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二度転生した少年はSランク冒険者として平穏に過ごす ~前世が賢者で英雄だったボクは来世では地味に生きる~  作者: 十一屋 翠
魔法学園編

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第273話 宮廷魔術師の視察

作者_(:3)レ∠)_「日中の空気がヌルイ……夏かよぉ」

ヘルニー_(:3)レ∠)_「本格的に梅雨に入る前に夏になってるんですが……」

ヘイフィー_:(´д`」∠):_「これからまだ暑くなるんですかぁ……」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

◆クワントロー◆


「何だこの渋滞は?」


 魔法学園に向かう途中、私達の乗った馬車はおかしな渋滞に遭遇した。

 何故か平民達が我々の向かう方向から大挙してやってきたのだ。

 恐らくは学園で行っている試験が原因だろう。


 我が魔法学園は魔法研究の最先端だが、無知な平民はそこで何をしているのか分からない為エリート集団が凄い事をしているくらいにしか認識していない。


 そして今日の試験では全校生徒が自らに扱える最高の魔法で日頃の研鑽の成果を披露するのである。

 魔法の何たるかを知らない平民は朝から響く攻撃魔法の爆音の連鎖に恐れ慄いて少しでも遠くに離れようとしているのだろう。


 はははっ、無知な平民は哀れだな。

 まぁ仕方あるまい。高度な魔法知識は貴族が独占しているのだから。


「それでクワントロー君、ロストマジックを蘇らせたと言うのは本当なのだろうね?」


 と、私と向かいの席に座っていたお方が念を押すように言葉を発した。

 この御方こそ、我が国の宮廷魔術師の長であるゴマタッグ=ココンド様だ。


「はい。とある遺跡で発見された不完全なロストマジックの情報を、私の優秀な生徒達が見事蘇らせる事に成功しました」


「ほう、大したものだ」


 生徒達の功績にゴマタッグ様が感心の声を上げる。

 くくくっ、本当はあのミナ=カークス達が遺跡で手に入れた魔法だが、既にその秘密を我が生徒トライトン=ヴェネク君達が手に入れたと報告を受けている。


 あとはその事実を私の生徒達のものに上書きするだけで名誉がこちらに転がり込んでくるのだ!

 後から難癖をつけてこようと、この世界は平民の真実よりも貴族の言葉が優先されるのだからな。


「此度の試験では彼等が復活させた魔法によって、歴代の首席生徒達が作り上げてきた成績が塗り替わる事でしょう」


「ははっ、大した自信だな」


「今年はどの生徒を内定させるか迷う事になりますよ」


「それは楽しみだ。去年発生したクーデター未遂騒動のお陰で騎士団の発言力は低下している。ここで優秀な魔法使いを多く宮廷魔術師に選出すれば、宮廷内での我々の発言力はおおいに上がることだろう」


「その際は是非私めを……」


「分かっている。次期学園長に推薦しよう」


 よし、ゴマタッグ様の言質を頂いたぞ! これでゼンザールの奴から学園長の座を奪い取る事が出来る!!

 見ているが良いカークス前学園長! ゼンザール! 私こそが真に学園長に相応しい男だと思い知らせてくれる!


 ◆


「なんと宮廷魔術師の皆様は光栄にも君達の試験を見学に来てくださったのです」


「「「「えぇー!?」」」」


 宮廷魔術師達を連れて来た事で、生徒達が驚きの声を上げる。

 ふふふ、そうだろうそうだろう。宮廷魔術師にご足労願うなど当家の権力が無ければ不可能だからな!


「あの、クワントロー先生、今はそれどころではなくですね……」


 生徒達の尊敬の眼差しに気分を良くしていたら、ゼンザールの奴が口出しをしてきた。

 愚かな! 宮廷魔術師の方々の視察以上に大切な事などある訳がないだろうが!


「何を言っているのです! 我が校の伝統ある試験の場に宮廷魔術師の方々が来てくださったのですよ! 大変光栄なことではないですか!」


 だが今の自分が一職員である事は理解している。

 ゼンザールの学園長という()()に敬意を表して理性的に説得してやることにしよう。


「それはそうですが……しかしもうAクラスの生徒達の試験は全て終わってしまいましたよ」


「そちらこそ何を言っているのです。名簿を見ましたがまだ終わっていない生徒がいますよ」


「え?」


 困惑するゼンザールに私は一枚の紙を取り出して見せつける。

 これはAクラスの試験結果を記入する用紙だ。

 これを見れば主席であるトライトン君がまだ試験を終えていない事がはっきりと分かる。


「途中馬車が妙な渋滞に巻き込まれた所為で試験に間に合わないかと焦りましたが、主席生徒の試験にさえ間に合えば他の生徒の試験などどうでもよい。さぁトライトン君、君の実力を宮廷魔術師の皆様に披露するのです!」


 うむ、正直試験がほぼ終わりかけていて冷や汗をかいたが、宮廷魔術師の方々に見て欲しかったのは次期宮廷魔術師の本命であるトライトン君だ。


「「「「……」」」」


 しかしどうした事だろう? 生徒達は何故か無言になってしまったのだ。

 ……ははぁ、そういう事か。

 さては自分達の研鑽の成果を宮廷魔術師の方々に見て貰う事が出来ず、美味しい所をトライトン君に持っていかれるのが不満なのだな。


 まぁそれは仕方がない。他の生徒達もロストマジックを盗み覚える事に成功したようだが、それ以前の成績でトライトン君が主席だった事に変わりはない。

 つまりはこれまでの積み重ねがそのまま差になったと言う事だ。

 しかしゼンザールは奇妙な事を言い出した。


「あの、トライトン君の試験は終わっています。と言いますか、彼は今とても試験が出来る様な状態ではないのです……」


「何? どういう事ですか?」


 トライトン君の試験が終わっているだと? だが試験用紙には何も記入されていないぞ?

 それに試験が出来る状態ではないとはどういう事だ?

 まさかこの男、私が学園長の地位を狙っている事を察して妨害を企てているのか?

 愚かな事を。試験の参加は全校生徒の義務なのだぞ?


「彼は先ほどまでの騒動で負傷して意識を失っているんです。傷の治療は済みましたが安静にさせる必要があります」


「騒動?」


 そこで私は周囲を見る。

 確かに言われてみれば随分と試験場が荒れている。

 ははぁ、さては生徒の誰かが身の丈に合わない魔法を暴走させて事故を起こしたのか。

 たまに居るのだ。上のクラスに編入されたいあまり、分不相応な魔法を使おうとして大失敗する生徒が。

 どうやら今回は相当な失敗をしたようだな。


 だがそうなると困るのは私だ。

 今回はロストマジックを餌に無理を言って宮廷魔術師の方々に来てもらったのだ。

 ここで主席生徒の力を見せられなかったとあっては、私の立場が無い。

 と言うか本気で不味い。

 なんとかトライトン君を起こして試験を受けて貰わねば。


「クワントロー君、Aクラス主席生徒の試験はまだかね?」


 ま、不味い! ゴマタッグ様が不機嫌になっていらっしゃる!


「はっ、はい! もう少々お待ちください! 君達! 早くトライトン君を起こしなさい!! わが校の生徒が魔法の暴発に巻き込まれた程度で気を失ったなどだらしないぞ!」


「ですが負傷者を無理やり起こすのは健康上の問題でやめるべきです!」


 私の指示を受けた一般職員が不服そうな声を上げる。

 馬鹿め、宮廷魔術師様達の不興を買う事の恐ろしさが分からんのか!


「おお? これはどういう事だ? 何故こうも試験場がボロボロになっているのだ?」


 その時だった。突然私達の後ろから誰かがやって来たのだ。

 振り向けばそこには見覚えのある人物の姿が。


「ボンクラン君か?」


 そう、彼は私の生徒の一人であるボンクラン=フシアナンデスだった。

 彼の魔法の腕前はAクラスの中では平凡で、高貴な家柄故の高度な教育のお陰でそれなりに魔法を使えている程度の男だ。

 下手な才能よりも地位と財産の方が役に立つと言う典型的な生徒だった。


「私が急な腹痛でトイレに行っている間に何が起こったのだ? 何やら外が騒がしかったようだが」


 どうやら彼はトイレに籠っていた事で暴発騒ぎに巻き込まれなかったらしい。

運の良い生徒だ。


「まぁ良い。試験官、繰り越して貰った私の番は来たか?」


 と、ボンクラン君が試験官役の職員に尋ねる。


「え? あ、はい。先ほど最後の生徒の番が終わったので大丈夫です」


「よし、それでは私の華麗な魔法を見せてやろう」


 い、いや待ちたまえ。まさかこの状況で君が試験を受けるのか!?

 それでは君が主席生徒に見られてしまうではないか!


「ほう、彼がAクラスの主席生徒か」


ほら勘違いされたぁーっ!!


「これは興味深いですなゴマタッグ宮廷魔術師長。フシアナンデス家の息子と言えば凡庸を絵にかいたような実力と聞きます。それが主席にまで登りつめたとあれば、彼は古代魔法の復元作業の才能があるのかもしれませんね」


「となると彼が宮廷魔術師入りすれば解読が難航している古代魔法の研究が一気に進むかもしれませんよ」


 うわぁぁぁぁぁぁ! 勘違いが加速しているぅーっ!!

 こ、こうなれば盗み覚えたロストマジックをボンクラン君も覚えていると願うしかない!

 今だけでもいいから才能を発揮してくれぇーっ!!

ボンクラン君は自信満々で試験の開始位置に立つと、呪文を唱えながら魔力を練り上げ始めた。

 だがその呪文はロストマジックなどではなく……


「受けよ我が一族に伝わりし最強の攻撃魔法! 砕け砕け巨人の拳よ、汝が拳は大地の怒り、汝が拳は我が怒り! ロックハンマー!」


 それはただの地属性下位攻撃魔法ロックハンマーだった。

 発動した魔法は彼の足元の地面から岩の塊を生成すると歪な円柱状の塊を生成する。

 その大きさは大人一人分と言うところか。

 うむ、可もなく不可もない本当に普通のロックハンマーだ。


「ぬぅん!」


 放たれた魔法はグラグラと揺れたものの、体積が大きかった事で何とか的にぶつかった。

 

「「「「……」」」」


 その光景をじっと見つめる宮廷魔術師達。


「はははっ、どうした? 皆私の魔法の凄さに声も出ないのかな諸君?」


 驚いたよ! どういう事だ! 何でこの状況で普通の魔法なんだ!! そこはもっと気を遣ってくれぇ!!


「……何だねこれは?」


 ゴマタッグ様から失望の声が漏れる。


「はうっ!? ち、違……」


 違うんです! そう言おうとしたものの焦りと動揺で言葉にならない。


「家同士の付き合いもあったからこそきてやったものを、あれのどこがロストマジックなのだね? 期待はずれにも程がある」


「い、いやこれは……」


「やれやれ、主席生徒がこれでは今期の生徒には期待が持てませんな」


 ゴマタッグ様だけでなく、他の宮廷魔術師からも失望の声が漏れる。

 ち、違うんだ! 本当に違うんだ!!


「それに試験場のこのありさまは何だ? 何をやったらここまで試験場を荒らす事が出来るのか。今の生徒は満足に的に当てる事も出来んのか」


 そ、それは私の責任じゃない!!


「無駄足だったな、帰るとするか」


「お、お待ちを!! 違うのです! 主席は別に……」


「君との、いや君の家との付き合いも今日限りだな。仮にもAクラスの教師ともあろう者がこの程度の生徒しか育成できないとあっては学園の人事に口出ししない訳にはおれん。生徒を指導する職員も実力を重視して採用するように国王陛下に進言する事にするとしよう」


 ゴマタッグ様が背を向けると、他の宮廷魔術師達もそれに倣って試験場から出て行く。


「ま、待ってください! 彼は主席ではありません! トライトン! トライトンはどうした!? 次席でも構わん! 誰か居ないのかー!!」


 だが私の叫びに応える声はなく、ゴマタッグ様達は無慈悲にも学園から去って行ったのだった……


「私の出世が……学園長の椅子がぁ……」

レクス+。:.゜ヽ(*´∀`)ノ゜.:。+゜. 「さすがずっとも!!」

モフモフ_Σ(:3)レ∠)_「すげぇ、全力で無能っぷりを晒して全てをうやむやにしたぞコイツ!!」

クワントロー(゜Д゜|||)「アババババ……」


面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださると、作者がとても喜びます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] その時だった。突然私達の後ろから誰かがやって来たのだ。  振り向けばそこにま見覚えのある人物の姿が。    ここ変ですよ⤴️ 「ボンクラン君か?」
[気になる点] 本作の主な舞台であるティオン国の上層部が本当に知っておくべき事は、元々その王室関係者であるメグリことメグリエルナ姫を通じて定期的に王様へ直接報告されていると解釈すべきだろう。 例えば王…
[良い点] そう言えば、そんなキャラもいたなー。 成る程、宮廷魔術師を迎えに行っていたのかー。 魔法学園編は、グダグダ感が続いていてお腹いっぱい何ですよねー。 折角レクスが、ボケ爺さんを騙す様に難を逃…
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