第275話 秘湯に行こう
作者_(:3)レ∠)_「新章スタートです!」
ヘルニーヾ(⌒(_'ω')_「温泉回ですよー!」
作者_(:3)レ∠)_「湯煙ですよー!」
ヘイフィー└(┐Lε:)┘「殺人事件?」
作者_(:3)レ∠)_「おいやめろバカ」
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「ん~」
仕事も終わり、リビングでまったりしていたら、リリエラさんが肩を揺らしながら唸り声をあげた。
「どうしたんですかリリエラさん?」
「なんかねー、最近肩が凝るのよねぇ」
そう言いながらリリエラさんは腕をグルグルと回す。
怪我でもしたのかな?
「肩ですか? 回復魔法使いましょうか?」
けれどリリエラさんは必要ないと首を横に振る。
「ノルブに頼んでみたんだけど、効きが悪いのよねぇ」
「回復魔法でも駄目なんですか!?」
なんと、ノルブさんの回復魔法でも効果が無いなんて。
ノルブさんには以前礼拝に訪れるお年寄りの肩や腰に効く魔法を教えて欲しいと頼まれた事があるんだよね。
普通の回復魔法でもある程度効くけど、ノルブさんの回復魔法は特に腰に効くとお年寄りに話題になり結構な数の人がやって来るようになったんだとか。
そうなるとノルブさんの魔力消費もばかに出来ない訳で、それでもっと効率の良い魔法は無いかと相談されたんだ。
それが局部治療魔法ピンポイントヒール。
治療個所を限定する事で少ない魔力で治療できるようにした回復魔法なんだ。
まぁ結局それが話題を呼んで治療目的でやって来るお年寄りの数は増えたそうなんだけど……
ともあれそんな事情もあってピンポイントヒールの実戦経験豊富なノルブさんの魔法が効かないとなると割と大変な症状なのかもしれない。
「効くことは効くんだけど、またすぐに肩がこるようになるのよ」
おや、効かないわけじゃないんだ。
治療効果はあるけど持続時間が短いと。
「となると根本的な治療をした方が良いですね。診察用の魔法で症状を特定して、もっと高度な回復魔法で体全体を一気に……」
「そ、そういうのじゃないから。命に係わる様なものじゃないから気にしないで!」
と、何故かリリエラさんは頬を赤らめながらそんな事はしなくていいと断って来た。
うーん、でもなぁ。自分では大丈夫だと思っていても、実は大変な病気という可能性はある。
事実前世でも前々世でも無自覚に無理をして取り返しのつかない事になった人達は居たからね。
どれだけ回復魔法の性能が上がっても、治療を必要とする患者がそれに無自覚ではいつ医者のいないところでバタンキューと倒れるか知れたものじゃない。
けどだからといって無理やり医者に見せる訳にもいかない。
あくまでも自分の意思で治療を受けて貰わない事には、今治ってもまた不摂生やらで具合を悪くしかねない。
あと診察魔法は対象の体の状態を精密に調査する事から本人の同意がない限り使ってはいけない事になっているんだよね。
家族が患者の症状を知りたがっていても、患者は家族に症状を知られたくない時もある。
特に貴族なんて後継者争いの激化や敵対派閥に弱みを見せる事になりかねないからね。
けどだからと言ってパーティの仲間が具合を悪くしたままと言うのも問題だ。
何か良い方法は……あっ、そうだ!
「じゃあ湯治に行きませんか?」
「湯治?」
「ええ、温泉に入って体をゆっくり休めるんです」
そう、僕が思いついたのは湯治に行くことだ。
温泉はただ体を温めてくれるだけでなく、泉質によってさまざまな治療の役に立つ。
「傷の治療だけでなく呪いや毒にも効く秘湯があるんですよ」
「へぇ……って呪いや毒!?」
そう、世界は広い。温泉によっては傷の治療だけでなく病気や、呪い、それに毒に効く温泉など効果は様々だ。
丁度前世で偶然発見した秘湯の場所がここからそう遠くない場所にあったからね。
「リリエラさんの不調の原因は分かりませんが、そこなら肩の具合も良くなると思うんですよ」
「いやだからそういうのじゃ……でも温泉かぁ。私、温泉って入った事ないのよねぇ。要はおっきなオフロなのよね? 聖地のような」
と、リリエラさんは温泉とはどんなものかと尋ねてくる。
「ええ。具体的には火山の熱や火の精霊達のたまり場の傍を流れる水脈の水が熱せられたものですね。温泉は良いですよ。ジンワリポカポカと体の芯から暖まりますから」
「悪くないわねぇ。最近は忙しかったり大変だったり……大変だったりしたから、たまにはノンビリするのも良いわね」
何故かリリエラさんは二度大変だったと繰り返す。
この様子なら次の目的地は温泉で決定かな?
一応ジャイロ君達の予定も聞いておく必要があるけど。
「ただいまだぜ兄貴ーっ!!」
などと考えていたら、丁度ジャイロ君達が帰ってきた。
「お帰り皆ー」
「兄貴兄貴聞いてくれよー!」
さっそく湯治の件を相談しようと思ったら、ジャイロ君が妙にはしゃいだ様子でロビーに飛び込んできた。
「どうしたんだいジャイロ君?」
「おう! 俺達Bランクに昇格する事になったぜ!」
「ええ!? 凄いじゃないか!!」
なんとビックリ。ジャイロ君達ドラゴンスレイヤーズの面々がBランクになるというビッグニュースだったんだ。
「違うわよ。まだ試験を受けられるってだけよ。本決まりじゃないわ」
けれどそれをミナさんが訂正する。
「ああ、そうなんですね。けど、それでも凄いですよ。おめでとうございます」
「とっくにSランクの人に言われてもねぇ。でもありがと」
僕のSランクは過大評価と勘違いが原因だからね。
実力でBランクにのし上がったジャイロ君達の方が凄いのは間違いないよ。
「……」
家の中がめでたいニュースに沸くなか、何故かリリエラさんだけが暗い顔をしていたんだ。
「あれ? どうしたんですかリリエラさん?」
「……冒険者になって一年かそこらの新人がそろってBランクぅ……」
どうやらリリエラさんは先輩冒険者としてのメンツ的な意味で複雑な心境になっていたらしい。
「い、いや、僕達はレクスさんの教えがあったからですよ! 普通の冒険者として考えればリリエラさんの方がよっぽどすごいですよ!」
「そうよ、レクスが異常なのであってリリエラは普通に優秀よ!」
「ん、その通り」
とノルブさんがリリエラさんを慰めると、ミナさん達も同じようにリリエラさんを慰め始める。
だけど……
「おかしいなぁ。なんで僕がボコボコに言われてるんだろう……」
「キュウ」
何故かモフモフが妙に悟った様子で僕の足をポンと叩いた。
「で、でもそれなら丁度良いね」
「良いって何がだぜ?」
「ちょうどリリエラさんと温泉へ湯治に行こうって話をしてたんですよ」
僕は気を取り直して湯治の話をジャイロ君達にする。
「へぇー、温泉ね」
「おーっし、それじゃあその温泉旅行を俺達のBランク昇格祝い旅行にしてやるぜー!!」
「「「おおーっ!!」」」
こうしてジャイロ君達のBランク昇格試験が終わったタイミングで湯治旅行に行くことが決まったのだった。
◆
Bランク昇格試験の当日、ジャイロ君は意気揚揚と出かけて行ったんだ。
そして……
「しょぼーん」
お昼前にも関わらず、ジャイロ君達が帰って来たんだ。
その姿はとても試験に合格したようには見えないしょんぼり加減。
「あれ? もしかして駄目だったの?」
まさかジャイロ君達が試験失敗!?
「いえ、そうじゃないんです」
と、ノルブさんがしょんぼりしているジャイロ君に変わって事情を説明する。
「……と言う訳でして」
「はぁ~、まさかジャイロ君が試験依頼の依頼主の娘さんと知り合いだったなんてねぇ」
まず今回の試験は貴族の護衛依頼を受ける事だったらしい。
高位冒険者となると貴族からの指名依頼も多くなるらしいからね。
これは後でギルドの職員さんに教えてもらったんだけど、貴族が相手だとただ依頼を達成するだけでは足りないんだとか。
確かにプライドの高い貴族や性格に難のある貴族が依頼主だと、粗野な振る舞いはトラブルのもとになるだろう。
これは前世や前々世の僕も経験した事があるからよく分かる。
だから最低限礼儀作法とまでは言わなくとも、貴族とトラブルを起こさない振る舞いが出来るかどうかが試験における重要な判断基準になっているとの事だった。
つまりBランクになる以上、依頼自体は達成できて当然という訳だ。
だけど今回は依頼を達成する以前の問題だったんだ。
「そうなのよ。出会った瞬間依頼達成の紙を差し出されて何事かと思ったわよ」
何でも依頼主の貴族の娘さんは以前ジャイロ君に危ない所を助けてもらったらしく、かねてからジャイロ君にお礼をしたいと思っていたんだとか。
だからどうやってかジャイロ君がBランク昇格試験を受けると聞いて試験官役を父親に立候補したんだって。
で、再会して即依頼達成の紙を差し出してきたと……
「さすがにこれじゃ依頼達成とは認められないからって試験は延期になった」
そして呆れた様子のメグリさんが冒険者ギルドから暫く待機を命じられたと言って説明を終えた。
「まぁそうなるわよねぇ。ただそこまで貴族と深い縁が結べた事自体は凄いと思うけど」
とリリエラさんも苦笑しつつジャイロ君の豪運に感心している。
「代わりにそのお嬢さんの父親に凄い笑顔で睨まれたわ。どっかの誰かさんが」
「しょぼーんなんだぜ」
あ、うん。娘を持つ父親としては心配なんだろうね。
「と言う訳で悪いんだけど私達の試験はいつになるか分かんないから温泉旅行はパスさせて貰うわ。二人だけで行ってきて」
「終わるまで待つわよ。すぐに行きたいってわけじゃないし」
とリリエラさんが旅行の延期を提案するものの、ミナさんは首を横に振って拒絶する。
「意図的じゃなかったにしろ、試験が中止になったのはこっちが原因だから罰則として試験開始日はギリギリまで秘匿されることになったのよ。また誰かさんが助けた相手が試験官にならないとも限らないしね」
「申し訳ないんだぜ~」
いつも元気なジャイロ君だけど、今回ばかりは自分が原因だから申し訳なさそうにしょんぼりしていた。
単純に善意で助けた事が仇になったのは災難だったとしか言えないけどね。
「合格したらその時に改めて祝ってくれればいいから」
そこまで言われてしまうと、日程を遅らせる事は皆のメンタルに負担をかけてしまうのが明白だった。
ならばミナさんの言った通り、試験に合格してから改めてお祝いした方が喜んでもらえるだろう。
ジャイロ君達には試験に専念してもらいたいしね。
「分かりました。それじゃあお土産を期待しててくださいね」
「おう! 楽しみにしてるぜ!」
「でも秘湯のお土産って何? 温泉のお湯?」
と、メグリさんが秘湯のお土産ってなんだろうと首を傾げる。
言われてみれば確かに。秘湯じゃ名物もお土産屋もないもんねぇ。
「うーん、現地で狩った魔物の素材……とか?」
「「「「嫌な予感がするからやめてください」」」」
何故か全力で断られてしまった。
◆
数日後、王都を出発した僕達は目的の秘湯へと旅立った。
「と言う訳で秘湯にやってきました!!」
そしてあっさり到着。
うん、飛行魔法を使えば目的地まで直線距離であっという間だからね。
「おおー!」
「キュウー!」
秘湯のある土地に到着したリリエラさんとモフモフがテンション高めの声を上げる。
そこに広がっていたのは……
ザワザワ……ザワザワ。
「いらっしゃーい! リットー温泉名物温泉まんじゅうだよー!」
「リットー温泉名物の木剣もあるよー!」
はい、温泉街でした。
前世以来数百年、もしくは数千年ぶりにやって来た秘湯は、何故か温泉街になっていました。
「秘湯?」
「キュキュウ?」
リリエラさんとモフモフがどういう事? と首を傾げながらボクを見てくる。
「あっれぇ~?」
っていうかどういうこと? 何で町が出来てるの?
確かに前世じゃ村も何もない文字通りの秘境だった筈なのに……
う、うーん……でもまぁ、前世から考えるとかなり年月が経っている訳だし、秘湯の噂が広まった事で人が集まり、いつの間にか温泉街が出来上がったのかもしれない。きっとそうだと思う。
「ま、まぁ温泉がある事には変わりないわけですし、どこか良い感じの宿を取って温泉を楽しみましょうよ」
そう、僕達の目的は温泉に浸かっての湯治なんだ。
と言う事は目的地が秘湯でも温泉街でも問題ない筈!!
「そ、そうね。それじゃあせっかくだし高い所に泊まりましょう! 私もAランクになった事で実家への仕送りをしてもお金に余裕が出来てきた事だしね!」
「そうですよ! 広い湯船でゆったり体を癒して、美味しいご馳走を腹いっぱい食べて癒されましょう!」
「キュウン!!」
ご馳走と言う言葉にモフモフが反応する。
ふふ、お前も楽しみなんだね。
「ねぇ、あそこなんてどうかしら? いかにも豪華な感じだけど、そこそこ庶民的な感じで気疲れしなさそうよ!」
リリエラさんが指さしたのは、高級感がありつつ手入れが行き届いた宿だった。
けれど貴族向けのような装飾が無い事から、平民向けの高級宿って感じで好感が持てる。
「良いですね。あそこだったら貴族とのトラブルもなさそうですしね」
うん、変に気取って高い所を選んだせいで貴族とトラブルになったら堪らないしね。
「じゃああそこにしましょう!」
「ええ!」
「キュウ!!」
僕達は意気揚揚と宿に向かう。
さぁ、今日は温泉を楽しむぞー!!
「すみません。当宿の温泉が枯れてしまって、宿泊のみとなります」
と思ったら受付をしていた従業員にそんな事を言われてしまった。
「「あっれぇ~」」
「キュッゥ~」
こうして、僕達の温泉旅行は出だしからつまずいてしまったのだった……がっかり。
リリエラ_(:3)レ∠)_「流れる様に事件が起きた」
モフモフ_Σ(:3)レ∠)_「もはや様式美」
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