第287話 蘇る野望
作者_(┐「ε:)_ 「どうも、漫画喫茶でカラオケしながら執筆してきました。数年ぶりのカラオケは喉が死ぬがスカッとするね」
ヘルニー└(┐Lε:)┘「ハードな曲を歌うと喉の奥が引っかかる感じで鈍ってますわー」
ヘイフィーヾ(⌒(ノ-ω-)ノ「タイピングの音を気にする必要もないからいいよね」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さまの声援が作者の励みとなっております!
私の名はレモルテ、誇り高き魔煌帝国の軍人だ。
私は上官の命令である兵器の発掘にやってきた。
その兵器の名は魔獣兵器。
文字通り上位の魔物である魔獣を兵器として自由自在に操るというものだ。
通常兵士の育成には長い時間がかかる。それが腕利きの熟練兵ならなおさらで、しかも一定以上の才能も必要となる。
だが魔獣兵器は生まれつき強力な存在である魔獣を兵士の代わりに使う。
つまり鍛える時間が不必要と言う事だ。
尚この技術を誰が考えたのかは不明との事だった。
あまりにも古い時代の技術で、我等魔族が考えたのか、敵である人族が考えたのか分からないらしい。
古代兵器の調査を行っていた際に偶然それは見つかったのだとか。
魔獣兵器が封印された場所は毒の空気が渦巻く地であった為、ある程度の機密情報を閲覧できる地位にいて、かつ毒に耐性のある私が派遣される事となった。
現地にやってきた私だったが、当時から数千年も経っていた事もあって目的の場所は全く分からず私は途方に暮れた。
何しろ毒に耐性のある者が少ない為、しらみつぶしに探すにしても人手が足りなさすぎたのだ。
幸いにも温泉が湧いていたので、毒の空気もあって上司からの連絡が困難な事を活かして湯治を兼ねる事にした。温泉気持ち良い。
毒に耐性のある私が使い魔を使って地道な調査を繰り返す事で数年が過ぎたある日、遂に古代の遺跡を発見した。
残念ながらその遺跡は魔獣兵器の封印された場所ではなかったが、いくつかある研究施設の一つだった事が分かった。
そして遺跡内で魔獣兵器を操る為のマジックアイテムも手に入れる事が出来た。
これは大きな一歩だった。一体いつになったら魔獣兵器は見つかるんだと言う上司のお小言から解放される日も近い。
ただこの任務が終わると温泉と別れないといけないのは残念だ。
今のうちに温泉の辺りに小屋を建てて私の土地と言う事にしておこうと思う。
プライベート温泉、とても良い響きだ……
遺跡の調査は続いた。
どうやら魔獣兵器自体は完成したらしいのだが、量産をする前に何かしらの大事件が発生したらしく、研究は中断される事になったらしい。
白い悪魔、白い災厄、喰われた、ありえないといった単語が見受けられる。
喰われたとはどういう事だろうか? まさか魔獣兵器が喰われたと言う事はあるまい。
魔獣を襲って喰うなどどんな化け物だと言う話だ。
そういえば我々魔人がこの世界への侵攻を一時中断したのも数千年前との話だったな。
確か当時何かしらの世界的な災厄が発生し、その復興のために戦争どころではなくなったと教わった覚えがあるが。
当時何が起きたのか一切が謎に包まれており、その不自然な情報の欠落からこの休戦期間の事を空白の休戦、純白の災厄と呼ばれるようになった。
同じ白という単語が使われているあたり、何か関係があるのだろうか?
だがその先が進まなかった。
山岳地帯のどこにも魔獣兵器が封じられている場所が見つからないのだ。
もうずっとここで温泉に入っていようかな、と思い始めた頃、状況が動いた。
。
私が日課の露天温泉巡りを楽しんでいたら、偶然人間の冒険者達と遭遇したのだ。
正直言って人間に耐えられる筈のない毒の空気の中に現れたので内心驚いたものだ。
ここで出会ったジャイロと言う若き冒険者との会話が私に新たな気付きを与える。
「って訳でさ、俺達はこの温泉を元に戻す為に温泉秘塔って呼ばれてる塔に行ったんだよ」
「塔? この辺りにそんなものは無かった筈だが?」
「森の中に隠されてたんだよ。確か認識阻害の結界が張られてるって兄貴は言ってたぜ」
認識阻害の結界だと!? 場所を尋ねれば、塔は私達が調査していた山岳地帯から絶妙に離れた位置に建っており、気付けないのも仕方ないことだった。
まさかそんな離れた場所に未知の研究施設が隠されていたとは!
しかもその用途がまたおかしい。
誰が作ったか分からない古代の施設。それを古い時代の魔法使いが温泉の為に利用していたと言うではないか。
だが常識的に考えて塔を建てた本来の主が温泉の成分を調整する為に作るとは思えぬ。
私はジャイロ達にバレないよう、使い魔に命じて塔を調査させた。
幸いジャイロ達が塔内を先行調査してくれていたお陰で、内部の防衛設備の大半が沈黙していたので助かった。
何よりほかの施設を調査していたお陰で塔内に隠されていた秘匿情報を閲覧出来たのだ。
そして私の予想は正しかった。
まずこの塔は温泉の成分を調整する施設などではなく、魔獣兵器を従える為の薬剤の製造施設だったのだ。
源泉の傍に生えていた薬草類もそのための薬草が野生化した物のようである。
何より価値ある情報だったのは、魔獣兵器の封印された場所が分かった事だ。
その場所は今まさに私達が居るこの源泉、その地下深くにあった。
はははっ! 灯台下暗しとはよく言ったものだ!
ジャイロよ、全くお前は私にとって幸運の女神、いや王子だよ。
私が魔獣兵器を従えた暁にはお前も我が帝国に連れて行くことも考慮してやろう。
なに遠慮する必要はない。この功績があれば我等が人族の世界を支配した後には間違いなく爵位と土地を与えられるだろうからな。
うむ、軍人を引退した際は温泉旅館の美人女将、いや経営者と言うのも悪くはない……って、いや飛躍し過ぎか、はははははっ!
ふー、落ち着け私。まずは任務を達成する事が先決だ。
私は洞窟内の補修と改装を行っているジャイロ達から離れると、魔獣兵器が封印されている源泉にやって来た。
そして温泉秘塔で発見した情報をもとに、源泉の傍に魔獣兵器をコントロールするマジックアイテムを近づける。
するとマジックアイテムに埋め込まれた宝玉がおぼろげな輝きを発し始めたではないか。
「……あった、ここだ!」
発見に次ぐ発見に興奮が止まらない。
魔獣兵器が見つからないのも当然だった。
ここには認識阻害の結界が張られていて、魔獣を従えるマジックアイテムを持っている者でないと地下に封印された魔獣兵器の存在を認識できないようになっていたのだ。
「さぁ、目覚めろ! 封印されし魔獣兵器、ダイ・スォー・ディメドランッッ!!」
私の号令と共に、マジックアイテムの宝玉が眩く輝きだす。
次いで地面が振動を始め、次第に揺れが大きくなる。
「うわっ、何だ!?」
「地震!?」
「皆さん、逃げましょう!」
洞窟の奥からジャイロ達が動揺する声が聞こえてくる。
さて、私も洞窟の外に避難するとするか。
洞窟の外に出た私はジャイロ達から離れ、空から魔獣兵器が姿を現すのを眺める。
山岳地帯の地面が震える様に盛り上がり、その中から巨大な金属製の鋭角な柱が飛びだした。
飛び出したのは一本ではなかった。
更に小柄な金属の柱が二本、三本と次々に現れる。
勿論小柄と言ってもそれは最初に出現した柱に比べてだ。
小柄な柱自身も十分に大きく、人族の町の防壁や城に等しい高さを誇っていた。
「くるぞ!」
そしてそれらの柱が盛り上がると、山肌が盛り上がり中から巨大な鱗の山がせり出してきた。
上空高くから見ているから分かるのであって、地上から見ている者が居たら何が起きているのか分からないだろう。
土煙がその巨体を隠すほどに高く舞い上がる。
「ふははははっ! 遂にやったぞ! 古の魔獣兵器の復活だ! さぁダイ・スォー・ディメドランよ! 麓にある人族の町を破壊してお前の復活の狼煙とするのだ!」
私はマジックアイテムを掲げて魔獣兵器に命じた。
「……フギャァァァァァァゥ」
ガリガリ、ドザァ、ゴロゴロ。
「……んん?」
だが魔獣兵器は私の命令に従おうともせず、大あくびをする前足で体をかき、地面に寝転がるとゴロゴロし始めたのだった。
「って、おおい! 何をしているのだ! 命令に従わぬか!!」
私は再度マジックアイテムを掲げて魔獣兵器に命令するが、奴は私の言葉など聞こえていないとばかりに小さなあくびで返す。
「くっ! 従えと言っているだろう!!」
業を煮やした私は魔獣兵器の近くまで降りてくると、風を操って魔獣兵器の耳に叫ぶ。
「ギャウ?」
そこでようやく私の事を認識したのか、魔獣兵器の視線がこちらに向いた。
「やっと気づいたか。私がお前の主だ。私の命令を聞いて麓の人族の町を攻げうわぁぁぁぁ!?」
その時だった。突然魔獣兵器が私に襲い掛かってきたのだ!
「あ、あぶ!? こ、こら! やめろ! 私の命令に従え!!」
だが魔獣兵器は私の命令を全く聞こうともしない。
「こ、この不良品がぁぁぁぁ!!」
業を煮やした私は上空に避難すると、魔獣目掛けて全力で黒魔針球を放った。
こうなったら力づくで降して命令を聞かせてやる!!
「ギャウ!!」
黒魔針球を受けた魔獣兵器が悲鳴をあげる。
「くくくっ、身の程を思い知ったか。さぁ、これ以上痛い思いをしたくなければ私の命令を……」
「グギャオォォォォォォォォォン!!」
命令を聞け、そう言おうとした私の声をかき消して、魔獣兵器が雄たけびを上げる。
その目は先ほどまでの眠そうな眼差しではなく、敵意に満ちた輝きを放っている。
「ギュオォォォォォ!!」
次の瞬間、私の目前に巨大な塊が迫って来た。
「おぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
慌てて回避すると、私の真横をダイ・スォー・ディメドランの巨体が横切った。
「その巨体で跳んだのか!?」
それは信じられない光景だった。
並みのドラゴン以上の巨体で、私の居る高さまで跳躍してきたのだ。
しかもドラゴンと違って翼も持たずにだ。
「ギャオォォォォォ!!」
「くっ!!」
再び飛び掛かってこようと体を縮めたダイ・スォー・ディメドランに向けて黒魔光槍を放つ。
「針で駄目なら槍をその空っぽの脳天に突き刺してくれる!」
狙い通り私の放った魔法はダイ・スォー・ディメドランに深々と突き刺さった。
「見たか防御魔法ごと貫く私の光槍を……何っ!?」
だがダイ・スォー・ディメドランはひるむことなく私に飛び込んできた。
当然回避する私だったが、突然巨大な壁が姿を現す。
回避、無理だ! 防御魔ほ……!?
全身が金属の塊に跳ね飛ばされる。
かろうじて防御魔法の発動に成功したお陰で即死は免れた。
途切れかける意識を必死で繋ぎ留めながらも翼を動かして地上に不時着する。
「……う、うう」
震える体を必死に動かして懐から支給品のポーションを取り出すと、体に振りかけた。
「……ふぅ」
痛みが幾分か和らぎ、傷口が小さくなる。
何とか助かった。幸いダイ・スォー・ディメドランは私を見失ったらしく、雄たけびを上げながら周囲をギョロギョロと探し回っている。
「参ったな。まさかあれ程堅いとは……さすがは魔獣兵器ということか」
兵器としての力は理解できた。
問題はそれを制御できない事だ。
「何故制御出来ぬ? 魔獣兵器は完成したのではないのか?」
分からない。分かっている事は一つ。このまま暴れまわる魔獣兵器を指をくわえて見ている事しか出来ないと言う事。
「おーい!」
身を隠して悩んでいた私だったが、そこに近づいてくるものがあった。
あれはレクスと名乗った人族の冒険者だ。
「マズイ」
正直あの男は危険だ。
あの洞窟で私と共にソードディメドラン相手に良い戦いをしたジャイロ達に戦い方を教えた男だと聞く。
一見してジャイロ達と同じ年齢に見えるが、その実力は桁が違うと言うではないか。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
正直致命傷は免れたが傷はまだ深い。今は休戦しているとはいえ、人族に弱みを見せる訳にはいかない。
「一体何があったんですか?」
不味いな、ここで私があの魔獣を復活させた犯人だとバレるのは避けたい。
「……大変だ、魔獣が復活した!」
なのでしらばっくれる事にした。復活した事は事実だしな。
あと誰が原因かは聞かれていないのでセーフ。
「魔獣?」
「ああ。見た感じソードディメドランの近縁種だろう。凄まじい強さだ」
「……成る程、確かに同種の魔物ですね」
流石にボロボロの私が奴を復活させた犯人だとは結び付かなかったらしく、レクスは意識をダイ・スォー・ディメドランに向けてくれた。
「分かりました。あいつは僕が何とかします。貴女は休んでいてください」
「ああ、分かった」
そう言うとレクスは魔獣兵器の下へと飛んでいった。
「よし、何とか話題を逸らせることが出来た! 今のうちに逃げ……」
逃げようと体を起こしたその時だった。
ビキン、ズズゥン……
突然ダイ・スォー・ディメドランが真っ二つになって倒れたのだ。
「……へ?」
え? 何? 何が起きたんだ?
まさかレクスがアレを倒したのか?
私の渾身の攻撃を意に介さなかったバケモノだぞ!?
「…………報告に戻ろう」
私はすぐさま軍人としてやるべき事を決めた。
まず魔獣兵器は使い物にならない事。
そして魔獣兵器を容易く倒す存在がいるという事。
この二点は今後の軍事作戦上非常に重要な意味を持っている。
相手は軍人ではないとはいえ、人族と我等は敵同士だ。
ならば奴の存在は敵の新兵器といっても過言ではないだろう。
そのような存在を確認してしまった以上私には報告の義務がある。
万が一奴に私の任務がバレたら、私は始末されてしまう。
だから今すぐに撤退して上司に報告しなければ!
「うむ、仕方がないな! 任務を全うできなかった事は誠に遺憾だが、それ以上に私にはやらねばならぬことが出来た! と言う訳でさらばだ!」
即断即決。己のやるべきことを正しく理解した私は即座にその場を離れようとした……のだが。
「ふぎゃん!」
突然足を何かに引っ張られて地面に突っ伏した。
「な、なんだ今のは!?」
一体何があったのかと足元を見れば、そこには白い毛玉が私の足首に巻き付いていた。
「……何だこれ?」
白い毛玉には羊の様な角が付いている。
ますます分からん。
ともあれこれが足に巻き付いて躓いてしまったのだろう。
私は毛玉を掴み剥がそうとうするもそれはガッチリと絡みついて剥がれない。
というか何やら痛い。
「なんだ? 何か刺さっているのか?」
そう思った私が足に巻き付いているものを剥がそうと手を伸ばしたその時、毛玉から短い脚が生えた。
「んん!?」
何だ!? 生き物なのか!?
そして足の痛みが和らいだかと思うと、毛玉が小さな足を動かして私の体をよじ登って来る。
「お、おおお!?」
「キュウ!!」
「んん?」
よく見ると私はそれの鳴き声に聞き覚えがあった。
「お前、確かモフモフとか言う……」
「キュウ!!」
そうだ。コイツはレクス達が連れていたなんだかよく分からない生き物だ。本当に何だコレ?
モフモフは口元を赤く染めており、私をつぶらな瞳で見つめる。
もしかして、さっきの戦いに巻き込まれて怯えていたのか?
それで必死で私に掴まっていたのか?
「むぅ、そう言う事か……」
流石の私もこんな小さく無害な生き物が怯えていては放置する訳にもいかない。
「仕方ない。安全なジャイロ達の近くまで……」
「ニキュ」
送ってやろう、そう言おうとしたその瞬間、モフモフのつぶらな瞳がドブ川の様な濁った色に染まる。
「っっ!?」
「ギュォォォォォォ!!」
「う、うおぉぉぉぉ!?」
そして信じられない力で私を押し倒すと、無防備になった背中にのしかかる。
「き、貴様何を!?」
「あ~~~ん」
モフモフが赤く染めた口を大きく開く。
「ま、待て……まさか貴様」
「モグキュ」
バクン、と私の羽が齧られた。
「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
モフモフ_Σ(:3 」∠)_「モチモチ触感でおいしー!」
レモルテ( ;゜д゜)「ギニャァァァァァ!!」
ダイ・スォー・ディメドラン(;゜Д゜)「あ、あれ? 僕の出番いつの間に終わったの?」
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