第274話 挫けない向上心
作者_(:3)レ∠)_「色々やる事があったので更新遅れちゃいましたー」
ヘルニー_(:3)レ∠)_「ごめんよー」
ヘイフィー_:(´д`」∠):_「可能なら週末に更新予定ですー」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
◆ナギベルト・カークス◆
「では封印は無事だったのだな」
ゼンザールからの緊急の報告を受けた国王陛下は難しい顔で彼に確認をする。
ここに居るのは儂をはじめ、魔法学園の真の建立理由を知る者達のみだ。
「はっ、突如大量の使い魔に学園が襲われましたが、幸いにも封印は無事でした」
「使い魔は魔法学園のみを襲ったと聞いたが、目的はアレの封印ではなかったと言う事か?」
宰相殿は使い魔の行動の奇妙さに首を傾げる。
「いや、そうとも限らんでしょう。学園を混乱状態に陥れ、我々の反応を見ていた可能性があります」
それに対して異を唱えたのは爵位こそ高くないものの、建国の時代から続く一族の貴族だ。
彼の先祖は魔法学園設立に協力していた事もあって子孫の彼も封印の事も知っていた。
「私もそう思います。夢、あ、いや、私も一度は封印を確認に行きそうになりましたので。その結果一人でいるところを使い魔達の群れに襲われて危うく死にかけましたが」
と、ゼンザールもその意見に同意する。
誰よりも封印の傍で監視をしていたからこそ、陽動の可能性に気付きあえて自身が封印に近づくことを止めたようだ。
なかなか冷静な判断ではないか。
「使い魔の件も気になるが、まさか生徒の一人が化け物になるとはな……」
陛下が発した言葉で室内の空気が変わる。
「確かヴェネク家の嫡男でしたな。異種族の血が流れているという話は聞いたことがないですが……」
「いえ。現場に居た職員と生徒達の話では、変貌した彼の姿はとても異種族のそれではなかったとの事です。私はその現場に居合わせなかったので詳しい事は分かりませんが、試験を行っていた訓練場がメチャクチャになっており、それは彼一人の手で行われたとの事です」
「あの学園の訓練場は魔法実験の場を兼ねてかなり頑丈に作っていた筈ですぞ。それを首席とはいえ一生徒の魔法で破壊するなど……」
彼の言う通り、魔法学園の訓練場、特に土の下に隠されたモノは見た目以上の強度を持っている。
何しろ封印に魔力を供給する為のマジックアイテムを保護する為のフタだからな。
そのおかげで周囲の施設の損傷度合いに比べて地下の損傷はそれほどでもなかったのが不幸中の幸いだった。
「ですが相当荒されたのは事実です。化け物に変貌した彼は凄まじい魔力で呪文も唱えずに魔法を行使したと聞いております」
「無詠唱魔法か!?」
「今はそこは重要ではない。それでその生徒はどうなったのだ?」
「はい、幸いにも生徒の中に優秀な治癒魔法の使い手がおりまして、暴走を止めた後無事に元の姿に戻ったそうです。その生徒の話では姿が変貌したのは体質や呪いではなく、古代に作られたポーションの類が原因との事でした」
「人を化け物に変えるポーションだと!?」
とんでもない情報に室内が騒然となる。
そのようなポーションが存在するなど聞いたこともないからだ。
とはいえそれが古代文明の遺産なら何が起きてもおかしくない。
「むぅ、古代にはそのような危険なポーションが存在していたのか」
「学園を襲いながらもそれ以上の事は起こさなかった使い魔の襲撃。そして生徒を化け物に変えたというポーション……」
「またその生徒にポーションを渡した生徒、スデン=ナンマルビエは現在行方不明との事です」
「騎士団にナンマルビエ家を調査させたのですが、居たのは使用人のみで家族と屋敷を取り仕切る家令の姿はありませんでした」
「逃げたか」
「おそらくは。襲撃に関する証拠もありませんでした。使い魔と変貌したヴェネク家の子息による学園襲撃が失敗した事で逃げたのでしょう」
「それに関してはAクラスの生徒達の目覚ましい活躍があったからでしょう。無数の使い魔達を生徒達の魔法によって打倒し、戦えない者は結界にて保護したとの事です」
「ほう、それは良い知らせだな」
重苦しい会議の中、次代を背負う生徒達の成長が報じられた事でわずかだが場の空気が和らぐ。
「しかし貴族の地位をたやすく捨てるとは……ナンマルビエ家には誇りが無いのか?」
正直元平民である儂にはいまいち理解が出来んのだが、生まれた時から貴族である彼等は貴族の地位を捨てて逃げ出したナンマルビエ家の者達に本心で驚いているようだった。
だが我々平民から言わせてもらえば、爵位などよりも命の方が大事なのは間違いない。
そしてナンマルビエ家の者達にとっては、爵位などよりも優先するものがあったからこそ逃げたのだろう。
「周辺国に放っている密偵からナンマルビエ家が亡命したと言う情報はまだありません」
「同様に我が国に攻め込む為の戦争の準備をしている動きもありませんね」
「ふむ、周辺国に篭絡されたと言う訳ではない……か」
腕を組んで悩まれていた陛下は私達に視線を向けると、こう尋ねてきた。
「皆に聞きたい。これは魔人の仕業だと思うか?」
「「「「「「……っ!?」」」」」」
少し前の我々なら一笑に付していた問い。
だが今の我らはそれを否定できない。
魔人という存在の実在を知ってしまったのだから……
「可能性は否定できませんね」
「ですがポーションに関してはどこかの遺跡から発掘された物の可能性を否定できません」
可能性は否定できん。それは事実じゃ。
「……だがあの使い魔の群れは人間には無理じゃな」
「ナギベルト、それはどういう意味か?」
陛下が説明を求めてきたので、魔法に疎い人間にも分かりやすい様にかいつまんで説明をする。
「使い魔というものは操る際に契約した術者の魔力が必要になります。ただ数と強さが問題です。戦闘能力のない監視用の使い魔なら数十体操る事も可能です。しかし戦闘用の使い魔となると消費する魔力は段違いです。手だれでも数体が限度でしょう。それを数百、千に近い数を同時に操ろうとすれば数百人の腕利きの魔法使いが必要となります。ですが……」
そう、とてもではないがそのような莫大な魔力も超広範囲に渡る術式の制御も出来ぬ。
そんな事が出来るのは人を捨てたバケモノくらいのものであろう。
「現実的ではない、か」
「はい。伝説や古文書でも魔人は膨大な魔力で強力な使い魔を無数に従えるとあります。であれば此度の戦いに使われた使い魔の主は魔人である可能性が非常に高いかと」
「ただポーションと同じく大量の使い魔を従えるマジックアイテムが発掘された可能性も否定できませんな」
とはいえ一つの可能性に固執しても真実を見落としてしまう。
あり得る可能性は提示しておくべきだろう。
「ナンマルビエ家の者達は魔人に関わりのある者達だったのか、それとも偶然マジックアイテムを手に入れて増長してしまっただけだったのか……」
「できれば後者であって欲しいものですな」
結局、情報の少なさとナンマルビエ家に動きが無い事、そして封印が無事だった事で会議は停滞してしまい、警戒を強める程度の事しか有効的な意見は出なかったのだった。
◆ミナ◆
魔人の襲撃から数日後、私達が魔法学園から去る日がやって来た。
「学園長先生、お世話になりました」
「「「「お世話になりました」」」」
私達がお礼の挨拶をすると、ゼンザール学園長は苦笑する。
「いやいや、寧ろこちらの方がお世話になったよ。君達のお蔭で生徒も教員も更なる魔法の研鑽が出来たからね」
「いやまったくです」
「寧ろ教員になってもっといろんな魔法を教えてもらいたいですね」
何故か学園長と一緒に見送りにやって来た先生達の方が名残惜しそうな声を上げる。
まぁレクスの魔法授業なんて普通は学びたくても学べない貴重な知識の宝庫だもんね。
そのあとの実戦訓練で死ぬけど……死ぬけどっ!
「おお! それはいい考えじゃ! どうじゃミナ、学園の教師に就職してみんか?」
「却下です」
馬鹿なことを言って私を引き留めようとするお爺様に力強いNoを叩きつける。私は冒険者なのだから。
レクスも先生達に勧誘されているけれど、やはり同じようにNoと断っていた。
「「「ショボーン」」」
「でも本当に残念です。これでレクス様に魔法を教えてもらえないなんて」
「本当ですよ! 俺達もっとレクス師匠から色んなことを教えて欲しかったです!」
と、モルテーナを始めとしたAクラスの生徒達が師であるレクスとの別れを涙ながらに惜しんでいる。
でも私には分かる。彼等の涙の意味を、こらえきれない口元の笑みを。
そこにはただ一言「やっと地獄の特訓から解放される!!」という思いが透けて見えていた。
いやまぁ気持ちは分かるけどね。
ともあれ、名残惜しさを感じつつも私達は学園を後にすることにした。
しようとした……のだけれど。
「ミナ=カークス」
私達を、いや私を呼びとめる声があったのだ。
そして私達はその声の主を知っていた。
「……トライトン」
そう、魔人の襲撃の際、敵に唆されて馬鹿な事をしたトライトン=ヴェネクだった。
彼の登場に皆が困惑するのが伝わる。一体何をしに来たのか、と。
「……」
そんな空気に晒されながらも、トライトンはまっすぐに私の下へとやって来た。
「元気そうね。見送りに来てくれたの?」
勿論そんな筈はない。そう彼の目が物語っているからだ。
「あの姿になっていた時の事は覚えている」
そっか、彼は自分が何をしたのか覚えていたのね。
反省? 後悔? 違うわね。この目はもっと卑屈な目ね。
ずっと昔、どこかのバカに見た目だわ。
「力に振り回された上に無様に負けた」
トライトンは私を見ながら、けれど私を見ずに言葉を続ける。
「何故生かした?」
それは怒りの言葉だった。
「殺せばよかったものを! 誇りを捨ててあんな姿になってまで挑んだのに負けた!! 何故殺してくれなかった!!」
やっぱり。そんな事を考えて悶々としていたのね。
どこであろうとバカの考える事は同じね。
「何故戦いの中で死なせてくれなかった!」
「……はぁ~、ふんっ!!」
「ぐはっ!?」
だから私は、トライトンをぶん殴った。
「「「「「「ひえっ!?」」」」」」
周囲から悲鳴が上がるけど無視。
「なっ!? 何を!?」
「せやっ!!」
「ぐほっ!?」
ついでにもう一発殴る。
なぜ殺さなかったとか言っておきながら何言ってんだか。
「馬鹿ね。悔しいなら、また挑んで来ればいいだけでしょ。助けてもらっておきながら何甘えた事言ってんのよ! もっと強くなって今度こそ勝つって言って見せなさいよ!!」
「これは酷い」
「死体に鞭打ちどころか攻撃魔法を撃ってますよ」
「さすがミナ容赦ない。小さい頃にボッコボコにされたジャイロを思い出す」
「止めろ、あの時の事は言うな」
あの時の事を覚えているメグリ達が好き勝手言っているけど無視。ジャイロがプルプルしてるのはちょっと良い気分だけど。
けれどトライトンの無神経な言葉がそれを帳消しにした。
「ぼ、僕には君達のような才能は無かったんだ!! 才能のない人間が何をしても無駄なんだよ!!」
「……ああ”っ!?」
「「「「「「ひっ!!」」」」」」
自分でもびっくりするくらい低く冷たい事が出た事に驚くが、それ以上にトライトンが怯えた。
ところで何で周りの皆も怯えているのかしら?
「才能ですって?」
「うぐっ」
私はトライトンの首根っこを掴んで無理やり立ち上がらせる。
そして心からの叫びを解き放った。
「アレを才能なんて言葉で済ませられると思ってんのぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
「ひぃっ!?」
「あの地獄の特訓を才能なんて陳腐な言葉で済ませられるわけがないでしょぉっ!! 私達は死ぬような思いをしたのよっ! いや死んだわっっ! 心が死んだわ間違いなくっっっ!!」
「え? え?」
私は思い出していた。
レクスとの特訓の日々を。
調子に乗って無詠唱魔法や魔力強化を使いまくってぶっ倒れた事を。
ジャイロが強化魔法に失敗して爆発した事を。
何より、朝から晩まで魔力と体力と精神を強制的に回復させられ続けてドラゴンとかドラゴンとかドラゴンと戦わされた地獄よりも恐ろしい日々の事をっっっ!!
「いい! 私達の力を才能なんて甘ったれた言葉で片付けないで!! 私達は文字通り身も心も死ぬような思いをして力を得たのよ!! し・ぬ・よ・う・な・お・も・い・を・し・てっ!!」
思い出そうとしただけで魂が拒絶反応を起こすあの日々っ!!
何より、自分と同じくらいの年頃なのに信じられない魔法の威力、精度、知識。
どれだけ学んでも足跡さえ見えないその背中。
魔法の神髄と思った凄まじい知識がほんの入り口でしかなかった悪夢!!
自分がまるで羽を持たない鳥になったかのようなあの絶望を味わった事が無い奴が何を生ぬるい事をぉぉぉぉぉぉ!!
「「「「「「「うんうん」」」」」」」
「キュウン」
ジャイロ達だけじゃなく、同じ目に遭ったモルテーナ達も涙を流して頷いている。
「おー、隠れてそんなに凄い特訓をしていたんですね!! 流石です!!」
はいそこのレクス! 貴方の特訓ですからね!! そこ勘違いしないように!!
でも迂闊な事を言って更なる地獄を見せられたくないからあえてスルーするわ!!
パーティの中でただ一人、私だけが魔法という技術の知識を持っていた所為で、レクスの底なしの知識と技術に絶望し続けてきたのよ!!
才能なんてあると思える訳が無いじゃないの!!
いや、それより今は目の前の甘ったれ小僧よ!!
「分かった!?」
私は胸倉を掴んだトライトンを引き寄せて理解したかと尋ねる。
「……はい」
何で顔を赤らめてる訳?
「分かったら貴方も才能とか甘えた事を言ってる暇があったら死ぬような思いをしてでも修行をしなさい!! 諦めるのは死んでからよ!!」
言いたい事を言い終えてトライトンから手を離すと、彼は呆然とした表情のままバランスを崩してへたり込んだ。ちょっと言いすぎちゃったかしら? ううん、私は悪くない。悪いのはあの地獄だ。
「……わ、分かったよ」
「よろしい」
どうやら理解してくれたみたいね。ふぅ、スッキリ!!
パチパチパチと生徒達から拍手と称賛の声が上がって来る。
やはり同じ地獄を経験した仲間達からの共感の声は心に染みるわね。
「……ミナ=カークス」
するとトライトンがゆっくりと立ち上がりながら私を見つめて来た。
「何?」
その目にはさっきまでの卑屈で澱んだ眼差しはない。
わずかにだけど、目に輝きが戻ってきたみたいだ。
「また挑んでくれば良いと言ったな。また僕と戦ってくれる……のか?」
「自分の力で強くなったらね」
「あ、ああ!! 必ず! 必ず強くなって見せる!!」
ふふん、良い顔になったじゃない。
「そっ、なら頑張りなさい」
私はそっけなく、でもちょっとだけ期待を込めて応えた。
なんだかんだ言って魔法勝負は嫌いじゃないのよね。
「またミナのアレが炸裂した。村の悪ガキ共もミナのアレで堕ちた」
何の話よソレ? 村の悪ガキって、私はケンカ売って来た連中を返り討ちにしてきただけなんだけど?
「あー、なんだかんだ言ってミナさんはジャイロ君にそっくりなところありますからねぇ」
はぁ!? この私がジャイロとそっくりですって!? どこがよ!?
「だが僕が挑むのはミナ=カークスだけじゃない」
メグリ達の会話に意識が逸れていた私は、トライトンの声に視線を戻す。
すると彼は私から視線を外し、横に居たジャイロに強いまなざしを向けていた。
「君にも、勝負を挑む!」
「え? 俺?」
まさかまたしても自分に矛先が向かってくるとは思っていなかったらしく、ジャイロがキョトンとしている。
「本職の魔法使いでもない者に魔法で負けたままで終われるか! 必ず君も倒す!!」
どうやら彼の負けん気はジャイロから受けた敗北も取り戻そうとしているようだ。
「へっ、良い面になったじゃねぇか。いいぜ。いつでも受けてやんよ!!」
さすが難しい事は考えない馬鹿。あっさりトライトンの挑戦を受け入れた。
ジャイロの無駄に竹を割ったような爽やかさに、トライトンも面食らいつつも笑みを浮かべる。
「ふっ、流石はSランク冒険者だな。懐が深い」
「「「「「「え?」」」」」」
と、そこでトライトンが奇妙な事を言い出した。
ジャイロは私達と同じCランク冒険者なんだけど?
「君の事は調べさせて貰ったよ。彗星のように現れ、瞬く間に冒険者の頂点に登った男。まさか冒険者の世界に君のような魔法の使い手がいるとはね!」
ん、んん~? 何を言ってるの?
「さらばだレクス!!」
突然レクスの名を呼んで、トライトンは学園へと戻っていった。
そして私達は思い出した。
「「「「「「……あー」」」」」」
……そう言えば彼、ジャイロとレクスの事を間違えたままだったんだっけ。
こうして、なんとも締まらない空気の中、私達の学園生活は終わりを迎えたのだった。
うーん、ほんと締まらないなぁ……
トライトン_(:3)レ∠)_「ふっ、さらばだライバルよ」
モフモフ_Σ(:3)レ∠)_「コイツといいボンクランといい、学園の生徒って実はメンタル強すぎない?」
ジャイロ_:(´д`」∠):_「名前、覚えてもらえなかったぜ……」
レクスヾ(⌒(_'ω')_「これにて魔法学園編は完結です! 次からは新章ですよー」
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