第28話 商人と魔草
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「はぁっ!」
リリエラさんが戦場を駆ける。
身体強化魔法で強化された肉体から繰り出される槍の一撃で、魔物が横一文字に薙ぎ払われる。
「ギュウゥ!」
モフモフが大地を疾走し、魔物達の群れに飛び込む。
小さな体を活かして魔物達の足元を通り抜ける事で相手をかく乱するだけでなく、隙を見てその喉笛を容赦なく噛み千切る。
「キュウン!」
そして倒した敵を食べ始めるモフモフ。
うーん、敵のど真ん中で食事を始めるとはなかなか根性が座っているなぁ。
「ギュウウン!!」
って言うか、なんだか荒ぶっている様な気がするんだけど?
「あ、あの姉ちゃんは分かるが、あっちの小さいのは一体何なんだ!?」
と、近くで商人さん達の護衛をしていた冒険者さんが驚きの声をあげる。
「あいつは森で見つけた魔物の子供ですよ」
「ま、魔物!? そんなのを連れて大丈夫なのか!?」
商人さん達がモフモフの正体が魔物と知って、怯えの色をにじませる。
「それなら大丈夫ですよ。どうも卵から孵った直後に見た僕を親と勘違いしたみたいで、すっかり僕に懐いています」
「そ、そうなのか?」
「それにほら、竜騎士だってドラゴンを従えて乗っているじゃないですか」
僕は商人さん達を安心させる為、高山国の竜騎士団を引き合いに出して説明する。
「竜騎士団って、おとぎ話の存在じゃないか……」
僕の言葉に何故か商人さん達が苦笑する。
「え?」
竜騎士団がおとぎ話? この人は何を言ってるんだろう?
竜騎士がドラゴンに乗るのは当たり前の事じゃないか。
「終わったわよー」
と、話をしていたらリリエラさんが戻って来た。
「ギュウウン!!」
そしてモフモフはまだ食事中みたいだ。
というかまだ荒ぶってるなぁ。
「よし、素材の剥ぎ取りをするぞー!」
戦闘が終わった冒険者さん達が、自分の倒した魔物の解体を開始する。
僕は今回の戦いには参加していないので皆が剥ぎ取りをしている間は見張り役に徹する。
というのも、前回の襲撃で派手に戦ったので、リリエラさんから魔力を消耗した振りをしておけと釘を刺されたんだ。
曰く、あまり目立ちすぎると良くないとの事。
それを聞いた僕は素直にリリエラさんの言う通りにした。
僕自身、前世では目立ちすぎた為に貴族や色々な連中に目をつけられたもんなぁ。
それに、彼女の言う通り、皆の活躍の場を奪う訳にもいかないもんね。
猟師や漁師がお互いの狩場を荒らさない様に、冒険者も他人の獲物を奪わない配慮が必要って訳だ。
だから僕は皆の獲物を奪わない様に自粛する事にした。
うん、さすがはリリエラさんだ。
彼女には冒険者として学ぶべき箇所が沢山あるね!
「いやー、いざとなったらAランク冒険者が居るから、思い切って戦えるな」
「ああ、後ろを任せられる安心感があるってのは良いよな」
雑談していた冒険者さん達と視線が合うと、彼等が手を振って来たので、こちらも手を振り返す。
正直僕はAランクにふさわしくないと思うんだけど、それで皆が気持ちよく戦えるのなら、それでも良いかな。
そうやって見張りをしていた時、偶然近くに居た商人さん達の会話が耳に入ってきた。
「それにしても今回はやたらと魔物が出るな」
「そうだな。特に最初の襲撃はヤバかった。Aランクの彼がいなければ全滅していた事だろう」
「そんなに魔物の数が多いんですか?」
僕は見張りを続けながら会話に参加する。
「ああ、いつもならここまで魔物が出る事はない。それに普段なら現れない様な強力な魔物も混じっている様だ」
そう言って商隊のリーダーさんが解体されている魔物を見る。
「ローグラプターですね。森の中を群れで行動し縦横無尽に動き回って、獲物が疲れるまで追い回して仕留める魔物。森の外に出るのは珍しいですね」
ローグラプターは見た目が恐ろしく強力な魔物だけど、その実臆病な魔物だ。
だから彼等は数で有利な状況でも追い立て回して疲れさせてからでないと攻撃してこない。
森から出ないのも遮蔽物が無い場所で戦うのを避ける為だ。
だと言うのに、ローグラプター達はこの商隊を襲撃してきた。
「複数の魔物が同時に襲ってくるのも異常だ。今までこんな事は一度たりとも起こった事はねぇ」
ふーむ、ありえない事が連続して起きているか。
それは商人さん達でなくても違和感を感じるよね。
「どうにも嫌な予感がしやがる。これは誰かやらかしたかもしれねぇな」
「やらかした?」
「ああ、たまに出るんだ。道理を理解できねぇ馬鹿がよ」
良く分からないけど、誰かが何かをしたからこうなったって事なのかな?
それってつまり……
「誰かが意図的にこの状況を作ったって事ですか?」
「いや、どっちかってぇと、どうなるかを知らずに持ち込んだってとこだろうな」
「持ち込んだ?」
「しゃーねぇ、ちっと調べるか。おいお前等! 荷物を改めるぞ!」
リーダーさんの号令を受けて、近くに居た商人さん達が頷いて集まってくる。
「おいおい、荷物を改めるとは穏やかじゃないな大将」
「いや、いくらなんでもこりゃ異常だ。調べた方が良いだろ」
「だな。冒険者に周囲を見張ってもらってる間に確認すっか」
「何だ何だ?」
解体が終わった冒険者さん達が、何事かとこちらにやってくる。
「どうかしたのかい?」
「ああ、どうにも魔物の襲撃が続くのが怪しくてな。ちっとばかし全員の荷物を確認させてもらう事にした。悪いがアンタ等の荷物も確認させてくれ」
「荷物を?」
「ああ、誰か魔物を刺激する何かを持ち込んだんじゃねぇかと俺達ゃ睨んでるんだ」
魔物を刺激する品、成程そういう事か。
確かに魔物には特定のモノや形、色などに対して過剰に反応する種がいる。
今回の魔物達もそうした理由から何かに反応して僕達を襲って来たんじゃないかと考えた訳だね。
「まぁそう言う事なら」
こうして僕らはお互いの荷物を確認する事になった。
「あんたは随分と荷物が少ないな」
商人さんが僕の荷物の少なさに首を傾げる。
「僕の荷物はいつもこれだけですよ」
だって魔法の袋があるからね、わざわざ外に重い荷物を持つ必要がない。
重い物と言ったら、精々が武器くらいのものだ。
そして魔法の袋に入れた品物は匂わないから、魔法の袋の中身を見せる必要も無い。
というか、全部調べたら日が暮れるからね。
「私もこれだけね」
と、僕に荷物の大半を預けているリリエラさんも少量の荷物を見せただけだった。
「なる程、高ランクの冒険者は無駄な荷物を持たないんだな」
「水や火は魔法で用意しているし、身軽さを何より重要視してるって訳か。参考になるぜ」
と、近くに居た冒険者さん達が僕らを見てしきりに頷いてる。
「こっちは問題ないな」
「こちらも問題なかった」
商人さん達が互いの荷物を確認し合って問題が無い事を確認する。
そして最後の一人の荷物を確認し終えたんだけど、どこにも怪しい所はなかったんだ。
「予想が外れたな」
てっきり誰かが危険な品を持ち込んでいたと思っていたので、商人さん達が肩透かしを食らった様子で相談している。
「となると、本当に偶然魔物が群れで襲ってきたって訳か?」
「そういう事なんだろうなぁ」
釈然としない顔をしながらも、商人さん達は結果を受け入れる。
「しょうがない、このまま警戒を強めて王都まで向かおう。本当に何か他の原因があるのかもしれないしな」
「そうだな」
皆が荷物をまとめ直し、再び旅が再開される事になった。
「おーいモフモフ! そろそろ戻っておいで!」
僕は未だ食事をしていたモフモフを呼び寄せる。
「キュ!? キューッ!」
僕に呼ばれたモフモフがこちらに向かって走って来る。
「よーしおいで」
僕は膝を下ろし、腕を広げてモフモフを迎え入れる姿勢を取る。
「キュー!」
モフモフが僕の腕の中に飛び込んで……こなかった。
「あれ?」
何故かモフモフは僕やリリエラさんを無視して、商人さん達の方へと向かっていく。
「おーいどうしたんだモフモフー?」
するとモフモフは、商人さん達の馬車の方へと走っていき、その中の一つの下へと潜り込んだ。
「おいおい、危ないぞー!」
動き出した馬車に轢かれては大変と、僕はモフモフを下から引きずり出そうとしゃがみ込む。
すると、馬車の下で変な動きをしているモフモフの姿に遭遇した。
「キュッキュッ!!」
なんとモフモフは二本足で立ち上がり、しきりにジャンプを繰り返し空中で手を叩いていた
一体何をしているんだろう?
僕はモフモフが何をしているのかを確認する為、灯りの魔法を使って馬車の下を照らす。
「ん? これは……?」
馬車の底面には目立たない様に作られた棚が存在しており、その中にはいくつもの袋が固定されているじゃないか。
「おい何をやってる!?」
馬車の下に見えた物が気になって下にもぐっていたら、馬車の持ち主らしい商人さんに怒鳴られてしまった。
「す、すいません、馬車の下に括り付けられた袋が気になって」
「な、ななな! 何の事だ!?」
うん? 何で動揺してるの?
「いえ、ですから馬車の底の袋が……」
「へ、変な事言うんじゃねぇよ!」
いや実際にあるんだけど。
「何の騒ぎだ」
僕らが問答をしていると、商隊のリーダーさんが騒動を聞きつけてやって来る。
「な、何でもねぇよ!」
商人さんはあとからやって来たリーダーさん達を追い返そうとしているけれど、馬車の下から顔を覗かせていた僕に気付き、しゃがみ込んで馬車の下を見る。
「こいつは、隠し棚か。こんなモノを仕込んでいるって事は、中は後ろめたいシロモノだな。いつの間にこんなもんを作りやがった。おいお前等!」
「へいっ!」
リーダーさんの号令に、他の商人さんや使用人の人達が馬車の持ち主の商人さんを拘束する。
「は、離せ!」
そして他の商人さん達が馬車の下から袋を引っ張り出してくる。
「これが魔物が襲ってきた原因か?」
「ギュウ! ギュウ!」
モフモフがこれまで以上に興奮して袋に飛び掛かる。
「あっ、こら!」
そして袋の一つをビリリと引き裂いてしまった。
「む? なんだこりゃ」
モフモフが破いた袋から出て来たのは、紫色をした草の山だった。
「ギュウ!!」
モフモフは紫色の草に飛び掛かると、それをモシャモシャと齧り始める。
「ああコラ! 勝手に食べるな!!」
拘束された商人さんがモフモフを怒鳴る。
けどそれは無理ってもんですよ。
「うちのモフモフがすいません。でも未加工の魔草をそのまま積んでたらどんな魔物でも我慢が出来ないですよ。魔草はちゃんと加工処理しないと」
そう、モフモフが齧っているのは魔物が大好きな草、魔草だった。
そりゃこんな物があったらこいつが興奮するのも仕方ない。
きっと狩りで興奮した所為で我慢が聞かなくなって魔草に飛びついてしまったんだろう。
「魔草!? これが魔草なのか!?」
リーダーさん達が驚いている。
「あれ? 皆さん魔草を見た事がないんですか?」
これは意外だ。王都まで向かう行商人の人達が魔草を見た事がないなんて。
ああそうか。商人さんだもんね。皆が見ているのは加工済みの魔草の姿か。
「魔草というとアレだろう? 魔物を呼び寄せる邪悪な悪魔の植物」
なにその大げさな説明!?
たかだか魔物の大好物ってだけなんですけど。
まぁ一応薬にはなるけどさ。
「魔草は魔物が好む匂いを出す草です。だからこれまで襲ってきた魔物達は未加工の魔草の匂いをたどってやって来たみたいですね」
「魔草と言えば、取引を禁止されている禁制品じゃねぇか。手前ぇそんな物を運んでやがったのか」
商人さん達が拘束されている商人さんを睨みつける。
「だが何でヘキシの町に来るまでは魔物に襲われなかったんだ?」
そう言えば、ヘキシの町で合流した時は魔物が町に集まる様子はなかったもんなぁ。
普通魔草のある場所へは、匂いに誘われてどこからでも魔物が集まってくる筈なんだけど。
「んー……あっ、破れてる」
よく見ると、袋の一つが破れている。
どうやら馬車で運んでいる最中に引っかけて破れてしまったみたいだね。
「という事は、もしAランクの兄ちゃん達が居なけりゃ、俺達ゃこのバカの所為で魔物に殺されてたって訳か。このバカたれ!」
リーダーさんが怒って拘束された商人さんの頭を叩く。
「待てよ! 俺は魔草なんて運んでねぇよ!」
拘束されている商人さんが自分は魔草を運んでないと必死で否定する。
「何言ってやがる。ここにあるじゃねぇか!」
「そりゃソイツが言ってるだけで、実際に見た事ある奴なんて誰も居ねぇだろうが!」
どうやらこの商人さんは自分が魔草を運んでいた事を認めたくないみたいだ。
「Aランク冒険者の証言だぞ。こんな所に隠してたお前の言葉よりは信憑性がある。それに町に戻ってギルドあたりに調べてもらえば、これが魔草かどうか一発で分かる」
「そ、それは……」
リーダーさんに睨まれて、拘束された商人さんが目を伏せる。
確かに、ここで分からなくてもちゃんと調べればこれが本当に魔草だと判明するのは間違いないもんね。
「どのみち魔草は禁制品だ。取り扱っているのがバレたら役人にしょっ引かれるのは間違いねぇ」
あれ? 魔草が禁制品? いつの間にそんな事になってたの?
前世の記憶じゃ危険な品ではあったけど、禁制品ではなかったと思ったんだけどな。
「ま、待ってくれ! 俺は何も知らないんだ! 薬の材料だから運んでくれって頼まれたんだよ!」
「馬車の隠し棚に隠してまでか? あ?」
「ほ、報酬が良かったんだよ。薬に使う貴重な薬草だから、盗まれないように隠して運んでくれって言われたんだ!」
「馬鹿が、良いように利用されやがって」
リーダーさんが呆れたように溜息を吐く。
「ともかくこいつは処分だ。魔物に襲われてまで運ぶ義理もねぇし、なにより禁制品だからな」
「待ってくれ! そんな事をされたら報酬が貰えなくなっちまう!」
「馬鹿野郎! 厄介事に俺達を巻き込むんじゃねぇ!」
「頼むよ! 借金が返せなくなるんだ!」
「自業自得だ馬鹿野郎!」
「助けてくれよ親父ぃー!」
「「「親父!?」」」
突然のカミングアウトに僕らは驚きの声をあげる。
この拘束された商人さん、名をボズさんと言うらしく、なんと商隊のリーダーさんの息子なのだという。
そしてボズさんが言うには、どうも裏の賭場で借金を作ってしまい、商売道具まで借金のカタに取り上げられるところだったらしい。
でもそこに現れた謎のローブの人が借金を肩代わりする代わりに、この仕事を受ける事を求めてきたという話だった。
うーん、凄く怪しいね。
で、荷物の中身が何かは本当に知らなかったみたいだけど、それでも薄々違法商品である事は勘づいていたみたいだ。
「それでどんな奴から依頼を受けたんだ」
リーダーさんに詰問されるも、ボズさんは分からないと首を横に振る。
「わ、分からねぇ。フードを目深に被って声を変えてたからよぅ」
「それじゃあどうしようもねぇな。……おいボズ、これを捨てれば何も見なかった事にしてやってもいい。だがこれを捨てれないなら、お前は商隊から追い出す。好きな方を選べ」
「そ、そんな……」
ボズさんが絶望で顔を青くする。
実質答えはあってないようなものだからね。
捨てないと商隊から追い出され、更に集まって来た魔物に襲われてお陀仏。
捨てたら捨てたで借金が返せなくて大変な事になると。
「素直に衛兵に報告してはどう? 違法商品を運ばせた相手からの借金ならチャラに出来るでしょ」
リリエラさんの意見は一見道理が通っている。
でもそれじゃあ駄目なんだよ。
「ば、馬鹿言わねえでくれよ。俺達は街道を行き来して行商をしてるんだ。もし仕事を放棄した事がバレたら、何処の町で連中に待ち伏せにあって闇討ちされないとも限らねぇ!」
裏社会の人達の情報網と執念は凄いからね。
彼等はメンツを何より大事にするから、自分達の顔に泥を塗った相手には採算度外視で報復活動をしてくる。
少人数で仕事をする行商人にとってそれは、文字通り死活問題だろう。
「それじゃあ話にならないわね。もう見捨てるしかないんじゃないかしら」
「そんな事言わねぇでくれよぉー」
さっきまで強気だったのに、バレてしまってからはすっかり弱々しい有様だ。
まぁ運んでいたのが禁制品だった上に、逃げ場もないとなればね。
とはいえ、実の息子を見捨てる光景と言うのは、見ていて楽しくはないなぁ。
そんな事を思ったからかついつい僕はポロリと口を滑らせてしまった。
「まぁ方法は無い事もないけど」
「あるのか!?」
僕のつぶやきに半泣きだったボズさんが食いつく。
意外と耳ざといなぁ。
「なぁ! 何か良いアイデアがあるのか? 教えてくれよう!」
「ええと、アイデアというか、相手の言い分を利用してしまえば良いんじゃないかなと」
「どういう意味だ?」
首を傾げるボズさんに、僕は説明する。
「ええとですね、向こうは魔草は薬の材料だと言ったんですよね」
「あ、ああ。そうだ。確かにそう言っていた」
「だったら、実際に薬にしちゃえばいいんじゃないですか?」
「「「「「はっ?」」」」」
皆がどういう事? と首を傾げる。
「つまりですね、ボズさんはこの魔草を薬の材料だと言われて手渡されました。だから中身が何かは知りません。そういう事になってますよね?」
「あ、ああ。何を運ぶのかは聞いてねぇ」
「それでですね。僕が魔草を加工して無害な薬の材料にしか使えないように加工してしまうんです。加工すれば魔物を引き寄せる成分を無くす事も出来ますしね」
「あんたそんな事まで出来るのか!?」
リーダーさんが驚きで目を丸くする。
いやいや、そんな大したことじゃないですよ。
「でも勝手に加工するのは不味くない?」
リリエラさんが魔草を加工したのがバレると不味くないかと不安を口にする。
「いえ、ボズさんは中身を知らない訳ですから、言われた通り運んできたとシラを切れば良いんです。運ぶ中身をすり替えた訳でも無いので。更に言えば、僕がするのは下処理なので、見た目が変わる訳ではありませんから、誤魔化すのも容易かと」
「はぁ……そんな事が出来るのか……」
「Aランク冒険者スゲェなぁ」
「何でも出来るんだなAランク冒険者って」
他の冒険者さん達が凄い凄いと言っているけれど、前々世でちょっとポーション関連の研究を嗜んでいたから出来るだけですよ。
「おうボズ、ここまで知恵を絞ってくれたんだ。もう悩む必要なんざねぇだろ?」
そうリーダーさんが言うと、ボズさんが声を詰まらせながら頷く。
「お、お願い……します。助けてください……」
「ええ、任せてください」
ここまで関わってしまった以上、見捨てるのも気分が悪い。
大剣士ライガードも最後まで悪友を見捨てる事は出来なかったって言うしね。
「馬鹿が世話かける。この礼は必ずするからよ」
リーダーさんが僕に頭を下げて来る。
なんだかんだ言って、息子を見捨てたくは無かったんだろうね。
リーダーさんの目は涙ぐんでいた。
「あはは、そんなに気にしなくて良いですよ」
そんなこんなで魔草を加工すると決めた僕らは、さっそく行動を開始した。
まず冒険者の皆さんが周囲の護衛を行い、僕は魔法の袋から製薬の為の道具を取り出す。
「うぉ!? 一体どこにあんなモンが入ってたんだ!?」
「Aランク冒険者スゲェな!」
「ほらほら、護衛に専念して!」
「「「へい姐さん!」」」
リリエラさんに叱責され冒険者さん達が見張りに戻る。
いつの間にか姐さん呼ばわりだなぁ。
「まず水晶水に魔草を小一時間浸す。その間に乾燥させた日光草を粉末にして……」
僕は手早く必要な材料を用意し、それらを魔草が浸された水晶水に入れていく。
「後は溶液が浸り切れば完成です」
「ずいぶん簡単だな」
緊張していたリーダーさんが肩透かしを食らう。
「あくまでも薬の材料として下処理をするだけですからね。ただ数が多いのでその分大変って話です」
そして十分に浸した魔草を火魔法と風魔法を掛け合わせた温風魔法で乾燥させる。
「ホットエアー!」
そうして、十分に乾燥した魔草をチェックしていく。
「うん、OKです」
僕は魔草の加工が完了した事を皆に告げる。
「おお、もう終わったのか!?」
「意外に早かったなぁ」
「これで魔草の匂いに惹かれて魔物がやって来る事もありません」
そう言ってモフモフを魔草に近づけるも、モフモフは興味なさげに後ろ足で魔草を蹴った。
「おお、これなら大丈夫そうだな! 感謝するぜ兄ちゃん! さすがはAランク冒険者だ! まさかあの悪名高い魔草を無効化できるなんてな!」
リーダーさんが僕の背中をバンバンと叩きながら耳元でささやく。
「ありがとよ、ウチのバカ息子をハメた連中は必ず落とし前をつける。これ以上アンタ等に迷惑はかけねぇ」
「いやいや、この程度大した事ありませんよ」
僕もなにも聞かなかったフリをする。
これ以上は彼等の問題だ。
「すまねぇ! 恩にきるぜアニキ!」
まって、何でアニキ!?
「この恩はぜってぇ返す! 必ずだ!」
「そうだぞこのバカ息子が! このお人が居なかったら手前ぇは俺の手で引導を渡してた所だ!」
「す、すまねぇ親父!」
まぁなんだかんだ言っても仲良し親子だよね。
二人とも涙ぐんで喜んでいる。
「ところで、加工した魔草は安全な薬の材料にしかならないって言ってたけど、何の薬の材料になるの?」
リリエラさんがふと気になったらしく、加工した魔草の使い道を聞いてくる。
周りの皆も確かに気になると興味津々な様子でこちらを見てくる。
「ええと、ですね」
「うん」
「加工した魔草はですね」
「うん」
「風邪薬になります」
「……え?」
「ですから、風邪薬が出来ます」
「ご禁制の魔草が、風邪薬に?」
「なります」
想像もしていなかった使い道に、皆ポカーンとした顔になる。
そして……。
「ぷ……くくく」
「か、風邪薬って……」
「「「「「「ぶはははははっっっ!」」」」」」
皆堪えきれなくなったのか、爆笑し始めた。
「ご禁制の品で出来るのが風邪薬っ!!」
「ちょっ、風邪薬が必要な裏社会の住人って!」
「ぶはははははっ、悪の親玉が自分の部屋で風邪薬を飲んでんのかよ!!」
ちなみに結構効きますよ?
「「「「「「あははははははははっ」」」」」」
こうして、さっきまで殺伐としていた空気はすっかり和やかな空気になったのでした。
うん、風邪薬を選択して正解だったね。
ヾ(≧∇≦)裏社会のボス「やったー!風邪が治ったー!」
:(;゛゜'ω゜'):裏社会のボス「ってちげぇし!」
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。