第278話 封じられた塔へ
作者(/・ω・)/「宣伝でーす!」
女神(‘ω’)ノ「なんと「錬金術? いいえ、アイテム合成です!~合成スキルでゴミの山から超アイテムを無限錬成!~」が書籍化決定しましたー!」
ヘルニー_:(´д`」∠):_「セリフ取られた!? ってか誰!?」
ヘイフィー(/・ω・)/「活動報告と合成スキルの前書きでは既に報告済みですが、二度転生読者の方にもご報告ですよー」
作者(‘ω’)ノ「レーベル、発売時期はまだ内緒ですが、情報の公開許可がおりましたら随時報告していきますねー!」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
僕達は小型ゴーレムを使い、枯れた温泉の水路から水源を捜索することにしたんだ。
そしてその結果、全ての温泉が一か所に集結している事に気付いたんだ。
このことを知った僕達は、さっそく町の外にある問題の地点へと向かった。
ただその場所、温泉街からそれほど離れていないんだよね。
原因である可能性の高い場所がこんなに近くにあった事に驚きだよ。
「ん? あれは……塔?」
町を出て目的地に近づいてきたら、進む先に不審な塔の姿が見えて来たんだ。
「え? 塔? どこに?」
けれどリリエラさんは塔がどこにあるか分からないと周囲をキョロキョロと見回す。
「リリエラさん、目に探査系の身体強化を行ってください」
「目に? えっと、分かった、やってみるわ。ええと、探査系の魔術は……あっ! 見えた! ホントに塔だわ!!」
塔を発見したリリエラさんが見えた見えたとはしゃいでいる。
今彼女が行ったのは、探査魔法を使った身体強化だ。
これを行うと全身の感覚を強化出来る為、無意識レベルでわずかにしか感じ取れなかった情報も感覚を強化することで違和感を明確に理解できるようになるんだ。
またその効果を一部の感覚のみに行う事で例えば目が遠くまで見えるようになったり、耳が良く聞こえるようになったり、鼻が利くようになったり、手に触れる違和感を感じやすくなり、肌に触れる空気の流れの異常にすら気付けるようになる。
今回はそれを視覚に集中する事で、塔の周囲に巡らせてあった幻術を看破する事が出来たんだ。
「あれはガンエイさんの新しい方の研究所にかけられていたのと同じ類の幻術ですね。近づかれたらバレる程度の魔法ですが、そこまで強く侵入者を警戒している訳じゃないか、あるいは単純に幻術の技術が低い術者がかけたんでしょう」
「成る程ねぇ。確かにレベルの低い冒険者じゃこんな所まではこれないし、狩人も魔法を使える人はまずいないからバレる心配はないって考えね」
ん? 狩人でも魔法は使うと思うけどなぁ。身体強化魔法や飛行魔法を使ってドラゴン狩りとかする狩人やエンシェントプラントを伐採する木こりとか普通に居るし。
ああ、でも探査魔法に力を入れている木こりや狩人が居ないと言う意味ではそうかもね。
彼等は自分の獲物を狩る為の技術に専念するタイプだから、多種多様な相手に対する技術には無頓着だ。
そんな感じで魔法談義に花を咲かせていると、目的の塔へとたどり着く。
「では調査開始といきましょうか!」
「おおー!」
「キュウー!」
接近した感じ、近づく者を攻撃する迎撃装置の類はない様だ。
となると考えられるのは許可なく塔の中に入った者を容赦なく襲ってくる類の防衛装置かな?
そして塔の入り口に近づいた僕達はそこに一つの立札が建てられている事に気付いた。
それにはこう書かれてあったんだ。
『この塔ルギアニン子爵家の私有地につき立ち入り禁止』
「「……」」
えっと、私有地? この塔が?
「ねぇ、レクスさん、これってどういう事かしら?」
「さ、さぁ。ただ分かるのはこの建物が子爵家の所有物と言う事ですね」
「それは分かるけど、でもだったら何で自分達で問題を解決しないの? ここに温泉が枯れた理由があるかもしれないなら、この建物の主なら心当たりとして真っ先に調べると思うんだけど?」
そうだよねぇ。それに疑問は他にもある。
「自分の領地のトラブルで、その原因であるこの塔の事を知っていて何で冒険者ギルドに連名で事件解決の依頼を出したのかしら?」
それに尽きるんだよねぇ。
正直子爵の意図が分からない。
本気で困っているのなら、この塔を自分で調査するだろうし、もし意図的に行っているのなら保養地として重要な財源である温泉を枯れさせる意図が不明過ぎる。
それに貴族が管理している場所で問題となると、自分達の管理責任能力に問題があると認めたくないからと黙殺される可能性もある。
うん、これは僕達の一存で決める事は出来ないね。となると……
「貴族の管理地に無理やり入る訳にもいきませんし、一旦町に戻ってマビナルさんに相談する事にしましょう」
そう、この依頼を子爵家と商業ギルドから受けたのはこの町の冒険者ギルドだ。
問題が発生したのなら僕等冒険者の元締めであるギルドに報告するのが筋というものだろう。
それに事件解決に重要な情報を持っている依頼主が事件解決に非協力的だった場合、冒険者ギルドとしては解決するあてのない依頼を受け続ける義務も無い。
最悪この依頼自体が消滅する可能性まで出てきたわけだ。
「そうね。最悪の場合温泉は諦めて帰った方が良いかもしれないわね」
こうして目の前に事件解決の糸口が見えていながら、僕達は町に戻ることにしたんだ。
◆
「すみませーんマビナルさーん。例の依頼の件ですけど、ちょっと面倒な事になってきましたー」
冒険者ギルドに戻って来た僕達だったのだけれど、珍しくマビナルさんが僕達を出迎えにやって来る事はなかった。
一瞬出かけているのかな? と思ったのだけど、珍しく先客が居たようで、マビナルさんはその人達の対応に専念していたみたいだった。
「って、あれ?」
けれどそこで僕は先客が見覚えのある顔ぶれだと気づいたんだ。
「ジャイロ君達じゃないか」
「え? 兄貴?」
そう、先客の正体はジャイロ君達だったんだ。
ジャイロ君達も僕の声にビックリして顔を上げる。
ただそこには二人ほど見慣れない顔ぶれがあったんだ。
「あら、ジャイロ様のお知り合いですの?」
一人は赤いドレスを着た金髪縦ロールのいかにもお嬢様な女の子。
もう一人はその女の子のお付きらしいメイドさんの二人組だ。
いや、建物の影や外から警戒の気配がするから、何人か護衛もいるみたいだね。
「あ、ああ。この人は俺達の師匠のレクス兄貴だ」
「初めまして、レクスと言います。こちらはパーティメンバーのリリエラさんとペットのモフモフです」
ジャイロ君に紹介され、僕達は改めて自己紹介を行う。
「初めましてリリエラです」
「キュウ!!」
「あらこれはご丁寧に。それとそっちの良く分からない生き物も。わたくしの名はイノルエ=ルギアニンと申します。ルギアニン子爵家の者ですわ」
「ルギアニン子爵家の!?」
まさかこんな所で子爵家の関係者とあえるなんて。
「あらご存じですの? ふふ、流石に町の統治者の事くらい調べがついていると言う事ですわね」
いや、本当は看板で知っただけなんだけどね。
でもそれには触れない方が良いだろう。お前の事なんて知らなかったなんて言っちゃったら絶対睨まれちゃうからね。
なのでちょっと強引に話題を変える事にする。
「それでジャイロ君達は何故この町に? こちらのイノルエ様が関係しているの?」
そう、何故Bランク試験の再試験を待っていた筈のジャイロ君達がここに居るのか。
そして何故彼等の護衛相手がこの町の令嬢だったのか。
「おう! Bランク昇格試験でイノルエをこの町まで送り届ける護衛依頼を受けたんだ!」
と思ったらまさかの再試験の為だった。
「へぇ、意外に早い試験再開だったね」
「十分な心の準備もない状態で責任のある仕事を達成できるかって事でしょうね」
成る程、確かに冒険者の依頼には緊急性が高く突発的な依頼も少なくないからね。
「兄貴達こそどうしたんだよ? 確か二人で温泉に湯治に行くって言ってなかったっけ?」
おっと、今度はこっちが質問されちゃったよ。
「うん、その予定だったんだけど……」
「成る程、そういう事だったのですわね。確かに我がルギアニン領はわが国有数の温泉郷ですもの! 湯治を考えるなら我が領地以外にはありえませんわ!」
と、そこでイノルエ様が会話に加わって来る。
「ええ、その予定だったんですが、その温泉も今は入れないみたいで……」
「あら、それはどういうことですの?」
イノルエ様だけでなくジャイロ君達も何があったのかと聞きたそうにしていたので、僕はこれまでのいきさつを説明する。
「町中の温泉が枯れた!? そんな馬鹿な話ありえませんわ!」
「でも事実なんです。実際にいくつもの宿の温泉が枯れていましたし、冒険者ギルドには領主様と商業ギルドの連名で問題解決の為の依頼が出されています」
僕はこの件の調査依頼用紙を依頼ボードから剥がしてイノルエ様達に見せる。
「そんな!? 我が領地の税収に温泉の利益は欠かせないというのに!!」
「欠かせない、ですか? 何でそこまで温泉の収益の比重が大きいんですか? 普通の領地は温泉とかないと思うんですけど?」
そう、温泉に限らず鉱山や港などのような他の領地にない強みのある領地は裕福だけど、決してそれなしでは運営が成り立たない訳じゃない。
まぁ一部の領地は一般的な税の収入源が不向きな土地もあるけれど……
「当家の領地は温泉経営の利益から得られた収入の大半を税に充てる事で、それ以外の税を減らして民の生活を楽にしていますの。ただそれ故に温泉の利益を入れても当家の領地の収入はそこまで大きくありませんのよ」
「へぇ、良い領主様じゃない」
「ですね」
うん、領民の為に税額を減らすなんてなかなか出来る事じゃないよ。
ルギアニン子爵は貴族として尊敬できる人のようだね。
「それで、温泉が枯れた理由は分かったんですの?」
事情を知ったイノルエ様は調査の進行具合を職員であるマビナルさんに尋ねる。
「ひぇっ!? ま、町中が総動員で探していますがまだ……ですぅ」
それに対しマビナルさんはおどおどとした態度で今だに有益な情報が見つかっていないとイノルエ様に答える。
「何故人材を総動員して何も情報が掴めませんの!?」
「ひぃ!? すみません! でででですが、心配は御無用です! 何せ当ギルドには新たにSランク冒険者であるレクス様が在籍して下さったんです! しかもAランクのリリエラ様まで! 最高位の冒険者であるレクス様達ならば、きっとたちどころに事件を解決してくれますとも!! ……たぶん」
「まぁ! それほど素晴らしい冒険者の方が我が領地に!? ……レクス?」
と、僕の名前にはてと首を傾げたイノルエ様がこちらを振り向く。
「あ、はい。一応Sランク冒険者です」
「貴方が?」
その目は貴方のような若い方が? と言いたげだった。
まぁそれに関しては僕自身も同じことを思ってるんだけどね。
「そうなんだぜ! レクスの兄貴はスゲェ冒険者なんだ! これまでだってとんでもねぇ化け物達をぶっ飛ばしてどんな難事件も解決してきたんだからよ!」
「まぁ実際Sランクに相応しい活躍はしてるわよね」
「ん、リリエラもソロでBランクまで上り詰めた腕利き」
「レクスさんがいなければ僕らはとっくの昔に死んでいましたからね」
けれど疑わし気な眼差しを向けるイノルエ様に対し、ジャイロ君達が僕が本当にSランク冒険者だと証言してくれた。
いやでもそんなに大した活躍はしてないよホントに。
「そう……なんですのね。まぁジャイロ様がそうおっしゃるのなら本当にそうなのでしょうね」
その甲斐があったのか、イノルエ様は半信半疑ながらも僕がSランク冒険者であると認めてくれたようだった。
というか寧ろジャイロ君の言葉に対して信頼を寄せていたような……?
「彼女、なんだかジャイロ君の事を凄く信頼しているみたいですね」
「いつものアレよ。女の子をちょっとカッコよく助けた所為で熱をあげられてるのよ」
けれどミナさんはパーティメンバーが貴族に信頼されているという事実に対して不満げだった。
「どうも旅の途中で襲ってきた野盗が実は彼女と因縁のある貴族に雇われた刺客だったみたいで」
そんな不機嫌そうなミナさんに気付かれないよう、ノルブさんがこっそり道中の出来事を教えてくれた。
「もしかして貴族間の厄介事ですか?」
うーん、貴族間の厄介事は巻き込まれただけでも関係者認定されかねないからなぁ。
お前そっちの貴族の仲間だろって。
前世の僕もよく巻き込まれたもんだよ。
「もっと単純。自分の狙っている貴族子息とちょっと仲良くしただけで勝手に嫉妬してちょっと痛い目に遭わせてやろうってヤツ」
「あー」
成程、恋愛のいざこざに巻き込まれたのかぁ。
というかどうもジャイロ君って、旅先で女の子と縁ができやすい体質みたいなんだよね。
いわゆるヒーロー体質って奴なのかな?
そう言えば前々世の知り合いの研究者が、何かしらの縁を引き寄せる人は魂がそういう体質である可能性が高いとか言って研究してたっけ。
あの研究はどうなったんだろうねぇ。
「そ、それでレクスさん、戻ってこられたと言う事は何か重要な情報を手に入れられたんですか?」
と、マビナルさんが期待を宿した眼差しで、けれどイノルエ様に気付かれないようこっそりと聞いてきた。
「ええ、それについて相談したくて戻って来たんです」
「相談……ですか?」
一体自分に何を相談したいのだろうかとマビナルさんは首を傾げる。
「実は……」
僕は発見した塔の事、そしてその塔が子爵家の私有地である事を説明する。
「と言う事がありまして、それ以上進むことが出来なかったんです」
「子爵家の管理する謎の塔ですか……!?」
マビナルさんも初耳だったらしく、目を丸くして驚いていた。
「冒険者ギルドから子爵様に塔の調査を申し出る事は出来ませんか?」
「むむむ無理無理無理無理ですよ!! たかが地方の町の弱小支部なんかにお貴族相手に交渉する政治力なんてありませんて!」
けれどマビナルさんは真っ青な顔になって、そんな恐ろしいこと出来ないとブンブン首を横に振る。
「そうですか……」
「うう、ウチの支部が雑魚過ぎてお役に立てず申し訳ありません……」
心底申し訳ないと思ったのか、マビナルさんはションボリ肩を落としながら役に立てない事を謝ってくる。
「その塔なら聞いたことがありますわ」
「うひょわぁ!?」
と、そこでイノルエ様が会話に加わって来て、マビナルさんが飛び跳ねんばかりに驚く。
いやまぁ、さっきからイノルエ様、マビナルさんの背後に立って僕達の会話をしっかり聞いていたからね。
「確か当家の初代当主様がこの地の開拓に成功した事で正式に爵位を賜った頃に、周辺の調査をして不思議な塔を発見したそうですの」
「ルギアニン子爵家の初代当主様ですか!?」
それはまた随分と古い人が出てきたなぁ。
「ええ、この町で冒険者として活動している貴方達なら知っていると思いますが、この町の近くの山はあの通り毒の空気で奥に入れませんの。ですから初代様は領地の売りとなる何かが無いかと周辺を探しまわったそうですわ。なんでも貴族になったらなったで色々と入用で早急な金策が必要だったそうですの。そしてある日、遠くからは見えず、近づくと突然姿を現す不思議な塔を発見したのです。塔の中は更に不思議な事に、一面の湯気と共にいくつもの水路にお湯が流れていたのだそうです」
「塔の中にお湯ですか?」
おお、それじゃあやっぱりあの塔が温泉の水源の可能性が高いぞ!
「ええ、そしてそのお湯がただのお湯ではないことに気付いた初代様は塔を詳しく調査しようとしたのですが、困ったことに奥を調べようとすると見たこともないゴーレムと思しき存在に襲われたのだそうです」
「ゴーレムですか!?」
内部をゴーレムが警護か。やっぱり塔の外側の防衛が甘かったのは、内部の防衛体制に専念していたからなんだね。
「死者重傷者こそ出なかったものの、ゴーレムの抵抗は相当に激かったそうですわ。幸い塔の外までは追ってこなかった事から、その塔を封鎖する事にしたそうです。何も知らない者が勝手に入って命を失ってはいけませんからね」
ふむふむ、それであの看板が立っていたわけか。
色々と繋がってきたぞ。
「その後、塔からほど近い場所にいくつもの温泉が湧いている事に気付いた初代様は、温泉を領地開発に利用する事と、塔の監視のためにこの地を本拠地にしたそうです。そして当時開拓に参加した者達がそれぞれの宿の初代となり、開拓村は温泉目当ての客で賑わいを増していき、いつしか町と呼べるほどににぎわう事になったのです」
「「「「「おおー」」」」」
凄いね。成功した貴族の見本みたいなお話だ。
「また初代様は温泉を発見した事で、塔の中を流れていた不思議なお湯が温泉である事に気付き、あの塔を温泉秘塔と名付けたのだそうです」
「ああ成る程、温泉の流れる秘密の塔だから温泉秘塔ですか」
初代ルギアニン子爵が洒落っ気で名付けたのかな?
「ですがそうですか。件の塔に温泉が枯れた謎が隠されているのですね」
と、イノルエ様が感慨深そうに頷く。
「あの、何故塔の事を知っていながら調査に行かなかったんですか? 危険な事は分かりましたが、領地運営においてそこまで重要な温泉なら危険を冒してでも調査に向かうと思うんですけど」
そうなんだよね。さっきもその事でリリエラさんと首を傾げていたんだよね。
しかも代々のルギアニン子爵とその家族が塔に温泉が流れている事を知っていたのなら、猶更調査しない理由がない。
「正直なところ、その塔の存在は疑問視されていたのです。代々の領主達も塔を調査しようとしたそうですが、代を重ねるごとに塔の場所が分からなくなっていき、今では温泉の箔付けか何かだったのではないかと考えられていたんですのよ」
成程、どうやら昔の子爵家には探査系の魔法が得意な魔法使いが居なかったと見える。
領地を賜ったばかりの頃だと予算もないだろうし、貴族として名も売れてなかっただろうからなぁ。そんな状況じゃ優秀な人材を雇い入れるような余裕はなかっただろう。
だから調査中に偶然塔を発見する事は出来たけれど、後々塔の場所を探そうとしても見つからなかった訳だ。
「ですがレクスさん達が見つけたと言う事は、塔は現実に存在していたと言う事。ならば温泉を蘇らせる為にも調査する必要がありますわ」
そう言うと、イノルエ様がジャイロ君を見つめる。
「ジャイロ様、貴方に追加で指名依頼をお願いしますわ」
「俺達に?」
「ええ。貴方のパーティに温泉秘塔の調査をお願いいたします。危険は伴いますが、相応の報酬は支払いますわ」
イノルエ様の依頼はある意味で予想通りの言葉だった。
ただそれがこのタイミングでイノルエ様の口から出た事だけは予想外だったかな。
「領主様の許可も取らずに勝手に依頼を出して良いの?」
同じ事を思ったんだろう。ミナさんがイノルエ様に対し、勝手に依頼をしても良いのかと確認を取る。
「構いませんわ。既にお父様が依頼を出しているのですから、報酬はちゃんと支払われますもの。それにわたくしが依頼を出すのは次期Bランクを期待されているものの今はまだCランクの冒険者パーティですわ。SランクとAランクに出す指名依頼に比べれば随分と安いものですのよ」
「私達への指名がないと言う事は、ジャイロ君達を利用するつもりかしら?」
と、リリエラさんが強い眼差しでイノルエ様を見つめる。
それは僕達のジャイロ君達への情を利用してタダ働きさせるつもりかと言いたいんだろうね。
「そうではありませんわ。ジャイロ様達はわたくしの護衛依頼をまだ半分しか受けていませんの。Bランクへの昇格試験はわたくしが王都に戻るまで続くのですわ。本来なら、私の用事が終わるまで屋敷の客室で待機していてもらい、余計な仕事を受ける事は禁止されるのですが、そこは護衛対象からの指名依頼をねじ込む事で追加の仕事をしてもらいたいんですの」
確かにギルドからの試験である以上、暇だからと言って勝手に仕事を受ける訳にはいかないもんね。
それこそ何かあったら信用問題に発展してしまう。
それに、とイノルエ様は続ける。
「貴方がたはわたくしが指名依頼を出す前に既に依頼を受けているのでしょう? ここでわたくしが指名依頼を出したら依頼の二重受領になってしまいますわよ?」
「ぐっ」
確かにイノルエ様の言う通りだ。
僕達は既に自分の意志で依頼を受けているんだから、新たに同じ依頼を受ける事は出来ない。
「とはいえ、事態が事態です。レクス様達は事件解決に有益な情報を持ってきてくださいましたし、ここは事件解決後の追加報酬を提供する事でどうでしょうか?」
「追加報酬?」
「ええ。まず情報料として事件解決までの貴方がたの滞在費を全額子爵家が持ちます。更に事件解決後に追加報酬としてこの町で最も良い宿での湯治費用を持ちますわ!」
「「「「「「おおー!」」」」」」
これは太っ腹だね。
良い宿は部屋があっという間に埋まってしまうし、その代金も安くはない。
温泉での湯治と考えれば下手に金貨での支払いよりも良い宿での長期療養の方が保証されている方が嬉しいといえる。
「良いですね。良い宿はすぐに部屋が埋まってしまいますし、料金もお高い所が多いですから」
「ええ。温泉は我が領地の収入源ですもの。多少の追加料金で問題を解決できるのでしたら安いものですわ。寧ろこの奇縁を利用しない手はありませんもの。それに、お父様の性格なら間違いなくわたくしと同じことをしますわ」
どうやら今代の子爵家当主はなかなかのやり手みたいだね。
「そういう訳ですので皆様、温泉秘塔の調査、よろしくお願いいたします」
「分かりました! 任せてください!」
「よーし、それじゃあ今度こそ温泉秘塔を攻略だぁー!」
「「「「「おおー!!」」」」」
こうして、ようやく僕達の温泉秘塔攻略が始まるのだった。
イノルエ(‘ω’)ノ「と言う事でジャイロ様は私のお屋敷でゆっくり疲れを取りましょう!」
モフモフΣ(:3)レ∠)_「それ逆に疲れるパターンでは?」
メグリ(:3)レ∠)_「しかも屋敷には父親が居る敵の本拠地パターン」
塔_:(´д`」∠):_「ビクビク……」
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