第276話 舞い散る湯の花
作者(/・ω・)/「おはようございまーす」
ヘルニー(‘ω’)ノ「昨日から取材旅行に出かけてるぜー」
ヘイフィー|^・ω・)/「だが取材先でも執筆します」
作者(/・ω・)/「おごごごご移動時間と空き時間でパソコン起動ぅ」
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「へぇ、これが湯の花かぁ」
さっそく依頼を受けた僕は、湯の花を取り除く為に水路にやってきた。
そこで見たのは水路の一面にこびり付いた結晶の花だったんだ。
「本当に花なんだね」
てっきり温泉の成分が付着したものかと思ったけどこれは予想外だったよ。
恐らくこの温泉の成分が奇跡的に結合して花の形をとっているんだろうね。
「綺麗ね。こんなに綺麗だと壊すのが勿体無いくらいだわ」
リリエラさんの言いたい事はもっともだ。寧ろこの光景を町の観光名所にしても良いんじゃないかってくらいだね。
「外から来た人達は皆そう言ってくれるけど、私らからしたらいつもの光景だからねぇ」
「そうそう。それにどれだけ綺麗でも水路が詰まっちゃう原因だから取り除かない訳にはいかないのさ」
と、近くに居た町の人達が湯の花を放置できない理由を教えてくれたんだ。
言われてみればそうだ。華の形をしていてもその正体は湯の花。冒険者ギルドがドブ攫いとして除去を依頼してくるものなのだから。
「よーし、それじゃあドブ攫いを始めますか!」
町の人達が困っている以上しっかり除去しないとね!
「フルクリーンピュリフィケーション!!」
僕は以前トーガイの町のドブ攫いを行う際にも使った広域浄化魔法を発動させる。
「……あれ?」
すると不思議な事が起こったんだ。
なんとそこに溜まったヘドロだけが崩れ去り、湯の花は水路から剥がれるとそのまま風に吹かれて飛んで行ってしまったんだ。
「これは一体……」
驚いたのは僕だけじゃなかった。
この光景を見ていた町の人達や観光客達も、一斉に水路から飛び立った湯の花に驚きの声をあげていたんだ。
そしてそのまま飛んでいくのかと思った湯の花は、突然風の中に消える様に姿を消してしまった。
「え!? 消えた!?」
湯の花が空に浮かび上がったかと思ったら突然消えた事で更に困惑の声が増える。
「ね、ねぇ、レクスさん、今のは一体何!? レクスさんの魔法なのよね?」
「これは……そうか!」
そこでようやく僕は今の不思議な現象が起きた理由を理解した。
「今のは僕の放った広域浄化魔法の影響です」
「やっぱりそうなのね!」
「本来なら水路の底のヘドロのように一瞬で浄化されるんですけど、湯の花は本来温泉の成分が蓄積して固まったもの。つまり元々は穢れや悪いモノと言う訳ではありません。だからヘドロよりも浄化が始まるのが遅れてしまったんでしょう。結果、湯の花内部の穢れや塵といった不純物が先に浄化され、そして水路に張り付いていた部分が強度不足で剥がれ落ちます。その後も浄化は続いているのでスカスカになった湯の花が風に吹かれて宙に舞い、あとは風に吹かれながら完全に浄化された湯の花が風の中に溶ける様に分解していったという訳です」
いやぁ面白いなぁ。そもそも浄化魔法って術者が浄化対象に持つ無意識の印象も影響しているんだよね。
それもあって湯の花の浄化が遅れ、ああいう形で消えていったんだろう。
魔法の作用には時折開発者である僕達にも予想がつかない結果をもたらす事がある。
今回はそれが面白い形で現れたといえるだろうね。
「えーっと、ああ、成る程、そういう事ね。前にレクスさんから貰った知識のお陰で何とか納得したわ」
おっと、魔法学園で転写した魔法理論の基礎知識が役に立ったみたいだね。
「さて、ドブ攫いも終わったけどおかしな感じはなかったね。となると町中に原因はなさそうかな」
そうなるとやっぱり源泉が原因なのかな。
「とりあえず依頼も終わったし冒険者ギルドに戻るとしよう」
◆
「いらっしゃいまうへぇぇぇぇぇぇ!?」
冒険者ギルドに入ると、受付のお姉さんが前回とは別のリアクションで出迎えてくれた。
「こ、ここここれはSランク冒険者様とAランク冒険者様! こ、この度はどのような御用で!? あ、もしかしてやっぱドブ攫い止めたいとかですか!?」
「いえ、仕事が終わったので報告に来ました」
「成る程、全然大丈夫ですよ!! ああご安心を! 受付時の書類ミスで違う依頼を受領してしまったと言う事にしておきま……って、え?」
「ドブ攫いの依頼が終わりました」
「ふへぇぇぇぇぇぇぇ!? マジでぇ!?」
「はい、マジです」
「ちょ、ちょちょちょちょっと待っててください!!」
そう言うと受付嬢さんはギルドを飛び出していった。
そして数分後、ぐったりした様子で帰って来る。
「……ホントに綺麗になってた。何で? どうやって? Sランクだから?」
何やらブツブツと呟いているけど大丈夫かな?
「あのー、それで依頼なんですが……」
「あ、はい! 全然大丈夫です! すぐに報酬をご用意します!」
受付のお姉さんはギルドの奥に引っ込むと、すぐに報酬を持って戻って来た。
「こ、この度は本当に助かりました。Sランクの冒険者様がこんな仕事を受けてくださるなんていやほんとにごにょごにょ……」
受付嬢のお姉さんはやたらと恐縮した様子でペコペコと頭を下げながら助かったとしきりにお礼を言ってくる。
何故か声がどんどん小さくなっていったけど、喜んでくれているのは間違いないみたいだ。
「いえいえ、冒険者として町の人達が困っていたら依頼を受けるのは当然ですよ。他にも急いで受けた方が良い依頼などありますか?」
「ふぇっ!? 受けてくれるんですか!? あ、いやいや、Sランク冒険者様に雑用みたいな仕事をさせる訳には……」
「僕は構いませんよ」
何しろ今は受ける人が居ないからね。
今なら他の人の仕事を取っちゃわないかって気兼ねすることなく受けられるってものさ。
「…………本当に?」
随分遠慮する人だなぁ。そこまで気にしなくていいのに。
「はい。冒険者ですから!」
「………………そ、そうですよねぇー! 冒険者ですもんね! 実は他にも受けて欲しい依頼が沢山あったんですよぉー!」
再度問題ないと答えると、ようやく受付のお姉さんも安心してくれたのか急いでやって欲しい依頼の束を持ってくる。
「じゃあこれ全部受けます」
「ありがとうございまーっす!!」
「……これ、後で上司に滅茶苦茶怒られる奴ね。まぁ私は知らないけど」
そんな訳で僕達は纏めて受けた依頼を次々とこなしてゆく。
幸いにも、受けた依頼は僕の魔法であっさりどうにかなる程度の、本当に雑用のような依頼ばかりだった。
「ねぇレクスさん。いっちゃなんだけどこの仕事ってどれも温泉の問題解決には関係ないと思うんだけど……」
と、一緒についてきたリリエラさんが渋い顔で僕の真意を訪ねてくる。
そんな事を言いつつも、リリエラさんも自分に出来る範囲では手伝ってくれてるんだよね。
「魔法学園で覚えた魔法技術の良い訓練になるから」
とかいってさ。
「確かにこれらの依頼自体はリリエラさんの言う通り、事件に直接関わる事はないと思います」
「だったら何で?」
「それは住民の信頼を得る為ですよ」
「住民の信頼?」
そう、それこそが僕が依頼を受けた真の理由だ。
「町の人達にとって僕達は昨日今日来たばかりのよそ者です。となれば何か悩み事があっても気軽に話してはくれないでしょう。温泉の件もそうです。もしかしたらアレが原因かもと思い当たる事があったとしても、間違っているかもしれない事を荒くれ者の冒険者に教えてはくれないでしょうしね」
「ああ、だから町の人達の信頼を得て、情報が集まりやすくしようって事ね」
「そういう事です。元からこの町で活動している冒険者さん達には不要な事でしょうが」
僕の真意を知ったリリエラさんは、ようやく納得がいったと頷いてくれた。
だけどねリリエラさん。実はそれだけじゃないんだ。
実はこれ、大剣士ライガードの冒険の辺境の章と同じなんだよ!
とある理由で辺境の村にやって来たライガードは、そこで事件に巻き込まれ調査を開始するんだ。
だけど辺境の村の人達はよそ者であるライガード達を警戒して協力を拒まれてしまう。
どうにも進まない調査に仲間達が頭を悩ませる中、ライガードだけは調査を放り出して村の人達の手伝いを始めたんだ。
最初は手伝いなんて要らないと邪険にしていた村人達だったけど、強引に手伝うライガードに絆されて仲良くなり、遂には事件解決の為の鍵となる情報を得る事ができたのさ!
ふふ、かつては辺境の秘湯だった温泉街で町の雑用をこなしながらの事件調査!
まるでライガードのようじゃないか!!
……うん、今回はリリエラさんの湯治が目的だから、余計な仕事をしている事は内緒だよ?
そんな感じで僕達は次々に依頼を解決していったんだ。
その結果……
「いやー助かったよ」
「ありがとうねぇ。町の子達も嫌がる仕事なのに悪いわぁ」
「おう、こいつは礼だ! 姉ちゃんと一緒に食いな!」
すっかり町の人達と打ち解ける事に成功したんだ。
「ぐへへ、いやー、いつもありがとうございますレクス様、リリエラ様。お仕事でお疲れでしょう。冷たいお茶を用意しましたよ! 報酬を用意するまでごゆっくりなさってください!」
そして何故か冒険者ギルドの受付のお姉さんことマビナルさんの腰と口調がやたらと低くなっていたのだけはちょっとだけ謎だったりする。
「うひょひょー! 残った依頼がゼロ! 依頼ボードが空っぽ!! 依頼達成率100%ぉぉぉぉぉぉ!!」
まぁ、喜んでいるから良いのかな?
依頼も無事に終わり宿に帰ると宿の主が出迎えてくれる。
「お帰りなさいませお客様。今日もお仕事お疲れ様です」
「ただいま戻りました。夕食をお願いできますか?」
「ええ、すぐにご用意いたします。それにしてもお二人の活躍は凄いですなぁ。町中の噂ですよ。凄腕の冒険者が瞬く間に問題を解決してくれたと」
「それ程でもありませんよ」
「本当に大した事してないのよね。依頼のランク的には……」
「はっはっはっ、ご謙遜を。我々としてはいつまでも受けて貰えなかった依頼を解決して貰えて大助かりですよ」
と、ここで宿の主が肩を落とす。
「町の冒険者連中もお二人のようにさっさと温泉の問題を解決してくれればいいんですけどねぇ。そうすれば疲れた体をゆっくり癒して差し上げる事が出来るんですが」
「まだ解決の目途が立っていないんですか?」
「ええ、サッパリですよ」
どうやらこの町の冒険者達はかなりてこずっているみたいだ。
というかこの町の冒険者ってどれだけいるんだろう?
「……あの、よろしければこの宿の温泉を調べさせてもらっても構いませんか?」
「うちの温泉をですか? ですが温泉は町の冒険者連中が調べても何も分からなかったそうですよ?」
おお、宿の温泉を直接調査していたんだね。
このあたり地元出身の冒険者でないと頼みづらいところだよね。
「一応魔法で調査が出来ますので、それを試してみようかと」
「おお! 魔法でそんな事が出来るんですか!? ぜひお願いします!!」
宿の主の許可を得た僕達は封鎖された温泉へとやってきた。
「この通り、お湯がすっかり枯れているんですよ」
宿の主の言う通り、本来なら湯気が立ち込めていたであろう温泉はすっかり水気も無く乾ききっていた。
「ここがお湯が出てくる場所ですね。それじゃあ……」
僕は懐から手ごろなミスリルの塊を取り出すと、それを魔法で加工してゆく。
サイズはお湯の出る水路よりも小さくっと。
水路の中は狭いし、目的は水源の調査だから戦闘能力はカットして調査機能と防御能力特化にする事で作業時間も短縮っと。
「よし完成」
「何ですかそれは? 人形……ですか?」
そう、僕が作ったのはミスリルで作った小さな人形だった。
「これは調査用のゴーレムです。これを使って水路を水源に向かって辿っていくんです」
「ゴーレム、確か魔法使いが使うっていう魔法の人形でしたよね」
「ええ、その通りです」
「……小さい」
ゴーレムを見たリリエラさんが何故か疲れた様子でため息を吐く。
「貰った知識の所為でこれがどれだけヤバいものか分かっちゃったわー。ミナはいつもこんな気持ちでレクスさんを見てたのね」
はて? どういう意味だろう?
「ではこれから調査を開始します!」
僕はゴーレムの操縦装置を頭にかぶると、調査を開始した。
頭に被った操縦装置はゴーレムと視界を共有し、彼が見たものを僕に見せてくれる。
水路の中は真っ暗だけど、ゴーレムに仕込んだ灯りの魔法が自分自身を発光させて周囲の光景を照らし出す。
「ふむふむ、水路に問題はなさそうですね」
水路の途中が壊れた事で温泉水が流れでているわけではないみたいだ。
おっと、湯の花が随分と詰まっているから削っておこう。後で温泉が復活したら流れるように小さく砕いてっと。
さらに僕はゴーレムを進ませる。
ゴーレムに仕込んだマーカーのお陰で、ゴーレムが町のどの位置にあるのかも確認しておく。
そうやって水路を移動していくと、ゴーレムが町から離れている事に気付いた。
「うん? ゴーレムが町の外に出たな」
「そうなの?」
「ええ。とはいえ、元が自然の温泉を利用してたのなら水源を目指して町の外に出るのは不思議じゃないですね」
問題は水源がどれだけ町から遠いかだね。
「そういえば過去にこの温泉の水源を探した事ってないんですか?」
ゴーレムを操作しつつ宿の主に尋ねる。
「あーいや、私達の先祖はお湯が出る場所に宿を建てたんで、水源を探したりはしなかったんですよ」
あー成る程、水源から温泉を引いたんじゃなくて、温泉のある場所が水源と判断していたんだね。
宿によって温泉の効能が違うのはそれも理由の一つだったんだなぁ。
と、その時だった。
「ん?」
ふと、ゴーレムが前に進まなくなったんだ。
「どうかしたの?」
「ゴーレムが前に進まなくなったんです。何か見えないものが邪魔しているみたいで」
「見えないもの?」
「恐らくは結界ですね」
「結界、っていう事は誰かの仕業って事!?」
「その可能性は高いですね」
まさか町の外に結界が張られている場所があるなんてね。
とはいえ調査用のゴーレムじゃこれ以上の侵入は無理だ。
戦闘能力を持たせなかったから、結界を破壊するのは無理なんだよね。
とりあえずゴーレムが足止めを喰らった位置を覚えてから、ゴーレムを宿まで帰還させる。
「どうするの? その結界のあった場所に行く?」
事件の手がかりが見つかってリリエラさんは俄然やる気だ。
折角湯治にやって来たのにずっと温泉に入れずにいたんだから当然ではあるけどね。
「いえ、まずは他の温泉の水源も調査したいとおもいます。もう一体ゴーレムを作るので、手分けして温泉を調べましょう」
「ん、分かったわ」
リリエラさん用のゴーレムを作ると、僕達は二手に分かれて町中の宿に調査をさせて貰う為に向かった。
幸い、これまで沢山の依頼を解決してきた事が町の人達にも知れ渡っていたお陰で、拍子抜けするほど簡単に調査の許可が下りた。
そして全ての宿で水源の調査をした結果……
「ここですね」
「ここね」
僕達が調べた全ての温泉の水路は、ある一点に集結していたのだった。
「明日はここを調査しましょう!」
受付嬢_:(´д`」∠):_「あばばばば、Sランク冒険者にドブ攫いなんてやらせちゃった……こ、殺されるぅ」
レクス(:3)レ∠)_「そんな事しませんよ(完全に善意のニッコリ)」
モフモフΣ(:3)レ∠)_「(湯の花が)死へのカウントダウン」
受付嬢_:(´д`」∠):_「ふひひひひ、依頼がドンドン捌けていく!! うひひひひ!!」
湯の花(´・ω...:.;::..「サラサラサラ……」
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