第286話 壁の奥で飢える者達
作者_(:3)レ∠)_「ご報告ー! 新連載始まりましたー!」
ヘルニーヾ(⌒(_'ω')_「タイトルは『元魔王様の南国スローライフ~部下に裏切られたので、モフモフ達と楽しくスローライフするのじゃ~』ですー」
ヘイフィー_(:3)レ∠)_「初日は朝昼晩に3話連続更新で翌日からはお昼更新です」
ヘルニーヾ(⌒(_'ω')_「よかったらそっちも見てくださいねー」
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皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「この奥に何かが居ます」
僕の探査魔法は、壁の奥に無数の生命反応を捉えていた。
「何かって?」
「かなり微弱な反応が多数ですね。この反応だと弱い生き物だと思います」
事実壁の向こうの反応はとても弱い。
「弱いのならば無視しても良いのではないか?」
女魔人は時間の無駄だからと放置を提案してきたけど、それは止めておきたいところかな。
「土砂崩れの向こうに何が居るのが気になりますし、念の為確認しておいた方がいいと思います」
「そうね、弱いからといって危険じゃないとは限らないわ。毒を持っているかもしれないし、もしかしたらこの壁を崩した犯人かもしれないわ」
「確かにそう考えると確認した方がいいか。幸い私達ならこの土砂も何とかなるものね」
皆も確認した方が良いと思ったみたいだね。
「じゃあ開けますね」
僕は土魔法で土砂をかき分けつつ、天井と壁を補強してゆく。
そして土砂の向こうに居た生き物が姿を現す。
「これは……ソードディメドラン!?」
「それも群れ!?」
そう、崩れた土砂の向こうに居たのは、無数のソードディメドランの群れだったんだ。
ただ、その姿は……
「って、なんか滅茶苦茶痩せてねぇか?」
うん、ジャイロ君の言う通りもの凄く痩せていたんだよね。
成程、生命反応が弱いわけだよ。
ソードディメドラン達は突然土砂が動いたことに警戒していたらしく、弱々しくも警戒態勢を取っていた。
ただ、かなりフラフラとしているので、こちらをちゃんと認識しているのかは疑わしい。
「「「「………………フンフン……っ!?」」」」
だけど突然ソードディメドラン達の目がギラリと輝いたんだ。
そして次の瞬間、ソードディメドラン達はこちらに向かって殺到してきた。
「「「「ギャオォォォォォォォォッッッッ!!」」」」
「な、なんだぁ!?」
「もしかして私達を餌だと思ってる!?」
「ふっ、面白い。相手になってやろう! さぁ来るが良い!!」
僕達は武器を構えてソードディメドラン達を迎え撃つ。
ドドドドドドドドドドドッ!!
けれど意外にもソードディメドランは僕達に襲い掛かっては来なかった。
寧ろ僕達なんか眼中にないとばかりに散らばってゆく。
「「「「「「「え?」」」」」」」
「「「「モグモグモグモグ」」」」
そして猛烈な勢いでゲネルリクス草を食べ始めたんだ。
「えっと、ゲネルリクス草を……食べてる?」
あ、あれ? おかしいな。ソードディメドランは肉食の筈なんだけど……
変異種だからかな?
でもさっきのソードディメドランは襲ってきたんだよね。
「ど、どういう事? 私達に目もくれず薬草を食べてるんだけど?」」
「……そうか!」
「何か分かったのレクスさん?」
「ええ、恐らくこのソードディメドラン達はここのゲネルリクス草を餌にしていたんですよ。でも土砂崩れが起きたことで食べ物が無くなって困っていたんだと思います」
そう、土砂崩れで分断された事でソードディメドランは食べるものが無くなって困っていたんじゃないかな。
「成る程、一応筋は通ってるわね」
「でもそれだと源泉に居た奴はどういう事? アイツは温泉の成分を食べてたわよ?」
「それは……ああ成る程。アイツが欲しかったのは湯の花というよりも、そこに含まれるゲネルリクス草の成分が目的だったんでしょうね。見てください、ソードディメドラン達が食べている薬草を。ほとんどの個体がゲネルリクス草を食べていて、他の薬草には手を付けていません」
「え? ……あっ、ホントだ」
そう、ソードディメドラン達はゲネルリクス草ばかり食べていたんだ。
「……僕が思うに、ソードディメドラン達が食べてこぼれた薬草の汁が源泉に交じってローエリクサーになったんじゃないでしょうか?」
「ええ!? そんな事ってあるの!?」
「この光景を見た感じ、それで正解だと思います」
多分ソードディメドランの味の好みはゲネルリクス草なんだろうね。
「それに群れの中でも小柄な個体はゲネルリクス草以外の薬草を食べています。恐らく生存競争に負けた個体は他の個体が食べない薬草を食べて命を繋いでいるんでしょう。そしてソードディメドラン達が水の代わりに源泉のお湯を飲む事で、口の中の薬効成分がお湯に溶け出し、偶然ローエリクサーに近い配合になったんだと思います」
「うそぉ、エリクサーの調合がそんな都合よくできちゃうの!?」
「群れの強さのバランスが上手いこと調合レシピに重なったんでしょうね。ただ厳密に調合したわけじゃないので、あんなに濃度の濃い温泉水になったんだと思います。」
まさに自然の奇跡だね。
「とはいえ、このままだと不味いと思う」
と、そこでメグリさんが何か問題を発見する。
「何が不味いの?」
「凄い勢いで薬草を食べてる。このままだと無くなる」
「「「「「「え?」」」」」」
言われて振り返ればソードディメドラン達はものすごい勢いで薬草を食べている。
このままだとメグリさんの言う通り全部食べ尽くしてしまいかねない。
不味いぞ、その所為で温泉の効能が消えてしまったら、温泉の恩恵で生きている町の人達の生活が大変な事になっちゃうよ!
「とりあえずソードディメドラン達からゲネルリクス草を守りましょう。ハイフィールドウォール!」
僕はすぐさま上級結界魔法を発動させて、ソードディメドラン達を薬草の群生地から追い出す。
「「「「ギャオオオオオオオオッ!!」」」」
すると食事を邪魔されたソードディメドラン達が物凄い勢いで結界に突撃を始めたんだ。
弱体化しているから個々の攻撃力は微々たるものだけど、それでも命がかかっているのでソードディメドラン達は必死だ。
何より数が多い所為で震動が増幅されて洞窟の天井がパラパラと墜ちてくる。
「ちょっ、洞窟が崩れちゃいますよ!」
「僕とノルブさんで洞窟を補強するので、皆は水源から湯の花を持ってきてください。さっきのソードディメドランが食べていたのなら、薬草の代わりになる筈です」
「わ、分かったわ!」
僕達は慌てて土魔法で洞窟を補強すると、リリエラさん達が水源から湯の花を運んでくる。
そしてそれをソードディメドラン達の前に放り投げると、彼等はクンクンと匂いを嗅ぎ始め、おそるおそる湯の花を口にした。
「……ッ!? ギャオオオン!!」
そして猛烈な勢いで湯の花を食べ始めたんだ。
「ふー、何とか崩落は免れましたね」
「スゲェ迫力だったな」
そうだね。狭い洞窟の中で崩落上等で暴れまわるのは心臓に良くない。
向こうも命がかかっていたから必死さが伝わって来てまた凄い迫力だったよ。
「あんなにガリガリに痩せてるのに凄いパワーよね」
「まぁ、命がかかってるものねぇ」
「とりあえずこれで時間は稼げそうですね」
ソードディメドラン達の興味が湯の花に移った事で、僕達は今後の事を相談する。
「それでこれからどうするの? 魔物達の食欲が収まるまで湯の花を与え続けるの?」
「いえ、ソードディメドラン達はかなり飢えてますし、このままだと湯の花も食べ尽くしたあげくゲネルリクス草も食べ尽くしてしまいますね」
このペースだと湯の花が持たないのは目に見えているからね。
「じゃあどうするの? ずっと結界を張り続ける訳にはいかないわよ?」
「今のうちにゲネルリクス草の増産をしましょう」
「増産? だが薬草の数など今日明日で増やせんぞ?」
僕の提案に女魔人が無理だろうと肩を竦める。
確かにただ増えるのを待っていたら無理だろうね。
「ええ、ですから嵩増しします」
「「「「「「嵩増し?」」」」」」
僕は魔法の袋から肥料を取り出す。
「はい、この植物用の肥料をこの辺りにバラまいて、薬草の成長を促進するんです。そうすれば十分に育った薬草に成長します。それなら一本当たりの量で数を補うことが出来ますよ」
「一本当たり……あっ、もしかしてあの時の肥料!?」
「もしかして聖都で使ったアレ!?」
「あーあれかー!」
リリエラさんが気付くと、皆も次々に思い出す。
「あれならすぐに効果が出そうよね。でもあれだと量が増えすぎない!? それはそれで不味いと思うんだけど……」
「ええ、ですので肥料はソードディメドラン達の飢えが収まるまで、ですね」
なんならソードディメドラン達が満足したら、余った分を僕達が回収しても良いだろうし。
「じゃあ皆さんはこの肥料を撒いておいてください。僕は念の為洞窟の奥を補強してきます」
「分かったわ」
「こっちは任せろ兄貴!」
皆に肥料を渡すと、僕はソードディメドランの間を抜けて洞窟の奥へと進んでゆく。
するとその奥でも土砂崩れが起きていたらしく、道が塞がっていたんだ。
「やっぱりこっちも土砂崩れが起きてるなぁ。ああ成る程、完全に埋まった訳じゃないのか」
幸いにも天井まで土砂が埋まっていなかったので、そこから空気が流れて窒息死せずに済んだみたいだね。
「もしかしたら源泉で出会った個体は元々ここを抜け出せる程度の大きさだったのかもしれないね」
もしかしたらアイツは他の個体に負けて碌に食事が出来なかった事が功を奏したのかもしれない。
そう考えると源泉で僕達に襲ってきたのは、食料を奪われまいと言う本能的なものだったのかもね。
暫く進むと、洞窟の奥に光が見えてきた。
どうやら出口に到着したみたいだ。
外に出た僕は、飛行魔法で空中に浮きあがると周囲の地理を確認する。
「ふむふむ、成る程、外に出てくるとこの辺りになるのか。町の位置があっちだと考えると、さっき倒した個体は水路にたどり着くまで結構彷徨ったんだなぁ」
これは水路を見つけたのは本当に偶然っぽいね。アイツ苦労したんだなぁ。
「疑問も解けたし、皆の所に戻ろうかな」
これで温泉問題はほぼ解決かな。
あとは源泉から獲れるだけ採取した湯の花をソードディメドラン達にあげて、増産したゲネルリクス草に満足したら依頼完了だね。
そう考えながら皆の下に戻ろうとしたその時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!
「何だ? 地震?」
突然山が揺れ始めたと思ったその時だった、ドゴォォォォォンと何かが激しく弾け飛ぶ音が聞こえたんだ。
「いけない!!」
僕は急ぎ皆が居る洞窟へと向かう。
火山が爆発した様子は無い。となると今の音は別の何かが原因だ。
新しい魔物? それともまた土砂崩れが起きた!?
「どちらにせよ皆が危ない!」
ノルブさん達が居るから生き埋めになってはいないと思うけど……
その時だった、洞窟の奥から誰か這い出て来たんだ。
「う、うう……」
出てきたのはリリエラさん達ではなく、僕達に同行していた女魔人だった。
「大丈夫ですか!?」
僕は女魔人に回復魔法をかけながら何があったのかを尋ねる。
幸いなことに、土塗れではあったものの女魔人に目立った怪我はなかった。
「お、お前は……」
始めは呆然としていた女魔人だったけど、僕の顔を見て落ち着いたのか、目に焦点が戻って来る。
そして突然顔を青ざめさせたかと思うと、こう告げて来たんだ。
「ま、魔物が、魔物が蘇った……っ!!」
ソードディメドラン達 (´;ω;`)「うまうまっ、めっちゃ久しぶりのご飯ー!」
モフモフ_Σ(:3)レ∠)_「はい結界」
ソードディメドラン達 (つД`)・゜「ぎゃうー!」
モフモフ_Σ(:3)レ∠)_「はい湯の花」
ソードディメドラン達 (´;ω;`)「もしゃもしゃ、これはこれでうまい」
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