさんの後ろから、何人もの美女が姿を表す。

 全員が鎧やローブに身を包んでいるので、きっとあの人達がロディさんのパーティメンバーなんだろう。


「おー、さすがSランクは侍らせる女のランクもSだねぇ」


「ははっ、テメェがSランクになってもあんな美人は侍らせれねぇよ」


「うっせぇ」


 冒険者さん達がそういうのも無理は無い。

 実際皆凄い美人だもん。


「ねぇ、さっさと受付に行きましょう」


 ロディさん達に目を奪われていたら、リリエラさんにぐいっと腕を引っ張られる。


「あっ、すいません」


「まったく、他の女にデレデレしちゃって」


「え?」


「なんでもないわよ! ほら早く」


 何故かプリプリと怒るリリエラさんに連れられ、僕達は受付に向かう。


「すみません、討伐依頼の確認をお願いします」


「分かりました。ではこちらの鑑定台に素材を置いて戴けますか?」


「「「「おおっーーー!!」」」」


 と、突然横の方から歓声が聞こえてくる。


「何事?」


 見ればSランク冒険者のロディさんが腕を天に上げて何かを宣言していた。


「皆、このワイバーン共は所詮前菜だ。俺達が狙うのは荒野の主、突如荒野に巣くったというSランクの魔物、カイザーホークの討伐だ!」


「「「「おーーーっ!!」」」」


 カイザーホーク、確か超大型の鷹の魔物で、通常の鷹の数十倍のサイズがあるヤツだ。

しかもコイツはただでかいだけじゃなく、ワイバーンの様な大型の魔物を喰らい、ドラゴンとだって喧嘩をする荒くれ者だ。


「でもおかしいな、カイザーホークは人里の近くには現れない筈なんだけど」


 ああ、だからロディさんはカイザーホークを倒しに来たのか。

 確かに一般の人からすれば、ドラゴンと戦う魔物は危険だもんね。


 きっとロディさんにとって魔物の強さなんて関係ないんだ。

 どんな魔物が相手でも、皆の平和のために戦う。

 大剣士ライガードの様に戦えない人達の事を考えているんだね!


「だから皆安心してくれ! 数日中には俺達サイクロンがカイザーホークの脅威から王都を守る!」


「いいぞロディー!」


「期待してるぞSランクーッ!」


 皆ロディさんの宣言に大興奮だ。


「すみません、素材を出して戴けますか?」


 と、後ろから受付の人に注意されてしまった。

 いけないいけない、話を聞くのに夢中になってたよ。


「あっはい、すいません」


 僕は魔法の袋から討伐対象の素材を取り出していく。


「あっ、そうだ。討伐対象以外の魔物も倒したので、解体込みで買取りをお願いできますか?」


「承知しました」


「鑑定台には乗らないので、床においていきますね」


 僕はさっき倒したワイバーンを床においていく。

 1体2体と並べていき、全ての魔物を並べ終える。


「お、おい。あれワイバーンじゃねぇか?」


「Sランクが倒した分じゃねぇのか?」


 何故か周囲の冒険者さん達がこちらをみてざわついている。


「へぇ、俺達以外にもワイバーンを狩れるパーティがいるのか。この国の冒険者もなかなかやるじゃないか」


 と、さっきまで向こうに居たロディさんがこちらにやって来た。

 いやいや、ワイバーン程度なら誰だって狩れますよ?


「君達が倒したのか?」


「は、はい。岩場から飛び上がったところを狙い撃ちしました」


 僕がワイバーンを撃ち落した時の状況を説明すると、ロディさんが感心した様に頷く。


「へぇ、普通は飛び上がる前に討伐するものだけど、なるほど飛び上がりきって方向を変える瞬間、その速度が落ちる刹那を狙ったんだな。なかなか変わった倒し方じゃないか」


「あ、ありがとうございます」


 本当は適当に撃ち落しただけなんだけど……いやまてよ?

 そうか、この人は僕に倒されたワイバーンの姿を見て、そういう倒し方もあるんだぞと教えてくれているんだ!


 より効率的な戦い方、そして様々な状況に対応した戦い方をしろって事だね!

 さすがはSランク冒険者さんだ!


「まぁしかし、あまり無理はしない事だ。自分の実力に過信すれば、どんな冒険者であろうともあっという間に死んでしまうからな」


「分かりましたロディさん!」 


「ふっ、素直な少年だ」


 さすがSランク冒険者。油断のかけらも無い心がけだ!


「あのー……」


 と、そこで鑑定をしていた受付の人が僕に話しかけてくる。


「はい、何ですか?」


「そ、それがこちらの魔物の死体なのですが……」


 と、受付さんが指を指したのは僕が最後に討伐した魔物の死体だった。

 適当に詰め込んだから何を倒したのか覚えてないんだよね。

 えーと、こいつは……


「こ、これは!?」


「お、おいアレってまさか」


「嘘だろ!?」


 ロディさんが驚きの声を上げ、周囲の冒険者さん達もざわめき始める。


「あ、カイザーホークだ。さっき撃ち落したワイバーンの中に紛れてたんだね」


 どうりで一体だけデカいのが居ると思ってたんだ。

 もしかして、ワイバーンが岩場に居たのって、こいつから隠れてたのかな?

 まぁ細かい事はいいか。所詮ワイバーンとカイザーホークだし。


「じゃあこれも買取でお願いします」


「「「「って、反応そんだけかよーーーーーっっっ!?」」」」


 何故か僕は周囲の皆から総つっこみを受けてしまうのだった。

:(;゛゜'ω゜'):ロディ「俺が倒そうと思ってたのにー!」


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― 新着の感想 ―
まさかの作成者さま本人笑
[良い点] 子犬の群れに大人の犬が混じってたレベルの驚きでワロタ
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