第271話 歪んだ約束と深紅の相貌
作者_(:3)レ∠)_「じんわり熱くなってまいりました」
ヘルニーヾ(⌒(_'ω')_「小鳥が巣立つ季節ですねぇ」
ヘイフィーヾ(⌒(_'ω')_「ウチのベランダにも巣立ったばかりのムクドリの雛が墜落気味にやってきて、必死で羽ばたこうと羽を動かしてましたよー」
作者(´;ω;`)「そしてそっとフンを残して去って行きました」
ヘルニーヾ(⌒(_'ω')_「立つ小鳥跡を濁すなコンチクショー!!」
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◆ジャイロ◆
「グァおぉぉぉォォォウ!!」
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
トライトンが放ってきた魔法を、俺は属性強化した剣で弾き返す。
トライトンのヤツ、あの姿になってから無詠唱で魔法をぶちかますようになりやがった。
いや、どっちかっつーとありゃ、魔法じゃなくて魔人の放つ魔力の塊と同じ感じだな。
「死ネェ! レくスゥゥ!!」
「だから俺は兄貴じゃねぇっつーの!!」
つーか。コイツさっきから俺をレクスの兄貴と勘違いしてやがるんだよなぁ。
ったく、いったい何なんだよ。
「おらぁっ!」
「グゥッ!!」
俺は炎の属性強化を使った魔力噴射でトライトンの懐に入ると、殺さないように気を付けながら吹き飛ばす。
兄貴から魔法の知識を転写してもらったおかげで、以前よりも上手く魔力噴射が出来るようになったんだぜ!
っていうかコイツ硬ぇな。なんか見た目もヤベー感じになってるし、パワーアップしてるっぽいよな。
「だったらこいつはどうだ!! ボルテックスっておわぁ!?」
このまま新技を叩きこもうと思った俺だったが、力を溜めているところをトライトンの攻撃に邪魔される。
「死ねシね死ネぇ!」
「おとととととっ!」
くっそー、殆ど溜め無しで飛び道具撃ってくるのずりぃぞ!
「ウインドブレイカー!」
そこにミナの放った魔法がトライトンの攻撃を迎撃する。
「た、助かったぜミナ!」
「何やってんのよ! 流れ弾がこっちまで飛んできたわよ! 避難が完了してない生徒達もいるんだからね!!」
「分かってるよ! ちょっと新技を出すのに手間取っただけだ!」
「使い慣れてない魔法じゃ発動が遅れるのは当然でしょ! 無理に強い魔法を使おうとしないで使い慣れてる魔法で応戦しなさい!」
「分かってるって!」
くっそー、魔物相手だったら普通に使えたんだけどなぁ。
やっぱ人間相手だとこっちの動きを読まれんのかな?
「何故ダ!」
どうしたもんかと考えてたら、トライトンがミナに向かって叫ぶ。
アイツさっきまで俺以外の人間はガン無視して攻撃してきやがったのに、どういう心境の変化だよ?
「何故ソンな男ヲ庇う!! ミな=かークス!?」
何故っつても仲間だからじゃねぇの?
「僕の方がソンな男よリモ優れテイル! 君が庇ウ価値なドない!!」
「価値って言われてもねぇ……」
トライトンの問いかけにミナは困ったように肩を竦める。
「まぁ仲間だから? 私達冒険者として同じパーティを組んでいるし」
まぁ、そう答えるよなぁ。
「冒険者ダと!? そんナものニ何の価値がアル!! 冒険者ナンて将来に何ノ展望もナい、イツ野垂れ死ンデモおかしくナイ根無し草!! ソンなものヨリも君は僕ト共に宮廷魔術師ニナるべキダッ!!」
この野郎! 冒険者を見下してんじゃねーぞ!
「ああん、テメェ冒険者舐めてんのかこのやろー!」
「煩イッ!!」
「おわっとっと!」
くっそ、ミナの爺さんといい、コイツ俺に当たり強すぎねぇ?
「宮廷魔術師ねぇ……」
トライトンの野郎に冒険者である事を馬鹿にされたミナだったが、意外にも怒っている様子はなくただ肩を竦めるだけだった。
「私そんなの興味ないのよね。寧ろ今は冒険者として見聞を広めて実戦で魔術の腕を磨く方が重要だわ」
だよな! 宮廷魔術師なんかより冒険者の方が良いに決まってんよな!
「興味が無イ……だト!? 馬鹿ナ! 僕とノ勝負を忘れタノかっ!!」
「ああそうそう、それよそれ」
と、トライトンの言葉にミナが反応を返す。
「前もそんな事言ってたけど、そもそも貴方と私って約束なんかしたかしら?」
「ナッ!?」
ミナの言葉がよほどショックだったのか、トライトンの奴あからさまに驚いてやんの。
「ヤ、約束したダロうが!『魔法学園ノ入学試験の成績でドちらが上カ勝負だ』ト!!」
へぇー、ミナの奴アイツとそんな約束してたのかよ。
まぁ勝負を挑まれたら男として受けないわけにはいかねぇもんな! あっ、ミナは女か。
「う~ん、約束……うーん」
と思ったらミナは腕を組んで首を傾げていた。あれ? 違うのか?
「あっ!」
「思い出シタのカ!」
「ええ、思い出したわ! 貴方、自己紹介の時にそんな感じのことを一方的にまくし立てて来たと思ったら、返事も聞かずにどっか行っちゃったわよね。あれ、私は学園に入学するつもりないから遠慮しとくわって言おうと思ったんだけど……」
「…………エッ?」
「「「「……」」」」
ミナのあまりにもあんまりな返事に、場の空気が凍り付く。
おいおい、トライトンの奴どころか、今の今まで戦っていた生徒だけじゃなく敵だった使い魔達まで気まずそうな感じで戦いを止めちまってるじゃねぇか。
「…………マジ?」
「マジ」
「「「「……」」」」
うわぁー、どうすんだよこの空気。
「つまりアレ? トライトンさん、勘違いが原因で嫉妬を拗らせてあんな姿になったって事?」
「いやいや、そもそも因縁つけておきながらそれを認識すらされてなかったって事の方が問題じゃないか?」
「せめて相手の返事を聞いてから離れるべきだったよなぁ」
「いやそれが出来たらこんな事にはなってなかったんじゃないの?」
「ギュルァァ」
おいおい、どうすんだよコレ。
生徒達も使い魔達もあーやっちまったなぁって感じですげー居たたまれないんだけど。
「……ゥ、ウァァ……ウァァァァァァァァァァッッッ!!」
そんな空気に耐えられなくなったのか、顔を真っ赤にしたトライトンが悲鳴のような雄たけびを上げる。
「ゼ、全部お前の所為ダァァァア!!」
そして何故か俺に向かって攻撃を再開してくるトライトン。
「つーかマジで俺全然関係ないじゃんかよ!!」
「ウるサぁぁぁぁイッッ!!」
あーもーいい加減にしろっつーの!
ミナと勝負してぇんなら勝手にしろよな!
「おいミナ!! これ全部お前が原因じゃねーか! 何とかしろよ!」
「何よアンタ! 私だって訳わかんない事に巻き込まれたのよ! 寧ろそこは俺に任せろくらい言えないの!?」
「はぁ!? 何で俺がお前の尻ぬぐいしなきゃいけねぇんだよ! 寧ろ今からでも相手してやれよ!」
「嫌よ面倒くさい!」
「俺だって面倒くせぇよ!」
この野郎! 自分が面倒くさいからって俺に押し付けんなよな!
こいつ昔っからこうなんだよな。村でも他の男達となんかあると、その度に俺に面倒事を押しつけやがって!
「僕のマエでイチャつくナァァァァァァ!!」
トライトンがそんな事を言いながら魔力塊を放ってくる……っていうか!
「「イチャついてない!!」」
俺とミナが同時に放った魔法がトライトンの攻撃を相殺してそのままヤツを吹っ飛ばす。
「グボぁっ!?」
「あっ、カウンター命中」
「「あっ」」
ぽつりとメグリが漏らした声を聴いて、俺達はうっかりトライトンを吹っ飛ばしちまった事に気付く。
「グペッ!?」
そのままトライトンは水切りの石のように飛び跳ね、観客席手前の壁にぶつかるとずるずると地面に崩れ落ちた。
「「……あ~」」
いや、なんか無意識に放った魔法がスゲーいい感じに決まっちまったんだよな……
あ、あれだな。やっぱ使い慣れた魔法は簡単に出せて良いよな!
「え~っと……」
ミナがどうすんだよって顔でこっちを見てくる。
いや俺だってどうすんだよって言いてぇよ!
ああ周りの連中もどうすんだって目で見てきやがる。
ええと、こういう時レクスの兄貴なら……
「お、俺達の勝ちだぁー!」
とりあえず勝った事は勝ったんだし、勝利宣言しときゃいいだろ!!
「「「「お、おーっ?」」」」
よっし誤魔化せた!!
あとは残った使い魔をぶっ飛ばせば終わりだな!!
……ところでコイツ、何で俺の事をレクスの兄貴と勘違いしてたんだ?
◆
邪龍をガンエイさんに預けた僕は、転移魔法で学園に戻ってきた。
試験場まで戻ってくると、既にジャイロ君達は無事戦いを終えたみたいで今は負傷者の治療に当たっているみたいだ。
一応念の為、探査魔法で周囲の反応を確認してみたけど、大きな戦闘の反応はなく今は散発的に残った使い魔の掃討を行っている状況のようだね。
「お疲れ様。こっちも無事に終わったみたいだね」
「あ、ああ、兄貴……」
「レクス……」
皆に声をかけるも、何故かジャイロ君達の顔色は優れなかった。
うん? 何かトラブルでもあったのかな?
「どうしたんですか皆さん?」
「彼が……」
と、ミナさんが試験場の地面に寝かされているトライトン君を指差す。
どうやらノルブさんの手で治療中みたいだ。
「トライトン君がどうしたんですか?」
するとノルブさんは治療の手を止めて立ち上がる。
けれどその顔は治療を終えた笑顔ではなく、何かを堪えるように唇をかみしめていた。
「……すみません。僕では彼を治療する事は出来ませんでした」
「え? でも大きな負傷は無いみたいですけど……」
既に魔法で止血は終わっているみたいだし、特に異常は見受けられないけど?
「傷は問題ありません。でも彼の体が治らないんです。この異常な姿を元に戻せないんです!」
と、ノルブさんは以前とは変わってしまったトライトン君を見つめる。
ああ、そういえば姿が変わってたんだっけ。
「回復魔法も解毒魔法も呪いの解呪も全て効果が無いんです! 一体何故こんな姿になってしまったのか! それだけではなく、時間が経つにつれ彼の具合が加速度的に悪くなっているんです!!」
「ふむ……」
トライトン君の体を見てみると、確かにこれは毒や呪いによる変化の類じゃないね。
となるとあり得るのは魔法的な手段が原因だろう。
考えられるのは、特殊な変身魔法か同様の効果を持つ魔法薬を使ったとかかな?
うん、あんまり思い出したくはないけど以前僕達が聖地で飲んだ性転換ポーションの類だね。
トライトン君はそれを使って肉体を変異させる事で、肉体性能を劇的に向上させたんだろう。
ただそれが原因で正常な生命活動が阻害されたのがこの衰弱の原因かな。
例えば毒霧が効かないように口と鼻を塞いだはいいけど、その所為で息が出来なくなった、みたいに考えると分かりやすいだろう。
ならそれを元に戻すのは簡単だ。
「リターンソウルブループリント!!」
僕が魔法を発動させると、トライトン君の体が変化を始める。
そしてあっという間に元どおりの姿に戻った。
「「「「なっ!?」」」」
「よし呼吸も安定したからもう大丈夫だね」
僕は元に戻ったトライトン君の体を軽く診察して問題が無い事を確認する。
「レ、レクスさん!! 今の魔法は一体何ですか!?」
と、ノルブさんが慌てた様子で今の魔法について聞いてくる。
ああそうか、ノルブさんは僧侶だもんね。新しい回復魔法に興味津々な訳だ。
「今の魔法は魂魄情報復元治癒魔法ですよ」
「「「「こんぱくじょうほうふくげんちゆまほう?」」」」
「はい。人は成長する際に魂に刻まれた設計図の通りに成長するんです。この魔法は何らかの原因で本来の成長からかけ離れた肉体を元の魂の設計図通りに組み立て直すことが出来る魔法なんですよ」
「なっ!? そ、そんな魔法が……!?」
そう、この魔法は何らかの原因で本来正常な成長が阻害された子供を治療するための魔法なんだけど、裏ワザ的な使い方として魔法薬で変異した人を元に戻すことが出来るんだよね。
「トライトン君は魔法か魔法薬の影響で肉体が後先考えない強化をされていたみたいなので、それを元通りに治したわけです」
まぁこの魔法でもあの性転換ポーションを戻せなかったから、あの薬は本当に凄まじい技術で作られていたんだよね……
ホント、才能の無駄遣いだったよなぁアレ。
天才が自分の欲望のままに技術を開発するとああなるから前世でも色々困った事件が多かったんだよね。
下手すると魔人が引き起こす事件よりも厄介なケースもあったからなぁ。
「わけですって、そんな簡単に出来るもんなのか?」
「いや俺は回復魔法詳しくねぇし」
「一体あの人は何者なんだ……?」
生徒達が魂魄情報復元治癒魔法についてやたらと驚いているけれど、あれは皆さんが中級魔法の基礎理論を覚えたら簡単に使えるようになる魔法ですよー。
まぁ今回は時間も準備も足りないからそこまでは教えれらないんだけどさ。
「おーい! 無事かね諸君!! ……って、あれ!? レクス君!? 何で君がここに!? 確か君は地下に残った筈じゃ!?」
おっと、学園長達が地下から戻ってきたみたいだ。
回復魔法の講義はまた次の機会にしておこう。
トライトン(_ω_)「扱いが雑過ぎない?」
使い魔(:3)レ∠)_「ドンマイ」
生徒達(:3)レ∠)_「ドンマイ」
トライトン(´;ω;`)「なんかみんなの視線が生暖かいんですけどー!」
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