第270話 魔界の邪龍
作者_(:3)レ∠)_「怪獣映画二周目してきました」
ヘルニーヾ(⌒(_'ω')_「二周目ともなると落ち着いて見れるねー」
ヘイフィー(´;ω;`)「だが見に行った時間が悪くて、帰りに買って帰ろうと思ってた可愛いプチバームクーヘンのお店閉まってた」
作者_(:3)レ∠)_「あっ、そうそう。269話の宝剣周りの説明でちょっと設定の表記ミスがあったんで修正しました」
ヘルニーヾ(⌒(_'ω')_「設定はちゃんと考えられてたのに書いてる時にド忘れするという間抜けムーブ!」
ヘイフィー_(:3)レ∠)_「というかまず最初にそれから言うべきだったのでは?」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「「「あっ」」」
なんという事だろう。蘇った邪龍は復活させた魔人であるスデン君を踏み潰してしまったんだ。
自分の主である魔人を攻撃するなんて一体何が起きてるんだ!?
「グォォォォォォン!!」
タチが悪い事に邪龍が敵認定したのはスデン君だけではなかった。
蘇った邪龍は僕達の姿を確認すると口を開き赤黒い輝きを放つ。
「避けて! ブレスが来ます!」
だが邪龍の口から放たれたのは僕達が良く知るドラゴンのブレスではなく、細い線状の光だった。
いけない! あれは収束型のブレスだ!
「コンバージェンスシールド!!」
僕は咄嗟に高密度収束防御魔法盾を発動させると、パキュイン! という音を立ててなんとかブレスを防ぐ。
「グァオウ!?」
「気をつけてください。アイツのブレスは収束型です!」
「しゅ、収束型!?」
「普通のブレスは細い扇状に広がっていきますが、アレは全ての力を一点に収束させて放つ事で凄まじい貫通力を発揮するタイプのブレスです。普通の防御魔法ではあのブレス相手には数瞬も保ちません!」
「な、何だって!? そんなブレスが存在するのかい!?」
ゼンザール学園長が驚くのも無理はない。収束型のブレスを使う魔物は数が少ないからね。
だからこそ初めて出会った魔物が収束型のブレスを使ってきたら、恐ろしい初見殺しの攻撃になるんだ。
まさか魔界のドラゴンが収束型ブレスを使うなんてね。
「僕が相手の注意を引きますが、奴がブレスを吐く素振りを見せたらすぐに射線から避けてください!」
「分かったわ!」
「分かった!」
本当に危なかった。
正直言ってコンバージェンスシールドで防げたのは幸運だったと言える。
収束型ブレスが相手だとあの魔法でも完全に防ぎきる事は難しい所だったんだけど、アイツが復活直後だった事とブレスを放つための溜めを殆ど行わなかったのが功を奏したね。
その証拠にアイツもブレスを防がれた際に驚いた様子だった。
きっと今まではあの程度の威力でも倒せてきたという自負があったからだろう。
でもそれがすぐに復活直後で威力が下がっていた為だと気付く事だろう。
次からは確実に殺す為に威力を上げてくる筈だ。
「グルルゥ」
その証拠に邪龍はわずかに数歩下がり、こちらとの間合いを測っている。
今度は避けさせない、必ず貫くと言う強い殺意を感じる。
「キュウ~ゥ……」
モフモフもその殺気を察したんだろうね。警戒を強めている。
さてどうしたものか……
ただまぁ、ここが地下施設の中である事を考えると通常の拡散型ブレスで無かったのは幸運だったと言える。
あとはコイツが地上に出ないようにしながら倒さないと。
「……うーんでも面倒だなぁ」
ここは地下空間だけあって派手な魔法を使うと自分達の手で学園を崩落させてしまう危険がある。
「グォォォォ!!」
こちらの迷いを感じ取ったのか、邪龍が再び収束型ブレスを放ってくる。
しかも今度は連射してきた。
「よっと、ほっと、はっと」
幸い手数を増やす為に威力を落としているみたいで、コンバージェンスシールドを斜めに構える事で容易に受け流す事が出来た。
「グギャオゥ!?」
これは完全に様子見だね。
さっきの攻撃を防いだのが偶然かどうかを確認してきたって所か。
でもそうだとすると、コイツはそれぐらい用心深い相手だと言える。
一般的にドラゴンは自分の力に絶対の自信を持つ種族だから、基本的に力でねじ伏せようとする傾向にあるんだけどね。
となればスデン君を踏み潰したのも偶然ではなく意図的なものである可能性が高いね。
用心深い上に力もある敵か。厄介だなぁ。
「ロックランス!」
「アイスランス!」
邪龍の注意が僕に向いている隙を狙って、リリエラさんと学園長が左右から貫通力の高いランス系の魔法で挟撃する。
けれど邪龍の鱗は二人の魔法を容易に弾く。
「なんて硬さなの!?」
魔法学園の学園長の魔法をはじくとはね。
どうやら邪龍は魔法防御力が高い種族みたいだ。
「この場所では高威力の魔法を使えん! せめて宝剣さえ残っていれば!」
そう言って学園長が悔しそうに顔を向けるけど、そこには無残に砕け散った宝剣ラーヴェレインの姿があった。
邪龍を封印した宝剣か、確かにアレがあれば状況は違っただろうね。
でも無くなってしまったものは仕方がない。
手持ちの材料でやれるだけやるしかないんだ!
「なら封印から解放されたばかりで本調子じゃない今が最高の好機! いくぞ邪龍!! ロバストバインド!!」
「ギャオウ!?」
僕は邪龍に捕縛魔法をかけて接近する。
魔法抵抗力の高い邪龍相手じゃほんの数瞬しか動きを封じれないだろうけど、それで十分!!
「ディメンジョナルスラッシュ!!」
僕は手にした剣に付与魔法を発動させると、邪龍の頭部に刃を走らせた。
「グォォォォォ!?」
だが邪龍は体を起き上がらせると、ギラリと凶悪に煌めく前足の爪で迎撃してくる。
だが甘いよ! 僕の放った斬撃は邪龍の爪どころか前足を容易く切断した。
「グォォォォォン!!」
「よし! これならいける!」
次元切断付与魔法ディメンジョナルスラッシュ。
この魔法はかつてトーガイの町付近で出会った魔人を魔界とのゲートごと切断し異次元に追放した魔法の簡易版だ。
簡易版ゆえ距離を無視した射程や異次元への追放効果こそないものの、次元を切断する事であらゆる物質を切断する能力はそのままだ。
「これなら魔界の邪龍の鱗と言えど切断できるぞ!」
でもこの邪龍も侮れない。僕の攻撃の危険性を本能的に察したのだろう。
即座に迎撃から守りに切り替えてきた。
しかも自分の前足を犠牲にする事を厭わずにだ。
「やはり侮れないね邪龍!」
一度防がれた以上、敵もこちらの攻撃を警戒して簡単には懐に入れてくれないだろう。
ジャイロ君達の事も心配だけど、こっちも焦って行動する訳にはいかなくなったぞ。
「二人共気をつけて! 邪龍もそろそろ本気になります!」
「ええ、分かってるわ!」
「スマン、私の魔法では威力不足だ。君の援護に徹する!」
僕達は油断なく邪龍と対峙する。
すると奇妙なことに邪龍がブルブルと体を震わせ始めたんだ。
「何!? 何をするつもり!?」
「分からん! だが何をしてきてもおかしくない! 防御魔法を!!」
僕は二人と合流すると、高位の防御魔法を発動させるべく力を貯める。
「グキュルルルルゥ!!」
邪龍がこれまでとは明らかに違う雄たけびを上げ、そして……
「キュウ……」
突然体を伏せたかと思うと、羽と頭をペタンと地面に付けたんだ。
「「「……え?」」」
ええと、これは一体……
「何だ? 攻撃とは思えないが……」
「何かしら、この姿勢何処かで見たことあるような……?」
と、邪龍の奇妙な行動を見たリリエラさんが首を傾げる。
「え!? 何か知っているんですかリリエラさん!?」
「何か知っているのかね!?」
「え!? あ、いや、知ってるような気がしたって言うかえっとその……あっ!!」
とそこでリリエラさんがハッとした顔になると手をポンと叩いた。
「そうだ! あれよ! 龍峰でゴールデンドラゴンが取った姿勢! あれに似てるのよ!」
「ゴールデンドラゴンの姿勢?」
「そうよ、ポーズって言うより、なんていうか雰囲気が!!」
ポーズじゃなくて雰囲気が?
ええと、確かあの時は……そう思った時だった。
僕達の後ろで警戒していたモフモフがポテポテと前に出てくると、そのまま邪龍の頭の上に乗ったんだ。
「キュウ!」
ああ、確かに似たような光景を見た覚えがあるような。
「もしかしてこの邪龍、レクスさんに降参したんじゃないの?」
え? 何で? まだお互い本気で戦ってないでしょ? まだ小手調べも小手調べ、これから本気で戦うつもりじゃなかったの?
「つまりアレじゃないかしら。レクスさんの力に恐れをなして屈服した……とか」
いやまさかそんな……はっ!!
「そうか! この邪龍は自分が思っていた以上に弱体化している事に気付いたんだ!」
「「え?」」
「キュウ?」
「グキュウ?」
「以前の戦ったヴェノムビートの時と同じですよ。きっと邪龍の封印にも封じた相手を弱らせる効果があったんです。きっと古代の魔法技術者達は直接的な戦闘能力よりも、特殊な封印結界の類を得意としていたんですよ。彼等は自分達では手に負えない敵が現れたら相手を結界で封じ、その中でじわじわと相手を弱体化させていたんです。そしてギリギリまで弱体化させた魔物を未来の人間が退治してくれる事に賭けたんじゃないでしょうか?」
「なんと! 宝剣の封印にそんな効果が!?」
僕の推論に学園長先生が驚きの声を上げる。
「ええ。そもそもおかしいと思ったんです。ドラゴンと戦えるほどの魔剣ならば封印ではなく討伐するための力を与えればいいんですから。でも実際には剣であるにも関わらずその役目は封印だった。つまりこの魔剣の神髄は敵を弱らせることにあったんです!」
「おお! 言われてみればそうだ!」
「え? 今ので納得しちゃうの!?」
学園長はわなわなと砕け散った宝剣の前で跪くと何度もうんうんと頷く。
「君の言う通りだ。確かに疑問だったのだ。初代国王が手にしていた宝剣は何故都合よく邪龍を封印できたのかと。確かに君の言う通り最初からそういう用途で作られていたのなら納得もいく」
「いや偶然じゃないかな~」
「キュウ~」
「そして邪龍は戦いによって自分が驚くほど弱体化していた事に気付いたんでしょう。このままではたとえ勝てたとしてもかなりの手傷を負うと。だから無駄な戦いを嫌って素直に降伏したんです。こいつは僕達の予想以上に賢いですよ」
邪龍を弱体化させた封印技術にも驚いたけど、それに気づいて素直に降伏までしてきた邪龍の機転の速さにも驚きだ。
ゴールデンドラゴン達だってモフモフが仲裁しなければ死ぬまで戦うつもりだったんだから……
「そ、そうかなぁ……」
「キュウゥ~」
けれど僕の推測が納得いかなかったのか、リリエラさんとモフモフは腕を組んで首を傾げていた。
「だがどうするんだい? 降伏したとはいえ邪龍だ。放置して力を取り戻したら確実に暴れまわるのは間違いない」
うん、確かに学園長の言う通りだ。
放置するのは絶対に悪手だ。けど無抵抗になった相手を殺すのもどうかと思うんだよね。
どうしたものやら……
「あっ、そうだ! ならここは専門家に任せましょう!」
うん、良い事を思いついたぞ!
「専門家?」
「ええ、僕の知り合いに魔物の研究家が居るんです。彼は古代魔法の研究もしているので、魔物を大人しくさせる手段を持っていると思うんです。なので彼にあずかって貰えるか確認してみましょう」
実際には魔物の研究家じゃなくてキメラの研究家だけどね。
「邪龍を大人しくさせる古代魔法だって!?」
うん、様々なキメラを従えていたあの人なら、邪龍を上手く手懐けてくれるだろう。
「では知り合いに連絡を取るのでリリエラさんと学園長は上で戦っている皆の応援に向かって貰えますか?」
「え? だが一人では……」
「分かったわ。学園長、私達が居てもたいして役に立ちませんし、素直に上の援護に行きましょう」
リリエラさんは僕が誰に連絡するのか察してくれたらしく、すぐに学園長の手を引いて地上への階段に向かっていった。
「いや、それはそうなんだが……」
「さぁさぁ」
そして二人の姿が消えると、僕は邪龍に向き直る。
「ギャウゥ……」
邪龍はこちらの様子を見るように視線を向けてくる。
「まぁ悪いようにはしないよ。エルダーヒール」
まずは切り落としてしまった前足を回復魔法で治療してやる。
「ギャウウ!?」
「じゃあ行こうか」
僕は転移魔法を発動させると、邪龍を連れて故郷の村へと転移したのだった。
◆ガンエイ◆
「で、儂にコイツを預かれと?」
儂の名はガンエイ。覚えておるかの?
とある事件のあと、儂は目の前の小僧の故郷である田舎の村で食用キメラの研究をする事になったのじゃ。
正直村人たちがあっさりとアンデッドである儂を受け入れた事には驚いたが、まぁこの小僧の関係者じゃしなぁ。
「はい、頼めますか?」
この小僧の名はレクス。儂の可愛いキメラ達を悉く倒し尽くしてくれた恐ろしい小僧じゃ。
「キュウ!」
そしてすぐ傍で儂が丹精込めて育てたキメラをスナック感覚で喰っているのは忌まわしい記憶その2である白い毛玉であった……というか食うな!
「魔界の邪龍か……確かに魔人によって魔界から持ち込まれた魔物の記録を見た事はある」
だがドラゴンタイプの魔物は初めてじゃな。
ふむ、白き災厄対策の研究に利用できそうではあるか。
今は食用キメラの研究にシフトしたが、あの研究も完全に止めた訳ではないからな。
「よかろう。なら主従の首輪をつければよい」
儂は懐から一つの首輪を取り出す。
「主従の首輪ですか?」
「古い時代の魔物使い達が使っていた品じゃ。自分より力量が下の魔物に装着すれば魔物は力関係をはっきりと理解し、簡易的じゃが意思疎通が可能になる。動物は人間と違って単純な力の差に敏感じゃからな。ほれ付けてやれ。サイズは魔物に合わせて自動で調整してくれる」
儂が付けても良いのじゃが、曲がりなりにも魔界の魔物じゃ。戦士ではない儂では御しきれない可能性がある。
「分かりました。じゃあつけるね」
小僧が邪龍に首輪をつけると、首輪は一瞬青い光を放って装着が完了する。
「うむ、装着完了じゃ。これでお主のどんな命令にも従うぞ」
力の差をはっきりと感じ取れるようになった邪龍がブルブルと小動物のように震えだす。
うーん、予想通り邪龍をあっさり屈服させおったわ。もしかして儂かなり残酷な事しちゃった?
「いいかい、今日からこの村が君の暮らす場所だ。こちらのガンエイさんの言う事をよく聞いて村の皆とは仲良くね。あと村の外の人間にも手を出しちゃだめだよ」
「ギャウギャウ!!」
邪龍は心に刻んだとばかりにブンブンと勢いよく首を縦に振っておる。
「じゃあ僕はまだやる事がありますので失礼します!」
そう言うと小僧はあっという間に転移魔法で姿を消した。
「やれやれ、嵐のような小僧じゃったなぁ」
面倒事を押し付けるだけ押し付けて去っていきおったわい。
「キュウ~ウ」
白い毛玉も全くだと肩をすくめておる。
「……」
んん?
「って何でお主がここに残っておるんじゃーっ! おーい小僧! コイツも連れて帰れー!」
黄金龍(:3)レ∠)_「なんか風評被害受けた気がする」
宝剣☨「私も酷い風評被害なんですけど……」
スデン(_ω_)「あの、もしかして僕本当に死んだんです?」
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